【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

16 / 42
第15話 Intermission

見渡す限り白の地平が広がるミラーワールド。

彼以外存在できない特殊なミラーワールドを歩きながら、

神崎は苛立ちを募らせていた。“SURVIVE”を2枚投入したが

ライダーバトルに進展が見られない。それどころか一人は命を落とすことなく、脱落。

もう一人に至ってはバトル自体を放棄するという有様。

このままではライダーバトルそのものが崩壊してしまう。何か手を打たなければ。

あの世界を選んだのは間違いだったのか。また、“やり直す”しかないのか……?

 

 

 

 

 

──清明院大学

 

 

令子は神崎士郎が在籍していたという、清明院大学401号室を訪れていた。

古びた大きな扉をノックする。返事はない。思い切って令子はドアノブを回してみた。

鍵は掛かっていなかったようで、扉が奥に開く。

恐る恐る中に入ると、異様な光景を目にした。

部屋中に大小様々な鏡が設置されていたのだ。

 

 

「あなた誰?ここは部外者立入禁止なんだけど」

 

 

振り返ると、やや憂いを帯びた表情の青年が立っていた。

令子は慌ててバッグから名刺入れを取り出し、一枚渡した。

 

「失礼しました!私、OREジャーナルの桃井といいます。

香川先生にお話を伺いたくて……」

 

「先生は忙しいから帰ってくれないかなぁ。

僕らも新聞記者なんかに構ってる暇なんてないしさ。ほら、早く、早く」

 

青年が強引に令子を追い出そうとする。

その時、一番奥のデスクの回転式ソファが回り、眼鏡をかけた白衣の人物が現れた。

 

 

「東條君、そこまでで。お客様に失礼ですよ」

 

 

「……はい」

 

青年は令子の腕を離すと自分のデスクについてパソコンで作業を始めた。

桃井は名刺入れ片手に白衣の人物に近づいた。

 

「突然押しかけて申し訳ございません。私……」

 

「ああ、いいですよ。OREジャーナルの桃井さんですね。

私が香川、この研究室の教授です。いや、私はね、一度見聞きしたことは

全て頭の中に入ってしまうんですよ。この体質のせいで随分損な思いもしてきました」

 

「はぁ……あの!今日は伺いたい事があってお邪魔させていただいたのですが、

この部屋にあった江島研究室に在籍していた神崎士郎についてお話を。

近頃頻発している連続失踪事件に彼が関わっている可能性が高いんです。

彼は一体何を研究していたのでしょうか」

 

「なるほど、神崎君ですか。確かにいましたよ。

とても江島先生の手に負える生徒ではありませんでしたがね」

 

「その件についてこちらも調べたのですが、江島研究室で事故が起きた後、

神崎士郎が行方不明に。その後失踪事件が発生するようになったのですが、

そこには“鏡”かそれに変わるような物が関わっている可能性が高いんです。

……こちらの研究室にも沢山鏡を置かれているようですが、

何かご存知ではありませんか?」

 

「……ふむ、それは興味深い事実ですね。

ですが、残念ながら神崎君の行方については私共でも見当が付かないのです。

ああ、この鏡ですか?今、合わせ鏡が作り出す象の巨大数について

研究しているところでして。おそらく貴方が追っている事件とは無関係かと思われます」

 

「じゃ、じゃあ!見ていただきたいものがあるのですが」

 

令子はバッグから資料を取り出す。拘置所のビデオに映っていた神崎の姿。

そのカラーコピーを香川に見せた。香川は手に取って眺める。

確かに配電盤に神崎が映り込んでいる。

 

「確かに……彼によく似ていますね。だが、何ぶん画像が荒くて今のところは何とも。

しばらく我々の方で検討してみましょう」

 

「ありがとうございます!

資料はお預けしますので、何かわかりましたらご連絡をお願いします」

 

「お力になれるかはわかりませんが、最善を尽くしますよ」

 

「よろしくお願いします!」

 

令子は再度香川と東條という青年礼を言い、401号室を後にした。

足音が遠ざかった所で東條は香川に話しかけた。

 

「……先生、いいんですか?あの人、結構“近づいてる”みたいですけど。

なんなら僕が。仲村君、なんだかんだで迷いそうだし」

 

「それには及びませんよ。一般人が“鏡”のシステムにたどり着いたのは驚きですが、

そこまでです。所詮、あの世界に行く方法はないのですから」

 

「はい……」

 

「では、東條君。出発の準備を。あまりモタモタしてはいられません」

 

そして香川はデスクに戻り、令子から受け取ったカラーコピーをシュレッダーにかけた。

 

 

 

 

 

──TEA 花鶏

 

 

優衣は彼の前に温かい紅茶の入ったティーカップを置いた。

清明院大学で兄と同じ研究室だった仲村が訪ねてきたのだ。

あまり髪型に気を使っていない神経質そうな男。

 

「仲村さんから来てくださると思いませんでした。どうぞゆっくりしていってください」

 

「べ、別に……」

 

仲村は緊張した様子でカップを取り、一口飲んだ。

 

「以前仲村さんから頂いた資料で知ることができました。

小川恵里さんっていう人が意識不明の重体だって。

それが兄の研究のせいだってこと、私のための研究だってことも。

何も知らないままだった頃より随分状況は変わりました。

償うにしても、何をしたのかわからないでは、何もできませんから」

 

優衣は以前行方不明の兄を追うために、清明院大学で調査を行っているうちに

仲村と知り合った。当初仲村は、神崎士郎が妹のために行った実験のために、

研究室のメンバーがほぼ全滅したことに怒りを覚えていたため、優衣を拒絶した。

しかし、彼女の懸命な償いの意志に葛藤の末、

残っていた実験室の資料を優衣に渡したのだ。

 

「あ、あんたのためじゃない。あんまりうるさいから文句を言いに来ただけだ……」

 

緊張しながらポケットの上から鉄製のケースらしきものに触れる仲村。

 

「今日もこのあと恵理さんのお見舞いに行こうと思うんです。

今の私にできることはそれくらいですから。

もっと兄の手がかりが見つかれば必ずご報告します」

 

「知ったことか……!神崎士郎なんか!」

 

仲村はぬるくなった紅茶を一気に飲み干す。彼の脳裏に“教授”とのやり取りが蘇る。

 

 

 

“東條君、アカウントはできていますね?君は私と同行してください。

仲村君は研究室をお願いします”

 

“えっ、どうして俺だけ……”

 

“万が一の保険です。我々はこれから、神崎君を一応“説得”に行くつもりですが、

恐らく潰し合う事になるでしょう。

もし私達が戻らなければ、その時は神崎優衣を……わかりますね?

君に“あれ”を託したのはそのためです“

 

“わかりました……!”

 

 

 

左手をポケットに突っ込む。その硬い感触が伝わってくる。俺は……俺は……!

 

「どうかしましたか?」

 

緊張しすぎていたようで、汗をかいていた仲村はハッと我に返る。

 

「なんでもない!……俺はもう失礼する」

 

「あ、仲村さん!?」

 

ダッ、と席を立って慌てて花鶏から出ようとしたその時、

仲村の耳に鈴の音のような金属音が響いた。

周りを見回すと、ガラス窓にミラーモンスターがうろついている様子が

映し出されていた。ミラーモンスターは仲村に気づくと、

現実世界に向かって走り出してきた。その時、

 

 

「仲村さん逃げて!」

 

 

店の中から優衣の声が飛んできた。やはり、やはり彼女には“見えている”のか!?

……このまま逃げ出せば、モンスターはまず優衣を捕食するだろう。

俺を追ってきても“これ”がある。

全てが終わってから始末しても……しかし……俺は……。

仲村が苦悩する間にもミラーモンスターは近づいてくる。仲村は意を決して叫んだ。

 

「今から見ることは全部忘れろ!!」

 

「え!?」

 

仲村はポケットから、鋼鉄製の飾り気のないパーツで組み立てられた

カードデッキを取り出すと、ガラス窓にデッキをかざした。

鏡の像と現実世界の仲村の腰にベルトが現れると、

 

「変身!」

 

仲村に縦回転するライダーの像が折り重なり、

擬似ライダー、オルタナティブに変身した。

 

「行くぞ!」

 

「仲村さん!!」

 

呼び止める優衣を無視し、オルタナティブはミラーワールドへ飛び込んでいった。

 

「仲村さんも、ライダー……?」

 

あまりに突然の出来事に、優衣はしばし立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

オルタナティブはミラーワールドの左右反転した花鶏前の道路で、

突撃してくるカミキリムシ型モンスター・ゼノバイターを迎え撃とうとしていた。

カードを1枚ドロー。右腕のカードバイザーのスリットに通し、

コードをスキャンさせた。スキャンされたカードは蒼く燃えるように消えていく。

 

《SWORD VENT》

 

女声のシステム音声と共に、オルタナティブの手に槍状のややコンパクトな剣、

スラッシュダガーが現れた。ほぼ同時にオルタナティブとゼノバイターが激突。

 

ギシャアアア!!

 

ゼノバイターが背中に取り付けたブーメランを剣のように持ち、

オルタナティブに斬りかかる。

しかし、オルタナティブもスラッシュダガーでそれを受け止め、振り払った。

勢い余ったゼノバイターが体勢を崩した隙に、何度も斬撃を叩き込む。

耐えきれなくなったゼノバイターは後ろに跳躍し、オルタナティブと距離を取る。

そして、今度は右手のブーメランを遠くから投げてきた。

巨大なブーメランが唸りを上げて飛んでくる。

オルタナティブはスラッシュダガーを縦に持ち、

ブーメランを受け止めて直撃を避けたが、その圧倒的な衝撃に吹っ飛ばされる。

 

「ぐっ……」

 

オルタナティブは転びながら、スラッシュダガーを拾うが、

ブーメランはゼノバイターの元へ戻っていく。

走って近づこうにも彼我の距離は長く、このままでは同じことの繰り返しだ。

オルタナティブは立ち上がりカードを1枚ドロー。スキャン。

 

《ACCEL VENT》

 

……!!

 

システム音声が鳴り終わった瞬間、ゼノバイターの胴を一閃が薙いだ。

 

キシャオオ!!

 

何が起きたのかわからないゼノバイターは道路の上でもがくしかなかった。

それを見逃さず、オルタナティブはスラッシュダガーを敵に向ける。

すると、先端から青白い激しい炎が吹き出した。業火に包まれるゼノバイター。

轟くほどの悲鳴を上げながらジタバタしていたが、やがて動かなくなり、爆発した。

 

 

 

 

 

オルタナティブは花鶏の窓ガラスから現実世界に戻り、変身を解いた。

優衣が驚いた様子で仲村を見つめている。彼は振り返ることなく言い放った。

 

「……さっきも言ったが、今見たことは全て忘れろ」

 

「仲村さんも、ライダーだったんですか?」

 

「忘れろと言っただろう!それと……401号室には手を出すな」

 

「仲村さん!」

 

そのまま仲村は走り去ってしまった。後に残された優衣は屋内に戻り、2階に戻った。

そうだ。仲村さんと約束した。私にできることをやらなきゃ!

優衣は以前受け取った資料の中から不可解な物を取り出した。1枚のネガ。

とりあえず現像には出したものの、写っていたのは見たことのない洋館。どこだろう。

 

ガタッ……

 

その時、隣の部屋から物音がした。

見に行こうと廊下に出たら入るまでもなくドアが開いた。

 

「蓮!!」

 

一旦サイバーミラーワールドから戻った蓮だった。

 

「またネット上のミラーモンスターなの?」

 

「そんなところだ」

 

「それより蓮、聞いて欲しいことがあるの」

 

優衣は先程の仲村との一件を蓮に話した。蓮の表情が険しくなっていく。

 

「その、401号室の生き残りがどうしてライダーになったんだ……」

 

「わからない。どうして仲村さんが……それに、401号室に手を出すなって。

ねえ、蓮。何か知らない?

ライダーがなにか401号室で繋がってるような気がするの!」

 

「……知らん。俺は、優衣達の様子を見に戻っただけだ」

 

「そう……おばさんは今お店閉めてバスツアーで温泉に行ってる。

せめてもの憂さ晴らしだって」

 

「そうか。俺は今から行くところがある。帰って早々すまんが、また店を空けるぞ」

 

「お休みだから別にいいけど、どこ行くの?」

 

「……ちょっと野暮用だ」

 

「ちょうどよかった。私も行かなきゃいけないとこがあるから、玄関の鍵閉めちゃうね。

あ、タクシー呼ばなきゃ」

 

「お前はどこに行くんだ」

 

「うん……知ってる人のお見舞いにね“ただいまー!優衣ちゃーん、おばさーん!”」

 

その時、玄関から真司の大きな声が響いた。

優衣や沙奈子を探しながら2階に上がる足音が近づいてくる。

そして、2人の姿を見て驚いた様子で、

 

「あ、蓮!いつの間に帰ってたんだよ、声かけてくれりゃいいのに。

いやー日曜で助かった~!」

 

「なんでいちいちお前に俺の予定を報告しなきゃならん。

小学生の友達ごっこでもあるまい」

 

「そりゃそうだけど……優衣ちゃんもただいま!おばさんは?」

 

「いない!2人がサボってばっかだから自分もサボるって旅行中」

 

「あー……おばさん帰ったら謝んなきゃだね。それよりどっか出かけんの?

なんか支度してるけど」

 

「だからお前に話す義理はないと言っただろう。俺は行く」

 

蓮は2人を置いてさっさと階段を下り、玄関を出てしまった。

外からシャドウスラッシャーの排気音が遠ざかっていく。

 

「ああ待てって……行っちゃったか。優衣ちゃんもどっか行くの?」

 

「うん。ちょっとお見舞いに。……真司君に相談したいこともあるし」

 

「わかった。一緒に行こうよ」

 

優衣はタクシー会社に電話をかけ、配車を手配。

しばらく待つと花鶏の前に1台のタクシーが止まった。

二人が乗り込むと、間もなくタクシーが発進した。

 

 

 

 

 

「どうも、ありがとうございました!」

 

タクシーから降りた真司と優衣は、病院に入り、とある病室へ向かった。

エレベーターの中で言葉を交わす二人。

 

「ねぇ、知り合いって優衣ちゃんの友達?」

 

「ううん。直接話したことはないの……」

 

「それってどういうこと?」

 

「後で……詳しく話すね」

 

小川恵里。

江島研究室の元メンバーの見舞いに来た優衣は、真司と共に彼女の病室に入ると、

持ってきた花をテーブルの花瓶に生けた。

 

「ごめんなさい恵里さん。私にはこんなことしかできない。

お兄ちゃん……ううん、私のせいでこんなことになったのに」

 

「優衣ちゃんのせいって、なんでそうなるの……?」

 

「それは……」

 

 

「優衣!どうしてお前がここにいる」

 

 

その時、病室の入り口から驚きの声が聞こえた。蓮だった。

 

「蓮こそなんでここにいるの!?この人、お兄ちゃんのせいでこうなっちゃったの。

恵里さん、蓮の知り合いなの?何か知ってるなら教えて、お願いだから!」

 

「……この人は、ちょっとした知り合いだ」

 

「嘘!看護婦さんに聞いた。恵里さんに度々お見舞いに来てる人がいるって!

どうみてもただの知り合いなんかじゃないって!」

 

「……」

 

蓮は黙って奥に入ると、テーブルの花瓶のそばに、木彫りのフクロウを置いた。

そして、ごまかすのではなく、真実を告げることを選んだ。

 

「恵里は……俺の恋人だ」

 

「そんな、じゃあ、蓮の恋人はお兄ちゃんのせいで……!」

 

「嘘だろ……」

 

打ちのめされる優衣と真司。

自分のために恵里が犠牲になったこと、蓮がライダーバトルに身を投じた理由が、

おそらくながらわかってしまったこと。理由は別々だが、同様にショックを受けた。

 

「言っておくが、優衣。お前が責任を感じる必要はない」

 

「ないわけないじゃない!お兄ちゃんは私のために大学で事件を起こしたんだよ?

恵里さんはそれに巻き込まれてこうなっちゃったのに!」

 

「それは神崎士郎の問題だ。奴とは、俺が決着をつける」

 

「なら私の問題でもあるじゃない!

直接お兄ちゃんと話して大学で起きたこと、全部話してもらう!」

 

「あの……院内ではお静かに」

 

二人の言い争いを聞きつけた看護婦から注意を受けた。

 

「どうもすいません……優衣ちゃん、しばらく蓮と恵里さん二人にしてあげよう、ね?」

 

「……わかった」

 

「じゃあ、蓮。俺たち1階のロビーで待ってるから」

 

「……」

 

そして真司と優衣は1階へ降りていった。

残された蓮は恵里のそばに寄り、安らかな寝顔をそっと指でなでる。

しかし、やはり目を覚ますことはない。

ただ病室に規則的な心電図の音が響くだけだった。

 

 

 

1階へ降りる途中、優衣は追求の矛先を真司に向けていた。

 

「真司君にもまだ聞いてなかった。ネット上のミラーモンスターって何?

真司君達、一体どこで戦ってるの!?病気も嘘なんでしょう?教えて!」

 

「……それは、今ここじゃ言えない。帰ったら蓮と相談させて。

絶対うやむやにしないから!」

 

「約束してくれる……?」

 

「約束する!」

 

「……絶対よ」

 

その時、ナースステーションの半開きになった扉から声が聞こえてきた。

中から看護婦達の話し声が聞こえてきた。

なんだ、看護婦さんなのにルーズだな、と思っていたら

耳によく知った名前が飛び込んできた。

 

「北岡さん、今日も定期診察に来なかったわね」

 

「本当。放っといたらますます危ないのに……」

 

「でも不思議な人よね。もうすぐ死んじゃうのに全然平気な顔してるんだもの」

 

「エリート弁護士なのに残念よねぇ」

 

北岡さんが……死ぬ?今の看護婦達の話は明らかに北岡秀一のことだ。

北岡さんが、そんな重い病気抱えてたなんて、知らなかった……

そもそも俺、北岡さんがどうしてライダーバトルに加わったのか、

そんな話全然してなかった。蓮にしてもそうだ。

美穂ちゃんと同じ、どうしても助けたい人がいた。

 

「俺、ただ闇雲にライダーバトルを止めようとしてたけど、

そうすると誰かが犠牲になる……」

 

ライダーの命を助ければ、他の誰かの命を奪うことになる。

人々もライダーもみんな助けてみせる。

固く誓ったはずの行動理念がいとも容易く崩れ去った。

 

「一体、俺、何のために戦ってたんだ……」

 

「真司くん、さっきから何ブツブツ言ってるの?」

 

「え、ああ何でもない、独り言!」

 

とっさにごまかすが、心の淀みは全く消えることなかった。

これから何の為に戦えばいいのか。今まで頼りにしていた戦いの動機を失った真司は、

拠り所のない宙に放り出されたような気がした。

 

「ねえ優衣ちゃん。俺、先に花鶏に戻ってる。何から話すか考えを整理したいんだ」

 

「……逃げたりしないよね?」

 

「しない。ちゃんと全部を伝えたいんだ」

 

「わかった。信じてるからね」

 

 

 

病院のエントランスから出た真司は、徒歩とバスで花鶏を目指した。

しかし、何から話せばいいのだろう。バスに揺られながら考えるが、

なかなか考えがまとまらない。ぼんやり外を眺めながら考えを組み立てようとするが、

結局上手い伝え方などあるはずもなく、ありのままを話すことにした。

いつの間にかたどり着いた花鶏の門を開く。

 

「優衣を放ったらかして何をやってた……2階で待ってるぞ」

 

帰るなり蓮がカウンターから声をかけてきた。

 

「まったく、勝手に話を進めるな。あの世界の話なんかどう伝えろと言うんだ」

 

「ごめん……」

 

「まあいい。どのみち今日のことで優衣にはいずれ話さなければならなくなったからな」

 

二人は階段を上がり、彼らのベッドがある部屋のドアを開けた。

優衣がベッドの一つに腰掛けていた。

 

「真司君、蓮……」

 

「約束通り、お前に全てを話す。俺達がしてきたことも、神崎士郎のことも……」

 

「うん」

 

「かなり突拍子もないことや信用できないようなことも多い。

それでも冷静に聞いていられるか?」

 

蓮が念を押す。

 

「大丈夫、お兄ちゃんのこと早く知りたい。教えて!」

 

「……わかった」

 

とうとう真司は語りだした。今、世界中を騒がせているネットゲーム、

艦隊これくしょんの世界はネットワーク上に実在し、自分達がそこで戦っていること。

神崎士郎が艦これの世界をライダーバトルの舞台に選び、

ライダー同士を戦わせていること。艦これの世界を開いたために

巻き込まれた犠牲者がいること。静かに聞いていた優衣からやがて涙が溢れる。

 

「酷い……酷すぎるよ。お兄ちゃんのせいで、艦これの人たちが大勢死んで、

止めようとした娘達も死んで、今も真司君たちが戦ってるなんて……

ねぇ嘘なんでしょ!?艦これなんて、ゲームの女の子なんて作り話だって言って!」

 

「……俺の顔を見ろ。冗談を言っているように見えるか」

 

真司にすがりつく優衣だったが、蓮の言葉に床に座り込んだ。

 

「……私も連れてって。そのゲームの世界に!」

 

「危険すぎるし方法もない。もう話したが、そこはミラーモンスターだけじゃない。

別のモンスターも出る。……それに、お前が行って何になる」

 

「そうだよいつ深海棲艦が攻撃してきてもおかしくないんだ!」

 

「お兄ちゃんを止める!こんな戦いやめさせる!全部私のせいじゃない!」

 

「神崎を止めることは不可能だし、ライダーは自分の意志で戦いを続けている。

お前が罪の意識を感じるのは見当違いだ」

 

「蓮に何がわかるの!

私の知らないところで私のせいで沢山の人たちが傷ついて、何が見当違いなの!

出てって……二人とも出てって!」

 

優衣に部屋を追い出された二人。

真司と蓮は狭い階段に立つが、部屋から優衣の泣き声が聞こえてくる。

二人の間に沈黙が落ちる。中では優衣が泣き崩れていた。

 

「なんで、なんでみんな死んじゃうの……」

 

その時、涙に濡れる両手がさらさらと砂のように溶け、散り始めた。

 

「……え、なにこれ、いや、いや!」

 

思わず手を振り、擦るとその現象は止まったが、

何が起こったのかわからず混乱する優衣。

その様子を見た神崎が窓から声をかけた。

 

「優衣、心配はいらない。必ず俺がお前を助ける」

 

「お兄ちゃん、何なのこれ!いや、私のことはどうでもいい!

今すぐこんなことは止めて!何のためにライダーに殺し合いなんてさせてるの!?」

 

「ライダー自身が望んだことだ」

 

「その為に艦これの人や止めようとした達が沢山犠牲になった!もうこんなことやめて!

これ以上続けるなら、もうお兄ちゃんを兄だなんて思わない!」

 

「優衣……それでも俺はお前を救う」

 

「救うって、何から?答えて!401号室で何があったの!?」

 

「知らなくていい。何も心配しなくていい」

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」

 

妹の問いに答えることなく、神崎はガラス面から去っていった。

部屋の外から神崎とのやり取りを聞いていた真司と蓮は、ドア越しに優衣に声をかけた。

 

「優衣、お前の身に何が起きたのかはわからん。

だが、俺達は全ての答えを探しにサイバーミラーワールドに戻る」

 

「絶対神崎を止めてみせるから、待ってて!」

 

返事はなかった。蓮は持ち出したノートパソコンを持って隣の部屋に行き、

電源をコンセントに差し、起動した。そして、再び艦これ界に戻るべく、

DMM.comにアクセス。その時、スッとしわくちゃの1万円札が差し出された。

思い詰めた表情の真司のものだった。

 

「俺の全財産。もう会社のパソコン使ってたらごまかしきれない。

次で決着付けるつもりで行くから使わせて!」

 

「ふん、全財産?仮にも会社員だろう。

……貧乏人から巻き上げるほど落ちぶれてない。汚すなよ」

 

「蓮……ありがとな!」

 

そして二人は蓮のパソコンから再びサイバーミラーワールドへと旅立っていった。

 

 

 

 

 

──リサイクルセンター

 

 

『テレビ・パソコン・洗濯機・エアコン等、何でも無料回収!!』という

大きなトタンの看板が掲げられた回収場。

ブラウン管テレビや型の古いパソコンなどが砂地に山積みにされている。

廃品の山の1つに一台のノートパソコンがある。

開きっぱなしになっているそのパソコンのモニターがゆらゆらと歪み、

次元の向こう側から傷だらけの男が飛び出してきた。

ちょうどゴミ山の頂上に降り立った浅倉は周りを見渡す。どこだここは。

その時、山の下から声を掛けられた。ここの作業員らしい。

 

「おーい兄ちゃん困るよ!これも売り物なんだから!」

 

浅倉は返事をせずに廃品の山から足を引きずりながら降りた。作業員が近づいてくる。

 

「しかしまぁ、よくあんなとこ登ったね~。

あれ?兄ちゃん酷い怪我じゃねえか!救急車呼ぶから!」

 

「動くな!……余計な真似すんじゃねえ」

 

浅倉はオートマチック拳銃を作業員に突きつけた。

 

「ひいい!」

 

 

「おっとそこまでですよ。浅倉威」

 

 

その時、黒いコートを着て髪を整えた男が近づいてきた。浅倉が銃口を男に向ける。

 

「それをぶっ放してもお互い利益はないと思いますが?ねえ」

 

男はコートから蟹のエンブレムが施されたカードデッキをチラリと見せた。

 

「……」

 

ドンッ!と浅倉が作業員を放り出す。

男は内ポケットから警察手帳を取り出し、ゆっくりと浅倉に近づく。

そして十分に近づいた所で、彼にだけ聞こえるようにささやいた。

 

「まさか例の音を辿ってきたら、指名手配犯に出会うとは思いませんでしたよ。

誤解しないでください。別に本気であなたを逮捕しに来たわけじゃない。

ただ、良い取引ができるんじゃないかと思いましてね」

 

「……続けろ」

 

「まぁ、ご覧の通り私は刑事なんですがね。ちょっと裏で“副業”を。

しかし、最近それが露見しそうになってて困ってるんですよ。こうしませんか?

私が一度形の上だけあなたを逮捕する。全国指名手配犯を逮捕したとなれば

私への疑いの目は消えるでしょう。後日、私が獄中のあなたにデッキを渡す。

あとは好きにしてください。私はただ信用を買いたいだけです。

一人殺人犯が脱走した所でどうということはありませんから」

 

「てめえが裏切らない保証は」

 

「“ADVENT”のカード1枚くらいなら口の中にでも入りませんか?

後は適当な鏡やガラスなんかにかざして暴れさせればいい。

なんなら逃走後の生活拠点も保証しましょう。私のアパートを使ってくれて構わない」

 

「……いいだろう」

 

「取引成立ですね……おじさん!彼は私が逮捕しました!警察への連絡は無用です。

ご協力ありがとうございました!」

 

刑事が警察手帳を見せて作業員に呼びかける。

 

「あんた刑事さん?ああ助かった~」

 

「さぁ、来るんだ浅倉!

くれぐれも不要な110番はなさらないようお願いしますねー!」

 

「はーい!」

 

刑事は浅倉に手錠を掛け、乗ってきた車に乗せ、警視庁へ走り去っていった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。