【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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第18話 ID: Slashing Cancer

──城戸鎮守府 座敷牢

 

 

艦娘訓練施設の隅にある座敷牢に、投獄された高見沢逸郎がいた。

先日、自らの鎮守府の艦娘に凄惨な暴力を働いた挙句、奴隷化しようとした結果、

思わぬ反撃の目に会い、今に至る。

そんな彼の前に、三日月の求めに応じて、真司、蓮、海之とくっついてきた漣、

そして城戸鎮守府の長門が集まっていた。北岡はまだ不在だった。

 

「……そういうわけなんで、このイレギュラーの処遇について

真司さん達に決めていただきたいんです」

 

事の経緯を説明した三日月が真司らに対応を求める。

 

「頼む!1億、いや、10億出す!デッキを取り返してくれ!」

 

格子にすがりついて真司達に懇願する高見沢。蓮は無言で近づいて思い切り格子を蹴る。

高見沢は後ろに尻もちをついた。

 

「ぐわっ!」

 

「……三日月、何もする必要はない。

放っておけば勝手にミラーモンスターのエサになる」

 

「はい……」

 

「秋山提督マジガクブル……」

 

「ま、待ってくれ!俺なら死んでもいいというのか!

デッキを奪われライダーにもなれない人間を殺すというのか!」

 

今度は長門が格子の間から手を突っ込み、高見沢の胸ぐらをつかんだ。

 

「ふざけるな!自分のしたことを考えろ!

人間なら何をしても情けをかけると思ったら大間違いだぞ!」

 

高見沢を怒鳴りつける長門。蓮も彼女に同調する。

 

「これでようやく“まともな”ライダーバトルの脱落者が出る。

神崎もさぞお喜びだろう」

 

高見沢の処遇が決まりかけた時、初めて真司が発言した。

 

「みんな待って……」

 

一斉に皆が真司を見る。蓮が睨みつけながら問う。

 

「おい、まさか、“ライダーも人間だから殺したくない”とか

寝言をほざくつもりじゃないだろうな」

 

「そうだよ!!なんか、こう、うまく言えないんだけど!

確かにこいつは悪党だし、許せないし……でも、なんか変だと思うんだよ!

敵だからって動けない奴を閉じ込めて、デッキを取り上げて死ぬのを待つって、

それも人として何かが違うと思うんだよ!」

 

「いい加減にしろ!!」

 

蓮の怒号が響く。流石に長門も一瞬肩がビクッと動き、

漣も目を白くしてその場で固まった。

 

「お前は結局汚れたくないだけだ。想像しろ。

その鎮守府で殺されたのがお前の鎮守府の艦娘だったら、三日月だったら、

同じ台詞を吐けたのか!」

 

「そ、そうですよぉ。いくらなんでもあの惨劇の犯人許すなんてマジむりぽ。

駆逐艦代表として結果を聞きに来た漣もみんなになんて言っていいか……」

 

漣が腫れ物の蓮を刺激しないよう同意する。

 

「わかんねえよ!わかんねえから……困ってるんだよ。

もしそうだったら、絶対許せなかったと思う。きっと許さなかったと思う!

でも!それでいいのか、って気持ちが消えないんだよ!」

 

「それは……絶対に消えないと思う」

 

その時、海之がつぶやくように言葉を紡いだ。

 

「城戸の言ってることは辻褄が合ってないけど、だからこそ正直な気持ちなんだと思う。

確かに高見沢が死ぬのを何もせずに待っただけだとしても、

誰も手を下したことにはならない。でも、城戸の後悔は一生続くと思う」

 

「だったら何だ!こいつは4人殺した!そいつらはもう戻ってこない!

つまりこいつを許すということは浅倉を無罪放免にすることと一緒だ!

お前は誰か大事な人を殺されたことがあるのか!?ないならペテン師は黙っていろ!」

 

相も変わらず施設中に蓮の怒鳴り声が響く。

“なになに?”と覗き込む野次馬もちらほら。

 

「あるさ……」

 

「何?」

 

「俺の友人は、ミラーモンスターに殺された。

本当は、俺じゃなくて彼がライダーになるはずだったんだ。でも、彼は最期まで拒んだ。

拒み続けた。“誰かを倒してまで治りたくはない”と言って。

俺は雄一の遺志を引き継いで、この殺し合いを止めるために、

ミラーモンスターと契約してライダーになった」

 

 

 

…………

 

 

クリスマスの近い夜。手塚と二人だけの小さなピアノホールで、

青年が“きよしこの夜”を演奏している。ゆっくり、確実に鍵盤を押す青年。

だが、曲が中盤に差し掛かったところで、

 

“うっ!”

 

左手の包帯に血がにじむ。

アルバイトをしながらピアニストを目指し、懸命に練習を重ねていた矢先、

偶然通りかかったところで発生した傷害事件に巻き込まれた時の傷。

その犯人はやはり、浅倉威。

 

“雄一!”

 

急いで雄一のそばに寄る手塚。

 

“大丈夫、大したことない”

 

“雄一、お前やっぱり……”

 

雄一は黙って首を振った。ピアノに置かれた未契約のカードデッキ。

しかし、雄一は頑なに契約を拒んでいた。

 

“例え、元の体に戻れるとしても、俺は、誰かと戦ってまで望みを叶えたいと思わない”

 

“しかし、このままだと……”

 

しかしその時、光沢を放つピアノにミラーモンスターの影が写った。

気づいた瞬間、ミラーワールドからモンスターの尾が飛び出し、雄一に巻き付いた。

 

“うわぁっ!!”

 

“雄一!雄一!”

 

ピアノにしがみつく雄一、全力で雄一を引き剥がそうとする手塚だったが、

ミラーモンスターの力に、ついに雄一はピアノに飲み込まれてしまった。

 

 

…………

 

 

 

「ご主人様……」

 

意外な事実にしばし沈黙が降りる。蓮が軽く床を蹴ってまた口を開く。

 

「……だったら、お前はどうすればいいと思う。誰もが納得するような結論を出せ」

 

「今回の事件は、俺たちにも責任がある。

互いの不在を確認せず、勝手に行動したがために対処が間に合わず、

4人もの犠牲者を出してしまったと言っても過言じゃない。

“イレギュラーから守る”と約束したというのに」

 

「……」

 

「高見沢は、俺の鎮守府で監禁しておく。

ミラーモンスターとの契約は、以前浅倉がそうしたように、

提督権限で所有権を移せば食われる心配はないだろう」

 

「ふん。なるほど、体よく新しいカードとモンスターを手に入れようというわけか。

馬鹿だと思っていたが、案外知恵が回る」

 

蓮は憎まれ口を叩きながら長門が持っていたベルデのデッキを手に取り、

海之に放り投げた。

 

「好きにしろ。せいぜいエサが尽きて自分が食い殺されないよう気をつけることだ。

だが……」

 

「何でしょう?」

 

続きを求める長門。

 

「イレギュラーに関してはペテン師の言うとおりだ。

今後、現実世界に戻るときは最低一人のライダーがいることを確認する。それでいいな」

 

「あっ、秋山提督……」

 

返事も聞かず、止める長門を無視して秋山は去っていった。真司が海之に歩み寄る。

 

「なんて言っていいか、ありがとな手塚。駄目だな俺、結局何も答え出せなくて……」

 

「構わない。お前は自分が正しいと思う道を進め。それに……」

 

「何だよ」

 

「きっと秋山も迷っていたと思う。……“SURVIVE”を使ったんだろう?」

 

「ああ、美浦ちゃんと北岡さん助けるために。

蓮のことだから“浅倉を倒すためだった”、とか言うと思うけど」

 

「今はそれでいい。あのカードには運命を変える力がある。

全てのライダーは自ら参加したように感じているけど、

皆、運命の糸に引き寄せられてライダーバトルが始まったんだ。

その運命を乗り越えられれば、必ず悲惨な戦いを終わらせることができる」

 

「手塚……ああ!俺も絶対こんな運命に負けたりしない!」

 

「その意志を持ち続けろ。

……俺はもう行くよ。長門さん、済まないけど高見沢の連行を手伝ってくれないかな」

 

「承知しました。……ほら、さっさと出ろ!」

 

「うう……」

 

「ああ待ってご主人様―!」

 

長門は手を後ろに縛られた高見沢を連れて転送クルーザーへ向かっていった。

手塚と漣も後に続く。その様子を見ていた真司。

ふと、彼の袖をちょいちょいと三日月が引っ張った。

 

「真司さん」

 

「ああ……三日月ちゃん、ごめん。俺、やっぱり馬鹿だよ。

あいつがみんなにとって許せない奴だってこと、わかってたつもりなんだけど。

結局蓮の言うとおり、汚れたくないだけなのかな……」

 

「そんなことありません!

確かに今の真司さんは“甘い”って言われても仕方がないのかもしれません。

でも、死ぬとわかってる人間を、助けられるのに見殺しにするなんて、

真司さんらしくありません!これは三日月のわがままかもしれませんが、

真司さんには、真司さんでいてほしいんです……」

 

「……ありがとう、三日月ちゃん。俺、ちょっと自信出た。

現実世界に出てたときに、どうにもならないことが色々出てきたんだけど、

やれるだけのことはやり通すから!」

 

「はい!三日月が力になれることがあったら、何でも言ってくださいね!」

 

そして二人は空になった座敷牢を後にし、本館へ戻っていった。

 

 

 

 

 

──小竹署

 

 

「須藤雅史巡査部長、逃走犯浅倉威逮捕の功績をここに称える」

 

「はっ!今後共、凶悪犯罪撲滅の為、努力してまいります!」

 

大会議室に設けられたステージで、刑事・須藤雅史は敬礼をして、

上司から表彰状を受け取った。周囲の職員から拍手が上がる。

連続殺人犯、浅倉威逮捕のニュースが世間に与えた衝撃は大きかった。

テレビ各局が速報で取り上げ、各所で号外が配られ、電光掲示板・壁面モニター全てが

浅倉のニュースを報じていた。

そんな騒ぎなどどこ吹く風といった様子の須藤は、

大会議室から出ていくと通常の業務に戻っていった。

そして彼の様子を苦々しい思いで見る者が二人。

 

「警部!須藤の殺人容疑、押収品の麻薬横流し容疑の

捜査中止ってどういうことですか!?」

 

若い刑事は中年の警部に問いただした。

 

「声が大きいぞ!……上からの命令だ、仕方あるまい」

 

「命令……?なぜ上がストップをかけるんです!」

 

「状況を見ろ。殺人鬼を逮捕した須藤は今や英雄扱い。

そいつを身内でつつき回していることがばれてみろ。

芋づる式に奴が手を染めている犯罪も表沙汰になる。

どちらにせよ、そんな情報が漏れたらマスコミから袋叩きだ」

 

「そんな、じゃあ、俺達捜査班は?」

 

「解散だな。今後はそれぞれ別の事件の捜査に割り当てられることになるだろう。

お前も達者でな」

 

中年の警部は刑事の肩を叩いて去っていった。

 

「くそっ……須藤!」

 

 

 

一方、自分のデスクに戻った須藤は、仕事の続きに取り掛かろうとしたが、

同じ部署の同僚が駆け寄ってきた。

 

「須藤やったな!浅倉威逮捕でみんな大騒ぎだぞ!」

「うちの署からあんな大手柄が出るなんて嘘みたい!」

「なぁ、どうやって浅倉見つけたんだ!?犯人探しのコツとかあんのか?」

 

呑気な人たちです。すぐに浅倉はシャバに逆戻りだというのに。

まぁ、私には関係ありませんが。

 

「やっぱり防犯カメラやNシステムが導入された今でも、

足での捜査は疎かにできないと思うんです。私の場合、常に浅倉の顔写真を携帯し、

非番の日も潜伏しやすい河川敷や雑木林を見て回っていたんですが……

まさか廃品回収のゴミ山に潜んでいるとは予想外でした」

 

おお~っ、と同僚たちが感心する。よし、計画通り。

これで私にちょっかいを出す者はいなくなるでしょう。後は浅倉が暴れるのを待つだけ。

同じライダー同士ですが……うまくすれば利用できるかもしれません。

おや、なんでしょう、上司がこちらに近づいてきます。

同僚をかき分けて須藤の上司が彼の前に立った。

 

「須藤君、ちょっといいかね?」

 

「はい、何でしょう」

 

 

 

人気のない廊下を歩きながら須藤と上司が話していた。

 

「サイバー犯罪課、ですか?」

 

「うむ。昨今、ネットでの違法薬物の取引、違法賭博、海賊版動画配信などが

激増しているのは知っての通りだ。それに……ゴホン」

 

上司が一つ咳払いをして、小声で須藤にささやく。

 

「例のネットゲームの件だ。官邸からひっきりなしに情報の催促が来ている。

既にアメリカが相当おかんむりらしい。

そこで君の能力を見込んで、今日付けを以ってサイバー犯罪課に異動してもらいたい」

 

「私に出来ることは何でもするつもりですが、

自分にはこれといったパソコンの専門的知識が……」

 

「構わない。ハッキング等の専門技術を要する任務は担当のチームが行う。

君にはオブザーバーとしてネットゲーム製作者、その目的、サーバーの所在地等、

考えられる可能性を彼らと共にプロファイリングして欲しい」

 

「そういうことでしたら。承知しました、お任せください」

 

須藤は立ち止まり、姿勢を正して上司に敬礼した。

 

「うむ!頼りにしているよ、須藤君!」

 

「あ、その前に一つお願いしたいことがあるのですが……」

 

「何かね?」

 

「浅倉威の所持品をお借りすることはできませんか?

例のゲームが愉快犯の仕業だとすると、理由なく連続殺人に及んだ浅倉と

行動パターンに一致するところがあるかもしれません。

参考のために実物を分析したいのですが」

 

「ああ、助かるよ。証拠品保管庫2号室にある。私の名前を出せば持ち出し可能だ」

 

「ありがとうございます!」

 

さて、準備は整いました。後は待つだけ。上手くやってくれるといいんですがね。

 

 

 

 

 

──護送車

 

 

「こちら渋谷1072。現在異常なし、どうぞ」

 

浅倉は拘束衣を着せられて頑丈な護送車に乗せられ、

関東拘置所に逆戻りするところだった。

後部座席には白い寝袋のような拘束衣で身動きが取れない浅倉と、

機動隊員が2人同乗し見張りについていた。

そして6台ものパトカーが取り囲み、多くの機動隊員を乗せた護送車が前後に付き、

今度こそ脱獄を許さないよう完璧な陣形を敷いていた。

ゴトゴトと重い車体を揺らしながら護送車は走り続ける。

その時、浅倉が前のめりになって苦しみだした。

 

「うおぁっ……」

 

その様子を見ていた機動隊員が話しかける。

 

「どうした、人殺しでも車酔いするのか?」

 

「吐くなら早めに言え。片付けるのは俺達だ」

 

ハハハハ、機動隊員が笑いあっていると、

 

「カカカカ……」

 

浅倉も不気味な笑い声を上げる。

 

「おい、何を笑っている。お前脱走何度目だ。

もう情状酌量の余地無し、今度こそ死刑だぞ。わかってんのか?」

 

浅倉は何も答えず笑みを浮かべて彼の方を向いた。そして、その口には──

 

 

 

浅倉を乗せた護送車後方に着いていたパトカーが最初に異変に気づいた。

中央の護送車が突然蛇行を始め、左右のパトカーにぶつかりながら隊列を離れ、

やがてガードレールに激突して停止した。

すぐさま無線マイクを取り、護送車の運転手に呼びかける。

 

「2号車、何があった。2号車応答せよ!」

 

“……”

 

だが返ってくるのは沈黙のみ。すぐさまパトカー、護送車が停止し、

中から警官や機動隊員が浅倉の乗った護送車に向かうが、

 

ドォン!!

 

と、後部ドアが吹き飛ばされた。大きな力で強引に破られ変形したドアが道路に転がる。

そして彼らが見たものが信じがたい光景。

護送車からノシノシと出てくる巨大な岩塊のような化け物と、

拘束衣を破かれ囚人用のシャツとズボン姿になった浅倉だった。

一瞬動きが止まる警官達。だが、次の瞬間には我に返り、警官は銃を構え、

機動隊員はジュラルミンの盾を持ち、浅倉達に突撃した。

 

「止まれ!浅倉止まれー!!」

 

警官の一人が車両の拡声器で浅倉に投降を呼びかけるが、

浅倉は無視して立ち去ろうとする。

そんな彼に前に3人の警官が銃を持って立ちはだかる。

 

「抵抗を止めて大人しくしろ!!」

 

「……警察ってのは、なんでこうもイライラさせるかね」

 

構わず浅倉は銃を向ける警官の一人に無造作に近寄る。

 

「動くな!動くと撃つぞ」

 

しかし、及び腰の警官にぶらぶら近づき、十分接近すると瞬時に足を蹴り上げ、

持っていた銃を蹴飛ばし、宙に飛んだ銃をキャッチ。

間髪入れず、驚く警官を服を掴んで強引に引っ張り、背中から左腕を回し、

頭に銃を突きつける。警官も激しくもがくが、撃鉄を下ろす音がすると抵抗をやめた。

 

「……死ぬぞ」

 

「ぐうっ!」

 

「やめろ!今すぐそいつを放せ!本当に撃つぞ!」

 

浅倉は声を上げずに笑いながら、2人目の警官に接近。

まずは左腕に思い切り力を入れて警官の首を締め上げる。間もなく彼は気絶。

肉の盾としていた彼を2人目に突き飛ばす。

 

「うわっ!」

 

2人目が大きくよろめいた隙に、すっと背を低くし、

あっけに取られていた3人目のみぞおちにすかさず強烈な拳をめり込ませた。

 

「がは……っ!!」

 

彼もまた気絶。浅倉は立ち上がろうともがく最後の一人の頭を思い切り踏みつけ、

アスファルトの道路に叩きつけた。気を失う警官。

こうしてものの十数秒で邪魔な警官を排除した浅倉はその場から立ち去った。

後ろからはメタルゲラスと対峙する警官、機動隊員の悲鳴、喧騒、銃声が聞こえてくる。

 

「発砲許可!撃て!!」

「至急、至急!こちら渋谷04、浅倉威が逃走!直ちに応援願う!」

「全然効いてないぞ!こいつはサイなのか!?」

 

 

 

そして。増援が駆けつけたとき、その場に残されていたのは、

大破したパトカーと大量の血痕だけだった。死体は、見つからなかったという。

 

「これは一体……どういうことだ!!」

「浅倉はどうやって護送車から逃走を?」

「見ろ、何かの足跡だ。

だが、こんなところにアスファルトに食い込むほど重い獣なんかいるか?」

 

現場検証に当たった警官や鑑識係も首をかしげるばかりだった。

 

 

 

 

 

──小竹署

 

 

「いや、全く不甲斐ない……。

たったの一週間足らずで、君の功績を無駄にしてしまった!」

 

面目なさそうに上司が浅倉脱走の知らせを須藤に伝えた。

 

「浅倉威……完璧な護送体勢だったのに、一体どんな手を使ったというんだ!!」

 

さも悔しそうな芝居をしてみせる須藤。

 

「こうなったら君だけが頼りだ!一刻も早く浅倉を再逮捕してくれ!」

 

「了解しました!全力を尽くします!」

 

須藤は敬礼しながらも内心ほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

──須藤宅

 

 

古い木造2階建てのアパートの1室。須藤は自宅の鍵を開けて帰宅した。

真っ暗な室内の奥に、モソモソと何かを食べる人影が見える。

須藤はニヤリと笑うと彼に声をかけた。

 

「焼きそばは円盤派ですか、それともペヨングですか?」

 

「……お巡りが置き鍵とは感心しねえな」

 

須藤が部屋の明かりを点ける。

そこに居たのは買い置きのカップ焼きそばを食べる浅倉だった。

彼は日が落ちるまで不法投棄されたクローゼットに身を隠し、

目立たない路地裏の洋服店で再び衣服を強奪。

事前に知らされていた住所を元に須藤の家に忍び込んだのだ。

 

「お互い上手く行ったようでなによりです。

もっとも、私のほうは余計な仕事を押し付けられてしまいましたが」

 

ドサッとカバンを放り出し、コートをハンガーにかけながら独り言のように話す須藤。

 

「どうか教えちゃもらえませんかね。

あなたが脱獄した手口は知ってますよ、そりゃ同じライダーなんですから。

でも、ミラーワールドにいられる時間はたった10分。

あれほど長期間どこにどうやって潜伏していたのか、情報を小出しにしないと、

また無用な疑いの目が向くんでね」

 

「……」

 

浅倉は箸を止める。しばし考え込んだ後、その言葉を口にする。

 

「艦隊これくしょん……」

 

「はい?」

 

「デッキを持ってそいつにアクセスしろ。後は向こうの連中に聞け」

 

「今、別の意味で話題になってるあれですか。

あれが一体なんだっていうんです?向こうの連中って?」

 

ズルズル……ズッ

 

もう浅倉は何も答えず、再びカップ焼きそばを食べ始めた。

 

「まぁいいです。情報提供ありがとうございます。あ、これお返ししときますよ」

 

須藤は王蛇のデッキを差し出した。

浅倉はデッキを受け取ると、何かを感じたのか少しそれを見つめ、ポケットに戻した。

 

「……おい、向こうに着いたら、浅倉鎮守府に来い。ライダーバトル再開だ」

 

「まだ意味がわからないのですが……いいでしょう。

“浅倉鎮守府”に行けばいいんですね。

まぁ、これで本来ライダー同士のあるべき関係に戻ったということで」

 

「今、やれ」

 

「はい?」

 

「さっさと艦これにアクセスしろ。他のライダー共がうじゃうじゃいる。俺も後で行く」

 

「……わかりました。やりましょう」

 

デッキの入ったコートを羽織った須藤は、パソコンデスクに座り、

デスクトップパソコンを起動。起動処理が終わるのを待ち、ブラウザを立ち上げた。

そしてクークルで“艦隊これくしょん”を検索。

DMM.comのゲームページにアクセスした。

 

「はぁ、戦艦の女の子ですか。最近のゲームはよくわかりません。

これがあなたの何……って、わかりました。やりますよ」

 

黙り込む浅倉に構うのをやめ、須藤はアカウントを作り、艦これにアクセスした。

提督名を入力し、秘書艦を選択。するとやはり異変が起きる。

 

「こっ、これは!?」

 

須藤の体が霧のように解け、パソコンモニターに吸い込まれていく。

彼自身は抵抗しているつもりだが、その存在は徐々に霧のように実体を失い、

やがて完全にゲームの世界に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

Login No.009 須藤雅史

 

 

 

黒、0、1。他には何もない。そんな空間を為す術なく須藤は流されていった。

無数の0と1で構成された空間を抜けると、誰かの事務室らしき場所にたどり着いた。

 

「ここは……」

 

周りを見回す須藤。

パソコンから侵入したことを除けば、これといっておかしな点はない。

普通のデスク、普通のテーブル、普通のソファ。

窓に近寄り景色を眺めると、広大な海が広がっている。造船所だろうか、

海と直結した建造施設にクレーン。

他に見えるのは巨大な工場らしき建物、倉庫が……6つほど。

浅倉の話では、向こうの連中に聞け、とのことでしたが、

なるほどここなら誰か人がいてもおかしくない。とりあえずここから出ましょうか。

と、須藤がドアを開けようと振り返ると、階段を上がるような足音。

そしてドアがノックされる。若干緊張を覚えながら返事をする。

 

「……どうぞ」

 

「失礼します……」

 

ブルーのロングヘアに、袖のない涼しげなセーラー服を着た少女が

おずおずと入ってきた。

 

「五月雨っていいます!よろしくお願いします!護衛任務は……って

まだ提督じゃなかったんだ、ああ、どうしよう。と、とにかくよろしくお願いします!」

 

あたふたしながら何とか自己紹介をする五月雨。

須藤は彼女を落ち着かせながら話しかける。

 

「慌てないで。ゆっくり、少しずつでいいから私に教えてくれないかな。

私は知り合いにただここに来い、って言われて来ただけだから、何もわからないんだ」

 

「は、はい!これから艦隊これくしょんのナビゲーションをさせて頂く、

五月雨と申します!やだ、名前さっきも言ってたんだ……ごめんなさい!」

 

「急がなくていいから深呼吸して落ち着いて。

……艦隊これくしょんっていうことは、ここはゲームの世界ってことでいいのかな?」

 

「すーはーすーはー……すみません。だいぶ落ち着きました。

提督候補の方にお会いするのは初めてで。

おっしゃる通り、ここはネット空間に広がるゲームの世界です」

 

今度は須藤が動揺した。なぜライダーバトルの舞台がネットゲームの世界なんでしょう。

浅倉は何か知っているようですが……。直接本人に聞くしかなさそうですね。

 

「そうか……正直私もパニックだけど、

君がこの世界を案内してくれるってことでいいのかな」

 

「そうです!私が艦隊これくしょんのナビゲーションを……ってまた!

もうやだ、ごめんなさい!」

 

パニックになっているのは彼女の方らしい。話題を誘導してあげたほうがよさそうだ。

 

「じゃあ、さっそくナビゲーションとかをお願いしていいかな?

どうしてゲームの世界に人間が入れるのか、他のライダー達はどうしてるのか、

“浅倉鎮守府”ってところに呼ばれたんだけど、そこにはどう行けばいいのか。

落ち着いて一つずつ説明して欲しいんだ」

 

「ええっ!?他のライダーってことは、あなたもライダーなんですか?」

 

「そういうこと」

 

須藤はコートから蟹のエンブレムが施されたカードデッキを抜き取り、五月雨に見せた。

 

「またライダー……すみません、少し電話をお借りします」

 

「うん」

 

それまでのワタワタした雰囲気を引っ込め、

少し不安げな表情を見せて彼女は受話器を上げ、暗証番号を押した。

 

「はい、五月雨です……それが、またライダーの方で……

はい、はい、十分注意します。失礼します。

……お待たせしました!じゃあ、さっそく鎮守府をご案内しますので

ついてきてください」

 

「うん、よろしく。ああ、私は須藤雅史っていうんだ。自己紹介がまだだったね」

 

「須藤さん、ですね!それではこちらへ」

 

五月雨と須藤は執務室から出て1階へ降りる階段を下っていったが、

彼女がカーペットに足を取られ、滑り台のようにきれいに階段を滑っていった。

それほど滑りやすい素材だとは思えないのだが。

 

「キャアアアア!!」

 

幸い頭は打たなかったようだが、派手に尻もちをついたようだ。

 

「大丈夫?」

 

「いたたた……はい、大丈夫です。こちらへどうぞ……」

 

須藤は段々どこへ連れて行かれるのか心配になってきた。

だが、その後は別段アクシデントもなく、工廠から鎮守府全体を時計回りに周る形で

各施設を案内された。道すがら、五月雨は先程の須藤の疑問にも答えてくれた。

神崎という人物が何らかの方法で現実世界と艦これの世界を繋いだこと、

他のライダーは提督として他鎮守府にいるということ、

“浅倉鎮守府”もその一つで、適当な艦娘に頼んで

桟橋の転送クルーザーを操縦してもらえば自由に行き来できること。

大分落ち着いてきたのか、今度は回答もスムーズだった。

二人は木造の大きな家屋が並ぶ区画に差し掛かる。

 

「ええと、あそこは私達艦娘の宿舎です。それで、えーと、あの、

中には負傷した際に傷を癒やす“お風呂”があるんですが、

基本的に男性がいないところなので、覗きを警戒していない作りになってるんです。

……で、でも、変なことしたら、撃っちゃうんですからぁ!」

 

五月雨は勇気を振り絞って12.7cm連装砲を須藤に向ける。須藤は少し苦笑した。

別に気分を害したわけではないが、酷すぎる。

脅すにしてももう少しやり方があるだろう。

だがすぐ真顔に戻り、スーツから警察手帳を取り出し、縦に開いて五月雨に見せた。

 

「これでも私は刑事なんだ。少しは信用してほしいな。

そして君の行動は決して褒められたものじゃない。

覗かれたくなければむやみに警備の甘さを他言しちゃいけない。

犯罪行為を誘発するだけだ。

あと、その気はなくても軽々に銃を向けるのも止めたほうがいい。

刑法第222条脅迫罪というれっきとした犯罪だし、もし私が職務中で、

銃を携帯していたら撃ち返されても文句は言えない。そうなればどちらかが死ぬ。

誰のためにもならないんだよ?」

 

「あっ……ごめんなさい。でも、どうしても必要なことで……

私達にできることがこれしかなくて……」

 

明らかにうろたえて落ち込む五月雨。しまった、少しいじめすぎたか。

須藤は口調を柔らかくして彼女に尋ねる。

 

「“どうしても”ってどういうこと?

君がこんなことしなきゃいけない理由、教えてくれる?」

 

「はい……」

 

五月雨は須藤にイレギュラーという時折流れ着く無法者の存在について説明した。

特に、先日発生した仮面ライダーベルデという侵略者と艦娘達のとの激闘で、

多くの犠牲者が出たことを訴えるように語った。

 

「なるほど、君達が来訪者に対して強い警戒を抱く理由はわかった。

でも、もう安心して。さっきも言ったけど、私は刑事。治安を守る使命がある。

ここがミラーワールドであろうとそれは変わらない。

私がいる限り二度とそんな悲劇は繰り返させない。私に任せてほしい」

 

「須藤さん……はい、ありがとうございます!」

 

五月雨は明るさを取り戻すと、最後に作戦司令室の場所と機能を案内し、

一旦長門に状況報告をしてから須藤のところに戻ってきた。

 

「ふぅ、お待たせしました。以上でナビゲーションは終了です。本館に戻りましょう!」

 

 

 

再び執務室に戻ると、須藤は部屋の隅に奇妙な物を見た。

空間に穴が空き、この世界に来る途中に見た0と1が浮かんでは消えている。

 

「五月雨さん、あれは?」

 

「はい。あれは現実世界へ戻るためのゲートです。

いつの間にか01ゲートって名前が付きました」

 

「なるほど。あれで元の世界に戻れるんだね」

 

「はい、それで、あの……ここで決めて頂きたいんですが、

提督としてこの世界をプレイなさるか、お帰りになられるかを選択してください。

須藤さんはもうナビゲーションを終えられたので、

この後どうなさるかは、あなたの自由です」

 

自由です、とは言うものの、彼女の目を見ると引き止めたがってるのは明らかだった。

須藤はまた少しいじめてみたくなったが止めておいた。

 

「私は残るよ。さっき約束したじゃないか、この世界の治安を守るって。

それに……ライダーの事を知ってるなら、ライダーバトルの意味も知ってるよね?」

 

「……はい」

 

「なら決まりだ!私はここで皆を守る。とりあえず今日は遅いからもう休むよ」

 

「あ、では明日から着ていただきたいものがあるんです!少しお待ち下さい」

 

五月雨は部屋の隅に置かれた衣装ケースから純白の軍服一式を取り出し、須藤に見せた。

 

「提督だけが着られる軍服なんです!……着てくれます、よね?」

 

「ごめん無理だ」

 

「ええっ、即答!?」

 

ショックを受ける五月雨。

 

「刑事は刑事。軍人じゃない。そんなものを着ていたら内外から誤解を招く。

悪いけど、こればかりは駄目だ」

 

「どういう巡り合わせの悪さなんでしょう……」

 

五月雨は腑に落ちない様子で軍服を眺める。

 

「とにかく、さっそく明日頼みたいことがあるんだ。お休み」

 

「はい、失礼します……」

 

パタン。五月雨が退室すると、須藤もコートを脱ぎ、ソファに横になった。

ベッドはないんでしょうか?明日彼女に聞いてみましょう。

それより……今後の戦いが楽しみです。浅倉鎮守府。そこが彼の根城ですか。

下準備はできています。楽しい時間が過ごせそうですね……

須藤は待ちきれない思いで眠りについた。

 

 

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