【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】 作:焼き鳥タレ派
無限に荒野が続くN^x番目のミラーワールド。
そこが荒野の果てなのか、中心なのか、何もわからない。
時折舞い上がる砂塵の他は何もない、命なき世界。
神崎士郎はただそこに佇み、激怒していた。
現在のライダーバトル進行状況、参加者9名。棄権者1名。脱落者3名。
そして、死者0名。……間に合うはずがない。
ライダーバトルを効率的に進め、結末を変えるため、
途方もない時間をかけてあのミラーワールドを見つけ出したと言うのに!
こうまでライダーが使い物にならないとは思わなかった。
ライダーバトルの進捗を遅らせているのは、そう、あの男だ。
神崎は前を向いたまま告げた。
「龍騎を……始末しろ」
「……承知」
オーディンが何もない空間に手をかざすと、波紋のようなゆらぎが生じ、
彼の体を飲み込んだ。神崎はしばらく何もしないまま、ただその名を口にする。
「優衣……」
──城戸鎮守府
昨日、王蛇の手から間一髪でシザースを救い出した真司は、
執務室で現状について海之と相談していた。
「……だから、ライダーバトルを続けると、最後の一人以外はみんな死ぬ。
だからって止めると、蓮の恋人や北岡さんも命を落とす。
どうしていいかわかんないんだよ……」
どちらかと言うと、真司が海之に悩みを聞いてもらっているという形だったが。
お茶を出す三日月も何か言いたげだが、言葉にならない。
「あ、三日月ちゃん。このことは誰にも内緒だからね」
「はい、わかっています……」
「それとあと、須藤の情報サンキューな、手塚!まさか浅倉と組んでたなんてな。
あいつにも気をつけなきゃ」
「それについては当分の間は心配ないかと。
骨折が酷くて身動きが取れるようになるまではしばらくかかります。
完治の見込みが出たら龍田先輩が知らせてくださるそうです」
「ありがと。とりあえずデッキは隠しとかなきゃ。モンスターの契約も移さないと」
真司の話の内容を反芻していた海之が口を開いた。
「なるほど。お前が言っていた、止めても続けても犠牲者が出る、とはそういことか」
「蓮が恋人を助けるために戦ってるのは明らかだし、
北岡さんは生きるために戦ってるのも間違いないと思う。俺、どうすればいいんだ……。
ただ、みんなを助けたい。それだけを考えて戦ってたけど、
それって、どっちかを切り捨てることになるよな」
「……答えの出ないジレンマだ。俺にもどうしていいのか、正直わからない」
「だよな。蓮のことだって、優衣ちゃんもついこの間知ったばかりだし……」
海之は初めて聞く名前についてわずかに戸惑い、真司に問う。
「ちょっと待て。優衣、とは誰だ」
「ああ、悪い。優衣ちゃんは俺と蓮の仲間で、
俺がライダーになった頃は二人でミラーモンスター狩りしてたんだ。
その娘はライダーじゃないんだけど、
ミラーワールドの様子を見ることができて……!?」
ハッ!とその時真司は妙な違和感を覚えた。
最後に現実世界に戻った時、何かおかしなことはなかったか。
頭をボリボリ掻きながら必死に思いだろうとする。
「どうした。その人に何かヒントでも?」
「いや……ヒント、つーか納得行かないような何というか……あ!」
“優衣……それでも俺はお前を救う”
“救うって、何から?答えて!401号室で何があったの!?”
“知らなくていい。何も心配しなくていい”
“お兄ちゃん、お兄ちゃん!”
「他にも、誰かを救いたい人がいる……」
「誰だ、そいつは!」
ソファで真司と向かい合っていた海之は思わず身を乗り出す。
「神崎……」
真司は神崎と優衣のやり取りを説明した。
「兄、と呼んだということは妹ということになるが、神崎士郎に妹がいたのか?
しかし、何から彼女を救うと言うんだ。彼女も何か病を患っているのか?」
「そんな様子は全然……あ、いや、その時何か変なことがあった!」
“……え、なにこれ、いや、いや!”
「ドア越しで見えなかったけど、
今思うと、優衣ちゃん、何か変な現象に巻き込まれてたんだと思う」
「しかし、そうなると、
何故ライダーでもない神崎がこのバトルを仕組んだのか気になるところだ。
彼は勝者に “力”を与えられるのだろう。迷わず妹のために使うのが普通だと思うが」
「わっかんねえ!大体401号室も意味不明なままだし、
ライダーバトルと関係あんのかよ!」
「401号室?初めて聞くが」
「ごめん、これも言ってなかった。
神崎が401号室ってとこで何かの実験してたらしいんだよ。
その時の事故で蓮の恋人が意識不明になったって聞いた」
「“実験”ということはおそらく大学だろう。
城戸……お前は一度現実世界に戻ったほうがいい。
神崎に妹がいたことも初耳だし、妹の身に何が起こっているのか、
401号室で何が起こったのか。そこに謎を解く鍵があるのは間違いない」
「ああ、そうする!でも、俺だけじゃどうしようもないんだけど、蓮は連れて行けない。
きっと恵理さんのこと嗅ぎ回られるの嫌がるはずだし……
そうだ、編集長に相談するよ!俺、ネットニュースの編集部で見習いやってるんだけど、
みんな頼りになる人ばっかりだから!」
「それがいい。留守は任せろ、お前が戻るまで俺はここに留まる。
もう同じ失態は繰り返さない」
「真司さん……無理はなさらないでくださいね」
湯呑みを下げながら、三日月が心配そうにぽつりとつぶやく。
「心配しないで!戦いに行くわけじゃないから。どうすればみんなを助けられるか、
その手がかりを探しに行く。それまでここを頼めるかな」
「……はい、任せてください!」
今度は力強く返事をした三日月。
わからないことばかりだが、彼女なりに真司を支える決意を固めたようだ。
「じゃあ、行ってくる。手塚、三日月ちゃん、しばらくの間、ここ、頼むね」
「行ってらっしゃい、真司さん。お帰りを、待ってます」
「可能性を掴んでくるんだ。……頼んだぞ」
見送る二人に笑顔で応え、真司は01ゲートに飛び込んだ。
──北岡鎮守府
「……まぁ、そんなことがあったのよ。
結局、膨大なデータの海から戻ってきて下さった方々のお陰でなんとかなったけど」
北岡が不在の間に起きた、高見沢の侵略行為について報告する飛鷹。
吾郎はテーブルのそばで黙って下を向いていた。
「そうか……いくら外泊すると伝えていたとは言え、こればかりは弁解の余地もないよ」
「まぁ、ただのイレギュラーなら怒鳴り散らしてたところなんだけどね。
また戦車やミサイルを積んだ軍隊が攻めてくるなんて私も想像してなかったから、
提督方の行き先まで確認してなかった私にも責任があるわ」
「今後は他の連中の言うとおり、現実世界に戻る時は……ゴホゴホッ!」
北岡は咳を手で受け止めた。そして手のひらを見る。血だった。
「どうかした?」
飛鷹に見られる前に血を握り込んで話を続ける。
「いや、なんでもない。……本当に俺としたことが。スーパー弁護士の名が廃る。
とにかく、これからは他のライダーの動きについて長門と情報交換しといてよ」
「わかったわ。……それじゃあ私、司令代理に書類を届けてくるから」
飛鷹は大きな封筒に入った書類を持って退室して行った。同時に吾郎が口を開く。
「先生、もうお体が。……やっぱり急いだほうが!!」
「だ~いじょうぶだって、吾郎ちゃん!まだ余裕はある。
自分の体の事は自分が一番良く知ってるからさ」
身を案じる吾郎に明るく答える北岡。その時。
「これ以上は保たないということを、か?」
反響する金属音と共に神崎が北岡のそばに現れた。すかさず拳法の構えを取る吾郎。
北岡は彼を手で押しとどめる。
「いいからいいから、どうせ“戦え”くらいしか言わない奴がまた来ただけじゃん。
それで?今日は何の用」
「ずいぶんと手が汚れているようだが。
医者に言われた期限はあとどれくらいだ?半年か、3か月か、それとも……」
神崎はデスクの周りを遅い歩調でうろつきながら語る。
「へぇ、驚いたよ。たまには代わり映えのあることも喋るんだ」
北岡の皮肉を無視して神崎は続ける。
「お前達が勝手に“脱落”とみなしているライダーはまだ生きている。
殺さなければ勝利とは認められない。そしてモタモタしているうちにお前は死ぬ。
奴らの為に死んでやるつもりか。お前がいつ博愛主義に目覚めたのかは知らんが」
「そんな馬鹿馬鹿しいもん持ってるのは城戸君くらいだよ。
俺はやりたい時にやりたいことをやる、それだけだ。放っといてくれないかなぁ。
今はライダーバトルより、南方海域の世話に忙しいんだ。
心配しなくてもバトルを止めるつもりはないから
俺の予定に口出ししないで欲しいんだけど」
「ならいい。戦わなければライダーである意味はない。
戦いをやめたライダーは死ぬだけだ」
そう言い残すと、神崎の姿は陽の光に同化して消えていった。
「先生……」
「何心配してんのよ吾郎ちゃん。
さっきも言ったでしょ、俺の体は自分がよく知ってるから。
それじゃあ、元気が出るよう久しぶりにスモークサーモンのキッシュ作ってよ。
飛鷹がまた目を丸くするのも見たいしさ」
「……わかりました」
吾郎はもう何も言わなかった。
北岡が覚悟を決めているなら、自分はそれを支えるだけだ。
──TEA 花鶏
「うわっと!」
花鶏の空室にある蓮のノートパソコンから飛び出した真司は、
一瞬バランスを崩しそうになったが、なんとか体勢を立て直して転ばずに済んだ。
「ええと、まず優衣ちゃんに会って、それから編集部に……」
キャアアア!!
行動方針を整理しようとした瞬間、隣の部屋から悲鳴が聞こえてきた。
慌てて部屋から飛び出し、隣室のドアを開けると、信じがたい光景を目にした。
「真司君、助けて……」
優衣の全身が粒子化して蒸発しているのだ。
真司は彼女に駆け寄るが、どうしていいのかわからない。
「優衣ちゃん!?落ち着いて!とにかく座って深呼吸して!」
優衣の背中をなでながらベッドに座らせる。
効果があるかはともかく、落ち着かせることを優先した。
「優衣!優衣!!」
その時、背後から急ぐ足音が近づいてきて、何者かが部屋に駆け込んできた。
その正体に驚く真司。神崎だった。
彼は真司を無視して優衣の元で膝を付き、彼女の手をさすった。
「お兄ちゃん……私、一体どうなってるの……?」
「心配するな、絶対助ける!もう少しの辛抱だ、お前は必ず俺が守る!」
感情が死に絶えたような普段の姿からは想像もつかないような、
切羽詰まった様子で必死に優衣を励まし、手をさすり続ける。
すると、やがて徐々に彼女の粒子化は治まっていった。
しかし、優衣はまだ混乱している。
「お兄ちゃん、なんで私がこうなるのかはいいよ。
でも、お兄ちゃんがやろうとしてることと関係あるんでしょ?
何かは知らないけど、私のためにみんなを戦わせてるならもうやめて!」
「全てが解決したら話す!だから消えないでくれ、俺を一人にしないでくれ……」
「お兄ちゃん……」
困惑する優衣と、すがりつくように優衣の両手を握る神崎。
事情が飲み込めない真司が尋ねる。
「消えるってどういうことだよ!
何か知ってるなら今言えよ、それこそ手遅れになったらどうするんだよ!」
神崎は鋭い目で真司を睨む。
「何もかも、全て、お前のせいだ!」
「……ライダーバトルを止めようとしてることか」
「お前は、優衣を助けたいのか」
真司の疑問には答えず、質問を返す神崎。
「当たり前だろ!そのためにこっちに戻ってきたんだ!
それより知ってることがあるならちゃんと優衣ちゃんに答えてやれよ!」
「黙れ……優衣を助けたいなら、向こうに戻れ。お前に出来ることはそれだけだ!」
「ちょ、待て!おい!」
神崎は窓ガラスのそばに立ち、ミラーワールドへ消えてしまった。
「くそっ、どうして妹にきちんと向き合えないんだよ!!」
「真司君……」
「優衣ちゃん、前に俺達が帰ってきた時も、こんなことがあったの?」
優衣は何も言わずにうなずく。
「待ってて!
俺一人じゃ何もできないけど、編集長やみんなと協力して手がかり探してくるから!」
「もういいよ……私のせいで、真司君や蓮が傷つくくらいなら、もういい……」
「諦めんなよ!俺は絶対諦めたくない。蓮の恋人や北岡さん、もちろん優衣ちゃんも!
みんなが助かる方法が絶対あるはずなんだよ!」
しばし強い視線で優衣を見つめる真司。
彼の眼差しを見た優衣は、テーブルの引き出しから1枚の写真を取り出した。
「……これ、401号室の資料と一緒に入ってたの。何かの手がかりになるかも。
どこにあるのかはわからないけど」
「ありがとう、優衣ちゃん。必ず情報つかんでくるから!一人で大丈夫?」
「うん。もうすぐおばさんも帰ってくるし」
「わかった。それじゃあ、俺、行ってくるから」
真司は階段を下り、玄関を出ると、
すっかり雨風で汚れたズーマーにまたがりOREジャーナル編集部を目指した。
──OREジャーナル編集部
「うおおお……さびぃ……」
編集部オフィスで大久保は寒さに震えていた。
厚手の半纏、ひざ掛け、モコモコのスリッパ、マフラーという重装備に
身を包んでいるが、冷え切った窓やコンクリートが放つ冷気に
耐えかねているようだった。
「はぁ……そんなに寒いなら暖房着けたらどうですか?私も寒いんですけど」
キーボードを叩いていた令子も呆れて手を止める。
「ああ、駄目だ駄目だ。冷暖房費馬鹿にならねえんだよ、ここ。
ただでさえこのビル共益費高けえのによ。
ついでにうちの財政状況もお寒いってこと知ってるだろう。ああ~手がかじかむ……」
「そんなにまずいんですか?うち」
「良くはない、とだけ言っておく」
「転職サイトブックマークしといたほうがいいかもしれませんねぇ、ウヒヒ」
「やめてくれよおい、令子が本当に大手行っちまったら
潰れるしかなくなるんだぞ、島田!」
「いえ、二人共、です」
「だから縁起悪いこと言うなっての!」
3人が他愛のない話をしていると、
いきなりバタン!ドアが開き、真司が飛び込んできた。
「城戸君!?変な病気治ったの?」
令子が驚き、
「お帰りなさ~い。
よかった、もうちょっとでHPの社員紹介から城戸君消すとこだったから」
島田がマイペースに出迎え、大久保が、“何しに来た馬鹿”、と口だけ動かして聞く。
「ええと、あの、皆さんご迷惑おかけして……ます。
今日はですね、あの、病院の先生に復帰に向けて
短時間勤務で体を慣らしてこいって言われちゃって、ハハ」
頭をかきながら慣れない嘘をつく真司。
「それなら事前に「おお真司!大分よくなったって聞いてるぞ!その後どうだ」」
令子の文句を遮って大久保が近づいてきた。
そしてオフィスの外に強引に連れ出し、小声で問い詰める。
「おい、どういうつもりだ!帰ってくるならくるで連絡くらい……」
「すみません、本当すみません!今日は例の件でご相談したいことがあって」
「……例の件って、やっぱり“艦これ”絡みのことか」
「はい!俺一人じゃどうにもならないんで、編集長や皆さんの力を借りたいんです!」
いつになく真剣な表情。以前残業して反省文を書かされていた時と同じ。
大久保は何度か頷くと、
「……わかった、令子に相談してみろ。この件に関して一番詳しいのは令子だ。
口裏合わせてやっから、お前がボロ出すんじゃねえぞ」
「わかってますよ!……ありがとうございます」
そして、大久保は真司を連れてオフィスに戻り、令子と島田に説明した。
「悪りい悪りい、みんな今日がアレだってことすっかり忘れてた!
令子、真司が相談あるってよ。すまんが話聞いてやってくれ」
「アレ、ねぇ。はぁ……休養中の人が仕事でもしてたっていうの?」
訝しげに真司を見る令子。真司は令子のデスクに回り込んだ。
「そうなんですよぉ、これも治療の一貫で、
“ゲーム漬けになった脳をリセットするため、
病院のパソコンで少しずつでも仕事しろ!”って先生が」
「はいはい、それで?相談って一体なに」
真司は自分の知る限りの情報を令子に伝えた。
もちろんサイバーミラーワールドや優衣については伏せて。
初めは疑わしげに聞いていた令子だが、徐々にその表情が驚きのものに変わっていく。
「城戸君……どこで401号室のこと掴んだの?
社のサイトにもアップロードしてないのに」
「知ってるんですか!?その401号室ってとこ!」
「清明院大学401号室。
何年か前にそこで江島研究室ってところが何かの実験をしてて、
大きな事故を起こしたみたい。具体的な内容はわからない、……っていうより
みんなが忘れたがってるみたい。何も答えてくれなかったわ。
今は香川教授の実験室になってるんだけど、これもなんか胡散臭いのよね。
部屋中鏡だらけで」
鏡!?真司は衝撃を受けた。
間違いなく401号室は、神崎、そしてミラーワールドと関係がある。
ぼーっとしている真司に今度は令子が疑問をぶつける。
「はい、質問の続き!どうして城戸君が401号室の事知ってるの!?」
「それは……お、俺だって、取材の一つや二つできますよ!
知り合いがたまたま清明院大学出てて、それでー……そう!
なんか変な事件があったな~って思い出話してくれたんですよ。
そいつもやっぱり何があったかは教えてくんなかったんですけどね」
「ふ~ん……まあいいわ。
とりあえずあんたの超長期休暇も無駄じゃなかったってことね。あとなんか質問ある?」
「あ、そうだ!」
真司はゴソゴソとカバンを漁り、1枚の写真を令子に手渡した。
一件の洋館が写った謎の写真。
「これ、なんか関係ありそうなんですけど、どこにあるかわかりませんか?」
「何これ」
「さっき言った知り合いがそれだけくれたんですよ。
意味はないかもしれないけど、意味があるかもって」
「どっち!?……ってもういいわ、
とりあえずどんな取っ掛かりでも欲しいのは事実だし、調べといてあげる」
「ありがとうございます!」
真司は腰を折って深くお辞儀をした。
「じゃあ、401号室について知ってるなら、こっちからもいい?」
「う~ん、ええと、俺にわかることなら……」
「シャキッとしてよ。あんた、ここに写ってる人に見覚えない?」
令子は拘置所の監視カメラの映像をプリントアウトした紙を真司に見せた。
思わずその言葉が漏れてしまう。
「神崎……」
「!? 知ってるの?知ってるのよね?どうして?
一度も城戸君に神崎士郎のことなんて話してないのに!」
「え、いや、それは、その……あ痛たた!ゲームの禁断症状が!
艦これがしたいよー!三日月ちゃんに会いたーい!」
頭を抱えて明らかに芝居とわかる芝居で強引に誤魔化そうとする真司。
令子はため息をつく。真司はこう見えて意外と強情なところがあるから、
本当に話したくないことは話さないだろう。
もう少し物証を固めてから改めて問い詰めることにした。
「……はいはい、それじゃあ、私ちょっと休憩してくるから、
城戸君は失踪者リストに目を通して。
もう世間は見向きもしなくなったけど、被害者は増える一方だから」
「わかりました!全力で見ます!」
「こっそり艦これしたらただじゃおかないからね」
そして、令子は席を離れるために、一旦モニターの電源を切る。
何も映さなくなった画面に令子の顔が反射した。
だがその時、彼女の脳で何かが繋がった。
“ええ。隠れるような場所もないところで、まるで完全に消滅するように”
“ええと、俺がいなくなった時、昼休みのことでした。
艦これにアクセスすると……
そう、このロード画面がぐにゃぐにゃってなって……“
“その後失踪事件が発生するようになったのですが、
そこには“鏡”かそれに変わるような物が関わっている可能性が高いんです”
消えた強盗。鏡かそれに代わるもの。そして……パソコンゲーム・艦隊これくしょん。
彼女の中で突拍子もない仮説が生まれる。でも、どうやって“その中”に?わからない。
今は城戸君が持ってきた写真について調べるしかなさそう。
「どうしたんですか、令子さん」
「ううん、なんでもないの。
さて、ケチな誰かさんのせいで冷えた体を缶コーヒーで温めてくるわ」
「ひでえ言い草だな、おい……。
真司、無理しない範囲で令子に言われたことやっとけよ。
リストはいつもの共有フォルダーだ」
寂しげにつぶやく大久保。
「わかりました!……っしゃあ、久しぶりの仕事だ」
真司は久々に自分のパソコンを立ち上げ、仕事に取り掛かった。
そしていつものファイルを開き、ずらずらと並ぶ失踪者の一覧に目を通す。
……うん、やっぱり前よりずっと増えてる。
誰も犯人がミラーワールドから来てるなんて気づけないよな。
マウスホイールを回しながら真司は考える。
そもそも、ミラーワールドが開いたなら、閉じる方法だってあるはずだよな。
当たり前だけど、開く前には閉じてたんだから。
神崎はどうやって……う~ん、わかんねえ!
そして、答えの出ない問いに考えを巡らしながらリストを眺めていると、
いつの間にか定時になった。皆、いそいそと帰り支度を始める。
「皆さん、お疲れ様でした!
また明日から入院しますんで、今度来る時はちゃんと連絡します!」
「おう、お疲れー」
「お疲れ様です!」
真司が退室する大久保を見送る。
「とりあえずあの写真に写ってる屋敷は、不動産屋とかに当たっとくから、
あんたは医者の言うことよく聞いて、治療に専念すること。いいわね?」
「はい!よろしくお願いします!」
さっき仮病を使った事をもう忘れて元気よく返事をする真司。
「城戸君……タイムトラベルに興味ある……?」
「えっ!?」
いきなり艦これの根幹に関わる事柄について問われ、返事に詰まる。
「私はまだ諦めてないから……サヨナラ……」
しかし、島田は返事も聞かずに帰っていった。……びっくりした~。
そして、真司もカバンを持ってオフィスを出た。
背後からオートロックの掛かる音がする。
家路についた真司はズーマーを飛ばし、花鶏に戻った。
玄関を開けると、優衣が夕食の支度をして待っていた。
「お帰りなさい」
「ただいま。今日、編集部の人に知ってること話したよ。
もちろん優衣ちゃんの事とかは内緒だけど。
それとあの写真、どこの屋敷か調べてくれるって」
「そう……ありがとう」
昼間の現象から幾分か立ち直ったようで、微かに笑みを浮かべる優衣。
「やっぱり清明院大学401号室のことは先輩もつかんでた。
神崎が在籍してた時に、何か大きな事故を起こしたって」
「それは私も仲村さんから聞いた。お兄ちゃん、一体何しちゃったんだろう……」
「流石にそこまではわかんなかったみたい。
今は香川って人の研究室になってるみたいだけど、そこには沢山の鏡があったらしいよ」
「鏡ってそれじゃあ……」
「うん。香川って人は無関係だって言ってたらしいけど、俺にはそうは思えない。
でも……」
「でも?」
「調査したいけど、神崎が言ってたじゃん。
“俺にできるのは向こうに戻ることだけ”って。
もしかしたら艦これで何か起こってるのかもしんない。
あんまり編集部のみんなに動き回ってるのがバレてもまずいから、
とにかく一度向こうに戻るよ」
「気をつけてね……」
「大丈夫。今、向こうは平和だし、変なやつが来ても蓮や手塚がいるから」
真司は、その日は優衣の作った夕食で腹を満たし、2階のベッドで夜を明かした。
翌朝。真司は蓮のパソコンで再びDMM.comにアクセスした。
「それじゃあ、行ってくる」
「蓮にもよろしくね」
「わかった!」
そして、艦これのページに飛び、ログインする。
真司の体が霧状になり、モニターに吸い込まれていった。
初めてその現象を目にする優衣は驚きを隠せない。
「……やっぱり、本当だったんだ」
──城戸鎮守府
「よっと!」
慣れた様子で執務室に降り立った真司。周りを見回してみる。
えーと、三日月ちゃんはいないか。と、思ったのも束の間。
慌てて階段を駆け上がる足音が聞こえ、ノックもなしに三日月が飛び込んできた。
「真司さん!大変です!!」
「三日月ちゃん、どうしたの?」
必死に息を整えながら三日月が答える。
「海岸に、奴が現れたんです!真司さんを出さないと、鎮守府を灰にすると!」
「奴って誰!?」
「とにかく来てください!時間がないんです!」
「わ、わかった!案内して!」
真司はわけも分からず三日月と共に駆け出した。
──海岸
そして信じがたいものを見る。
忘れもしない、かつて圧倒的な力で王蛇に指一本触れさせず、
長門の41cm砲を無傷で受け止めた、
オーディンが両腕を上下に乗せ、直立不動の姿勢でそこに立っていた。ただ立っている。
それだけで彼から放たれる闘気に気圧されそうになる真司。
オーディンを見据えたまま、真司は後ろに隠れている三日月に話す。
「三日月ちゃん……。長門に連絡してみんなを避難させて。絶対海岸に近づくなって」
「わかりました!」
三日月が作戦司令室に向かって走っていく。真司はゆっくりとオーディンに近づく。
先に言葉を発したのはオーディンだった。
「待ちわびたぞ……」
「お前、何のつもりだよ!
ライダーが最後の一人になるまで戦わないんじゃなかったのか!?」
「神崎の命だ。ライダーバトルを著しく阻害する存在を、排除する」
「くそ、“俺にできること”って、そういうことかよ……。
お前が誰かは知らないけど、みんなを傷つけさせたりしない!」
真司はカードデッキから1枚ドローし、海面にデッキをかざす。
腰に変身ベルトが現れると、そのままバックルにデッキを装填。
「変身!!」
通常フォームをスキップし、いきなり龍騎サバイブに変身した。
周囲が燃え盛る炎で包まれる。だが、オーディンは全く意に介することなく、
異次元から錫杖をつかみ取り、カードを1枚ドロー。錫杖のスロットに装填した。
『SWORD VENT』
オーディンの手に黄金の剣、ゴルトセイバーが現れた。
邪魔な左手の錫杖を放り投げると、次元のはざまに消えていく。
それを見た龍騎もカードをドロー。ドラグバイザーツバイに装填した。
『SWORD VENT』
バイザーに収納されていた刃が展開。
龍騎は銃型のバイザーを一振りの剣、ドラグブレードに変え、
両手持ちにしてオーディンに斬りかかった。
「うおおお!!」
「フン……」
だが、オーディンは右手のゴルトセイバーでドラグブレードを受け止めた。
鋭い金属音が鳴り響く。両腕に全力を込め、オーディンの剣を振り払おうとする龍騎。
しかし、常軌を逸した力に、敵の刃は全く動く気配がない。
龍騎が動けないでいると、オーディンがもう飽きたと言わんばかりに、
右腕の力だけでドラグブレードを弾き返し、龍騎の胴に一太刀浴びせた。
圧倒的な力と切れ味で放たれた一閃に、龍騎は思い切り後ろに吹き飛ばされる。
「げほっ、げほっ……!」
胴に受けた衝撃で上手く息ができない。
オーディンが一歩一歩踏みしめるように近づいてくる。
龍騎はドラグブレードを収納し、立ち上がりながらドラグバイザーツバイで
オーディンを何度も撃つ。しかし、その強固なアーマーに傷一つ付けることができない。
「その程度か」
オーディンは再び左手に錫杖を呼び出し、カードをドロー、スロットに装填した。
『GUARD VENT』
錫杖を異次元に還すと、オーディンの左手に、
あらゆる攻撃を跳ね返すゴルトシールドが現れた。
どうしても後手に回る戦いを強いられる龍騎もカードをドロー、装填。
『SHOOT VENT』
龍騎のそばに契約モンスター・ドラグランザーが現れ、体内で炎を圧縮。
そして龍騎もドラグバイザーツバイでオーディンに狙いを付ける。
そして、トリガーを引いた瞬間、龍騎のレーザーが発射され、
同時にドラグランザーが数千度に及ぶ火球を吐き出した。
全てを貫くレーザーと全てを焼き尽くす炎が同時に命中。
オーディンに大ダメージを与えたかと思われた。
「やったか!」
しかし、爆炎が晴れたとき、龍騎が見たものは、ゴルトシールドで身を守り、
アーマーに煤の一つも付いてないオーディンの姿だった。打ちのめされる龍騎。
「嘘だろ……」
「哀れだ。SURVIVEを手にしながらその程度とは……ふん!」
次の瞬間、オーディンは龍騎の前に瞬間移動し、ゴルトシールドを頭に叩きつけた。
本来武器ではない装備に油断していた龍騎は頭部に受けた打撃に目がくらむ。
「ああっ……うう」
オーディンは、それからもゴルトシールドを用いて下段からの打ち上げ、
右からの叩きつけ、前方からの突き。龍騎に反撃を許さず
猛烈な勢いで連続攻撃を叩き込んでいった。
地面に放り出された龍騎に、全身がバラバラになるかと思うほどの痛みが走る。
再びオーディンが口を開いた。
「最後のチャンスだ。お前が匿っているライダーを倒せ。ライダーバトルに復帰しろ。
それが、お前が生き残る唯一の方法だ」
「ごほっ……須藤を、殺せっていうのかよ……ふざけんな!
俺が生き残るのは、全員が生き延びる道を見つけた時だけだ!!」
龍騎は必殺のカードをドロー、ドラグバイザーツバイに装填した。
『FINAL VENT』
「……愚かな」
そしてオーディンも錫杖を呼び出し、カードをドロー。ゴルトバイザーに装填。
『FINAL VENT』
ドラグランザーが大空に舞い上がり、体から鏡の欠片が吹き飛ぶ。
龍騎は痛む体に鞭打って力の限りジャンプし、ドラグランザーの背に飛び乗る。
ドラグランザーの胴体と尾から車輪が現れ、尾を折りたたむと、
そのまま巨大なバイクに変形して着地した。
「行くぞ!!」
そして、オーディンも契約モンスター・ゴルトフェニックスを召喚。
背後に
そのままオーディンも姿勢を崩さずゴルトフェニックスのそばまで浮遊。
「終わりだ!」
オーディンがバッ!と翼のように両腕を広げると同時に、
ゴルトフェニックスと一体化して龍騎目がけて体ごと落下。
一方、龍騎も最速ギアでオーディンに突撃。
ドラグランザーが何度もオーディンに火球を叩きつけながら体当りした。
両者のファイナルベントが激突したその時、
広く長い海岸を全てえぐり取るほどの大爆発が発生。
爆風で遠く離れた本館の窓ガラスにひびが入った。その結末は──
龍騎は変身が解け、熱く焼かれた海岸に放り出された真司は気を失っていた。
そして、最強のファイナルベント「エターナルカオス」を放った
オーディンを祝福するが如く、天から光が降り注ぐ。
「フフフ……ハハハハ!!」
神々しい光の中で、オーディンは立ち上がらなくなった真司を見ると、
再び“SWORD VENT”でゴルトセイバーを召喚。真司にとどめを刺そうと剣を構える。
「終わりだな」
命の尽きかけた真司の喉を切り裂こうとしたその時、オーディンの体に異変が起きる。
体が砂のようにサラサラと粒子化し、消えていく。
オーディンは消え行く両手を見て混乱に陥る。
「何故だ!何故この私が!?……おのれ!!」
オーディンは慌てて海の水面に移動し、別のミラーワールドへ消えていった。
「真司さん!!」
その時、海岸での爆発を見た三日月と救護班が駆けつけてきた。
「三日月ちゃん、まだ凄い熱よ!危ないわ!」
三日月は救護員の静止も聞かず、灼熱の砂が足を焼く砂浜に倒れる真司の元へ走る。
そして、真司の体を起こすと必死に呼びかけた。
「真司さん、真司さん!お願い、目を覚まして!!」
しかし、三日月の必死の呼びかけにも、真司が目覚めることはなかった。