【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】 作:焼き鳥タレ派
また、筆者は特別海域をクリアしたことがない、というより全然歯が立たないので
実際のゲームと矛盾している点が多々ございますが、何卒広い心でお許し下さい。
重巡足柄は不機嫌だった。
海図を持って2階へズンズンと階段を上がる足音も大きくなるというもの。
というのも、また例の海域が解放されたからだ。
あの男が興味を示すのか無視するのか、どちらにしてもろくな結果にならない。
執務室のドアを、ドンドンドン!と、いささか乱暴にノックしてしまった自分に
気がついたが、どうせ彼は気にするような性格じゃない。
私は、面倒事しか起こさない、この男が嫌いだ。
「失礼します……」
案の定、浅倉は返事もせず、床に座り込んで2枚のカードを眺めていた。
「……足りねえ」
意味の分からないことを言っているが、もういい、さっさと仕事を終わらせよう。
「提督、特別海域が解放されました。“北太平洋戦域”。
作戦難度は星15となっております。出撃なさるかどうかは提督のご自由ですが」
足柄は血に染まったような赤い海図を広げて必要最低限の説明をする。
聞いているのだろうか。やはり浅倉はデッキを手で弄びながらぼんやりとしているので
考えが読めない。ああ、私までイライラする!
「とにかく、そういうことですので、私は……」
「……待て」
仕事は済んだとばかりに退室しようとした足柄を、意外にも浅倉が引き止めた。
「なんでしょう。私も忙しいので手短にお願いしたいのですが」
「こいつは、何が“特別”なんだ」
「……深海棲艦の活動が活発になる時期に航行可能になる領域です。
普段はハリケーンが吹き荒れて立ち入れないのですが、
深海棲艦が制海権を広げようとする時に限り、
彼女達が猛烈な対空砲火で目を吹き飛ばすので、今回のように
侵入するチャンスとなります。特別海域の最奥に潜む深海棲艦の親玉、
“姫”クラスを倒すことができれば、その海域を取り戻すことができるのですが……
ろくに艦娘育成もしていない提督には関係のない話でしたね」
若干嫌味な言い方になってしまったが、足柄は無理矢理気にしないようにして
海図をしまい、今度こそ立ち去ろうとした。しかし。
「海図は、置いてけ」
「はい?まさか特別海域を攻略なさるおつもりですか?
……コホン、お言葉ですが、特別海域の攻略は熾烈を極めます。
提督が“手塩にかけて”育てた艦隊でも全員轟沈は必至かと。
秘書艦として言わせて頂きますが、艦娘は貴方の鉄砲玉ではありません。
命の無駄遣いはやめていただきたく存じます」
足柄は手厳しい言葉を返す。だが、浅倉の答えは意外なものだった。
「俺が行く。こいつらは俺の獲物だ」
やっと立ち上がって海図の全体図を眺める浅倉。思わず失笑がこぼれる足柄。
「ふっ!あら失礼。申し上げにくいのですが、貴方の力では1マス進むのが限界かと。
提督がライダーであることは存じていますが、陸海空から襲いかかる深海棲艦を
たった一人で駆逐するというのは少々無理がありませんか?
パソコンの前の提督方もまだ誰一人攻略に成功していないというのに」
「だったら聞くが、こいつら放っといたらどうなる」
「それは……」
もはや遠慮なく皮肉をぶつけていた足柄が口ごもる。
しばらく逡巡した後に、やがて決心したように浅倉に告げた。
「……深海棲艦が更に支配海域を広げ、
いずれは人類から水の一滴すらも奪い尽くすことになるでしょう」
「お前は俺に水を飲むなって言いたいのか。いいから置いてけ」
「わかりました、もう勝手になさってください!」
「まだある。……猶予は」
「……どういうことですか?」
「水がなくなるまでの猶予だ!」
「この作戦の成功者が現れなければ、河川を登った深海棲艦が水源を乗っ取り、
我々は完全に水を失うでしょうね。特に艦娘の建造には大量の水が必要ですから……。
それでは」
足柄は広げたままの海図を置いて浅倉に背を向けた、しかし。
「待て」
「何ですか、今度は!」
「運転手だ。クルーザー動かせ」
「はいはい、やればいいんでしょう。提督命令ですからね!!」
とうとう大声が出てしまう。
しかし浅倉は血染めの海図を見ながら不気味な笑みを浮かべるだけで何も言わなかった。
──城戸鎮守府
「真司さん……」
医務室で三日月は、体中にガーゼや包帯を巻かれた真司の手を握る。
先日のオーディンとの戦いで重傷を負った真司はまだ意識が回復していなかった。
握った手をそっと頬に当てる。
「早く、元気になってください。お願い……」
ドゴォン!
だが、そんな健気に真司をいたわる三日月と真司だけの時間は、乱暴な音に奪われる。
“どこだァ!3つ目は!”
“普通に入るって言ったじゃないですか!
どうして人としてのマナーが守れないんですか!?”
「あの声……足柄さんと、浅倉提督!」
三日月はゆっくりとベッドに真司の手を置くと、声のする方へ駆けていった。
二人は2階へ上がったようだ。用があるとするなら執務室。
三日月が階段を登ると、やはり執務室のドアが開きっぱなしになっていた。
中に飛び込むと、浅倉が執務室を荒らしている。
足柄が止めようとするが、巧みに身をかわして、目に付いた引き出しを開けてまわり、
本棚を倒してまで何かを探している。思わずカッとなった三日月が大声を上げる。
「何してるんですか、浅倉提督!」
「三日月ちゃんごめんね!?すぐ連れて帰るから……」
「どこだ!どこにある!!」
「浅倉提督、やめてください!何を探してるんですか!」
三日月が浅倉を止めようと腕につかまるが、
浅倉は彼女をぶら下げたまま探しものを続ける。
「デッキだ!蟹野郎のデッキぶんどるの忘れてたんだよ!
あいつが持ってったとしか思えねえ!」
「だからって真司さんが怪我で動けないのをいいことに泥棒しにきたんですか!?
この卑怯者!」
すると、浅倉の動きがピタッと止まり、三日月をじっと見た。
何をするかわからない戦闘狂と目が合い、少し怯える三日月。足柄が浅倉の肩をつかむ。
「提督、その娘に手を出したら……!!」
「確かに卑怯だ」
「えっ……?」
「ちゃんと須藤を殺してないのに、デッキをもらうのはおかしい。どこにいる」
浅倉はポケットからスイッチブレードを取り出して三日月に問う。
……もうこいつには何を言っても無駄だ。三日月はデスクの一番下の引き出しを開け、
シザースのデッキを取り出した。
「ほら、これが欲しいんでしょう!
その代わり真司さんにも須藤提督にも指一本触れるな!」
三日月は浅倉に思い切りデッキを投げつけた。
浅倉は片手でキャッチし、満足げに眺める。そしてそのまま執務室から出ていった。
そんな浅倉に背後から思いつく限りの罵声を浴びせる三日月。
「お前なんか消えちゃえ!深海棲艦に食われちゃえばいいんだ!二度と来るな!」
「ごめんね!三日月ちゃん、ごめんね!大事な人が大変な時に……」
足柄は三日月を抱きしめて謝り続けた。
本館から出て桟橋に向かう。浅倉はクルーザーのそばで退屈そうに待っていた。
足柄は彼に近づくと、何も言わずに頬を張った。
「……こんな真似二度としないで」
浅倉は吐息で笑うと、
「本当面白い女だな。お前、こいつで変身してみるか?」
シザースのデッキを見せる。
「ご勘弁願います。貴方なんかと一緒になりたくありませんから。
……さぁ、次は一体何がお望み!?どうせ拒否権なんかないんだからさっさと言って!
きっとろくでもないことなんでしょうけど!」
「いっぺんデッキの所有権を移さにゃならん。
俺の鎮守府に戻ってから特別海域とやらへ行け」
「はいはい、わかりました!泣いて帰って来たら指差して笑ってあげます!」
──秋山鎮守府
「本当にこのメンバーで行く気なの?特別海域は貴方が想像している以上に手強い」
加賀が変身済みのナイトに尋ねる。
クルーザーの乗り込んだのは、加賀、ナイト、吹雪の3人。
「とりあえず様子を見るだけだ。その上で改めて本格的な突入部隊を編成する。
これ以上深海棲艦の進軍を許せば、水源まで制圧されると聞いた。
艦娘でも水は飲むんだろう」
「確かに艦娘にも水は必要。でも、はっきり言うわ、それでもこれは自殺行為。
まだ赤城さんが健在だった頃、一度だけ特別海域攻略作戦に参加した」
「結果は」
「どうにか死者が出ないように敵の猛攻から互いをかばい合って、
攻撃の止み間に撤退するのがやっとだった」
「ええ~っ!今からそんなとこに行くんですか?」
特別海域は初めての吹雪が怖気づく。
「安心しろ。お前も演習を重ねて改になったんだろう。
いざとなったら“GUARD VENT”もある。今回はあくまで偵察だ。
事の重大さに気づけば、他のライダーも腰を上げるだろう」
「そうだと、いいんだけど……」
加賀は不安げな表情で舵を握った。
──特別海域 北太平洋戦域
「着いたわ。ここからは水上移動。……提督、覚悟はいい?」
「ああ」
「ままま、待ってください!私はまだちょっと~!」
「よし、前進するぞ」
「ええ」
「無視しないでくださいよー!」
うろたえる吹雪をよそに加賀とナイトは水上を滑り出した。
遅れて吹雪も追いかけてくる。
進むに連れて間もなく青空が曇天に変わり、雷鳴が轟き出した。
「来るわ!……」
敵艦隊の気配を感じ取った加賀が告げる。
ナイトも“SWORD VENT”でウィングランサーを装備し、吹雪も12.7cm連装砲を構えた。
徐々に大きくなる敵影。ますます速度を上げる3人。そして遂に接敵。
「提督、陣形を!」
「単縦陣だ!」
「えーい!もうこうなったら撃つだけです!砲雷撃戦、行きます!」
戦闘開始。フラグシップ空母2隻、重巡、軽巡、駆逐2隻が彼らを待ち構えていた。
まずは開幕の航空戦。
「羽撃いて……」
加賀が敵航空機を迎撃せんと空に矢を放ち、
パイロットの熟練度を限界まで高めた烈風を発艦させる。
しかし、敵空母がそれを遥かに上回る数の航空機を展開。
空を埋め尽くすほどの強力な戦闘機、攻撃機で加賀の烈風を殲滅し、
大量の魚雷を投下してきた。瞬時に危機を察知したナイトが指示を出す。
「加賀、回避だ!吹雪は俺の後ろに下がれ!!」
猛スピードで幾条もの航跡が3人に迫る。
すかさずナイトは“GUARD VENT”をドロー、ダークバイザーに装填した。
『GUARD VENT』
ダークウィングを召喚、硬質化させ、まだ耐久力の低い吹雪をかばうナイト。
しかし足元で炸裂する無数の魚雷に翼のバリアが破壊され、直撃を食らう3人。
「きゃああ!!」「ぐわああっ!!」「痛ったーい!」
加賀大破、ナイト中ダメージ、吹雪小破。まともに交戦すらしていないのにこの有様。
ナイトは己の読みの甘さを痛感した。ここは普通じゃない。
わかっていたつもりでわかっていなかった。
「全員、今から回避に専念しろ!敵の攻撃が止んだら即時撤退だ!」
「こほっ、こほっ、……ええ、わかったわ」
「あの空母、怖すぎます……」
敵は空母だけではない。
本格的に敵の攻撃が始まると、ナイト達は再び空母からの雷撃、爆撃、
そして重巡、軽巡、駆逐2隻からの砲撃に晒された。
皆、懸命に海面を滑りながら弾道を読み、魚雷や砲弾を回避するが、
嵐のような弾幕に何度も被弾。ナイトが変身解除一歩手前。
加賀が爆撃を受け、お守り代わりに持たされた応急修理要員を発動。
吹雪も重巡の砲弾が直撃し、大破状態になった。
死を覚悟した一同だったが、敵艦隊が航空機の収容や砲弾の再装填を始め、
ナイトの目の前にホログラフのボタンが現れた。「進撃」「撤退」。
夜戦突入?とんでもない!
ナイトは倒れながらも限界まで腕を伸ばし、「撤退」ボタンに指を届けた。
──秋山鎮守府
「……二人共、すまなかった。俺の判断ミスだ。お前の警告を聞き入れるべきだった」
蓮は医務室のベッドで横になりながら加賀と吹雪に詫びた。
撤退選択後、鎮守府にワープした蓮たち。
二人は高速修復剤で瞬時に回復したが、人間の蓮はそうも行かなかった。
「気にしないで。どのみち今の事態は放置しておけなかったから。
あれの本当の危険性は実際見たものでなければわからない」
「そうですよ。今は司令官のお体の回復が最優先です!
ゆっくりお休みになってください」
「すまない……うっ!」
少し体をずらすと胸に痛みが走る。
救護班の診察によると、肋骨の何本かにひびが入っているらしい。
再び戦えるようになるにはしばらくかかるだろう。
「ほら、じっとしててください……」
「ああ、世話をかける。吹雪、他のライダーに今回の戦績を伝えてくれ。
誰でもいいからあの海域の深海棲艦を掃討しろと」
「わかりました、今すぐ!」
吹雪は急いで医務室から出ていった。彼女の後ろ姿を見届けた加賀が問う。
「……見込みはあるの?」
「はっきり言って望みは薄い。
どれだけ急いで艦娘の練度を上げたとしても、タイムリミットには間に合わないだろう。
俺と北岡、手塚と城戸で突入しても、最奥の親玉に会うまでに恐らく死ぬ。
浅倉は期待するだけ無駄だ」
「城戸提督は今、意識不明の重体よ。
オーディンというライダーとの戦いで深手を負ったって聞いてるわ」
「城戸が……。ますます難しい状況になった」
どうしようもない状況の中、医務室に重苦しい雰囲気が降りる。
──特別海域 北太平洋戦域 最奥部
小さな島々が点在するだけの会敵ポイントで、
深海棲艦達が彼女達にしかわからない言葉で語り合っていた。
赤い単眼を持つ白い化け物により掛かる、真っ白な肌と長い髪の女性型深海棲艦。
その赤い瞳から流れる黒い涙が、不気味で、そして哀しい雰囲気を漂わせる中枢棲姫が
口を開く。彼女こそがこの北太平洋戦域を支配する深海棲姫のトップである。
「……また、艦娘共が現れたか。幾度、無益な輪廻を繰り返せば気が済む」
そして、そばに控えていた黒ずくめの和服を着た少女がケタケタと笑う。
左腕に持つ、大砲をくわえた化け物を除けば、その姿は人間とほぼ変わらない。
「アハハ!アレ見た?あいつら一歩も進めず逃げてったじゃん!
やっぱり艦娘なんか作ったって意味ないんだって!それに何?
鎧なんか来てた変なやつ、あれで5inch連装砲に耐えられると思ってたんなら
笑えるんだけど!ねぇ、お姉ちゃん?」
腹を抱えて笑い続ける深海棲姫・駆逐古姫。
「艦娘達もさっさと人間なんか見限ればいいのに。
食うか汚すしか海の使い道を知らない人間より、
私達の方がよほど正しい海の在り方を知っている。
その正しい姿を実現するために、人間は要らない」
もう一人の駆逐古姫が答える。この駆逐古姫たちは双子らしい。
妹より落ち着いた雰囲気を持つこちらは姉のようだ。
「そう。この海は私達のもの。このまま制海権を広げて母なる海を取り戻すの」
巨大な二本腕を持ち、両肩に三連装の大口径砲を装備した化け物を背負った、
黒いドレスの女性。彼女の名は戦艦棲姫。女性の姿をしているが、
額から突き出す二本の角が人間ではないことを更に強調している。
「どうでもいいわ……どうせ誰もここに来れやしないんだし。
他の娘達に任せておけば人間なんて放っておいてもいなくなる」
気だるげに答えたもう一人の戦艦棲姫。
駆逐古姫とは違い、この二人は完全に別個の個体のようだ。
「そう、人間はどこまでも強欲。全てを食い潰す。
だから、私達が守らなきゃいけないの。人間、艦娘、みんな……」
両腕に赤黒いアームガードを身に着け、主砲と融合した半生物半兵器に乗る
空母棲姫の言葉が途切れる。駆逐古姫妹がトテテテ、と彼女に駆け寄って尋ねた。
「なあに?空母棲姫様」
「ううん、なんでもない……ちょっとめまいがしただけ」
なんだろう。時々訪れる奇妙な感覚。随分昔のようでいて、懐かしいような感覚。変ね。
私達にそんなものはないはずなのに。その時、中枢棲姫が異変に気づいた。
「皆、備えろ。また、来客だ」
──特別海域 北太平洋戦域 近海
足柄が操作した転送クルーザーで、特別海域の近海に転移した浅倉。
遠くに広がる赤黒い雲を見て浅倉は期待に満ちた気持ちでカードデッキを取り出した。
足柄は前を見たまま浅倉に呼びかける。
「引き返すなら最後のチャンスですよ。今なら私も笑ったりしませんから。
精鋭の空母と熟練した駆逐艦を連れた秋山提督も深海棲姫討伐に失敗したそうです」
「馬鹿が……!期間限定の獲物が目の前にいるのに、なんで今さら帰んだよ!」
「わかりました、わかりました。死なない程度に頑張ってくださいね」
浅倉は何も答えず、クルーザーの乗り込み口に足をかけ、海面にデッキをかざした。
──変身!
いつものように王蛇に変身した浅倉は、曇天の海に降り立つ。
そして、とうとう北太平洋戦域へ向けて、たった一人全力で走っていった。
その様子を見ていた足柄がつぶやく。
「……どっちが馬鹿なんだか」
──北太平洋戦域 戦闘地点(1戦目)
「ハハハハァ!!」
“wre;&nn!?”
突然けたたましい笑い声を上げながら海を走ってくる奇妙な存在に、
さすがのフラグシップ空母達も面食らった。
しかし、それで侵入者を素通りさせるほど特別海域の深海棲艦は甘くない。
すぐさま空母が赤い空を覆い尽くすほどの艦載機を展開させる。
戦闘機・爆撃機・攻撃機の群れが殺意に満ちた爆音を奏でながら王蛇に迫る。
だが、王蛇も大人しく食らってやるつもりはさらさらない。
走りながらカードをドロー。ベノバイザーに装填。
「行くぜおい!!」
『FINAL VENT』
水平線の向こうから、ベノスネーカーが高速で海面を這ってくる。
王蛇のそばでベノスネーカーが立ち上がると、王蛇が空高く跳躍。
ここで王蛇は普段と異なる戦法を取る。
ベノスネーカーに空母ではなく、艦載機の群れに向かって上空に毒液を発射させた。
王蛇は空を舞い、連続キックと毒液で目障りな敵機を粉砕した。
いきなりファイナルベントをぶっ放した王蛇は、
今度は落下しつつカードをドロー、装填。
『SWORD VENT』
空中に現れたベノサーベルをキャッチすると、
そのままフラグシップのヲ級空母に飛び蹴りを食らわせた。
「!?!!」
上空からのライダーキックで無視できないダメージを受けた空母は、
頭に乗せたクラゲのような怪物を潰され、足元がふらつく。
その隙を逃さず、王蛇はベノサーベルを、ヲ級の胴体に、何度も突き刺す。
体液が吹き出し、臓物がこぼれようと、何度も、何度も。
「アアアア、ガアアァ!!」
声にならない悲鳴を上げ、ヲ級空母1隻を撃沈した王蛇。
しかし、それを見た仲間の怒りが爆発し、残りのヲ級空母は再び艦載機を発艦させ、
重巡、軽巡、駆逐艦が同時に発砲。王蛇に凄まじい集中砲火を浴びせた。
精鋭の敵艦隊が砲撃で水面に衝撃波のクレーターを作る。
すかさず王蛇は再び跳躍、砲弾の嵐をやり過ごしたが、今度は戦闘機の的になる。
空中で回避のしようがない王蛇は、いくつもの戦闘機部隊から無数の機銃弾を浴びる。
四方八方から火線を叩きつけられ、王蛇は受け身も取れずに落下する。
「げふっ、がはああっ!!」
明石が作ってくれたブーツは、水上移動を可能にするが、
同時に本来水が吸収してくれるはずの衝撃もまともに通してしまう。
つまり地上に落下した時と変わらないダメージを食らった王蛇は気を失いそうになるが、
自分の顎を殴り、何とか意識を保った。
だが、立ち上がった王蛇に再び重巡以下大砲搭載艦が砲弾を一斉発射。
足元がふらつく王蛇にとどめを刺すべく食らいつく。
すかさず王蛇はカードをドロー、素早く装填。
『GUARD VENT』
シザースのデッキから奪ったボルキャンサーの甲羅の一部、
シェルディフェンスで攻撃を防いだ王蛇。
しかし、この集中砲火に耐えきれず、1回で粉々になってしまった。
構わず王蛇は再び攻勢に出る。足の生えた巨大な芋虫のような駆逐艦に狙いを付け、
ベノサーベルを思い切り叩きつけた。
「キャオオオ!!」
悲鳴を上げるハ級駆逐艦。
だが、王蛇は容赦なく切り上げ、蹴り、前転して距離を詰めてからの突き刺しの連撃で
駆逐艦の急所を突いた。駆逐艦は音もなく絶命。
「おし、次は……何だこりゃあ」
王蛇の目の前にホログラフのボタンが現れた。「追撃せず」「夜戦突入」。
周りを見ると、他の敵は次の戦闘の準備で攻撃の手を休めている。海の向こうを見る。
赤黒い空が広がる空間がある。そこに最強の敵がいるのは間違いないだろう。
早く殺したい。だが、目の前の獲物を残していくのも気持ちが悪い。
2つの玩具、どちらかしか買ってもらえない子供のような究極の選択を突きつけられ、
腹の中にフツフツとイラ立ちが募る。
「あああああ!!」
迷った結果、王蛇は「追撃せず」を殴った。
続いて新たなウィンドウが開き、戦果を表示する。結果は戦術的敗北。
「んなこたぁどうでもいい、さっさとしろ……!!」
続いて、今度は「進撃」「撤退」が現れた……瞬間に「進撃」を殴った。
深海棲艦達は口惜しそうに去っていく王蛇を見ていたが、
王蛇も彼女らを睨みつけていた。次の会敵ポイントまで歩きながら、
足柄からもらいカードデッキに無理矢理押し込んでおいた、
携帯用海図を取り出して道順を確かめる。ここは分岐点。
とりあえず東に向かうことにした。
──北太平洋戦域 戦闘地点(2戦目)
「会いたかったぜぇ!!俺を見ろおお!」
突然意味不明な大声を上げて走ってきた紫色の存在に困惑する深海棲艦達。
王蛇が喜んだのも無理はない。この地点は装甲空母姫、
つまり王蛇が初めて遭遇する姫級深海棲艦が守っているからだ。
強敵との遭遇に興奮が止まらない王蛇。
しかし、楽に姫と謁見できるほど世の中は簡単ではない。
浅倉とてそれは理解しているようで、まずは護衛をターゲットにする。
カードをドローし、ベノバイザーに装填。
『ADVENT』
ザバァン!と海の底から飛び上がってきたベノスネーカーが先制攻撃を仕掛ける。
「おい、ハエがうるせえ。黙らせろ」
王蛇が2隻の軽母ヌ級を顎で刺すと、ベノスネーカーが強力な酸性の毒液を吹きかけた。
巨大なクラゲに手足が生えたような軽空母が、
焼けた鉄板に水を撒いたような音を立てて溶けていく。
「アギャアアア!!」
言語に絶する苦痛にのたうち回る軽空母。
致命傷には至らなかったが、本命との戦いを邪魔されることはないだろう。
それを横目に王蛇がカードをドロー、しようとしたその時、空を切り裂く砲撃音と共に、
横から飛んできた砲弾が王蛇に命中した。
衝撃と爆発に一気に体を引きちぎられるようなダメージを受ける王蛇。
装甲空母姫が放った主砲で狙い撃ちされたのだ。
「ごほ、ごほ!げはぁっ!!」
空母だと思って油断した。ヘルムの隙間から、吐いた血がしたたり落ちる。
そして、追い打ちをかけるように装甲空母姫は戦闘機を放つ。
「ハ……なんでもできる女は嫌いじゃねえ」
王蛇は改めてカードをドローし、装填。
『FINAL VENT』
幸いライダーシステムは一戦闘ごとにカードがリロードされる
システムになっていたようで、
王蛇は再びベノクラッシュを放つことができた。
王蛇は召喚したベノスネーカーの口元にジャンプし、
今度は戦闘機を無視して直接装甲空母姫に突撃する。
「plw!??」
主人の危機を察した戦闘機が慌てて逆戻りするが、
装甲空母姫にファイナルベントが命中するのが先だった。
毒液と連続キックが主砲を破壊し、装甲を溶かし、
人型の深海棲艦の命をむしり取っていく。
「myr、myr!ガアアアッ!!」
パシャッ!と水面に着地した王蛇は最後のカードをドロー。
背中を戦闘機から放たれた機銃弾が何度も打ちつけるが、
王蛇は初めて殺す姫級を前に幸福感に満たされ、痛みを感じなくなっていた。
ドローしたカードを装填。
『SWORD VENT』
“mtmtkrsn$id!!”
手にしたベノサーベルを構え、装甲空母姫に一歩一歩歩み寄る。
装甲空母姫は何か言いたげに、あたふたと両腕を動かしているが、
王蛇が情けをかけるはずもなく、
ズドッ……!!
彼女の胸を黄金の突撃剣で深々と貫いた。大量に黒い液を吐き出す装甲空母姫。
ずるりと彼女からベノサーベルを引き抜くと、大量の返り血が王蛇の全身を黒く染める。
王蛇の精神が愉悦に満たされ、制御不能の狂った笑いが止まらない。
「カハハハハ……!!アハハハ!!これだ、この感じだぁ!
イライラが綺麗さっぱり消えた!」
完全に狂人と化した王蛇は、戦略も効率も何もなく、
ただ近くにいる残る軽巡、駆逐艦を力任せに殴り続けた。
砲撃、急降下爆撃に加え、これまでの戦闘のダメージの蓄積で
確実に死が近づいていることにも気づかずに。
結局王蛇はその後駆逐艦1を撃沈、軽巡1、軽母1を大破させ、
またも戦闘続行を問うホログラフを見ることになった。
無言で「追撃せず」、続いて「進撃」を殴る。
「……なんだ、このクソ面倒なシステムはぁ!!」
ぶらぶら歩きつつ、海図を広げる王蛇。また分岐点にさしかかる。
「東だ」
──北太平洋戦域 戦闘地点(3戦目)
そこは静寂に包まれていた。だが、何かがいる。王蛇の動物的直感が告げている。
“キタノ、ネェ……?エモノ……ガァ……フフ、ハハハ……!”
どこからともなく声が聞こえてくる。いや、下だ。海中から深海棲艦の声が響く。
よく見ると、デカい潜水艦のバケモノを抱えた女が海中に潜っている。
他にも水死体みたいなやつが何匹かいる。
「なんだ、お前ら喋れんのか」
どうでもいいことに感心している王蛇に、
潜水棲姫を始めとした潜水艦達が海中から一斉に魚雷を発射してきた。
“ホォラッ、イキナサイ、ギョライタチ!!”
王蛇は両足の脚力で跳躍し、海面に飛び出してきた魚雷を回避。
ぶつかりあった魚雷が大爆発を起こし、爆風が空中の王蛇を煽り、
バランスを崩した王蛇が水面に落下する。体を痛めつける衝撃。
既にこれまでの戦闘で限界に達している浅倉の肉体にとって
無視できないダメージだった。
「ごふっ、げふっ、ごふっ!……ごぶぁっ!!」
再度の吐血。これ以上血を失う事は死を意味する。
王蛇はカードを1枚ドロー、ベノバイザーに装填。
『SWORD VENT』
王蛇のデッキに爆雷攻撃のカードなどあるはずがない。
ベノサーベルを手にしたまま立ち尽くす王蛇を潜水棲姫が嘲笑う。
“アハハ、ブザマネエ!”
「……」
だが、次に王蛇は信じがたい行動に出る。
水上戦闘用のブーツを脱ぎ捨て、海に潜ったのだ。
水面に一足の靴がただ浮かんでいる異様な光景が生まれる。当然王蛇が狙うはただ一人。
潜水棲姫に向かって深海へ向かって泳ぎだした。
そしてカードをドロー、ベノバイザーに装填。
『ADVENT』
海中に現れた大蛇に驚愕する潜水艦達。彼女らの間をすり抜けて、
ベノスネーカーが潜水棲姫の船体に鋭い牙で思い切り噛み付いた。
“バカメ!ソンナコウゲキ!”
しかし、蛇が牙に毒を持つように、ベノスネーカーも牙から強酸性の毒液を流し込んだ。
毒液は海水で拡散し、本来の威力を出すことはできず、
王蛇自身も広がった毒液を浴び、体中に焼けるような痛みが走る。
それでも殺しの欲望を沸き立たせ、息を吐き出さずに耐えた。ただひたすら耐え忍んだ。
そして、時が満ちる。
「ミズガ、モレチャウゥ……!!」
酸性毒を浴び続けた潜水棲姫の装甲が、
水中にいる王蛇でも攻撃を通せるほど劣化したのだ。
それを見極めた王蛇は、ベノサーベルを両手持ちにし、
まっすぐに船体の茶色く焦げた部分を突いた。
既に錆の塊でしかなくなった部分は容易に貫通し、堅固な装甲に弱点ができた。
たまらず水面に浮上する潜水棲姫と、彼女を追いかける王蛇。
「だはっ……!!」
全身に火傷を負った王蛇は、手でブーツを引き寄せ、急いで履き直した。
潜水棲姫は王蛇を憎しみを込めた目で睨みつける。
“ヨクモ、ヤッテクレタワネェ……ギョライヨ、ギョライ……ウッフフフフフ!”
そして、今度こそ王蛇を粉砕すべく、一際大きな一発を放つ。
だが、王蛇は避けようとせず、カードをドロー、ベノバイザーに装填した。
『STEAL VENT』
敵の装備を盗む“STEAL VENT”の効果で、潜水棲姫の魚雷はUターンし、
王蛇の意思通りの命中コースを辿り、劣化し穴を開けられた船体に飛び込んだ。
ありえない現象に思考が追いつかない潜水棲姫。
次の瞬間、内部で残りの魚雷を巻き込み大爆発。
潜水艦部分は内部から破裂するように消し飛び、そばに寄り添うように海を泳いでいた
潜水棲姫も致命的損傷を受けた。右半身の殆どがちぎり取られ、
美しかった顔も顎が砕け、かろうじて両目が残っているに過ぎなかった。
王蛇は、ベノサーベルで地を突きながら、半死半生の彼女に忍び寄る。
彼女は残った左腕でなんとか水をかき、逃れようとするが、
王蛇の歩く速度にすら及ばず、とうとうその時がやってくる。
「……よう、楽しかったぜ」
王蛇はベノサーベルを両手で持ち、切っ先を真下に向ける。
潜水棲姫はもがくのをやめ、言葉を紡ぐ。
“ウッフフ、マタ モグルノカ……アノ、ミナゾコニ……。
エッ……?フジョウ、シテイル?あの、水面に……?”
「……」
彼女の遺言を聞き届けた王蛇は、まっすぐに左胸にベノサーベルを突き刺した。
ビクン、と一瞬体が跳ねると、もう、動かなくなった。
彼女が最後に遺した言葉は意味がわからなかったが、どこか人間らしさが感じられた。
だが、そんなことは王蛇にとっては既にどうでもよく、
死んだ敵にも終わった戦いにも興味はなかった。
──北太平洋戦域 戦闘地点(4戦目)
「いねえじゃねえか!いねえだろうが!なんでいねえんだ!!」
“ndtwh!?”
王蛇はもはや八つ当たりでしかない滅茶苦茶な戦いをしていた。
重巡3隻、軽巡1隻、駆逐2隻。姫級がいないと見るや、
それまでの恍惚感がイラつきに変わり、乱暴にカードを引き抜いて装填した。
『FINAL VENT』
「おおおお!!」
ベノクラッシュで、フラグシップの重巡に毒液に塗れた連続キックを食らわせ、
最後に渾身の全力蹴りを浴びせ、粉々にした。
残った重巡達が、王蛇に燃える鉄塊を嵐のごとく浴びせる。
王蛇はカードをドロー、装填。
「……何故だ、何故だ何故だ!!」
『GUARD VENT』
シェルディフェンスが何発かの砲弾を受け止めるが、防御力が足りずに途中で破壊され、
軽巡が放った1発の直撃を受ける。もう受け身を取る力も残っていない王蛇は、
ただ投げ出されるまま後ろに吹っ飛ばされる。
「あああああ!!」
『ADVENT』
『ADVENT』
『ADVENT』
だが、痛みを感じる理性すら失った王蛇は、
考えなしに3体の契約モンスターを呼び出す。王蛇は更にカードをドロー、装填。
『SWORD VENT』
ベノサーベルを装備した王蛇は、契約モンスターと乱戦を繰り広げる敵艦隊に突撃した。
ベノスネーカーに気を取られていた駆逐艦を刺殺し、
メタルゲラスに砲を向けていた重巡に袈裟懸け斬り、突き、兜割り、
様々な剣技で襲いかかる。とどめにボルキャンサーからの斬撃を受け、重巡が轟沈。
残り3体となったが、王蛇の暴走は止まらない。
『FINAL VENT』
王蛇のアーマーが一時的に硬質化し、ボルキャンサーが背後に立った。
そして、王蛇がジャンプすると、ボルキャンサーが両腕の力で更に高く打ち上げ、
前屈姿勢で高速回転した王蛇は、最後の重巡に体当りした。
シザースアタックの直撃を受けた重巡は、ぐしゃりと嫌な音を立て、
人間に近い姿が大岩にえぐられたような、見るに堪えない姿となって
海の底に沈んでいった。残り2体、となったところでタイムオーバー。
王蛇は既に残った敵を見ていなかった。視線の先にはどす黒い雲が渦巻く会敵ポイント。
あそこだ。最強の深海棲艦!
もはや彼の息に雑音が混じっていることに王蛇自身は気づいていなかった。
例のボタンを叩き壊すかのように殴りつける。「追撃せず」、そして、「進撃」。
──北太平洋戦域 戦闘地点(決戦)
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、……」
王蛇はベノサーベルを杖の代わりにしながら、一歩ずつ前へと進んでいた。
用済みの海図は放り投げた。しかし、彼は既に満身創痍であり、
雑音混じりの呼吸を繰り返しながらなんとか歩いている有様だった。
……もうすぐ、もうすぐ、ライダーバトルでも得られなかった、
幸せらしきものが手に入る。痛む全身に鞭打って進み続けると、
ポツポツ人影が見えだした。ヘルムの中の浅倉が獰猛な笑みを浮かべる。
「やっとだ……待ってたぜおい」
その頃、中枢棲姫を始めとした姫クラスの群れも王蛇の接近に気づいていた。
「……あれは、人間か、男型の艦娘なのか。妙な事態が起きたものだ……」
中枢棲姫が寄りかかる化け物をなでながら独り言をこぼす。
「すごーい!ねぇ、お姉ちゃん、見た!?あの紫のやつ、本当にここまで来ちゃった!」
駆逐古姫妹がはしゃぐ。
「油断しないで。奴は何人も姫級の仲間を殺してる。接敵次第殺すのよ」
駆逐古姫姉がそんな妹をたしなめる。
「ほら、とうとう奴のお目見えよ」
戦艦棲姫の視線の先にはベノサーベルに体重を預ける瀕死の王蛇が居た。
「ハァ!!……姫だか女王か知らんが全部アレじゃねえか!
我慢してつまんねえ戦いしてきた甲斐があるぜ!」
紫のアーマーを着た謎の男がかすれた声で歓喜の声を上げ、両腕を広げる。
“wnsw?jkrkstr??”
戦艦棲姫がなにやら話しかけたが、深海棲艦の言葉が通じるはずもない。
「戦艦棲姫、こいつは恐らく人間。人にわかる言葉で話してあげなさい……」
中枢棲姫に命じられ、ため息をついて面倒くさそうにもう一度話した。
「……あんたさぁ、状況わかってんの?
姫級でも最強クラスの私達の囲まれて生きて帰れるとでも?」
「どうでもいい。お前らが楽しい殺し合いしてくれるならの話だが」
ダァン!
その時、駆逐古姫妹の5inch連装砲が吠えた。
もう、回避行動もままならない王蛇に直撃。
王蛇は仰向けに倒れ、アーマーに亀裂が走る。
それでも動かす度に鋭い痛みが走る体を起こし、ベノサーベルを頼りに立ち上がる王蛇。
「あんた調子乗りすぎ。なーにが楽しい殺し合いよ。もう死にかけじゃん」
「ハ……お前、ガキの癖にやるな。首絞めたら面白え悲鳴上げそうだ」
「……死ね、バカが!」
「お待ちなさい……」
駆逐古姫妹が再び発砲しようと砲を構えた時、中枢棲姫が彼女を止めた。
不服そうだったが、渋々左腕の化け物を引っ込めた。中枢棲姫が王蛇に話しかける。
「お前、どこからやってきた」
「……第一浅倉鎮守府」
「人間共の砦か……死ぬとわかっていながら何故戦う。
陸では飽き足らず、そうまでして美しい大海原を奪いに来たか」
「理由なんかねえ。ただイラつく。それだけでいい」
「珍しい人間がいたものだ。皆、口々に国のため、生きるため、家族のため。
ご大層な大義名分を掲げながら死んでいくものだが」
「俺に言わせりゃそいつら全員ただのアホだ。
わざわざ戦いに理由なんか求めるから犬死にする」
「私から見れば、あんたは奴らを上回るバカだけどね」
2人目の戦艦棲姫が口を挟む。
「そうだ。もう戦いで頭が焼けて完全にバカになってる。
……だからさっさと殴らせろ!」
王蛇は毒液で指先の皮がめくれた手でカードをドロー、ベノバイザーに装填。
『SWORD VENT』
そして、ベノサーベルを手に、前傾姿勢になりながら残る命を振り絞り、
中枢棲姫目がけて走り出す。
「うぉあああ!!」
しかし、戦艦棲姫の一人が抱える怪物の巨大な腕で王蛇を薙ぎ払う。
王蛇はとっさに両腕をクロスして防御したが、超重量の腕を叩きつけられ、
後方に放り出される。
その時、左腕からピシッ!と枝の折れるような音と共に激痛が走り、
王蛇もこれには呻きを漏らす。
「あぐあぁっ!」
「貴様ごときが中枢棲姫様のお側に寄るなど、汚らわしい。身の程を知れ」
当の中枢棲姫はこのやり取りにも興味なさ気に指遊びをしている。
そして王蛇を見ることもなく、気だるげに命じた。
「もういい……。警戒中の戦艦、空母、潜水艦を呼び戻せ。
せめて、派手な最期を遂げさせてやろう」
「御意」
空母棲姫が親指と人差し指で口笛を吹くと、なにやら水平線の向こうから
人影らしきものがわらわらと集まってくる。
点に見えていたそれらはあっという間に接近し、王蛇の周りを取り囲んだ。
王蛇はぐるりとその場で回ってみる。どこを見ても敵だらけ。
戦艦、空母、重巡、駆逐艦、おまけに海中には潜水艦だ。
「アハ!どんな手品使ったのか知らないけどさぁ!
よくここまで死なずに逃げ切れたよねえ。
砲撃、雷撃、爆撃、どんな死に方がいいか教えてよ!」
その時、潜水艦の一隻が駆逐古姫妹に近づき、小声で何かを告げた。
「……ふぅ~ん。潜水棲姫が殺された、仇をとらないと気が済まない、か。いいよ。
じゃあ、みんなで一斉に餞の魚雷発射でミンチにしちゃおうよ!」
「勝手に話を進めないで。中枢棲姫様にお伺いを……」
「いい……好きな方法で殺れ」
駆逐古姫姉がたしなめるが、中枢棲姫はやはり他人事のように許可を出した。
困った妹だ、と言いたげに顔をそらす駆逐古姫姉
「やったー!重巡、軽巡、駆逐、潜水艦のみんな!魚雷の装填は完了したかな~!?」
返事をするように、人語を解さない深海棲艦達が喚き声を上げる。
が、駆逐古姫妹が発射命令を出す前に、両手を後ろに組んで、
興味深げに王蛇の前を行ったり来たりする。
「ねぇねぇ、これから死ぬのってどんな気持ち?
人間が死ぬのって意外と見る機会ないの。だって、死ぬ時は鋼鉄の檻の中だもん!」
王蛇はしばし沈黙して口を開いた。
「……お前ほど首ちぎったら面白そうなやつも珍しいな。
鶏はしばらく生きてるそうだが、お前は阿波踊りでも始めそうだ」
「……」
駆逐古姫妹は黙って王蛇の顔を殴る。子供のような姿からは想像も付かない力で殴られ、
視界が揺れる。そして彼女は改めて深海棲艦達に呼びかける。
「諸元入力は済んだかな?目標、目の前の紫野郎!ファイヤー!!」
駆逐古姫妹の号令で、王蛇を取り囲む深海棲艦が同時に大型魚雷を発射した。
幾条もの航跡が王蛇に迫る。もう、王蛇には立ち上がる力も残されていなかった。
被雷まであと10秒。
つまらねえ、ライダーバトルの中でもなく、バケモンの親玉とも戦わず、
へんぴな海の真ん中で死ぬとはな。
さっきあのバケモンは“何のために戦うか”って聞いた。
ちょっとはなんで戦ったのか思い出して見るか。被雷まであと7秒。
家族は、殺した。理由なんかない。気に食わない連中だったのはなんとなく覚えてる。
弟は、殺した。モンスターのエサにした。どっかの女を殺した。イライラしていたから。
名前も知らんゴロツキ、殺した。なんでかは忘れた。とにかくアホだったことは確かだ。
被雷まであと5秒。
じゃあ、今、なんで俺は戦っている?
……やめろ。うだうだ理由なんか付けるからイラつくんだろうが。え?そうだろうが。
もう答えは出てるんだろう。被雷まであと3秒。
俺は、俺は……
──殺してえ!!
王蛇がデッキから思い切りカードを抜き取る。
そして、カードをベノバイザーに装填した時、浅倉の殺意、そして暴力への渇望が
ベノバイザーと共鳴。装填されたカードに記録されている数万枚のカード情報の中で、
最も凶暴なカードを選び出し、変化させた。
『STRANGE VENT』
王蛇は何が起こるかわからない“STRANGE VENT”を発動した。そして。
ベノバイザーのスロットが開き、変化したカードが現れた。被雷まであと1秒。
「……そうだ!これが、俺だ……!!」
王蛇が立ち上がり、そのカードを高々と掲げる。
それは目もくらむばかりの輝きを放ち、死の渦巻く赤黒い海域を照らし出した。
その名は、SURVIVE。