【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】 作:焼き鳥タレ派
──清明院大学 401号室
「準備はできていますね。私は大学に休職届を、東條君は休学届けを。
無用な不信感を招かないよう手回しは怠りなく」
香川はパソコンを操作しながら東條に話しかける。
401号室の部屋中に配置されていた鏡は撤去され、
必要最低限のデスクや椅子、パソコンだけが残る殺風景な部屋に変わっていた。
「大丈夫です、先生。下宿先にも合宿でしばらく空けると言ってありますから……」
アタッシュケースの中身を確認し終えた東條が答えた。
「よろしい。では、そろそろ出発しましょうか。
こちらもミラーワールドに関するデータを扱っているパソコンは、
全てHDDのフォーマットを終えたところです」
「お父さん!」
その時、実験室に子供の声が飛び込んできた。まだ小学校に上がったばかりだろうか。
幼い少年が401号室に駆け込み、香川の元へ走ってきた。香川は少年を抱きかかえる。
「んーどうしたんだ、裕太。父さんこれから出かけなきゃいけないんだよ」
すると、上品な雰囲気を漂わせる女性が後から入ってくる。
「ごめんなさい、あなた。裕太がどうしても見送りたいって。
何しろ、急に単身赴任が決まって、しばらく会えなくなるって聞いたものですから……」
「そうでしたか。少し家を空けますが、後のことは頼みましたよ、典子。
裕太、少し母さんと父さんの学校を見て回っておいで。父さんまだやることがあるから」
「裕太、いらっしゃい」
「はーい!」
香川の妻子、典子と裕太は401号室から出ていった。
そして東條は一連のやり取りをじっと見つめていた。彼の視線に気づく香川。
「どうかしましたか、東條君。何か問題でも?」
「……いえ、なんでもありません」
「それでは、二人が戻る前に彼の世界へ行きましょう。
一旦別行動になりますが、すぐ私と合流するように」
「はい、先生」
そして二人は、重要データを保存したことがないパソコンで、DMM.comにアクセスした。
あらかじめ作成したアカウントで艦これにアクセスすると、
それぞれ揺らぐモニター画面に飲み込まれるが、慌てることなくその時を待つ。
Login No.<香川英行_様 アクセス権限を確認中...OK MWSへようこそ>
Login No.010 東條悟
香川は執務室に降り立つと、室内の様子を見渡す。
ふむ、やはりゲームの世界が再現、というより、実在しているようです。
窓辺に立って外を見る。
やはりファイルに書かれていた通り、彼は海軍基地を舞台にしたゲームを
ライダーバトルのバトルフィールドに選んだようです。
さて、そろそろ何らかの接触があってもいいころですが。
香川がゆっくりと室内を見て回っていると、階段を上る音が近づいてきて、
足音はドアの前で止まった。そしてノックの音。
「どうぞ」
香川が返事をすると、ドアが開き、長門と艦娘が一人入室した。
「失礼する。当鎮守府の司令代理を務める長門だ。貴方の艦隊指揮のサポートを行う。
以後よろしく。彼女は……」
「ああ、知っていますよ。白露型6番艦駆逐艦五月雨。
史実では1935年7月6日進水、1944年8月26日、米潜水艦の魚雷を受け大破、放棄された、
とありますね。この世界では貴方がたがどのような存在なのかは知りませんが」
「そ、その通りです!えと、私達は艦娘と言って、軍艦の魂を受け継いで転生した
存在で、「深海棲艦という存在に奪われた制海権を取り戻すために戦っている」」
「よく、ご存知なんですね……」
ナビゲートするまでもなく、何もかも知っているような香川に驚く五月雨。
そんな彼女に長門が割って入る。
「本来なら、ここで私が出てくることはないのだが、
貴方がログインした方法に不審な形跡がみられるのでな。
なんというか、こう、正しくもあり、不正でもある……。
申し訳ない、はっきりしたことがわからない。
だから秘書艦を託す前に私が直に貴方から話を聞きたいのだが、よろしいか?」
香川は軽く笑ってソファに腰掛け、長門達にも席を勧めた。
「フッ、構いませんよ。立ち話もなんです、まずは落ち着いて話しましょう」
そして向かい合う形となった香川、そして長門と五月雨が話を続けた。
「単刀直入に言います。さっきあなたが言ったことは正解です。
私は正規ではありませんが、正規の手段でこの世界にやってきました」
困惑する長門と五月雨。お互い不安げに顔を見合わせる。
「すまないが、言っている意味がわからない。
もう少し噛み砕いてはもらえないだろうか」
「私にもなんだかさっぱりです……」
「失礼。具体的には、神崎君が作ったシステムをほぼ忠実に再現した、
ミラーワールドシステムを利用してログインしたというわけです」
「神崎!?貴方は神崎士郎を知っているのか!」
「ええ。私は彼が在籍していた大学で教授を務めています。
ライダーシステムを開発したのも、現実世界とこの特殊なミラーワールドを接続したのも
他ならぬ神崎君です」
「ああ、それは知っている!鏡の世界を開いたことも、
仮面ライダーを戦わせていることも!教えて欲しい!
彼は一体、何のためにこんな戦いを仕組んだのだ!」
「ふむ……それを話すと長くなりますし、
今話すべきなのか、そうでないのか、悩ましいところです」
香川は腕を組んで目を閉じる。
「お願いです、教えてください!まだ死者は出ていませんが、
城戸鎮守府の提督が意識不明の重体なんです!早くしないと手遅れになります!」
身を乗り出して問う長門に、訴えかけるように答えを求める五月雨。
香川はしばし考えこんで重い口を開こうとした。その時、
ジリリリ……
デスクの電話が鳴った。苛立たしげに立ち上がった長門が出る。
「ええい、なんだこんな時に!……こちら執務室。なに、それでは同時に二人も?
わかった、とにかくそれはそちらで対処して欲しいと伝えてくれ。
……悪いが今は外せない。重要な話の途中だ。ああ、よろしく頼む」
電話を切ると長門は香川の元へ戻ってきた。
しかし、長門が口を開く前に香川が話を再開した。
「彼が来てくれたようですね。しばらくここで待つことにしましょう。
あ、秘書艦なら不要ですよ。既に優秀な助手がいますから」
「ええっ!?そんな!」
「ちょっと待ってくれ、ということは、貴方は今の人物を知っているのか?」
「ええ、我々は同時にログインしましたから。
ちなみに彼は正真正銘、正規の仮面ライダーですよ」
長門は顎に指を当てて考える。正規であり不正でもある。
しかし、ログインのプロセスを検証すると他のライダーと全く同じ。
……疑わしきは罰せず、か。
「我々は、貴方を正規のプレイヤーとして迎えようと思う。
だから、貴方も正規の手続きを踏んで頂きたい。
つまり、この娘のナビゲーションを受けてもらう必要がある」
「それはありがたい。ああ、自己紹介が遅れました。私は香川英行。
五月雨さんと言いましたね。以後よろしく」
「は、はい。よろしくお願いします、提督!」
五月雨は律儀に立ち上がって敬礼した。
──東條鎮守府
少し時を遡る。
艦これ世界に転移した東條悟は、窓際に寄りかかり、
ただぼんやりと眼下に広がる母港を眺めていた。
窓の下の広場ではよくわからない装備を身につけた少女達が、
ベンチで友達とお喋りしたり、何かの荷物を運んだり、ちらちらとこちらを見ていたり、
人間と同じように過ごしていた。
……こんなところで本当に英雄になれるのかな。
彼の心中にもやもやと苛立ちにも似た感情が湧いてきた時、
ちょうど階段を上る音が聞こえ、その後ノックが3回。
「……誰」
「新任司令官さんのナビゲート担当になりました、電です!よろしくお願いします!」
「入れば」
カチャリと遠慮がちにドアが開くと、小柄な少女が入ってきた。
やはり武装らしき装備を身につけている。
「……僕、東條。東條悟。ねぇ、先生が来てるはずなんだけど、
連れてってくれないかな。香川っていう人なんだけど」
「ああ、その前に、提督になるためのチュートリアルを受けていただく必要があるです!
今から鎮守府の各施設を……」
「いいよそんなの!僕、ここでゲームするつもりはないからさぁ」
「え?じゃあ、何のために……?」
「僕はさ、英雄になるためにここに来たんだ。このミラーワールドを閉じてね」
東條は虎の紋章が施されたブルーのデッキを取り出して見せた。
「はわわわ!新しいライダーさん!?ちょっと待ってほしいのです!」
電は背伸びしてデスクの電話を取ると、慌てて作戦司令室の長門に連絡。
何事かのやり取りを始めた。
「電です。実は今度もプレイヤーさんもライダーで……。
はい、いつもどおり、滞りなく。も、もちろんわかってます!
ちゃんとできますから安心してください!……はい、はい、わかりました。失礼します」
電話を切ると、電は東條の元へ戻ってきた。
「お待たせしましたです!」
「何話してたの?」
「ライダーの司令官さんがこの世界に来られるようになってから色々あって、
重要情報は各鎮守府で共有する決まりになりました。
もちろん、あなたが来られたことも長門さんに報告させていただきました」
「長門って人が誰かは別にいいよ。用が済んだなら早く先生のところへ連れてって」
「ああ、駄目です!チュートリアルは受けていただかないと、
この世界の全ての機能は使えない仕組みになっているんです。
もちろん他の鎮守府への移動手段もです」
「……早くしてよね」
東條は苛立ちを隠さず電を急かした。
そして二人は本館を出て、鎮守府の広い敷地を反時計回り、
電は各施設を案内していった。工廠に始まり、本館、広場、多目的ホール。
電は一生懸命説明していたが、東條は上の空で聞いていた。
そして艦娘の宿舎に差し掛かる。
「あのっ、あそこに見える木造の建物が、私達艦娘の宿舎なんですが、
人間の司令官さんがいらっしゃる度に何かと問題が多い所で……」
「なに、問題って」
「1階に戦いでの傷を癒やす修復施設、通称“お風呂”があって、
文字通り大型浴槽がたくさんあるんですけど、基本的に女性しかいなかったので、
背伸びすれば上の窓から中が見えちゃうんです。だからって良からぬ考えは
「急いでくれないかなぁ!?僕、人を待たせてるんだけど!!」」
東條は表情を崩さず視線を地面に向けたまま声を荒らげた。
「はわわ、ごめんなさい!次で最後です」
慌ててその場を離れる電。二人は本館のすぐ隣、
大型アンテナが設置されたコンクリート造りの建物にたどり着いた。
「ここが最後です。あの建物が作戦司令室で、出撃命令や部隊編成が行えます。
中の長門さんか陸奥さん言ってくださいです」
「……僕には関係ないかな」
「じゃあ、一度執務室に戻りましょう。それでチュートリアルは終了です」
そばの本館に入り、執務室に戻る二人。部屋の隅に奇妙な物体が浮かんでいた。
電がそれを指差し説明する。
「あれは01ゲートです。現実世界に戻るのに必要になります。
あれが現れたってことはチュートリアル終了で、
あなたは正式な司令官になったっていうことです。
念のための確認ですけど、司令官さんは、この世界でゲームの続行を希望しますか?」
「うん……僕は、この世界で、英雄になるんだ」
「さっきもおっしゃってましたけど、英雄ってなんですか?」
「言ったでしょう。僕達はこのミラーワールドを閉じてミラーモンスターを封印する。
どんな犠牲を払ってでもね」
「はぁ……」
「もう文句ないでしょう。早く先生のところに連れてってよ」
「わ、わかりました!“先生”という方は香川さん、でしたよね!
桟橋のクルーザーまで一緒に来て欲しいです」
「わかった」
そして東條は電に連れられ、桟橋のクルーザーに乗り込んだ。
電が舵を取り、途中何度かつっかえながら音声コマンドを入力。
入力を終えた瞬間、クルーザーを取り巻く世界が真っ白になり、
上空に処理ログが高速で流れていく。見えるのは白と黒だけ。
流れるログを眺めながら、東條は静かに待っていた。
やがて、ログが最後の一行を表示すると、
真っ白な世界が再びテクスチャで鎮守府の形に染め上げられた。
クルーザーから降り、本館に向けて桟橋を渡る二人。電が黙って歩く東條に話しかける。
「あのう、司令官さん……ずいぶん落ち着いてるみたいですけど、驚かないんですか?
初めは皆さんあれで驚かれるようなんですが」
「ざっとログを見ただけだけど、要するにサーバー間で
目的地の情報と接続して向こう側のデータをダウンロードしてただけでしょ。
見ればわかるよ。それより先生どこ?」
「あうう……いつか来る日のために暗記してたのに。先生さんは本館の執務室です。
どの鎮守府も作りは同じですから……」
「行かなきゃ、早く行かなきゃ……」
目的地がわかった東條は、電を置いていくほど早足で執務室を目指した。
「ああ!待ってください司令官さーん!」
──香川鎮守府
コンコンコン。
ノックが聞こえると3人は同時にドアを見た。
“先生、僕です。東條です”
「到着したようですね。……入りなさい」
ドアが開くと東條と小柄な少女が入室した。
無表情を貫いていた東條は、香川の姿を見ると、初めて嬉しそうな笑みを浮かべ、
他の2人を無視して彼に歩み寄った。
「お待たせしてすみません、変な案内に連れ回されちゃって」
「気にせずに。私も同じですよ。ここは思った以上に広い。
すっかり足が棒ですよ、若い頃のようには行かないものです」
「お疲れ様でした。……ああ、電さんって言ったっけ。もう帰っていいよ。
僕はこれから先生と行動するから」
突然別れを告げられ、戸惑う電。
「待ってほしいです!司令官さんの鎮守府はどうされるんですか!?」
「だから、僕はゲームするためにここに来たわけじゃないんだよ。
深海棲艦だっけ?あれは現実世界には出てこない。どうでもいいよ、そんなの」
「そんな!それじゃあ、司令官さんの鎮守府はどうなるんですか?
長門様がいるとは言え、深海棲艦の襲撃を受けたら被害が……」
「そんなの小さな犠牲じゃないか。
僕達は、世界を救うために、英雄にならなきゃいけないんだ」
その時、東條の肩を長門が掴んだ。厳しい表情で顔を近づける。
「貴方が新たなライダー提督か。そんな勝手が許されると思うのか!
この世界で戦うと決めた以上、せめて担当鎮守府には常駐してもらう!」
「君、誰……?」
「司令代理、長門だ!我々も少し前までは、人間が来たというだけで浮かれていたが、
そのために多くの悲劇を産んでしまった。
だから、たとえ人間であっても、もう勝手な振る舞いをする提督は許さない!」
「そ、そうです!あなた達にとってはただのゲームでも、
私達にとってはたったひとつのかけがえのない世界なんです!」
強く抗議する長門と、必死に訴える五月雨。
東條はじっと長門の目を見たまま、上着からカードデッキを抜き取ろうとする。
「君達、邪魔だなぁ。僕達が英雄になるためには……」
「やめなさい東條君!」
「……」
香川の一喝で東條はデッキをしまう。
「彼女達の言うとおりですよ。郷に入りては郷に従え。
神崎君の捜索とコアミラー破壊には腰を据えて掛かる必要があります。
皆さんと良好な関係を築き磐石な体制を築くのも、戦いのうちですよ?」
「はい……」
そして、耳慣れない言葉を聞いた長門が香川に尋ねる。
「提督、コアミラーとはなんなのだ?」
「それは……話すと長くなります。またの機会にしましょう」
「話したところで君達が理解できるとも思えないしね」
「なんだと!」
「東條君、よしなさい。失敬、彼にはよく言い聞かせておきます。
……さて、そろそろ彼と打ち合わせがしたいのですが、
一旦二人だけにしてもらえませんか」
「……了解しました。五月雨、行くぞ。転ばないようにな」
「あ、はい!」
そして電がおそるおそる東條に話しかける。
「あの、司令官さん。電はクルーザーで待ってます。……きっと戻ってきてくださいね」
「わかってるよ、行けばいいんでしょ」
「失礼します」
パタン、とドアが閉じられ、執務室には香川と東條だけが残された。
「東條君。たとえデータの塊とは言え、住民と無用な軋轢を生むことは
マイナスにしかなりません。言動には十分な注意を払うように」
「はい……」
「では、さっそく今後の計画を立てましょう。座りなさい。
さっき長門さんから貰った、この世界に来ているライダーと担当鎮守府の一覧です。
まず手がかりになりそうなのは……」
香川がテーブルにリストを広げたその時、耳に反響する金切り音を感じた。
「先生」
「……どうやら、探す手間が省けたようです」
──海岸
香川達は金属音が強くなるところを目指し、
海岸に出ようかというところにたどり着いた。
辺りを見回すと、いつの間にか背後に神崎士郎の姿があった。
「香川……とうとうこの世界にまでやってきたということか」
「久しぶりですね神崎君。直接私を潰そうというわけですか」
対峙するかつての師弟。
「香川、お前が英雄になるチャンスを与えてやる。
お前の家族に、モンスターを着けておいた」
「神崎君……!!」
「オルタナティブのカードデッキを渡し全て破棄するか、このまま俺の邪魔を続けるか、
お前が選べ。多くを助ける為に1つを犠牲にする勇気、だったな」
香川は表情を崩すまいとジレンマに耐えるが、視線が落ち着かない。
ポケットから金属で出来た無骨なカードデッキを取り出し、見つめる。
「神崎君、そんなの無駄な脅しだよ。香川先生は、英雄なんだから。
ひとつの犠牲だよ。それくらい良いと思うけど。ね、先生」
「お前の答えを出せ……。どうした、答えが出ないなら俺が」
結論を迫る神崎。そして香川が答えを出す。
「答えは出てるんですよ!最初からね。あなたのファイルを見た時から、既にね」
「邪魔を続けるというわけか。家族に伝えることは……?」
「……ありませんよ」
「ねえ神崎君」
その時、東條が口を開いた。
「今、先生の家族を人質に取ろうとしたけど、
君にも誰か死んでほしくない人がいるんじゃないかな」
「仲村か。あいつに人は殺せない。それが事実だ」
「なるほど、仲村君は失敗しましたか」
「思った通りだったね。彼、英雄とは程遠い人間だったし」
「もう一度だけ言う。デッキを、渡せ」
「……答えは、変わりませんよ」
「先生……!」
「……」
そして香川は踵を返して歩き出し、神崎も姿を消した。
東條は香川の後ろ姿に英雄の姿を見た気がし、狂信的なまでの憧れを膨らませた。
──城戸鎮守府
「ほら、真司さん。慌てないで。ゆっくりでいいから歩いてください」
「うん。いち、に、さん、し……。あいててて……」
オーディンとの死闘から1週間。
ようやく意識が戻った真司は、三日月の手を借り、リハビリに励んでいた。
「無理しないでください、ほら座って」
「ありがと。なんとか身動きは取れるようになったけど、
戦うのはしばらく無理だなこりゃ」
「今はそんなこと考えないで、治療に専念してくださいね」
「うん、どのみちこんな体じゃなんにもできないしね。
……そうだ、俺が寝てる間に、なんか事件とかなかった?
また、あいつが来たりしなかった?」
「それが実は……浅倉提督がここの執務室に乗り込んできて、
須藤提督のデッキを奪っていきましたが、
デッキを手に入れたらそれ以上何もせずに帰って行きました」
「浅倉が!?本当に大丈夫だった?誰も怪我してない?」
真司が驚いて三日月に確認する。
「はい。ただ、執務室をめちゃくちゃにされたので、
後で良いので“再起動実行”をお願いします。
一応片付けてはおいたのですが、壊されたものはどうにもならないので」
「あんにゃろう、人が動けない時に汚いやつ!」
「そうなんですが、あの、真司さん。
その件については三日月としては穏便に済ませてあげてほしいと……」
三日月の意外な浅倉をかばうような発言に、真司はまた驚く。
「え、なんで?うちに襲撃かけてきたのに」
「実は、真司さんが眠っていた間に、
深海棲艦の中でも最強クラスの艦隊が進軍してきて、
艦これ世界の水源を乗っ取られる寸前だったんです。
それを浅倉提督がたった一人で撃退したお陰で、
世界中の主要海域で深海棲艦の勢力が弱まり、水源も無事守られました。
恐らく浅倉提督は戦力を得るためにデッキが必要だったのではないでしょうか」
「浅倉が……?
いやいや、絶対あいつのことだから強敵と戦いたかっただけに決まってるって!
……まぁ、でもそれに俺たちが助けられたのも事実だし。
わかったよ、三日月ちゃん。須藤のデッキは浅倉に預ける」
「真司さん……ありがとうございます!」
三日月はペコリと頭を下げた。
「ああ、やめてって。三日月ちゃんがお礼言うことないじゃん。
元はと言えば……俺がやられたことが原因なんだし」
「違います!あんな化け物に勝てる人なんて……。
運良く奴が逃げていかなきゃどうなってたか」
「逃げた?どうして?あいつは俺を始末しに来たのに」
「覚えてらっしゃらないんですか?あいつは真司さんにとどめを刺そうとした時、
突然体が砂のように溶けていって、慌てて水面に逃げていきました」
その時、真司は思い出した。
以前、現実世界に帰った時、優衣も全身が粒子化し、危うく消滅するところだった。
オーディンと優衣。何か関係があるのだろうか。
体が満足に動くようになったら、もう一度01ゲートで帰る必要がありそうだ。
「……そうだ、他にはなんかない?」
「他には……そうだ!
今日、新たな仮面ライダーとライダーらしき方が提督になられたんです」
「ライダー“らしき方”?ライダーじゃなかったらなんなの、そいつ」
「それが、長門さんによると、
神崎が作ったライダーシステムを再現して艦これ世界にログインされたそうです」
「ライダーシステムを再現、って。すげえな……それってどんな人?」
「香川提督とおっしゃる方です。ライダーの方は東條提督」
真司はハッとなる。令子の言葉を思い出したのだ。
“清明院大学401号室。
……
今は香川教授の実験室になってるんだけど、これもなんか胡散臭いのよね。
部屋中鏡だらけで”
「香川って、清明院大学の、教授……。それに、鏡」
「なにかご存知なんですか?」
「三日月ちゃん、まだ確証はないんだけど、
神崎は現実世界の清明院大学っていうところでミラーワールドについて研究してたんだ。
香川って人はその大学の教授!」
「えっ!?それじゃあ……。香川提督は何のためにこの世界に?
まさか神崎の仲間だったらどうしよう!」
「わかんない。でも、もう少し体が回復したら、俺、もう一度現実世界に戻るよ」
「無理はしないでくださいね。まだ、意識が戻ったばかりなんですから……」
そして、三日月は真司に抱きついた。
「本当に、本当によかった……。
もう目を覚まさないんじゃないかと、ずっと心配だったんです」
真司もまだ包帯の取れない手で三日月の頭をなでる。
「心配かけてごめんね。俺が眠ってる間、鎮守府を守ってくれて、ありがとう」
「少し、こうしててください……」
「うん……」
ひんやりした空気の医務室で抱きしめあう真司と三日月。
401号室、ミラーワールド、現れた新たなライダー、わからないことばかりだが、
今だけはこうしていたい。龍の戦士に訪れた束の間の安らぎだった。
*今回は短めですみません。やっぱり東條は難しいキャラです。