【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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第28話 ID: Hit the Jackpot

屋敷に鍵は掛かっていなかった。

優衣がドアノブを回すと、大きな木の扉は音もなく開いた。

慎重な足取りで中に入る3人。当然明かりが点いているはずもなく、中は薄暗かった。

異常だったのは、残された家具やガラス窓全てに白い紙が貼られたり、

布を被せられたりしていたことだ。

 

「これ……榊原さん家とおんなじだ。

登記簿にあった神崎なんとかって人も、ミラーモンスターに気づいてたのかな」

 

龍騎がカードデッキを拾った榊原耕一宅。

彼の家も同じように姿が映るもの全てに封がされていた。

 

「わからん。とにかく進むしかないだろう。」

 

1階の部屋、バスルーム、リビング等を周ってみたが、めぼしいものはなかった。

皆、更に奥へと進む。そして、2階に上がると異様な光景を見た。

1階ではあらゆる鏡になりうる物を隠していたのに、

階段を上がりきったところに並べられた家具には多数の鏡が置かれていたのだ。

少し奥には大型の姿見まである。これは一体何を意味しているのか。

まだ何も分からないが、ミラーワールドを開いた神崎士郎と関係があるのは

間違いないだろう。

 

「お兄ちゃん……」

 

優衣がささやきと共に手を握り込む。その手はゆっくりとだが

サラサラと粒子化していた。それに気づいた蓮が優衣に駆け寄る。

 

「優衣!」

 

「優衣ちゃん!?」

 

「……大丈夫、もう慣れた。こうしてれば治るから」

 

優衣は自分の手を揉むようにさする。

 

「本当に大丈夫だから、ここを探そう?お願いだから。じっとしてる方が怖い」

 

「大丈夫、なんだね?」

 

「平気……ほら、治まってきた」

 

彼女が手を見せると、確かに粒子化はもう止まっている。

 

「……だからと言って時間に余裕があるわけじゃない。急ぐぞ」

 

蓮の言葉で捜索を再開した3人。

一つのドアを開くと、やはりそこには布を掛けられたテーブルや棚ばかりしかなかった。

だが、その中に異質なものがあった。テーブルの上に置かれた1枚の紙。

近づいて手にとって見ると、クレヨンで書いた絵だった。子供が書いたのだろう。

少年と少女が笑顔で手を繋いでいる。

 

「なぜこんなところに子供の絵が……」

 

「あっ!」

 

「どうしたの優衣ちゃん!」

 

その絵を見た瞬間、突然優衣が頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。

 

「ちょっと、待って……すぐ治まると、思う。ああっ!!」

 

「優衣、しっかりしろ!」

 

やはり謎の頭痛に苦しめられる優衣。

彼女の心の奥底に眠るものが呼び覚まされ、頭を痛めつける。

どこからともなく舞い散る黒い羽根。そしてミラーモンスターの名を呼ぶ自分の声。

 

 

“ガルドサンダー、テラバイター、レイドラグーン、バクラーケン、

ギガゼール、シールドボーダー……”

 

 

黒い羽に手を伸ばす自分が見える。相変わらずこだまする自分の声。

しかし、それらは徐々に真司と蓮の声に変わり、やがてはっきりとしたものになった。

 

「……い!おい、優衣!大丈夫か!」

 

「ここ横になって、深呼吸して!」

 

目が覚めると、二人が懸命に自分を介抱していた。

いつのまにか部屋の隅に置かれたソファに横になっていた。

 

「……どうしたの、私?」

 

「ああ、よかった!いきなり倒れたからびっくりしたよ」

 

「やっぱりこれで、この屋敷と優衣、そして神崎士郎に繋がりがあることは、

はっきりしたな」

 

「うん。でも、優衣ちゃんかなり具合悪いみたいだし、

後は俺達だけで調べた方がよくないか……?」

 

「そうだな。優衣、立てるか?無理なら後は俺達が引き受けるが」

 

「ううん、行こう。私、知りたい。自分のこと、全部」

 

「じゃあ……行こうか」

 

心配そうに捜索続行を促す真司。

3人は優衣の記憶を手繰るように、木の床をゆっくりと歩き、屋敷の中を調べていった。

そしてまた別の部屋に入る。ドアノブのラッチが壊れているようで、

軽く押しただけでドアは開いた。

今度は窓もなく、ただ姿見が一つあるだけの殺風景な部屋だった。

開けたドアから差す光以外に光源がないので尚更暗い。

その部屋に足を踏み入れた瞬間、優衣の脳裏にまた奇妙な現象が。

 

 

“優衣!だめだよ!行っちゃだめだ!俺を一人にしないで!”

 

 

少年の叫び声。必死に自分を呼ぶ声。この子は誰。その映像は段々ぼやけ、

 

「優衣、どうした優衣!」

 

蓮の声で優衣は我に返る。気がつくとまた倒れていた。

彼に背中を抱えられ、気を失っていたようだ。

額の汗を拭い、なんとか立ち上がろうとするが、

足に上手く力が入らず、転びそうになったところを真司に支えられる。

 

「ほら、やっぱり無理だって!」

 

しかし、優衣は真司の手を取り、

 

「お願い。ここまで来たら、最後まで思い出したい。あと少し、そんな気がする」

 

優衣が心配な真司は、蓮を見てどうするか無言で問う。

 

「……やるしかないだろう。この際、神崎士郎はどうでもいい。

優衣の決心が固いなら納得行くまで調べるべきだ」

 

「立てる?」

 

「うん、次の部屋、行こう」

 

真司が優衣に肩を貸しながら、2階最後の部屋のドアを開いた。

今度は窓があったが、やはり紙が貼られてガラスが隠されていた。

ただ、部屋の真ん中に椅子が一脚あるだけだ。

 

「ここで、最後だな」

 

真司と蓮は部屋を見渡し、変わったものがないか調べる。

優衣がぽつんと置かれた椅子を見た瞬間、また記憶のフラッシュバックが起こった。

 

「ううっ!……ああ、いた、い」

 

「優衣ちゃん!?しっかりして、ほら、この椅子座って!」

 

優衣を椅子に座らせるが、彼女はなおも苦しそうに頭を抱える。

脂汗が浮かび、激しい頭痛が続く。

そして、とうとう座っているのも辛くなり、床に崩れ落ちてしまった。

 

「優衣、しっかりしろ優衣!」

「だめだ、これ以上は!優衣ちゃん、帰ろう!」

 

そんな二人の声が遠のいていく。そして、目の前に浮かぶのはあの日の光景。

 

 

 

……

………

 

バタン!

 

父は二人を部屋に閉じ込め、冷たく去っていく。いわゆる育児放棄だった。

 

「父さん、開けてよ!」

 

何度もドアを叩く少年。だが、返事が返ってくることも、ドアが開くこともなかった。

 

「うええん、えーん……」

 

椅子に座り泣きじゃくる少女。

 

「優衣、泣くな、ほら」

 

少年は少女に近づき、スケッチブックとクレヨンを差し出した。

そして、二人は一緒に絵を描き出した。何枚も、何枚も、いろんな絵を。

 

「このモンスター達は強いんだ。俺達を助けてくれる。

このミラーワールドには、俺と優衣しかいないんだよ。楽しいことしかないんだ」

 

二人だけの世界で優衣と士郎は描き続けた。

自分達を守ってくれるモンスター、理想の世界を。

 

ドラグレッダー、ダークウィング、マグナギガ、エビルダイバー、

メタルゲラス、ベノスネーカー、デストワイルダー。

 

 

“ミラーワールドも、モンスターも、全部、私とお兄ちゃんが……!?”

 

 

そして、あの日がやってきた。士郎が激しくドアを叩く。突然優衣が苦しみだしたのだ。

 

「父さん、母さん、開けてよ!優衣が大変なんだ、お父さん!お母さん!」

 

やはり返事はない。死んでも構わないという暴力なき暴力だった。

救助を諦めた士郎は優衣に駆け寄る。

 

 

“あの日、苦しくて、寒くて、そして……”

 

 

小さな手からポロリとクレヨンを落とし、床に倒れ込む優衣

 

「優衣!?優衣!だめだよ!行っちゃだめだ!俺を独りにしないで!優衣!優衣!」

 

 

“そうだ、私、あの時……”

 

 

《消えちゃうよ……》

 

 

────私、死んじゃってたんだ

 

 

再びドアを叩きながら助けを呼ぶ士郎。

 

「お父さん!開けてよ!優衣が大変なんだ!」

 

その時、背後から声が聞こえてきた。優衣のそばにある姿見に映った存在。

優衣の鏡像が、話しかけてきたのだ。

 

《私がそっちへ行っていい?》

 

幻ではない。はっきりとこちらを見ている。ただ驚く士郎。

 

《私がお兄ちゃんといていい?》

 

言葉にならないが、妹を失いたくない一心でうなずく。

 

《でも、大人になったら消えちゃうよ。20回目の誕生日に消えちゃうよ。

それでもいい?》

 

「……いい。俺を独りにしないで」

 

すると、ミラーワールドから少女が現実世界に現れた。

現実世界とミラーワールドが接続された次元の歪みにより、屋敷全体で大爆発が起こる。

その時、現実の優衣とミラーワールドの優衣が一体化。

一度は命を落とした優衣が目を覚ます。

だが、爆発で部屋に火の手が周り、泣き出す優衣。

倒れる士郎は顔を煤だらけにしながら、振り絞るように声を出す。

 

「絶対……守る」

 

………

……

 

 

 

「お前は、ミラーワールドの人間だっていうのか……」

 

蓮も、真司も、驚愕した様子で話に聞き入っていた。

 

「20回目の誕生日ってことは……優衣ちゃん、今いくつ?」

 

「19歳。誕生日は、1月19日……」

 

絶句する二人。優衣の記憶を信じるなら、彼女は来月、消える。

その時、いつの間にか後ろに立っていた神崎の声が聞こえた。

 

「今の優衣は、俺と優衣が造り出した虚像だ」

 

「お兄ちゃん……」

 

優衣は苦悶の表情で兄を見る。

 

「だがそれがなんだ。お前はお前だ。こうして生きている」

 

「違う!私、本当は、最初からいない!」

 

その時、優衣の体が再び粒子化を始めた。

 

「優衣ちゃん!」

 

「まだだ!その時じゃない!優衣、お前は存在している!意識を持て!

大丈夫だ、俺が必ず助ける!この戦いの最後に得られる新しい命をお前にやる!」

 

神崎が消え行く妹に必死に呼びかける。

ライダーバトルのマスターではなく、一人の兄として。

 

「もういいよ!お兄ちゃん!」

 

「優衣!」

 

「……これでいいんだよ、そうでしょ」

 

「行くな……」

 

悲しみに満ちた表情で手を伸ばす士郎。

 

「お兄ちゃん、もしもう一度絵が描けたら、モンスターなんかのいる世界じゃなくて、

二人だけの世界じゃなくて、みんなが、幸せに笑ってる絵を、

お兄ちゃんと、一緒に……」

 

「諦めるなよ!また兄貴と絵が描きたいんだろ!

優衣ちゃんが諦めることなんかないんだって!」

 

真司は消え行こうとする優衣に必死に呼びかける。

 

「黙れ、お前に何がわかる!何ができる!」

 

「……優衣ちゃんは、お前と優衣ちゃんが造り出した虚像って言ったよな」

 

「だったらなんだ!」

 

「まだ間に合う!連れていけばいいんだよ!

前に、あの世界は現実と虚構の境にあるって浅倉に聞いた!

あそこなら優衣ちゃんの存在を保てるかもしれない!」

 

「優衣を……連れて行けというのか。サイバーミラーワールドに……!」

 

「迷ってる暇あんのかよ!急がなきゃ手遅れになるだろうが!」

 

真司は手近な窓に貼られた紙を破り、ガラス窓の封を開いた。神崎の顔が映り込む。

決心した神崎は、なおも消えようとする優衣の手を取り、ガラスの前に立った。

次の瞬間、二人は反射する窓に吸い込まれていった。

残された真司と蓮は窓を見つめたまま、そこに立っていた。

 

 

 

 

 

少し時を遡る。

 

「オーライ、オーライ、はーいオッケーです!いらっしゃいませ!」

 

立体駐車場で、警備員の青年が赤色灯を振りながら車を停止位置に誘導していた。

そして、駐車した高級車から上等なスーツを着た中年男性が降り、

スーツから財布を出し、1万円札を青年に渡した。

 

「君、車のウィンドウ、磨いておいてくれたまえ」

 

ウィンドウの隅に鳥のフンが落ちていた。

 

「はい、かしこまりました!ありがとうございます!

……いや~しかし、すごい車ですね。こういう車を乗りこなすには、

人間の方もピカピカじゃないと。俺なんかじゃ全然似合わないよ。憧れちゃうよな~」

 

露骨に媚びを売る青年。

中年男性はやれやれ、といった様子で再び財布を取り出し、また1万円札を握らせた。

 

「じゃ、頼んだよ」

 

「いってらっしゃいませ!」

 

青年は最敬礼した。そして手に入れた紙幣を満面の笑みで眺める。

しかし、立体駐車場に不気味な声が響く。

 

「ライダーの力を手にしながら、まだそんな物乞い地味たことをしているのか」

 

神崎だった。磨き上げられた車体からこちらを見つめている。

 

「あ、神崎さん。

だってライダーになったのはいいけど、他のライダー全然いないんですよ。

これじゃライダーバトルどころじゃないし、ミラーモンスターなんか倒したって

賞金が出るわけでもないし。正直、骨折り損のくたびれ儲けっていうか!」

 

青年は不満そうに赤色灯を振りながらうろつく。

 

「ライダーが集結している特殊な世界がある、としたら?」

 

「え、マジ!?そんなところあるんですか!どこ?どこなんですか!?」

 

「どのパソコンでも良い。“艦隊これくしょん”にログインしろ」

 

「え……?艦これって、あの、ニュースになってるやつ?

なんでそれがライダーバトルと関係有るんですか?」

 

神崎は何も答えずただ青年を見る。

 

「……わかりました。今日は早退けしますね!」

 

青年は制服のポケットから茶色いデッキを引っ張り出す。

そして顔いっぱいに笑みを浮かべてデッキを見た。

体調不良を理由に早退した青年は、1Kの狭い家で万年床を押しのけ、

ノートパソコンを置いて起動。

すぐさまDMM.comにアクセスし、艦隊これくしょんにアカウントを作成した。

そして求められるまま必要事項を入力すると、

彼の体は半透明になり、揺らぐモニターに飲み込まれた。

 

 

 

 

 

Login No.012 佐野満

 

 

 

彼自身は知る由もないが、最後のライダーである佐野が艦これ世界に降り立つと、

そこは誰かの書斎らしき部屋だった。珍しそうに周りを眺める佐野。

 

これって本当にゲームの世界なの?

とりあえずデスクにあるペンを手に取ってみたり、本棚にある本を適当にめくってみた。

軍艦の歴史や兵器運用に関するものが主だったが、興味がないのですぐ元に戻した。

 

窓から景色を眺めると、視界に広がる海、そして大きな港。

軍港だが、その手の知識がない佐野は、ただ綺麗だなぁ、と思っていた。

そうしていると、外で階段の上る足音が聞こえ、部屋の前で止まった。

 

コンコンコン

ノックが3回。思わず佐野は返事をする。

 

「は、はいどうぞ!」

 

「失礼するわよ……」

 

ブルーのロングヘアに、宙に浮かぶ耳あてのような装備、

背中に背負った不思議な機械に目を奪われていると、その少女が自己紹介を始めた。

 

「吹雪型5番艦駆逐艦・叢雲よ。あんた、いや、貴方が提督になるに当たって

必要なナビゲーションを務めるわ。よろしく……」

 

どこか元気がない少女に、佐野は子供のように明るい笑みを浮かべて、手を差し出した。

少女はおずおずと手を握る。

 

「俺、佐野満!うわあ、神崎さんの言ってたとおりだ!女の子が兵器背負ってる!」

 

「……それでは、こちらへ。貴方に当鎮守府の主要施設を案内するわ」

 

「うん、よろしくね!」

 

佐野と叢雲は本館から出て玄関前の広場に出た。

その広さも去ることながら、目の前に広がる大海原に見とれていると、

叢雲から声を掛けられた。

 

「ちょっと!工廠はこっちです。あの施設で艦娘や装備の建造、破棄が可能です」

 

「ああ、ごめんごめん!わかった、何か作る時はあの工場だね!」

 

その後、これまで散々行われてきたように、鎮守府をぐるりと時計回りに回って、

艦娘用宿舎にたどり着いた。そこで二人は立ち止まる。

 

「はぁ、疲れた~結構広いんだね、ここ」

 

「ここが、艦娘宿舎です。戦闘で受けたダメージを癒やすお風呂もあります……

それで、あくまで一般論として気を悪くなさらないで聞いていただきたいんですが、

女所帯の世界なので、覗きを警戒した作りになっていません。

できれば、砲を使わざるを得なくなるような行為は謹んでいただけると

お互いのためかと」

 

佐野は、怒りも笑いもせず、叢雲を見つめた。その視線に怯える叢雲。

そして佐野は口を開いた。

 

「だ~いじょうぶ!俺が興味あるのはコレだけだからさ!」

 

彼は親指と人差し指で丸を作ってみせた。

 

「それより……なんだかさ、君、無理してない?」

 

「え?」

 

「最初から気になってたんだけど、その喋り方、なんか無理に作ってるっていうか。

本当の君じゃない感じがする。俺の気のせいかな」

 

叢雲はしばらく迷ってから事情を話すことにした。

 

「別鎮守府の“私”からの警告です」

 

「よその自分?……ああ、君達は全く同じ姿の自分が生まれることがあるって、

神崎さん言ってた」

 

「そう、高見沢鎮守府の“私”から警告があったの。

来訪者の気分を必要以上に害するような態度は避けろって」

 

「そんなのわざわざ警告するようなこと?初対面の人には、笑顔笑顔!」

 

佐野が叢雲にニッコリと笑みを送る。しかし、

 

「違うのよ!前に、“私”のせいで長門さんが……」

 

「何か、あったの?」

 

「実は……」

 

叢雲は佐野に、かつて高見沢鎮守府で起きた悲劇について語った。

その際、犯人が言っていた。“口の聞き方がなってない”、“ガキは嫌いだ”。

そして、犯人は自分に攻撃を仕掛けようとしたが、

長門が自分を庇って首を折る重症を負った。

 

ひょっとしたら、自分の尊大な態度が

侵略行為の引き金になってしまったのかもしれない。

だから、初対面の相手の寛容さに甘えるな。礼節を忘れるな。絶対に。

 

「それが、“私”から全ての叢雲へのメッセージだった……」

 

佐野は黙って話を聞いていた。そして、叢雲に歩み寄り、彼女の肩に手を置いた。

 

「やめようよ、そういうの。お互い辛いだけじゃん。

俺、細かいこと気にしないほうだし、君もいつもどおりでいいと思うけど」

 

ハッ、と叢雲は佐野を見上げる。少々癖っ毛で、彫りの深い顔が微笑んでいた。

……この人なら、大丈夫。な、気がする。彼女は肩に掛けられた手を払って、

 

「き、気安く触らないで、まだ新米のくせに!案内続けるわ、付いてらっしゃい!」

 

「アハハ、それそれ!やっと地が出たね、そうでなきゃ楽しくないでしょ!

ああ、待ってよ~」

 

そして、二人は最後の作戦司令室のそばを通りかかった。

窓から外を見ている長門に、叢雲は佐野に見えないよう笑顔でうなずき、

長門もほっとした表情を浮かべた。

 

「あそこが作戦司令室。

艦隊を出撃させたり、編成したりしたい時は中にいる長門さんか陸奥さんに頼むといいわ」

 

「あの窓際にいる人が長門って人?わぁ、美人だぁ~」

 

「鼻の下伸ばしてんじゃないわよ!……とりあえずナビゲーションはこれで終わり。

一旦執務室に帰りましょう」

 

 

 

そして、再び執務室に戻った二人。そこで佐野は不思議なものを見る。

ナビゲーションを終えた事により現れた01ゲートを見て驚いた。

 

「ね、ねえねえ叢雲!あれは何!?」

 

「もう、肩叩かないで!あれは01ゲート。現実世界に戻るための門よ。

他の提督方はあれを使って現実世界に残した用を済ませたりしてる。

あれが現れたってことは、あんたは晴れて提督になる権利を得たってことになるけど、

どうする。帰る?それともここで司令官やる?」

 

叢雲は佐野に選択を迫る。多分大丈夫だとは思う、でももしだめ「やるやる!俺、ライダーバトルに勝ち残るためにここに来たんだから」

 

ちょっとでも緊張したのが馬鹿みたい……

 

「わかった。それじゃあ、今からあんたが司令官で私が秘書艦。佐野鎮守府の設立ね」

 

「佐野鎮守府って、俺の基地!?すっげえ!」

 

「大声出さないで、子供じゃあるまいし。はぁ、大丈夫かしら……そうだ、はいこれ」

 

叢雲は佐野に一枚の資料を渡した。

各鎮守府の一覧と、そこを治めるライダー達の大まかな情報が記されている。

佐野は感心しながら受け取った資料を眺める。

 

「う~ん、もう割りとライダーバトル進んでるみたいだね……」

 

懸命に資料を読む佐野を見て、叢雲は尋ねてみた。

 

「ねえ、あんたは何が望みでライダーになったの?」

 

「決まってるじゃん!すんごい金持ちになって、一生安泰な生活をするためだよ!」

 

「はぁ、呆れた。もっと人に言えない宿命とか背負ってるかと思ったんだけど?」

 

「……いや、本当に。外じゃ、俺達バイトなんて使い捨てなんだ」

 

笑顔を振りまいていた満が一瞬悲しげな眼差しを見せた。

だが、次の瞬間、佐野の耳に鈴の音のような金属音が。危機を察知し、窓の外を見た。

広場で真っ赤なヤモリ型モンスター・ゲルニュートがヒタヒタと歩き回っている。

 

クコケケケ……

 

「ミラーモンスターだ!行かなきゃ!」

 

「ええっ!?行かなきゃって、どうするの?」

 

佐野は答えず、ポケットから取り出したカードデッキを左手に持ったまま、

両手の親指と人差し指を立て、両腕をまっすぐ交差。窓ガラスにかざした。

窓ガラスの象と佐野の腰にベルトが現れる。

 

そして構えた両腕を一瞬体に近づけ元に戻し、交差した両腕を左右に開く。

右手の小指を立て、右手を回しながら左手でデッキを装填。

同時に三方向から現れた光の輪郭に身を包まれ、

佐野は獣の皮を張られたアーマーと二本角のついたヘルムを装備した、

仮面ライダーインペラーに変身した。

 

「これが、仮面ライダー……」

 

目にも止まらぬトリッキーな手の動きと、始めて見るライダーの姿に目を奪われる叢雲。

そんな彼女に構うことなく、インペラーは窓から飛び降り、

ゲルニュートへ向けて突撃した。

 

 

 

幸い昼休憩ということもあり、ほぼ全ての艦娘が食堂にいたため、

被害は今のところなかったが、窓からその姿を見た者達の悲鳴が聞こえてくる。

早く始末しなければ。

 

インペラーは他ライダーより秀でた高い脚力でゲルニュートに飛びかかり、

蹴りを放つが、殺気に気づいたゲルニュートに回避される。

敵は背負った巨大な十字型のブレードを手に取り、戦闘態勢に入った。

インペラーも右足を上げ、左手で器用にカードを1枚ドロー。

右脛に装備されたガゼルバイザーに装填した。

 

『SPIN VENT』

 

カードが発動し、インペラーの右腕に

一対の細身のドリル・ガゼルスタッブが装着された。

 

「行くよ!!」

 

高速回転するドリルを手に、ゲルニュートに攻撃を仕掛けるインペラー。

ゲルニュートもブレードで迎え撃つ。ガゼルスタッブを突き刺そうとするが、

ブレードの刃をドリルの間に入れて受け止められた。鍔迫り合いをする気はない。

 

最初の攻撃をさっさと諦め、軽く後ろにジャンプ。次の攻撃の機会を窺う。

だが、一瞬の隙にゲルニュートは高く跳躍し、

吸盤の付いた手で本館3階辺りの壁にへばりつく。

そして、手裏剣型のブレードを思い切り投げつけてきた。

 

すかさず横にローリングして回避するが、立ち上がった瞬間、

ブーメランのように戻ってきたブレードを食らってしまった。

 

「ぐわああっ……!!」

 

コケケケケケ……

 

そんなインペラーを嘲笑い、手元に戻ったブレードをキャッチするゲルニュート。

インペラーはゆっくり立ち上がりながら考える。

なんか分が悪いなぁ。あの手裏剣なんとかしなきゃ。カードを1枚ドロー、装填。

 

『ADVENT』

 

カードの力が発動。インペラーの契約モンスターの一体、ギガゼールを召喚した。

インペラーは四肢から発する電気信号でガゼル型モンスター・ギガゼールに命令を送る。

 

お前の方にブレードが飛んできたら、体を張ってでも止めるんだよ。

 

返事をするようにギガゼールが唸る。

その時、ゲルニュートが再び巨大な手裏剣を放ってきた。

その軌道を見極めるインペラー。敵が狙ったのは増援のギガゼールだった。

 

ごめん、頼むね!

 

ギガゼールはダメージ覚悟で身体全体でブレードを受け止め、両腕の力で回転を止めた。

そしてインペラーは、大振りの攻撃を放って隙が出来た

ゲルニュートのいる方に向かって駆け、その跳躍力で本館3階へジャンプ。

真っ赤な怪物を飛び越し、インペラーは上方からゲルニュートに連続蹴りを浴びせ、

とどめの回転蹴りを叩き込んだ。

 

「はっ、たたたたっ!とぁっ!!」

 

ブゲェッ……!!

 

頭に受けた激しい衝撃でバランスを崩し、地上に転落するゲルニュート。

大の字になって動けない敵を見逃さず、インペラーはガゼルスタッブを真下に向けた。

 

「さよーなら」

 

そして、右腕を敵に向けて一直線に急降下。

落下と体重と武器本来の鋭さでガゼルスタッブがゲルニュートの腹を貫通し、

致命傷を負わせた。ゴスン!と地面に刺さったドリルを抜き取ると、

動かなくなった敵の体が蒸発し、消滅していった。

 

「ふぅ」

 

インペラーは変身を解くと、窓から戦いを見守っていた叢雲に手を振った。

 

「どう?俺強いでしょー。ね!」

 

「あ、ああ、うん。やるわね……」

 

 

 

執務室に戻った佐野は、叢雲とソファに座って向かい合っていた。

 

「頼りなさそうだけど、やっぱりライダーなのね。やるじゃない」

 

「いやあ、照れるなぁ」

 

佐野は屈託のない笑みを浮かべて頭をかく。

 

「調子乗らないの。……で、相談したいことって何?」

 

「うん、今からいろんな鎮守府を回ってスポンサーを探そうと思うんだ」

 

「へ?スポンサー?」

 

思わず変な声が出てしまった。

スポンサー、つまり金銭的支援者を探すライダーなど聞いたことがない。

 

「いや、あんた、ライダーバトルしに来たんじゃないの?」

 

「そうだよ?でも、ライダーだけじゃなくて、

さっきみたいにミラーモンスターとも戦わなきゃいけないんだけど、

そんなの倒したって賞金が出るわけでもない。

だったら誰かお金持ちのライダーに雇ってもらって、一緒に戦ったほうが、

一人で戦うより有利だし、何よりお金が入ってくるでしょ!

凄い時間の有効活用だと思わない?」

 

「あ、あんたねえ……」

 

すっかり呆れる叢雲。ライダーバトルを何だと思っているのだろう。

 

「う~ん、やっぱりお金持ちが最優先で、その次に強そうな人!」

 

そんな彼女の視線に気付かず、佐野は叢雲にもらったライダーの一覧を見て

考え込んでいる。悪い奴じゃないけど、変なのが来ちゃったわね。

 

「よし決めた!ねえ、この北岡って人のところに行きたいんだけど、地図とかない?」

 

「鎮守府間を移動するには、桟橋に停めてある転送クルーザーで転移するの。

この世界は現実世界とは違って各エリアは転送先のデータを

ダウンロードする形で移動する仕組みになってて、

それに必要なのが転送クルーザーってわけ。

艦娘しか使えないから使いたいなら私か適当な艦娘に声かけて」

 

「じゃあさ!さっそく北岡さんのところに連れてってよ!」

 

「はいはい。言っとくけど、この鎮守府の恥になるような粗相はしないでよ」

 

「信用ないなぁ……」

 

 

 

 

 

──北岡鎮守府

 

 

「すっげえ!なに、今の!?なんか世界が真っ白になって空になんかワーッて……」

 

転送クルーザーの転送処理を初めて見た佐野は、目的地に着くなり歓声を上げた。

 

「言ってるそばから子供みたいにはしゃがないで!まったくもう!」

 

「ごめんごめん。で、さっきのって一体何だったの?

転送先だのダウンロードだのよくわかんないんだけど」

 

「サーバー管理者の上級資格がないなら説明だけで丸一週間かかるけどいい?」

 

「あ、やっぱいいや。どの提督も執務室にいるんだよね、じゃあ行こう!」

 

「こら、待ちなさい!」

 

 

 

トントントン

 

北岡が吾郎が入れた紅茶の薫りに酔っていると、突然の来客が。

浅倉ならこんなに行儀よく訪ねてくるはずもないし、スケジュール帳にも予定はない。

飛鷹を見るが肩をすくめるばかりだ。誰だろう。

北岡が声を上げる前に吾郎がドア越しに対応に出た。

 

「どちら様でしょうか」

 

“あ、突然すみません。俺、仮面ライダーインペラーの佐野満と申します!

誤解しないでください!今日はライダーバトルじゃなくて、

ビジネスのお話をしたいと思ってお邪魔しました”

 

吾郎がこちらを見る。ビジネス、か。

ライダーとビジネスがどう繋がるのか興味が出たので

聞くだけ話を聞いてみることにした。黙って頷くと吾郎がドアを開けた。

 

「どうぞ」

 

「失礼します!うわぁ、気品にあふれるオフィスですね!あ、貴方が北岡先生ですね。

はじめまして、先程も申しましたが、俺、こういう者です!」

 

佐野はカードデッキに入れていた名刺を抜き取って北岡に渡した。

 

<仮面ライダーインペラー 佐野 満>

 

「ふぅん。まぁ、一応ビジネスマナーだからね」

 

胡散臭そうな目で佐野の名刺を見ると、北岡も名刺入れから一枚渡した。

 

「なるほど、じゃあおたくも新人ライダーの1人ってわけ?」

 

「はい、そうなんです!凄いな、弁護士先生かぁ。

それに俺、先生みたいにかっこいい人初めてお会いしましたよ」

 

「確かに俺は金持ちで天才でかっこいいけど?それが何か」

 

「あ、ええ。できれば……先生に雇ってもらえないかなって。俺、強いっすよ。

きっと役に立つと思うけどなぁ」

 

「あぁ、いいよいいよ吾郎ちゃん。この人もうすぐ帰るから」

 

吾郎が佐野に出そうとした湯呑みを持って去っていった。

 

「あれ?だめっすか」

 

「あのさ、俺に取り入ろうとしたって無駄だから。

それにライダー同士で組むの、性に合わないんだよね」

 

「残念だなぁ、じゃあ、他に知ってるライダーが居たら紹介してもらえません?

できれば紹介状かなんか書いてもらえると嬉しいですけど」

 

「ふーん、紹介状ね……いいよ。そこ座って待っててよ」

 

「ありがとうございます!やった~」

 

そして、佐野はソファに座り、北岡は10分程度かけて便箋にペンを走らせた。

 

「佐野君だっけ?できたよ、ほら」

 

北岡は白い封筒に手紙を入れて佐野に手渡した。

 

「本当に、ありがとうございました!俺はこれで!」

 

用が済んだら佐野はとっとと執務室から出ていった。呆れた飛鷹が北岡に話しかける。

 

「なんだったの、あの人。金でライダーバトルやるとか信じられない」

 

「俺に聞かれても困るよ。しかし、あんなのがライダーとはねぇ。世も末だよ」

 

「全くです……」

 

室内の3人が同時にため息をついた。

 

 

 

桟橋で待っていた叢雲に佐野が手を振りながら走ってきた。

 

「おーい叢雲!大成功!

契約はできなかったけど、他のライダーの人に紹介状書いてもらった!」

 

「大声出さないでって言ってるでしょう!紹介状?一体誰宛なの」

 

「浅倉威っていう人」

 

「あんた馬鹿じゃないの!?私があげたライダーの一覧見なかったの?」

 

「うん、一番凶暴なライダーなんでしょ。大丈夫。俺、人のご機嫌取るの得意だから」

 

「はぁ……浅倉提督がキレる前に逃げるのよ?」

 

二人は再度転送クルーザーに乗り込み、叢雲が舵を握った。

 

 

 

 

 

──浅倉鎮守府

 

 

その日、浅倉は珍しく薄暗い穴蔵から出て広場でうろついていた。

小石を蹴飛ばして噴水に入れたり、木の枝を拾って軽く振ってみたり。

特に意味はなかった。なんとなく外で体を動かしてみる気になったのだ。

そんな彼を見る艦娘達の目は二種類。

 

一つはまた何か面白いことをしでかすんじゃないか。

彼にとっては昔のことだが、深海棲姫撃滅の衝撃は大きく、

浅倉は今だ一部の艦娘の間で、いわゆる“神”のような存在であり続けていた。

 

もう一つは正反対で、その刃が自分達に向くのではないかという恐れ。

彼の殺人犯としての素顔は既に皆が知るところであり、

彼が破壊衝動を今度は艦娘に向けるのではないかという危惧だった。

 

だが、そんなことはどちらも知ったことではない浅倉は

木の棒で噴水の水たまりをかき回していた。その時。

 

 

「すいませーん、先輩!」

 

 

慌てて浅倉に走り寄って転ぶ佐野。だが、気にせず転がりながら話し続ける。

 

「はじめまして!いやあ、お噂はかねがね!鬼神のような戦いぶりだったとか!」

 

やっと起き上がるがその口が止まることはなかった。

 

「はは……いやぁ、お強い!凄いなぁ……」

 

「なんだお前は!?」

 

さすがの浅倉もこの珍妙な訪問者に驚いたようだ。

 

「あ、失礼しました。俺、こういうもので……」

 

佐野は浅倉に名刺を渡した。が、受け取った浅倉は一瞬目を通すと投げ捨てた。

“仮面ライダー”の文字に反応したのか、浅倉は佐野をじっと見る。

気まずくなった佐野は急いで上着のポケットから白い封筒を取り出した。

 

「あぁ、これ、北岡先生に書いてもらった紹介状なんですけど……」

 

それを差し出すと、浅倉はひったくるように受け取って封を破いた。

 

「あ、お疲れでしょう?俺、肩揉みますから……そういえば先輩、

どっかで見たことあるような。もしかして、テレビに出てませんでした?芸能人とか!」

 

おべんちゃらを使いながら浅倉の肩を揉む佐野。しかし、浅倉が封筒の中身を見せた。

 

「なんだこれはぁ?」

 

 

<まぬけ>

 

 

「舐めてるのか……」

 

青くなる佐野。浅倉がじっとこちらを見ている。

 

「い、いえ。それは、その……ご、ごめんなさい、ごめんなさい!!」

 

佐野はパニックになり一目散に逃げだした。

 

 

 

ほうほうの体で桟橋にたどり着いた佐野は完全に息が上がっていた。

 

「はぁ、はぁ……ひどいよ北岡先生」

 

「何があったのよ、そんなに急いで」

 

「大丈夫、ちょっとしたアクシデントだから……えと、次はどこ行こうかな」

 

「まだやるの?」

 

「当然!せっかくライダーの力を手に入れたんだから、最大限活かさないとね」

 

活かす方向を間違えている、と言おうとしたが、

どうせ聞き入れやしないと思い直し、結局黙っている叢雲だった。

 

 

 

 

 

──???

 

 

二人は鎮守府の広場に降り立った。優衣は神崎に手を取られ、艦これ世界に降り立った。

いや、正確には……

 

「優衣、ここなら安心だ。誰もいないが、代わりに誰もお前を傷つけない」

 

「お兄ちゃん……」

 

あの屋敷から、幾つものミラーワールドを経由してたどり着いた、

サイバーミラーワールドのひとつ。

 

「ここはダミー鎮守府。

元々、艦隊これくしょんの新規キャラクターや特殊海域実装前に、

テスト用のエリアとして使われていたが、新機能の実装等で仕様が合わなくなり、

今は放棄されている……優衣、具合はどうだ」

 

「……もう、大丈夫。頭も全然痛くないし、

上手く言えないけど、身体もなんだかはっきりしてるような気がする」

 

「よかった……」

 

安堵する神崎。真司の予想通り、現実でも虚構でもあるこの世界では、

優衣は存在し続けることができる。だが、優衣は神崎の手を握り返して懇願する。

 

「よくないよ。私が無事なら、もう満足なんでしょう?

ライダーバトルなんかやめて、ミラーワールドを閉じて。

ライダーの人達に殺し合いなんかさせないで!ゲーム世界のみんなを巻き込まないで!」

 

「……それはできない。お前をこんなところで独りにはさせない。

必ずお前に新しい命を持ってくる。お前には楽しい人生が待っているんだ。

こんなデータの海の片隅で終わらせたりはしない。絶対に!」

 

「やめて!これ以上続けるなら、もうお兄ちゃんを兄だとは思わない!」

 

「優衣……お前は絶対に消えない。そのためだけに、俺は存在してきた」

 

必死の覚悟で神崎に訴える。だが、その叫びは神崎には届かなかった。

 

「どうして……!私、みんなの命と引き換えの人生なんかいらない!」

 

優衣はその場にうずくまる。なぜたった一人の兄妹なのにわかりあえないのだろう。

その目から涙があふれてくる。見かねた神崎が視線をそらす。

 

「優衣、生活に必要なものはいくらでもある。この本館を探すといい。

毎日、日付が変わると元通りになる……寂しい思いをさせるが、待っててくれ」

 

「お兄ちゃん!」

 

優衣が呼び止めるが、神崎は噴水の水面の中へ去っていった。

 

「真司君、蓮、お兄ちゃんを止めて……」

 

優衣のつぶやきは届くはずもなく、

サーバーの中でただのテキストとして処理されていった。

 

 

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