【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】 作:焼き鳥タレ派
「なにぃ、“16歳の少年が両親を殺害。動機は「僕の世界をデリートしたから」”だぁ?
まったく、最近のガキは何考えてんのかさっぱりわかんねえな!」
大久保はため息をついて新聞紙をデスクに放り出した。
「今時こんな事件珍しくもありませんって。
編集長も警察に知り合いがいるならご存知でしょう」
「まぁな。しかし世も末だなぁ、おい。連続失踪事件に少年犯罪、
おまけにうちの真司は行方不明と来たもんだ。
……令子、あれからなんか収穫あったのか?」
「いえ、確かに秋葉原は艦これの話題で持ちきりでしたが、彼の行方に付いては何も。
ただ一つ気になったことが」
「なんだそりゃ」
「秋葉原で聞き込みをしていたら、妙な強盗にあったオタクがいたんです」
「妙な強盗?詳しく教えてくれ」
「はい。外で艦これをプレイしていたら、いきなりナイフを突きつけられて
自分のアカウントを作るよう迫られたそうです。
でも、作った途端、犯人は何も盗らずに消えてしまったとか」
「消えた?“逃げた”じゃなく?」
令子らしくない曖昧な表現に彼女の意図を確認する大久保。
「ええ。隠れるような場所もないところで、まるで完全に消滅するように」
「う~ん、普通の事件なら“ただの変人”で終わらせるとこだがっ!
……あいにく“失踪者”が出てる時点で繋がってんだなぁ、これが」
「編集長はどうでしたか?警察の方のコネがあるそうでしたが」
「恥ずかしながら何も出ず、だ。まずDMM.comの登記簿を調べたら、
確かに会社は存在したがオンラインゲームとは縁もゆかりもないとこだった。
島田が見つけた変なデータも知り合いの刑事に持ってったが、
事件性がないから動きようがない、だとさ。とりあえず捜索願は出しといたが」
「ウフフフフ……」
急に島田が妙な笑い声を上げたので思わず彼女を見る二人。
「おい、どうした島田……?変なもんでも食ったか?」
「大丈夫、島田さん?」
「違うんですよぉ、その艦これなんですがね、もう
“未来のゲームが日本にある”って噂がネットフォーラムで世界中に広がってまして。
世界の名だたるハッカー達が“艦これ”のハッキングレースを始めてるんですよぉ!
ひょっとしたらこのゲームはタイムマシンの発明に繋がるかもしれないんですから!
CIAまで血眼になってゲームデータの特定に全力を注いでるんですよ~」
呆れる令子。そして天を仰ぐ大久保。
「あのなぁ、もっと、こう……別の観点から調べてくれよ!
ハッキングとかそっち系はお前が頼りなんだから!
タイムマシンは置いといて真司の方な?調べてくれ。頼んだぞ」
「タイムマシンで城戸君がいなくなる前に
タイムトラベルするのもありだと思うんですけど……」
「それは間違いなく近道に見える遠回りだ。とにかく地道な情報収集よろしく頼む!」
「わかりました~」
せっかくの名案(?)を却下され、若干むくれつつ
艦これのサーバーへのアクセス状況を改めてチェックする島田。
ほんの一週間前とは比べ物にならないほどのアクセス件数。
なにしろ全世界のハッカーが1つのゲームの謎を解き明かそうと殺到しているのだから。
はぁ、とりあえず都内からのアクセスに絞りますか。
島田はコマンドを打ち込み、東京都内のIPアドレスのみを抜き出し、ソートした。
うわぁ……まだこんなにある。
「とにかく城戸君の自宅周辺のIP洗ってみますか」
うんざりしつつ一行一行怪しいログがないか確認する島田。
30分ほどしてあくびが出そうになったので噛み殺しつつ、
一旦休憩しようかとモニタをスリープしようと画面近くのボタンに手を伸ばした時、
島田の目に妙な物が飛び込んできた。思わず真司のデスクを見た。
当然誰もいるはずはない。再度モニタを見る。確かにある。
う~ん。ない、ある、ない、ある……
島田がキョロキョロしながら首をかしげているので、大久保が声を掛けた。
「どうした島田。なんか見っかったか?」
「はい~誰かが城戸君のIPで艦これにアクセスしてるんです」
Login No.004 秋山蓮
真司が転移した鎮守府とはまた別の鎮守府。
セーラー服の艦娘が黒い革ジャンの男を追いかけている。
「しれーかーん、待ってください!……あーやっと追いついた!
呼んでるんですから止まってくださいよ!」
「……なんだ」
「さあ、どうぞ!司令官にぴったりです!」
吹雪は真っ白な軍服一式を蓮に見せつけた。
蓮は鬱陶しそうに顔をしかめて横を通り抜けようとする。
すかさず吹雪は再び蓮の前に回り込んだ。
「いらん、邪魔だ」
「提督として活躍していただく以上、今日こそこの軍服に着替えてもらいます!」
「言ったはずだ。俺はここで戦うが提督とやらになるつもりはない。
食い扶持分の深海棲艦は倒す、それだけだ」
「だーめーでーすー!!
みんな初めて“人間の”提督が来てくれたって喜んでるんですから!
司令官に艦隊指揮を取ってもらいたいって楽しみにしてるんです!」
「そんなものは長門とかいう女の方が向いているだろう。
俺は人にあれこれ指図するのもされるのも嫌いだ」
「とにかく一度着てみてくださいよー!絶対似合いますから!」
「お前もつくづく頑固だな。
とにかく俺はそんな息の詰まりそうな服を着るつもりはない。もう行く」
「あ、待ってくださーい!」
幸いこの鎮守府には狼藉者が流れ着く前に秋山蓮が転移してきたようだ。
蓮が艦これ世界に転移したのは1週間前。
愛車のシャドウスラッシャー400で高速を飛ばしていたら、
いつもの金属の反響音が聞こえてきた。これはミラーモンスターが現れるか、
もしくは、神崎士郎。彼がコンタクトを取ってきた時に
ライダーだけが聞き取れるものだ。
周囲の車両、ミラーを確認してもモンスターはいない。しばらく走っても音は止まない。
ならば。蓮は最寄りのサービスエリアに入り、駐輪場にシャドウスラッシャーを止めた。
そしてシートに腰を預け、前を向いたまま話した。
「何の用だ」
「このままでは、お前は、ライダーバトルに勝利することはできない」
その言葉に振り向く蓮。いつの間にか車体の反対側にコート姿の男が立っていた。
「どういう意味だ」
「……鏡を向かい合わせて遊んだことはあるか。
互いが互いを映し合い、無限の世界を形作る」
「質問に答えろ!!」
激高して詰め寄る蓮。しかし神崎は話を続ける。
「その無限の世界の中から、少々特殊なミラーワールドを選び、
ライダーバトルの舞台を移した。他のライダー達も皆、そこへ集まっている。
つまり、お前が現実世界にいる限り、ライダーを倒すことはできない」
「どこだ、どこにいる!」
神崎のコートの襟を掴んで怒鳴る蓮。
彼は構わずポケットから1枚のメモを蓮に寄こした。
そこには秋葉原の住所と、店名らしき“PC喫茶 ネットアミューズ”、
そして“艦隊これくしょん”の文字が。
「なんだこれは」
「そのライダーが集うミラーワールド。いわば、サイバーミラーワールドへの入り口だ」
「この店がその変なミラーワールドと何の関係がある、それに何だ、
“艦隊これくしょん”?これは何だ。なぜ平仮名だ。
ライダーバトルとの関係を答えろ!!」
「お前だけにこれ以上ヒントをくれてやるわけにはいかん。
他にノーヒントでサイバーミラーワールドにたどり着いた者もいる。
もっとも、導いたのは他ならぬ俺だが。とにかく、その店に行って入り口を探し出せ。
お前にできることはそれだけだ」
「……二度と勝手な真似はするな」
蓮は神崎を一睨みすると、再びシャドウスラッシャーにまたがり発進した。
そして、とうに日が落ちた頃、蓮はそのビルに着いた。
細長いビルの出入り口には黄色いランプが光る“ネットアミューズ 3F”の看板が。
蓮は狭い階段を上り、店名のプレートが張られたドアを開ける。
そこには漫画やネットにはてんで興味がない蓮には無縁の世界が広がっていた。
左手のカウンターからおっとりした店員が声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ~ラウンジと個室、どちらになさいますか?」
「……どう違うんだ」
「ラウンジは自由なお席で漫画読み放題となっております~
個室はラウンジのサービスとネットが使い放題。
また、どちらもドリンクは飲み放題でございます~」
ここか。
今でこそネットカフェはコンビニ並に至る所に存在し、
ホテル代わりに利用する者もいるくらいだが、
2002年当時は都市部に数えるほどしかなかった。
「個室で頼む」
「かしこまりました~では、プランはどうなさいますか?
基本料金は最初の30分が300円。以後15分ごとに100円となっております。
また、3時間まとめて900円のPCパックプランもございますが、
いかがいたしますか~?」
どうするか。“艦隊これくしょん”の一語を調べるだけなら30分で十分な気もするが……
いや、ライダーバトルが賭かっている。焦って情報を見落とすわけにはいかない。
腰を据えて掛かるべきだ。
「……3時間で」
「ありがとうございます~では、こちらの伝票をご精算の際にお渡しください。
お客様のブースは17番です」
店員から伝票を挟んだプレートを受け取った蓮は
薄暗い店内から自分の個室を見つけ、中に入った。
人一人がなんとか身動きできる狭い空間。椅子に座ると蓮は若干緊張した。
何しろパソコンを触るのは初めてなのだ。
とりあえずモニタの右手にある装置のスイッチを押す。
真っ暗な画面に、突然明るい空を背景に四分割のロゴが表示された時は
思わず身を引いた。いや、こんなところでもたついてはいられない。
蓮は神崎から受け取ったメモを取り出した。取り出した……が、
どうすればいいのかわからない。どうすればいい、
この画面からミラーワールドに入るべきなのか?彼の心に危機感が募る。
が、それも束の間。よく見るとモニタの影にラミネート加工された、手作りの
“初心者のお客様へ:インターネットの楽しみ方”という手引書があったので救われた。
蓮は改めてパソコンに向き合う。
まずこのIEとやらを連続で押して……それから15分。ようやく蓮は検索サイト
Uboaa!Japanにたどり着いた。よし、ここで知りたいことが調べられるらしい。
蓮はテキストボックスをクリックし、“艦隊これくしょん”を入力すべく、
引き出し式拡張デスクを引いてキーボードを取り出し、愕然とした。
なんだこれは!どうなってる!文字の並びがメチャクチャだ。なぜ50音順じゃない!?
いや、いい。文句を言ってる時間が惜しい。とりあえず“か”だ。
蓮は人差し指で“か”のキーを入力。が、表示されたのは“t”。やはり変だ。
デスクトップ画面右下の「トラブル」ボタンをクリックし、店員を呼び出す。
すぐに先程のおっとりした店員が駆けつけてきた。
「どうかなさいましたか~?」
「おい、キーボードが変だぞ!“か”を押したのに“t”が出た。
そもそも文字の並び順が変だ。なぜ、あいうえお順に並んでいない!」
「ああ、お客様、お静かにお願いします。
パソコンは通常ローマ字入力となっておりまして、“か”を入力する場合、
kとaを打つ必要があるんです。キーの並び順ですが、
これはQWERTY配列といいまして、人間工学に基づいて、ブラインドタッチ、
つまりキーを見ずに入力する際に最も効率的な並び順なんです」
「そ、そうか……助かった」
簡単な仕切りで区切られているだけの周りのブースから失笑が聞こえてくる。赤っ恥をかいた蓮が再び席につくと、
店員が去り際に、
「漢字に変換する時はスペースキーですから。下の方の長いボタン」
と言い残して行った。……まぁいい、まぁいい、とにかく情報収集だ。
今度こそ蓮は“艦隊これくしょん”を検索した。数秒待つと、検索結果がずらりと並ぶ。
今、最も注目を集めているゲームだけあって、
結果一覧の最も上にヒットしたのは幸いだった。蓮はURLをクリック。
すると、画面に艦娘達が勢揃いし、“今すぐ出撃!”というボタンが
これ見よがしに浮かんでいたので、押してみた。
……この先に神崎が言っていたサイバーミラーワールドとやらが
存在するのは間違いないだろう。蓮は左手をカードデッキに添えながら、
画面が切り替わるのを待ったが、また壁にぶち当たる。
なんでも、ゲームに参加するにはアカウントを作成する必要があり、
アカウントの作成にはメールアドレスが必要らしい。アカウント?何だそれは。
メールアドレス?携帯のやつとはどう違う……
蓮はうなだれて「トラブル」ボタンをクリックした。
「これでアカウントができましたんで、それじゃ失礼します~」
「すまない。本当にすまない……」
プッ、クスクス……
結局、蓮は店員に必要な情報を口頭で告げて、
メールアドレスとアカウント作成を全てやってもらった。
個人情報保護法成立前の柔軟性ある対応である。
ともかく、ようやく蓮は艦隊これくしょんの世界の入り口に立った。
流石にもう店員を煩わせる必要はない……と思う。
提督名を入力しろ?とりあえず本名でいいだろう。次は、秘書艦を選べ?
4人くらいいるが、違いが分からん。最初のやつでいい。
蓮が「決定」ボタンを押すと、突然彼の視界が揺らいだ。
そしてPCモニタがぐんぐん目の前に近づいてくる。な、んだこれは!ふざけるな!
デスクにしがみつくが、体全体が霧のように実体を失い、抵抗が無意味になり、
蓮はそのままモニタに吸い込まれていった。
……
………
「ここは……どこだ」
蓮は明治時代の洋館を思わせる趣の部屋で目を覚ました。質素なデスクと本棚。
他には何もない。外には赤レンガの大きな建築物と巨大なクレーンが。
目の前に広大な海が開けていることを考えると、ここは造船所か港湾都市らしい。
ここが神崎の言っていたサイバーミラーワールドなのか?
考え込んでいると、タタタタ……と階段を上る足音が近づいてきて、
この部屋の前で止まった。そして3回ノックすると、こちらの返事も待たず、
見覚えのある少女が元気よくドアを開けた。
「はじめまして、吹雪です。よろしくお願いいたします!」
「……まさかあの時選んだやつが秘書になるとはな。
他の大人しそうなやつにすればよかった」
「ひどい!確かに電ちゃんは大人しくて可愛くて人気がありますけど、
私だって、私だって、えーと……努力では誰にも負けません!!」
「わかった、わかったから頼むから大声を出すな」
二人は本館前広場のベンチに座っていた。
吹雪から逃げ回るのに疲れて座り込んだ蓮の隣に、吹雪が落ち着いたという形だが。
彼女たち艦娘は自分の判断で入渠したり装備換装することはできないと述べたが、
体力や改装等、ユーザーの意思を伴わないステータスの具体的変動がない限り、
サーバーの中で人間と変わらない彼女たちなりの人生やプライベートを送っているのだ。
「……それで、次の出撃はいつになる。俺も連れて行け」
「それを決めるのが司令官じゃないですか!先輩達も腕が鳴るって言ってましたよ!」
「何度も言わせるな。俺は人を使うのも使われるのも嫌いだ。
長門に聞いてこい、秘書だろう」
「もう、都合のいいときだけ秘書扱いして!
それで長門さんのところに行くと今度は“提督の指示を仰げ”って言われるんですよ!?
私どうすればいいんですか!」
「知らん」
「そんな無責任な~」
──そう、無責任。貴方のような人は、帰って頂いて結構です。
静かで美しい声が聞こえてきた。
いつの間にかベンチのそばに、弓道着に青の袴を履いた艦娘が立っていたのだ。
「あ、加賀さん。おはようございまーす!」
立ち上がって挨拶する吹雪。
蓮は面倒くさそうな奴が現れた、と言いたげな渋い表情を浮かべる。
「誰だお前は。お前に指図される覚えはない。話は聞いてたんだろう」
「人に名を聞く時は」
「どうでもいいから言わなくていいし
俺も名乗る気はないから回れ右してさっさと失せろ」」
「ちょっ、司令官!この方は一航戦の正規空母、加賀さんです!
あまりわだかまりを残さないほうが……」
「この世界に来たからには提督としての役割を果たす義務があるにも関わらず、
それを放棄し、自分の都合のいいときだけ私達の戦いに介入する。
他の人はどうか知りませんが、私は貴方のような人は要りません。お帰りください」
「一個だか二個だか知らんが、正規なんとかは数分前の会話も覚えられないほど
馬鹿みたいだな。俺は、指図も、命令も、反吐が出るほど嫌いだ」
「……何ですって」
加賀の目尻が僅かに動く。
「司令官!止めてください!ああ、加賀さん!?
司令官はちょっと不器用なところがあって……」
「ろくに自分の責任も果たせない人に、一航戦の誇りを侮辱されたくはありません。
撤回してください」
「断る。俺は俺の目的の為に戦う。それが嫌なら長門に泣きついて俺を首にしてもらえ。
……そろそろ部屋に戻る」
「どうせ、システム上そんなこと不可能だと知っての虚勢なんでしょうね。
それで何かと戦おうなど、ちゃんちゃらおかしいです。
“敵”の前に犬死にするのが関の山」
今度は立ち去ろうとした蓮の足が止まる。振り向かずに蓮が答えた。
「それで挑発しているつもりならお笑い草だ。
どうせ頭に載っけてるのは阿呆鳥なんだろう」
「二人共やめてください!」
「貴方は黙ってて。
どうせこんな奴、あの鎮守府を傷つけて行った“イレギュラー”に決まってる……!」
「そんな、それはあまりにも!」
「くだらん話で時間を取るな。用がないならもう行くぞ」
「その前に、今の言葉を撤回しなさい」
表情を崩さず、蓮に刺すような敵意をぶつける加賀。だが、蓮は悪びれる様子もなく、
「ああ悪い悪い。船底にくっついてる馬鹿貝の方がぴったりだな」
「こいつ……!!」
「ああ…もう、長門さん呼んできます!」
まずいことになっちゃったなぁ、もう……
吹雪は作戦司令室に走っていった。
「おい、さっきシステムがどうとか言ってたな。説明しろ。
なぜ長門が俺を首にできない」
「そんなことも知らずにここに来たの?私達はゲームキャラ。
上位存在、すなわちプレーヤーたる提督には
決して逆らうことができないようになっている。つまり貴方」
「ほう?面白いことを聞いた。なら、この欲しくもない権限を持ってる俺が許可する。
長門とお前は俺が戦力にならないと判断したとき、俺をこの世界から追放できる。
攻撃を加えることもできる。なんでもありだ。
お前がやたらこだわってる一航戦とやらの力を見せてみろ」
「ふっ、ただの人間に何が」
「ヘンテコ世界で引きこもってるお前が知らんのは無理もないな」
蓮は革ジャンからカードデッキを抜き取った。
「一体何をするつもり?」
蓮は答えることなく、広場の噴水に駆け寄り、
水面に蝙蝠のエンブレムが施されたカードデッキをかざした。
デッキを水面にかざすと、水面と現実世界の蓮の腰にベルトが現れる。
そして右腕を曲げ、大きく体ごと振りかぶり、
「変身!!」
ベルトにデッキを装填すると、蓮の身体が三方向から現れたライダーの鏡像に包まれ、
仮面ライダーナイトが現れた。漆黒の甲冑に身を固めたその姿は西洋騎士を思わせる。
「なっ……!!」
“やだ、なに!?”
“提督が騎士になっちゃった……”
“新しいアップデート?聞いてないんだけど”
「ここでやり合うわけにもいかん、場所を変えるぞ」
「指図は嫌いじゃなかったの?」
「周りの連中を巻き込んでもいいなら好きにしろ」
「……っ!口の減らない男」
30分後。本館から西にある広い運動場の真ん中で、ナイトと加賀が対峙していた。
巻き添えを出さないように場所を変えたつもりが、
提督と一航戦の一騎打ちの知らせは瞬く間に広がり、ギャラリーがギャラリーを呼んで、
運動場をちょっとしたコロシアムに変えてしまった。
「あああ、どうしよどうしよ!司令官と加賀さんが決闘だなんて!
私のせいでどっちかが消えちゃったら……」
慌てふためく吹雪に長門が優しく声をかける。
「安心しろ、お前のせいじゃない。それにさっきシステム変更の信号を受信したが、
死者が出ない仕様になっていた。決闘のルールはこうだ。
提督は変身が解けたら敗北、加賀はどんなダメージを受けても体力は1でとどまる。
もちろんそうなった時は敗北だが」
「よかった~それじゃあ……」
「だが、問題はある」
「仮に提督が負けた場合、加賀が提督を許すか、ということだ」
「確かに……。顔には出してませんでしたが、相当頭に来ていたようでしたから」
二人が話しているうちに果し合いの時が来た。ナイト、加賀両者睨み合う。
「貴方が侮辱した他の空母達にも頭を下げるなら、ドローにしてあげても構いませんが」
「やたら数にこだわる奴は小者だと相場が決まってる。つべこべ言わずにかかってこい」
「みんなの前で、大恥かいて、後悔しなさい……」
大鳳がボウガンに演習用機体の矢を1本だけ番え、真上に発射した。
矢は上空でパァン!と弾け、黄色い小型機体に変化し、大鳳の元へ戻ってきた。
それを合図に決闘開始。まずは両者後ろに跳躍し、相手と距離を取る。
滅多に見ることのない展開に、ギャラリーからキャアァァ!!と黄色い歓声が上がる。
先に仕掛けたのは加賀だった。
背中の矢筒から素早く戦闘機の矢を抜き取り、空に放った。
矢は空中で弾け、戦闘機部隊となってナイトに襲いかかる。
それを見たナイトはすかさずカードを1枚ドロー。ダークバイザーに装填した。
『GUARD VENT』
カード発動と同時に戦闘機部隊が一斉にナイトに機銃を浴びせる。
が、銃弾が命中する寸前に異次元から現れたダークウイングがマントに变化。
硬質化してナイトを守った。ガガガガガ!!とマント越しに機銃弾の音を聞きながら
ナイトは戦略を練る。空中戦ならこちらにも利がある。
ナイトはカードを2枚ドロー、1枚目を装填。
『SWORD VENT』
すると、空から大型の槍、ウイングランサーが現れ、ナイトの手に飛び込んだ。
戦う武器は十分だ。そして2枚目を装填。
『ADVENT』
カードの力で上空に次元の穴が開き、そこから猛スピードで1羽の巨大な蝙蝠、
ダークウイングが再び現れ、ナイトの肩に掴まり、一着のマントと化した。
よし、同じステージで戦える。ナイトが思い切り両足に力を入れてジャンプすると、
マントの力で大空に舞い上がった。狙うは先程ナイトに機銃掃射を浴びせた戦闘機部隊。
スピードを上げ一気に追いついた。コクピットの中の小人が驚く様子が見える。
「……悪く思うな」
ナイトはウィングランサーの端を持ち、大きく回転し、
ガシャアン!と戦闘機の群れに叩きつけた。
大破した機体からパラシュートで脱出した小人が目を回している。
残り2機、まず第一波は壊滅状態。
「これで終わりと思わないで」
加賀は、今度は2本戦闘機の矢を放った。つまり2つの戦闘機部隊がナイトを襲う。
規則正しい銃声が二方向から突っ込んでくる。統制の取れた編隊が四方八方から機銃でナイトを攻撃。
しかし、ダークウィングと幾多の空中戦をこなしてきたナイトは的確に射線を読み、
銃撃を回避し、ウィングランサーを叩きつけ、確実に敵機の数を減らしていく。
「……」
それを地上から見ていた加賀は、矢筒から一本の矢を抜き取り、狙いを定め、
ナイトに向け、射る。ナイトはそれに気づいて第三波の襲来を警戒し、
ウィングランサーを構えたが、矢は炸裂することなく、
まっすぐ静止したナイトに飛んできた。
加賀は矢を航空機に変化させず、直接ナイトを狙い撃ったのだ。
「ぐっ!」
複数の航空機のエネルギーが圧縮された矢の直撃を受けたナイトは、
バランスを崩し、地上に落下。運動場のグラウンドに叩きつけられた。
「がああっ!!」
身体を貫く衝撃でナイトが動けない隙に、加賀は口元でかすかに笑い、またも矢を放つ。
「みんな優秀な子たちですから……」
矢が空中で炸裂し、航空機に変化。一呼吸置いて空から何かが降ってきた。爆弾だった。
加賀が今度は爆撃機を放ったのだ。
「ぐうっ、ああっ!」
立ち上がろうとするナイトに艦爆隊が情け容赦なく爆弾を降らせる。
衝撃で宙に放り出されるナイト。そして、加賀はなおも戦闘機部隊を発艦させ、
ナイトの体力を削り取る。
「ああ……司令官、このままじゃ、負けそうです。
あれ?そうだ!長門さん、加賀さんの体力は1でストップですが、
司令官の体力はどうなんですか?」
「どう、とは?」
「つまり、勢い余って死に至るようなダメージを受けちゃった場合です。
まぁ、きっと対策済みなんでしょうけど」
「うむ、念のため確認しよう……。何!?そんな馬鹿な!!」
「どうしたんですか?」
「ないんだ!提督は、ダメージリミットがない!つまり、致命傷を負えば、死だ!!」
「ええっ!?もう司令官ってばうっかりさん!
お願いです、今すぐ決闘を中止してください!」
「ああ、すぐに中止を……できない、提督権限で
決着がつくまで停止できないよう設定されてる!」
「……うそ。それじゃあ、司令官は、死を覚悟で……?」
「そうとしか考えられない。きっと、加賀にも知らせてないはずだ……」
「だめ、そんなの……止めさせなきゃ。
司令官!!加賀さーん!!今すぐ決闘をやめてくださーい!!」
喉を痛めるほど叫ぶ吹雪だが、ギャラリーの歓声にかき消され、
二人に届くことはなかった。
「がはっ、げほっ……」
俺は、ここまでなのか……
“俺を殺すか、それとも戦い続ける道か、好きなほうを選べ”
爆撃機はなおもナイトに爆弾を落とし続ける。アーマー越しに強烈な衝撃が身体を叩く。
“戦え……戦え!”
俺は、戦う、ライダーバトルに、勝って……!
“蓮……今日は、早く迎えに来てね……”
そうだ、俺は行く!……恵里を、迎えに……!!
全身に大きなダメージを受け、意識を失いかけた蓮は、カッ!と目を見開き、
カードをドロー、すかさずダークバイザーに装填した。
『NASTY VENT』
ナイトの肩からダークウィングが離れ、敵機の遥か上空に一気に飛翔。そして空を切り裂くようなけたたましい鳴き声を上げた。
航空機部隊に強烈な超音波を浴びせたのだ。
機体の計器類・電気系統が破壊され、致命的損傷を負う。
どうにか飛行している機体のパイロットも
耳をつんざくような音に操縦どころではなくなり、コントロール不能に陥った。
かろうじて浮いている機体同士が衝突し合い、次々航空機が墜落していく。
「なに!何が起こってるの!?」
航空優勢に立っていた戦闘機・爆撃機があっという間に全滅し、混乱する加賀。
背中の矢筒に、手を回すが、矢は尽きていた。航空機以外の攻撃手段を持たない彼女は、
ウィングランサーを頼りに立ち上がったナイトを見ているしかなかった。
ナイトは最後のカードをドロー。ダークバイザーに装填。
『FINAL VENT』
「うおおおお!!」
ナイトが加賀に向け一気に駆け出す。
背後からダークウィングが再びナイトの肩に掴まり、マントとなった。
残された力を振り絞りジャンプすると、ダークウィングが
ナイトを天高く運ぶ。ナイトは十分に高度を上げたところでウィングランサーの先端を真下に向けた。
そう、機体を失った加賀に向けて。
「……急所は外せ」
ダークウィングがナイトを包み込み、
漆黒の竜巻と化したライダーと契約モンスターが急降下する。
「あ、あ……」
そして、ナイトのファイナルベント「飛翔斬」の鋭い先端が、
対処法が見つからず後ずさりする加賀の肩に命中した。
「きゃあああ!!」
後ろに思い切り吹っ飛ばされた加賀は大破。美しい弓道着と袴姿が台無しになった。
「勝負、そこまで!」
審判の大鳳の声で決闘は幕を閉じた。同時にギャラリーが一際大きくどよめく。
変身を解いた蓮はよろめきながら運動場から立ち去ろうとする。
加賀は血まみれの蓮に話しかけた。
「どうして、手加減なんかしたの……」
「……味方を無くしたお前が哀れになったからだ」
「馬鹿ね。それで戦場で生き残れるとでも?」
「ああ、馬鹿かもな。あのブン屋も笑ってられん」
「……まぁいいわ。勝負は貴方の勝ち。この世界で好きに振る舞うといいわ。
この愛想のない女を解体するのも面白いかもね」
「お前も馬鹿だな。勝負なら、引き分けだ」
「なんですって?」
「今のお前の体力を見ろ、“2”だ」
「あ……」
「決着の条件は、俺の変身が解けるか、お前の体力が1になるかだ。
だが、もう審判が試合終了を宣言してしまった。
どっち付かずなら引き分けしかないだろう」
「ふん、中途半端は嫌いよ。いずれ……また勝負しなさい」
「初めて意見が合ったな。今度はその腹にでかい穴を開けてやる」
その時、担架を持った救護班を連れて吹雪と長門が二人に駆け寄ってきた。
「もう!なんであんな無茶したんですか!
私、司令官が死んじゃったら、どうしようかと……」
涙ぐむ吹雪。鎮守府本館の医務室に蓮は入院していた。
艦娘なら高速修復材で重傷も一瞬で全回復できるが、生身の人間ではそうもいかない。
「その通り。司令代理として言わせてもらう。此度の貴方の行いはあまりに軽率。
二度とあのようなことはしないでいただきたい」
長門も見舞いという名の説教に来ていた。
「……あの程度の試合で死ぬくらいなら、どのみち俺は敵に殺されていた」
「貴方にとっての“敵”って何?深海棲艦なんかじゃないことくらいわかる」
高速修復材で即時修復した加賀が問う。弓道着も袴も元の美しさを取り戻している。
「……今それを話しても仕方ない。この世界にいれば、いずれ出会うことになる」
「そう……」
「それより聞きたいことがある」
「なに?」
「お前、あの日“イレギュラー”とか言ってたな。なんだそいつは」
加賀がきゅっと唇を噛んだのを蓮は見逃さなかった。
「お前にとっての敵なのか」
「私だけじゃない。艦娘全体にとっての敵よ……!」
「落ち着くんだ、加賀。それについては私から説明しよう。
イレギュラーとは、提督のように現実世界から艦これ世界に来た者の中でも、
特に私達艦娘に対し悪逆の限りを尽くす卑劣極まりない人間の事だ。
艦娘を欲望のはけ口にしたり、まだ幼い駆逐艦に暴力を振るったり、
ゲームの進行とは無関係な身勝手な理由で……仲間を解体したり」
「……ここにもそんな奴が来たのか?」
長門は首を振る。
「幸いここに来たのは秋山提督が最初だった。
だが、無線で他の鎮守府が助けを求めてきた。しかし、奴らが提督である以上
我々にはどうすることもできなかったんだ!
その鎮守府に遠征していた、加賀の相棒だった赤城も連中に殺された。
ただ現実世界の生活がうまくいかない、その責任を我々になすりつけて!」
「私達はそういう悪質ユーザーを、
受け入れられざる者、“イレギュラー”と名付けて警戒している。
とは言え、ゲームキャラの私達にできることなんてないんだけど……」
「……戦う相手が増えたみたいだな」
「そうか!同じ人間で、しかも強力な力を持つ提督ならイレギュラーに対抗できる!
頼む、提督!この世界を蝕むイレギュラーを追い返してくれ!」
「元々タダ飯食らいは性に合わない。見つけ次第教えろ。
二度とキーボードを打てなくしてやる」
「ありがとう!……さっそくで悪いんだが、尋問して欲しい者がいるんだ!」
「尋問?そいつもイレギュラーか」
「現段階では容疑者だ。深海棲艦を倒してみせたが、
我々に取り入る罠かもしれない。提督が話をして嘘か誠か見極めて欲しい。
問題行動を起こしたわけではないが、
彼がしきりに自分が大昔のヒーローだと名乗っているため皆の混乱を招いている」
「大昔のヒーロー?」
「“仮面ライダー”という70年代に放送された……」
「おい、そいつと話をさせろ、今すぐ!」
作戦司令室。大淀が問題の鎮守府と通信を接続した。
「信号、キャッチしました」
「うむ、ありがとう……もしもし、聞こえるか、そっちの“私”?」
“ああ、感度良好だ”
「こちらの提督をお連れした。彼を連れてきてくれ」
“わかった。……さあ、こっちに来るんだ”
“おーい!いい加減信じてくれって!あー向こうの人?
もしかしてライダーだったりしない?俺、城戸真司ってんだけど、
いきなり捕まって困ってんだよ~!”
「提督、どうだろうか。……提督?」
蓮はうんざりした様子でうなだれて告げた。
「……そいつは三億円事件の犯人だ。今すぐ処刑しろ」
“ふざけんなー!っていうかその声蓮だろ!遊んでないで助けてくれよ!”
「提督、真面目に答えてくれ……“三億円事件”。1968年に発生した未解決事件。
生きていたら犯人は年寄りだ」
即座にキーワードを検索した長門に訂正される。もとより本気ではなかったが。
蓮は面倒くさそうに大淀からマイクを受け取り、呼びかけた。
「そっちの関係者に伝えとく。そいつは馬鹿だが悪党ではない。馬鹿だが」
“馬鹿馬鹿うるせー!今度会ったら覚えとけよ!”
「ついでに言っておくと嘘つきでもない。そいつは仮面ライダーだ」
“なんだって!?”
“ほら、言ったじゃん!”
「提督!本当なのか!?」
蓮はカードデッキを取り出し、長門に見せた。
「“仮面ライダーナイト”、変身した時の俺の名だ。
何を考えてかつてのヒーローを名乗らせたのかは、これを作った奴にしかわからん」
“そんな!まさか、検索結果0件!?
あの、えと、も、申し訳ありませんでしたああ!!”
そこで通信が切れた。
「すごいです……。現実世界では、こんな武器があるなんて。
でも、そんな兵器が名前すら検索に引っかからないなんて変ですね?」
吹雪が疑問を口にする。
「これは軍事企業が開発した兵器じゃない。
一個人が発明して俺達にばらまいたハンドメイドだからだ」
「ますます信じられん……あれほど高性能の武器やアーマーを
小さなケースに収納するシステムを一人で作れるものがいるとは」
「その辺については複雑で話すと長い。おいおい説明するとして……吹雪」
「はい、何でしょう司令官」
「帽子、持って来い」
「え?」
「帽子だ!息苦しい制服は御免だが、帽子くらいは被ってやってもいい。
あいつの言い分も、一理も無いわけじゃないからな。
それに、よくよく考えたら、じっと獲物を待っているのも性に合わん。
自分で探しに行くことにする」
蓮はほんの一瞬だけ加賀に視線を送った。
「司令官……。はい、今お持ちします!」
作戦司令室を駆け足で出ていく吹雪を見送ると、加賀がぽつりと呟いた。
「……加賀よ」
「なんだ?」
「私の名前」
「……秋山蓮だ。これからこき使ってやるから覚悟しとけ」
「貴方こそ、私達の足を引っ張らないでね」
「紆余曲折あったが、やっと正式に提督の誕生だな!」
むっつりとした表情の二人、満面の笑みを浮かべる司令代理と通信士。
今ここにはいないが、頑張り屋の駆逐艦。
個性的な面々が本当の仲間になった瞬間だった。