【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】 作:焼き鳥タレ派
真司は浮かない気持ちでズーマーを走らせていた。
冷たい風を切りながら渋谷の大通りを進む。蓮の言うとおりだ。
今はとにかく優衣ちゃん探さなきゃ。艦これ世界に戻ろう。
その時、頭に響くいつもの金属音が。ミラーモンスターだ!
慌てて路肩にズーマーを止める真司。歩道に上がった真司は、
反響音を頼りに辺りを見回して必死にミラーモンスターを探す。
すると、ブティックのショーウィンドウ。いた!
近くを通りかかった親子を、異形の者が狙っている。
「裕太、今日はシチューにしましょうか」
「やったー!」
すぐさま真司は裏路地に入り、何か反射するものを探す。
人はおらずゴミだらけだが、鏡になりそうなものが見当たらない。
一瞬焦ったが、足元に何かが当たる。そこには割れた一升瓶が。一刻を争う。
カードデッキをジャケットから抜き取り、ぐにゃりと歪んだ自分の姿にかざす。
変身ベルトが現れると、同時にデッキを装填。
「変身!」
輝く鏡像に包まれ、変身を遂げた龍騎は、一升瓶の表面に飛び込み、
左右反転した渋谷の大通りに飛び出した。
今にもミラーモンスターは現実世界に乗り込もうとするところだった。
大声を上げる龍騎。
「待て!」
親子に手を伸ばそうとしていたモンスターがこちらに目を向けた。
体中を、翼を思わせる緑の鱗や紫の装甲で覆っている鉤爪を持った個体。
“ガルドミラージュ”が甲高い鳴き声を上げながら龍騎に向けて飛行してきた。
キエエエエ!!
龍騎もカードをドロー、ドラグバイザーに装填。
『SWORD VENT』
ドラグセイバーを手にした龍騎も高速で飛びかかってくる敵を迎え撃つ。
ガルドミラージュが振り下ろした鉤爪を剣で受け流し、斬り返す。
命中はしたが、宙を舞い立ち位置が不安定な敵に効果は薄かった。
ガルドミラージュは、今度は龍騎を見たまま後方に飛んだ。
そして背中に装着していた、円形の刃を十字の骨組みで固定し、
なおかつ持ち手にした投擲武器を手に取った。
クアア!
チャクラムのような武器を龍騎に投げつける。
龍騎は冷静に軌道を読み、ドラグセイバーで受け止める。
だが、直撃は免れたものの、そのスピードと重量で、
ドラグセイバーが弾き飛ばされてしまった。
「くそっ!」
手早く片付けなくては。龍騎は迷わず切り札のカードをドローした。
ドラグバイザーが炎を上げて燃え上がる。
ドラグバイザーツバイに変形したバイザーの口にカードを装填。
顎の部分を勢いを付けて閉じた。
『SURVIVE』
業火に包まれた龍騎が龍騎サバイブに再変身。すかさずカードをドロー。
ガルドミラージュが手元に戻ってきた武器をもう一度投げてきた。
風切り音を立てて襲い来る刃。
しかし、龍騎はドラグバイザーツバイの早撃ちで敵の円形武器を撃ち落とす。
そしてバイザーを持った腕を伸ばしたままカードを装填。
『SHOOT VENT』
大空からドラグランザーを呼び出し、そばに立たせる。
龍騎は両腕でガルドミラージュに狙いを定めた。
同時にドラグランザーも体内で炎を圧縮し、巨大な火球を作り出す。
そして、龍騎が引き金を引くと同時に、ドラグランザーも火球を発射した。
強力な青白いレーザーと超高熱に達する火球を食らい、
ガルドミラージュは断末魔も上げずに灰と化した。手近な窓ガラスから現実世界を見る。
先程の親子は無事に去っていった。
「サンキュー、ドラグランザー!」
ドラグランザーは返事をするように一つ吠えると異次元へ戻っていった。
すると、龍騎の身体も少しずつ粒子化を始めた。
「やっべ!俺も戻んなきゃ!」
龍騎は裏路地に走り、割れた一升瓶に飛び込んだ。
その体が飲み込まれ、現実世界に吐き出された。
「こんなゴミでも有効なんて、なんでもありだな……って
そんなこと言ってる場合じゃないよ!さっさと艦これ世界に行かなきゃ!」
真司は急いで路肩に止めたズーマーにまたがり、花鶏へ向けて走り去った。
──カセットテープ “インタビュー 不思議なエネルギー体について”
・夕立さん(仮名)
「青葉さん!ご用事はなあに?」
“はい、少し調査していることがありまして、詳しくは言えないんですが
(ごにょごにょ)と言った感じで、何かご存知ないですかね?”
「巨大なエネルギーの固まり?う~ん。夕立、よくわからないっぽい」
“それじゃあ、なにか、お知り合いの方がそれらしいことを話していませんでしたか?”
「ええと……やっぱりわかんないっぽい!青葉さん、お探しものはなんですか?」
“ああ、ちょっと言えないんですけど、凄く重要なものなんです……”
「夕立は知らないけど、睦月ちゃんとかなら知ってるかも。今度聞いときますね」
“はい!ご協力、ありがとうございます!”
・球磨さん(仮名)
“球磨さん、ちょっとお話いいですか?”
「う~ん……球磨、日向ぼっこの最中で眠いクマ。手短にお願いするクマ」
“すみません、お休みの所。ではさっそく(ごにょごにょ)について
何か知りませんか?”
「まん丸で強くてすごいもの?聞いたことないクマ」
“そうですか……他に何か知ってそうな方や噂話でもいいんですが、
何かありませんか?”
「ふああ、そんなの心当たり……いや、変な噂が広まってるクマ」
“噂、ですか?教えてください!”
「駆逐艦の娘達が面白がってる怪談話クマ。
青葉さんも放棄された鎮守府があるのは知ってるクマね」
“ええ、テストエリアとして使われていたものの、ゲームの大幅な仕様変更に伴い、
不要とされた無人の廃墟ですね”
「そう。そこに時々幽霊が出るって噂クマ」
“幽霊?”
「誰もいないはずの鎮守府に、時々明らかに人間の女の人が現れるらしいクマ。
確かにごく稀にライダー以外の人間が来ることはあるクマ。
でも、あの鎮守府に降り立つことは絶対にないクマ。
だって、あそこはもう外部のネットワークにつながってないクマ」
“打ち捨てられた鎮守府に現れる謎の女性……
なにかの手がかりになるかもしれませんね。ご協力、ありがとうございました!
ってもう寝てる……”
・天龍さん(仮名)
「……なんだ、青葉さんか。ずいぶん新聞であの連中のこと褒めてたじゃねえか」
“それは……”
「自分とこの提督でも、間違ってることは間違ってるってバシッと言ったほうがいいぜ。
それで?オレになんか用か」
“実は、聞き取り調査を行っていまして、(ごにょごにょ)みたいなものを見たり、
噂を聞いたことはありませんか?”
「艦これの世界を支えるほどの巨大なエネルギー?
そんなもんあったら嫌でも目に入るだろうが」
“ですよね~”
「これもあいつらの命令なのか?」
“い、いえ!あくまで青葉の取材活動の一貫でして……
それはそうと、今流行ってる怪談話について何か知りませんか?”
「か、怪談……!?」
“はい、実は廃墟になったダミー鎮守府に女性の幽霊が……”
「おおっと悪りい!定時連絡の時間だ、また今度!」
・長門さん(仮名)
「ミラーワールド全ての柱となるほどのエネルギー体?すまんが、心当たりがない。
そんなものが存在していたら、私たちはとっくに燃え尽きているぞ」
“おっしゃる通りです……”
「まぁ、念のため電探のサーチログを探って、
ある程度高出力のエネルギーの発生源がなかったか調べてみよう。
そこに座って待っていてくれ……大淀、ちょっと頼めるか」
“恐縮です!”
「はい、既にここ半年のログで、46cm砲の火力を基準とした高出力の捕捉データを
抽出しています……あ、一つだけありました!」
「なんだって!?」
「城戸提督が仮面ライダーオーディンと戦った時に、
オーディンが放ったファイナルベント。
これだけが突出して大出力のエネルギーを発しています!」
「そうだ……あの事件を失念していた。青葉、この情報は役に立ちそうか?」
“はい、もちろんです!オーディンは神崎の右腕のような存在ですから。
ミラーワールドと関係あるかもしれません!”
「うむ、役に立てて何よりだ。しかし青葉。
実際そのエネルギー体を見つけて何をするつもりなのだ?」
“それは、司令官達の戦いに関わるものらしくて……
青葉にも教えてもらえませんでした”
「そうか。だが、青葉」
“なんですか、長門さん”
「……あまり深入りはしすぎるなよ」
“肝に銘じておきます”
そこでテープは終わった。
お給金を貯めてようやく買った、磁気テープを媒体にする最新式の
音声記録装置の電源を切ると、
青葉はインタビューの内容を報告書にまとめ始めた。
“今回のインタビューで直接コアミラーに繋がる情報は得られなかったが、
気になる情報が2点見つかった。一点目は艦娘達の間で流行っている怪談話。
ダミー鎮守府に人間の女性らしき人影が現れるという。
関係がある可能性は低いが、複数の鎮守府で同様の証言が得られた。
謎の女性とコアミラーを結びつけるのは早計だが、
可能性の一つとして記憶に留めておいたほうがいいだろう。
次に、高出力エネルギーの存在。コアミラーが
ミラーワールド全体を支える巨大な力を持っていることは当然だが、
それに次ぐほどのエネルギーが存在していたことがわかった。
城戸提督と仮面ライダーオーディンが激突した際、
オーディンがファイナルベントを放った時、局地的に46cm砲を上回る
莫大なエネルギーが発せられた。ミラーワールドを開いた神崎の右腕であるオーディン。
彼がこれほどまでに大きな力を持っているなら、
やはりコアミラー捜索には神崎の足取りを追うのが有効なのではないだろうか”
「ふぅ」
一仕事終えた青葉が息をつくと、そのままゴロンと畳に大の字になった。
こんなところでしょうか。
手がかりになりそうな、ならなそうな情報は見つかりましたが、
司令官と香川提督は納得してくれるでしょうか。
今、お二人は雑用を片付けるために現実世界に戻られています。
青葉に今できることはここまでです。……司令官は、何をされているんでしょうか。
ライダーの皆さんが、それぞれ事情を抱えてらっしゃるのはわかっています。
でも青葉は、誰も傷つかず、命を落とすことなく、
ライダーバトルなんて終わってほしい。
甘いと言われても仕方ないのはわかっていますが、それが本心なんです。
──清明院大学 401号室
ヴォン!と簡素なデスクとパソコン数台しかない殺風景な部屋に2つの人影が現れた。
香川と東條が現実世界に帰り着いたのだ。
香川はすぐさま携帯を取り出し、電話をかけた。
数回の呼び出し音の後、電話がつながると名乗りもせず安否を尋ねた。
「典子、裕太は、裕太はどうしてます?」
“私と一緒にいますけど、どうしたんですか”
「そうですか……いえ、なんでもないならいいんです」
“こっちは大丈夫です。あなたも一人暮らしで体を壊さないでくださいね”
「気をつけますよ」
“……また、電話くださいね。裕太も喜びますから”
「ええ、そうします」
安心した様子で電話を切る香川。そんな様子を悟は怪訝な目で見つめていた。
香川もそれに気づく。
「どうかしましたか?」
「……先生もやっぱり、家族が大事なんですね」
「当然でしょう。いいですか東条君。
英雄になるということは、人の命に鈍感になるということではありません」
「はい……」
「……時々君を見てると不安になるんです。
まさか君は、自分の力を楽しんでるんじゃないでしょうね」
「そんなことはないです。僕はただ、先生の研究を守りたいと……」
「それならいいんです。信用していますよ」
「はい」
それでも暗い東條の顔を見て香川は、なんとなく、言葉に出来ない危うさを覚えた。
「東條君、一日予定を空けてもらってもいいですか」
「大丈夫ですけど、なんですか」
「歩きながら話しましょう、今日の所は片付ける雑用が多いので。
佐野君に報酬を振り込まなければなりませんし」
「わかりました」
──レストラン
「本当にお目にかかれてうれしいですわ。
東條さんのことは、いつもうちの人から聞かされていました。
今までで一番出来の良い教え子だって」
「……どうも」
香川の妻、典子が東條に話しかける。香川は、東條を家族との食事に招待したのだ。
真っ白なクロスが敷かれた4人掛けのテーブルに座り、コース料理を楽しむ香川と妻子。
「お休みが取れてよかったですね、あなた。裕太も久しぶりにパパと会えて喜んでます」
「少し、喋りすぎですよ」
「すみません……あ、そういえば裕太。お父さんにプレゼントがあるんじゃなかった?」
「うん!」
裕太は一枚の絵を取り出し、香川に差し出した。クレヨンで書いた絵だった。
拙いながらも一生懸命描いたことがうかがえる。
「あなたの似顔絵ですって」
「ほう、なかなかよく描けてますね……あれ、これはなんです?」
似顔絵の香川の肩に、もみじのようなものが2つ。
「ぼくの手だよ!」
「あなたにおんぶしてもらってるんですって。いつも一緒にいられるように」
それは、まさに暖かい家庭そのものだった。香川はそっと東條に耳打ちする。
「なぜ今日私が君をここへ連れてきたか、よく考えてください。
人としてきっと、学ぶべき点があるはずですから」
「はい……」
ガシャッ!
答える東條の手が震え、フォークを握ろうとした手が食器にぶつかり音を立てる。
皆が一瞬東條を見るが、また家族団らんの食事に戻る。
なにが、なにが、英雄だ。
東條の心も音を立てる。
“英雄になんてならなくても、必ず愛してくれる人に巡り会えます”
“多くを助けるために、1つを犠牲にできる勇気を持つ者が、真の英雄なのです”
“青葉は司令官にもっと別の形で幸せになって欲しいんです!”
“じゃあ、僕達4人、これからはコアミラーってお宝を求める秘密の仲間ですね!”
“全てはより多くの人間のため、英雄的行為なんですよ”
“この繋いだ手を失いたくない。青葉はそう思っています”
崩れ去る歪んだ英雄の姿。精神の平穏をかき乱す正体のわからない気持ち。
英雄に憧れた自分を否定する感情。それらが凍りついた心の中で暴走し、
バリバリと内側から突き崩していく。
東條は無表情を保ちながら、爆発しそうになる自分を無理矢理押さえ込んでいた。
パキン……
そして、ついに何かが彼の心から剥がれ落ちた。
──香川鎮守府
後日。再び艦これ世界にログインした香川は、青葉の報告を待っていた。
腕時計を見ると約束の時間まで10分。もう少し待ちましょう。
トントントン
と、思ったが、ドアがノックされた。
「入りなさい」
「失礼します!」
いつものように艤装とカメラを持った青葉が執務室に入ってきた。
「青葉君、我々がいない間に、何かめぼしい情報は手に入りましたか?」
「はい。これが報告書です。
直接コアミラーに繋がるようなものではないんですが、気になる噂や過去の出来事が」
「どうも……ほう、これは興味深い。しかし、まだ東條君と佐野君が来ていない。
詳しい報告は全員集まってからということで」
すると、またノックの音。
「どうぞ」
「こんにちは、失礼します!」
今度は佐野だった。既に勝手知ったるという感じでソファに座る。
「珍しいですね。東條君が一番最後とは……」
また腕時計を見る。もう集合の時刻を過ぎている。
「……仕方がありません。彼には私から伝えておきましょう。では、青葉君。報告を」
青葉と香川もソファに掛け、報告会を始めた。
「はい。今回はアンケートではなくインタビューという形で情報収集しました。
そこでコアミラーに繋がるものではありませんが、
お伝えてしたほうが良いと思われる事実が2つ見つかりました」
「ご苦労様です。続けて」
「まず、一つ目は、主に駆逐艦の間で流れている噂話。
かつてゲームのテスト用に使われていたダミー鎮守府という廃墟があるのですが、
そこに人間の女性が現れるという、いわゆる怪談話です」
艦これ世界に女性。何かを感じた香川が質問した。
「……少し、いいですか?
そのダミー鎮守府というところには、私達も行くことができるのでしょうか」
「はい。外部ネットワークに繋がれていないだけで、
転送クルーザーで行き来することは可能です」
「ありがとうございます。では、報告の続きを」
「二つ目ですが、長門さんに尋ねたところ、
城戸提督と仮面ライダーオーディンが戦った際に、
オーディンが最強の戦艦の主砲を遥かに上回るエネルギーを発したそうです」
「なるほど……ミラーワールドを開いた神崎君の守護者なら、
あるいはコアミラーに繋がる何かを持っているのかもしれません。
ありがとうございました。佐野君の所で変わったことはありませんでしたか?」
「はい!うちの鎮守府ではミラーモンスターは一匹も!」
「それはなによりです。……それでは、今日の報告会はこれまでにしましょう。
二人共、ご苦労様でした」
「はい、失礼します!」
佐野はいつも通りいそいそと執務室から出ていった。
青葉は艤装を背負い直すと、香川に問いかけた。
「司令官、どうなさったんでしょう……」
「わかりません。一緒に戻ったはずなのですが。
とにかく君の報告は私から伝えておきます。今日はありがとうございました」
「あ、いえ、とんでもない。青葉、ちょっと司令官の様子を見てから帰ります。
それでは、失礼します」
「そうしていただけると助かりますよ」
そして青葉も退室すると、階段を駆け下り、玄関ホールを抜けて、外に出た。
目指すは桟橋の転送クルーザー。木の板を慣らしながら桟橋を走り、
クルーザーに飛び乗った。そして、舵を握り、音声コマンドを宣言した。
東條鎮守府のデータをダウンロードしながら青葉は思う。
どうしてこんなに焦ってるんでしょう。ただ一日短い報告会に来なかっただけなのに。
きっと向こうで少し体調を崩しただけに決まってます。
鎮守府ではきっと司令官が待っています。必ず。
──東條鎮守府
「司令官!」
青葉はノックもせず、執務室に駆け込んだ。しかし、そこには誰もいなかった。
愕然とする青葉。その時、後ろから小さな足音が走り込んできた。
「青葉先輩!」
東條の秘書艦・電だった。髪が乱れるほど必死に走ってきたようだ。
息を切らしながら必死に青葉に助けを求める。
「どうしたんですか、電ちゃん!?」
「はぁ…はぁ…、お願いです、司令官さんを止めてください!」
「どういうこと?深呼吸して、落ち着いて説明して!」
「司令官さんが、浅倉提督とライダーバトルを!」
「なんですって!?」
──浅倉鎮守府
30分前。
コンコン……
浅倉の執務室兼独房にノックが響く。
誰だ。まだ女が来る時間じゃない。黙っているとドアが開いた。
しけたツラをした野郎がこっちを見ている。
「……君のこと、いろいろ調べたよ。なんで君みたいな人間がライダーやってるのかな。
現実世界じゃただの人殺しなのに、ここじゃ英雄扱い。
そう思ってない人もいるみたいだけど、やっぱり間違ってる。
間違いは僕が正す。英雄だから」
「誰だてめえ」
東條は何も答えず、胸ポケットからカードデッキを抜き取った。
それを見た浅倉は喜色満面の笑みを浮かべる。
「……いいぜ、表に出ろ」
そして本館前広場に場所を変え、対峙する二人。
「ねえ、君はどうしてライダーになったの」
「理由?そんなもんいらねえ。ただ、派手な殺し合いが出来ればそれでいい」
「戦う為だけに戦うなんて……」
「他に理由が要るか」
「……やっぱり最低のライダーだな」
お互い、カードデッキを構え、噴水の水面にかざす。
腰に変身ベルトが現れると、浅倉は右腕を素早く蛇のように、
東條は複雑な空手の型のように両腕を動かし、
「変身」「変身!」
両者ベルトにデッキを装填。変身を遂げた仮面ライダー王蛇と仮面ライダータイガは、
水面からミラーワールドに飛び込み、左右反転した鎮守府に戦いの場を移した。
二人はカードを1枚ずつドロー。それぞれのバイザーに装填。
『SWORD VENT』
王蛇の手にベノサーベル。
『STRIKE VENT』
タイガの両腕に巨大な鉤爪が装備された。同時に二人がお互いに向かって突撃する。
王蛇がベノサーベルを振り下ろし、タイガが右腕のデストクローで受け止め、
左腕の鉤爪で王蛇を突き刺そうとする。
とっさに王蛇が右の鉤爪を振り払い、左の攻撃を受け止め、タイガの腹を蹴る。
「うわあっ!」
大したダメージはなかったが、後ろに倒れるタイガ。
その隙に王蛇はカードをドロー。ベノバイザーに装填した。
『ADVENT』
カードの力で召喚されたベノスネーカーが高速で地を這いながら現れた。
凶暴な吐息と共に立ち上がり、タイガに毒液を吐きかける。
タイガも地面を転がり、一瞬の差で回避。
毒液のかかった道路が劣化し、崩れ、穴が空いた。
タイガもデストクローを外し、カードをドロー。デストバイザーに装填、刃を下ろした。
『ADVENT』
グオオオオ!!
デストワイルダーが茂みから飛び出し、王蛇に飛びかかり、馬乗りになった。
後方からの奇襲にさすがの王蛇も対処が遅れる。
何度も殴りつけるが、その重量と装甲に為す術がない。
その時、ベノスネーカーが主人の危機に反応し、
するするとデストワイルダーに這い寄り、頭部に生える刃で斬りかかった。
殺気を感じたデストワイルダーが思わず飛び退き、攻撃を回避するが、
王蛇を解放してしまう。すかさず王蛇はカードをドロー。装填した。
『CONFINE VENT』
カード無効化能力を発動すると、デストワイルダーが消滅。2対1となったタイガ。
しかし、タイガは無言でカードをドロー、装填。
『FREESE VENT』
その瞬間、ベノスネーカーが凍りつき、動きを止めた。体から冷気と白い煙が立ち上る。
続いて、必殺のカードをドロー、装填した。
『FINAL VENT』
再び王蛇の死角からデストワイルダーが飛び出し、王蛇を押し倒して、
地面に押し付けながらタイガに向かってジグザクに引きずり出した。
アーマーと地面の摩擦で激しい火花が散り、
その先ではタイガが腰を落として左腕を構えている。
「チッ……!」
王蛇は継続的なダメージに耐えながら、
今度はベノサーベルでデストワイルダーを何度も殴り、思い切り脇腹を蹴って
なんとかタイガの契約モンスターを追い払った。
「往生際が悪いなぁ。……やっぱり君はライダーに相応しくないよ」
「……ライダーに何を求めてるのか知らんが、お前、気色悪いぞ」
「その減らず口も英雄とは程遠いね。戦いを続けようよ」
「ああ、来いよ……」
カードを使い果たし、ファイナルベントも不発に終わったタイガだが、
王蛇が油断することはなかった。奴はまだ何か企んでいるに違いない。
これまでの戦い、タイガのカードの出し方はどこか脈絡がなかった。その通り。
タイガは隠し持っていたカードをデストバイザーに装填、刃を下ろす。
『RETURN VENT』
カードが発動すると、タイガのデッキに光の粒子が収束し、一瞬大きく輝いた。
その様子をじっと見る王蛇。何かしたんだろうが、知ったことか。
とにかく、まだ楽しめるならそれでいい。そしてカードをドロー、装填。
『FINAL VENT』
メタルゲラスのファイナルベント・ヘビープレッシャーを発動。
右腕にメタルホーンを装備し、背後に現れたメタルゲラスの両肩にジャンプして
超高速で突進した。タイガは避けることなく、
使い果たしたはずのカードをドロー、装填した。
『FREESE VENT』
使用済みの“FREESE VENT”が発動すると、メタルゲラスが動きを止め、
王蛇が慣性で前方に放り出され、石畳に叩きつけられる。
「ぐおっ!」
“RETURN VENT”。一度使用したり、CONFINE VENTで無効化されたカードを
復活させるカードでタイガは再び攻撃のチャンスを得た。
スピードを殺しきれず、近くまで転がってきた王蛇に、デストバイザーを振り下ろす。
立ち上がろうとした王蛇の右肩に命中。重厚な斧の一撃にまた膝をつく王蛇。
「あ……があっ!」
「やっぱり君はライダーにふさわしくなかった。だから僕に倒される。
だって僕は英雄だから」
立ち上がりひとつ深呼吸する王蛇。
「ふぅ……ひとつ聞くが、英雄の戦い方ってのは、
チマチマ飼い犬に後ろ取らせることなのか?」
「……もういいよ、これ以上君と話しても時間の無駄だしね」
タイガはカードをドロー、装填した。
『FINAL VENT』
そして、また王蛇の死角からデストワイルダーが飛び出したが、
同時に王蛇が体を一回転させベノサーベルを振り抜いた。
刀身が王蛇に組み付こうとしたデストワイルダーの頭部に命中し、
タイガのモンスターが叫び声を上げる。
その機を逃さず、胴をなぎ払い、全力で両腕に剣を叩きつけ、胸を蹴り仰向けに倒す。
なおも追撃を掛け、ベノサーベルで何度も胸部や両足を斬りつける。
何度も、何度も、執拗に。苦悶の声を上げるデストワイルダー。
モンスターが重症を負った状態ではファイナルベントの発動もままならない。
それどころか、契約モンスターが死ねばライダーバトルそのものが終わってしまう。
焦ったタイガはデストバイザーを両手に王蛇に襲い掛かってきた。
しかし、カードを使わない斬り合い殴り合いではやはり王蛇に分がある。
振り下ろされた斧をベノサーベルで切り払い、左脇腹から斜め上にかけて斬りつけた。
「ああっ!」
デストバイザーを弾き飛ばされるタイガ。
王蛇は慌てて拾おうと後ろを見せたタイガの背中に容赦なく斬撃を浴びせる。
衝撃で完全にうつ伏せに倒され、体中に痛みが走る。
這いずりながら目の前のデストバイザーに手を伸ばすが、その手を踏みつけられる。
「痛っ……!!」
そして、今度はタイガをベノサーベルで滅多打ちにする。腹、両腕、両足。
これ以上殴るところが見つからないほど、徹底的に痛めつける。
「お前の戦い方はよォ……イライラするんだよ!!」
それでもなお、体を走る激痛に耐えながら、
なんとかデストバイザーにたどり着き、掴んだ。
手、足、順番に少しずつ力を入れて立ち上がる。王蛇はあえてその様子を見ていた。
タイガは力を振り絞って斧を振り上げるが、痛みに邪魔され、
どうしても動きが鈍重になる。
「う、あああ……!」
王蛇はもうベノサーベルを使うことなく、力を込めたハイキックでタイガの胸を蹴る。
抵抗する力が残されていないタイガが仰向けに倒れる。
そんな彼に歩み寄り、腹を踏みつける王蛇。
「どうした、その程度か。英雄だろ?お、ま、え」
「うああっ……!くそ……」
タイガはカードをドローし、取り戻したデストバイザーに装填した。
どうあがくのか見てみたくなった王蛇は、あえてそれを見過ごす。
『ADVENT』
王蛇に激しい猛攻を食らい、向こうで倒れていたデストワイルダーが立ち上がり、
片足を引きずりながら王蛇に攻撃を仕掛けてきた。
だが、やはり緩慢な動きで放たれた鉤爪は簡単にベノサーベルで弾かれ、
当たることはなかった。今度はその巨体で王蛇に抱きつくが、
既に満身創痍の状態では動きを封じることはできず、何度も脇腹を殴られる。
グオオオォン……
デストワイルダーが悲痛な叫びを上げる。すると、その体が突然消えた。
死んだのだろうか。なら奴は、もうライダーとして戦えない。
ブランク化したはずのタイガを探すが、少し目を離した隙にどこにもいなくなっていた。
「なんだ逃げるのか。もっと俺を楽しませろよ!……うおおおお!」
ミラーワールドに王蛇の絶叫が響き渡った。
よたよたと木の足場を歩きながら桟橋を進む東條。
「今日は……調子が悪かったかな」
転送クルーザーを目指すと、ちょうど青葉と電が降りてくるところだった。
「司令官、大丈夫ですか!?どうしてライダーバトルなんて無茶なことを!」
「司令官さん酷い怪我です!すぐ医務室へ行くです!」
「……お願い」
青葉が東條に肩を貸してクルーザーに乗せ、電が舵を握った。
──香川鎮守府
「東條君、なぜ呼ばれたかはわかっていますね?」
怪我の完治した東條は香川の執務室に呼び出されていた。
当然、浅倉に無茶なライダーバトルを仕掛けたことに対する叱責だった。
幸い骨折はなかったが、全身に酷い打撲を負っていた彼は
3日間ベッドで過ごしていたが、やっと外出できるまでに回復した。
「ええ、浅倉威と戦ったことですよね」
「私は言ったはずです。
我々はライダーバトルに乗るためにこの世界に来たわけではないと。
君の勝手な行動は英雄とはかけ離れています」
「……結局大事な人を忘れられない人が、英雄を語っても説得力がないです」
「君への特別講義は無駄だったようですね。
もう結構、君はコアミラー捜索から外します」
声を荒らげることなく怒る香川。その時、東條がニヤリと笑い、何も言わずに退室した。
「待ちなさい、話はまだ終わっていませんよ!」
予想外の行動に香川が慌てて東條の後を追いかける。
本館前広場。噴水の前でぼんやりとした表情で立っていた東條に香川が追いついた。
「待ちなさい!最後のチャンスをあげましょう!」
「チャンス……?」
「この世界にある朽ち果てた鎮守府で女性の姿が目撃されています。
恐らく神崎優衣と見て間違いないでしょう。……彼女を始末するのです。
成功すれば今回のことは不問、いや、君は本当の意味で英雄になれる」
くっくっくっ……
突然不気味な笑い声を上げる東條。香川も困惑するばかりだ。
「どうしたというんです?」
「先生。僕、ミラーワールド閉じるの、嫌になっちゃって」
「何ですって」
東條は上着のポケットからカードデッキを取り出した。
すると、木陰からデストワイルダーが現れ、香川を後ろから突き飛ばし、
倒れたところを持ち上げて、ベンチに思い切り放り投げた。
さらにデストワイルダーが追撃しようとする。
「駄目だよ。先生は僕が倒さなきゃ。戻って」
バラバラになったベンチから香川が立ち上がる。
受け身を取ったので骨折には至らなかったが、体中が痛む。
「東條君……何を!」
「先生は僕にとって一番大事な人でした。だから犠牲になってもらわないと。
僕が英雄になるために。……!」
だが、自分でそう言って何かに気がつく。一番大事な人?誰のことだろう。
胸の中で行き交ういくつもの顔。
ここ数日で知り合った、なにか、こう、普通の人とは違う特別な感じの人達。
……大丈夫。迷わなくっていいんだ。みんな倒せば、大事な人はいなくなる。
そうすれば、僕は英雄に近づける。
東條は、素早く何かの構えのように腕を動かすと、ベルトにデッキを装填。
「変身!」
仮面ライダータイガに変身。
どうやら、私は対処を誤ったようです。教え子の誤りは教授が正さねば。
香川も白衣からカードデッキを抜き、噴水にかざした。
ベルトが現れるとデッキを空高く放り投げ、
「変身!」
半歩前に進み、左手でデッキをキャッチ。ベルトに装填した。
香川の身体にオルタナティブの輪郭が3つ重なり、オルタナティブ・ゼロに変身。
タイガを追ってミラーワールドに突入した。
左右反転した香川鎮守府。
風も、鳥の鳴き声さえもない鏡の世界で、教え子と教授が相対する。
「東條君。もう、何を言っても無駄なようですね」
「そう。先生は大事な人だから、真の英雄になるには、絶対に倒さなきゃいけない」
そして両者カードをドロー。それぞれのバイザーに装填、スキャンした。
《SWORD VENT》 『STRIKE VENT』
「おおおお!」 「うわあああ!」
何故なのか。人々を救いたかった師弟。孤独な上官に手を差し伸べた少女。
ただチャンスを掴みたかった青年。誰にも悪意などなかったはず。
どこかでボタンを掛け違えたがために、
本来戦うはずのない二人の決闘が始まってしまった。