【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】 作:焼き鳥タレ派
「……では、始めましょうか」
誰もいない、寂しい鎮守府で今、二人の師弟が
ライダーバトルから外れた殺し合いを始めようとしている。
幾重もの誤解と行き違いが重なった末の悲劇。
「ええ、やりましょう。正直、今なら僕、誰にでも勝てる気がする。
だって、英雄になるために、全てを犠牲にする覚悟ができたから」
「私の教育はやはり間違っていたようです。ここは私が責任を持って君を止めます!」
「先生でも無理だよ、僕は英雄なんだから……!」
その言葉を合図に、両者相手に向かって走り出した。
接敵した瞬間、オルタナティブ・ゼロはスラッシュダガーでタイガを斬りつけ、
タイガは左腕のデストクローで斬撃を受け止め、
もう片方の鉤爪でオルタナティブを切り裂こうとした。
「……!はっ!」
だが、オルタナティブは両足で跳躍し、タイガの後ろに着地、
すぐさま剣を背後に振り抜いた。刃はタイガの背中に命中。
「うくっ……!ははっ、先生は、強いなぁ」
だが、攻撃を受けても軽口を叩くタイガ。
やや細身の剣、スラッシュダガーは彼の装甲に対して効果が薄かった。
今度はタイガが仕掛けてくる。
両腕の鉤爪で突き刺し、斬り上げ、頭部を狙って叩きつける。
オルタナティブはスラッシュダガーの取り回しの良さを活かし、全てを防ぎ切る。
最初に攻撃を仕掛けたものの、防戦一方となってしまう。
……もう少し、もう少しでデータが揃います。
「どうしたの先生、先生が英雄なら、僕を犠牲にしてコアミラーを探せるはず」
「君を死なせはしません。
言ったでしょう、英雄は人の命に鈍感になることではないと!」
「……やっぱり先生は英雄になりきれなかったんだね。
僕が代わりに英雄になるから、先生は犠牲になって。お願い」
続いてタイガは両腕で同時に両サイドからオルタナティブの胴を引き裂こうとする。
とっさに後ろにジャンプし、攻撃を回避する。もう十分でしょう。
オルタナティブはカードを1枚ドロー、スラッシュバイザーでスキャン。
《ACCEL VENT》
カードが発動した瞬間、タイガの視界からオルタナティブが消え、
一陣の風が叩きつけた。
そして気がつくと、防御する間もなく腹に一閃、背中に一撃を食らい、その場に転がる。
「があっ!!げほげほ……そう言えば、そんなカードも持ってたよね、先生」
瞬間的に超高速移動で攻撃が出来る“ACCEL VENT”で
オルタナティブはタイガに二度斬りつけた。彼は振り返り、立ち上がるタイガを見る。
そしてタイガは立ち上がると、再びデストクローを振りかぶって、
オルタナティブに突進してくる。鋭い鉤爪を彼に向かって振り下ろす。
しかし、あらかじめ予定していたかのように体をひねり、後ろにステップを取り、
幾度も繰り返される斬撃をことごとく回避する。
「忘れましたか、東條君。私は一度見たものを全て覚えてしまうんですよ。
攻撃パターンもね。君の攻撃パターンは完全に把握しました。もう、終わりです。
今降伏すれば、処置は考えてあげましょう」
オルタナティブ・ゼロは指先でコツコツと頭を叩く。
「ははっ……そうだったよね、先生。……先生は強いよ。でも、それだけじゃないか。
そんな人に付いていっても、僕は英雄にはなれない」
「そうですね。君一人救えないようでは、私はまだ英雄ではありえないのでしょう。
だからこそ……」
オルタナティブはカードを1枚ドロー、スキャンした。
《WHEEL VENT》
するとどこからともなく、オルタナティブ・ゼロの
コオロギ型契約モンスター・サイコローグがダッシュで現れた。
サイコローグは前傾姿勢で走りながら
体内からタイヤやエンジンを排出し、バイクに変形。
そしてオルタナティブは変形したサイコローグに飛び乗りタイガに向かって突撃。
すれ違いざまにスラッシュダガーを右腕に叩きつける。
衝撃で片方のデストクローが弾き飛ばされる。
「ぐあっ!!」
右手が自由になったと考えることもできるが、もう有効なカードがない。
“FREESE VENT”は神崎のライダーシステムで契約したモンスターにしか聞かない。
香川が造り出したサイコローグの動きを止めることはできない。
そして、タイガがよろめいている隙にオルタナティブはUターンし、
再び急加速してタイガに突進。片手でスラッシュダガーを構え、今度は胸部に斬撃。
タイガはバイクの加速力を得た刃の重い一撃を受け、
錐揉み回転しながら一瞬宙を飛んで地面に叩きつけられた。
「げふっ、げふっ……なんで、なんでなんだよ……僕は英雄を正しく理解してる。
英雄は絶対死なない、死なないんだ……」
「東條君……君は目的と手段を取り違えています。
とは言え、今の君に私の言葉はきっと届かない。これで終わりにしましょう」
タイガから数十メートル離れた地点でようやく停止したオルタナティブは、
最後のカードをドロー。スラッシュバイザーにスキャン。
《FINAL VENT》
「うあああああ!!」
現実と理想のズレに耐えきれず、雄叫びを上げたタイガも必殺のカードをドロー。
解放された右手だけでデストバイザーに何とか装填した。
『FINAL VENT』
オルタナティブ・ゼロは最速ギアで加速。
最高速度に達したところで右ハンドルを切ることによって車体全体がスピン。
超高速で回転しながらタイガに突っ込んで行った。
それを見たタイガもオルタナティブ・ゼロのファイナルベント「デッドエンド」を
迎撃せんと身構える。
……先生の必殺技を受け止めるのは、一人じゃ無理かな!
タイガもファイナルベントを発動せんと、隣にデストワイルダーを呼び出し、
タイガは左腕、デストワイルダーは右腕の鉤爪を構え、深く腰を落とした。
ライダーと契約モンスターで同時にファイナルベントを命中させるべく、精神を集中し、
一撃必殺の刺殺の構えを取る。
そして、目の前から暴力的なまでの重量物の竜巻が迫ってくる。
直撃まであと5秒。4、3、2、1……
そして。
カッ、と一瞬ミラーワールドの鎮守府を閃光が包んだ。
遅れて、雷鳴のような轟音が轟いた。
巨大な破壊力のぶつかり合いで生じた衝撃波が周囲の建造物を破壊し尽くす。
ここがミラーワールドでなかったら悲劇的な惨事となっていただろう。
巻き上がった爆煙が10分近く経ってようやく薄まってくる。
二人のライダーはどうなったのか。さらに煙が晴れていく。
そこには、オルタナティブ・ゼロが倒れているだけだった。
彼は軋む身体に鞭打って立ち上がり、周囲を見回した。
「……東條君、ゴホッ、ゴホ!返事を、しなさい……!」
廃墟と化したミラーワールドに香川の声が響く。
しかし、返事もなければ、タイガの奇襲攻撃もなかった。
どうやら、逃げられたようですね。自分の手を見る。サラサラと粒子化が始まっていた。
ライダーシステムの模造品であるオルタナティブ・ゼロは、
約9分しかミラーワールドにいられない。
もたもたしていられません、艦これ側に戻って彼を探さねば。
オルタナティブは、バラバラに破壊されながらも、
なんとか水たまり程度に水が残っていた噴水に飛び込み、ミラーワールドから脱出した。
──香川鎮守府
元の平穏な本館前広場に戻ったオルタナティブは、変身を解き、
タイガを追い、走り出そうとした。が、その時、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「提督!」
「五月雨君ですか。すみませんが、今取込み中で……」
「東條提督が、ライダーになって別の鎮守府へ行っちゃったんです!」
「なんですって!一体どこに!?」
「佐野鎮守府です!
長門さんがアルゴリズムナンバーへのアクセス履歴を調べてくれました!
通りすがりの艦娘に提督権限でクルーザーを操縦させたようです!」
「今すぐ追わなければ!」
「じゃあ、私も!」
「では、クルーザーの操作をお願いしますが、中で待機していてください。
今の彼は誤った英雄像に取り憑かれています。誰を傷つけてもおかしくない」
「そんな……どうしてそんなことに?」
「説明している時間が惜しい。行きましょう!」
「はい!」
──佐野鎮守府
「やったぁ!100万円も振り込んであった!
もう警備のバイトなんてやってられないから辞めてきちゃった!
ミラーワールド様々だよ!ずっとライダーバトルなんか終わらなきゃいいのになぁ……」
ちょうどその頃、佐野は一旦01ゲートで現実世界に戻り、
諸々の雑用を片付けて帰ってきたばかりだった。
執務室のベッドに寝転び、通帳を眺めながら大声で独り言を続けていた。
秘書艦・叢雲がうるさそうな表情で文句を言う。
「帰ってくるなりいきなり何!?だらしない格好で大声出して!」
「うん、聞いてよ叢雲!俺、金持ちになっちゃったよ!」
「お金持ち?真っ昼間から酒でも飲んでるの?それより仕事仕事。
提督の承認が必要な処理が山ほど溜まってるんだから」
「ちぇー、なんだよ。100万だよ、100万。ちょっとは驚いてくれてもいいのに」
つれない反応の叢雲にむくれる佐野。
キィ……
その時、執務室のドアがノックもなしに開いた。
「誰~?今、残高を見てニヤニヤするのに忙しい……ああ!東條さん。
どうしたんですか、こんなところに。あ、どうぞ座ってくださいよ!」
東條が座ろうとせず、切れ長の目でじっと佐野を見つめた。
「いや、いい。……ちょっと外で話せないかな」
「え?ええ。構いませんけど……」
不審に思いながらも佐野は東條に付いていった。
本館前広場。佐野は東條の前で思い切り伸びをしながら散歩していた。
「いや~、それにしてもあんなに報酬をいただけるとは思いませんでしたよ。
東條さんからも先生にお礼言っといてもらえますか」
「……そんなにお金が大事?」
「もっちろん!お金があれば、贅沢な暮らしができますし、
何より……惨めな思いをしなくて済みますからね」
「そう……ねぇ、あの道を曲がろうよ」
目の前の分かれ道が小川に沿って伸びている。
「ええ。不思議ですよね。データの世界なのに、現実世界より空気が美味しいや!」
「佐野君」
「はい?」
……ザシュッ!
いつの間にか変身していたタイガが佐野にデストクローを突き出した。
嫌な予感に敏感に反応した佐野が体を回転してかわすが、左腕から血が流れている。
「血?……あ、ああっ……なにするんですか東條さん!?」
突然の凶行にパニックを起こす東條。
「ごめんね。君も大事な人だから、倒さなくちゃいけないんだ。英雄になるために」
「ふざけんなよ、何考えてんだよ!うわああ!」
思わず逃げ出す佐野。タイガはデストクローをぎらりと構えて彼を追い始めた。
「はぁ…くそっ、なんでだよ、なんで俺がこんな目に!」
ジーンズが濡れるのも構わず、小川を横切り、全力で広場を抜けて本館前に戻った佐野。
後ろを振り返る。まだ遠くだが、タイガがゆっくりとこちらに近づいてくる。
もう戦うしかない!急いでデッキを取り出し、
左手に持って両手の親指、小指を角のように立て、両腕を窓ガラスにかざす。
腰に変身ベルトが現れる。そして、複雑な手順で何かを描くように腕を動かし、
デッキを装填。仮面ライダーインペラーに変身した。
インペラーは転がり込むようにミラーワールドへ入った。
ミラーワールド側の鎮守府に佐野が入ると、間もなくタイガも侵入してきた。
ライダーとの戦闘は経験がないインペラーが後ずさりする。
「なんだよおたく!ひょっとして俺が用済みになったから……」
「違うよ。さっきも言ったけど、君も大事な人だから、倒さなくちゃならない」
「意味わかんねえよ!頭おかしいよあんた!」
「仕方ないよ。英雄は、理解されないものだから」
タイガは今度は両手が塞がるデストクローを装備せず、
デストバイザーでの戦いに切り替えた。
重厚な斧を振りかざし、インペラーに襲いかかる。
「ちくしょう……たあっ!!」
インペラーはライダー随一の脚力でタイガを飛び越え、斧の一撃を大げさに回避。
タイガの後方に着地すると同時に、しゃがんだままカードをドロー。
右脛のガゼルバイザーに装填。
『SPIN VENT』
右腕に一対のドリル・ガゼルスタッブが装備される。
インペラーはタイガと戦う覚悟を決めた。
人間と戦うのは初めてだけど、俺の足とモンスターがいれば大丈夫!多分……
そして大振りの攻撃を避けられたタイガがやっと振り返り、またこちらに向かってくる。
次はインペラーから仕掛けた。
「うおお……はあっ!」
ドリルをタイガに突き刺す。タイガはデストバイザーを縦にし、
ガゼルスタッブのドリルの間に挟み、受け止めようとしたが、
刀身の長いガゼルスタッブの先端が右肩に刺さり、火花を散らしてダメージを与えた。
「うっ……!」
やれる、いける、俺は、絶対生き残って……!!
自らを鼓舞し、インペラーは後ろにステップを取り、タイガと距離を取る。
デストバイザーが有効でないと判断したタイガはカードをドロー、装填した。
『STRIKE VENT』
今度こそデストクローを両腕に装備したタイガ。
「ああああ!!」
雄叫びを上げながら狂ったように鉤爪を振り回しながらインペラーに突撃したタイガ。
インペラーは、斧より有効射程が伸びた攻撃を慎重に見定める。
あの斬撃の嵐に巻き込まれたらズタズタにされる。でも、俺にはこの足がある!
インペラーは、タイガの接近と同時に、両足で空高くジャンプ。
一瞬目標を見失い、隙を見せた敵を目がけて落下。
上空から全力で頭部にキックを食らわせた。
「あ……かはっ……!」
脳が揺れ、その場でふらつくタイガ。立っているがやっとの状況。
やるなら、今しかない!
インペラーは最後のカードをドロー。右足を上げ、ガゼルバイザーに装填した。
『FINAL VENT』
「はあああ……行け!」
カード発動と同時に、インペラーの契約モンスター・ギガゼール及びその亜種が現れる。
あの日のように、槍を持つもの、羊のような角を持つもの、
尖った角が刃物となっているもの、多種多様なガゼル型モンスターの軍勢が現れ、
タイガに襲いかかった。
「!?」
タイガは慌ててデストクローを捨て、カードをドロー。デストバイザーに装填。
『FREESE VENT』
だが、凍結出来たのは回転ジャンプをしながら向かってくるギガゼールの一体だけで、
ほぼ全てのモンスターがこちらに飛びかかってくる。
ミラーモンスターの群れは、すれ違いざまタイガに一撃を加え、
確実に体力を奪っていく。反撃に出ようにも凄まじい連続攻撃の前に手も足も出ない。
やっとギガゼール達が飛び去り、デストバイザーを構えた瞬間、
最後にインペラーがタイガに飛びつき、強烈な飛び膝蹴りを食らわせた。
インペラーのファイナルベント「ドライブディバイダー」で、
タイガはとうとう膝を折り、その場に倒れた。
「はぁ…はぁ…」
インペラーはタイガの様子を注意深く見守る。が、全く動く様子を見せない。
遠巻きに慎重にタイガを見るが、やはり死んだふりではなく、本当に力尽きたようだ。
数秒後かけて現実を飲み込むと、インペラーは歓喜した。
「……やった!俺、勝ったよ!生き残ったんだ!
早く戻らなきゃ、俺の人生にはまだまだ続きがあるんだ!」
そして、インペラーは窓ガラスから艦これ世界に戻ろうとした。
……彼は後ろを振り返る。そこには身動き一つせず、地に伏すタイガ。
体が既に蒸発を始めていた。
“じゃあ、僕達4人、これからはコアミラーってお宝を求める秘密の仲間ですね!”
インペラーは、何も言わずタイガの手を引くと、
窓ガラスに手を突っ込み、艦これ世界に戻った。
ミラーワールドから脱出した二人。
「……」
変身を解いた佐野は、やはり無言のまま、立ち去ろうとした。
その時、香川と五月雨が彼の元へ駆け寄ってきた。思わず身構える佐野。
香川がタイガに目を向けると、アーマーに蓄積したダメージで、変身が強制解除された。
そこには気を失った東條が。
「ああ、間に合いませんでしたか……」
「先生!これ、どういうことなんですか!?
なんで俺が殺されなきゃならないんですか!」
戦闘の興奮状態から冷めた佐野が、今更ながら香川を問いただす。
「佐野君、本当に申し訳ありません。全ては私の監督不行き届きです」
「おかしいですよ、なんで俺を殺すと英雄なんですか!」
「本当にすみません。今は、時間をください。
彼からデッキを取り上げ、二度とこのようなことが起こらないよう務めます。
それに、それなりの慰謝料もお支払しますので……」
金の話が出た途端、先程の命がけの戦いを忘れる佐野。
「え、本当ですか!?あたた、左手も切られちゃって痛むんですけど……」
「当然治療費も別途お支払します。ですので、このことはどうか穏便に」
「わかりました!誰でも一度くらい間違いはしますよね!」
「では、彼を医務室に運ぶのを手伝ってもらえますか?君の怪我も手当しなければ」
「もちろん!俺がおぶっていきますよ!」
こうして4人は医務室に東條を運び込み、ベッドに寝かせ、手当をした。
デッキは香川が預かり、ミラーモンスター襲撃に備えて、
佐野がそばに付くことになった。当然報酬付きで。
「本来なら私がいるべきなのですが、なにやらミラーモンスターの活動が
活発化しています。担当鎮守府を長く空けることができません。
それに……やるべきこともありますので」
「お任せください!東條さんは俺が守りますので!」
佐野は手を振って香川を見送った。そして東條のベッドのそばに座る。
つい、報酬に釣られて引き受けちゃったけど、
なんで俺、自分を殺しに来たやつを守ってるんだろう。ふと、彼の寝顔を見る。
俺を倒すと英雄になれるって言ってたけど、
誰かを殺してまで英雄になってどうするんだろう。起きたら聞いてみようかな。
時計を見ると、もう0時近く。俺も寝よう。佐野は別のベッドで横になった。
翌朝。
「ふぁ~あ……!?」
大きなあくびをした佐野は愕然とした。東條がいないのだ。
医務室のベッド全てのカーテンを開けて探すが、やはりいない。
「おはようございま~す」
呆然としていると、救護班の艦娘が入室してきた。彼女に駆け寄り、尋ねる。
「ね、ねえ!そこに寝てた東條さん知らない?」
「東條提督ならそこに……やだ、いない!
ねえ、みんな!そこに寝てた人どこに行ったの?」
「あら。どこ行ったのかしら」
「あなた遅番でしょ、見てない?」
「夜中の巡回の時はいたんだけど……」
彼女も後から入ってきた仲間に聞くが、答えは全て“知らない”だった。佐野は気づく。
東條は気を失ったふりをして、恐らく早朝に抜け出したのだ。
初めから目が覚めていたのか、途中で目を覚ましたのかは知らないが、
とにかくこうしてはいられない。香川に知らせなければ。
転送クルーザーに向かうべく、医務室を出ようとしたが、
思いがけない人物が飛び込んできた。香川だった。
彼の方でも異変があったらしく、酷く慌てた様子だ。
「佐野君!東條君は、彼はどこに行ったのですか!?」
「いないんです!目が覚めたらいつの間にかいなくなってて!
看護婦さんに聞いたら夜中にはいたらしいんですけど!」
「……仕方ありません。君、長門君に連絡を。
全ライダー鎮守府に警告を打診してください。
彼が私の執務室からデッキを盗んでいきました」
「わかりました!」
「先生、俺、ここで待ってます。もしかしたら昨日の決着を着けに戻ってくるかも」
「お願いします。彼の捜索は私が!」
そういうと香川は医務室から白衣をはためかせて出ていった。
──北岡鎮守府
「おはようご「大変よ、司令室から緊急入電!」」
吾郎の挨拶を遮って飛鷹が執務室に駆け込んできた。その手には一枚の電文。
北岡は受け取ると、さっと目を通した、
「どうしたんですか、先生」
「はぁ……新聞は読んだ?新人ライダーが、なんかいろいろやらかしてるらしいよ。
“仮面ライダータイガ。見つけ次第イレギュラーとして無力化せよ”だってさ。
新聞読んだけどさ、英雄だのなんだの、言ってることが胡散臭いんだよね。
いい年してヒーローになりたいとか冗談も程々にしてほしいんだけど」
「うちにも来るのかしら……」
「来たらやるだけだよ。今までと何も変わらない」
「でも、先生……お体の具合は大丈夫なんですか?」
「へ?やっぱり具合でも悪いの、提督?」
事情を知らされていない飛鷹が尋ねる。
「……大丈夫だから、吾郎ちゃん。まぁ、そんなところだよ、飛鷹」
だが、流石に飛鷹もこれだけで納得しなかった。
ずっと咳が続いているし、あまり顔色も良くない。
最近の話ではない、ここ半月ずっとだ。
「本当に?嘘だったらデコピン1発じゃ済まないわよ?」
「そんなもん食らったら余計具合が悪くなるよ」
コンコン
ドアをノックする音が聞こえた。全員がドアを見る。吾郎がドア越しに声をかける。
「どちら様ですか」
「東條鎮守府の提督。北岡って人に会いたいんだけど……」
「すみませんがお帰りくださ「いいよ、吾郎ちゃん。入ってもらって」」
飛鷹は驚いて北岡を見る。
「いいの!?」
「どうせいつかは戦うんだ。ヒーロー気取りのお坊ちゃんに人生を説いてやるさ」
そして、吾郎がドアを開けると、そこで顔や首を包帯や絆創膏だらけにした青年が、
不気味な視線で北岡を見つめていた。
本館から出て1階の、外部と内部が繋がる大きなガラスドアの前に二人は立っていた。
吾郎と飛鷹も不安げにその様子を見ている。
「アポなしの訪問は正直困るんだけど?」
「どうして君なんかがライダーになったのかな。
贅沢ばかりして誰かを助けようとしない。英雄とは程遠い」
「だったら誰がライダーだったら満足すんのよ」
「少なくとも、一つを犠牲にする勇気を持たない人間にライダーはやって欲しくない。
仮面ライダーは、英雄でないと。神崎君も僕の考えが気に入ってデッキをくれたんだ。
許せないライダーは、倒せばいいって」
東條はカードデッキを取り出した。北岡は一つため息をつく。
「他人のための犠牲は美しくない。自分ひとり幸せにできない奴が、
誰かを助けようなんて、おこがましいというか、身の程知らずというか。
正直お前、“私は幸せじゃありません”、って顔に書いてあるよ」
東條が表情を変えずに腹の中の怒りを滾らせる。
「やっぱり君はライダーバトルから消えるべきだよ」
「ならつべこべ言わずにかかってきなよ。許せないライダーは倒すんだろう?
俺も暇じゃないんだよ」
そして、二人はガラスドアに向き合い、それぞれの形でカードデッキをかざした。
変身ベルトが腰に現れると、北岡は両腕を一瞬クロスし、右腕を立て、
左手でデッキを装填。東條は素早く両腕で構えを取り、右手でデッキを装填した。
「変身!」「変身」
仮面ライダーに変身した二人は、一瞬視線を交わすと、ガラスドアに飛び込んだ。
勝負は最初からタイガが不利だった。バイザー自体が銃器になるゾルダに対し、
“STRIKE VENT”を使用しても接近戦しかできないタイガ。
タイガはカードのドローや装填ができなくなるデストクローの仕様は控え、
慎重にデストバイザーでの戦いを挑む。
対するゾルダはカードをドロー、マグナバイザーにリロードした。
両肩にショルダーマウント式のビーム砲2門が装備される。
タイガはその大斧でゾルダに斬りかかるが、マグナバイザーで何度も銃撃を受け、
足元を撃たれ、前に転倒。更にそこをビーム砲で狙い撃ちされる。
「ぐあああっ!!」
立ち上がれないタイガにつかつかとゾルダが歩み寄る。
「さっきの続きだけどさ、お前ら英雄目指してる割には、“小さい”んだよね」
「ゴホッ!……なんだと」
「“多くを助けるために一つを犠牲にできる勇気”?
しみったれた言い訳にしか聞こえないんだけど」
「あんまり調子に乗らないほうがいいかもね……」
「絶体絶命の航空機墜落事故、豪華客船沈没事故、
乗客を生還させた機長や船長はどちらも英雄と呼ばれた。
お前らとの違い、理解できるか」
「べらべらうるさいなあ!」
激高し、痛みも忘れて立ち上がる。
「“全員助けた”ってことだよ。お前らみたいにできる範囲の線引きなんかしないでさ。
たった2つから1つを選ぶなんて誰でもできる。
つまりお前らが必死こいて目指してたのは、ただの“凡人”なのよ」
自らの信念を否定され、怒りに震えるタイガはカードをドロー、装填。
『ADVENT』
デストワイルダーがゾルダの背後から飛びかかる。
だが、ゾルダは左脇にマグナバイザーをはさみ、振り向くことなく後ろを撃った。
デストワイルダーは数発の銃撃をくらい、空中でバランスを崩して転倒。
「誰にも必要とされない、英雄の資格もない口先だけの人間が何を言っても無駄だよ。
悪のライダーを倒して、英雄になるのは、僕だから……!」
「俺は英雄なんか目指さない。自分だけのために生きる」
「そんな薄汚れた生き方、僕は嫌かな!」
「他人をダシにした自己満足の方が汚れてると思うけど?」
「うああああ!!」
怒りが頂点に達したタイガはカードをドロー、デストバイザーに装填。
『STRIKE VENT』
両腕にデストクローが現れる。タイガは怒りに任せてゾルダに突撃。
ゾルダもマグナバイザーを連射し迎え撃つが、
左腕の手の甲を盾代わりにして突進してきたタイガに接近を許してしまった。
両腕から鋭い鉤爪で斬撃を浴びるゾルダ。
「げあはっ!!ごほっ、ごほっ!」
至近距離で全力を込めた攻撃を受け、ゾルダは後方に弾き飛ばされる。
体調の悪化も重なり、吐血を伴う咳が止まらない。タイガは更に追撃を掛けてくる。
なんとかマグナバイザーで牽制するが、巨大な鉤爪で受け止められ、
有効なダメージには至らない。ふらつく足で地面を踏みしめ、
両肩のビーム砲の照準を合わせる。
あえてタイガの足元を中央に収めると、再度2門の砲を発射、命中。
爆発したエネルギーが、タイガを下から突き飛ばし、衝撃を浴びせる。
「うわあっ!!」
固い石畳に落下したタイガは体中に電流のような痺れに襲われる。
そしてゾルダは容赦なく追撃をかける。カードをドロー、リロード。
『SHOOT VENT』
ゾルダの両手に、今度は単装砲が現れる。こちらは肩のビーム砲とは違い、鋼鉄の実体弾を放つ。
「じゃあね、坊や。最後に教えといてやるよ。英雄ってのはさ、
英雄になろうと思った時点で、失格なのよ。お前、いきなりアウトってわけ」
「ふざ、け……」
トリガーを引くと、耳を引き裂くほどの砲声と共に、焼けた砲弾が発射された。
その強烈な反動でゾルダが後退する。
着弾すればタイガはアーマーごと粉々になるだろう。
勝利を確信したゾルダだったが、射線状に鈍色の影が飛び込み、タイガを連れ去った。
先程、奇襲に失敗したデストワイルダーだった。
砲弾の直撃寸前で主人を助け、タイガを担ぎ上げたまま
ミラーワールドの外へと逃げていく。
ゾルダはそれ以上深追いせず、ふぅ、とひとつ息をついてその様子を見ていた。
ガラスドアが一瞬輝くと、巨大な怪物とライダーが現れたので、飛鷹と吾郎が驚いた。
「ちょ、何あれ!?」
「多分……さっきのライダーだと思います」
続いて、ゾルダもミラーワールドから帰還した。二人はゾルダに走り寄る。
「先生!」
「提督、無事だったの!?」
「楽勝。所詮、奴は小者だった、ってことかな」
3人が桟橋の方を見ると、転送クルーザーが光り、無人状態になった。
「逃げられはしたけど、多分あいつは誰にも勝てない。
……飛鷹、悪いけど長門に連絡しといてよ」
「わかった!」
飛鷹が作戦司令室に走っていくのを見ると、今度は吾郎に指示を出した。
「吾郎ちゃん、濡れタオル持ってきてくれないかな。ちょっと……血が出たからさ」
「先生……すぐ、持ってきます」
事情を察した吾郎は、何も聞かずに給湯室へ急いだ。そしてゾルダは変身を解く。
口を拭うと、やはりその手が血で汚れる。
北岡はその場で座り込み、その血まみれの手をただ見つめていた。
──東條鎮守府
転送が終わると、提督命令で操っていた艦娘に
自分の持ち場へ戻るよう命令したタイガは、おぼつかない足取りで桟橋を歩く。
どうして、どうして、僕は勝てないのかな!?僕は英雄なのに!
本館を目指して工廠前のアスファルトを踏みしめながら歩みを進める。
失敗したけど、特別な人を殺す勇気だってあった!もう少しで先生すら殺せた!
僕はなんだって犠牲にできる!なのに……
「司令官!!」
その時、タイガを呼ぶ声が聞こえた。
向こうから見慣れた少女が息を切らせて走ってくる。薄桃色の髪を後ろでまとめた艦娘。
青葉はタイガの胸に飛び込み、必死に訴える。
「なんでこんな無茶なことしたんですか!みんなが司令官の事を探しています!
もう、やめましょう?こんなこと……」
ああ、そうか。そうだったのか
「青葉も一緒に謝ります!まだ誰も手にかけてない今なら間に合います!」
そう。誰も殺してないからなんだ。
「さあ、こっちです。今すぐ作戦司令室へ出頭すれば……」
大切な人を。
“この繋いだ手を失いたくない。青葉はそう思っています”
タイガはデストバイザーの刃を上げ、カード装填口をオープン。
カードをドローし、装填。刃を下ろした。
「ねえ、青葉さん」
「急がなきゃ、時間が……」
────FINAL VENT
カードが発動。物陰から飛び出したデストワイルダーが青葉をうつ伏せに押し倒し、
その豪腕で押し付けながら引きずり出した。
艤装と彼女の体が地面との摩擦で激しく火花を上げる。
「キャアアア!!熱い、熱い!やめて!お願い、やめてえぇ!!」
青葉の懇願も虚しく、デストワイルダーは工廠前の長い道を引きずり続ける。
その後には彼女の血と焼けたアスファルトの跡が。
そしてタイガは、左腕のデストクローを構え、深く腰を落とす。
「熱いいぃ!どうして!どうしてぇ!痛い、痛いよぉ!!」
そしてUターンしてきたデストワイルダーが青葉をタイガの前に突き出す。
その瞬間、タイガのデストクローが深々と彼女の体を貫いた。
「……!か…は……どう、して」
そのまま青葉の身体を持ち上げると、鉤爪に青白いエネルギーが集中。
収束しきったその時、エネルギーは爆発を起こした。
仮面ライダータイガのファイナルベント「クリスタルブレイク」で、
青葉は完全に動かなくなった。
青葉を抱きかかえて作戦司令室への道を歩く東條。
「君は僕にとっていちばん大事な人だった。だから犠牲になってもらわないと。
僕が英雄になるために。ごめんね青葉さん。ごめんなさい」
無残に黒焦げになった彼女の身体に涙が落ちる。東條は大切な人を失い涙していた。
そして、微笑んでいた。