【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】 作:焼き鳥タレ派
──城戸鎮守府
頭にバスタオルを乗せたまま、真司はソファに腰掛けうなだれていた。雨はもう止んだ。
しかし消えていった佐野と同様、真司もまた雨に濡れていた。
着替えを済ませた三日月は、真司にバスタオルを持ってきたが、
頭と服を軽く拭いただけでソファに座り込んで、何も語ろうとはしなかった。
全くの無表情だが、彼が消滅したことで自分を責めているのは明らかだ。
三日月は黙ったまま真司のそばに立っていた。
あの後、王蛇は“勝手に消えたか、つまらん”と吐き捨てて帰っていった。
せめて、彼の百分の一でも真司に図太さがあれば、とすら思えてしまう。
真司なおも黙り込む。結局、守れなかった。かつて蓮にぶつけられた言葉が蘇る。
“お前はいつも肝心な時に迷ってばかりだが、それで誰かを救えたことがあるのか”
迷っているうちに、死なせてしまった。
欲望もなく、誰も救えず、自分はライダーでいる意味はないのではないか。
何もかもを諦めようとした時、ノックもなく執務室のドアが開いた。
「……いつまで、そうしているつもりだ」
「蓮……」
見かねた三日月が秋山鎮守府に連絡を取り、蓮に頼み込んで来てもらったのだ。
真司の状況を見て、大声を張り上げても無意味だと考えた蓮はただ静かに語りかけた。
そして真司の前に座り、しばらく彼も何も言わなかった。執務室を包む静寂。
やがて、真司が一言一言話しだした。
「俺のせいだ。俺が、あいつを、深追いしなかったら……」
「なら、いつ自分を殺しに戻ってくるかわからない敵を、
放っておけばよかったと言いたいのか」
「そうじゃないけど……」
蓮は今度は三日月に尋ねた。
「三日月、再起動実行は試したのか」
「いえ……していたとしても、再起動の効果が及ぶのはゲームの“中”だけです。
外部に放り出された佐野提督を救うことはできなかったと思います」
「そうか……」
蓮も既に取り返しのつかなくなった状況に打開策を見いだせず、
三日月の入れた熱いお茶を一口飲んだ。
だが、その時、蓮にふとある疑問が思い浮かんだ。
再起動があるなら、なぜ“あれ”がない?
それとも、三日月も誰も気付いてないだけなのか?
……しかし、仮に存在したとしてもそれがなんだというのだ。
せっかく減ったライダーを元に戻すなど、馬鹿馬鹿しい。
それこそ目の前にいる優柔不断な男と同じだ。俺は違う!
忘れろ、ライダーを全員殺し、オーディンも倒し、恵理に新しい命を……
俺にできるのか?本当に。蓮もまた自分自身に疑問を抱えてしまった。
湯呑みを持つ手が震える。そして、彼は答えを出す。
「城戸、もし佐野が蘇ったとしたら、どうする?」
「え……なんか方法があんの!?」
「仮に、の話だ!どうなんだ」
「とりあえず、座敷牢に入れて……」
「またそれか。捕虜の世話をしながらまともに戦えると思うか?」
「だって、他に方法が……」
「そうだ。誰も殺したくない、でも優衣やライダー達を救いたい、
そんなお前向きの方法がある」
「マジ!?どんな方法?教えてくれ、頼む!」
一縷の望みを見た真司が身を乗り出す。
「方法というより賭けだが……俺とお前でダミー鎮守府に襲撃を掛ける。
“SURVIVE”所持者二人ならオーディンを無力化程度ならできるかもしれん。
……それで、前にペテン師が言っていたな、神崎を説得しろと。
確かに俺達には不可能だ。だが、妹の優衣なら可能かもしれん」
「そうか……そうだよな!絶対俺達なら優衣ちゃん助けられるって思ってた!
お前のこと見直したよ、蓮!あ、でも、やっぱり佐野はもう帰って来ないんだよな……」
一気に気力を取り戻した真司だが、ライダー死亡の現実に再び直面する。
ひと目真司を見た蓮が、覚悟を決め、三日月に話しかける。
「三日月、確認したいことがある」
「なんでしょうか」
「提督権限に、再起動実行があるだろう。なら当然、“システムの復元”もあるはずだ。
今、起動できるか?」
三日月も真司も雷に打たれたような衝撃を受ける。
なぜ気づかなかったのか、大掛かりな処理になることと、
長年必要となる状況も訪れなかったので、三日月も思い至らなかった。
真司は、そもそも再起動実行以外に
艦これのシステムにアクセスする方法を知らなかった。
「可能です!かなり大規模な処理になるので
直接作戦司令室でコンソールを操作してもらう必要がありますが、
艦これの基幹データをサルベージして、鎮守府を数日前の状態に復元、
つまり佐野提督が生きていた時に戻すことができます」
「やった……あいつは、戻って来るんだな!」
「まだ喜ぶな。仮に復元に成功しても、
生き返った奴がまたお前に襲いかかってこないとも限らん。
なにしろ、記憶まで復元される保証はないからな」
「でも、やる価値はあるよ、もしもの時は……俺がなんとかする!」
「では皆さん、作戦司令室へ行きましょう!」
希望を胸に、真司は蓮や三日月を置いていくほどの駆け足で作戦司令室に向かい、
ドアを開けた。いきなり提督が飛び込んできたので、いつもの3人が驚く。
「どうしたのだ、提督!?」
長門が真司に問いかける。息を切らして彼女の両腕にしがみつきながら、
なんとか頭に浮かぶ意思を言葉にする。やっと蓮と三日月も追いついた。
「はぁ…はぁ…長門、システム、復元、お願い、急いで!」
「システムの復元!?一体何があったのだ!」
「ごめん、説明、時間ない」
まだ息が整わない真司に代わって蓮が説明した。
「ライダーが艦これのフィールド外に出るというエラーが起きた。
城戸はそれで消滅したライダーを復活させたいらしい。
エラー自体はここでも観測しているだろう。それ以前の状態に復元したい」
「なるほど、そういうことか……
確かに、フィールド外に飛び出したオブジェクトの削除処理は我々も捕捉している。
わかった、鎮守府のデータをそれ以前の状態に復元しよう。
大淀、エラーが起きる以前に作成された復元ポイントをサーチしてくれ」
「了解しました!」
大淀がコンソールのキーボードを流れるような速さで叩く。
モニターにコマンドプロンプトの画面が現れ、大量の年月日と時刻データを並べだす。
そして、また彼女がキーボードで司令を送り、直近数件の復元ポイントを挙げ、
エラー前の対象を探し出した。
「ありました!12/15/2002 13:17がエラー前、なおかつ最新の復元ポイントです!」
「ありがとう。では提督、宣言してくれ、
“提督権限 システムの復元:2002年12月15日1317”。
大淀、提督権限発動と同時に引き続きサーバーにアクセスして処理を頼む」
「うん……!“提督権限 システムの復元……」
「やめてください」
その時、入り口から女性の声が聞こえた。
黒のロングヘアと白のスーツ、真っ赤なロングスカートが特徴の艦娘。
端正な顔立ちだが、どこか思い詰めた表情をしている。
「え、君は?どうしてやめなきゃいけないの?」
「はじめまして、城戸提督、秋山提督。私は北岡鎮守府の秘書艦・飛鷹です。
突然来て不躾なお願いとは存じますが、システムの復元はおやめいただきたく思います」
飛鷹が優雅にスカートの両端をつまみ、軽く腰を下げてお辞儀する。
なぜ北岡の秘書艦が佐野の救助を中止するのか。
皆、状況がよくわからず困惑するが、長門が飛鷹に詰め寄り肩を掴む。
「何を考えている!対応が遅れれば時間が経つにつれ、古い復元ポイントから削除され、
復元処理が間に合わなく……」
「皆さんこそ何を考えているんですか。
北岡鎮守府の司令室からライダーバトル発生の連絡を受けて、
偵察機でその様子を伺っていたのですが、この勝負、城戸提督の勝利じゃありませんか。
どうしてわざわざ敗者を復活させようとするんですか」
「いや、あのね飛鷹さん!俺、誰もライダーバトルで死なせたくないんだ!
優衣ちゃんもそんなこと望んでないし、蓮だって……」
「そんなことできるわけないじゃないですか!!」
突然、飛鷹が激昂して叫んだ。その感情の昂ぶりに長門も気圧される。
「どうしてせっかく1人減ったのにまた増やすんですか!
これ以上ライダーバトルを長引かせることはやめてくださいよ!
彼の最期は偵察機から報告を受けています!
帰るべき場所を守るために戦っていたそうですね。
でも、日常を守りたいのは私も同じなんです!ライダーだけじゃないんです!」
「あっ、飛鷹さん……もしかして、北岡さんのこと……」
真司は気づいた。飛鷹も知ってしまったのだ。北岡がライダーバトルに参戦した理由。
そして、彼に残された時間が少ないことも。
「提督のチャンスを奪わないでください!生きたい。ただそれだけの、
人としてごく当たり前の願いすら許されないんですか!?」
「飛鷹、落ち着くんだ。命を賭けているのはどの提督方も同じことだ。
我々が介入して良い事ではない!」
飛鷹は長門の手を振り払い、真司にすがりついた。その目には涙が浮かんでいた。
「ライダーも艦娘も救いたいなら、今やってください!もう時間がないんです!
城戸提督のように迷っている時間すらないほど追い詰められてるんです!」
真司は優しく彼女の手を取ってゆっくり下ろす。
「ごめん、俺じゃ、今すぐには無理なんだ。
でも、まず目の前のやつを助けなきゃ、助けられなきゃ、
みんなを助けることなんてできないと思うから。
お願い、もう少しだけ時間をちょうだい……」
飛鷹は何も答えず、後ろに下がり、ドアの外に出た。
「……もういいです。一度倒したライダーを生き返らせるなんて、間違ってます。
私に提督を倒すことはできません。でも、司令室を吹き飛ばすことならできるんです」
「飛鷹、お前何を!」
長門が叫ぶと、上空からブロロロ……とプロペラの音が聞こえてきた。
「一体何をする気だ!」
「司令室上空に爆撃機を展開しておきました。
提督は攻撃できなくても、システム復元に必要なコンソールを破壊すれば、
邪魔なライダーの復活なんてできませんよね……」
「……それで北岡が喜ぶと思うのか、あのプライドの固まりが」
壁に持たれていた蓮がつぶやくように問いかける。
「わかったようなこと言わないで!幸せがほしいのは、艦娘だって、同じなのよ……!」
頬に涙しながら訴える。そして選択を迫る。
「さあ、復元ポイントを削除するか、鎮守府を爆破されるか、今すぐ選んで!
私たちには時間がない、ないのよ!」
「やめろ、飛鷹!」
「うるさい!私を殺しても無駄。5分置きに私から送られるシグナルが途絶えたら、
ここを爆撃するよう命じてある。早く選んで!
提督権限も発動させない。変なこと言ったら、
戦闘機に私の頭を撃ち抜くように命令するから!」
彼女は本気だ。どちらを選んでも佐野は助からない。追い詰められる真司。
せっかく佐野、いや、俺がライダーでいる理由が蘇るチャンスだと思ったのに……!
だが、その時。
「ねえ、飛鷹」
その声に彼女が振り向くと、パァン!と乾いた音が。
いつものスーツ姿の北岡が、飛鷹の頬を張ったのだ。
「てい、とく……」
「ずいぶん探したよ。優秀な君がまさかこんな馬鹿やらかすなんてね。
なんてことしてくれたんだか。俺が女性に手を上げるなんて初めてだよ。
長門さん、みんな、迷惑かけたね。
城戸君、秋山。食い逃げや喧嘩でお縄になったら俺に言いなよ。
執行猶予で済むようにしてやるから」
「だからしないって!……って、なんで北岡さんが?」
「急に飛鷹の姿が見えなくなったからさ、吾郎ちゃんと手分けして探してたんだ。
うちの長門に転送クルーザーの使用履歴を調べてもらってここに来たんだけど、
こんなことになってるなんて夢にも思わなかったよ。
……飛鷹。俺、君にライダーバトルに参加するよう命じた覚え、ないんだけど」
「ぐすっ……だって……このままじゃ……ライダーバトル……うわああ!」
飛鷹は泣きながら言葉にならない言葉を形にしようとする。
北岡はそんな彼女の頭に優しく手を乗せ、抱き寄せた。
「前にも言ったでしょ、俺は強いって。
必ずライダーバトルに勝利して生き残ってみせる。
だから、君がこんなことする必要なんてないんだよ」
「ううっ、だって、間に合わなかったらどうするのよ……
佐野提督みたいに、私だって日常を失いたくない!
提督が艦隊指揮をして、私がその補佐をして、またみんなで吾郎さんの料理を食べて!
そんな毎日を守りたいの!」
「間に合わせる、絶対。俺はなんでもできるスーパー弁護士だからね」
「本当に?」
「俺は出来もしないことを口にするような無能じゃない。
ちょっとは信用してもらいたいな」
飛鷹は黙って頷く。そして、司令室のメンバーに向かって頭を下げた。
「皆さん、申し訳ありませんでした……私、今を失いたくなくて……」
ポン、と長門が彼女の肩に手を置く。そして真司の目を見る。真司もまた頷いた。
「飛鷹、幸せを求める気持ちは、皆同じだ。
城戸提督は、皆が生きて幸福を掴むチャンスを得られるよう、戦っている。
どうか、信じて待って欲しい」
「……はい!」
司令室の張り詰めた空気が緩み、皆ホッとする。
「城戸提督、ご迷惑をおかけしました。貴方に、提督の運命を託します」
「俺、頑張るから!絶対みんなが生きて帰れるように!」
そして、飛鷹は北岡と共に帰っていった。
今度こそ、復元作業を続行すべく真司が提督権限を宣言する。
「“提督権限 システムの復元:2002年12月15日1317”!」
「ユーザー指定の日時にゲームデータを復元、同意。
バックアップ、完了。最終確認、承諾!システムの復元を開始します!」
真司がシステムの復元を宣言し、大淀がコンソールを操作すると、
周囲が再起動実行の時と同じく、ブラックアウトした。
ただ、今度は白い艦ではなく、無機質な
“しばらくおまちください”というメッセージと、その下に進捗状況を示す
プログレスバーが表示された。
徐々にプログレスバーが白から緑に変わっていくが、
その処理はかなり遅く、半分進む頃には1時間が経っていた。
それでも真司は一人待ち続けた。祈りながら待ち続けた。
そして、更に30分立つと、プログレスバーの白の部分が一気に緑に変わり、
“再起動します おまちください…”というメッセージが宙に浮かんだ。
すると、いつもの再起動実行と同じく白い艦が浮かび、
数秒で闇の世界から元の艦これの世界に戻った。
すると真司は皆を置いてすぐさま外に駆け出した。
「佐野!佐野―!生きてたら返事しろ!」
工廠前の道路を全力で走り、佐野が消滅した林の前を探してみる。いない。
「佐野!どこだー!生きて帰ってこい、
お前は帰らなきゃいけないんだろう、お前の世界に!」
うあああ!……
その時、広場の方角から男の泣き声が聞こえてきた。急いで向かう真司。
すると、広場中央でうずくまる佐野の姿が見えた。真司は彼に駆け寄る。
そして肩に手を当て、起き上がらせた。
その顔は涙でぐしゃぐしゃだったが、確かに佐野だった。
泣きながら両腕や顔をさすっている。
「あああ……俺、俺、生きてるの!?……」
「佐野、俺がわかるか!お前と戦った城戸だよ!お前は生きてるんだよ!」
「うう……俺は、俺の世界に帰れるのか……!?」
「ああそうだ!もうライダーバトルなんかに関わるな!」
後ろから蓮と三日月が歩いてくる。どうにか佐野の復活には成功したようだ。
「とんだ騒ぎもあったが、とりあえずの目的は達したか」
「佐野提督、これからどうなさるんでしょう……」
「まだ暴れるなら二人がかりで再起不能にするだけだ。
……まぁ、あの様子ならその手間はかからないだろうが」
佐野は泣きながら真司に引っ張られ、なんとか立ち上がろうとしている。
“ごめんなさい、本当にごめんなさい!”
“いいから立てよほら!女の子の前でみっともない!”
しばらくして落ち着いた佐野は、三日月から自分の身に起こったことを説明された。
「それで、助けてくれたの?俺、結局金も渡してないのに……」
「だから金とかいいんだよ!……俺も、ライダーである理由、なくすところだったし」
「相変わらず甘いやつだ。なぜ自分がライダーかなんか、どうでもいいだろう。
目的のために戦えば、それでいい。
馬鹿なのにやたら考えようとするからドツボにはまるんだ」
「馬鹿言うな!……まぁ、でも、そうかもな。
俺、これからもみんなを守るためにライダー続ける。佐野、お前はどうする?」
真司は佐野に尋ねた。佐野は真司に襲撃を掛けたことも全て覚えていた。
「俺は……きっとライダーバトルには勝てない。先輩と戦ってわかったよ。
俺は、友里恵さんを守るために戦う。この世界からは消えることにするよ」
「そっか。あ!それじゃあ、野良のミラーモンスター見つけたら倒してくれないかな。
今、ライダーを辞めた女の子が一人で駆除してくれてるんだけど、
やっぱり苦戦してるみたい。力になってあげてよ」
「はい!」
佐野は両手で真司の手を握って答えた。
三日月は微笑みながら彼らを見守り、蓮はそっぽを向いてやり取りだけを聞いていた。
──OREジャーナル編集部
「おはようございます」
海外出張から帰国した令子が出社した。
彼女はアメリカで神崎士郎に関する様々な資料を発見し、
連続失踪事件に大きな進展をもたらした。
「おう、おはよう!お前がみっけてきた神崎士郎の研究資料?
あれ読んでみたんだがな、さっぱりわかんねえな!」
「そうなんですよね。内容が専門的過ぎて。
ただ、結論として、鏡の中に人間が入ることができる。鏡の世界、つまり資料によると
ミラーワールドに棲む生物が人間を襲っていることは読み取れました」
「行方不明事件の真相が、こんなとんでもねえもんだったとはなぁ。
わからねえはずだよ」
「問題は彼の目的と、この資料に頻繁に出てくる仮面ライダーとは何かということです」
「ミラーワールドに入れる特定の人間のことらしいが、それもよくわかんねえんだよな」
「そういえば、前から気になってたんですけど、
城戸くんの下宿先って神崎の親戚の家ですよね」
「ああ」
「神崎について調べてる様子もありましたし、もしかしたら何か……
それに、艦これと何か関わりがあるような気がするんです」
「病気じゃなくて、ニュースになってる方か?」
「両方です。この際だから聞きますが、城戸君の病気、嘘ですよね?」
「!?な、なに言ってやがんだ、わけわかんねえ……」
「……そうですか、彼と艦これ絡みの事件について面白い仮説が思いついたんですが、
彼が本当に病気だというなら成り立ちませんね。永久に忘れることにしましょう」
「待て待て待て待て……なんだよ面白い仮説って!」
特ダネの匂いに食いつく大久保。
「彼、病気なんですよね。じゃあ、意味がないです」
「う~ん、わかったよ……真司は病気なんかじゃねえ。多分すげえ重要なヤマ追ってる」
「重要なヤマ?」
「詳しくは聞いてねえ。あいつが変な所で頑固だってことはお前も知ってるだろ。
だから……真司から言い出すまで待つことにしたんだよ」
真相を聞いた令子はため息をついた。
「はぁ、部下の裁量に任せるのも一つの経営手法ですけど、
2ヶ月も泳がせとくのはやり過ぎなんじゃないですか?」
「んああ、わかってるよ……今度会ったら途中経過くらいは聞くから。
それより、面白い仮説ってなんだよ」
「ええ、前から仮説というか想像の一つとして考えてはいたんですが、
あまりにも突拍子がなくて黙ってたんです。
でも、ミラーワールドの存在が明らかになった以上、十分な可能性が得られました」
「もったいぶってねえで教えてくれよ……!」
なぜか内緒話のように小声になる。
「つまり、艦これの世界は実在するということです」
「ニシシ、やっぱりタイムマシンが現実味を帯びてきましたねぇ~」
デスクで話を盗み聞きしていた島田が喜ぶ。
「ちょっと待て、お前が言いたいのは、未来のゲームデータだけじゃなく、
ゲームの世界そのものまで存在するってことかよ!」
「はい。鏡の中の世界ミラーワールド。そこに出入りする謎の人物、モンスター。
これまでの情報と照らし合わせても、その存在の可能性は高いと思います。
まず、秋葉原で妙な強盗に遭ったオタク、
強盗は艦これのアカウントを作らせた瞬間に消滅しました。
そして城戸君が“入院”するきっかけになった彼の失踪事件。
城戸君は取り憑かれたように艦これに入ったと訴えてましたよね。
次に、ミラーワールドに入るのに必要なのは鏡とは限らない。
ガラス、水たまり……そして、パソコンモニター等、姿が映るもの」
「いや、でもおかしいだろ。
前に全員の前で真司が艦これにアクセスした時は、何にも起きなかったじゃねえか」
「そこなんですよね。
個人的には城戸君が艦これの世界に入ったのはもう間違いないと思っています。
あの時入れなかったのは、何らかの異常事態か、
何者かの意思が介在していたせいだと思われます」
「何者かって……誰だよ」
「それがわからなくて困ってるんです!
城戸君が何か知ってるのは間違いないんですから、
今度会ったらふん縛ってでも捕まえといてくださいよ!」
「お、おう……」
なぜか怒られた大久保が再び疑問を投げかける。
「でもよう、やっぱりおかしくねえか?
モニターでもなんでも鏡になりゃミラーワールドに入れるのはわかったよ。
わかってるだろうが、ネットゲームってパソコンの中にあるわけじゃないんだぜ?
ただ単にインターネットを通じて運営会社のサーバーにアクセスして、
操作した結果を受け取ってるってだけだ。
こいつの中に入れたってゲームの世界で大冒険、ってわけにゃいかねえんだよ」
そして、手近なパソコンモニターを叩いてみた。
「そこも問題なんですよね……モニター画面に入っても、そこはモニターに映った世界。
ゲームの世界ではあり得ない。サーバーにたどり着く方法がなければ」
「そのサーバーがどこにあるかわかんなくて世界中大騒ぎなんだよなぁ……」
う~ん、とそこで二人が手詰まりになる。しかし、意外な突破口が開かれた。
自社サイトの更新作業を終えた島田が口を開いたのだ。
「前から思ってたんですけど~、サーバーへ行きたいなら、辿ればいいと思うんです」
「は、辿る?」
「はい、辿るんです」
そして、島田は床を指差す。初めは何が言いたいのかわからなかった二人だが、
次第に彼女の意図を理解すると、驚愕で目を見開いた。
──ダミー鎮守府
朽ち果てた本館の屋上に立ち、目を閉じていた神崎が、何かを感じ取り、目を開けた。
「なるほど、特定の条件下ではあるが、
サイバーミラーワールドではこのカードの力が再現できるというわけか。
少々計算外の事態になった」
神崎は一枚のカードを手に取りながら、一人語る。
「神崎……」
「許容範囲内の些末な出来事だ。いざとなればお前がいる。
オーディン、戦いの宿命を選んだお前を、俺は信頼している」
<info. 佐野満 様がゲームに復帰しました_>