【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】 作:焼き鳥タレ派
──城戸鎮守府
「……それじゃあ、行ってくる」
「みんな、後のこと、頼むね!」
桟橋の近くで皆に見送られ、真司達は出発しようとしていた。
神崎とオーディンが待ち受けるダミー鎮守府に。
「俺はこんなところで死ぬつもりはないからさ、用事はさっさと済ませて来てよね」
「提督の運命、貴方がたに託します。どうか、ご武運を」
北岡が面倒くさそうに、飛鷹が丁寧に頭を下げながら言葉をかける。
「任せて、飛鷹さん。絶対結果を持って帰る」
「メダルを投げたら、厳しい戦いになると出た。だが絶望的な道のりでもない。
曖昧な結果ですまないが、所詮は占いだ。
俺はお前たちに運命を切り開く力があると信じる」
「いわば、お二方はラスボスより強い中ボス戦に赴くわけですよね?
漣も陰ながら応援しています。それ以上のことはできませんけど……」
手塚と漣も蓮と真司を励ます。
「俺達が向こうに着いたら必ずコアミラーが反撃に出る。
むしろ大変になるのはそっちだろう。すまないが、よろしく頼む」
「ここは我々が必ず死守します。君たちは心配なく自分の戦いに集中してください」
「僕は力になれないけど、英雄が一緒に戦ってくれる。
だから僕は君たちを信じてここで待つよ」
「と、東條さん。英雄ってのはちょっとこっ恥ずかしいっていうか……とにかく!皆さんの後ろは、青葉におまかせです!」
香川達3人もそれぞれの言葉を送る。
「蓮……」
「……すぐ戻る。後は頼む」
加賀と蓮はそれだけの言葉を交わした。
そして予想通りというか何というか、浅倉は来なかった。足柄は見送りに連れ出すため、
居眠りしていた浅倉を起こそうとしてケンカになり、まだ食堂で揉み合いになっている。
皆としばしの別れを済ませた真司と蓮は、三日月を連れて桟橋を渡った。
古い木の板がゴトゴトと音を立てる。
そして、転送クルーザーに乗り込むと、三日月が舵を握った。
「いよいよ、決戦なんですね……」
「正確には前哨戦だ。オーディンを撃破して力を得ても、コアミラー破壊が待っている」
「そうだね。まだまだ倒さなきゃいけない敵は多いんだから!」
「そのコアミラー破壊だが、お前に案があると聞いたが、
ただ全員で特攻するってオチじゃないだろうな」
「違うよ!ちゃんと、こう、なんていうか現実味のある作戦だって!」
「……まあいい。勝ってもいない戦の先を話してもしかたない。
神崎とケリを付けてからじっくり聞くとしよう」
「それじゃあ、三日月ちゃん。そろそろ転送お願い」
「わかりました!
……目的地、1番サーバー。アルゴリズムナンバー“test000000”、アクセス!」
三日月が覚悟を決めて音声コマンドを宣言。
クルーザーが輝きを放ち、真司達をまだ見ぬ世界へと誘った。
──ダミー鎮守府
そこは、地形や建造物こそ似通っているが、真司達の鎮守府とはまるで別物だった。
本館には蔦が生い茂り、工廠には錆びた鋼材や重機が放置され、
何年、何十年と人の出入りがなかったかのように朽ち果てている。
停止した時間に存在するそれらが、まるで侵入者を拒むかのように、
静かな威圧感を放っていた。
「三日月ちゃんはここで待ってて。必ず、帰ってくるから」
「……はい!」
もう三日月も引き留めようとはしなかった。
ただ去っていく真司と蓮の後ろ姿を見つめているだけだった。
桟橋を渡り、寂れた鎮守府に足を踏み入れた二人。
まだ、オーディンも優衣も姿が見えない。ただ黙って歩みを進める。
やがて、本館前広場にたどり着いた二人は、黙ってカードデッキを取り出した。
もう力を出し惜しみしている場合ではない。二人共あらかじめ“SURVIVE”をドローし、
壊れた噴水に溜まった、藻で濁った水にデッキをかざす。
蓮は曲げた右腕を、体をひねって大きく左に振りかぶり、
「変身!」
デッキを装填。仮面ライダーナイトサバイブに変身。
続いて真司も右腕を斜めに振り上げ、
「変身!!」
同じくカードデッキを装填した。そして仮面ライダー龍騎サバイブに変身。
二人が変身を遂げた時、大気が唸り声を上げるように、
艦これの世界に巨大な力が働くのを感じた。思わず周りを見回す。
オーディンの襲撃か、と警戒したが、以前真司が戦った時に感じた闘気とは別物だった。
「……コアミラーの、抵抗か」
「ああ。もうみんなのところにミラーモンスターや深海棲艦が押し寄せてるはず!
早く優衣ちゃん探さなきゃ!優衣ちゃーん!!」
ナイトは大声で優衣を呼ぶ龍騎を止めようとしたが、やめた。
どうせオーディンが出ようが出まいが1時間以内には戦うことになるのだ。
なおも優衣を呼び続ける龍騎。
すると、本館のドアがバタンと大きく開き、中から優衣が飛び出してきた。
「真司君、蓮!!」
「優衣!」
「優衣ちゃん!」
共に駆け寄る二人と一人。だが、その瞬間、
龍騎達の前に黄金の存在が現れ、ビュオッ!と豪腕を横に薙ぎ、風を切った。
「ふん!」
「うわっ!」
「真司君!」
とっさに身をかがめ、とてつもない破壊力の裏拳を回避した龍騎。
オーディンは優衣の前に立ちはだかり、龍騎達を近づけないつもりだ。
そして、広場の小道から神崎が歩いてくる。
怪我や病などないはずの存在であるにも関わらず、
憔悴した様子で一歩一歩地を踏みしめながら優衣のそばに立った。
「お前達……こんなところで何をしている。
ライダーバトルはどうした……優衣を助けないつもりか……」
そんな神崎の姿に優衣は悲しみに満ちた表情で、
「ライダーバトルなんか、もうやめにしようよ……
もうお兄ちゃんが傷つくところなんて、見たくない。
最期まで一緒にいてくれれば、それでいいよ……」
「神崎……お前兄貴のくせに妹の気持ちがわかんないのかよ!
優衣ちゃんはな、お前のために戦いを止めたいって言ってたんだぞ、
お前が幸せそうじゃないからって。優衣ちゃんはもう、こんな戦い望んでないんだよ!」
叫ぶ龍騎。しかし、他に選択肢のない虚像の存在はただ命令を繰り返す。
「戦え……」
「神崎!」
「戦え!!」
「え、お兄ちゃん!」
そして神崎は優衣の手を取り、本館の中へ駆け込んだ。中から言い争う声が聞こえる。
“お兄ちゃんやめて!私、もう十分だよ!お兄ちゃんが私のために頑張ってくれた!
本当は子供の頃に死んじゃった私が幸せな十数年を送れたのも……
お兄ちゃんのおかげなんだよ?
だから、一緒に次の誕生日を祝ってくれれば、もうそれで満足。
新しい命なんかじゃなくて、二人でまた絵を描こうよ……”
“諦める必要なんかない!お前にはいくらでもチャンスがある!
オーディンにお前の「命」の鍵になるカードを託した。誰にも邪魔はできない!
お前のためなら何度でもやり直す!”
“お願い、これで最後にして……何をやり直すのかわからないけど、
きっと次の私も同じことを言うと思う。みんなを犠牲に得た命なんて要らないって”
「優衣ちゃん……」
やはり優衣でも説得は無理なのか。龍騎が拳を握りしめる。
「城戸、よそ見をするな。まずは目の前の敵を片付ける」
ナイトがカードを1枚ドロー。ダークバイザーツバイに装填。
『SHOOT VENT』
ダークバイザーツバイの両脇が展開し、ボウガンの形状になる。
そして龍騎に呼びかけた。
「背中合わせになれ、奴の瞬間移動に対抗できる可能性があるならそれしかない」
「わかった!……オーディン。お前が誰で、なんで神崎に従ってるかは知らない。
でも、お前まで優衣ちゃんをここに閉じ込めるつもりなら、お前を倒してみせる」
「神崎は私に生きる意味を与えた。ここは神崎の聖域。
屋敷に近づく愚か者は……死ね!」
オーディンは金色の鳳凰を象った錫杖・ゴルトバイザーを異次元からつかみ取り、
カードをドロー、バイザーのスロットに装填し、カバーを上げた。
『SWORD VENT』
オーディンの両腕に黄金の剣・ゴルトセイバーが現れる。
「行くぞ!」
しかし、彼が龍騎達に斬りかかろうとした時、上空から大きな羽音がいくつも聞こえた。
いつの間にかレイドラグーンの大群が、寂しい廃墟の空を埋め尽くしていた。
「とうとう始まった。コアミラーの反撃だ」
「小癪な!」
オーディンは両腕のゴルトセイバーを地面に刺し、左手でゴルトバイザーを召喚。
カードをドロー、装填した。
『ADVENT』
カードが発動すると、輝く炎に包まれた不死鳥・ゴルトフェニックスが飛来。
ひとつ羽ばたくと、ダミー鎮守府の空が灼熱の炎に包まれ、
レイドラグーンは焼き尽くされた。
ドサドサと炭化したミラーモンスターが落下し、砕け散る。
そしてオーディンは再び足元に刺していたゴルトセイバーを装備。
「仕切り直しだ、ここがお前達の墓場となる」
「そんなことにはさせない、絶対優衣ちゃんも神崎も!そしてお前も、
みんな助けて鎮守府に帰るんだ!それが、俺のライダーとしての願いだから!」
「世迷い言を。ではその願い、私が断ち切ってやろう!」
「城戸、構えろ!」
「っしゃあ!」
──城戸鎮守府
その頃。城戸鎮守府にもレイドラグーンの大群が押し寄せていた。
深海棲艦の迎撃には、ほぼすべての艦娘を当てた。各所に味方が散らばっていては、
エンドオブワールドやドゥームズデイといった広範囲の攻撃が発動しにくい。
人型の胴体とトンボの体が一体化したミラーモンスターが、
群れを成してライダー達に襲いかかる。
青葉と背中合わせで戦うオルタナティブ・ゼロは、
スラッシュダガーで地上の敵が繰り出す鉤爪を振り払い、
先端から吹き出す青白い炎で空の敵を火だるまにする。
キャオオオオオ!
だが、コアミラーの必死の抵抗は、圧倒的物量となってライダー達を苦しめる。
いくら倒しても特定の周波数の波長を放ち、次々レイドラグーンを呼び寄せる。
しかし青葉は来るなら叩き潰すまで、と20.3cm連装砲で敵の胴体を吹き飛ばす。
「くっ、化け物め!」
オルタナティブはカードをドロー、スラッシュバイザーでスキャン。
《ACCEL VENT》
ほんの2、3秒だけ瞬時移動し3体のレイドラグーンの首をはねた。
だが、やはりこの数の敵を3つ減らした所で焼け石に水だ。
「香川提督、まだ私の弾はまだ残ってます!諦めないで!」
ゾルダ・飛鷹のペアも苦戦していた。ゾルダはマグナバイザーをフルオートにして、
敵に向けて一直線に連射。そして“SHOOT VENT”で装備した両肩のビーム砲を放ち、
次々と撃破していくが、敵の攻撃が一向に終わりを見せない。
「全機爆装、飛び立って!」
飛鷹も巻物から式神を飛ばし、爆撃機を展開してレイドラグーンの頭上から
爆弾を降らし、敵の頭部を粉砕していく。爆撃を終えて戻ってきた艦載機は8割。
だめ!一度の発艦で二割も減ってたら、全滅は時間の問題!
新しい式神を作ってる余裕はないし……だが、飛鷹が作戦を練り直していると、
突然敵の様子がおかしくなった。
ウウ……ウォッ、ガア!
レイドラグーン達が呻き声を上げ、胸の部分が膨らみ始めた。やがて、奴らの胸が裂け、
中から完全にトンボ型になったミラーモンスター・ハイドラグーンが飛び出してきた。
それらは戦闘機のプロペラのような羽音を立て、
レイドラグーンとは比較にならない速度で空中を舞う。
そして、目で追うこともできない速さでライダー達に飛びかかり、
その鋭い爪と牙で一撃離脱の攻撃を始めた。
3体のハイドラグーンが、王蛇にその爪を振り下ろす。ガァン、ギィン、ガォン!と、
ライダーのアーマーに重く鋭い一撃を加えて、再び上空に戻る。
三度も強力な攻撃を浴びた王蛇が宙に打ち上げられ、地面に転ぶ。
「あがっ、はあぁ……」
脱皮して桁違いの強さを得たハイドラグーンは、
他のライダーや残った艦娘達にも牙をむく。
ブオオオオォ!!
地上から滞空砲火を繰り返し、レイドラグーンを迎撃していた足柄も、
突然進化し、爆発的速力を得たミラーモンスターに一発も命中させることができない。
「どうなってるのよ!機銃弾撃ち落とす方がまだ楽そう!」
その瞬間、死角から飛びかかってきたハイドラグーンが彼女に斬りかかってきた。
「はっ!?」
とっさに前方に転がり、一瞬の差で回避できた。肉体だけは。
背中を見ると、彼女が背負っていた艤装が綺麗に真っ二つにされていた。
幸い武装は無事だったが、電探類を丸ごと持って行かれたため、
ただでさえ低い命中率が更に落ちてしまった。
「なんとかしなきゃ……!強すぎる!」
進化したミラーモンスターに苦戦しているのは足柄だけではなかった。
ライアもエビルダイバーに乗りながら、高圧電流の流れるエビルウィップを振り回すが、
恐るべき瞬発力と攻撃力を備えたハイドラグーンに命中させることができない。
そして、空中で相手をしていたハイドラグーン数体が、
鉤爪の付いた両腕をミサイルの様に飛ばしてきた。
四方八方から飛んでくる鋼鉄すら切り裂く腕を回避しきれず、
たまらず地上に飛び降りた。
「エビルダイバー、避けろ!」
エビルダイバーは次元の海に潜り、ライアは着地と同時に転がり、
再びエビルウィップを構えるが、空の敵に届かない。
そして、彼らにとって地上を走るライダー達は格好の獲物であり、
一撃加えて離脱、を何度も繰り返し、ライアに大きなダメージを与えていく。
「ご主人様あぁ―!!」
ライアのピンチを見た漣は、12.7cm連装砲を空に向けて撃ちまくるが、
砲声と同時に敵が射線状から逃げるため、何度撃っても当たらない。
「香川提督、なんとかなりませんか!?」
漣はオルタナティブ・ゼロの頭脳を頼ったが、
彼にもシアゴーストから二度の進化を経て圧倒的な力を得たハイドラグーンに
為す術がない。
「すみませんが、私にも有効な打開策が思い当たりません……」
彼らから少し離れたところで、飛鷹が再度爆撃機を発艦しながらゾルダに呼びかける。
「ねえ、提督!貴方のファイナルベントでどうにかならない!?」
「無理だ!あれは発動に時間がかかる!
今、攻撃の手を止めたらこいつらを海に行かせることになる!」
全ライダーや秘書艦達が全力で押しとどめてもジリジリと押し返されつつあるこの状況。
一人でも手を緩めればハイドラグーンを海に逃がすことになる。
海上では別働隊の艦娘達が深海棲艦を迎撃している。
そんな彼女たちが後ろから奴らの鉤爪を喰らえば全滅は免れないだろう。
同じ理由でドゥームズデイに賭けるのも危険極まる。
北岡達が話している間にも、飛鷹が放った爆撃機がハイドラグーンに全機撃墜された。
もう彼女に攻撃の手段は残っていなかった。
自分の戦闘機では奴らの速さに追いつけないだろう。
飛鷹はどうにもならない状況に歯噛みする。
そして、広場の真ん中で戦っていた、対空攻撃のカードを持たない王蛇のイライラが
爆発した。
「うおあああああ!!」
カードデッキから乱暴にカードを引き抜き、ベノバイザーに装填。
『FINAL VENT』
王蛇の背後にベノスネーカーが猛スピードで這い寄り、
王蛇は両腕を広げて前傾姿勢になりながらダッシュ。
両足でベノスネーカーの前にジャンプした。そしてベノスネーカーが背後から
高圧力の毒液を浴びせ、加速を得た王蛇は地上ではなく、
空を飛び回るハイドラグーンの群れに突っ込んだ。
飛び散る毒液で装甲が劣化した数体を連続キックで粉砕。
着地と同時に死骸が落下し爆発。だが、彼のイラつきは収まらない。
「ああイライラする……!こうまでイラつかせる連中は初めてだ!」
ドシン、ドシン……
だが、その時、艦娘宿舎の方角から、地を揺らすような足音を慣らしながら、
艦娘達が現れた。金剛型四姉妹、そして、戦艦大和。
彼女たちは空を見上げると、各々の主砲の砲弾を換装した。
「皆さん、これから対空砲火を行います!建物か屋根の下に隠れて!」
ライダーも艦娘も、倉庫や本館出入り口の日さしに退避する。
そして、大和の号令で、戦艦達は一斉に主砲を放つ。
「全砲門開け、主砲、撃ちー方始めー!!」
鎮守府上空を飛び回るハイドラグーンの中央に、真っ赤な火の玉が突っ込み、炸裂。
大爆発を起こした三式弾が、巨大な砲弾に詰め込まれ、爆発の超加速を得た
無数の燃え盛る弾子を撒き散らす。炎に包まれる青空。
突然焼ける鉄球の嵐を打ち付けられた敵は、何が起きたのか分からずパニックになる。
全方位に散らばる燃える弾子が、ハイドラグーンをぐしゃぐしゃに引き裂いていく。
生き残ったミラーモンスター達が、大和達に襲いかかる。
「お姉様方、今ですわ!」
霧島の合図と共に。金剛型の4人が副砲で敵を迎撃する。
圧倒的な速さを持っていても、真っ直ぐこちらに向かってくるなら、
集中砲火を浴びせれば当てるのは容易い。皆が15.5cm三連装副砲で弾幕を張ると、
襲い来るハイドラグーンに命中。
一撃では倒せなかったものの、落下したところを集中攻撃して粉砕。
そして、大和が三式弾を再装填した。
「第一、第二主砲。斉射、始め!援護願います」
「ようそろ!!」
大和の目が生き残りのハイドラグーンの群れ中央に照準を合わせ、
精密な動きで砲塔の向きを調整。距離、方位角、用意よし……
「撃てっ!!」
ズドオオオオ……ドガアアアン!!
46cm三連装砲から放たれた三式弾がハイドラグーンの群れの中心で再度爆発する。
広範囲に撒き散らされる弾子が、またもミラーモンスターの身体を引きちぎっていく。
その凄まじい貫通力を持つ弾は、大地にまでブスブスと穴を開けていく。
ライダーも、艦娘も、その制圧力に圧倒されていた。
「……チート武器としかいいようがないです。皆さんどこであんなものを?」
「城戸提督がこの日のために開発して皆さんに配備したそうですよ。
私もあんな弾が撃てたらなぁ」
漣と吹雪が嘆息を漏らすほどの威力で、全滅寸前に追い込まれるハイドラグーン。
46cm砲が放った巨大な榴弾で、どこに逃げるべきかもわからなくなった敵に、
戦艦達が追い打ちを掛ける。
次は金剛型姉妹が、再装填した三式弾を敵の逃げ道を塞ぐように四方向に打ち上げる。
4人の連装砲から放たれた三式弾は、敵の至近距離で炸裂し、
生き残ったハイドラグーンの装甲を突き破り、蜂の巣にした。
爆発の轟音が止むと、敵の死骸が落下し、ガシャガシャと金属音を立てた。
「やった、の……?」
耳を塞いでいた足柄が立ち上がる。空にもう敵はいない。青空が広がるだけだ。
大地にはハイドラグーンの残骸が散乱している。
「やりましたね!といっても、殆ど戦艦の皆さんのおかげですけど」
「もっと早く来られなくてごめんなさい。三式弾の装備換装に手間取ってしまって」
大和が申し訳なさそうな顔をする。
「いえ、貴方達が来なければ、我々はどうなっていたか。ありがとうございます」
「ああ。久しぶりに面白いもんが見れたぜ。ありがとよ……」
香川に次いで珍しく王蛇が礼を言うが、よく見ると体中に三式弾の弾子を浴びている。
目玉が飛び出る思いをする足柄。
「なにやってんのよ馬鹿!皆さんに隠れろって言われたでしょう!?」
「愉快なことが起こりそうな気がしたから眺めてたらよぉ、
デカい花火でトンボが死んだ。笑えたぜ、ハハハハ……」
「笑ってんじゃないわよ!もう少し爆発高度が低かったら死んでたのよ!」
「次は海の連中殺しに行くぞ……待ってろよクラゲ女ァ!ヘハハハ!!」
王蛇がベノサーベルを構えて海の方へ走り去っていった。
「聞いてるの!?やめなさい、そんな身体で!」
追いかけようとした足柄の肩に誰かが手をかけた。
「ちょっと待ってほしいヨ。貴女の艤装も真っ二つネ。そんな状態で戦えるのカナー?」
「それは……」
金剛に問われ、一瞬ためらったが、はっきりと答えた。
「戦えます!電探がなくても、目測射撃が可能です!私も海の仲間に加わります!」
「なら、彼も行かせてあげてほしいヨ。
ここを守りたい、守らなきゃいけないのは全員同じネ。
心配なら貴女が守ってあげればいいんだヨー」
「……はい!」
いつの間にか広場の中央に集まっていた一同。
足柄の力強い返事を合図に、全員が水平線に広がる敵艦隊目がけて走り出した。
──ダミー鎮守府
同時刻。二人のサバイブ体ライダーは苦戦を強いられていた。
ダークアロー、ドラグバイザーツバイ、二挺の銃器で
オーディンの瞬間移動に対抗しようと考えたが、彼の反応速度が予想を上回っており、
照準した瞬間姿を消し、次の瞬間には目の前に現れゴルトセイバーの一撃を食らう。
龍騎がレーザーを放ったが、レーザーが届く前にオーディンがいたところには
金の羽根だけが残り、命中に至らず、突然目の前に現れたオーディンに斬りつけられた。
二刀流のゴルトセイバーによる斬撃で宙に投げ出され、
地面に叩きつけられる龍騎サバイブ。
「ぐあああ!……ああっ」
「城戸、しっかりしろ!」
ダークアローを連射しながら呼びかけるナイトサバイブ。
全ライダーの近接戦闘武器でも最強クラスの剣を二度食らい、なかなか立ち上がれない。
その間もオーディンは瞬間移動を繰り返し、二人を翻弄する。
「城戸、今のうちに体制を立て直せ!」
ナイトはカードをドロー、ダークバイザーツバイに装填。
『TRICK VENT』
すると、5体の分身が現れ、更にそのうちの1体が“TRICK VENT”を使用。
本体を含め11体の軍隊になった。彼らは様々な方向を向いて、
もはや狙いを付けることは考えず、ただひたすら撃ち続けた。
全方向に放たれる弾幕に、さすがのオーディンも瞬間移動で避けきることができず、
ワープ先で分身の一体が放ったレーザーの直撃を受けてしまった。
「くっ、味な真似を!」
とは言え、分身の攻撃が与えたダメージはわずかで、少しよろけさせた程度だったが、
油断を誘うには十分だった。背後からドラグバイザーツバイの連射を受け、
今度は無視できないダメージを受ける。
「ぐおっ!」
思わず正面に倒れる。これを好機と龍騎はナイトに呼びかける。
「蓮、一気に片付けよう!」
「ああ!」
二人は必殺のカードをドローし、それぞれのバイザーに装填した。
『FINAL VENT』『FINAL VENT』
それぞれのカードが発動すると、まずは龍騎サバイブのドラグランザーが上空に現れ、
身体から鏡の破片が弾け、重装甲のバイクモードに移行。
顔面を守るフェイスガードが下り、胴や尾からタイヤが排出され、
尾を折りたたみ一台の巨大なバイクに変形した。
龍騎は両足で跳躍し、ドラグランザーに乗り込む。
続いてナイトはダークレイダーを召喚、その背に飛び乗った。
そして、バイクのグリップのような両耳を握り、逆立ちをするようにスペースを譲ると、
ダークレイダーの両方の翼からタイヤが現れ、体が頭部を軸に回転し、
バイクモードに変形。そしてシートに着地した。
オーディンの前後からサバイブ体ライダーのファイナルベントが迫る。
龍騎のバイクが最速ギアでウィリー走行しながら無数の火球を吐くと、
着弾した火球が衝撃波を放ち、足元の自由を奪う。数秒の間瞬間移動を封じられる。
その間に、ナイトのバイクはフルスロットルで疾走し、先端から捕縛レーザーを照射、
オーディンの体を空間に固着させる。
そしてナイトサバイブのマントが竜巻状にバイク全体を包みこむ。
「ぐおおおお!私は、私は負けては……おのれええぇ!」
二台のバイクが衝突する瞬間、オーディンは持てる力全てを込めて全身をひねり、
捕縛レーザーを振り払い、二振りのゴルトセイバーをどちらかに叩きつけた。
直後、龍騎サバイブとナイトサバイブの
ファイナルベント・ドラゴンファイヤーストームと疾風断が命中し、
その場で大爆発が起きた。衝撃波で周囲の木々がなぎ倒される。
爆煙の闇の中、最後に立っているのは一体誰なのか。
鼻を突く煙が晴れると、結末が明らかになる。ナイトは健在。
オーディンは深手を追い、ゴルトセイバーに体を預けてなんとか立っている状況だった。
そして、龍騎はオーディンから死に物狂いのゴルトセイバー二刀流を受け、
致命傷に近い傷を負い、変身解除され仰向けに倒れていた。慌てて駆け寄るナイト。
「おい、しっかりしろ、おい!城戸!」
「ごほっ、蓮……」
咳と吐血で、口の周りを赤く染めてどうにか返事をする真司。
おぼつかない足取りで立ち上がりながら語り始める。
「……やっとちょっとは答えらしいもんが、見つかったかもしんない。
でも、なんか俺、駄目かも知んない」
足がもつれ、真司は再び倒れる。ナイトは真司の背を起こす。
「城戸!おい、城戸!」
「はぁ…はぁ…俺さ、昨日からずっと考えてて、それでもわかんなくて、
でも、さっき思った。やっぱりミラーワールドなんか閉じたい、戦いを止めたいって。
きっと、すげえ辛い思いして、させたりすると思うけど、それでも止めたい。
それは嬉しいかとかじゃなくて、ライダーのひとりとして叶えたい願いが、それなんだ」
脂汗を浮かべ、息を乱しながら一言一言、言葉を紡ぐ真司。
「ああ、だったら生きてその願いを叶えろよ!死んだら……終わりだぞ!」
「そうなんだよな、蓮。蓮はなるべく、生きろ。きっと……」
何か言いかけて真司は気を失った。帰還して治療を受けさせなければ!
ナイトは真司を抱きかかえようとした。
だが、後ろからまだとどめを刺していない敵の声が。
「生きては、返さんぞ……」
オーディンが、左腕を伸ばしてゴルトセイバーを呼び出す。
そして、1枚カードをドロー。錫杖のスロットに装填。カバーを押し上げた。
『FINAL VENT』
こちらの“FINAL VENT”はもう残っていない。
オーディンがゴルトフェニックスを呼び出し、浮遊を始めた。
「……」
しかし、ナイトは激昂も絶望もせず、真司を岩陰に寝かせ、
カードをドロー、ダークバイザーツバイに装填した。
『BLAST BENT』
そして、両腕を前に突き出し、左から右へ振りかぶり、腰を落としながら構えを取る。
「はあああ……」
召喚したダークレイダーがナイトサバイブの周りを飛び回る。
そして、両足で空高く跳躍。天に舞い上がるナイトに
ダークレイダーが追随し、羽ばたく。ナイトは体をひねりながら縦に一回転。
そして、オーディンに向けて蹴りの姿勢を取る。
オーディンはゴルトフェニックスのそばまで浮き上がると、両腕を広げ、
契約モンスターと一体化し、ナイトに向かって突撃。
ダークレイダーはナイト後方から両翼のホイールから強力な竜巻を浴びせる。
真空波を浴びながら、凄まじい突風の力を受けたナイトは、
オーディンに向け飛び蹴りを放つ。ナイトの機転でノーマルカードから生み出された
ファイナルベント級のライダーキックがオーディンに襲いかかる。
そして、オーディンも燃える不死鳥と共に、
自分もろとも眼前の敵を焼き尽くさんと飛翔。
「うおおおお!!」
「終わりだアァ!!」
命を賭けた二人のファイナルベントがぶつかった時、
互いのエネルギーが反発しあい、爆発を起こし、両者を地面に放り出した。
オーディンのアーマーは右肩から斜めに亀裂が入り、
デッキも完全に壊れてはいなかったが、ひび割れていた。
ナイトも、エターナルカオスの直撃を受け、真司同様変身が解除され、
重傷を負っていた。
しかし、オーディンも蓮も、既に相手にとどめを刺す術を持っていなかった。
オーディンはこれ以上攻撃に出ればアーマーもデッキも自壊する。
生身の蓮に、瀕死とは言えライダーを破壊する力はない。
……蓮は考えた結果、足を引きずりながら、本館に向かうことにした。だがその時。
「蓮……」
岩陰から声が聞こえた。目を覚ました真司だった。蓮は時折よろけながら彼に近づく。
「城戸、死んだかと思ったぞ。しぶとさはライダー1だな」
「……ありがとな。あいつと決着つけてくれて」
「ふん、5万でいい」
「相変わらず、がめついな。俺も、神崎と、決着つけなきゃ……」
真司は袖で口を拭い、両足に残る力を込めて立ち上がる。
途中、転びそうになるが、なんとか自分の足で歩きだした。何も言わず肩を貸す蓮。
二人は互いを支え合いながら本館に入っていった。
ホールには誰もいない。
優衣の名を叫びたかったが、また吐血しかねなかったので、
部屋を一つずつ回ることにした。
なんとなく正解と思われた埃だらけの執務室には誰もいなかった。
2階の部屋を全部開けて回ったが、優衣はいない。3階に上がってみる。
端から客室を順番に開ける。やはり、シーツが茶色くなったベッドや
古ぼけた家具があるだけで何もない。
最後の上客用の部屋らしき比較的立派なドアを開けると、そこに優衣がいた。
彼らに気づくと、彼女が立ち上がり、悲鳴に近い声を上げた。
「真司君、蓮、どうしたの!?酷い怪我!」
「オーディンは……オーディンはどうした……」
その声に思わず部屋の壁を見る。クローゼットの影になって見えなかったが、
壁に寄りかかっていた神崎が二人を睨みながら苦しそうな声を出した。
「もう死にかけだ。諦めろ、神崎。力を渡せ」
「馬鹿な!?最強の“SURVIVE”を持つオーディンが……!」
「俺達がここにいる。それが何よりの証拠だろう」
「まだだ!コアミラーが破壊されない限り、いや、優衣の“命”がある限り!」
「優衣ちゃんの“命”って、どういうことだよ!……つっ!」
真司が神崎の意味深な言葉につい大声を出し、胸に痛みが走る。
「ほら、真司くんも蓮も、ここに座って!」
二人をベッドに座らせた優衣も神崎に言葉の意味を尋ねる。
「お兄ちゃん、私の命ってどういうこと?私、もうすぐ消えちゃうんだよ!?」
「そうじゃない……オーディンのデッキに、時間を巻き戻す、そういうカードがある。
俺は何度も繰り返してきた。様々な欲望を抱えたお前達にデッキを与え、
優衣がタイムリミットを迎えるたびに時間を巻き戻し、
幾度もライダーバトルをやり直してきた……」
皆、驚きを隠せなかった。
自分たちは偶然初めて出会ったと思っていたが、実は神崎の思惑により、
何度もライダーバトルを繰り返してきたというのだから。
「だが、優衣!いつもお前は受け入れなかった!最後の一人はいつもオーディン。
しかし、彼が命を持ち帰っても、決してお前は受け取らなかった!
だから俺は賭けに出た。一度ライダーバトルを中止し、
このサイバーミラーワールドを探し出し、戦いに変化をもたらした。
だが……!何も変わらない!いや、優衣の限界を目前にしても
脱落したのはたったひとり!俺のしてきたことはまるで無意味だった!」
優衣は神崎の手を取り訴えた。
「無意味なんかじゃないよ!お兄ちゃんがまた会いに来てくれた!
私のために頑張ってくれた!お兄ちゃんだけじゃない、蓮も、真司くんも
こんなに傷ついてまで私を迎えに来てくれた!私、凄く幸せな人生送れたよ?
だから、それをなかったことになんてしないで……」
「優衣……だが、今更ライダーバトルを止められるか!?いや、止まらない!
ライダー達の欲望は……」
「止まるよ。止められる」
その時、少し怪我の痛みが落ち着いた真司が口を開いた。
「神崎。お前は知らないかもしれないけど、もう大勢のライダーが戦いを止めたり、
その虚しさに気づいてる。
これ以上ライダーバトルを続けても、きっと決着なんてつかない。
浅倉は、俺達が全力で止める。
北岡さんも頭がいいから、もう戦いを続ける意味なんてないこと、わかってると思う」
「龍騎……!お前に出来るのか。
北岡を見捨て、優衣を見殺しにし、それでもライダーバトルを止めることが!」
「俺、決めたんだ……ライダーバトルを止める。
ずいぶん迷ったけど、それが俺のライダーとしての欲望だって」
「お前に、他人の人生を断ち切る覚悟があるとでも言うのか……」
真司は両手を握りしめ、少し躊躇い、口を開こうとした。その時。
[お前は消えた。ただ独り消えた]
いずこから少年の声が聞こえてきた。皆、辺りを見回す。そして、優衣が指差す。
部屋の隅に一台の姿見。
「みんな、あれ!」
「あれって……うわっ!」
「これはどういうことだ……?」
鏡の中から、デニム地の上着を着た少年が、こちらの世界を見つめているのだ。
[俺も優衣を助けたい。そちらに行ってもいいか]
ミラーワールドの少年が問いかける。
「お前は……“俺”なのか?」
神崎が答える。一同の間に緊張が走る。
優衣と同じく、少年時代の神崎もミラーワールドの住人として存在していたのだろうか。
[そうだ。俺はもう一人のお前だ。ずっとお前の姿を見てきた]
姿形こそ少年だが、神崎のものと同じ口調で語るミラーワールドの士郎。
「だからなんだというのだ!今更過去の亡霊になにができる!」
[そう、何もできなかった。時を遡り、仮面ライダーを戦わせ、
そして、優衣を失うお前を見ても、何もできなかった]
「俺は……仮面ライダーになれなかった。優衣を守る仮面ライダーになれず、
ただ虚ろの存在となり、鏡の世界を彷徨うだけの存在に成り果てた。
だが!諦めるわけにはいかない!そのために優衣を救う“命”となる鍵を
最強のライダーに託した!」
[全てを終わりにするべきだ。命を求めている者が4人。
神崎優衣、神崎士郎、北岡秀一、秋山蓮、その恋人。
あの日、優衣がもう一人の自分を救ったように、俺の命をお前にやろう]
「命をやるって、どうする気だよ!」
[あの時と同じ。俺もそちらの世界に行く。この体は消滅し、命だけが残る。
半分は神崎、お前にくれてやる。もう片方は、命が必要な誰かに渡せばいい]
「ねえ、君は!いや、お兄ちゃんはそんなことしたらどうなるの!?」
優衣が士郎少年に問いかける。
[かつての優衣と同じだ。神崎ともう一人の誰かの中で生き続ける。
やはり残念ながら10年しか保たない命だが]
「……じゃあ、私、この世界で生きることにする!」
「!?」
優衣が予想だにしていなかったことを言い出すので皆、一様に驚いた。
彼女は鏡の士郎にすがりつくように話しかける。
「ねえ、それでも必要な命は3つ足りないの!私か北岡さんか恵理さん!
でも私、もう現実世界なんかいらない!」
「優衣、何を言っているんだ、俺はお前を……」
駆け寄ってきた神崎に優衣が語りかける。
「お兄ちゃん、そうしようよ。一緒にライダーバトルを始めたのは私達。
ここにいれば私は新しい命なんかいらない。お兄ちゃんも生きられる。
だったら、一緒に責任取ろうよ。
必要な人に命をあげて、ライダーの物語を終わりにするの」
「なぜだ!お前は、それでいいのか!
このサーバーの片隅で、朽ち果てた廃墟で、お前は生き続ければならないんだぞ!」
「それは、違うよ」
真司が神崎の言葉を柔らかく否定した。
「優衣ちゃんが残るかどうかはともかく、一度俺が担当している鎮守府に来るといいよ。
優しい艦娘達がいっぱいいる。きっとすぐにみんなと仲良くなれる。
後のことはそこで決めればいいんじゃないかな」
「真司くん……じゃあ、お兄ちゃんも行こうね」
優衣が鏡の士郎を連れ出そうとするが、彼は首を振る。
[もう、俺には時間がない。ミラーワールドの俺は、
外の世界で命だけの存在になるしか、生きるすべがない。
もう一人の俺、優衣を頼む……]
そして士郎少年は、鏡から一歩足を踏み出し──
すべてが白になった。
ガラスなど鏡になる物はすべて吹き飛び、壁という壁が崩れ、
あちこちから火の手が上がる。
「優衣、落ち着け、背を低くして煙を吸うな」
蓮の言葉に、ハンカチを口に当てて何度も頷く優衣。
「こっちだ」
神崎に先導され、皆、身を低くして一階の出入り口を目指す。
その間にもどこかで爆発が起き、足元が揺れる。
全員手近なものに掴まり、揺れが収まるのを待ち、再び進み始める。
そして、やっと1階にたどり着いた時に天井を見上げると、
吹き抜けの廊下は既に炎で包まれていた。3階の屋根が焼け落ちるのが見えた。
全員、もう何も考えずに出入り口の大きなドアに飛び込んだ。
外に脱出し、建物から離れると、一際大きな爆発が起き、
本館は1階部分を残してほぼ完全に倒壊した。
「俺達、助かったのか……?」
提督を持たず、もう元の姿に戻ることのない本館を見ながら、真司が独り言を漏らす。
「そうだよ。みんな助かったんだよ……」
その時、燃え尽きようとする本館から、2つの光の玉が飛び立ち、
一つは神崎の身体に宿り、もう一つは彼の手の中に収まった。
「もう一人の俺、か……」
尽き果てようとしていた命を繋ぎ止めた神崎は、その光を軽く握りしめた。
「行くぞ。いつまでも悪運を当てにはできん。
さっさと優衣の“命”とやらを確保して鎮守府に戻るぞ」
蓮はそう言って、周りを見回した。
すると、錫杖を杖代わりにして、よろけながらオーディンが歩いてきた。
「神崎、私はもう駄目だ。だが、“TIME VENT”は、無事だ……」
オーディンはカードをドローし、神崎に渡した。
「ご苦労だった、オーディン。俺が戦い続けることができたのは、お前のおかげだ」
「礼を言うべきは、私だ。生きる意味を与えてくれたことに、感謝する」
そして、オーディンは去って行こうとした。だが、真司は彼の後ろ姿に声をかけた。
「何言ってんだ!お前も来い!神崎は生きられる、これからも!
戦友なら最後まで一緒に運命と戦えよ!」
その言葉に足を止め、ゆっくりと振り返るオーディン。神崎が彼の目をじっと見る。
「……オーディン。お前にその気があるのなら、共にこの戦いの結末を見届けてくれ」
「承知した……」
決して交わることのなかった運命が交差し、彼らは共に旅立つことを選択した。
皆が桟橋を渡り、クルーザーに向かう。
出迎えた三日月は、神崎とオーディンの姿に驚くが、何も聞かずにただ一言だけ告げた。
「お帰りなさい……!」
「……ただいま」
真司もまた、笑顔で一言だけを返した。