【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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第4話 ID: The Unforgiven

足柄は食事を乗せたトレーを持って、

提督の執務室へ続く階段を登っていった。緊張を覚えながら。

そして、執務室の前に立ち、ノックをしようとしたら中から妙な音が聞こえてきた。

 

 

ゴン、ゴン、ゴン、ゴン……

 

 

まただ!足柄は慌てて執務室に入る。昼間なのに薄暗い部屋に入ると、

一人の男が壁に何度も頭を打ち付けていた。

 

「何をしてるんですか、提督!止めてください!」

 

「……うるせえ」

 

そして男は振り返る。その額は血まみれだったが、拭おうともしない。

 

「イライラするんだよ、こんなところにいると……!!」

 

部屋の中はまるで独房。とても執務室と呼べるものではなかった。

乱雑に積まれたダンボールと一脚の椅子。

他には部屋の隅に現実世界へと繋がる、暗闇に無数の0と1が浮かぶゲートが

あるだけだった。

 

物が無い理由は、男が感情の抑制が利かなくなる度、

手当たり次第に破壊して回るため、止む無く撤去したせいだ。

部屋が暗いのは単に男が面倒がって電球を点けていないこともあるが、

男にガラスを割られないよう仕方なく窓に鉄格子を取り付けたのも原因である。

 

重巡足柄は、そんな男の秘書艦だった。

さすがに重巡クラスとなると、単純な力比べでは人間に勝ち目はないが、

この男は何をしでかすかわからない。こいつに食事を運ぶ時は未だに緊張する。

 

もちろん鎮守府には食堂があるのだが、

皆が集まるところにこの男を放すわけには行かないし、かと言って放っておけば、

トカゲや川魚を捕まえては広場の真ん中で焼いて食べる。

鎮守府の長たる提督がこれでは敵わないので、

秘書艦の足柄が3食部屋に運んでいるのだ。

 

男が艦これ世界に来たのは半月ほど前。

通常、新任の提督に重巡洋艦が割り当てられることはない。

本来ならば男の秘書艦には、駆逐艦の電が就くはずだった。

 

 

 

 

 

艦これ世界に人間の提督が降り立ったことを感じ取った電は、

期待を胸に執務室のドアをノックした。

 

「あ、あの、司令官さん。はじめまして、貴方の秘書艦を務めます、電です。

どうか、よろしくお願いします」

 

ドアの向こうから自己紹介する電。だが、返事がない。

おかしいな、確かに誰かさんの反応があるのに……

 

「あの~おじゃまします……」

 

電は思い切って少しずつドアを開けてみた。

そこには髪を茶色く染め上げ、蛇革のジャンパーにジーンズ、

金属の飾りの付いたチョーカーを身に着けた男が立っていた。男は電と目が合うと、

 

「……よう」

 

とだけ言った。その瞬間、電の背筋におぞましい悪寒が走る。

別に、男に睨まれたわけでも詰め寄られたわけでもない。

だが、血と暴力に染まりきった男の目は、

それだけで一般人の恐怖を掻き立てる何かがあった。

 

「イヤァァーー!!」

 

ましてや、まだ精神的に幼い電は、耐えきれずにその場から走り去り、

作戦司令室に逃げ込んだ。突然飛び込んできた駆逐艦に司令室の面々は驚く。

 

「ああ、長門さん!助けてください!」

 

「どうしたというんだ、電」

 

「司令官さんが、司令官さんが、怖いんです!普通じゃないんです!」

 

「いかんぞ電、確かに提督には気難しい方も……おい、大丈夫か!?」

 

電の怯え方が尋常ではなかったのだ。

全身を震わせ、身体を抱いて、声を上げることなく涙を流している。

 

「……陸奥、彼女を頼む。私が行ってくる」

 

「わかった。……さぁ、おいで。もう大丈夫だから」

 

「あ、あ、あの司令官さん、変です、ぜったいおかしいです!うああ……」

 

なおも怯える電の声を背に、長門は執務室に向かった。

そして本館に入り、問題の部屋のドアに立つと、唾を飲んでノックした。

一体何者がいるというのだ。

 

「提督、司令代理の長門だ。入るぞ」

 

ギイィ……とゆっくりドアを開ける。

電球の点いてない薄暗い部屋で1人の男が立っている。

そいつは長門に気づいているはずなのに何も語ろうとしない。

 

長門は部屋に入り、電球を点けた。部屋に彼の姿がはっきりと浮かび上がる。

……なるほど、こいつはまともじゃない。

鎮守府の艦娘の中でも歴戦の強者である長門の勘がそう告げた。

そこで男が初めて言葉を発した。

 

「ハッ……ガキの次は大女か。なんの用だ」

 

「さっきの女の子に何かしたか?」

 

「ああ、言ったぜ?“よう”って……」

 

「それだけか?乱暴な口を聞いたり脅すような真似は?」

 

「なんだ、殺して欲しかったのか?」

 

「なっ!?」

 

この短い会話で長門は確信した。

駆逐艦・軽巡洋艦にこいつの秘書艦を任せるわけにはいかない。いつか惨劇が起こる。

とりあえず自分が提督就任の手続きを済ませて、後のことは陸奥と対策を練ろう。

 

「用事はそれだけか」

 

「ああ、その女の子の件だ。これから貴方が提督として活躍するための

サポートをする秘書艦となるはずだったのだが、まぁ、あれだ。

少々ミスマッチだったようでな。別の人員の確保までしばらく待って欲しい」

 

「……いらん」

 

「そう言うな。提督の任をこなすうちに考えも変わるかもしれん」

 

「秘書だの提督だのどうでもいい。ライダーかバケモンを寄越せ」

 

「“ライダー”……には心当たりがないが、化け物なら深海棲艦が嫌というほどいるぞ。

我々はそいつらと戦っている。提督ならばどこへ出撃しようと自由気ままだ」

 

「ほう……そいつらはミラーモンスターより強えのか」

 

室内をぶらついていた男が足を止め、長門を見る。しめた、男が話に興味を示した。

 

「そのミラーなんとかの強さがいかほどかは知らんが、

奴らは人類から制海権を奪った……という設定だ」

 

最後の方は、ごにょごにょと早口でごまかした。

深海棲艦とは長門達にとっては命懸けで死闘を繰り広げる宿敵ではあるのだが、

下手にゲームキャラだのデータの存在だの言って、

艦これ世界に来たばかりのこの男が戦う相手に興味を失い

提督としての義務を放棄するのは、それはそれで都合が悪かった。

 

「なるほど、悪くねえ」

 

「で、話は戻るが、貴方に合う艦娘を見つけるために対象の艦種を広げたい。

そうだな……重巡洋艦から選びたいのだが、了承してもらえるか?」

 

「……勝手にしろ」

 

床に座り込んで足を投げ出したまま男が答えた。

長門の頭脳にシステム変更のシグナルが届く。

これで強力な艦娘をこの男の静止役として任命できる。

 

「確かに。貴方の采配に期待する。では、私はこれで失礼する」

 

形だけの敬礼をして、長門は退室した。まずいことになった。

間違いなく奴は何かしでかす。イレギュラー予備軍だ。

何か手を打たなければ手遅れになる。しかし、艦娘が提督に対してできることなど、

ほぼ無いに等しい。とにかく陸奥と相談しなくては……

 

だが、彼女の心配とは裏腹に、数日の間、男は大人しかった。

あれほどこだわっていた提督の仕事は長門に任せきりで、

鎮守府内をぶらぶらと歩いていた。制服を与えられたのに相変わらずの蛇革姿だが、

あまりうるさく言って癇癪を起こされてはたまらないので、放って置いている。

特に工廠に興味があるらしく、頻繁に出入りしているようだ。

たまに道行く艦娘に声をかけ、二言三言、世間話すらしている。

 

そんな男の姿を見て長門は考える。自分の取り越し苦労だったのだろうか。

確かに彼には後ろ暗い過去がありそうだが、今は足を洗っているのかもしれない。

念のため重巡を秘書艦にすることに変わりないが、

これなら電にも心配することはないと安心させてやることができる……

 

 

 

 

 

そう思っていた。

ある日のこと、大淀の報告が作戦司令室に響いた。

 

「長門司令!x310715鎮守府からSOS!イレギュラーです!」

 

「なんだと!?クソッ、どうしてx番号の鎮守府にはろくな提督が来ない!!」

 

長門は拳を握りしめる。その時、

 

 

「おい、どうした……」

 

 

いつの間にか入り口に立っていた男が、呑気な足取りで作戦司令室に入ってきた。

そうだ、人間だ!人間同士なら提督権限も関係ない。

もしかしたらイレギュラーを追い返し、x310715鎮守府を救えるかもしれない!

 

「提督、頼みたいことがある!イレギュラーを倒して現実世界へ追い返してくれ!」

 

「戦いか?……面白そうだな、詳しく教えろ」

 

長門は男に現在の状況を手短に話した。

イレギュラーの存在、艦娘が彼らに虐げられている現状、

打開には他の提督の介入が必要な点。

長門は早口になってしまっていたが、男はまばたきもせずに黙って聞いていた。

そして長門が男に改めて助力を求めると、男が答えた。

 

「……そいつと、電話かなんか繋がんのか」

 

「おお、やってくれるのか!」

 

「繋がんのか聞いてんだ……」

 

男が若干イラついたのを即座に感じ取った大淀が素早く答えた。

 

「可能です!

今、向こうの艦娘に無線を取り次いでもらっていますので、しばしお待ちを!」

 

男は舌打ちし、空いている椅子に座った。待つこと5分。大淀が男に呼びかけた。

 

「提督、繋がりました。向こうの提督がお待ちです」

 

男が大淀から受け取ったインカムを着けると、耳障りな間延びした声が聞こえてきた。

 

“ちょりーっす、俺コースケ。この縄張りのキング?みたいな?”

 

「俺は……」

 

“あ!いい、いい。どうせ興味ないっしー?

テメーが誰だろーが知ったこっちゃねー、みたいな?”

 

「……お前と会えねえか?」

 

“ああん?お前、頭イカれてる系?なんで、俺様が?チョー忙しいのに、

野郎と会わなきゃ……”

 

「表敬訪問だ」

 

“……ほ~ん?身の程わきまえてる系は好きよ俺。いいぜ、来いよ、ただし!

とびっきりのいいオンナ連れてこい。

言っとくけど他に艦娘連れてきたらマジぶっ殺だから?俺の兵隊マジやべえし?”

 

「……手土産も持ってく」

 

“ドンッペリ持ってこいよ、ドンッッペリニョン!わかったな!”

 

そして敵性鎮守府の提督は一方的に通信を切った。

通話を聞いていた全員が不安げに男を見ている。

 

「聞いての通りだ。……長門、お前来い」

 

「わ、私か?」

 

まさか自分が指名されるとは思っていなかった長門は思わず慌てる。

 

「しかし、敵は“いい女”を要求していたぞ。他に容姿端麗の艦娘はいる。

奴が気に入らなかったらどうする?

……あー!提督も初めて会ったとき、私を“大女”と言っていたではないか!」

 

「あはは、長門さぁ……今、それどころじゃないんじゃない?」

 

「……乗らねえなら俺は知らん」

 

「まったく、わかった!行けばいいのだろう!」

 

「お前は出発の準備をして待ってろ。俺は“手土産”を用意してくる」

 

そして男はインカムを放り投げると、作戦司令室から出ていった。

 

「どうするつもりなんだ。

確かに食堂には酒を提供する区画があるが、さすがにドンペリなど置いていないぞ」

 

「でも、信じるしかないよ、今は」

 

「ああ……そうだな。どのみち我々だけではどうにもできないからな」

 

 

 

 

 

BAR “Loving Sisters”

 

食堂の隅に設けられた、通常の食事を提供するスペースとは完全に隔てられたバー。

男はバーカウンターを拭いていた那智に声を掛けた。

 

「ああ、貴様か。すまないな、まだ営業時間外だ。

まぁ、提督がルールを変更するなら……」

 

「俺は飲まん。土産に持ってく。それなら問題ないだろう」

 

「……ああ、確認した。確かに現状の規則には反しない」

 

そして男は目的の物を那智に注文した。

15分ほど掛かって、ようやく彼女が指定の酒を持ってきた。

 

「待たせたな。昔、物珍しさで仕入れたものが1本だけ残っていた。

だが、先方は本当にこんな物、気に入るのか?」

 

「……気に入らせる」

 

「は?」

 

「いや、いい。邪魔したな……ん?」

 

男が立ち去ろうとした時、カウンターの隅に置かれたかごに積まれた物に目が留まった。

 

「おい、これ1つもらってくぞ」

 

「ああ。それは持ち帰り自由だ、気にするな」

 

男はそれを左ポケットに入れ、那智に向け軽く手を上げるとバーを後にした。

 

 

 

 

 

バーで用事を済ませた男は、今度は工廠に立ち寄った。

中に入ると、小人が近づいてきた。

 

「頼んでたもんはできてるか?」

 

小人はピッ!と敬礼すると、男が数日前に作成を依頼していたものを持ってきた。

それを手に取り、いろんな方向からためつすがめつ眺める。問題ない。

 

「ありがとよ。十分な出来栄えだ」

 

小人は照れくさそうに頭をかいた。これで準備は整った。面白い戦いになればいいが。

男は準備したものを手提げ袋に入れて桟橋に向かった。

 

 

 

 

 

長門は桟橋に停泊していたクルーザーで男を待っていた。二人共操舵室に乗り込む。

 

「何をしていたんだ?ずいぶん時間がかかったようだが」

 

「手土産の準備だと言った。早く出せ」

 

「むぅ、わかった。では、出港する。

目的地、4番サーバー。アルゴリズムナンバー“x310715”、アクセス!」

 

長門が不思議なコマンドを宣言し、舵を握ると、

クルーザーの周囲の空間が真っ白になり、上空に無数のプログラムの羅列が流れる。

出港と言っても、ここはあくまでネットゲームの世界。

現実世界のように海を渡って移動するのではなく、各鎮守府や海域のデータ間を接続し、

向こう側のデータをダウンロードするだけでいい。

 

しばらく待つとプログラムの流れが止まり、ダウンロードの実行が始まった。

白に包まれたクルーザーの周りに海、空、大地、そして問題の鎮守府が構成される。

クルーザーも都合よく桟橋に停まっていた。

 

「さぁ、行こう。向こうの提督は食堂の酒場を面会場所に指定してきた」

 

「……」

 

男は無言のまま、長門と共に本館北西の食堂がある建物へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「あの、司令官さん。お客様がお見えになりました……」

 

「オッケェェ、羽黒っち。入っていいって伝えてチョ!」

 

サングラスを掛け、素肌にヒョウ柄のシャツ、

そして趣味の悪い太い金の鎖のネックレスをつけたチーマー風の男が答えた。

艦娘に肩を揉ませながらウィスキーを煽っている。

後方には護衛の戦艦が4人控えている。もちろん誰も幸せそうな顔をしていない。

自らの誇りといえる艤装を、突然現れた下品な独裁者の護衛に使わされているのだから。

 

「かしこまりまし……キャァ!」

 

羽黒が客を呼びに行こうとした時に、チーマーが彼女の尻をなでた。

 

「ギャハハハ!!

やっぱー女の子ってこんくらいウブじゃないとカワイクねーって感じ?」

 

「や、やめてください、司令官さん……」

 

「貴様……いい加減にしろ!」

 

姉の那智がチーマーに食って掛かる。

 

「だめよ、お姉さん……!」

 

「はあぁ?“貴様”?いい加減に“しろ”だぁ?テメェ、誰に口聞いてんだ?

俺、提督よ、俺」

 

チーマーは椅子から立ち、那智に詰め寄る。

 

「キングに向かって“貴様”呼ばわりに命令形?お前何様なワケ?

どういう教育受けてきたんだっつー……の!!」

 

パシィン!とチーマーが那智の頬を張った。

 

「くっ……!」

 

「お姉さん!」

 

チーマーは更に那智の襟首を掴み上げる。

 

「前々から思ってたんだけどよぉ……テメー俺のタイプじゃねえし?

態度反抗的だわでもういらねえって感じ?

もうさ、艦娘ゴミ箱にぶっこんじゃおっかなーとか思ったりしちゃうわけ」

 

「やめてください、それだけは!

お姉さんには手を出さないでください、何でもしますから!」

 

「ん~?な・ん・で・も?オーケーオーケー!それじゃあ今夜、俺のゴォォジャス!な

執務室に来い。たっぷり可愛がってやるぜ、子猫ちゃ~ん……」

 

「よせ、羽黒!こんな男に……!!」

 

「テメエは黙ってろクソ女!!」

 

チーマーはもう一度那智の顔を平手打ちした。それでも那智は男を睨み続ける。

それが気に入らない彼は提督権限を発動しようとした。

 

「もういい、テメエは、もう、解体……」

 

 

 

──おい、そろそろ入っていいか。

 

 

 

その時、酒場区画の入り口から声が聞こえてきた。

一般人とは程遠い服装の男が、退屈そうに、

左手をジーンズのポケットに突っ込んだままドアに寄りかかっていた。

後ろには艦娘が1人立っている。

興味を那智から男に移したチーマーは彼女を放り出した。

そして再び席に着き、男に向かい側の席を勧めた。

 

「ヨー兄弟!立ち話もなんだ、いいから座れや!」

 

「……邪魔するぜ」

 

男とチーマーが向かい合う。

 

「ま!無線でも言ったけど俺がここのキング、コースケ様!

後ろの連中は俺のキャバ嬢兼ボディーガード。言いたいこと、わかるよな?

アンダスタン?」

 

後ろに控えている4人の戦艦が機銃を男に向けている。

 

「ああ……」

 

「よーし、お利口さんは長生きできるぜ。ところで、手土産は持ってきたくれたんだろ?

んー?」

 

「あいにく貧乏所帯でな……」

 

男は手提げ袋から、“Loving Sisters”で調達したボトルをテーブルに置いた。

チーマーがそれを手に取りラベルを見る。

 

「……」

 

バシャアッ!

 

チーマーは黙ってグラスのウィスキーを男に掛けた。

一瞬長門がハッとなる。しかし男はただぼんやりとチーマーを見つめている。

 

「はい、前言撤回お前バカ。クソ貧乏人にドンペリ期待するのは可哀想だったがぁ~!

フツーこんなもん持ってくるか?バカなの?死ぬの?つか、死ねや。

……で、ひょっとして命令しといた“カワイコちゃん”ってのは?」

 

「……こいつだ」

 

男は顎で長門を示す。

 

「かぁぁ!!つっくづく何にもねえとこなんだな、お前んとこ。

俺は、とびっきりの、“いい女”連れてこいつったよなぁ?

ひょっとしてこれがテメーの縄張りの最高レベル?チョー信じらんねえマジ田舎!

マジ笑える!もうお前ログアウトしたら?楽しくねえだろ、俺は天国だけどよ!

何しろ、俺様?艦これ界の、神ですからぁ!ギャハハ!!」

 

チーマーはひとしきり笑うと、急に真顔になり、テーブルに頬杖を付いて話しだした。

 

「“ログアウト”で思い出したんだがよぉ、今日の要件。お前、消えろや。

俺の世界に役立たずの他プレーヤーはいらねえワケ。今度は理解できてるか?

物資や資材献上できるなら遊ばせてやっても良かったんだけどよぉ、見ろよコレ。

何一つろくなもん持ってこねえ。選ばれし神はよぉ、オレ一人で十分なわけ。

フツーありえねえじゃん?ゲームの世界に入れるなんかよぉ。お前偶然、俺必然。

たまたま入り込んだ虫野郎にここで生きる権利とかないわけ」

 

増長しきったチーマーは手前勝手な理屈を並べ立てる。

しかし、やはり男はどこかぼんやりした表情で、今度は先程のボトルを手に取った。

そして器用に右手でキャップを外し、

 

「……まぁ、一杯やろうぜ。“一杯”な」

 

チーマーの頭にドボドボと中身を掛けた。びしょ濡れになるチーマー。

驚愕する長門。ボディーガードの艦娘も悲鳴を上げる。

 

「おい、提督何をしている!」

 

「テメエ調子こいてんじゃねぞコラァ!」

 

男は立ち上がりテーブルを蹴飛ばした。丸テーブルが大きな音を立てて転がる。

 

「おい、この一張羅いくらしたと思ってんだ?

あーあ!普通のクリーニングに出せねえんだぞ、これ!

おい、現実のテメエの住所書けや。損害賠償と慰謝料合わせて1000万。

払えねえなら俺のチームでマジ、ボコにするから!」

 

「ごちゃごちゃうるせえよ……」

 

「あ……?」

 

「そのウンコ色のシャツなら、良くて1000円だ。恵んでやる」

 

「この、クズが……!」

 

今まで従順だった男が突然挑発的な態度を取り出したので、

チーマーの頭に一気に血が上る。

 

「よせ提督!ここの艦娘の運命も……」

 

「はいみんなご注目~!ただいまより血みどろ処刑パーティーを開催いたしま~す!!

戦艦のみんな、機銃の用意はオーケーィ!?提督権限、部外者ぶち殺しまくりing発動!

レッツパーリィ!おおっと、俺の避難が終わるまでウェイト!」

 

4人の戦艦が“逃げて”と言いたそうな表情で7.7mm機銃を操作する。

だが、男は座ったまま、酒場から出ようとするチーマーに話しかける。

 

「要するにお前は俺を殺す。宣戦布告ってわけか」

 

「ワオ!幼稚園レベルの日本語はわかるみたいだーがー?

もう、ゲーム・オーヴァー……それじゃあ、お前の艦娘は

雑用係にもらっといてやるから、安心して死ね。バイバーイ!」

 

「ずいぶん寒そうだな、ずぶ濡れじゃねえか……」

 

「あ?」

 

「温めてやるよ」

 

一瞬の早業だった。

男は左ポケットに突っ込んだままだった手をさっと抜き、

手の中に仕込んだ“Loving Sisters”と書かれた小箱を開けた。

そして中身のマッチを一本抜き取り、シュッとジーンズに擦り付け点火。

火の着いた細い木の棒をチーマーに投げつけた。

スピリタス。アルコール度数95%の火酒を頭から浴びた敵に。

服に染み込んだアルコールに引火し、一気にチーマーの上半身が燃え上がる。

 

「ウギャアアアァーアアァ!!あづい!あづい!助けろ、消せ消せ!

早く消してくれぇ!!」

 

熱と激痛でパニックになるチーマーの脳内が

“助けろ”と“火を消せ”という命令で満たされる。

ボディーガードの艦娘達が上着を叩きつけたり、洗い場から水を持ってきたり、

迅速にチーマーの消火活動に当たった。つまり、“部外者を殺せ”という命令が、

それを上回る量の命令にキャンセルされたのだ。

ともかく、チーマーは艦娘達の素早い対応で、重症というには軽い程度の火傷で済んだ。

しかし、彼の怒りは完全に頂点に達している。

 

「ゴルァ、蛇野郎!!よくやってくれたなぁ、よくやってくれたよ!ああん!?」

 

またチーマーが別のテーブルを蹴飛ばす。

 

「もういい、お前は一思いには殺さねえ。艦娘の怪力で引きちぎっ……て……」

 

唾を撒き散らしながら吠え散らかしていたチーマーが一気に青ざめる。なぜなら。

 

「お前、なんでそんなもん持ってんだよ……なぁ、おい、やめろって」

 

「提督、それは……!?」

 

男がジーンズの腰に差して、ジャケットで隠していた

オートマチック拳銃を向けていたからだ。

 

「作らせたからに決まってんだろう。なんでお前は持ってない」

 

「だだだ、だって、工廠のコマンドにそんなもん……」

 

「神なんだろう?ちょっと小人と打ち合わせればできたはずだ」

 

「提督、止めるんだ!奴は現実世界に追い返せば十分だ!」

 

「もう戦いは始まった。次は……俺の番だ」

 

「お、お願いします何でも言うこと聞きます。

みんなにもあやまります!ころさないで!たすけてぇ!」

 

涙と鼻水を垂らしながらひざまずき命乞いをするチーマー。

彼の脳内が、“死にたくない”、“撃たないで”、“助けて”、で埋め尽くされる。が。

 

 

バン!バン!バン!バン!

 

 

4発。チーマーの腹を貫通。銃創から大量出血し、後ろに倒れるチーマー。

彼は震える手で必死に傷口を抑え、かすかな声で助けを求める。

 

「ていとく……めいれい。たすけて、しにたくない」

 

ボディーガードの艦娘が彼に駆け寄る。

 

「はぁ、はぁ、……はやく、たすけて」

 

だが、彼女らは冷たい目でチーマーを見下ろし、

 

「エラー。提督命令、“助けろ”の定義が不明瞭です。

貴方は2度“助けろ”の命令を発しています。

1度目は“火災を食い止め焼死を防げ”、2度目は“自分に拳銃を発砲するな”、

今の状況はどちらにもあてはまりません。

もう一度、具体的な命令の発令をご検討ください」

 

「そんな、はやく……しんじゃう」

 

「慌てんな。今、終わらせてやる」

 

泣きながら助けを乞うチーマーに、再び拳銃を持った殺人者が満面の笑みで忍び寄る。

そして、今度は頭部に向けて銃を構える。長門が強引に止めに入ろうとする。

 

「やめろ、提督やめろ!」

 

「提督命令だ、殺し合いの邪魔をするな」

 

「くっ!」

 

長門の足が地面に貼り付いたように動かない。

手を伸ばそうとしてもセメント漬けにされたように固まっている。

そして、とうとうその時が訪れる。

 

「……ゲーム、オーバーだ」

 

「かあちゃん、おかあちゃん……たすけてくれよう……」

 

 

バァン!!

 

 

銃弾はチーマーの額に穴を開けた。調べるまでもなく、絶命。

男の銃からこぼれる硝煙の臭いが辺りに漂う。

 

「……鉄砲くらい自分で持て」

 

提督が提督を殺害。前代未聞の状況に皆、言葉を失っていた。

すると、チーマーの死体がグリーンの0と1の集合体となり、

それらは粒子状に宙に舞い、やがて消滅していった。

提督命令の拘束が解けた長門が男に掴みかかる。

 

「貴様!自分が何をしたのか分かっているのか!?提督、いや」

 

 

──浅倉威!!

 

 

初めて長門が提督を名前で呼んだ。

 

「周りを見ろ、お前がしたことを!」

 

うっ、ひくっ、ぐすっ……

 

「そんな、司令官さん、まさか殺されちゃうなんて……」

 

那智が羽黒の背中をなでながら浅倉に話しかける。

 

「問題を解決してもらっておいてこんな事をいうのもなんだが、

礼を言うのは待たせてくれ。こんな結末で本当によかったのか、考える時間がほしい」

 

「感謝などいらんし、礼を言いたいのはこっちの方だ。久しぶりの殺し合いが楽しめた」

 

「“楽しめた”、だと!?ふざけるな、浅倉ァァ!!」

 

ドゴォ!と長門は思わず浅倉を殴りつけた。派手に床に倒れ込む浅倉。

こいつは、やはり何かがおかしい!

……待て、ちょっと待て。私は、なぜ、今、“提督を殴ることができた”?

確か、提督権限はデフォルトでは反乱防止の為に、

艦娘は提督に危害を加えることができないようになっているはず!

 

「浅倉……お前、なぜ提督権限を弄った!私達がお前を攻撃できるように!!」

 

「いつ俺のことが気に入らない艦娘と戦争になってもいいようにだ。

俺はお前らと仲良しこよしするためにここに来たわけじゃねえ」

 

「だからといって、なぜ死亡回避の措置を停止する……?」

 

「どっちかが絶対死なないだ?そんな殺し合いの何が楽しい」

 

「!?」

 

絶句した。こいつは狂っている……!!

戦いの興奮の前には自分の命すら無価値な戦争中毒者だ!

しかも狂いつつ冷静、狡猾、周到!

今思えば、この世界に来てからしばらく鎮守府で大人しくしていたのは、

この世界のシステムを探っていたのだ。工廠に出入りしていたのは拳銃を作らせるため!

なぜ気づかなかった!

 

「おい、帰るぞ」

 

「待て浅倉!」

 

立ち去ろうとする浅倉を追いかける長門。出口に向かう浅倉に戦艦の一人が呼びかけた。

 

「あたしは感謝してるから!もう少し貴方が来るのが遅かったら、

誰かがあいつに穢されてた。

他の人は知らないけど、私は死ぬべき悪人もいると思ってる!」

「ちょっと……」

 

浅倉はフッ、と笑うと振り返った。

 

「感謝はいらんと言ったはずだし、俺も“死ぬべき悪人”の一人だ。

その時の利害で人間を信じるのはやめろ」

 

「もういい、歩け、浅倉!」

 

今度こそ二人は建物から去っていった。

桟橋に停泊したクルーザーでx310715鎮守府を後にした長門と浅倉は、

自分達の鎮守府の桟橋で言い争っていた。

と言っても、一方的に長門が浅倉を怒鳴りつけている形だったが。

 

「貴様、最初からこうなることがわかっていたんだろう!」

 

「ああ。始めの通信の時に奴がアホだということはすぐわかった。

アホだから既存のシステムで満足して、

ろくに応用する術を模索してないことも見当がつく」

 

「あの火事は!?」

 

「通信の内容から奴が護衛を付けていることくらい誰でもわかる。

奴を火だるまにしたのは、そいつらへの攻撃命令を自分の救助に変更させるためだ」

 

「そして、初めから殺すつもりで拳銃を……!!」

 

「小人連中は優秀だなぁ、おい。

簡単に外観と性能を書いた絵を見せただけで、完璧な拳銃を作った」

 

「私は追い返してくれと言ったはずだ……!殺してくれなど」

 

「ハッ……そんな都合のいい方法があるとでも思ってたのか。

それに、追い返したところで、また奴がパソコンに触れば元の木阿弥だ」

 

「それは……」

 

「とにかく俺は寝る。久々に楽しんで疲れた。あばよ」

 

「……」

 

長門は去っていく浅倉を見ていることしかできなかった。

確かに浅倉がいなければ、あの鎮守府で悲劇が起こっていたのは事実。

しかし、だからといって……

 

 

 

 

 

作戦司令室。

長門は桟橋から直接戻ってきた。夜も更けていたが、

陸奥と大淀は彼女の帰りを待っていた。

 

「長門、どうだったの!?」

 

「……ああ、解決したよ」

 

「はい、x310715鎮守府から《救援に感謝する》との電文が届いています!」

 

「最悪の形でだ!!」

 

「「!?」」

 

長門の叫びに驚く二人。長門は二人にx310715鎮守府で起きた惨劇を語って聞かせた。

 

「そん、な……嘘でしょ?提督が提督を殺したなんて……」

 

「事実としたら、彼には前科があるはずです。躊躇いなくそんな凶行に及べるほどの」

 

「そうか!?くそっ、怪しいなら何故検索しなかった。私のうつけ者め!」

 

そして長門は検索エンジンにアクセスし、“浅倉威”を検索した。

彼女が苦渋の表情を浮かべる。

 

「どう?長門」

 

「……提督は、浅倉威は、殺人罪で逃走中の脱獄犯だ!!」

 

「本当なんですか!?」

 

「私も夢であって欲しいが、事実だ。

現実世界では、あの男は全国指名手配されている!」

 

「それじゃあ、提督は、イレギュラー……?」

 

「そうとも言い切れないと思います。

提督はこの鎮守府では一切問題行動は起こしていませんから」

 

「そこだ、厄介なのは。いわば、奴は現実世界におけるイレギュラー。

大人しくしているのは、ここが都合のいい潜伏先だからだろう……

なんら問題のないプレーヤーを追い出すことは、

提督権限以前にゲームのシステムとして不可能だ」

 

「現状、様子見するしかないということですね……」

 

「そうだね。電ちゃん、秘書艦から外して正解だった」

 

「皆、気をつけてくれ。奴は狂っているが恐ろしく狡猾で頭が回る。

いつどんな行動に出てもおかしくない。

私も秘書艦、いや、監視役の重巡をなるべく早く選定する」

 

「はい!」「わかったわ」

 

 

 

 

 

浅倉が執務室に戻ると、彼の耳に鈴の音のような反響音が響いた。

周りを見回すと、闇夜で鏡となったガラス窓から神崎士郎が見つめている。

 

「新しいミラーワールドはどうだ」

 

「悪くない。今日も一人殺した」

 

「その調子で戦いを続けていろ。じき、他のライダーと激突する時が来るだろう」

 

「そりゃ楽しみだ。それはそうと、なんでここは10分経っても身体が消えない」

 

「そのミラーワールドを構成するデータは、現実と虚構の境に存在しているからだ。

手に触れることはできない、しかし、確かに目の前に存在する。

俺がミラーワールドをその世界に移したのは、時間の制約を取り払い、

ライダーバトルを押し進めるためだ」

 

「よくわからんが、とにかく好きに殺し合いができるようになったのは便利だ」

 

「なによりだ。お前達はライダーとしての使命を果たし、戦え」

 

そして神崎は姿を消した。

 

「消えた、か。とっとと俺も寝るとするか……おい、ベッドはどこだ?おいー」

 

浅倉の腹の中にふつふつと苛立ちが募る。ベッドがなかったからではない。

彼は野宿生活に慣れている。ただ、このちぐはぐな状況にイラついたのだ。

 

「机はあってもベッドはなし、と……ふざけんなぁ!!」

 

頭が真っ白になった浅倉は、そばにあった背の低いテーブルを思い切り蹴飛ばした。

 

 

 

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