【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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エピローグ SEAL or CONTACT

Epilogue No.001

>株式会社OREジャーナル東京本社 CEO大久保大介

 

 

──2013年 東京ビッグサイト 大ステージ

 

 

大勢の拍手に迎えられ、大久保は巨大なスクリーンが掲げられたステージに上がった。

さすがに中年に差し掛かった彼の顔にはしわが増えたが、

その目には今だ少年のような輝きが灯っている。

堅苦しいスーツではなく、ラフなセーターにジーンズ姿。

彼がステージ中央に立つと同時に、眩いばかりのフラッシュが焚かれる。

 

「Hello everyone!(ここから同時通訳)本日は我が社の新サービス、

ORE-Networkの発表会にお集まりいただき、誠にありがとうございます」

 

そこでまたフラッシュの嵐。

 

「まぁ、堅苦しい挨拶は抜きにして、まずはさっそく、我が社の新商品、

最新型スマートフォンOR-21シリーズをご覧いただきましょう。どうぞ!」

 

ステージ中央に備えられたテーブルに掛けられていたベールが取り払われる。

そこには洗練されたデザインのスマートフォンが、

プラスチックの台に立てかけられていた。スクリーンにボディが大写しになる。

おぉー!という歓声と共に、またフラッシュが。

 

「スペックはHDD1TB, バッテリー容量4000mAh,内蔵メモリ64GB,

もちろん全世界で使用可能。その他の防水、おサイフケータイ、生体認証については……

言うまでもありませんね」

 

“うおおお!すげえ欲しい!”

“発売予定日はいつなんでしょうか!?”

“そのデザインはグレープ社を意識してのものなんでしょうか!!”

 

「まままま、落ち着いてください。

確かに、ライバル社を意識していないと言えば嘘になりますが……

我が社のウリは単なるスペックだけではありません。

御存知の通り、我が社は十数年前までは、フィーチャーフォン向け

月額制ニュース配信サービスで細々と利益を上げる零細企業でした。

 

しかし!その時には遠からずこの経営手法では立ち行かなると感じていました。

そう、もはや皆さんおなじみのメールマガジン、ネットニュースの類です。

今、これで料金を取っている企業がどれだけ存在するでしょうか。

よほど専門性の高い分野か、大規模のマスコミが運営する

ゴシップ記事くらいのものでしょう」

 

“それらとの差別化はどう図るおつもりなんですか!”

“もったいぶらずに教えて下さいよー!”

 

「ずばり、接続料金!通話は月額980円の基本料金のみで使い放題、

データ通信込みなら1480円で使い放題!

もちろん、ご契約頂いた方は、通常税込み月額280円のWeb版OREジャーナルが読み放題!

優秀なジャーナリストが国内はもちろん、世界情勢をリアルタイムでお届けします」

 

“ブクモと白犬死んだな”

“俺、2年縛り始まったばっかなんだけど……”

“でもーそれってデータ品質はどうなんですか?

安いのはいいけど、ブチブチ切れるんじゃ困るんですけど”

 

「いい質問が出ましたね。ご安心ください。通話、データ通信、共に品質は万全です。

スタンフォード大学お墨付きのベンチャー企業、ロータリング・クェーサー社と提携し、

独自の通信衛星の機能を間借りする事により、

格安、しかも確実な通話品質を確保することに成功しました。

また、それだけはありません。先程述べた完全定額制を可能にしたのが、

我が社が誇るチーフ・エンジニア、島田奈々子をリーダーとした開発チームが発明した

通信プロトコル、『Marilyn』です。

これにより、従来の100分の1の負荷でデータ転送が可能になりました。

これは既に国際特許取得済みです」

 

大久保がスクリーンに向かって手を上げると、Skypeのライブ動画が映し出される。

そこには髪をいくつもカラフルな紐で結った女性とイグアナが。

 

《ほら、マリリ~ン。みんな見てるよ。バイバ~イって》

 

会場からどっと笑い声が上がる。彼女の後ろの開発チームも苦笑いを浮かべている。

 

「ま、まぁ、ご覧の通り彼女は少々個性的でして。

だからこそ独創的な発明ができたんでしょうね」

 

その後も、質問とフラッシュは止むことなく、

テクノロジーとエンターテイメントの発信基地で、

OREジャーナルは注目の的でありつづけた。

 

 

 

Epilogue No.002

>元仮面ライダーナイト・秋山蓮

 

 

──2005年 都内某所

 

 

【モーターショップ DARK WING】

 

そんな看板が掲げられたバイクショップで、作業着姿の蓮は、

客から預かったバイクの修理に精を出していた。

 

「恵里、そこの左から2番目のレンチを取ってくれ」

 

「は~い」

 

エプロン姿の女性は、壁に掛けられたいくつものレンチから指定のものを取って、

蓮に手渡した。そのお腹は少し膨らんでいる。

 

「助かる」

 

 

……

………

 

 

2002年。全てが終わり、皆がそれぞれの道を歩みだした後、

蓮は恵理が入院している病院へ向かった。

彼女が眠っている病室へ、真っ白な階段を一歩一歩上っていく。

そして、恵理の病室に入ると、相変わらず心電図は規則正しい信号を発しており、

恵理も安らかな寝顔で眠っていた。

蓮は、テーブルに置かれた立て鏡の前に立ち、

黒革のコートから1枚のカードを取り出した。

あの日、恵理が事故に巻き込まれ、神崎からナイトのデッキを受け取った日を思い出す。

そして、カードを鏡にかざした。

 

『TIME VENT』

 

鏡が割れ、カードの力が発動し、燃え尽きた。

時計台の大きな鐘の音が鳴り響き、蓮を取り巻く空間が時の逆走を始める。

猛スピードで巻き戻される人、空、車、鳥。あらゆる事象が時の流れに逆らう。

その異常過ぎる現象に脳の理解が追いつかず、蓮は思わず目を閉じ頭を抱える。

そして、脳の混乱が収まり、ゆっくり目を開けると、そこは清明院大学の前だった。

そこで蓮は、戦い、傷つきながらも追い求め続けてきた存在を見る。

 

 

「蓮、今日は……早く迎えに来てね」

 

 

恵理が振り返り、キャンパスに向かおうとすると、

無意識に手が伸び、彼女の腕を引っ張っていた。

 

「キャッ!どうしたの、蓮?」

 

どうする、なんと言えばいい。未来から助けに来た?馬鹿か俺は。俺は……

 

「行くな、恵理!」

 

「え、どういうこと?今送ってくれたばかりじゃない」

 

「今日は、今日だけでいい!ずっと俺と一緒にいろ!」

 

「なあに?蓮、なんだか変だよ?」

 

「頼む!何も聞かずに今日だけはそばにいてくれ!」

 

蓮は脇に停めてあった愛車のシャドウスラッシャーからヘルメットを取り、

恵理に投げてよこした。そして自分もヘルメットを被り、漆黒の大型バイクにまたがる。

 

「ふふ。本当に蓮ってば変な人なんだから。私はずっと一緒だよ。どこに行くの?」

 

「どこでもいい。……いや、せっかくだから遠くに行こう」

 

「わかった。じゃあ、今日だけサボっちゃおうっと」

 

そして、恵理も蓮の後ろに乗り、腰に手を回した。

蓮はエンジンをかけると、清明院大学を後にし、街を抜け、

海沿いの開けた道に出て、走り続けた。

30分ほど走り、蓮も恵理も少し疲れたので、休憩を取る。

砂浜に面した道路脇にシャドウスラッシャーを停め、蓮は自販機で缶コーヒー、

恵理はミルクティーを買って飲んだ。目の前に広がる大海原。

どうしても“あの世界”を思い出す。そんな物思いに耽る蓮に恵理が気づく。

 

「考え事?」

 

「……ああ。海の向こうにいる、友人を思い出した」

 

「へえ。蓮って友達はいらないって言ってたのに、意外」

 

「まぁ、気がついたらそうなってただけの話だ」

 

「でもよかった。蓮にもそういう人がいて。私も嬉しい」

 

蓮はまた一口缶コーヒーを飲んで一息ついた。

その後も一日恵理と過ごし、日付が過ぎた頃、蓮は携帯で恵理に電話をかけた。

手に汗が滲む。コール音が4回、そして、電話が繋がった。

 

“蓮?どうしたの、こんな時間に”

 

成功した。

時間逆行で恵理が事故に巻き込まれる日をやり過ごし、命を救うことができたのだ。

目頭が熱くなる。

 

「……いや、なんでもない。声が聞きたかっただけだ」

 

“本当に変なの。やけに素直なんだから”

 

「ああ、変だな。本当に変だ……」

 

戦いの果てにようやく手にした願いに蓮は涙をこぼした。

後日、恵理に聞いてみたら、彼女が所属していた401号室は蓮に連れられた日以降、

もぬけの殻となり、誰に聞いても何も答えてくれなかったという。

 

 

………

……

 

 

 

ふと昔の話を思い出していた。その時、黄色いパーカー姿の客が店に入ってきた。

恵里が応対に出る。

 

「こんちゃ~修理頼んでた横尾だけど」

 

「いらっしゃいませ~」

 

そして、隣のガレージで蓮が修理しているバイクを見て歓声を上げた。

 

「うひょ~マジすげえ!新品同様じゃん!すげえよ、本当すげえよ!

どこ行っても“無理”だの“へこみが残る”だの言われて諦めてたんだけど、

口コミって馬鹿にできねえな!」

 

「今、修理が終わったとこです。もう乗れますよ。代金は店の方で」

 

「オッケー、サンキュー!あ、カード使える?」

 

「大丈夫ですよ~、こちらへどうぞ」

 

「やった助かったぜ俺の相棒!」

 

喜ぶパーカーの男の後ろ姿を見て、笑みを浮かべる蓮。

かつての一匹狼は、この小さな店で伴侶と共に、慎ましくも幸せな生活を送っていた。

客を見送り、作業に戻ろうとした時、

 

「すいませーん」

 

セミロングを茶髪にして、ブルーのジャケットを着た青年が、

ズーマーを押してガレージに入ってきた。その姿に驚くが、表情に出さないよう努め、

 

「……いらっしゃいませ」

 

「あの、俺のバイク急に壊れちゃって。修理お願いできます?」

 

「こりゃ酷い。ざっと見積もって20万はかかる」

 

「に、にじゅう!ってボリすぎでしょ!」

 

「……失礼、冗談です」

 

「あー、びっくりした。勘弁してくださいよ……」

 

思わず、存在しないはずの友人をからかってしまった。

今度は真面目に車体のカバーを開き、点検する。

 

「プラグが壊れてますね。交換すれば工賃込みの3000円くらいで直ります」

 

「じゃあ、お願いします。俺、ちょっと急がなきゃなんで!」

 

青年は名前も告げず、どこかへ走っていってしまった。

 

「困ったわね。今のお客さん、名前がわからないと……」

 

「いや、いい」

 

「え?」

 

「わかってるから、いいんだ……」

 

「そう?ならいいけど」

 

蓮は、さっそく友人であって友人でない青年のバイクの修理に取り掛かった。

 

 

 

Epilogue No.003

>元仮面ライダーシザース 須藤雅史

 

 

「……お世話になりました」

 

「もう戻ってくるなよ!」

 

服役を終え、刑務官に一礼した須藤は、コートを羽織り、刑務所を後にした。

 

全くツイていません。

浅倉と組んだばかりに、やってもいない殺人まで共犯にされてしまいました。

私が殺したのはたった一人だというのに、一体どれだけ暴れたというんでしょうねえ。

おかげで懲役10年。これから社会復帰に向けてやることが山積みです。

まずは住居を確保して職探し……やめときましょう。

これから嫌でも苦労の連続になるんですから、

焦って先の苦労まで心配しても疲れるだけです。ああ、それにしても冬の風が冷たい。

とりあえず、熱いコーヒーが飲みたいですね。

 

須藤は、適当な喫茶店に入っていった。

そして、暖房の効いた店内に入り、自由を得た喜びと、その代償を噛み締めた。

 

 

 

Epilogue No.004

>元仮面ライダーゾルダ 北岡秀一

 

 

夕暮れ時。北岡は夕陽が差し込む病室のベッドで横になっていた。

頬はこけ、顔色は酷く悪い。吾郎がそばについているが、その表情は暗い。

神崎から受け取った命が尽きようとしていたのだ。

心電図が発する音の間隔が入院時より長くなっている。

北岡は一切の延命処置を断り、ただ静かに最期を迎えようとしていた。

 

「吾郎ちゃん、この10年、本当楽しかったよね」

 

「先生……」

 

「急に、ビール、飲みたくなって、パスポートだけ持って、ドイツに行ったり」

 

「楽しかったです……」

 

「夜に腹が減って、ポルシェで札幌まで、ラーメン食いに行ったり」

 

「……はい」

 

思い出に浸る北岡。その呼吸に力はなく、別れが近いことを悟る吾郎だが、

 

「先生、もう少しだけ頑張ってみませんか?

10年前とは医学も違いますし、ひょっとしたら……!」

 

北岡は彼を手で押しとどめた。

 

「ああ、いいよいいよ。治療って言っても体中、管だらけにされて、

心臓動かすだけでしょ。そんな楽しくないこと、御免被るよ」

 

「でも……」

 

「それよりさ、大事な話。

吾郎ちゃん、大事な20代、俺なんかのために使わせちゃって、悪かったね。

退職金、たくさん出しといたから、今度は、吾郎ちゃんが、

贅沢な人生楽しまなきゃ、だめだよ?」

 

「駄目です!まだ諦めないでください!俺は……俺はまだ何も恩返しできてません!」

 

「はは……もう、十分満足だよ。そろそろ、飛鷹のところに、行こうかな」

 

「先生!」

 

吾郎が北岡の手を握る。北岡も握り返そうとしたが、もうその手に力が入らなかった。

首を動かして窓を見る。空は夕焼けで朱に染まっていた。

 

「それにしても、今日は、天気が悪いね。吾郎ちゃんの顔が……見えないよ」

 

彼の手から力が抜け、脈が止まった。

心電図が止まり、鼓動を示すグラフはもう波形を描くことはなかった。

 

「先生?……先生、先生!!」

 

吾郎の叫びが北岡の個室に響く。

その声を聞きつけた医師や看護師が処置に当たったが、

彼が再び目を覚ますことはなかった。享年40歳の若さだった。

 

 

──17:23 北岡秀一 永眠

 

 

 

Epilogue No.005

>元仮面ライダー王蛇 浅倉威

 

 

小さな窓しかない薄暗い独房に、鋭い光を放つ眼が二つ。

 

ただ、意味のない時が流れている。

あれは全て夢だったのだろうか、そんなことを考える。

なぜ、10年も刑の執行が遅れているのか、俺にはわからない。

だが、それはどうでもいい。もっとわからないのは……

 

狭い独房の中で、浅倉は朝食の乗ったスレンレスのトレーをひっくり返し、

壁に立てかけた。そこに映るのはかつての相棒。

 

なぜ、あの時“こいつ”が俺に付いてきて、なおかつ10年も待ったのかということだ。

今も細い舌を出しながら俺を見ている。

ミラーワールドに入れなくなったせいで、こいつはいろんな鏡の表面を移動しながら

待ち続けたらしい。ご苦労なことだ。

 

その時、3人の足音が聞こえてきた。

 

「それじゃあ、本日は……あれなんで、よろしくお願いします。

特例として、抵抗著しい場合は、スタンガン、拘束衣の使用も許可されていますので」

「はい」

「了解しました」

 

コツ、コツ、コツ、と足音がバラバラに近づいてくる。

足音が浅倉の部屋の前で止まった。ゴンゴンとドアを叩く音が独房に響く。

 

「……浅倉威、君の刑の執行が決まった。支度をしなさい」

 

ゴンゴン。また刑務官はドアを叩く。

 

 

“返事をしなさい!具合でも悪いのか”

 

浅倉はベノスネーカーを見つめ、呟いた。

 

「……食え、最後のエサだ」

 

そして、トレーの中から紫の大蛇が飛び出し──

 

 

「開けるぞ、浅倉。……!?これは!」

 

鍵を開けてドアを開くと、独房の中は血に染まっていた。驚愕する3人の刑務官。

 

「これは!一体どういうことだ!」

「どうしましょう、看守長!」

「……上に、報告するしかあるまい」

 

慌てる人間達を横目に、ベノスネーカーはトレーの表面の中で徐々に消滅していった。

そして、それきり現実世界にミラーモンスターが現れることは二度となかった。

 

 

 

Epilogue No.006

>元仮面ライダーファム 霧島美穂

 

 

夜。明かりも点けずに美浦はテレビのニュースに見入っていた。姉の遺影を抱きしめて。

 

“2000年頃から2002年にかけて十数名を殺害し、死刑判決を受けた浅倉威被告の死刑が、

本日執行されました。浅倉被告は複数回に渡り脱獄を繰り返し……”

 

ポタ、ポタ、

 

遺影に涙が落ちる。美穂は姉の顔を優しくなでた。

 

「お姉ちゃん……浅倉が死んだよ?これで、これでよかったんだよね……」

 

なおもニュースは詳細を語る。

 

“……当時、浅倉被告は取り調べに対し、「契約モンスターに殺させた」等と

意味不明な供述をしていたため、責任能力の有無が問われていましたが、

精神鑑定の結果、責任能力は認められると判断され、死刑判決が言い渡されました”

 

「浅倉は死んで、私は生きてる。勝ったよ、私は勝ったんだよ。

見守っててくれて、ありがとうね……」

 

美浦は知る由もなかったが、浅倉の死刑は彼自身の行方がわからなくなったことと、

血痕のDNAが浅倉のものと一致したこともあり、

自殺とも事件とも断定できない状況に困り果てた法務大臣の判断で、

滞りなく執行されたものとして極秘裏に処理されていた。

 

「明日、また会いに行くね。お姉ちゃん……」

 

しかし、彼女が自身の運命に打ち勝ったこともまた、揺るぎない事実だった。

 

 

 

Epilogue No.007

>元仮面ライダーガイ 芝浦淳

 

 

「おい、芝浦!この決済表間違えてるぞ!」

 

「すみません!すぐ直します!」

 

「芝浦~先週頼んだ見積もりまだ出来てないのか?」

 

「もうすぐ、もうすぐです!今日中に提出します!」

 

芝浦淳は、ヒラのサラリーマンとして忙しい毎日を送っていた。

 

くっそお……

リーマンショックとかのせいで親父の会社が潰れなきゃ、今頃俺が上司だったのに!

 

二十代半ばまでは父親の会社で、悪くない地位で楽をしていた彼だが、

2007年のサブプライムローン問題をきっかけに発生したリーマンショックで、

会社は倒産。同期に遅れて就職活動を余儀なくされた。

そして、どうにか中途入社した会社で、いつも先輩や上司にこき使われている彼だが、

休憩室で1本缶コーヒーを飲み、ぐるぐる肩を回してリラックスすると、

さっさと気持ちをリセットして仕事に集中できる身体になっていた。

 

まぁ、一日中使いもしない穴を掘らされてた時よりはマシだからね。

 

 

 

Epilogue No.008

>元オルタナティブ・ゼロ 香川英行

 

 

──2012年 私立高校通学路

 

 

 

まだ桜の残る小道を、ブルーの制服を着た生徒達に混じって歩く香川。

 

さて、私はこの春からこちらの高校に赴任することになりました。

10年前にコアミラーを破壊し、ミラーワールドを閉じた時、

くだらない出世競争しか残らない大学には興味を失いました。

一教師として、もう一度やり直したいと打ち明けたら、典子もわかってくれました。

 

二度と“彼ら”のような生徒を生み出さないよう尽くすことが、

今の私に課せられた英雄的行為である信じています。

……おや?橋の上で2人の男子生徒が言い争っていますね。ケンカでしょうか。

少し様子を見てみましょう。

 

「おい、人からもらった手紙はちゃんと読め!相手の思いをきちんと受け止めろ!

断るんなら読んでから断れ!それが礼儀ってもんだ」

 

一人はうちの生徒のようですが……一人は見ない制服の男子ですね。

おやおや、見覚えのない彼が川に飛び降りて手紙らしきものを拾いましたよ。

無茶をしますねぇ。

 

「馬鹿の極みだな」

 

もう一人の彼は行ってしまいました。さて、そろそろ話を聞きましょう。

 

「痛ってぇ~おい待て!まだ手紙が……」

 

「こらこら待ちなさい。君はうちの生徒なんですか?

他校の制服を来ているようですが、何か、トラブルでも?」

 

「あ、おはよっす!俺、今度この学校に転校してきました。

この学校の連中全員と友達になる男っす!」

 

まったく、妙ちきりんな格好で何を言っているのか。

なんと言ったでしょうか、私が若い頃に流行った髪型に、短い黒の学生服。

俗に言う“不良”を連想させます。これはいけませんね。

 

「友達になるのは結構ですが、それにはまず身なりをきちんとなさい。

いくら自由な校風の我が校と言えど、その頭はやり過ぎです。

制服も転校したばかりで仕方ないにしろ、

せめて落ち着いた色のシャツを着てくるように。服装の乱れは心の乱れ。

今のままでは良い生徒にはなれませんよ?バッド・ボーイ……」

 

「あーいや、このリーゼントだけは俺の命で……

いっけねえ!急がないと遅刻だ!じゃあ先生、失礼しまっす!」

 

わざとらしく急ぎながら行ってしまいました。やれやれ。

どうして私が出会う生徒は問題児ばかりが多いのでしょう。

……はて?私、今変な事を口走ったような気がしたのですが、何だったんでしょうか。

まぁ、そんなことより私も早く登校しなければ。今日の授業に間に合いません。

 

そして香川は大きな私立学校の門をくぐっていった。それぞれの夢を抱く生徒達と共に。

 

 

 

Epilogue No.009

>元仮面ライダータイガ 東條悟

 

 

──都内某教会

 

 

“いつくしみ深き 友なるイェスは 罪(とが)憂いを 取り去りたもう……”

 

 

説教台の後ろに色とりどりのステンドグラスが張られ、

十字架に架けられたイエス・キリストの像が祀られている小さな教会に、

賛美歌の歌声が響く。

 

“アーメン……”

 

歌が終わると、信者達が着席し、ステージ脇で進行役の男が、

マイクでミサの次のプログラムを告げる。

 

「続きまして、本日の説教をお聞きいただきたいと思います。

東條悟神父による、“赦す心”です。東條神父は清明院大学を卒業後、

同大学院在籍中、主の深い愛に触れ、キリスト教に入信。

神明大学神学部に入学され、6年間の勉学で主の教えを学び、

教え伝えるための知識を習得されました。それでは東條神父、よろしくお願い致します。

皆様、どうぞ拍手でお迎えください」

 

そして、マフラーを巻いた東條が、拍手を送られながら木製の小さな階段を上がり、

説教台に着いた。そして、長椅子に座る信者たちに向かって語りかけた。

 

「敬虔なる信者の皆さん、おはようございます。

まだ神学部を卒業して間もない若輩者ですが、

本日はルカによる福音書6章37節について、僕の見解を申し述べたいと思います。

お手元の聖書の該当ページをご覧ください」

 

静かな講堂に、信者達がパラパラと聖書をめくる音が響く。

 

「……よろしいでしょうか。イエス様はこうおっしゃっています。

 

“人を裁くな。そうすれば、あなたがたも裁かれることがない。人を罪人だと決めるな。

そうすれば、あなたがたも罪人だと決められることがない。

赦しなさい。そうすれば、あなたがたも赦される”。

このお言葉が何を意味しているのかを一緒に考えていきましょう。

 

人を裁くな。初めから難しい試練が出てきましたね。

罪を犯した者を裁かなくてどうするのか、という疑問を抱くのが当然でしょう。

別の章からの引用になってしまいますが、イエス様のお言葉に、

兄弟の目におが屑が入っているのが見えるのに、

何故自分の目に丸太が入っているのに気づかないのか、とあります。

 

つまり、貴方が他人の罪を糾弾するなら、

貴方はもっと大きな罪を犯しているではないかという謗りは免れない、ということです。

他人の罪を裁こうとするものは、自分はもっと大きな罪で裁かれる。

人を罪人と決めるなら、自らも罪人として決められてしまう。

だから、裁くな、罪人だと決めるなとおっしゃられているわけです。

 

さて、最後の“赦しなさい”という教えについて触れたいと思います。

裁くな、罪人と決めるなというお言葉は、

罪犯した者に何もするなという意味ではありません。

目の中のおが屑は、取り除く、あるいは誰かが取り除く必要があります。

つまり赦すということ。

 

ここから、やや個人的な話になりますが、

僕もかつて、自分の目に丸太を抱えていながら、他人の目のおが屑を許せず、

傷つけてしまったことがあります。

しかし、そんな罪深い私を赦し、丸太すら取り払ってくれた存在がいました。

それは、紛れもない、僕の仲間、隣人でありました。

 

過ちに気づき、目の丸太が取り除かれた僕は、

その隣人にイエス様の姿を見た気がしました。

今、その目におが屑を持つ方がいるなら申し上げたい。

あなた方の兄弟、隣人、身近な誰かにきっとイエス様はいらっしゃいます。

必ず主は貴方のおが屑を取り去ってくださるでしょう。

そして、貴方もまた、兄弟のおが屑を取り除くことができるのです。

それが、赦し赦されよということなのです」

 

語り終えた東條は、両腕を天に掲げて祈りの言葉を捧げた。

 

「主よ。どうか我々の罪を赦し、また赦す者になれるようお救いください。

ともに歩むべき隣人を遣わしてくださったことに感謝いたします。

主の御名によりて、アーメン」

 

そして信者たちも「アーメン」と続いた。そして東條は一礼すると、壇上から下りた。

席に着くと、進行役が次のプログラムを読み上げた。東條は考える。

いつか、小さくてもいいから、自分の教会を建てたい。

一人でも多くの人に主の教えを広めるために。

彼の新たな英雄的行為は始まったばかりだった。

 

 

 

Epilogue No.010

>元仮面ライダーベルデ 高見沢逸郎

 

 

──高見沢グループ本社 大ホール

 

 

大企業、高見沢グループの株主総会は、今年も荒れに荒れていた。

高見沢グループもリーマンショックの煽りを受け、4年連続赤字。株価は暴落。

長く無配当が続いている株主達の怒りが爆発していた。

冒頭で高見沢逸郎を始めとした社の重役らが頭を下げた。

 

「今期も皆様にご納得いただける業績を上げることができなかったことは、

誠に申し訳なく……」

 

トップの高見沢もずっと頭を下げているが、株主からの怒号が飛び交う。

 

“我々の株どうしてくれるんですか!もうどこにも売れませんよ!”

“あんたらのやり方が古いからいつまで経っても赤字なんですよ!”

“金返さんかいコラ!”

 

[株主の皆様、発言の際は手を挙げてマイクをお取りになってからお願い致します]

 

進行役の注意も虚しく、株主の罵倒は収まる気配を見せない。

そんな彼らに心中毒づく高見沢。

 

クズ、クズ、クズが!何が“投資家”だ。

ろくに働きもせず半ばギャンブルで食ってるようなブタ共が!!

てめえらが俺に意見するなんざ百年早いんだよ!

 

“第三者委員会による責任の追求を求めます!”

“経営陣を外部のもんと交代しろー!”

“社長は経営責任を取れ!”

 

「現在弊社が置かれている状況については我々も不本意であります。

この責任はわたくしにありますが、辞任ではなく、

全身全霊で業績回復を成すことで取りたいと考え……」

 

“ふざけんなー!”

“会社潰すまで居座る気だろう!”

 

高見沢がどのように弁解しても彼らの怒りはとどまるところを知らない。

株主提案による役員の総入れ替えをどうにか否決し、

その日の株主総会は予定を2時間もオーバーしてなんとか終了した。

 

 

 

ガァン!

 

社長室に戻った高見沢はゴミ箱を思い切り蹴飛ばした。

 

「恩知らずのハゲ、ブタ、ババア共が図に乗りやがって!長年儲けさせてやったのに、

ちょっとエサが減ったくらいでギャアギャア喚きやがって、クソが!!」

 

そして今度は高級木材のテーブルを蹴り上げた。とにかく物に当たり散らしていると、

社長室のドアが開いた。なんだ?ここは俺が内側からボタンを押さないと開かないはず。

すると、髪を固め、眼鏡をかけた知性的な男を先頭に、

重役たちがぞろぞろと入ってきた。

 

「なんだ、なんだお前らおい。ここは俺の部屋だぞ」

 

「正確には、“だった”です。申し遅れました。

わたくし、経営コンサルタントの菊池と申します。

先程、緊急役員会議で代表取締役社長の解任が決定しました」

 

菊池と名乗る眼鏡の男が告げた。突然のことに高見沢はパニックになる。

 

「ふ、ふざけんじゃねえぞコラ!ここは、俺の会社だ!

誰に断って偉そうな口聞いてんだ!ってことは何か?

後ろの連中も俺に楯突こうってのか。……いい度胸してんなおい」

 

重役たちに詰め寄ろうとした高見沢に、菊池が立ちはだかった。

バインダーに留められた書類をめくりながら彼を諭す。

 

「高見沢さん。社長でも首になることはあるんですよ。

株主の指摘を受けて過去の貴方の経営方針を精査しました。

確かに設立当初は無駄を切り詰め、成長が見込める事業には大胆に投資し、

一気に業績を伸ばして来られたようですが……

会社の資金が余り出すと気が緩んだのでしょうか。典型的なワンマン経営で

役員からの警告を無視し、博打に近い事業に大金をつぎ込み、会社を傾かせた」

 

「てめえみたいな青二才に何がわかる!高見沢グループは、俺のもんだ!」

 

「岡目八目と申します。

傍から見れば、貴方のしてきたことは放漫経営としか言いようがない」

 

「出てけ、知ったかぶりのクソガキが!」

 

「出ていくのは貴方です。これ以上食い下がるなら、

10年前の使途不明金について金融庁にご説明いただくことになりますが?

それに……同時期に貴方1ヶ月ほど行方をくらましていますね。

一体何があったんでしょうか」

 

「ぐっ……」

 

言葉に詰まる高見沢。使途不明金は、艦これ世界へ侵略を図った時、

裏組織を通じて大量に兵器を購入した際、某国に支払った金だ。100億は下らない。

それにゲームの世界で牢屋に入れられていたなど言えるわけがない。

 

「まぁ、金の方は大体調べがついてます。我々としてもあの金について表沙汰にして、

社のイメージを落とすことは避けたい。貴方もお縄になりたくはないでしょう。

はっきり言います。……高見沢さん、辞めてください。

デスクの物には一切触れずに会社から出ていってください。

私物は後日宅配便でお送りします」

 

「畜生……!!」

 

 

 

そして、高見沢は鞄ひとつを持って大きな本社ビルを後にした。

エントランスを出てしばらく歩き、振り返る。

 

「俺の、俺の会社なんだ……」

 

彼はぶつぶつ呟きながら、冬の北風が厳しいビジネス街へ消えていった。

 

 

 

Epilogue No.011

>元仮面ライダーライア 手塚海之

 

 

手塚は自宅でパソコンに向かい、執筆活動に余念がなかった。

来月出版予定の、占いに関する書籍の締め切りが迫っている。

彼は現実世界に戻ってからは、雑誌の片隅の星占いのコーナーに記事を書いたり、

今まで通り商店街の隅で小さな占い屋をして生計を立てていたが、

そのあまりの的中率が噂を呼び、大手出版社から占い本の執筆を持ちかけられたのだ。

 

「んっ……ああ」

 

彼はひとつ伸びをして、コーヒーを一口飲んだ。

ただ、本の出版は思った以上の重労働で、記事を書いてハイ終わり、ではなく、

校正を経て担当者と表紙やレイアウトなどについて、

何度も打ち合わせを経てようやく出来上がる。

 

しかも、手塚が引き受けたのは“12星座の導き!人生の傍らに…”という企画。

つまり12冊分書く必要があるのだ。まえがきや星占いの基本的知識等、

流用できる部分もあるにはあるが、それでもとんでもない文章量になることには

変わりない。疲れた目頭を抑える。あと4星座分。

 

引き受けたからにはやり遂げなくては。彼は再びパソコンに向かう。

すると、Wordファイルの下敷きになっていた、

資料検索用のブラウザの隅にバナー広告が掲載されていた。

懐かしい文字に思わずページを開く。『艦隊これくしょん』がサービスを開始したのだ。

 

艦娘達のそばに“今すぐ出撃!”というボタンが浮かんでいる。

手塚はボタンをクリック……しなかった。

確かにログインしてゲームを進めれば、また彼女の声が聞けるのかもしれない。

でも、あの日彼女にこう言った。別れは新たな旅立ちでもある、と。

別れの日に、自分と漣は新たな人生に向かって歩みだしたのだ。

今更後ろを振り返ることはしたくない。

きっと彼女は新たな提督の元で新たな人生を送るはず。

手塚はそう信じてブラウザを閉じた。

 

「さあ、もう一頑張りだ」

 

そして気分を入れ替え、また原稿の執筆作業に戻った。

この星座の人は、あの星座の人との結婚には向いていないが、

気分を害することなくそれを伝えるにはどう表現すればいいのだろう。

などと頭を悩ませながら少しずつ原稿を書き進めて行った。

 

 

 

一ヶ月後。無事出版にこぎつけた手塚の本は、その的確なアドバイスが話題となり、

書店に平積みされるなり売り切れ、を繰り返し、ベストセラーとなった。

あとがきで彼はこう述べている。

“この本に不本意な結果が書かれていたとしても落ち込まないでほしい。

運命は変えるためにあるのだから。人であろうとそうでなくても”

 

 

 

Epilogue No.012

>元仮面ライダーインペラー 佐野満

 

 

「ただいま」

 

「パパお帰り!」

 

会社から帰宅した佐野に一人息子が駆け寄ってきた。

彼は息子を抱えてリビングに入った。

 

「あなた。お帰りなさい」

 

「ただいま友里恵!」

 

3LDKのごく普通のマンション。佐野はもう社長ではなく、一介のサラリーマンだった。

息子を床に下ろすと、自分の部屋に着替えに行った。

 

 

 

……

………

 

 

──2008年 佐野商事本社 大会議室

 

 

リーマンショックの余波は、佐野の企業にまで及んでいた。

しかし、今議題に上がっているのは世界的金融危機への対応策ではなく、

社長である佐野に対する経営責任の追求だった。

楕円形の大きな会議机の一番奥に佐野が座り、重役達が円を描く様に座っている。

 

「私は再三申し上げましたよ!この非常時にあの企業への融資は無謀だと!」

 

小太りの男が自分に非はないことを強調する。

 

「そうですとも。過剰とも言える融資を我々は全力で止めたのです。

しかし社長命令とあっては……」

 

レンズの大きな眼鏡を掛けた男は危機的状況に対して特に何もしてこなかったのだが、

しなかったことを証明することもできないので、一意見として聞き入れられた。

 

「聞くところによると、あの企業は貴方と親密な方の父君が経営しておられ、

やはりこの不況で経営難に陥っていたとか。

はっきり申し上げますと、私には社長が会社の資産を

個人的な付き合いに流用したとしか考えられません!」

 

痩せ型の男が発言した。彼も裁量の範囲内で知り合いの企業に貸付を行い、

見返りに金品を受け取っていたが、証拠隠滅の手口が巧妙で発覚していない。

 

佐野にそんな謀略を行う知恵はなく、

ただただ友里恵の父の会社を救うために融資を続けていた。

しかし、結局その献身は実らず、友里恵の実家は倒産してしまった。

彼は黙って皆の発言を聞いている。重役の一人が立ち上がって発言した。

 

「回収不能となった20億に上る負債!

この責任は、主導的立場にあった社長!貴方が取るべきです!」

 

「そうですとも!」

「社の立て直しのため、新たな代表取締役社長を速やかに選出しなければ!」

「社長、本件の責任はやはり貴方にあると考えます」

 

もはや会議が弾劾裁判の様相を呈してきた時、

 

 

「いいよ。俺、辞めるよ」

 

 

初めて佐野が口を開いた。贅沢な暮らし、一度掴んだ幸せらしきもの、

全てを捨てる覚悟を決めた。

結局、経営者の才に恵まれなかった佐野は、何年も重役たちに言われるがまま、

ただのお飾りとして社長の座についていたが、

友里恵の実家への投資と、この辞任表明だけは紛れもなく自分の意志で行った。

そこに後悔はなく、佐野は大きなソファ型の椅子から立ち上がると、

会議室から去っていった。

 

 

 

自らの足で父から受け継いだ会社を出ていった佐野は、無職となった。

しかし、何故か喪失感のようなものは微塵もなく、

今もこうしてオープンテラスでのんびりとコーヒーを飲んでいる。

 

「……またバイトでもしよっかな~」

 

彼がまた一口コーヒーを飲むと、

 

 

「佐野さん!」

 

 

彼を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと、そこには思いもよらない人が。

 

「友里恵さん!」

 

友里恵が佐野の元に走ってきた。佐野は驚いて席を立つ。

 

「どうしたんですか、一体!」

 

「どうしても、謝りたくて……」

 

「謝るって、何を……?」

 

「父のせいで、佐野さんの会社にご迷惑をかけたこと。本当に、ごめんなさい!」

 

そして友里恵は佐野に深く頭を下げた。

 

「そのことは……気にしないでください。それに、もう俺の会社じゃないし」

 

「それってやっぱり……」

 

「ああ、違います違います!俺、全然仕事できないからクビになっちゃった!

明日からプータロー生活ですよ、アハハ!」

 

佐野は今の状況を明るく笑い飛ばす。そんな彼を見た友里恵が彼に告げる。

 

「あの!……もしよかったら、私と、一緒に暮らしませんか?」

 

「えっ!?」

 

「だめ、ですか……?」

 

「いえ、そうじゃなくて!俺、もう社長じゃないし、

贅沢してたから貯金もほとんどないし、今のマンションだって固定資産税……」

 

バサッ……!

 

友里恵が佐野に抱きついた。突然のことに戸惑う佐野。

 

「何もないのは私も同じです。私には佐野さんが必要なんです。

佐野さんも、私を……必要としてくれませんか?」

 

 

………

……

 

 

 

クローゼットを開き、スーツをハンガーにかけ、

ネクタイを外してネクタイ吊りに引っ掛ける。

その時、古くなったスーツからケースのようなものが覗いていた。

 

「パパー、ママがご飯だって!」

 

息子が玩具を両手に部屋に駆け込んできた。

 

「うん、すぐ行くってママに伝えて。……懐かしいな」

 

「パパ、なにそれー?」

 

色を失ったインペラーのデッキを取り出して眺めていると、息子が興味を示した。

 

「パパは昔、仮面ライダーだったんだよ」

 

「え、本当!?」

 

佐野はカードデッキを左手に持ったまま、両手の親指と人差し指を立て、

両腕をまっすぐ交差。クローゼットの扉内側の鏡にかざした。

そして構えた両腕を一瞬体に近づけ元に戻し、交差した両腕を左右に開く。

 

「変身!」

 

右手の小指を立て、右手を回しながら

左手でデッキをベルトのバックルに差し込む仕草をした。

 

「……なーんてね」

 

案外忘れてないもんだな。

息子は複雑な変身ポーズをあっけにとられて見ていたが、

すぐ自分の玩具に興味を移した。

 

「変なのー!今の仮面ライダーは魔法使いなんだよ!」

 

バックルに手の形をした読取機が付いたベルトの玩具を腰に巻き、電源を入れた。

 

『シャバドゥビタッチヘンシーン!』

 

「ハハハ、最近の仮面ライダーは面白いな」

 

「ボウ、ボウ、ボウボウボーウ!!」

 

息子は、はしゃぎながらリビングに戻っていった。

そして佐野も着替えを終えると、息子の後に続いた。

食卓には妻と息子、暖かい食事が待っている。

贅沢ではないが、確かな形の幸せを、彼は今噛み締めている。

 

 

 

Epilogue No.013

>元仮面ライダーオーディン ?

 

 

──2002年 別れの時

 

 

「それが……お前に与えられる、最後の選択肢だ」

 

「……」

 

工廠の前で、神崎と優衣にオーディン、長門と明石が集まっていた。

真司は三日月を連れて神崎に歩み寄る。

 

 

二人が訪れる直前、次のような出来事があった。

 

 

「……神崎、今こそデッキを返そう」

 

「オーディン、よくやってくれた。よく今まで優衣を守ってくれた。

お前こそ、かつて俺達が夢見た仮面ライダーだ」

 

「感謝すべきは私だ。私に翼を授けてくれた恩は、生涯忘れることはない。

……では、さらばだ」

 

オーディンはバックルから壊れかけたデッキを抜く。変身が解除され、元の姿に戻る。

 

「……」

 

そして、何も言わずに両手でデッキを差し出した。

彼はゆっくりとした足取りで、神崎に背を向け、立ち去ろうとした。しかし、

 

「……待て!」

 

神崎が彼を呼び止める。

 

「お前にデッキを与えた俺には!お前の、お前の結末を見届ける義務がある!」

 

「……?」

 

「まだ行くな、そこで待っていろ!お前が散るべき時は今ではない!」

 

「……」

 

そして、神崎はデッキを持って工廠に駆け込んだ。

明石の短い悲鳴が聞こえたが、2、3やり取りがあった後、

精密な工具を扱うような音や小型コンソールのキーを叩く音が聞こえだした。

彼女の通報を受けた長門が工廠に向かおうとしたが、

途中見慣れない“彼”の姿を見て足を止めた。

 

「ん?貴方は一体……待て、まさか、お前がオーディンの正体だと言うのか!?」

 

彼は黙って頷いた。

 

「これが、ライダーシステムというものなのか……」

 

長門が驚いていると、神崎が明石に礼を言って工廠から出てきた。

いきなり乗り込んできた神崎に少し怯えたものの、

一体何を作ったのか気になった明石もついてきた。

 

「オーディン……」

 

「……?」

 

「お前のデッキを”ダウングレード”した。

このデッキで変身しても傷ついたアーマーは直らないし、カードも入っていない。

現実世界からミラーワールドに行くこともできない。

そして、ミラーワールドから現実世界に帰ることもできない。

この意味は、わかるな……?」

 

「!?」

 

「神崎、貴様もしかして彼を……?」

 

「頼む。彼に選択肢を与えてやってくれ」

 

長門は腕を組んで考える。ライダーを残していくのはどうなのだろう。

しかし、もう戦えないデッキしか持っていないし、

まさか装着者が彼のような人物だったとは……

 

「いいだろう。

彼もお前と同じ、共謀してライダーバトルを作り上げた罪でここに留める。

……本人が望むならの話だが」

 

「本当に感謝する。……オーディン」

 

「?」

 

「そのデッキは持っているだけで効果がある。

念のため動作確認をしたい。変身してくれ」

 

彼は震える手で近くのアルミ板にデッキをかざし、形ばかりのオーディンに変身した。

 

「それが……お前に与えられる、最後の選択肢だ」

 

……その直後、真司達が現れ、優衣、そして長門と明石に

別れを告げて去っていったのだった。

 

 

 

──2013年

 

 

そして、茶色いチョッキを着た老人は、本館前広場のベンチに座り、

温かい日差しに包まれて時を過ごしていた。彼に元気な声の艦娘達が近づいてくる。

 

「おじーちゃん、おじーちゃん!またお手玉教えてほしいでち」

 

「ああ、ろーちゃんも!ろーちゃんも!また竹トンボ作ってー!」

 

老人はしわだらけの顔をもっとしわくちゃにして彼女達に微笑む。

彼はじゃらじゃらと小豆の音が鳴るお手玉を3つ手に取ると、

器用に投げては受け止めを繰り返した。

 

「う~ん、やっぱりうまくいかないでち……

え?2つから始めるといい?わかったでち!」

 

シャッ、シャッ、シャッ……

 

「あ!ろーちゃんできた!へっへん、ゴーヤに勝ったよ!」

 

「ああ、ろーちゃんずるいでち!」

 

そんな二人を笑顔で見守る老人は、今度は近くの木から葉っぱを1枚取り、口に当てた。

息を吹くと、プー……と音が鳴る。

 

「すごいでち!ゴーヤにも教えてほしいでち!」

 

「ろーちゃんも吹きたい!」

 

老人は二人に丁寧に草笛の吹き方を教えた。小さな音色がそれぞれの形で鳴り響く。

その後も幼い艦娘は老人とたくさん遊んだ。

そして、気がつけば随分な時間が立っていた。

 

プ、プー……!

 

「あ、鳴ったでち!今度はゴーヤの方が早かったでち!あれ、おじいちゃん……?」

 

老人は傾きかけた夕日に照らされながら、穏やかに眠っていた。

 

「おじいちゃん、そんなところで寝てたら、風邪引くでち」

 

その最期は、かつて彼が望んだものとは異なるものだった。

だが、それが彼にとって納得のいくものだったのか、そうではなかったのかは、

彼にしかわからなかった。

 

 

 

Epilogue No.014

>元ライダーバトルゲームマスター 神崎士郎、そして妹・優衣

 

 

神崎と優衣は海岸に沿った堤防に座り、二人で絵を描いていた。

スケッチブックに色鉛筆を走らせる兄妹。

二人が描いているのは、たった二人きりの世界でも、モンスターでもなかった。

波は穏やかで、静かな潮の満ち引きだけが心地よく耳に響く。優衣が神崎に聞いてみる。

 

「お兄ちゃん、何の絵を描いてるの?」

 

「……お前に贈る絵だ。もうすぐ描き終わる」

 

器用に筆先を滑らせ、絵を完成に近づけていく神崎。

その手は、ほんの少しだが、サラサラと粒子化が始まっている。

士郎少年からもらった期限付きの命が終わりに近づいていた。

それを感じ取っている優衣も、何も言わずに絵を描き続ける。

 

「お前は、何を描いている」

 

「お兄ちゃんの絵。ずっと……ずっと一緒にいられるように」

 

「そうか……優衣、お前にはもう、俺は必要ない」

 

「そんなこと、言わないで……」

 

「多くの仲間たちがいる。これが、その証だ」

 

神崎は、描き上げた絵をスケッチブックごと優衣に渡した。

真ん中にいる優衣が、たくさんの艦娘達に囲まれて笑顔を浮かべている。

 

「……お兄ちゃん、絵、上手だね」

 

優衣の目から涙があふれる。粒子化する神崎が風に乗って運ばれてくる。

 

「もっと顔を見せて。私、まだ描き終わってない」

 

見つめ合う神崎と優衣。優衣は鉛筆で肖像画を描くが、涙が絵をにじませる。

神崎はどんどん消え行こうとしている。

 

「もう、別れの時だ。兄らしいことなど何一つしてやれなくて、すまなかった」

 

「違う!ずっとそばにいてくれた!私のために戦ってくれた!

だからお願い、行かないで!」

 

スケッチブックを放り出し、手を伸ばすが、既に実体はなくなっており、

その手は虚しく宙を掴む。

そして、神崎を形作る粒子は、逆流する滝の様に激しく空に舞い上がっていく。

 

「優衣、幸せに、生きろ……」

 

その言葉を残し、神崎士郎はミラーワールドからも現実世界からも完全に消え去った。

風で描きかけの神崎がパラパラとはためく。

 

「お兄ちゃん……大好きだよ」

 

兄が遺した絵を抱きしめて、既に居ない彼に心からの言葉を送った。

遠くから見守っていた長門がゆっくり歩み寄り、優衣の肩に手をかけた。

 

「優衣、神崎は提督の任を全うした。

君が望むなら、彼の後を引き継いでもらえないだろうか。無理にとは言わない。

陸奥のサポートがあれば現状維持は可能だ。

今は辛いだろう、落ち着いてからでいいから考えておいて欲しい」

 

優衣は黙って首を振る。

 

「やる……私、お兄ちゃんが何を守ってきたのか、見たい。私が、提督になる……!」

 

「……そうか。では、この階級章を」

 

長門は優衣に大将の階級章を手渡した。

 

「最期の時を悟った神崎が提督権限で遺したものだ。

これを持つ者が次期提督になることになっている」

 

優衣は兄の遺品を両手で包む。

 

「頑張る……頑張るから、お兄ちゃん、見守っててね……」

 

彼女は悲しみと共に決意した。神崎が描いた絵を見る。みんなが笑顔になれる世界。

私が守ってみせる……

そして優衣がこの鎮守府の新しい提督になった。

彼女はこの世界の仲間と共に歩み続けるのだ。

いつか、艦隊これくしょんが必要とされなくなる、その日まで。

 

 

 

Epilogue No.015

>元仮面ライダー龍騎 城戸真司

 

 

──アメリカ ロサンゼルス ホテル

 

 

「Excuse me, I’m Shinji Kido. Check in, please.

(失礼、城戸真司です。チェックインをお願いします)」

 

「Good evening. Mr,Kido. Here’s your key. Your room is 906.

(いらっしゃませ、城戸様。こちらが鍵でございます。

お客様のお部屋は906号室です)」

 

「Thank you. (ありがとう)」

 

慣れた様子でチェックインを済ませた真司は、

カードキーを受け取ると、エレベーターで9階へ向かった。

さり気なく茶に染めた髪をオールバックにし、ビジネススーツに身を包んでいる。

10年の歳月は、がむしゃらな青年を、落ち着きのある男性に変えていた。

エレベーターが目的の階に到着すると、彼のスマートフォンが鳴った。

 

「Hello? (もしもし)」

 

“城戸君?私よ”

 

「ああ、令子さん。お疲れ様です」

 

廊下を歩きながら話し始める。

 

“そっちはどう?いいネタ拾えた?”

 

「ええ、おかげさまで。

他社より先にデイビッド・j・カーネルの交際相手、顔写真手に入りましたよ」

 

“パパラッチを出し抜くとは、城戸君もやるようになったわね。

……それより東京での新型スマホ発表会は見た?”

 

「俺はただ、いい記事書きたいって思いで突っ走って来ただけで……

発表会はまだ見てません」

 

真司は906号室に着くと、カードキーをスリットした。

鍵の開く音が聞こえると、中に入った。

 

“もう社の公式サイトにアップされてるから見てみるといいわ、YouTubeでもいいけど。

笑えるわよ~大久保社長も島田さんも好き勝手してて”

 

「それは、楽しみですね。なんだか見る前から光景が目に浮かぶようですけど」

 

ベッドに上着を投げ、ネクタイを緩める。そして、ノートパソコンを開き、立ち上げた。

 

「それはそうと、令子さんのほうはどうですか?特ダネの気配は」

 

“私の情報網から集めた材料から判断すると、

もうすぐホワイトハウスで動きがありそう。徹夜してでも張り込むわ!”

 

真司はブラウザを立ち上げ、ブックマークしたサイトにアクセスする。

 

「気をつけて。夜のアメリカはどこも治安が良くないですから」

 

“あら、心配してくれてるの?

大丈夫よ。この日のために身銭を切ってボディーガード雇ったんだから”

 

「特ダネ掴めれば経費で落ちますよ」

 

“落としてみせるわ!ああ、VIPの車列が来たわ!城戸君、それじゃあね!”

 

「頑張ってください」

 

そこで通話が切れた。

真司はスマートフォンをデスクの隅に置くと、アクセスしたサイトにログインした。

『艦隊これくしょん』そう、真司達が死闘を繰り広げた世界が、

現実世界の存在となって再びこの世に生まれたのだ。

 

多岐に渡るネットサービスに参入したDMM.comが、2013年を迎えるに当って、

かつて日本のタイムマシン開発疑惑となって世界中を騒がせたゲームを、

実際に作り上げたのだ。

 

世の中を混乱に陥れたゲームを再現することには賛否両論あったが、

オタク達にとってはそんなことどうでも良く、

コメンテーターの間でも不謹慎だの、そもそもタイムトラベルなどなかったなど

意見が真っ二つに分かれ、それが更に話題を呼び、瞬く間に登録数100万を突破した。

 

真司はあの日の約束を果たすため、多忙なスケジュールの合間に少しずつ資材を貯め、

艦娘を建造している。そして、工廠画面に移動した。

 

《あっ、新しい仲間が来たみたいですよ!》

 

吹雪の声が建造完了を伝える。タイマーの上に「完了!」の文字が表示され、

出来上がった黒い艦船がドックに鎮座していた。真司は艦船をクリックする。

そして現れたのは……

 

《あなたが司令官ですね。三日月です。どうぞお手柔らかにお願いします》

 

黄色い瞳が特徴的な少女。もうその手を握ることも、言葉を交わすこともできないが、

真司は10年前の約束を果たしたのだ。そして微笑みながら優しく声をかけた。

 

「ただいま……おかえり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──闇

 

 

果てしなく広がる暗黒の世界。

足元に流れのない浅い水が広がっている事だけが、かろうじてわかる。

そこにコートを着た一人の男が佇んでいた。

どこにも灯りなどないのに、そこだけが明るく照らし出されている。

全てを語り終えた男は、顔を上げて貴方に話しかける。

 

 

「いかがだっただろうか。戦いの果てに己の願いを探し出した男の物語は結末を迎えた。

この結末は悲劇だったのか、それともこれで良かったのか。

答えは、もう一つの龍騎の物語が教えてくれるだろう。

……そして、彼の世界を見届けた今、次にライダーになる宿命にあるのは、貴方だ。

その運命(さだめ)から逃れることはできない。

なぜなら、全ての人間は欲望を背負い、戦っているからだ。

そして、その欲望が背負いきれなくなった時、人は、ライダーになる。

ライダーの戦いが、始まるのだ」

 

 

男はコートから取り出したカードデッキを目の前に差し出すと、そっと手を離した。

カードデッキは足元の水たまりの水面に飲み込まれ、

無限に続く鏡の世界に落ちていった。それがどこへ行き、誰の手に渡るのか、

何もわからない。

ミラーワールドは無限に存在し、その鏡写しとなる現実世界もまた無限にあるのだから。

もし、鏡のそばに見慣れぬものがあったなら、手に取る前によく考えて欲しい。

自分の欲望を制御する自信はあるか、そうでなければ、

ライダーとなり戦う覚悟があるのかを──

 

 

 

 

 

艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎(完)




*長い間お付き合いいただき、本当にありがとうございました。
飽きっぽい自分が最後まで書き上げられたのは皆さんのおかげです。
読み返してみて、未熟な点が多くあり、今更ながらお恥ずかしい思いで一杯です。
艦これなのに海上戦闘が殆ど書けなかった事、
消し去りたいほど酷かったマグニフィセント・セブンのオマージュ、
全体的に文章のレベルが低いこと。語彙が貧弱……
まだまだありますがこんなところです。しばらく休養して、
1話からチビチビ修正しつつ良くなかった点を振り返りたいと思います。
長くなりましたが、お読み頂いた皆さん、ありがとうございました。
それでは皆さんお元気で。



……ところで、貴方はそのカードデッキ、どうしますか?




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