提督が白紙の契約書に着任しました   作:奈音

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05 提督とはーー (後)

 私には夢見の能力というやつが幼い頃からあった。

ふとした時に気がついたのだ、これは以前夢で見たものではなかったか?という違和感に。

そしてそれは確実に起こる未来の風景を私に見せてくれた。過程をすっ飛ばし、経緯を吹き飛ばし、手に入る未来を。原因がわからない、過程を組み立てられない、未来への辿り着き方を知らない、そんな瑣末なことは何故かなんとかなる。

 

 ーーだから。 

私には分かっていた。

 

 

 

 

 勝てないことが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・粉塵が晴れていく。

敵首魁が苦悶の表情を浮かべながらも、余力を残している姿が。見ているだけで分かるその姿が浮かび上がっていき。

 

 

 「ーーガッ!」

 

 「ーーぐえっ!」

 

 

 殺った!と確信していたシラヌイの腹に抜き手が突き刺さり、返す腕でいかづちがはたき落とされる。その姿を後ろに認めながら、センダイは全力で元いた島に引き返していた。味方を顧みることなく。一瞥をくれることもなく。シラヌイといかずちの魚雷が敵首魁の局部に正確に決まった瞬間から、その結果がわかりきっていたことであるかのように。その背中に提督を背負って。脱兎のごとく。「ーーォオオ…!」声が聞こえる。脱兎のごとく逃走に図る怨敵の姿を認めた敵首魁の怨嗟の咆哮が、空間に響き渡る。

 

 

「ーーォォオオオオォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 

 追撃。爆撃。轟音。衝撃。砲弾が跳ね回る水飛沫が襲い掛かる。

殺気が迫ってくる。殺意が疾走ってくる。当たればソレだけで終わることが分かる弾雨が。

相手とこちらではそもそもの出力が違う。

数分と経たずその射程範囲に入り、天より降り注ぐ滅びの雨が二人を飲み込んで終わるだろう。

 

 

 

そう。

 私には分かっていた。

  勝てないことが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  【わたしたち】では、勝てないことが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間を巻き戻して。

 時間は、突撃特攻命知らずのBチームが『負けることが分かっている』戦いに臨む、そのスタート地点。敵本拠地と思われる港の、岩肌をくり抜いて造られた迷宮然としたまるでアリの巣のような防衛拠点地で。

 

 ・・・。彼女は独りでそこに居た。

己の無力を嘆き、護れなかったことを懺悔し、黒く染まっていたのだ。

いかづちが「情けないのにも程があるなのですww生り掛けてやがるなのですwwww」センダイは眼線で是非を問うのみで、シラヌイはただ呆然としていた。

 

 私はと言うと、綺麗な女性だと「おいwwこらてめえwwww丁度いいから手助けぐらいしやがれなのですwwww」感心していた。いやしかしいかづちの言うことも最もだ。これは、どうも様子が違うようだがご同類というやつなんだろうから是非とも助力がほしい所。助力を願うために口を開きかけたところでシラヌイが苦虫を1ダースは噛み砕いたような顔で「しかしこれでは、何時後ろから撃たれるか分かりません」それはなぜだ?

 

「・・わたくしも、わたくしを戦力として計上することはお薦めしません」

 

「…その通り。まるでマーブル模様の有様に生りながら、

  正気を保っているのは最早狂気の類である」

 

 センダイの初めて耳にする長口上に驚愕しつつ、オシャレが全てを決める格好いい台詞を決めて格好いい武装を展開して格好いい必殺技を叫ぶ真っ黒な死神と真っ白な幽霊が武器と武器で鍔迫り合い世界の命運を掛けた死闘を行う有名な少年雑誌で60巻くらい連載されていた三大巨頭の一つを思い出していたので、大した心配をしていなかった。

 

 コーヒーにミルクを入れた後。それはコーヒーなのか。ミルクなのか。そのどちらでもないのか。現代科学には遠心分離機という文明の利器で、コーヒーとミルクを分離せよと言われてしまえば出来てしまうが、いや出来るのか?多分出来るんだろうそう信じた飲んでしまうか捨ててしまう方が早いだろうしそこまで考えるまでもなく淹れ直せばそれで済む問題である。新しいコップ。新しい器。新しいコーヒー。新しい中身。科学が発展した現代では豆と水さえ用意すれば良い。豆を買い、挽き、水を用意して、湯になるまで温め、器を用意し、豆をセットし、湯を注ぎ、新しく作り直せば全ての問題は解決する。極論を言ってしまうと飲めればそれでよく実用に耐えれば良い。緊急時にそこまでケチを付けられた場合、不可能であるという点に目を瞑れば完璧だ。今の問題はコーヒーとミルクの混在した状態でコーヒーというアンデンティティを保つことに成功しているから問題はないのだろう。

 

 「・・ですが、今のわたくしでは一斉射するのが限界でしょう」

 

 「うわっwwwwこいつ使えないなのですwwwww帝国ホテルwwwwww

  ちょwwwやめwシラヌイwwwアイアンクローはやめるなのでぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!」

 

 「シラヌイよくやったそのままホールドしてろ。狙いは付けられるか?」

 

 「・・余程の近距離でないと難しいと思います」

 

 「では君が当たる距離まで連れてきてやろう」

 

そう。

私には分かっていた。

 勝てないことが。

ここに来て、私にはわかった。その続きが。

【彼女】が居れば勝てることが。負けはないことが。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 センダイは無事私を陸地まで送り届け、離脱し。私は走った。脇目もふらずに走った。これでうまくいくはずなのだと信じて走った。砲撃の音が聞こえる。シラヌイといかづちは無事だろうか。センダイは無事に離脱できただろうか。作戦は本当にうまくいっているのだろうか。私は後ろを振り返りたい思いを必至で思いとどめて走る、走る、走る。眼前の道が弾ける。砲撃。そこまでもう追いつかれた。射線上射軸上にもう入ってる。ジグザグに逃げる。当たるかもしれない。当たらないかもしれない。いや当たらない。もはや今更であるかもしれないのだが、これは私が見ている夢なのだ。そこに体温を感じても、そこに人の息吹を感じても、そこに心臓の鼓動を感じても、そこに怨嗟と慟哭を感じても、そこに友情を感じても、そこに恐怖を感じても。これは総じて夢まぼろしの如くなり。だからーーうまくいくことはもう決まっているはずで。

 

 

 ただ、やはり人間の足には限界があって。

 

 

気がついたときには、私は腰辺りに猛烈な衝撃を受けて山肌に叩きつけられていた。

 

 

 「ーーユルサヌッ…!ユルサヌユルサヌユルサヌッ…! キサマダケハァ…! ジワジワト、ナブリゴロシニシテヤルッ…!」

 

 

叩きつけられた衝撃で息が出来ないながらも、響き渡る怨嗟の声だけで分かることがあった。加減された。手付から殺すため。悲鳴を聞いて殺すため。慟哭を聞いて殺すため。懺悔を聞いて殺すため。命乞いを聞いて殺すため。不味い。非情に不味い。動けない。体が動かない。痛みが引かない。足音が聞こえる。首を掴まれて持ち上げられ、締まる。絞まる。私の息吹の管を締め上げられていく。

 

 

 「ぐあぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 「イイキミダ。イイキミダ。ダガ、ワタシノイタミハ。コノテイドデハスマサレナイッ…!」

 

投げ捨てられる。すぐ両足にを掴まれ、そのまま山肌に叩きつけられる。意識が飛ぶ。痛みですぐ意識が戻る。叩きつけられる。痛い。叩きつけられる。クソッ。叩きつけられる。まだだ。叩きつけられる。まだ。叩きつけられる。まだ死んでない。叩きつけられる。叩きつけられる。

 

 

 「フゥゥゥゥゥゥゥゥ…。イシキヲウシナッタカ」

 

 

まだ…、まだだ…。あと少し…。ピクリとも動けないが、ピクリとも動けないふりをする。

呼吸する度に胸が痛む。肋が折れたかもしれない。

 

 

 「ミウゴキモトレナイカ…。ククク。イヤ、イイコトヲオモイツイタゾ…。 オマエモカエテヤロウ…。 エンサト、ドウコクノケモノニ…。」

 

 

 獲物を甚振るのを止めた捕食者は、次に芸術に走ろうとする。おぞましく、悼ましい。芸術と自称するものに。現代日本で生まれ飛行機事故で紛争地帯に墜落しながらも搭乗者の中で唯一生存し少年兵と生り月日と幾多もの戦場を経て戦争屋として完成した上で世界最先端の戦場兵器を扱う世界平和を願う秘密組織にスカウトされて秘密任務で偽装高校生に扮した常識と戦場を勘違いしたとある傭兵は言った「獲物を前に舌舐めずり、三流のやることだ」そうこいつはいま三流以下になっている。

 

 長距離から砲撃で確殺できるはずなのにわざわざ手間隙かけてこんな手の届く距離までやってきたのだ。さぁ頑張れ私。最後の賭けだ。

 

 ここまで必死になって戦ったことは現実で一度もなくて。

 ここまで決死になって頑張ったことは人生の中で初めてで。

 痛いのは耐えられる。苦しいのも耐えてみせよう。目が醒めることよりも。

 

 私は知っていたから。 

 己を己で奮い立たせることが出来るもののみに、道は拓かれることを。

 

 空気の動く気配がする。

おぞましいことをなさんとする魔の手が私に伸びているのだ。シラヌイが言っていた「本能が不味い」と訴えかけるもの。その気配が充分に近づいたところで、私は目を見開きーー丁度いい位置に怨敵の顔面が迫っていたーーペッ、とツバを吐きかけた。

 

 

 「ーーーーハ?」

 

 「私は。そんなモノになるぐらいなら、私は。海の藻屑になったほうが百億倍マシだ」

 

 

散々嬲り物にして溜飲を下げていた怒りが再燃する。

理性が蒸発する。

怒りに理性と思考を奪われる。

 

 

 「ナラバ、ノゾミドオリニシテヤルワァアアアアアアアアアアアアアア…!」

 

 

放り投げられる。

海だ。目論見通りの方向かは分からないが。いや。

 

 

 「ーー敵艦捕捉!」

 

 

私のケツしか見えていない間抜けを連れてきた。

そして『彼女』は初めからそこに居た。

 

 わたしたちが出発してから、一度も気を抜かず、敵影が見えた瞬間、すべての砲門で薙ぎ払う準備ができていた日本を象徴する大戦艦。

 

 

 

 「ヤマトォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…!」

 

 

 飛んでいる。飛んでいる私の体の。

 右も左もわからず叫ぶ私の背中が容赦なく蹴飛ばされる。全身ボロボロのいかづち。

飛ばされた先に、こちらも負けず劣らず全身ズタボロになったシラヌイがいて。

あぁ、彼女たちは私が逃げるための時間をーー追いつかれてしまったがーー必死になって稼いでくれて。抱きとめられる。

 

 

 「ーー全主砲!」

 

 

 「オノレェエエエエエエエエエエエエエ! オノレ、オノレ、オノレ、オノレ、オノレ、オノレ、オノレ、オノレ、オノレェッ…!」

 

 

 敵首魁が、動きの鈍いヤマトにその砲口を向ける。相手が撃つ前に征してしまえば。

 

 

 「…させない」

 

 

 だから、センダイを離脱させた。最後の最後のこの瞬間が来たときのために。

いまにも弾丸が放たれる寸前の。それらを全力で蹴り上げて、その勢いを利用して離脱する。

相手の動きを止めるために置き土産[爆雷]を、相手の眼前に残しながら。爆発。突然の光と爆風にのけぞり、ひるみ。

 

 

 「ーー薙ぎ払え!」    

 

 

 世界最強の最大火力が、隙だらけの敵首魁の体に、驟雨のごとく、降り注いだ。




勢いで書くからこうなる…(小並感)
今回で一区切り。ゲーム風に言うと。

・提督が海面に着任したその日にイベント発生。
初期艦:不知火
ドロップ艦:電、川内
イベント海域報酬:大和
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