提督が白紙の契約書に着任しました   作:奈音

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やったっ! 第一部完っ!


06 契約の艦隊

 蟻という生き物で面白い実験がありこの蟻という生物は働き蟻と怠け蟻と餌を延々と貢がれながらホストぐらしを満喫する女王蟻という生態系をしていて、試しの実験がてらにこの生態系の中で働き蜂だけを抽出して新し巣作りをさせてみれば素晴らしい稼働率100%のブラック会社も真青な働き蟻暮らしを実現できるのではないかと試してみた所、残念なことにこれが実現せず今まであくせく汗水働いていた先輩社員が急に会社の中で序列一位に高い位置に至った途端に下っ端に仕事を押し付けて怠けてしまうという現代社会の闇の如くを実現してしまう結果に陥ってしまいこれがなんと皮肉なことに文字通り現代社会の大企業中小企業で汗水たらして給料を稼ぐサラリーマンに当てはまってしまい、このことが社会の一つの縮図として世間に知れ渡ってしまい虫と人間でも同じことを考えるものかはははと誰もが嗤ったもので、つまりなにが言いたいかというと。

 

 「働きたくない」

 

 「ーー起きてください提督! いますぐ!」

 

 連日連夜連戦をしていた序列TOPであるところの私が、人類の生態系を比喩話にして分かりやすく働きたくない理由を非情に合理的に語ったにも関わらず。

がばばっ、と。シラヌイに布団を奪われてしまった。

 

 「寒いぞ、シラヌイ」

 

 「お寒いのは我々の現状です!」

 

 「だが睡眠は必要だ」

 

 「じゅうーーーーぶんお眠りなさいました! 見てくださいあれを!」

 

 びししっ!と快音高く擬音が聞こえてきそうな機敏な動作をもって、度重なる戦いで黒ずんだ白手袋が突きつける先。口調や普段の言動から全くそういうことを自分から積極的に行いそうにないいかづちが「やっと起きやがったのですwwwおらはたらけwwww」八重歯をむき出しにして笑顔でかわいい。そうではなく。どうやら瓦礫の運び出しや建物の修繕を行っているようで、小学生程度の身長の女の子が身の丈を超える瓦礫の塊や廃材となった鉄筋や木柱を重機よりも効率よく運んでいる姿を見て。

 

 

 「よし夢だなもう一度寝よう」

 

 「何度同じことを繰り返すおつもりですか! 見てくださいあれを!」

 

 

ぐぎぎっ!と両の頬を両の手で挟まれて、無理矢理に顔と視線を向けられた先には「…おはよう」と寡黙なセンダイが直接地面に鉄骨をぶっ刺している様子はまるで早回しの家造りのようであって。ようしよし要するにやはり夢だな素晴らしいないややはりくそったれだなフロムソフトウェアな現実は何一つ解決してないってことは夢だからおやす「素晴らしい指揮でした」美しい声。

 

 

 

 

 ふと横に目をやると人間味のある暖かな色と無機質で酷薄なモノクロが混じり合ったヤマトがおっとりとした顔で均整の取れた理想的なスタイルな。美人。美人薄命と言った佇まいで、今にも消えそうな儚い笑みを浮かべて私の方を微笑ましく見つめているその姿。美人。鳥肌が立った。恐怖ではなく。背筋に稲妻が走り、液体窒素を流し込まれたかのような。それはなんとたとえればいいのか人間の原始的欲求に基づく三大欲求よりも更に深いところにあるより開闢的な感動をもたらすものであって。ひと目目にしただけで、あぁ”うつくしい”という言葉はこの光景のためにあったのだとある種の熱狂的な信仰めいた群衆の一人になったかのような錯覚を起こすものであって。

 

 眩しい。太陽の如きそれ。「提督なくしてあの絶望的状況からの脱却はありえませんでした、感謝しております」今まさに天啓を受けた使徒の一人に生りつつある私に向けられる信仰の如き輝きを放つ両の眼。文字通り眼が潰れそうである。これは良くない、非情に良くない。気がついたらアイデンティティを塗り潰されてしまうほどの輝きである。「フゥゥゥゥゥウウウゥゥゥウゥウ……、ハァァァァアアアアァァァァアアアア……」深呼吸だ。深呼吸して酔いから目を覚まし、己を取り戻さなければ。よし。大丈夫だ。

 

 

 「みなで掴んだ勝利だ。それに今回の最大の殊勲賞はヤマト、お前だろう」

 

 「ご謙遜を。かかる事態において、提督がご自身の体をなげうって勝利に尽力して下さったこと。覚えていない者などおりません」

 

 

 声を聞くたびに漂白剤で優しく優しく精神体を包まれるような心持ちになる私の横でシラヌイが腕を組みながらうんうんと頷いている。

そしてーー。

 

 

 「提督は。なにも聞かず。何も知らず。状況を俯瞰できぬまま。現状を打破するために。我々と。わたくしたちと契約しました。暁の水平線のために」

 

 「けいやく…。そうだ。契約とはなんだ?」

 

はじめはシラヌイだった。わけもわからぬまま有無を言わさぬ様子に頷いた。

つぎはいかづちだ。勝手にケイヤクだと言われたことから、そういうものなのかと頷いた。

神風特攻の切掛になったセンダイは。現れた瞬間から王に傅く臣下のような態度で。受け入れた。

そしてヤマトはもはやそれが世界の理であるかのように、暗黙の了解であるかのような態度でケイヤクは済んでいる、と示している。

だからわたくしたちは貴方の。提督の。提督と。契約の艦隊であると。

 

 「提督。その前に」

 

 「なんだ」

 

 「貴方は。提督は、なぜ。今も。五体満足で今も生きていられるのだと思います?」

 

 「なにを言ってーー?」

 

 「ーーっ! ヤマト…っ! それは…」

 

 「シラヌイ?」

 

 「…そうですか、やはりそうなのですね。知っていて、言わなかったのですね。

  そしてそれは正しい判断だったのでしょう。あなたたちが見定めた提督は、わたくしでさえ見た瞬間に理解しました」

 

 今でもこうして面と向かってお話しているだけでも歓喜にこの身が震えるほどです。と。静かに。おごそかに。ヤマトは語る。あなたは。運賦天賦が服を着て歩いているような人であると。夢で見るような誰もが望む現実を、引き寄せる境地の頂きに至っていると。だからこそ、シラヌイには【貴方以外の選択肢がなかった】のだと。「ひひひひひwwwwそれ以上はやめろなのです」「…初導艦に言わせてやれ」いつの間にか真顔の二人が近くまで来ていて。ヤマトはそれに柳眉を立て「あなたたちは…いえ、そうですね。シラヌイ」たが、すぐに納得したかのような表情に戻ると目線をシラヌイに。 

 

 「シラヌイ…?」

 

 話題を向けられたシラヌイに自然と目が行って。

悔しいと心底悔恨するような顔。不甲斐ないと己を叱りつけるような顔。申し訳ありませんと神仏に懺悔を乞うような顔。そのどれもが混じり合った複雑怪奇な感情を私に向けながら、上顎と下顎を潰れんばかりに噛み合わせて「わたしはーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨夜。最終決戦。その最終幕。

 

 

見た。提督が放り投げられたのを。

海だ。目論見通りの方向へ飛んでいく。

動くのも精一杯な体を酷使しながらも、私といかづちは全力で海を疾走った。

 

 

 「ーー敵艦補足!」

 

 

ヤマトの声が聞こえる。

なにもかもが段取りどおりに進んでいく。

敵首魁はまるで視野狭窄にでも掛かったかのように提督だけしか見えていなかった。その声が聞こえるまでは。そしてその声に気を取られて、私たちが提督の救出に動いていることにも不思議なくらいに気が付かない。

 

 

 「ヤマトォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 

 着ていた衣服は原型を留めていなくて。出血死するのではないのかと思わせるほどの負傷をしていて。それでもその眼は輝きを失わず。大戦艦の射程外に弾き出すため、いかづちが全力で自由落下で飛行中の提督を蹴り飛ばし、私がそれを抱きとめて。「シラヌイか…」意識がある!砲撃から逃げるのに間に合わず、どうしようもなくなった時は、海に飛び込んで運に任せてやり過ごすしかないと言っていたが、とても現実的とは思えない。速く逃げなければ。

 

 

 「ーー全主砲!」

 

 

 「オノレェエエエエエエエエエエエエエ! オノレ、オノレ、オノレ、オノレ、オノレ、オノレ、オノレ、オノレ、オノレェッ…!」

 

 

逃げる。逃げる。逃げる。「まじかよwwあれだけやられて生きてるのですwwwwこれは本物かもしれねぇなのですwwww」いいから逃げる!

 

 

 「…させない」

 

 

 爆発。閃光の気配。

センダイはしっかりと仕事を果たしたと確信できる戦果の音。

そしてーー

 

 

 「ーー薙ぎ払え!」    

 

 

爆風と弾けた海面に煽られ、転覆しそうになりながら、私たちは任務を達成することが出来た。

確信した。だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ーーまだだァ! シラヌイ!いかづち! 全力でランダム航路を取れぇえええええええええええええええええ!」

 

 一瞬の遅滞もなく命令に従い。だからこそ、その光景を信じることができなかった。

背負った武器を全て失い。全ての武装を失った無防備な姿のまま。徒手空拳で。瞬間回避した場所に。敵首魁が完全に理性を失った激情の拳を突き入れて。「おいwwwまじかよこいつwww意識失ってんのに動いてるなのですwwwどうなってるなのですwwwwww」理性ではなく意識を失って無意識で動いていることに驚愕するいかづち。激情ではない?己の体を砲撃からかばい、意識を失って。失ったまま撃滅すべき怨敵に。声もなく。意識もなく。それは。つまり。完全に意識を失った無我の拳?動きの起こりすら感じないそれを提督はどうやれば知れたのだ?「ていと」く指示を、と言いかけて「分からない」つぶやき声「なぜ分からない」唸るような「負けはないという確信はこれがあったからか…?」自戒するような。

 

 「負けはない。つまり勝ちもない。だが今なら分かる。見える。

  ここで。今ここで。こいつを討たねば。必ず取り返しの付かないことになることが」

 

 己に言い聞かせるような声。

それを塗りつぶすように。聞こえる。もう一つの。唸り。獣のそれ。 

完全に白目をむき。片目を潰れたトマトのようにさせて。歯の欠けた顎と。隻腕となった片腕で。

轟沈寸前の体になっている二人の体に皮一枚の差で降り注ぐ一撃必殺の。貫手、抜足。今は当たらない。辛うじて。だが次の瞬間はわからない。

 

 

 「ーー分かった。これは【夢】だ。【早く目醒めることを願う】」

 

 だから。提督は捧げた。本人は分かっていないに違いなくても。その自覚がなくても。取り返しのつかないことをして。その途方も無いような頂きも見えないような果の無いような深さも伺えないような、可能性としてつかめた未知数の。余りにも致命的な。幸福ななにかを。それに幾度も救われたシラヌイと。いかづちと。そしてセンダイが。ヤマトまでもが。万全の状態に回帰し、最高の状態へ移行する。最強の装備に換装する。誰もが夢見る展開を、現実にするための世界が誕生する。そうなった時点で。この日この時に発生した血戦の結末は決定して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ーーわたし、は」

 

 選択肢がなかった。説明する暇がなかった。躊躇している場合ではなかった。余計な情報を与えるべき時期ではなかった。幾らでも言い訳は思いつく。いくらでも正当だと主張できる状況ではあった。だが。だからそれがなんだというのか。白紙の契約書にサインさせたも同然のことをしておいて。しかし。いまさらどんな顔をして言葉を尽くせばいいというのだ。提督となって戦うモノに未来はなく。その時点で止まり。その手に掴めたはずの。栄光の輝きが尊いほど能力は高く。全て使い尽くせばどうなるのか、全てが終わった後どうなるのか。まだ始まったばかりの戦禍の一角で。固く。シラヌイは固く口を食いしばり。

 

 

 シラヌイの葛藤を誰もが見守る中、やがて促されるかのように。

契約書にサインされた。同意された内容を。喉から絞り出すように、語り始めた。

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