お気に入りも増えてて嬉しい…
明石に謝り倒され、プリンツに無償の好意を全力で向けられてからしばらくして。
彼女たちの話をもてなされながら総合し簡潔にまとめると。
「そんなオカルトがあってたまるか」
私たちを目の前にしてそのようなことをおっしゃられてもですねとかそもそも今まで戦ってきた事自体どうおもってるんですかだとかあどみらーるお茶を淹れましたよー!だとかじゃあやっぱり提督は色々とよく分かってるわけではないんですねだとかわっふるもありますよー!だとか。ん…?んん?「そんなオカルトあって」ぱくつく「オカルトがうまい」うまい…?なぜ?
「明石」
「なんですか」
「これは、なぜうまい」
明石は分かりませんと同じくどこからか用意されたおにぎりを頬張り、でもほんとおいしいんですよねと首を傾げる。もう一人の方を見れば、湯気の立った和風仕立ての湯呑みを両手に行儀よく持ってあーコーヒーがおいしいですねーと若干ジジ臭い風情を漂わせながら羊羹を食べている妙に馴染んだ姿に違和感しか覚えない。いやほんとうになんなのだ。これは。
「理由も理屈も分かりませんけれど」
「あぁ」
「原因なら」
瑞々しき女子たる美しき指先が示す先。私。から少し右にずれた後ろ。後ろ?
それはたとえるなら粒子であった。エフェクトで言うところの選ばれし勇者たちが最後の戦いのために各々の得意とする武器を掲げ天と地と仲間と魂と何よりも己自身に誓いを立てるためにあしらえられたかのようなまるで最後の戦いに赴くための直前のセーフゾーンのような見た目をしていて。ときどき、稲光が疾走り、火花が舞い、まるで何かに耐えているかのような動きをみせるその中央に【右腕】が鎮座していて。明石を見る。右腕が「これは違います」ガシャコンとわざとらしくも分かりやすい駆動音「【開発資材】で造った」肌色に見えていた右腕が「義腕です」鋼色の鉄腕に鳴る。ではなぜあれは。あれが。わざとらしくさもありなんと思われるような場所に堂々と。
「原因は分かるんですけれども。でも。
あれがなにで、だからどうなってるのかがよくわからないんですよね…」
「明石は最近来たけれども、わたしは最初からいいた子に少しだけ聞いたよー!
開発資材はあれがないと作れないんだって!」
「最初から…?」
「私は南西カッコから吹くカッコトジの風!ビシッィキメポーズ! って名乗るだけの子で、名前を教えてくれない不思議な子です!」
「なんだその擬音だらけの自己紹介は…」
「可愛い子ですよー」
可愛い子ですよといいながらふにゃりと笑うプリンツ・オイゲン。可愛い。にこにこにことまるで笑顔が私の常態ですと言わんばかりのふわっとした空気に、大和の全身から発せられるオーラにも似た、別方向の優しい空気に不毛布団で全身を柔らかく包まれながら心地よい原初の眠りに抱かれるような尊い気持ちを覚えて。可愛い。よく考えたら先程から出されているお菓子とか気がついたら目の前に置かれている緑茶とかどうですかー、どうですかー?と好意全開の口調と手つきと身振り手振り所作仕草が全力で必要以上に御持て成しされていてまるでそれが当然であるかのようにえへへーと嬉しそうに笑う姿。可愛い。余りの容姿的仕草的心遣い的接待に対して余りの感動で言葉も発せなくなった姿に何か勘違いしたのかまるで幼い子供が言いたいことを勇気を持てずになかなか言い出せずに少し困った動作を待つ母親のようににこにこと微笑んでなにも言わずに隣で座っているだけのような姿勢に移行し始めたのを見て。可愛い。ダメだダメだダメだ。やめろやめろやめろ。その笑顔を私に向けるんじゃない。不味いぞ。まずいまずいまずい。可愛い。大和から問答無用の信頼と尊敬を一身に受けていたときよりもアイデンティティへのダメージが深刻だ。落ち着け落ち着くのだ私。深呼吸だ。しんこ「あどみらーる?」「ゴボッ」きゅうしようとしていたが無理だった。よしとりあえずプリンツの顔をもう見るのはできるだけ止めよう。眉間でいいだろう。大和と同じく目が潰れそうだ。一刻も早く話題を変えてこの場から離れなければ。
「と、兎も角。二人共が詳しい事情がわからないのなら仕方ない
その、南西の風? というのは何処に居るんだ?」
「あそこです」
「明石。あれは腕だ」
「だから、あそこです」
「間違えた。言い換えよう。まるで神に捧げられる供物のような神台に載せられた腕だな」
「あそこなんです」
「分かった。私が悪かった。あそこなんだな」
「はい」
問答を続けていくうちに問答が問答無用になり、徐々に明石の瞳の中のハイライトが消滅していくのに耐えきれなくなり、顔を背けるほかなくなる先に見える腕。死の一歩手前で見えると言われている走馬灯のように一瞬で、記憶の残滓により印象強くこびりついた曖昧であやふやな、しかし心が覚えていたいと強く願った過去の1ページの。私のはらわたから水面が波打つように弾けて飛び出たかつての勝利の証。滅ぼした。その残滓。いや。滅ぼしたのではなく。これがそこに在り、明石がそういう事実に基づいているのならば、あれは。あれが電で。あれが川内で。あれがプリンツならば。最初から居たというのはどこから居たのだ?近づく。二人に私を静止する素振りはない。問題ないということか。いや。明石は目をキラキラさせてなにが起こるのか様子を見たいと言った様子で、プリンツはおろおろしている。大丈夫だと判断して前に進む。この世界に果たして距離の概念があるのかは定かではないが、私の認識では腕まで10歩手前まで到着する。後ろを振り返る。誰もいない。誰もいない?!一歩戻る。いない。戻る。戻る。戻る。十分離れたと思ったところで、二人の姿が見える。明石は心なしかツヤツヤした表情で、プリンツはおろおろしていた表情から一転ぱぁっと花が咲くように笑顔になる。少し駆け足で二人に駆け寄る。状況が判断できない。
「提督消えましたね!」
明石が開口一番聞きようによっては恐ろしいことを満面の笑顔で言い放つ。
「あどみらーる大丈夫ですか!」
やっ、やめてくれ。可愛い。その遅くまで友達と遊んで帰宅が遅くなった子供を心配するような慈愛の表情を本当に止めろ。いや違う。そうではなく。
「その様子だと二人は『あれ』に近づけないのか?」
「調べたいんですけどね…」
「壁?みたいのがあって近づけないんですよー」
こういった可視状態での接触の許可不許可というのは古今を問わず東西でセオリーがある。
アクセス権限という意味で考えれば、私にはその資格があり。彼女たちにはないということだ。ならば、そこまで厳密にシステム的ではないかもしれない筈なので問答無用で明石の手「えっ」を握ったが素で驚いていても気にせず「どうぞ」プリンツの方に向こうとしたら差し出されてしまったのでそのまま手に取り二人を引っ張るように「えっ?えっ?」明石が混乱から抜け出せないままだが気にせず歩き出す。進む。歩く。近づく。腕の前。ほとんど目の前と言って差し支えない場所まで有無を言わさず「明石、調べないのか」立ち止まり、もはや手をつながれていることなど気にもとめず爛々と紅玉の如く煌めかせた瞳で「調べます調べたいです調べないでおけましょうか今すぐ調べましょう」むふーと鼻息荒く人参をぶら下げられた馬、赤布をちらつかされてる闘牛、かつおぶしを眼にした猫のごとくいままさにとびかからんとして。
「ダメー!だめだめだめだめー!」
空から赤いツインテールが降ってきて。同時に「ぐえっ」カエルが潰れるような音とともに明石の顔面に見事な飛び蹴りが直撃するさまは何処かで見たことのある前衛芸術にも似て。芸術を深く解したであろう空中からの下手人は「ぐごっ」着地顔面を踏み台にして再び飛び上がり、我々から【腕】を庇うような位置に無駄にキレのある無駄に格好いいポーズを無駄に連続でビシィッ!バシィッ!シャキシャキーン!と無駄に己の口で唱えながら無駄に次々にポージングをとっていき、ようやく納得がいったのか。
「私は南西カッコから吹く情熱カッコトジの風!ビシッィキメポーズ!」
「痛い、とても痛いぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「わぁぁぁああああ!」
決めポーズと決め台詞を吐く南西の風?の足元で明石が顔面の余りの痛みにうずくまり、プリンツがお子様向けの戦隊ショーを初めて見た小学生児童のように瞳を煌めかせている姿を見て。私はなぜか。その穏やかな光景に。焦りを覚え始めていた。
南西カッコから吹く情熱カッコトジの風、一体何者なんだ…(棒