空から明石の顔面に降り立った褐色赤髪ツインテール幼女は、日曜朝の戦隊モノやライダーモノを彷彿とさせるポージングを維持したまま。
「チャーオ!」
「えっと」
「チャーオ!!」
「…こんにちは?」
「チャーオ!!!!!!!」
「ちゃーお…」
玄関に押しかけた新興宗教の勧誘や新聞配達の契約社員にも勝るとも劣らない怒涛の挨拶の連続の姿勢に押し切られてしまった。何かに負けた気がした。負けたと言えば物理的に踏み台にされた「痛いぃィィィぐぉぉぉぉぉおおぉおお」明石は女の子が出しちゃいけない音をBGMのように鳴らし続けていて「可愛い…!」プリンツはなんか感動していた。もうなんかその姿が可愛い。
「チャオチャーオ! 一日の挨拶は礼儀正しいチャオから始まるんだよ…っ!」
そして目の前の幼女は意味がわからな「ふしゅるるるるるるる…」にやら人間らしかぬ吐息が聞こえてきた。わけの分からないやり取りをわけが分からないままに、わけもわからずに適当にやっていたら今まで光の戦士だったのにも関わらず光の戦士の意味や大義が分からなくなってきて、力が全てではないかという考えに囚われすぎて闇堕ちした瘴気のオーラに包み込まれたようなオーラを全身に纏いながら「よんじゅうろくせんち…」おや、明石の様子が…?「さんれんそうほうちゃん!ひ!ふ!み!でませい!」ゴゴゴゴゴゴゴゴと。今度は擬音ではなかった「あわわわわわわわわわ」プリンツがあわあわし始めた。可愛い。そして顕れるそれ。それは余りにも巨大で。まるで自然を思わせるほど雄大で。聳え立つ鉄の塊のようで。それが手と足らしきものを動かすことに気がつくに至ってようやくそれが。頭頂部に世界最強最高火力の砲塔を備えていることに気がついて。自律的に自動かつ意識と目的を以て動ける移動型超弩級巨大砲塔であることに気がついて「誰だか名前を聞いてないから知らないけれども」怒りという感情は一度頂点に上って臨界点を超えると急激に冷めていく「出会い頭に人の顔面を足蹴にする子に」殺意という感情をどのように執行すればいいかという方向に向けて「ドヤ顔全開で礼儀を語られるほど腹が立つ事はないのよねぇ…」鬼だ。鬼がいる。心なしか角が生えてるように見えるのは気のせいかなぁ…。気のせいだとどごーんどかーんどごどがばごどがががががががががおりゃあぁああああひぃぇええええええと一方的な怪獣大決戦が始まったというよりも陽気な猫とネズミの追いかけっこの様相を呈したどこか緊張感のかけた「あどみらーる、あどみらーる」ゆさゆさとプリンツオイゲンがついっと初雪のような真新しさを思わせる指先が見せる先に「誰か居る?」濃紺の冬セーラーを行儀よく着て、露出する肌を少なくするためか足には黒い黒のストッキングで覆い隠し、極寒の地を思わせるようなアイスブルーの瞳で見つめて「だから私はやめておけと言ったのだ」体躯が中学生くらいの身長のどこかミステリアスな空気を纏った少女が己に言い聞かせるように呟き語る。二人の追いかけっこに目も当てられないと言った様相で辟易として。
「それはそうと。久しぶりだな」
後ろを見る。誰もいない。プリンツを見る。首を傾げた後困ったようにはにかむ。可愛すぎるだろこの生き物。そうではなく。見知らぬ誰かにかけられた言葉ではなく、猫とネズミのコントでもなく、私を見つめて言われた言葉であることにようやく得心が行く。そしてその言葉の内容には久闊を叙するような、古くからの知己を訪ねるような、そういった趣の情緒が込められていたが端的に言って覚えはなく。しかしそんな戸惑いに少女は頓着するする様子はないようで。
「なんだ、だんまりか。久しぶりに会ったというのに」
「………」
「なら勝手に喋らせてもらうとしよう」
それにしてもよくやった。今日で七日だ。一週間で終わっていたはずの人類の未来をよくも
救えたなと感心するばかりだよ私は。なにせお前があの日あの時あの場所にたどり着いたのは6日目の夜だったからな本当にギリギリだった。しかし結局無理を押させてあの状態の大和に全力砲撃の支援をさせた時には本当に肝が冷えた。もう駄目だと思った。もう終わりだと思った。なにせ彼女は大和はあの砲撃を終えた時点で終わっていた。致命的なまでに終わっていた。もはや脅迫的なまでに彼女の肉体精神魂心は犯されつくされていたのを「なに?」奇跡的なことに気力だけで持ち堪えていたんだからお前たちを狙わずに敵を狙うなんてことをさせたらその気力すら全て使い尽くしてしまうというのに。後の彼女はもう裏返るのを待つだけだった。お前がなにもしなければ。なにも出来なければ人類は終わりだった。真っ先に終わるのは日本になるはず「待て」だった。簡単な話だ。大和だったモノは要塞のように防衛されながら本土に向けて毎日撃てば「待てと言っている」いいだけなんだからな。攻守優れた世界最強最高火力の移動砲台。そしてあそこで南西の風と戯れている本来なら「おい」明石だったモノが武器製作から修理に眷属製造までこなし兵站線を構築すれば対抗策も対応策も構築できていない所に同時多発的に奇襲を食らう形になった「ーーお前はなにを言っている!!」世界は。
「未来の話だよ」
「…未来」
「お前が現状を正しく認識するために必要な未来の話をしているんだ。
希望的観測を持たせなくするために」
だから。あと一時間で目を覚まして貰う。そのための力をその身に思い出してもらう。そのための心を思い出してもらう。そのための過去を思い出してもらう。本当なら。ゆっくりゆっくり段階を踏んでお行儀よく乗り越えてもらいたかったが、どうやら時間がないのは外も中も同じようだ。根拠のない希望でその身を焦がす前に、必要最低限のことは整えなくっちゃあいけない。そうでなきゃあ、そこでお前を庇うように怖い目をしているその子も報われない。じゃれてるように見えながら君を護るためにああやって戦っている彼女たちのためにも必要なことだから。ほら見なよさっきから「南西の風キィイイイイイイック!」どうやったら垂直高飛びからの空中で三回転半捻りで加速して飛び蹴りをはなてるのかはさっぱり謎なんだがというか肉弾戦しかしてないなあの子は「よんじゅうろくせんちほうちゃんだぶるぶーすとなっくるぅぅぅうううう!」おかしい世界観がおかしいというか頭の連装砲使えよくっそいままでここからずっと見ていたがお前のところで頭がまともなのは不知火だけだ。だ、だが。ま、まぁでも形はどうあれあのぐらい簡単に倒せないようじゃあ先が思いやられるのも確かだからいいか。なによりもお前が最初に海ごと呑み込んだ連中の掃除もできて実に助かった。これでここもようやく稼働できる目処が立ってきた。あれを本格的に活用する為にここを稼働できるようにしないといけない。そしてここを稼働させるためには寝床が整わなければ成り立たない。
「貴方は「貴方じゃない」」
「私のことは尊敬と敬愛を込めて、ふぶきお姉ちゃんと呼ぶんだ
ーー同じ腹から生まれた血を分けた弟よ」
記憶が刺激される。彼女の言いようはまるで最初から決まっていることを口にしているようで。最初。私の最初は。最初から。不知火がきて、電がきて、川内がきて、大和と出会い。それ以上の何かなどあったろうか。いや、そもそも。最初というのならば。不知火はどこからきたのだ?電と川内は発生するかのような出会い方をしていた。大和は最初からそこに居た。じゃあ不知火は?なぜ私は事が深刻になる直前に彼女と出会えることが出来たのだ?あれは。あれは本当に。偶然。たまさか。運が良かったなんて話で済ませられるようなことだっただろうか。そういえば私以外の他の乗客はどうなったんだ。いや違う。乗客なんて本当に居たのか。「嫌だぁアァァアアア嗚呼嗚呼嗚呼」私は一人旅であれに乗って…一人?人「やめてやめてやめたやめてぇぇぇええええ」そうだ、私は一人だった。一人になった。「消えたくない、消えたくないぃいいいいいいい」比喩ではなく、文字通り一人になった。そこには怒号と「なんでなんでなんでぇえええええええええ」悲鳴と慟哭で溢れていて「オマエモカエテヤロウ…。 エンサト、ドウコクノケモノニ…。」あぁ。嗚呼。ああああ。なんてことだ。なんてことだ。なんてことだ。そういうことだったのか。私が「弟よ、こいつらはもうダメだ」ダメだからなんだって言うんださっきまで「触媒がなければ資材にもできん塵屑だ」だけど「お前は効率が悪すぎる」取り込めばそうすれば「やはり早すぎたか…」なにが「忘れろ」な…に……を。そうだ。そうなのか。ならば。ならば私は。私が。斃せ、と。沈めろ、と。命令したのは。
「人間を…」
「【開発資材】がどうかしたか?」
「敵が…」
「もとが【人間】でも斃さないとなぁ」
「船にも、開放した島にも人がいなかったのは…」
「これ以上、答え合わせが必要なのか?」
だから。私を本当に引き返せなくなるところまで追いやったのは。状況でもなく。契約でもなく。おそらくはこの姉と名乗る少女のせいでもない。私は。きっと。詳しくはわからなくても。おそらく。その生まれから計画されていたのだ。そうでないと説明のつかないことが多過ぎる。生まれる前に既に。私の人生は決まっていた。そうでなければこのようなところでオカルト地味た生死を問わない戦いに巻き込まれたりはしない。生まれた瞬間すぐに。私の役目は決まっていた。おぞましい方法で。いたましい方策で。ならばその使い途は。私はーー。
ぶっきー「生まれる時点でナニカサレテタ」