ISを動かした幼馴染に巻き込まれる話   作:帝国過激団

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#12

「鉄平、ダメだったよ…」

 

「お、おう。 ま、まあよく頑張ったと思うぞ?」

 

 一夏はオルコットさん相手にある程度は粘ったが、やはりほぼ初搭乗の機体で代表候補生を相手取るのは難しいらしい。

 …敗因が『自らのSEを削って攻撃する武器』を使ってSEを全損させる、という負け方が余りにもかわいそうだった。

 さて、この後は10分の休憩の後俺対一夏。

 

「あー、んじゃ俺あっちのピットに移動するわ。 次は俺とお前の対戦だ。」

 

「おう、わかった。 …お手柔らかに。」

 

「任せろ。」

 

 一夏に背中を向けて手を振り、Bピットに向かう。

 一応、対戦選手同士は別々のピットから出ることになっているそうだ。

 アリーナの曲がった廊下を歩き、Bピットに着くと、ベンチに座るオルコットさんがいた。

 

「浅間さん? 何故こちらに?」

 

「次は俺と一夏の試合だろ? 一応対戦者同士は別のピットからでるっつーことになってるらしいんで。」

 

 そうですか、とオルコットが俯きながら言う。

 …やっぱりなんかやっちまったか?

 

「…浅間さん。」

 

「あ?」

 

「何故、あなたはそこまで強いのですか?」

 

 顔を上げながら言うオルコットさんの目には、意思が宿っているように感じた。

 しかし… 強いのか、と言われてもなぁ…

 

「大して強くもねえよ。 自分のやりてえことやっただけだ。」

 

「やりたいこと、ですか?」

 

「ああ、まあ操縦技術の向上については織斑先生のお陰だが… そうだ、一夏はどうだった?」

 

「織斑さんですか? 彼は… ISの操縦については失礼ですが初心者そのものです。 戦いの心得もない。」

 

 オルコットさんはそこまで言葉を紡いだ後に、しかし、と付け加える。

 

「決意の、篭った目をしていましたわ。 それがどういった物かもわかりかねますが…」

 

「ま、そういう事だろ。 決意のある人間が強えとは言わねえ、だがよ、少なくとも何もねえ奴よりかは足掻けるはずだ。 …多分、あの馬鹿は誰かを守る決意でもしてたんだろうさ。」

 

「守る、ですの?」

 

「ああ、まあ決意の内容についてはどうでもいいさ。 しかしよ、オルコットさん。 あんた、何を思って戦ったんだ?」

 

 俺の言葉を聞いて、オルコットさんは再び俯いてしまう。

 

「わたくしは、オルコットの誇りを… イギリスの誇りをのために…」

 

「そうか、しかしよ、あんたが宣戦布告の時に言った言葉は、果たしてその誇りのための物だったか? 他国を落とす事が誇りじゃあねえだろ?」

 

「わたくしは…」

 

「その先は俺が聞いてもどうにもできねえ、ただこれだけは言わせてくれや。 決意ってのは、ピンからキリまで貫かねえと意味がねえ。 人間はよ、決意だとか、意地だとかのために限界を超えられる生物なんだから。」

 

「決意を、貫く…」

 

 オルコットさんが言葉を反芻した時、放送が響いた。

 俺と一夏の試合の開始を予告する放送だ。

 

「んじゃ、行ってくるよ。 オルコットさん。」

 

「は、はい。」

 

 ISを纏い、出撃の準備をする。

 と、その時、後ろからオルコットさんが声をかけてきた。

 

「あ、あの。 鉄平さんとお呼びしてもよろしいですか!?」

 

「構わねえ。」

 

「で、では鉄平さん。 わたくしの事をセシリア、と呼んでいただけませんか?」

 

 ファーストネームでか… 正直、女子を名で呼ぶのは照れくさいんだが…

 

「わかったよ。 セシリアさん。」

 

 俺に名を呼ばれて、少し表情が明るくなるセシリアさん。

 ったく、こんな野郎に名を呼ばれるのが、そんなに嬉しい事かね?

 

「じゃ、行ってくる。」

 

 カタパルトが作動し、フィールドに投げ出される。

 PICを起動して宙に浮き、目の前を見据える。

 

「よう、一夏。 待たせたか?」

 

「いや、俺も今来たばっかりだ。」

 

 などと、カップルのデートのようなやり取りの後、俺はルイス軽機関銃を二丁、一夏は唯一の武装だという近接ブレードの『雪片』を構える。

 

『試合、開始です!』

 

 山田先生の放送が、試合の開始を知らせる。

 その瞬間。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「んじゃまあ… 確実に勝たせてもらうわ。」

 

 雄叫びを上げながら接近してくる一夏に対し、正々堂々もへったくれもない引き撃ち。

 速度のスペックではあちらの方が上だろうが、おそらく操縦の腕ではこちらが上。

 

 一夏は弾幕の合間を縫って肉薄してくるが、それでも結構な数の弾に被弾している。

 

「待てぇぇぇぇぇ!!」

 

 こいつ、回避を捨てやがった!?

 回避を諦めた一夏はブレードで出来る限りの弾を弾きながら近づいてくる。

 最新の第三世代機と、第二世代機のスペック差では、すぐに追いつかれてしまう。

 

 なら、こちらから出向いてやろう!

 PICの向きを反転、一夏の方向へルイス軽機関銃を乱射しながら全力で飛ぶ。

 

「ぜあぁぁ!!」

 

 一夏の間合いに入ろうとした瞬間、一夏のブレードが青い輝きを放ち始める。

 これが一夏のIS、『白式』のワンオフアビリティ、『零落白夜』!

 ワンオフアビリティとは、ISと操縦者の適合率が高まった時に起こる『第二形態移行(セカンドシフト)』をした際に、まれに顕現する文字通りそのパイロットにしか扱えないISの能力だ。

 それを一夏は第一形態の時から持っていた。

 そしてこの零落白夜の怖いところは、下手に当たればこちらのSEが一撃で全損する可能性があることだ。

 

 そして、青く輝く刀身が迫り来る。

 

「そんなんじゃまだ当たれねえなぁ!?」

 

 後方に瞬時加速(イグニッション・ブースト)をして回避、同時に一夏にルイス軽機関銃を投げつけ、対艦ライフルとヒートホークを呼び出す。

 

 -ズガァン!!-

 

「うっ!?」

 

 轟音が響き、一夏が吹き飛ぶ。

 当たり前だ。 この至近距離で対艦ライフルを顔面に食らったのだから。

 

 体勢を立て直して、突進してくる一夏。

 それに対し俺は、ハイパーセンサーを高速軌道専用のものに切り替え、ハイパーセンサーの視覚を360度から正面のみに絞り、色覚をシャットアウト。 そして瞬時加速(イグニッション・ブースト)で前方に飛ぶと同時にPICも切断。 余ったエネルギーを全て高速軌道専用ハイパーセンサーに集中させる。

 視界が歪み、白黒になる。 数瞬遅れて、周りの全てがスローになる。

 これが俺が織斑先生に対応するために生み出した技術、オーバーアシスト。 エネルギーを極限までハイパーセンサーに集中させることで反応速度を大幅に上げる技。

 

 -遅えよ!-

 

 蟻のように遅い一夏に、俺の感覚ではゆっくりと、しかし本来のスピードなら猛烈な速さで対艦ライフルを突きつける。

 

 -ズガァン!-

 

 銃口から漏れる火も、反動により持ち上がる銃身も、至近距離で食らった弾丸に仰け反る一夏もスローになっている中で、確かな着弾を確認した俺はオーバーアシストを終了、通常モードに戻る。

 

「オラァ!」

 

 対艦ライフルを仕舞い、左手で一夏の首を掴み、ヒートホークを頭に叩きつける。

 

 -ガァン! ガァン! ガァン!-

 

 何度も金属音が響き、そして俺の勝利を知らせる放送が鳴った。

 

「…痛て、やるな、鉄平。」

 

「そりゃあ、お前の姉貴と死ぬほど試合したからな。 んじゃ俺はピットに帰るわ。」

 

 倒れた一夏を助け起こし、背を向けて手を振った後にBピットに飛ぶ。

 

「お、お疲れ様です、鉄平さん。」

 

「あー、ありがとう。」

 

 ピットに帰った俺を迎えたのはセシリアさんだ。

 

「見事な試合でしたわ。」

 

「そうか、そりゃあ重畳。」

 

 ISを解除しながら返事をして、帰ろうとしたところで、セシリアさんに呼び止められる。

 

「あ、あの。 鉄平さんはどんな決意で戦っていらっしゃるのですか?」

 

 俺の、決意。 そんなもん決まってる!

 

「俺にはよ、付き合ってる奴がいんだわ、俺には勿体ねえようなめちゃくちゃ可愛いやつ。 だから俺は、そいつが恥じねえように強くて優しくて格好良くなりたいんだ。」

 

「お付き合いをしている人が?」

 

「おう、今度写真を見せてやろう。 スペシャル可愛いぞ?」

 

「は、はい。 それはまた今度…」

 

 俯いて黙りこくるセシリアさん。

 負けたのがよっぽどショックだったのか?

 

「んじゃ俺、この後しなきゃいけないことあるんで帰るわ。 セシリアさんも早く帰れよ?」

 

「は、はい。」

 

 んじゃ、と右手を上げてからピットを出る。

 因みに、制服はISの拡張領域から直接着用した。

 ポケットから取り出したるは携帯電話。 そのアドレス帳のある番号をタッチすると、2コールで電話がつながった。

 

「あ、更識先輩ですか? …ええ、浅間です。 …はい、御察しの通りで。 ええ、はい。 …この後生徒会室ですね、わかりました。 失礼します。」

 

 電話を切って、ポケットに再度しまう。

 さて、俺がクラス代表になることはないだろう。


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