今までどれだけの人に晒し者にされただろうか。
今までどれだけの人に蔑まれただろうか。
今までどれだけの人に暴力を振るわれただろうか。
そんな事はとうの昔に記憶の底に蓋をした。
思い出したくもない、あの数々の悪夢。
人とはなんて醜いんだろう。
人とはなんて愚かなんだろう。
平気で人を騙し、集り、貪り、そして棄てる。
こんな世の中は間違っている。
こんな世の中あっていいはずがない。
こんな世の中は変えなければいけない。
そう思っていた。
だが、違ったんだ。
間違っているのは世の中じゃない。
人なんだ。人がいけないんだ。
どうすれば、人を変えられるか。
わからない。
どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば。
そうだ、変える必要なんてない。
ゴミは捨てるもの。
そう分かった途端、何かが開ける音がした。
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真夏の深夜の街。
昼間の茹るような暑さから解放され、心地よい風が残業帰りのサラリーマン達を労うように吹いていた。
お疲れムードで帰宅する人や職場の仲間と愚痴を零しつつ居酒屋に入る人。
しかし、それだけではない。
「おーい、聴いてんのか?」
「さっさとしろよ、オッサン」
「びびって声も出ねえか?」
「ひ、ひい!」
一人の中年男性を若者が3人がかりで囲んでいた。
若者はポケットに手を突っ込み、腰を落として中年男性を睨みつけ、その中の一人はナイフをちらつかせていた。
中年男性はへっぴり腰で後ずさりするが逃げることは不可能に近いだろう。
やっと残業が終わり解放されたのは夜中。
もう既に寝ているであろう嫁と娘が待つ家に帰宅する途中、
俗に言う親父狩りである。
「さっさと金だせっつってんだろうがよお!」
「死にたくなきゃ出した方が身のためだぜ?」
「どうせ金使うならオッサンより未来ある俺たちが使った方が世のためになるだろうが!」
「許してください!許してください!」
中年男性は泣きながらその場にへたり込む。
「許してくださいだあ!?許して欲しけりゃ金を出しな!」
「俺たちも鬼じゃねえからな、一人一万で許してやるよ!」
「おら!鞄寄越せ!」
中年男性から鞄を奪い、財布を抜き出す。
中身を確認した若者が叫んだ。
「ああ!?二千しかねえじゃねえか!」
「はあ?ふざけてんのか、オッサン!」
「本当使えねえな、もうやっちまうか。」
そして二千円抜き取り財布を中年男性に叩きつける。
「あーあ、三万あれば助かってたのによお。」
「まあ、持ってなかった自分を恨むんだな。」
「何発もつか知らねえけど、簡単にくたばんなよオッサン。」
若者が詰め寄り、中年男性を威圧する。
一人が今まさに殴りかかろうとしたその時、
「何をしてるんだ?」
後ろから声をかけられた。
その場にいた全員が振り返ると、一人の男が立っていた。
二十代前半くらいだろうか、ワイシャツに黒のベストと黒のパンツを着こなし、優雅という言葉が似合う程に堂々とした姿。
しかし、そこに異質なものが一つだけ。
顔に付けられた真っ白のお面だ。
三日月の様に裂けた目と口。
両目の下には黒い涙の雫が描かれていた。
「ああ!?なんだテメエは!」
「変な面しやがって!頭おかしいんじゃねえか!?」
「正義の味方ごっこのつもりか!?馬鹿じゃねえの!」
囃し立てる若者達。
だが聞こえていないのか、無視をしているのかスタスタと若者に近づく男性。
「俺たちとやろうってのか!?」
「いい度胸だ、相手になってやんよ!」
「かかってこ───ぐふっ!」
かかってこいや!と言いかけたそれは男性の拳に阻まれてしまった。
拳は若者の腹を抉り、よろめいたところを首に強烈な回し蹴りがとんでくる。
二メートルほど蹴り飛ばされた若者の首はあらぬ方向に曲がり痛みに耐えきれず気絶した。
「おい、てめえなにしやが───ぐあっ!」
仲間をやられた若者は男性に向き直るが目にも留まらぬ速さで二人目を武術らしき技で地面に叩きつける。
後頭部からコンクリートに叩きつけられた若者は頭から血を流し倒れ込んだ。
男性は最後の一人だと言わんばかりにもう一人の若者に目を向けた。
「ひ、ひい!やめてくれ!もう、しない!だから見逃してくれ!」
尻餅をつき、恐怖のあまり顔中から汁を撒き散らしながら後ずさりをするがやがて壁際に追い込まれ逃げ場がなくなる。
「嫌だ、やめてくれ!嫌だ!嫌だ!死にたくない!死にたくない!」
男性はふう、と呆れたようにため息をつき、若者の首を壁に押し付けながら掴み持ち上げる。
「ぐっ!ううっ」
「お前は助けてくれと言われた時に助けたのか?」
そう静かに告げると若者の手からナイフが音を立てて落ちる。
男性はナイフを拾い上げ若者の心臓にゆっくりと突き刺した。
「あ゛あ゛あ゛っ!」
若者は呻き声をあげながら崩れ落ちた。
「ふふっ。これでまた一つ世の中が綺麗になった。」