彼の2度目の事故は思いがけない出会いをもたらす。 作:充電器
2話目です。
楽しんでいただけたら幸いです。
それではどうぞ。
「んっ……んぅ…うぅ…………」
眼が覚めると、知らない天井が目の前にあった。
どこだここは。
「目は覚めましたか?どこか痛む所はありませんか?」
声の方を向くと、白衣に身を包んだ知らない女性がいた。
「先生に報告しなきゃ」
数分後、俺は訳も分からぬまま数種類の検査を受けていた。
☆☆☆☆☆
検査を受け終わって、今は病室のベットで横になっている。
検査後、主治医の先生から俺がトラックに撥ねられたこと、その結果左脚を骨折したことを教えて貰った。
また骨折したのか。しかも何かを助けて。入学式のときと殆ど同じだな。
全く変わってない、そう思い思わず自嘲の笑みが溢れる。
医者によれば、1ヶ月は入院しなきゃならないらしい。
あ〜、この1ヶ月は完全に授業から離れてしまう。ノートを見せてくれるような友達もいないし。あっ、でも戸塚に頼めば見せてくれるかも。そうだ戸塚に頼もう。よし、早速メールを………なんて送れば良いんだ………。普段自分からメール送んないからわかんないよ。あぁ、俺の素晴らしき計画が…。
この時、同時にあいつらなら……という考えが頭をよぎった。
だが、俺はそんな考えをすぐ捨てた。
そんなことはあり得ないのに。あるはず無いのに。自分でその可能性を潰したのに。
まだそんな事を考えている自分に腹が立つ。
そんなことを考えてたら、ガラガラッ、勢いよく部屋のドアが開いた。
「お兄ちゃんっ」
「小町か。どうしたそんなに慌てて」
「さっき主治医の先生から、お兄ちゃんが目を覚ましたって家に連絡貰って…ヒック……それで、それで…うわぁぁん」
小町は急に泣き出して、俺に抱きついて来た。
心配掛けちゃったな。妹を泣かせるなんて千葉の兄失格だな。
☆☆☆☆☆
「落ち着いたか」
「うん…」
「心配掛けてごめんな」
「ホントだよ。お兄ちゃんがトラックに撥ねられたって聞いた時は、本当にビックリしたんだからね。しかも、全然起きないし。丸2日寝たまんまだし。これ、小町的にポイント低いよ。小町ポイント大暴落だよ」
「本当に悪かった」
そう言いながら、俺は安堵していた。事故に遭ったおかげで、小町には修学旅行の事を悟られずにすみそうだったからだ。
え、ちょっと待って、丸2日寝てたの、おれ。事故に遭ったのが土曜日だから……。最悪だ。プリキュア見損ねた。
「今週のプリキュアなら録画しといたよ」
「マジかっ」
「大マジだよ。お兄ちゃんがプリキュア見損ねた時の為に、小町が録画しといたんだよ。見逃したらお兄ちゃん悲しむだろうと思って。あっ、これ小町的にポイント高いっ」
「流石小町だ。愛してる」
「小町はそうでも無いけどねっ」
ひどいな。
なんてバカなやりとりをしていたら、いつもなら社畜ってるはずの両親がやって来た。
「八幡大丈夫かっ」
「八幡っ」
「親父、母ちゃん。心配掛けてごめんなさい。それと左脚が折れてるだけで、体の方は全然大丈夫だ」
「そう、なら良かった」
「それにしてもお前はまた何かを助けて事故に遭ったのか」
親父にそう言われて、俺は事故に遭う直前に女を突き飛ばしたことを思い出した。
「そう言えば、あの女はどうなったんだ」
「お兄ちゃんのおかげで無傷だって」
「そうか、なら良かった」
「八幡、あなたもっと自分の心配もしなさい」
小町のことを何かと優先する両親から心配されてる……。何だかんだ言っても愛されてるんだな。そう考えるとなんくすぐったいな。親父に愛されるって気持ち悪いけど。
「あ、そうだお兄ちゃん」
「何だ」
「お兄ちゃんが助けたその女の人、今から挨拶に来るって」
「え、マジ」
「マジマジ。お兄ちゃんが目を覚ましたって伝えたら、今日伺いますって言ってたもん」
コンコン
「あ、噂をすれば。はーい、どーぞ」
「失礼します」
入って来たのはあの女だった。しかも総武高校の制服を着ている。
そいつは俺のことを確認したら、急に頭を下げた。
「大吉梓(おおよしあずさ)と申します。この度はあの事故から助けて頂きありがとうございます。また、そのせいで事故に遭わせてしまい誠に申し訳ありません。本日はお詫びとお礼の為にお伺いしました」
いきなり頭を下げられ驚いてしまいながらも、なんとか言葉を返す。
「あ、頭を上げて下さい。こっちもいくら助ける為とはいえ、突き飛ばしてすいませんでした」
「さてと、じゃあそろそろ行くか。当事者同士で積もる話もありそうだし」
「え、ちょっと待って。急過ぎない。2人っきりにしないで」
「小町帰るわよ」
「はーい。じゃあねお兄ちゃん。また来るよ」
「待ってくれ〜〜」
そう言って小町達は帰ってしまった。
おい、ふざけんなよ。この状況どうすれば良いんだよ。
沈黙が続いて欲しくなかったから、立ちっぱなしの大吉に声を掛けた。
「取り敢えず、座ったらどうですか」
はい、そう言って大吉は椅子に座った。
「えっと……比企谷八幡です」
「大吉梓です」
「………」
「………」
空気が重たい。会話が続かない。続けないと。
そこで俺はさっきから気になっていた事を尋ねた。
「その制服、総武高校なんですね」
「はい、そうですけど。どうして……あ、もしかしてあなたも総武高校なんですか」
「はい、そうです」
「ホントですか。何年生ですか。私は2年J組です」
「そしたら同じ学年ですね」
「そうなのっ」
うわ、こいつ同い年っていう分かった瞬間、敬語やめやがった。じゃあ俺も敬語やめてやる。
「ああ、2年F組だ」
ていうかなんなのこいつ、さっきまでしおらしかったのに、急に態度変えて。お詫びとお礼を言いに来た奴の態度とは思えないな。
「比企谷くん」
「何だ」
「あの時私のことを助けてくれてありがとう。君だけ助かる事も出来ただろうに態々助けてくれてありがとう」
そう言って、大吉はまた頭を下げた。
なんだ、ちゃんと出来んじゃん。
「君が入院したのは私のせい。だから、困ったことがあったら何でも言って。私に出来ることだったら、なんでも言ってくれて構わないから」
なんでも、という言葉を聞いて、チラリ、と大吉のことを盗み見る。
髪はショートボブで、顔は結構可愛いな。雪ノ下、由比ヶ浜程ではないが、まあまあ整っている。中の上って感じか。それで、出るべき所はそれなりに出てて、引っ込むべき所はそれなりに引っ込んでる。身長は大体160位かな。
「あ、そうだ。比企谷くんは入院中の授業のノートどうするつもりなの。良かったら、私貸すよ」
中々魅力的な提案だ。けど俺には戸塚が……。でもまぁいいか、態々言ってくれたんだし。
「じゃあノート貸してくれ。どうしようか困ってたんだ」
「いいよ、これぐらい。それで、他には何かないかな」
「無いな」
「そっか。じゃあ、ノートは明日持ってくるね」
「分かった。宜しく頼む」
「だからいいって。それと……これ」
そう言って、大吉は書店で俺が譲ったラノベを差し出した。
「譲ってくれてありがとう。まだ読んでないでしょ。だから、はい」
「おお、マジか。続き気になってたんだよ、ありがとな」
「え、じゃあなんで私に譲ってくれたの」
「それは、お前がすごい物欲しそうにこれを見てたからだよ」
「あ、そうなの。なんかごめんね」
「別にお前だから譲った訳じゃない。物欲しそうだったから、譲っただけだ。気にすんな」
「そうだけど、比企谷くんは優しいね。本当にありがとう。じゃあ、私帰るね。明日も来るから。バイバイ」
そう言って、軽く手を振りながら大吉は帰って行った。
騒がしくて、ちょっと失礼な奴だったな。
☆☆☆☆☆
私は今日、数日前、私を事故から助けてくれた男の子に会った。
名前は比企谷八幡くん。ちょっと目がアレだけど、結構カッコよくて、優しい男の子。
明日から彼に私のノートを見せることになった。いつも以上に綺麗に板書しなきゃな。明日から頑張ろう。
私の足取りは普段より軽かった。
いかがだったでしょうか。
結構無理矢理でしたかね。
この作品はアンチではありません。そういうふうに見えるかもしれませんが。
1話目でオリヒロの容姿等について書かなかったのは、単純に自分が忘れていたからです。申し訳ありません。
間違いを指摘して下さった方、ありがとうございます。
誤字脱字などご指摘の程よろしくお願い致します。
それでは、また。