IS〈インフィニット・ストラトス〉闇の少女とペンダント   作:tamatyann

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箒の行動と一夏の反応


一夏と箒

 

 織斑一夏は騒がしい教室の中で、一言も話さずに座っていた。 その様子は一見すると『話しかけるなオーラ』を出しているようにも見え、周囲では話しかけずらそうな女子が一夏のほうを横目でチラチラと見てくる。

 

 今日はIS学園の入学式である。

 この学校に入学した一夏の友人は一人いるだけだったが、この事が一夏に『話しかけるなオーラ』を出させいる訳ではなかった。

 実際一夏はその様なオーラを放つ人間ではなく、新しい環境に意気揚々と飛び込むタイプだ。

 

 だが、そんな一夏が一番辟易していたのは周囲の状況だった。

 それもそのはず、一夏が座っているのは教室中央の一番前と言う名の全体から視線が集中する席。 しかもクラス全員が女子と言う四面楚歌な状況なのだから……

 

 ヒソヒソと後ろから声が聞こえたので一夏がその方向に振り向くと全員が全員ソッポを向く。

 

 そんな状況にうんざりして唯一の友人である箒と話そうとしても彼女自身の雰囲気が話しかけられる状態ではなく、一人寂しくしているしかなかったのだ。

 

 そんな様子なのだから友人に朴念仁と呼ばれた一夏ですらこたえるものがあり、教室に入ってからずっとこれなのだから一夏の雰囲気が悪くなるのは当然であり、思考が教室の事から離れるのは仕方がない事だった。

 そんなこんなで一夏は『話しかけるなオーラ』を知らず知らずの内に放出しながら目を閉じて、思考の海に飛び込んだ。

 

(どうせ今日も千冬姉はいねえし、夕飯は残り物のおかずで済ますか……)

 

 一夏が暇を潰すために考えていたのは、主に学校が終った後の夕飯の献立やスーパーの特売品の事だった。

 そんな事を考えていれば、男女比が極端に違うことや好奇の目で見られる現実から一時的にも逃避する事が出来た。

 目を閉じてから30分ほどした頃、唐突に目の前からおっとりした感じ女性の声が聞こえてきた。

 

「……じゃあ自己紹介をお願いします。 えぇっと、じゃあ富田さんから」

 

 一夏は静かに目を開けると、そこには眼鏡をかけた小さい女性がいた。

 名前がわからなかったので一夏は名札を探してみると、豊満な胸元に乗っかっていたそれを確認すると「山田」と言う名前の女性で、一組の担任の先生だと判明した。

 

(背は小さいのにデカイなぁ……)

 

 一夏は30秒以上にわたり視線を先生の胸元あたりに集中させる。 そして十分に堪能したのか気づかれない内にと、一夏は先ほどと同じ様に考え事に耽ろうとしていた。

 

 だがその時、左のほうに座っている箒の方から妙な視線を感じたのでチラリと彼女の方に視線を向けると、プイっと視線を逸らされてしまった。

 

(やべ、ばれたか?)

 

 バレたら過去の経験上、後で殴られる事が決定事項なので、一縷の望みを込めてそ知らぬ顔をしながら箒の様子を窺っていると、突然山田と言う先生から名指しされた。

 

「織斑君……織斑一夏君!」

「は、はい! えっと何をするんですか?」

 

 何かを話す様な感じだったので慌てて椅子から立ち上がると、先程よりも女子の視線が痛いほどに突き刺さる。

 

 一夏の素っ頓狂な返事に戸惑っているのが丸分かりの山田先生にこれ以上聞くにも聞けず、どうしようかと一夏が考えていると、突然右の席から福音が聞こえてきた。

 

「織斑君、自己紹介の時間ですよ」

 

 突然隣から話しかけられたのに驚いて声の方向を振り向くと、そこには山田先生より少し大きいくらいの小柄な体躯の女性が座っていた。

 髪は触ったら気持ちよさそうなふんわりした黒髪で、顔つきも日本人らしく小さくて愛らしい感じ。

 最近は押しが強いタイプが多く、あまり見なかったタイプだったので少しレアな感じがした。

 一夏は少しだけ隣の女子生徒をジッと見つめた後、後ろを向いて自己紹介を始めた。

 

「えっと、織斑一夏です。 趣味は料理と掃除で、好きなことは……」

 

 隣で助け舟を出されたのに「以上です」と、一言だけではまずいと感じた一夏は、普通の自己紹介を行った。

 いくつか質問をされてそれを返すと一夏の番は終わり、一夏はいすに腰掛けてから隣に座る黒髪の女子生徒に話しかけた。

 

「ありがとな、お陰で助かった。名前は?」

「留宮 カオ……トモカです。 さっきのは……気にしないでください」

 

 名前を言い間違えそうになって恥ずかしかったのか、トモカは顔を真っ赤に染めていた。 その様子に少しだけ加虐心がそそられたが、流石に最初から印象を悪くする訳にはいかなかったので、一夏は気にしていないフリをしながらトモカとの心理的距離を縮める為のアプローチを開始した。

 

「トモカって読んでもいい? こっちも一夏って呼んでほしいからさ」

 

 笑みを浮かべながら手を出すと、トモカは暖かく柔らかな手で握手を返してくれた。

 

「いいですよ、えっと、一夏さん?」

 

 戸惑った様子を見せながらも下の名前で呼んだトモカは、ファースト幼馴染やセカンド幼馴染とは全然違うタイプでなんとなく可愛くて癒される感じだった。

 

 そうやって一夏がトモカの事を記憶に情報を書き込んでいる時、ふとトモカのことが何かの記憶の奥深くに引っかかった。

 

「そういえばさ、どこかで会わなかった?」

 

 一夏がそう言うとトモカは一瞬だけ口元をひくつかせたが、すぐに微笑み返してきた。

 

「……いえ、無いと思います」

「そうか? でも――いっ……」

 

 強烈な炸裂音と共に激痛が一夏の後頭部を駆け巡った。 痛みを抑えるために咄嗟に両手で頭を押さえながら正面を向く。

 すると一夏の目の前には『張飛 女ver.』と呼べる雰囲気を纏った女性が仁王立ちしていた。

 

「げっ、張飛!」

 

 一夏は思わず思ったことを口にすると、『張飛 女ver.』は呆れ顔をした。

 

「誰が三国志の中でも有名な乱暴者か、馬鹿者」

 

 そう言うと、『張飛 女ver.』もとい織斑千冬は再度一夏の頭に出席簿アタックを食らわせた。

 一夏が頭を再度押さえながら痛みに耐えていると、千冬姉の標的は隣のトモカへと移っていた。

 

「何を考えていた?」

「いえ、何も……」

 

 トモカの弁明にも関わらず、容赦なく千冬姉は出席簿で頭を攻撃していた。 それを見た、一夏は身内の攻撃性が他所様に向けられているのに驚いていた。

 自分に対して行ったのは身内だからだろうと考えていたがそうではなかったらしい。

 

「イタッ!」

「余計なことを考えるなよ、留宮」

 

 出席簿アタックにより涙目なトモカを見て、一夏はゾクッと体を震わせた。

 

「あっ……」

 

 一夏がトモカを見ていると、何かペンダントらしきものがトモカのポケットから落ちた。 一夏が親切心からそれを拾おうとすると、トモカは慌てて一夏が触る前に回収してポケットに大事そうにしまいこんでいた。

 

(あれは何か大切な物なのか?)

 

 一夏は少しだけ硬直していたが、何事も無かったように前を向いて千冬姉や山田先生のありきたりな話を聞き流していた……

 

 

 しばらくして二人の先生が教室から出て行ったので、隣で伸びをしているトモカに話しかけることにした。

 話題も無かったので、とりあえず一夏は廊下の外に埋め尽くさんばかりにいる女子の事を話題にすることにした。

 

「おい、トモカ」

「どうしたの一夏君?」

 

 トモカは無邪気に首をコテンと傾げながら一夏の方向を見ていた。

 すると、周囲の女子からの視線が一点に一夏とトモカの方に集中したのが分かったが、一夏はそれを無視した。

 

「あれって俺目的なんかじゃないよな?」

 

 一夏は適当な事を言いつつトモカに話を振った。

 

「一夏君……自分の命は大切にしてね」

「いきなりどうした?」

 

 

 一夏の予想していたのとは違い、トモカは素っ頓狂な内容の言葉を返してきた。

 突然、警告じみた話をされて一夏が戸惑っていると、トモカは半ば呆れた様な顔をしながら言葉を紡いだ。

 

「今の自分の立場分かってます?」

「へっ……」

「一夏君が男で唯一ISが乗れるから。 織斑先生の弟さんじゃなかったら、もしかすると人間モルモットにされてたんですよ。 今だって全世界がデータ欲しがってるのに……」

 

 トモカの説教はまだまだ続きそうだったので、一夏は適当にトモカに質問を返した。

 

「だいたい……」

「あれ、千冬姉と俺の関係なんか言ったっけ?」

 

 そう言ってトモカが考えている間に、チラリと後ろのほうにいた箒に目配せすると、箒はやや不機嫌そうな顔をしながらこちらへと近づいてきた。

 

「あれだけ気兼ねなく叩かれたり、ツッコミをしたりしてたら何となくわかるの」

「そうか……」

 

 そうやって生返事を一夏が返しているうちに、箒が真後ろにまで迫ってきた。

 ナイスアシストと一夏は思いながら、箒の言葉を待った。

 

「……ちょっといいか?」

「箒か?」

「あ、あぁ。 そ、それよりも早く廊下に来い」

 

 箒はそう言うと、一夏の手を掴んで引っ張った。

 なので一夏がそれに追従して動こうとすると、突然トモカが耳元で囁いてきた。

 

「私、一夏君が心配なの。 あんな奴と一緒だったら……心と身体、いただいちゃうからね?」

 

 あんな奴というのが誰かはわからなかったが、知り合って間もない可愛い女の子に唐突にそんな事を言われて、一夏の心臓は少しだけ鼓動を早めた。

 思考が一瞬停止した一夏を箒が強引に引っ張って何とか教室から離脱することに成功した。

 

 そのまま引っ張られて人気がそこまでない廊下に連れて行かれると、ようやく箒は手を離した。

 

「……助かったよ、箒。 あと、去年の剣道大会優勝おめでとう」

「あぁ……というか何で私が優勝したことを知ってるんだ?」

「何でって、新聞に載ってたし……」

 

 一夏がそう言うと、箒はギロリとこちらを睨んできた。

 

「……まあいい、それよりさっき一緒に話していた女には注意しておけ」

「なんでだ?」

「あいつは胡散臭い……と言うか危険人物に違いない」

「まさか、唯の可愛い女の子じゃないか」

「唯の可愛い女の子が殺気なんぞ出す訳ない!」

「いやいや……箒の気のせいだろ」

 

 一夏は半ば呆れながら箒の言葉を聞き流していた。

 

(会わない間にずいぶんと妄想癖になられて……)

 

「……信じないならそれでいい。 私が何とかする」

 

 そう言うと、箒は一夏の放置して先に教室に戻ってしまった。

 箒の後ろ髪が見えなくなったところで一夏はため息をついた。

 

「……はぁ、なんか悪い事してしまった気分だ」

 

 そう言うと、一夏はノロノロと教室へと戻っていった……

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