IS〈インフィニット・ストラトス〉闇の少女とペンダント 作:tamatyann
トモカが監督室から戻りピットに併設された更衣室に戻って見ると、一夏は既にシャワーを浴び終えて着替えをほとんど終らせていた。
トモカのロッカーは一夏のロッカーの真向かいだったので、仕方なく一夏の後ろに向った。
一夏を見た時にトモカは一瞬寒気を覚えたがそれを取り繕うようにニッコリと笑ってロッカーの前に立った。
無言のままロッカーを開けると、一夏の眼前で着替えを始めた。 異性の前で着替えるのに多少の抵抗があったが、ただ身体を拭いてジャージを着るだけなので一夏にリップサービスをする事にはならないとトモカは考えていた。
汗を拭くためにISスーツの首元を開いてタオルで拭いたりしていたので一夏はトモカに背を向けていたが、ロッカーに備え付けられた鏡でトモカがジャージを着るまでじっくりと観察していた。
気持ち悪い視線を感じながらもトモカはジッと我慢しながら着替えを続けていた。
(今日だけは我慢、我慢……)
トモカの思考の中心はこの後に一夏と約束した午後の事で一杯だった。
一流ホテルのケーキ食べ放題(5800円)を奢ってくれるんだから我慢しないと……
トモカはネットで見た広告の写真に写った何種類もの美味しそうなケーキを思い浮かべて思わず笑みをこぼした。
だが、トモカは一夏との約束を思い出して顔色を悪くした。
傲慢で独占欲の強いあの女(篠ノ之箒)のせいで一週間みっちりするはずだった訓練が半日しか出来なかったし、もしかすると一夏はバイキングにいくの止めるって言い出すかも……
不安になったトモカは対応策を練り始めた。
(リップサービスしている間に同意を得ておくほうがアンパイよね……)
そう結論付けるとトモカはわざとシュルシュルと布がこすれる音をピットに響かせながらジャージを脱いだ。
「はぁ、まだベトベトする……脱いでふかないと駄目かな……」
独り言を呟きながら上半身のISスーツを胸元近くまでまくってタオルでふき始めた。
すると、先ほどまでゴソゴソとロッカーを漁っていた一夏の方から「ゴクリッ」と唾を飲む音と共に視線が突き刺さってきたのが分かった。
十秒ほど素肌を晒すと、トモカは前かがみになっている一夏の視線に気付かないフリをしながら一夏に話しかけた。
「ねぇ、一夏……」
「なっ、なんだ?」
鏡で見ているのがばれたとでも思っているのだろう一夏は声を上ずらせながらロッカーの中身を片付けて誤魔化そうとしていた。
「今日の半日しか訓練できなくてごめんね、なのにケーキ奢って貰うなんて……」
トモカがしおらしく謝ると、一夏は急に安堵して吐息を吐いた。
「なんだ……じゃなくて、そんなの気にするなよ。 半日でもスゲー助かったから」
「ほんと? でもそれだけじゃ悪いかな……」
そう言いながらトモカは静かにISスーツを下ろしてお腹を隠すと、背を向ける一夏に満面の笑みを向けながら思わせぶりに口ずさんだ。
「……こっち向いてもいいよ?」
急なトモカの一言に一夏は身体を硬直させた。
10秒ほどそのまま両者は黙り込み、更衣室の中はエアコンの駆動音だけが響いていた。
そして一夏は一度息を深く吸い込んだ後、意を決したように勢い良く振り向いた。
目をつむっていた一夏が恐る恐る目を開けるとそこにはISスーツを着たまま顔を赤くしたトモカが居るだけだったので、一夏は困惑の色を浮かべていた。
「はぁ、なんだよ紛らわしい……」
ボソッと呟いた一夏の言葉の意味が分からない振りをしつつ首を捻った。
「紛らわしいってどう言うこと?」
トモカは無垢そうな笑みを浮かべながら質問した。
「いや、それは……」
戸惑う一夏を尻目にチャチャっとジャージを着たトモカは手早く荷物をまとめるとロッカーを閉めた。
「まあいいや、じゃあ一時に本土の駅に集合ね?」
トモカは一夏にそう伝えると一夏に背を向けて歩き出した。 すると背後から安堵の息が聞こえたがトモカは無視して更衣室を出た。
◇
トモカはジャージのまま手早く食堂でご飯を食べると、寮の自室でシャワーを浴びてべたつく汗を洗い流した。
一糸もまとわないままシャワールームから出ると、引き出しから取り出しておいた黒のレース柄の下着を身に着けた。
護身用のベレッタM92(拳銃)を太股につけたホルスターに装着すると、ブラとパンツだけの下着姿のままゴソゴソと服を漁り出した。
「何にしようかな? やっぱりお姉さま系? いやいや……さっきから無垢な感じの演技だったし清楚なお嬢様系のほうが……」
ブツブツと呟きながら自身の背丈ほどある姿鏡の前で服をとっかえひっかえしながら服を選んでいる。
結局、20分も時間をかけて決まったのが清楚系の服だった。
首もとが広いベージュ色のワンピースに緩めのカーディガンを羽織った姿。 靴はブラックのロングブーツで、ソックスとワンピースの間に生足が少しだけ見えるように意識した。
「……うん、満足!」
トモカは余韻に浸る間もなく急いで軽く化粧を乗せて寮から出て行った……
寮から出たトモカはモノレールに乗り、本土の駅前に到着した頃にはとっくに13時を5分も過ぎていた。
トモカが慌てて一夏を探していると、改札口の前で既に一夏は待っていた。
「ごめん一夏……まった?」
少し申し訳なさそうにトモカが答えると、一夏はにこやかに笑って紳士らしく対応した。
「いや、俺も今さっき到着したばかりだから大丈夫だ……行くぞ」
そう言うと一夏は突然トモカの手を握り、トモカを引っ張って歩き出した。
トモカは一瞬悪寒を感じたが、それよりも一夏の行動に困惑していた。
「いっ、一夏!? 手……」
一夏の唐突な行動に意図せず混乱したトモカは、次第に恥ずかしくなり不安げに一夏を見上げていた。
「手がどうした? 普通じゃないか」
一夏の発言にトモカは思考を停止させた。
「に、日本ってこれがスタンダードなの?」
「トモカは海外にいたからわからないだろうけど、そうらしいぞ?」
一夏が真面目に語るので、小さい頃の日本しか知らず、しかもずっと戦場だったトモカはそうした常識に疎かった。
一夏はトモカが一般常識に疎い事を分かっていたようだった。
一夏に肯定されても恥ずかしいものは恥ずかしく、徐々に胸の鼓動が高鳴ってきた。
これが常識ってどう言うことなの?
でも、普通なことを断って機嫌を悪くされたらケーキがなくなっちゃうかもしれないし……
トモカは一夏の手を振りほどきたい衝動に襲われていたが、一夏にケーキバイキング代を奢ってもらうことを考えてグッと堪えた。
だが、数分もしない内に耐え切れなくなってトモカは顔を伏せながら再び質問を返した。
「……本当に手を繋ぐのって当たり前なの?」
「友達の弾って奴によると、だ。 ……ほら、あっち見てみろよ」
一夏が手を繋いでないほうの手で指差した方向を見て見ると、何組かの男女のペアが手を繋いだり、肩を抱き合ったりしながら歩いているのが見えた。
それを見ると流石に嘘とは言えず、トモカはダンって誰よ? と思いながらも一夏が言うことを信じた。
「うん……今日は服とか下着とか見て、それでケーキを食べに行ってから帰る予定なんだけどいい? どこか行きたい所とかない?」
その後、トモカが午後からの予定を説明すると一夏は一瞬だけ戸惑った様な顔を見せていたがすぐに顔を取り繕っていた。
「流石に同年代のを選ぶのは……いや、問題ない」
一夏がそう言ったのを確認すると、二人は談笑しながらショッピングモールに向けて歩き出した。
だが、トモカは一夏と談笑しながら十数年ぶりの日本を満喫していたが、一夏はトモカと談笑しながらも携帯電話をいじっていた……
◇
「なあ、俺もここに入るのか?」
「えっと……なにか問題あるっけ?」
県内一の大きさを誇るショッピングモールに到着した一夏とトモカ。
ブラインドーショッピングをしながら何点か服を買うところまでは何も問題は無かった。
問題が発生したのは女性用の下着コーナーの前。
トモカがこれまでと同じように手を繋いだまま下着コーナーに入ろうとしたとき、一夏にストップをかけられた。
「いやいや、俺は男だぞ?」
ピンクや黒のブラやパンツを着たマネキンがちらほらと置かれ、先ほどから複数の女性客が一夏をチラチラと見ていた。
トモカは海外で生活していて、海外ではそこまで女尊男卑の流れが強くなかった為に女性用の下着コーナーに男子が入ることの問題がそこまで分からなかった。
逆に一夏の性癖や趣味嗜好を調べる手段として活用しようとしていたが、その調査対象がダダをこね始めたのだからたまらない。
本来は必要ない下着を買うのにわざわざ一夏を連れてきたのが無駄になるのだ。
「私は気にしないけど?」
「そう言う問題じゃなくて……」
一夏がチラチラ視線を向けながら話していたので、その方向に目線を向けるとそこには化粧を盛りに盛ったおばさんがいた。
おばさんの視線は明らかに一夏の方向を向いており、あからさまに一夏に対して行動を起こそうとしているのが目に取れた。
今日、一夏に何かあればホテルのケーキがオジャン。
同業者には見えなかったが、一夏に見せないために一夏を一度逃がすことにした。
トモカは一夏にばれないように非通知で一夏に電話をかけると、一夏の視線を携帯に向けた。
「一夏、携帯鳴ってるよ?」
「あっ、あぁ……分かった。 ついでにトイレに行ってくる」
一夏はそう言うと、携帯を片手にトイレの方向に向っていった。
しばらくして一夏が見えなくなると、トモカは太股に装着しておいたベレッタM92があるかを確認しながら、おばさんの方向に向って歩き出した。
「ねぇ、おばさん……私の彼になんか用?」
見た目が清楚系なのにも関わらずトモカはヤンキー風に尋ねながら、バックから取り出した特殊警防をカチャカチャと言わせながら不気味な笑みを浮かべていた。
「なっなによ? 私が何かしたとでも言うの?」
顔を引きつらせながら一歩下がったおばさんに、トモカは演技だろうと考え、ケーキバイキングを邪魔する不安要因を徹底的に排除する事に決めた。
「ちょっとOHANASIしようか?」
トモカは満面の笑みを浮かべながらおばさんを人気の無い非常階段におばさんを連れ込んだ……
◇
しばらくして顔や特殊警防に付いた血を拭うと、トモカは電話をかけ始めた。
数度のコールの後に電話に出たのは日本政府が用意していた公安側の協力者だった。
《トモカさんですか……今日は何の用で?》
普段道理の対応だったので、トモカは少しだけ遊び心を発揮して少し大げさに話し出した。
「一夏の護衛に当たっていたんですが、彼を何度も見て挙動不審だった50台の女を発見し、雇われの可能性もありましたので先ほど処分しました。」
《……は? 処分?》
困惑する警察官の反応を見て内心楽しみつつ、更に誤解を招くように誘導し始めた。
「えぇ、処分です。 銃は使いませんでしたから大丈夫でしょ?」
《銃はって……何をしたのかわかってるんですか、トモカさん》
「そういわれましても……非常に軽い事しかしませんでしたから別に問題ないかと……病院に運んだ後に取り調べはよろしくお願いします」
《はぁ? 死体をどうやって取調べしろと?》
「そこは警察のテクノロジーで……と言うか何で私が殺した事になってるんですか? 気絶させて拘束しただけですよ」
種明かしをすると、警察官は途端に脱力した声を発した。
《そうですか……もし殺したら数日は隠蔽とかで徹夜なんですから出来れば止めて下さいね》
釘を刺されたトモカは、気絶しているおばさんの場所を伝えると通話を切った。
そして時間も経ってしまったので、急いで下着コーナーへと駆けていった……
既に一夏は下着コーナーの近くで小さくなりながら待っていた。
「本当にごめん……」
そういいながら一夏の腕に抱きつく。 一夏の顔を見る為にトモカはそのまま上を向いた。
「うっ、かわぃ……ゴホッ、別に気にしてないぞ」
少しだけ顔を赤くした一夏を見た後、一夏を腕を持ったまま下着コーナーに引っ張っていった。
「ちょっとまて、心の準備が……」
そう言う一夏だったが、少しだけニヤケていたのをトモカは確認していた。
「一夏って際どいのが好きだったんだ?」
トモカは下着の入った紙袋を片手に持ちながらニコニコと一夏をいじっていた。
意外と一夏をいじるのが楽しくて下着コーナーに入ってから始終やっていたが、一夏も流石に限界になったのか切り札を出してきた。
「だから違うんだって……これ以上言ったらケーキバイキングなくすぞ?」
その言葉を聞いたトモカは流石に抵抗できずに肩を降ろして俯くしかなかった。
「ごめん、はしゃぎすぎた……」
シュンとして意気消沈したトモカは恨みがましい目で一夏を見ている。
急変したトモカの様子に一夏は戸惑いを感じているようだった。
「あっ、いやそうじゃなくて……」
気まずい雰囲気が二人の間に流れる。 トボトボと歩くトモカに対して一夏は流石にまずい事を言ってしまったと思ったのか、トモカの持っていた袋を代わりに持った。
「機嫌を直してくれたらケーキバイキングの後にクレープくらい奢ってあげれるんだけどなー」
そ、それは……
トモカの耳がピクリと動くと一夏は勝利を確信したかのように笑みを浮かべた。
「最近有名なクレープ屋さんがあるから言ってみようと思ってたんだけどなぁ……この調子じゃあ流石にそんな雰囲気でもないし……」
「だよね、早くホテルいこ? ねっ?」
急にトモカの機嫌は良くなって一夏の腕を掴んでショッピングモールからホテルへの移動を少しでも早くしようとした。
クレープだけでトモカの機嫌が変わった事を一夏に苦笑されたので、恥ずかしさを隠す為にもトモカの足が速くなったのは言うまでも無い。
◇
十分ほど歩いて大通りにあるホテルについた二人はフロントでレストランの場所を聞くと、ベルマンにレストランの場所まで案内してもらった。
トモカは海外の癖でベルマンにチップを握らせ、ベルマンが戸惑っている間にそそくさとレストランに入った。
「トモカ、何渡したんだ?」
「チップだけど」
「日本じゃあチップはいらないぞ」
「そうなの? 海外じゃあサービスを良くするのにチップは普通だったから……」
トモカがもったいない事したと思っていると、一夏は慰めの様な言葉を発してきた。
「気にするなよ、今から学べば良いんだから」
「そうよね、これからも教えてくれる?」
「それぐらいお安い御用だ。 あっ、今度何か奢ってくれよ」
「じゃあ、セシリアさんに勝ったら一つ言うこと聞いてあげる」
まあ、ありえないけどね。 と、トモカは内心つぶやいた。
楽しく談笑しながら二人は会計を済ませると、ケーキバイキングを思いっきり楽しみ始めた。
白くフワフワなイチゴのショートケーキからメープルが入ったシフォンケーキやりんごのタルト、果てはトルテやフィナンシェまで多種多様なケーキを食べていくと毎にトモカは表情を柔らかくしていった。
初めは一夏と楽しく話しながら食べていたが、次第に口数が少なくなり一人の世界に入ってしまっていた。
「さすが一流の……」
トモカは普段人に見せないほど頬が緩み、幸せオーラを拡散していた。
そんな様子を一夏は眺めながら紅茶とケーキを楽しむこと一時間半。 ようやく時間が来てバイキングが終了した。
「まだ食べたい……だめ?」
子供の様に一夏に軽く駄々をこねていたが、一夏は軽くいなしていた。
「この後おいしいクレープがあるから我慢しとけよ」
「うん……」
名残惜しそうな顔をするトモカを一夏は半ば引きずるようにしてレストランから出て行った。
その時、トモカがチップを渡したドアマンからチップを返されたのは言うまでもない。
とはいっても、それは一夏の懐に入ったが……
ホテルから出た二人は近くの広場にある移動型のクレープ屋の前に移動していた。
それまでにトモカの退行は戻り、その事を思い出してトモカは顔を真っ赤にしながら一夏の隣を歩いていた。
「ほら、あそこだ」
一夏はクレープ屋を指差していて、トモカはそれを見て目を輝かせる。
一夏はそんな様子を見ながらメニューを見て店員に話しかけた。
「すいません、ホワイトチョコバナナ二つください」
それを聞くと待ってましたとばかりに手早く二つクレープを作ると、一夏とトモカに渡した。
トモカはクレープを大事そうに持ちながらベンチに座った。 一夏もそれに倣って座ったのを見ると、トモカはパクリとホワイトチョコバナナのクレープを食べ始めた。
「あっおいしい」
「だろ、たまに千冬ねぇの為に買って帰るんだ」
トモカが聞きたくない名前だったが、クレープの誘惑に負けて無視した。
ベンチで二人、夕暮れの中でクレープを食べていると唐突にトモカが口を開いた。
「ごめんけど、先に帰っててくれない? この後少し用事あるから……」
「あぁ、分かった。 今日はありがとな」
「こっちこそ、色々ごめんね」
「いや、いいんだ。 じゃあまた明日」
「じゃあね……」
そう言うと、二人はベンチから立ち上がって別々の道を進み始めた。
トモカはクレープを食べながらしばらく歩いていると、忘れ物をした事に気が付いた。
「あっ、下着とか荷物渡したままだった……まあ何もしないだろうし明日でいっか」
問題を解決すると、トモカはビルの物陰に消えていった……
お久しぶりです。
更新が遅れてすいません…… 原因は主にテストとレポートです。
久しぶりなので至らない部分もあると思いますが何かあれば感想をよろしくお願いします。
結構主人公のトモカは甘いものが大好きです。
色々と経験している割にはウブで常識知らずのところもありますので……
次は一夏の反応ですね。 悶々する一夏の様子を書きまくります。
今回のは半分ラフ版があったのでそれを改造しながら、下着コーナーからは書き下ろしで3時間半はかかりました……
今回はまだ早いですが、ネタが出ないと倍以上かかります。
「ネタ」があれば書いてくれれば実行するかもですよ? ←