IS〈インフィニット・ストラトス〉闇の少女とペンダント   作:tamatyann

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トモカとセシリアの決闘

 一夏とセシリア、そしてトモカが決闘する事になっている月曜日。

 

 トモカは試合開始の直前に山田先生が通達してきた事に呆れ返っていた。

 

「一夏君のISがまだ届いていないので先にセシリア・オルコット対留宮トモカの試合を先に行います」

 

 本来の予定ならば、一夏とセシリアが戦った後に二連続で試合があるはずだった。 だが、一夏のISが届かない為にセッティングを行っている最中のトモカにお鉢が回ってきた形だ。

 

「なんで遅れるのかは知らないけど、輸送計画ぐらい余裕を持たせておけばばよかったのに……」

 

 トモカはピッドで調整中だったISの武装調整作業を中断し、ブツブツと山田先生や織斑先生の悪口を吐きながらISのいくつかのデータを入力したり、諸元を変更するなどの最終セッティングを行う。

 

 そんな事をしている間に時間は過ぎ、ピットにトモカの大っ嫌いな悪魔の声が響き渡った。

 

「おい、留宮。 早くしろ」

 

 マイク越しに聞こえたのは織斑千冬の声である。 トモカは何度も舌打ちをしながら作業を中断すると、最悪の気分のままISを展開した。

 するとトモカの脳内にISからの情報が流れ込み、イライラとしていた感情は更に増幅した。

 

 

――戦闘待機状態のイギリス所属IS『ブルー・ティアーズ』を探知。 周囲に脅威度が高い敵影無し、よって『ブルー・ティアーズ』を第一警戒目標に設定。 敵戦闘タイプ中距離射撃型、よってEMC(電子対抗手段)による妨害の開始。 GCCS(汎地球指揮統制システム)による米軍の指揮統制の必要なし。 対空用ビット兵器群展開まであと30秒、ビット兵器群の権限をAIに移行――

 

 

「中・近距離装備の整備がまだだったのに……あーもうっ! イライラする……」

 

 飛び上がるまでの間にそのような事を何回もボヤいた後、トモカはピット上から敵のセシリアが待つ空域へと飛び上がった……

 

 

 ◇

 

 

「あら、あなたは何も展開していないようですけどナメていますの?」

 

 トモカが飛び上がってすぐ、セシリアが挑発まがいな発言を始めてきた。

 セシリアは2メートルを超えるレーザーライフルをブラブラさせながらカッコつけていたが、トモカはそれを見ながら飄々とした顔をしていたが機嫌が悪く、それを早く戦って発散させたくてウズウズと身を震わせた。

 

 だがそれを見たセシリアが怖がっているとでも勘違いしたのか、更なる妄言を吐いてきた。

 

「やはり猿は猿……こんなことで怖がるなんてトモカさんは臆病なのですわね」

 

 その言葉を聞いたトモカは先ほどの悪魔の声を聞いた時とは違い、妙な違和感を感じた。 

 トモカが先ほどの発言で爆発してもおかしくなかったが、なぜかイライラするよりも違和感の方を優先する気持ちが大きかった。

 

(あいつが偏屈な差別主義者だろうが私はどうでもいいんだけど、何か変なのよね……)

 

 トモカはそんな思考をしながら、脳内で現在使用できる装備を検索し始めた。

 アリーナ・ステージの直径は200メートルしかないので小型のレールガンや刀などの中・近距離の兵器が候補に上がっていた。 だがその大半が諸元調整などが行われておらず未整備状態と表示されていて、いまいち試合で使うには信頼性に欠けていた。

 

 現在調整が済んでいるのは遠距離系の武器とビットだけ、なのでトモカは仕方なくそれを選択した。

 

 メインウエポンとして選択したのはトモカが戦場でISを欺騙するために使っている 175mmカノン砲(自動装填装置付き)だった。

 

 本来は地上でISを使っていると思わせないための欺騙用に積んでいる兵器で、実際に使用すると最大射程が32700メートルという完全に遠距離用の砲である。

 しかも砲自体で10mを超える長さがある上にISを隠す為にゴツイ防盾(装甲板)やら自動装填装置まで付いているのだから、試合を行っている200m程しかないアリーナ・ステージでは場違い以外の何者でもなかった。

 

 トモカはそれを出現させると、宙に浮いたまま砲を正面に構えた。

 

 突如出現した威圧感のある兵器を見て呆けているセシリアに照準を合わせると、更に複数の支援・対空攻撃用のピットを出現させ始めた。

 一部の物はセシリアから死角になるように配置し、トモカもセシリアの攻撃を防ぐためにカノン砲の装甲板を挟んでセシリアと対峙した。

 

 セシリアからはカノン砲とその装甲板の後ろに隠れてトモカが見えない状態で、更にいくつかのビッドが出現し始めているように見えている。

 セシリアから見ればカノン砲の陰で震えてビットに攻撃を任せているようにしか見えないだろう、とトモカは予測していた。

 

「そんな鈍重な物で、このセシリア・オルコットが怯むとでも?」

 

 呆然としていたセシリアも徐々に回復し始めたのか、冷静にトモカが出現させたピットやカノン砲を確認し始めていた。

 その冷静な目からセシリアがわざとトモカを怒らせようとしている事が分かった。

 

 

――ビット展開完了。

 

 

 そうISからアナウンスされた時、トモカは目を細めながら印象操作を行っていたセシリアに暴言を吐いた。

 

「死に晒せ、この偏屈な white supremacis が!!」

 

 それを聞いたセシリアが顔をしかめた瞬間、試合開始の鐘が鳴り響いた……

 

 

 ◇

 

 

 試合の鐘がなってから十数分後。

 セシリアとトモカが戦っているアリーナのバリアー内側では、ここが学園とは思えないような風景が広がっていた。

 地面は数多のクレータ―が顔を覗かせ、白い硝煙や土煙がアリーナを覆い尽くすようにたなびいている。

 

 まるでそこが戦場と錯覚するような光景にセシリアは肝を冷やしていた。

 

 そこには試合開始前のような慢心しているように演技していたセシリアの姿はすでになく、冷や汗をダラダラと流しながら必死にトモカの攻撃を避け続けるセシリアの姿があった。

 

 トモカは地上数メートルの低さで、カノン砲の装甲板で身を隠しながら15秒に一発という頻度で重たい一撃を放ってくる。 更にトモカの周囲では彼女が放ったいくつものビットが警戒と攻撃をしながら果敢に飛び回っているのだ。

 

 対空用の兵器を積んだビットがセシリアを近づけない為に果敢に大量の弾幕を張りながらトモカの攻撃の支援を行う。

 

 一瞬でもセシリアが動きを止めれば、トモカの砲撃かビットからの対空射撃が雨あられと多数直撃する羽目になるのは目に見えていたので、セシリアは彼女が持つレーザー・ライフルでじっくりとトモカを狙うことすらままならなかった。

 なのでセシリアがビットを操ろうとしても、セシリアに技術的な問題があるため、ビット操作中は自身の動きが疎かになってしまう上に、ビットすら対空砲火で落とされてしまう始末だった。

 

 まだセシリアにトモカのカノン砲弾が直撃することはなかったが、至近距離で何度か爆発することがあった。

 逆にカノン砲弾が直撃しない代わりにビットからの対空砲火は何発も食らっていた。

 

 シールドエネルギーはそこまで削れてなかったが、ロックオンを知らせるアラートが何十も鳴りっぱなしだった。

 

 中空の対空陣地と化しているトモカの攻撃から必死に特殊機動を繰り返して逃れながら、セシリアは数分前の事を思い出していた…… 

 

 

 

 

 

 試合開始の数日前、セシリアは必死にトモカのデーターを漁っていた。

 

 しかし、何時間粘って英国軍のネットワーク上を探しても見つからず、軍の高官に依頼を出して一部の機密文書にまでメスを入れたが、トモカのISについての情報がほとんど出てこなかった。

 

 機密文書を探して出てきた本人についての物ですら出生と所属だけと言うお粗末な代物。 普通ならIS操縦者の詳しい情報が乗っているはずのそこには、「英米の条約により情報抹消」と書かれていたと高官から報告があった。

 

 なのでセシリアは一切トモカのISの情報も分からず、対応が取れない状態のまま戦う事になってしまったのだ。

 だからこそ、セシリアは試合開始直前に相手を挑発する事で少しでも隙を作ろうとしていた。

 

 だがセシリアの挑発にも関わらず、トモカはソルジャーの様に口調が悪くしながらも、狩りを行う獣のように冷徹な目でこちらを見ていた。

 こちらの挑発に反抗してなのか、逆にトモカは挑発するかのように馬鹿デカいカノン砲を持ち出してきたのだ。

 

 不敵そうに笑うトモカのその様子に、セシリアは警戒するようにトモカの武装やビットを観察しながら試合開始を待っていた。

 

 しかし試合開始の直前、トモカの暴言で一瞬だけ思考が止まってしまった。

 

 

 

 そして試合開始の鐘が鳴る……

 

 

 

 その直後に動き始めたのは思考停止していたセシリアではなくトモカだった。

 

 トモカは突如、後方から8機ものビットが出現させたのだ。

 数機は目視で捉えていたのだが、残りはトモカのカノン砲によって生じた死角に隠してあったらしい。

 

 セシリアが視界に捉えていたビットには、イージス艦に取り付けられているCIWSと呼ばれる対空用機関銃を装備したものだけだったが、隠れていたビットには数秒に一発の砲弾を打ち出す対空用の速射砲や対空レーザーなど脅威度が高い武装をしたビット群だった。

 

 それがチラリとセシリアの目に入ったときには反射的に急上昇していた。 セシリアが急上昇したその瞬間、トモカのビット群は対空射撃を開始した。

 セシリアが数秒前までいた場所に目を向けると、そこには大量の砲弾幕が飛び交っていた。

 

 それを見てホッと一息ついたセシリアだったが、トモカのビット兵器群はそんな事を許すことはなかった。

 

 トモカはビットを自立行動させているらしく、セシリアが急上昇した後に数秒前には移動した目標に照準を合わせていた。

 

 なので必死にセシリアは高速移動を繰り返して攻撃を避けていたが、進路を変えればビットはそれに追従して射撃したり、未来位置を想定して弾幕を張るなどしていた。

 時折、進路を強制的に変更させるために進行方向に弾幕を放って、セシリアが避けたところに砲弾を集中的に放つなどトリッキーな事も行っていた。

 

 チラリとセシリアが周囲を確認してみれば、これまで飛んできた場所に無数の花が開いているのがわかった。

 

 それだけならまだ問題はなかったが、問題はトモカの持っているカノン砲だった。

 

 トモカはいやらしいことにビットが逃げ場を減らした上でカノン砲を撃ってきたからだ。

 その砲弾は近接信管が装着されているせいか、セシリアの至近距離で爆風と破片をまき散らした。 たまにセシリアを大きく外した砲弾はアリーナのバリアに直撃したり、地面に大きな穴を開けていた。 

 

 セシリアは逃げてばかりだったが、逃げながらもトモカに向かってレーザー・ライフルで射撃しても、トモカの持つ装甲板をレーザーでは貫く事が出来ずにいた。

 仕方なしにセシリアが後方からビットに攻撃をさせようとしても、トモカ側のビットの対空射撃で数機が落とされてしまう始末。

 

 だから最終手段の嫌がらせとして、レーザーライフルでトモカのビットを打ち落としていたのだが、打ち落とされる度にそれと同型のビットがトモカによって展開されているので始末に負えなかった。

 

 遠距離主体のトモカだったので、近距離で戦うことが出来るのならば十分に勝機はあったのだが、近距離戦があまり得意ではないセシリアにとって、トモカに近づいて戦うのは得策ではなかった。

 かと言って遠距離戦が得意らしいトモカと距離を離して戦うのも厳しい物があった……

 

「むちゃくちゃですわ……」

 

 そして試合が始まって14分後、流石のセシリアもついに愚痴をこぼした。

 

 いつか弾切れすることを期待していたセシリアだったが、時間が経つほど逆に弾幕が濃密になっていくのだからセシリアが愚痴をこぼすのも仕方のないことだった。

 実際、トモカが発射している武器弾薬の量は一機のISが保管できる量やエネルギーをとっくに越えている。

 

 もしもここで諦めてセシリアが立ち止まれば蜂の巣になるのは確実で、絶対防御が働くからとわかっていても大量の砲火の火線に飛び込むなど正気の沙汰ではなかった。

 

 だが、動き続けてもじり貧である。

 

 10分ほどの戦いで爆風と破片を大量に食らっている。 セシリアのビットはいくつかが撃墜され、後部スラスターに何個もの鉄片が突き刺さっていた。

 

 自立行動するトモカのビットの攻撃しかまだ直撃してはいないが、何度か絶対防御が発動した上に常に全速で移動していたせいでエネルギーは半分近くにまで減少していた。

 

 さらにセシリア自身も少しづつ精神的に疲弊し始めていた。

 

「負けられない!」

 

 このままでは負けるとセシリアが確信して、セシリアは虎の子のビットを叫びながら呼び出した。

 

 レーザー兵器を主装備としたセシリアのISに唯一の実弾兵器として装備されている2機のミサイル射出型ビットである。 レーザーではトモカの装甲板に妨害されても、爆風ならばそれを無視して爆風を届けることが可能だった。

 

 セシリアはほかのレーザー型のビットに擬態させながらトモカの下方から接近させると、トモカのビットが放つ対空砲火をレーザー型のビットに誘因させながら出来る限り至近距離まで接近させ、ミサイルを大量に発射させることに成功した。

 

 それを見たトモカに焦りの表情が浮かび、セシリアは歓喜の表情を浮かべながらトモカを眺め始めた。

 

 ミサイルは合計10発ほど発射され、ミサイルを発射したビットは打ち落とされた。

 

 発射された内の2発はなぜかトモカの方向に向かわずに地面に墜落し、1発は対空砲火に喰われた。

 残りの7発は、トモカのビットが放出した銀色の紙の様な物や熱を持つ物体により、あらぬ方向に飛んで行ってしまった。

 

「フレアにチャフ・・・・・・」

 

 標的に向かうミサイルを誘惑する為、ビットから放たれたのはフレアと呼ばれる熱源探知式のミサイルをごまかす物と、チャフと呼ばれる金属の紙で巨大なレーダーに反応する雲を作ると言った代物だった。

 

 セシリアはミサイルを自分では操作せずに軍用のミサイルシーカーを流用していた為に起こった悲劇だった。

 

 最終手段だった実弾兵器まで無力化されたセシリアは、トモカが使うかも分からない装備まで用意していた事に愕然としていた。

 

 その瞬間、トモカは待っていたかのようにカノン砲をセシリアに直射していた。

 

 そして、爆音と共にその砲弾はセシリアの眼前に飛び込み爆発した。

 

 その爆風は絶対防御により吸収したが衝撃だけはすべて吸収する事は出来なかった。

 

「カハッ……」

 

 突然のGと衝撃でセシリアの息が詰まり、セシリアの意識は一気に朦朧となった。

 

 だが、トモカは追い打ちのためにビットやカノン砲による集中砲火を開始し、満足に動けないセシリアを袋叩きしていく。 

 

 大量の鉄礫や砲弾の豪雨にセシリアが晒されている中、絶対防御が働いてセシリアの生身の部分には爆風や破片が飛んでくる事はなかったが、絶対防御に守られていない箇所は吹き飛んだり、一見無事そうな場所にも異常や機能停止などと言った障害が発生している事が次々とセシリアのISから伝わってきた。

 

――後部スラスター破損、ビット装着具機能停止。 待避行動を取って下さい、待避行動・・・・・・

 

 様々な不具合を知らせる警報がセシリアに伝わり、セシリアは朦朧とした意識の中でも必死に待避行動を取ろうとした。

 

 それを見たトモカは更に追撃を加えようとして爆炎に紛れて接近し、カノン砲をふりあげていた。

 

 それが高速で振り落とされた時、セシリアは反射的にレーザー・ライフルで受け止めていた。

 

 バキッと嫌な音が聞こえ、ISからはレーザーライフル大破と報告が入った。

 

 こんな状況でもかろうじてセシリアは戦える状態にあったが、後の一夏との戦いを前にこれ以上の被害は許容できなかった。

 

 なので、セシリアは唇を噛みながら敗北を宣言した。

 

「負けを認めますわ……」

 

 それを言った瞬間、相手のトモカは追撃しようとしていた手を止めた。 周囲にはトモカのビットがぐるぐると回り、いつでもセシリアを蜂の巣に出来ると言わんばかりだった。

 

 

「あーあ・・・・・・もっと楽しめるかと思ったのに、残念」

 

 

 そう言ったトモカの顔は戦闘狂のような笑みを浮かべていた。 それを聞いたセシリアはビクッと体を震わせながらトモカを見ていた。

 

「とっ……トモカさん、そのISは何ですの?」

 

 セシリアはふと思った疑問を口に出した。

 

 その瞬間トモカは無表情になり、カノン砲の砲口を再びセシリアに向けなおしてから口を開いた。

  

「知らない事は知らないでいいんじゃないかな? 下手に秘密を知ると長生き出来ないよ?」

 

 その威圧感のある発言にセシリアは恐怖を感じて首を上下に振るとカノン砲はすぐに量子化された。

 

「そうよ、それでいいのよ……」

 

 そうトモカが口を開いた瞬間、会場に山田先生の声がアリーナ中に響きわったった。

 

「試合終了、勝者は留宮トモカさんです」

 

 そうして、セシリアの第一試合は終わった。

 

 




うーむ…… 戦闘描写は難しい。

 本当は一夏視点で甘々デートを書こうとしていたのですが、数日も悩んだ末に書くことが出来なかったので時間を進める事にしました。
 従って、羨ましいから書きたくなかったわけではないです←ここ重要!

R18のほうはブランクが回復したら進めていきます。

 意見やご感想があればぜひ一言でもお書きください。

 更新は出来る限り行いますが、自分は気分屋なので感想が増えるとやる気がアップするかも←オイ 


https://twitter.com/tamatyann220
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