稗田の見えぬ花   作:星影 翔

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運命は二人を隔てて

 私の名前は稗田阿七(ひえだのあしち)由緒正しき名門の家、稗田家の七代目当主をしている。私には生まれたときからある特別な能力を持っている。それは一度見たものを忘れないという能力である。これは私が死んでも後々生まれる私の子孫にその記憶が受け継がれる。いわゆる《《転生》》を可能にし、私はその能力を活用して、一代目である稗田阿一(ひえだのあいち)の時からずっとこの幻想郷の歴史を編纂(へんさん)している。しかしながら、この能力(ちから)を得てしまったせいか稗田家の女性は他の人々よりも寿命が短く、体も弱い。自分のことながら可哀想だと思う。しかも、この幻想郷の歴史を記録していく過程でどうしても大半が机の上での作業になるから、結局はこの家を殆ど出たことがないままその一生を終える。

 

 

 今も、私はいつもの家で、いつも使う筆を手に取り、いつもの見慣れた白い用紙に向かって筆を走らす。それが不満とは思わない。でもたまには退屈と思う時だってある。 そういう時は大抵…。

 

「お、今日もやってるね。」

 

 この人がやって来るのだ。

 

「当然よ。これが私の仕事なんだもの。」

 

 私はそう言って、縁側に座った彼の顔にえいっと一本。黒い線をいれてやった。

彼は何が起こったのか分からなかったらしく、私は思わずクスクスと笑いながら彼に手鏡を渡す。

 

「なんだこりゃ!!」

 

 それを合図にしたように、私はついに筆を落として笑い転げてしまった。

さすがに彼も私の爆笑に目を丸くする。でも私の笑いは止まらなかった。

 

 暫くして、ようやく笑いが収まってきた私に彼が一言。

 

 

 外に出ないか?

 

 

 

 

〇 〇 〇 〇 〇 〇

 

 

 

 

 彼に連れられ、やって来たのは私達の村を一望できるほど高い崖の上だった。私達はそこに一本だけ寂しく生えている木の上に座って豆粒みたいに小さい人々を眺めている。

 私はこの景色が好きだ。こうやって人々がどれほど小さいか、私が悩んでいるときにここに来ると益々自分が小さく感じて悩んでいることがどうでもよくなってくる。

 

「おーい!」

 

 下から彼の声が聞こえる。私は「はーい」のんびりした口調で返事をすると、下を覗きこむ。

 下では彼が笑いながらこちらに手を振っていた。さっきまで墨で真っ黒だった顔はもうすっかり落ちていた。

 

「もう帰るぞ~」

 

「ちょっと待って」

 

 私は靴を脱ぐ。そしてそれを彼に向けて落とすと、彼は見事全て捕まえて足元におく。続けて…

 

「いくよー」

 

 私も落下し、無事彼に抱かれる。

ありがとうと一言感謝の言葉を述べたうえで私達は歩き始める。

 夕陽が木々に生い茂る葉から零れ、時に眩しくなる帰り道、私達はただ手を繋いで帰った。彼とこうやって手を繋ぐことができるのもこれが最後かもしれない。そんな思いがあるせいでさっきまでのような会話ができない。きっと彼も同じ事を考えているんだと思う。

 

 

「あのさぁ…」

 

 話を切り出したのは彼だった。

 

「今度、()()するんだって?」

 

そうだ…、その話だ。私が一番聞きたくて聞きたくなかった話。

 

「えぇ、その通りよ。」

 

 その瞬間だけ、握っていた彼の手の力が強くなった。

 私は彼を見る。彼は強く何かを見るみたいに目を細くして少し下を向いていた。

 

 そして結局、私達はそれ以上何も話さなかった…。

 

 

 

 そして当日、私がこの村を離れる直前、私は最後に彼に会うことができた。彼は普通そうに振る舞おうとしているけれど、その背中には悲しみが、寂しさが感じられた。それを感じた私はただ胸の苦しみに耐えるだけで何も言えなかった。

言いたいのに言い方が分からなくなってくる。頭が真っ白になってくる。

 

「いつか、私が転生したらいつか…!!」

 

 そんなことしか言えなかった。

すると…、彼は私へ振り返って

 

「俺は、お前が幸せだったらそれでいい。」

 

 私は彼から離れていく。彼も私から離れていく。それが本当に苦しくて、胸が痛くて仕方がなかった。

 

 

 

(本当に…ごめんなさい……!!)




これは自分が好きな曲(竹ノ花)を小説にしたやつです。本当に神曲だと思います。
こんなすばらしい曲なのにこんな文章力ないやつが書いていいのだろうか(笑)。

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