せかんどらいふ   作:にゃー1

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10 金色の魔女と魔女の庭園

魔術実技大会まで残り5日、授業内容を把握し、黒板に板書された文字に補足を加えながらノートに書き記す。この世界の文字については完璧に習得できていた。これは(ひとえ)にリリーのおかげだった。

 

コネクトによる意識、思考の相互扶助。これによりリリーの知識である文字の読み書きといった基本的なものは完全に自分のものに出来ていた。彼女がこちらを受け入れてくれたことはまさに値千金、いくら感謝しても足りないくらいだ。

 

初日はごたついたものの授業が開始し、放課後を迎えてもこちらにちょっかいを出す輩はおらず拍子抜けするほど平和だった。ロティアナが動くにはこちらの手札が見えず、また強引に動けるほどにロティアナ自身には決定権がないことも大きいだろう。

 

それから魔術の授業というのは初めてなので、現状では不謹慎だと思うが楽しんでいる。

教師が口頭で魔術構築についての補足をしながら板書していくのを、ノートに自分なりの解釈も加えて書き記す。ちなみにこのノートだが、初日の授業を終えて、翌日の朝のこと。

 

(先生っ!授業のノート――っも~私感動しました!なんというかその先生に直接授業を受けているかのような・・・分かりやすくて、先生の解釈や補足点とかも的確で!その、なんていったらいいか・・・そう、先生はやっぱりとっても凄いってことです!!)

 

と、身内贔屓にも程がある大絶賛だった。

 

学生生活も三日目に入ったわけだが、未だこちらが接触したい人物には会えずじまいでいる。

ロハルド・クライン・ベルガモット。魔術アカデミー教員で魔術師としても名の知れた人物だと聞いている。ロティアナと同じく貴族の出で同等の爵位を持った人物らしい。

 

ただ、この人物が忙しそうにアカデミーを留守にしているのはこちらにとっては良いとも言えるし、場合によっては最悪にもなる。この一連の件のキーマンになりうる存在だ。

だからこそ早めにコンタクトを取りたいのだが、どうにもそううまくは行かないようだった。

 

授業を終え、放課後を迎えると足早に中庭へと向かった。

中庭の奥にはバラのヘッジに囲まれた庭園があり、色とりどりの花々が管理されて、風光明媚な装いとなっている。

にもかかわらず、閑散とした有様は勿体なさを感じる。

今の自分にはこの人気のない場所は有り難いとも言えるが、少しはゆとりを持って景色を眺めるということを学んでほしくもある。

庭園に備えられたベンチで一息ついていると、珍しくここに訪れる人物がいた。

 

「あら?貴方・・・不思議な魔術を使ってるのね」

 

リリーよりも若く、幼さを感じさせる少女がベンチに座っているこちらに嫣然(えんぜん)たる足取りで歩を運ぶ。陽の光にキラキラと輝く少女の腰まで伸びた金銀財宝を彷彿させる黄金色の髪は、絹糸のように絡み合うこともなく風にたなびく。小さな身体つきに似合わない艶やかさを感じさせる表情は、まるで神に祝福されたかのような顔の造形と相まって魔性じみた魅力を醸し出していた。

 

「己を偽り、他者を惑わし。願い、望み――貴方は何を求めているのかしら?」

 

アカデミーの生徒と同じ制服を着ているが、鎖骨のあたりに留め具の付いたマントは黒ではなく純白だった。リリーよりも小さな少女だが、恐らく、こちらが把握していないということは接点のない上級生と予想をつけた。

少女は姿形に似合わない口調で、核心を突いているのか将又(はたまた)、弄んでいるのか分からない質問を投げかけてくる。

 

「・・・飽く迄人の生を謳歌せしめる()に欲せず。ですかね」

「―ぷっ、アハハハ、面白いこと言うのね、貴方。それにとても不思議な雰囲気をしているのね、気に入ったわ、――フィーンアリア。フィーナと呼んでくれるかしら」

「はい、もちろん。私はリリー・ヴァンです、リリーと」

「ええ、よろしくね。リリー」

 

先程までの敵意にも似た警戒心を払拭し、フィーナと名乗る少女は朗らかに笑った。

 

「ここは気に入ったかしら?」

「はい、とても。ですけど、こんなにも素敵な場所なのに人気がないのは寂しいですね」

「ふふ、人気がないのは理由があるからよ、リリー。好き好んで魔女の庭に足を踏み入れる愚か者はいないから・・・だからここはこんなにも静か」

 

一つのベンチを分け合うように少しだけ距離を開けてフィーナと会話を続けていた。

こちらの言葉に彼女は少し得意気に笑い、この場所の特別さを説明した。

 

「魔女の庭・・・?もしかしてここは立ち入り許可が必要な場所だったりするのですか?」

「ええ、そうよ」

「―――それは知りませんでした。でしたら私は出ていかなければ・・・」

 

疑問を投げかけた自分に、試すような視線を込めて即答した彼女の答えに少し固まったが、直ぐに許可を取っていないことを示唆し腰を上げようとした。すると、まるで悪戯が成功したとでもいうように彼女は楽しそうな笑い声を上げた。

 

「アハハ、何を言っているのリリー。私は出て行けと一言でも言ったかしら?」

「・・・フィーナが魔女、ということですか?」

「そう、―――金色の魔女。そう冠されているわ」

 

金色の魔女。二つ名なのか、称号なのかは分からないが、その名前を口にするフィーナは無表情に長く美しい睫毛を揺らし、黄金の濃淡を模したような綺麗な瞳で遠くを見つめた。

 

「そうだったんですね、でもフィーナが魔女ならもっと人がいてもいいとは思いますけど」

「あら、どうして?」

「フィーナは私をすぐ受け入れてくれたじゃないですか」

「ええ、そうね。ふふ、リリー、もし貴方を私が気に入ってなければどうなったと思う?」

「そうですね、出て行けと言われたのではないかと思います」

「違うわ。リリー、もし貴方がこの魔女の庭園で主の機嫌を損ねたなら、この美しい景色を穢したその両の目を潰していたわ」

 

フィーナは美しい瞳に狂気を宿し、こちらに急速に顔を寄せると何の偽りもない言葉を告げる。

それは(さなが)ら魔女と畏れられる彼女に相応しい、畏怖とも言える気配すらあった。

 

「それは物理的にでしょうか?」

「・・・―ぷっ、アハハハ。あぁ可笑しい、貴方本当に良いわ。もっと早く見つけてればよかった」

「そんなに変なこと言ったでしょうか?」

「だってリリー、魔術的にその視力を奪っても物理的に両目を潰しても結果は同じじゃない?」

「後者はとても痛いでしょう」

「アハハハ、そうね痛そう。でも別に良いのよ。私は私が気に入っている人以外がどうなろうと」

「・・・」

 

脅すように話したかと思えば、楽しそうにこちらに親愛を向けたりところころと変わる感情と表情。彼女はこちらを飽きさせるということを知らないらしい。

 

「貴方も私は狂っていると思うのかしら・・・」

「さぁ、それはよく分かりませんけど。今自分がやっていることはフィーナの考えそのものだったので、少し再確認してみたんです。そうしたら反省するつもりも後悔もなかったので」

 

こちらの少しの沈黙に、何か思うところがあったのかフィーナは少しだけ悲しそうに目を伏せる。

だが、ただ自分は彼女の言葉にふと自分の行動を鑑みて見ただけだった。

 

「・・・、―――――そう」

 

自分の言葉にフィーナは年相応の童女のようにきょとんとすると、二度ほど瞳を(しばたた)かせ、手に入るはずのないものを得た望外の喜びと驚きを胸に満ち足りたと言わんばかりの表情で呟いた。

 

「あぁ、悔しい。貴方のような素敵な子がいたなんて・・・ここを旅立つ間際になって出会うなんて、女神は存外にいじわるね」

「卒業ということですか?」

「ええそうよ。私は6つの時にここに強制的に入学させられたの。今年で11になったけれど実はリリーよりも年下だったのよ、まぁ見た目通りといえばそう見えてはいたかしらね」

 

確かに、見た目通りといえばその姿は年相応だろう。だが、その身にまとった雰囲気や異彩を放つ魅力では彼女の年齢を正確に言い当てることは難しいだろう。

しかし、先輩だとは予想をつけたものの、まさか最上級生だとは思いもよらなかった。

 

「私は特別なんだそうよ。生まれた瞬間に特別っていうタグを貼り付けられ、幼いころから朝も夜もなく知識を詰め込まれ、挙句こんなつまらない場所に押し込められて――そりゃあ性格も捻じ曲がるわよ」

「私はフィーナの性格が捻じ曲がってるなんて思わないですけど。貴方と話すのは楽しいですよ」

「・・・ふふ、リリー。ありがとう私もよ」

 

そっとこちらの手を取り、フィーナは柔らかく微笑みを浮かべていた。

それからそっと手を離し、腰に備え付けた懐中時計を開くと、そろそろ時間だわ、と名残惜しげに呟く。

 

「実技大会が終われば、直ぐに卒業式が来るわ。それに1年のリリーは卒業式には参加しないから・・・会えるのは後数日になるわね。・・・また来てくれるかしら?」

「はい、もちろん。またここでお話しましょう、フィーナ」

 

こちらとしては断る理由もないので自然に微笑みそう告げる。それを見た彼女は満足そうに頷くと背を向け、振り返ること無く歩みを進めた。

 

 

「・・・ええ、また。――――魔女の庭で逢いましょう。リリー・・・」

 

 

ーAnother Viewー

こんなにも気分が良いのはいつ以来だろう。

あの庭園は私だけの場所だった。

そこに無遠慮に立ち入った人物を最初はどうしてやろうかと思っていた。

でもその身の力を隠すように繊細に魔力を編み込む、何のためにやっているのか掴みきれない、魔術とは(およ)そ呼べない不可思議な行動に少しだけ興味を抱いた。

 

そして私は彼女に問いかけた。

何のためにそんなことをしているのかは知らないけれど、貴方は何の目的があるのかと。

そうすると彼女は、人生楽しむこと以外何もないよと言ってのけた。

私はその短く語る様を見て、可笑しくなって笑ってしまった。

その語り口や、柔らかい表情、そしてそれらが際立たせる不思議な雰囲気。私は彼女のことを一気に気に入った。

 

中庭を抜け、校舎に入ると雑然とした喧噪にうんざりとするが、今日は気分が良いので不機嫌な表情を浮かべることはない。階段を登り、最上級生である5年の教室へと向かっていると、数人の同級生達がその顔に嘲りを浮かべ会話をするのが目に入る。

 

なんて醜い表情だろうか、見るのも無駄だとその場を素通りしようとしたまさにその時だった。

――名前は確かリリー・ヴァン。そう聞こえた途端に足が止まる。

――ほんとに?成績欲しさに必死すぎでしょ、教師を操ってまでって・・・。――ていうか操られたとか言ってるけどさ、本当は身体使ったとか?――うっわそれはきついわ~教師が子供に欲情って。

 

「ね、ねぇ・・・フィーンアリア様がいるんだけど・・・」

「え・・・なんで、わ、私ら何かした・・・?」

「し、知らないわよ。何で立ち止まって・・・」

 

口汚く他者を貶める彼女等が背を向けたままその場を動かない私に、異様さを感じ小声でこの状況を話し合い始める。

私に様付けをする哀れな同級生に向かって振り返ると、一瞬笑顔を見せ、無感情に言い放つ。

 

「ねぇ、その耳障りな噂を囀る貴方達の汚らしい口を一生開かなくしてあげましょうか」

 

ただ無造作に右手を真横に振る。急速に構築された魔術円から放たれた雷撃が廊下のガラスを粉々に破壊した。また学園長から小言を言われると思うと面倒だが、後悔はなかった。

彼女達はただ悲鳴すら飲み込み、驚愕を顔に貼り付ける。

 

「リリーは私の友達なの。ねぇ?私は友達を貶められて、貴方達に何をすればいいかしら?」

 

私の言葉を聞き、驚愕は恐怖へと変わり、寒さに震えるかの如く歯を打ち鳴らす。

自分達よりも明らかに小さな幼い少女に怯え震える様は滑稽を通り越して、呆れ果てる。

 

「その劣悪な口を裂いてしまえば良いのかしら?それとも噂が悪いと言うのなら、それが聞こえなくなるように両の耳を引き千切ってしまえば良いのかしら?」

 

静かな怒りに彼女達は膝をつき、両手を祈るように組み口々に謝罪と悔恨を告げ始めた。

 

「ふふ、そう。知らなかったと、私の友達だと知っていればこんな話しなかったと・・・そう言いたいのね?知らなかったなら仕方ないわよねぇ、――じゃあ許してあげるわ」

 

一番右に膝をついた同級生に向けて、雷撃を放つ。威力は調整した、死ぬことはない。だって私は許してあげたのだから。

魔術円から放たれた紫電は彼女の身体を駆け巡り、痙攣を起こさせ、その口から醜く泡を吹き出した。気を失い前のめりに倒れた彼女からは、じわりと尿の香りが漂い水たまりが広がった。

 

彼女の惨状を目の当たりにし、残った二人の同級生は恐怖に顔を歪ませ、どうか許してくださいと、泣き縋りだした。その彼女等に私は慈悲深く微笑んであげる。

 

「何を言っているのかしら?私はもう許してあげると言ったでしょう。その子の介抱は頼んでもいいわよね。・・・それから一つお願いを聞いてくれるかしら?」

 

彼女等は首が引きちぎれんばかりに何度も上下に振り頷く。

 

「金色の魔女にリリーの侮辱を聞かれたら、生まれたことを後悔する。そう皆に伝えてくれる?」

 

それだけを告げると、私はもう何の興味もなくなった彼女等に背を向け歩き出した。

 

「面白いことになっているのね、リリー・・・本当に楽しい子だわ、ふふふ」

 

どうやらリリーは魔術を行使し、教師達を操り成績を改竄し首位を不正に獲得したという。

むしろ、この噂を流した愚者は教師を操るほどの魔術を扱う者が、アカデミーの一年の試験如きで知識負けするわけがないというどうしようもない矛盾をそのままに広めているのだ。

滑稽すぎて笑えてくる。

 

 

「噂の真偽に興味はないけれど、私のお気に入りにはこれくらいの特別扱いは当然よね」

 

 

あの子を思い浮かべ、少し悪戯ぽく笑いながら呟く言葉はどこか優しい響きだった。

 

 

ーAnother View Endー

 

 




本編10話まで来ました。
読んでくれる方がいらっしゃるかは分かりませんが、何分初めて人に自分の書いた文章を公開しているので、多分に読み辛いところがあると思います。

面白いと思ってくれれば幸いです。

にゃー1。
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