「イツキ・・・本当に本当に大丈夫?一人で行けるの?迷子になったりしない?」
「大丈夫ですって母さん。心配しすぎですよ」
「そうだぞ、エリーン。なんたってイツキは実際俺より・・・強いからなぁ・・・」
僕は苦笑いを浮かべてそんなことないですよと父にフォローを入れる。
あれから4年と少し、僕は5歳を迎えるほんの少し前程度まで成長をしていた。
成長をするにつれて肉体と精神が少しづつその差異を埋めるように、前の自分との境目がなくなっていきつつあった。
それは子供に精神年齢が戻っているというよりかは、この身体に定着してきたということだった。
僕が僕と自分を称するのに違和感を感じることがなくなったこともそれに起因する。
「でも・・・街まで一人で行くなんて、心配だわ・・・母さん付いていっちゃダメ?」
「母さんダメです。一人で行かせてください」
「うー・・・でもぉ~でもねイツキ!ほらモンスターとか出たらどうする?怖いよね?ね?」
母は膝を突いて僕の両肩に手を置き、少しタレ目の愛らしい瞳をうるうるとさせながら何とか付いていく理由を捻り出す。
「そうですね、魔術で一掃しておきます。街道が安全になりますし」
「うー!イツキのいじわる!!いいもん母さんもう知らないもんっ」
拗ねた顔が信じられないほど可愛らしい母親というのは如何なものだろう。
僕は父に向かって視線を遣って、母のことをどうにかして欲しいと訴える。任せろと力強く頷く父に安堵の溜息を吐いた。
「エリーン。女の子とのデートに母親が付いてっちゃダメだろう?なぁイツキ」
最悪だった。父のことを信じたのは完全に間違いだった。
「絶対に行かせません。イツキにはまだデートは早いです。それに誰?母さんの知ってる子よね」
「母さん違います。デートじゃなくて買い物に行くだけですから」
「お買い物デートというわけなの?ねぇイツキ母さんのこと大好きって言ってくれるよね?あれは嘘だったの?相手は誰?ファナちゃん?ファナちゃんなの?」
母が絶対に離すまいと抱き竦めて、顔を吐息さえ届く距離まで近づけると完全に座りきった目で捲し立てる。我が子が可愛いのは分かるが最近は行き過ぎじゃないだろうかと僕は嘆息した。
「母さん落ち着いてください、僕が母さんに嘘をついたことありますか?」
「・・・ないわ」
「それに母さんのこと大好きなのが嘘なわけないじゃないですか。大好きですよ母さん」
「―――イーツーキ~~~~っ!母さんも大好きっ!愛してるっ!ん~ちゅっ!ちゅっ!」
猛烈な勢いで頬と唇にキスを繰り返す母に苦笑いを浮かべつつ説得を続ける。
「・・・本当は驚かせるつもりでしたけど。母さんと父さんに日頃の感謝のプレゼントを買いに行くつもりだったんです・・・」
「――――――っ・・・女神様・・・イツキを授けてくれてありがとうございます・・・」
「そ、そうだったのか。す、すまんイツキ」
「父さん、父さんには少し失望しましたけど、大丈夫ですよちゃんと買ってきますから」
「痛いっ息子の言葉と笑顔が痛いっ!本当にすまんイツキ~父さんを許してくれぇっ」
僕の説明に母が一も二も無く納得し、漸く一人での外出を許された。
少し長めのショートカットの黒髪を撫で付け、母の自作のフード付きの黒を基調とした白のアクセントの映える外套を羽織る。
母は手先が器用で僕の衣服の大部分を自作している。僕の趣味を取り入れてくれるので全く文句もなく着られるものばかりなので助かっている。
母は服を作る時に僕に好きな色、どんなものがいいかと聞いてくれる。
それを元に作るのだが、母はとてもセンスが良く、今までで着れない、着たくないと思ったものはない。外套の下にはグレーの着丈の長いシャツに黒のジーンズによく似たズボンなのだが、僕の趣味にとてもよく合っていて気に入っている。
腰のベルトに貨幣のはいった革袋の紐を巻きつけ、外出用のブーツを履いて、準備は完了した。
「イツキ、本当に気をつけてね?危ないことがあったらすぐ誰かに助けを求めるのよ?」
「はい、分かってます。大丈夫、心配しないでください母さん、無事に帰ってきますから」
「イツキ~。一応だが、これ護身用のナイフ。持って行け、な?」
「ありがとう、父さん。それじゃあ行ってきます」
『行ってらっしゃい』
心配しつつも笑顔で見送る両親に出立の挨拶をし、街へ向けて出発した。
街外れの自宅からは子供の足では少し遠い道のりではあるが、基本的な体力は普通の子供のそれより十分以上にあると自負しているので何の問題もない。
街の中心部の外側にある商店街にたどり着くと、パン屋の店先にいたベック・コートディアに声をかけられた。
「おぉ?イツキ坊じゃねぇか!どうしたんだ?親父か母ちゃんは一緒じゃねぇのか?」
「こんにちは、ベックおじさん。今日は一人で買い物なんです」
「ぬぉ!まじかぁ・・・イツキ坊は本当に利口だなぁ・・・お、そうだ!ファナー!ファナー!」
「なぁにおとーさん」
カランカランとベルの音を響かせ、ドアが開くと、小さな少女が顔を覗かせる。
肩まで伸びた赤みがかった栗色の髪は癖のない滑らかな髪質で、リーフグリーンのくりっとした愛らしい瞳は少女の可愛らしさを引き立てている。
ピンク色のワンピースに白い厚手のカーディガンを羽織ったその少女は僕を見つけると、にこりと朗らかに笑い、駆け寄ってくる。
「イツキ君!どうしたのー?遊びにきたのー?ファナと遊ぶ?」
「こんにちはファナちゃん、今日は街に買い物に行くんだ。ごめんね」
「そうなのー・・・ファナと遊べない?」
「イツキ坊、よかったら街にファナも連れて行ってやってくれねぇか?ほら小遣いもやるからよ」
ベックはそういって僕に銀貨を3枚ほど握らせる。
そして彼は濃い顎髭を撫でながら、イツキ坊と一緒なら心配いらねぇからなと豪快に笑っていた。
「ベックおじさん、子供のお小遣いにしては多すぎですよ・・・」
「だーっはっは。良いんだよ、イツキ坊はそのへんしっかりしてるからな。それにファナの面倒見てもらう駄賃も込ってことだ。貰っといてくれや」
ちなみにこの世界の貨幣価値は、物価によっても違いは出てしまうが日本円で換算するとすれば、金貨1枚は5万から7万円程度、銀貨1枚は5千から8千円程度、銅貨1枚は2百から4百円程度といった振れ幅があるが、凡そその辺りで取引される。
なので基本的に安いものはまとめ売り、またはおまけを付けるなどして貨幣価値に近付けるといった工夫をしているところがほとんどであった。
「おとーさん!ファナ、イツキ君と一緒に街にいっていいの!?」
「おう!イツキ坊が良いって言ったらな!」
「・・・はぁ、それは卑怯っていうんですよ?ベックおじさん」
「くっく、イツキ坊。大人ってなズルい生き物なんだぜ。勉強になったろ?」
「いいえ、それは理解してますから。分かりました、ファナちゃんはお預かりしますね」
「ふぃ。イツキ坊と話してると、どっちがお子様なのか分かんなくなるぜ・・・まぁ大事な娘だ、しっかりお守りを頼むぜイツキ坊!まぁ唇くらいならいつでも奪ってくれても構わねぇがな!」
「そういうことを言ってると、いつかファナちゃんに愛想を尽かされますよ」
想像でもしたのだろうか、顔を真っ青にしてベックが冗談だよなと恐々と呟くのを横目にファナの手を取って街の中心部へ足を向けた。
トリティンは王都から少し離れているが、街の中心部は都会的な街並みと賑わいを見せている。
朝早いうちに家を出たのもあり、時間には余裕もあるので自分の買い物は目星だけ付けて帰り際に買うことにする。
ファナは先程からきょろきょろと忙しなく首を振り、辺りを見渡しては目を輝かせる。
行き交う人にぶつからないように気を使いながら、彼女に視線を向けるとあれは何、と質問の応酬が待っていた。ただ、こちらの約束を守り手を離さずにちゃんと付いてきてくれる。
「イツキ君はすごいねー!とっても物知りー・・・ファナちょっと頭わるい?」
「そんなことないよ。ファナちゃんは僕との約束をしっかり守ってるよね?沢山、ファナちゃんが見てみたいと思って近付きたいところがあっても、我慢してるよね?どうして?」
「んー、だって。ファナが勝手にしちゃって約束破っちゃったら、イツキ君困っちゃうもん・・・」
眉根を下げて答えるファナの頭を優しく撫でると、絹のように滑らかな髪が指先を擽る。
少し自分より年下の男の子に子供扱いされているようにも感じるだろうが、彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべてくれた。
「ファナちゃんは人のことをしっかり考えているね?それはとっても頭がいい証拠だよ。物知りなのは知らないことを聞いたり調べたりすれば誰でもなれるんだ、でもねファナちゃんのようにちゃんと人のことを思い遣ることが出来るのは凄いことなんだよ」
「・・・、えへへ。そっか。イツキ君に褒められちゃった、嬉しいなー・・・」
「それから、見たいものがあれば言って欲しいな。色んなお店を見て、母さん達のプレゼントを探したいんだ。ファナちゃんもそのお手伝いしてくれるかな?」
「―――うん!ファナね、イツキ君のお手伝いするよー!」
石造りの街並みの洒落た店や屋台をあちらこちらと冷やかしながら二人で歩く。
広場で大道芸をやっているのを見物したり、食べ物の屋台で買い食いをしたりと時間は過ぎていった。手を離すこと無く付いてきてくれたファナはとてもいい笑顔を浮かべていて、楽しそうにしてくれているのがよく分かった。
「プレゼント、決まってよかったね!」
「うん、ありがとうね。ファナちゃん」
「ファナあんまり役に立たなかったよね、色んなとこ見てたばっかりだったもん」
「色んな所見れたから決められたんだよ。だから、これはお礼」
僕は外套のポケットから紙に包まれた先程ファナと一緒に選んで買った可愛らしい花の装飾が施された髪留めを取り出した。
「これ、さっき一緒に選んだ・・・」
「そう、これはねファナちゃんのお礼を選んでたんだ。付けてあげようか?」
「―――・・・うん」
恥ずかしそうに俯き頷く彼女の右側の髪を優しく耳に掛け、耳の少し上の髪に髪留めを差し込み、パチリと留め具で挟み込んだ。
「よく似合ってる」
「・・・あ、ありがとう。とっても・・・嬉しいな」
頬を染めて嬉しそうに微笑んだ彼女の手を取って、帰路に就いた。
帰り道は口数が少なくなった彼女だったが、その沈黙は別に気まずいものではなく、視線を向けると直ぐに微笑み返してくれる、そんな心地の良い静かさだった。
街の中心部から離れた商店街まで着くと、タイミング良くパン屋の入り口の扉を開けてベックが小さな看板を持って出てきた所だった。
こちらの姿を捉えると、彼は笑顔を浮かべておかえりと出迎えてくれた。
「お、どうしたファナ、それ」
娘の変化に敏感なのか、ファナの髪留めに気付き問いかける。
ファナは少し恥ずかしそうにいつもより小さな声でイツキ君がくれたの、と頬を染めて口に出す。
「ファナちゃんのおかげで、両親へのプレゼントが決まったのでそのお礼にと」
「かぁ~!何なんだそのさり気ないイイ男っぷりは!ファナ、将来イツキ坊はモテるから今のうちに唇でも奪ってツバつけとけよ?」
「――――~~~~っ!!おとーさんなんて知らない!!」
彼女は顔を真っ赤にして叫ぶと、ベックの脇を抜けて入り口の扉を乱暴に閉めた。
無言の中に扉のベルがカランカランと音を響かせていた。
「僕はちゃんと忠告はしましたからね」
「・・・い、イツキ坊~・・・っ!」
「はぁ、ちゃんと謝れば許してくれます。ファナちゃんは分からず屋じゃありませんからね」
「そ、そうだよな。今後はちゃんと注意しよう・・・うむ」
娘に嫌われるのが本当に怖いらしく、真剣な表情で顎髭を擦りながら頷いていた。
脇においておいた焼き立てと書かれた看板を地面に刺しながらベックが面倒を見てもらって悪かったな、と話を振る。
「さっき言ってたが、父ちゃん母ちゃんのプレゼント買いに行ってたのか。いい息子を持って幸せもんだなヴァールズさんとこは。それでプレゼントはその袋に入ってんのか」
「これもですよ。あとはこの父さん用の革袋の中に母さんへの裁縫箱です」
子供には少し大きすぎる革袋には丈夫なベルトと留め具が付いており肩に掛けることが出来る。
父の仕事用の革袋は少しくたびれていたので丁度いいと選んだ。母のは木の蔦を編んで作られた裁縫セットが入った裁縫箱、喜んでくれればいいのだが。
それから、少し街であったことを話しそろそろ帰りますと会話を打ち切る。
気をつけて帰れよとベックが店先で僕を見えなくなるまで見送っていた。
商店街からも離れ、人通りの少ない街道で僕は足を止めて、革袋から花束を取り出した。
その花束に何も書かれていない真っ白なメッセージカードを入れる。
魔術を行使し、花束に保護の結界を張っておく。
空を見上げて、鳥の姿を確認し精神魔術を構築する。魔術を受け、降り立ってきた鷹によく似た鳥のピキューリを腕に止まらせた。
「すまないね、少し力を貸してくれ」
ピキューリに体力増強と持続的な治癒の魔術を掛けておく。
王都にある魔術アカデミーの卒業式が明日行われることになっていた。
それに間に合わせるためには今からずっと飛んでもらうことになるが、重ねがけした魔術によって体を壊す心配はないだろう。
僕はピキューリを空に放し、旋回するしているそれに向かって花束を放り投げた。
ピキューリの爪が花束の保護の結界を上手く掴み、上空へと上昇していった。
それを見届け終わり、僕は再び革袋を肩に掛け家路についた。
ーAnother Viewー
私は姿見の鏡で身だしなみを確認する。
昔のようにそこには陰気な表情を持った人物はいなくなっていた。
目元を隠す長い前髪は綺麗に切り揃えられて、この青い瞳を隠すことはなくなった。
白い肌に少し目立っていたそばかすも綺麗に消えて、顔立ちも少女というより女性へと変貌したと思う。昔と変わったのはもう一つ腰のあたりまで伸びた銀色の髪だろう。
・・・いや、もう一つ。この不必要なくらいに成長してしまった胸もあった・・・。
学年代表の証である純白のマントを羽織り、頬を軽く叩いて気合を入れる。
そう、今日はこのアカデミー最後の日、卒業式だった。
先生に救われてからも、4年以上ずっと勉強会は続いていて、今や私は『白銀の賢者』なんて大層な呼び名で呼ばれていた。
あれから、魔力を高めるための魔術制御などの鍛錬を怠ることはなかったが、結局私は一度も魔術実技大会では戦ったことはない。
それなのに私は一度たりとも代表の座を降りたことがなかった。
原因は先生のたった一回の大会の結果にあるらしく。
私は年度末試験で第一位を取り続けたため、その結果、誰一人として優勝決定戦を辞退しない人間がいなかったのだ。
そして私は不動の学年代表として同学年には恐怖の対象として見られていた。
一度先生に何をしたのかと聞くと、少しだけ悪戯っぽい感情を感じさせるように、世界を滅ぼす魔王を演じてしまったかもしれないね、と答えた。
さすがにそれはと思ったけれど、きっとそれは私にとって必要なことで、先生が私を思い遣った結果なのだろうとそれ以上の追求は止めておいた。
寮の自室の扉を開き、講堂へと少し足早に歩く。講堂は寮を出て北側にある、なので寮の北の出入り口からそのまま歩いていけば着く。
その途中に丁度講堂に向かっていたのだろう、ロハルド教諭と偶然一緒になった。
「しかし、本当に君の本質は叡智を求める賢者そのものだったな」
「・・・はい?なんですかそれ」
「君自身が言っていたことだろう?慢心と笑うことすら出来なかったが、今や慢心などとも言うことも出来なくなったな・・・」
きっとそれは先生が言った言葉で・・・そしてその言葉は・・・私へと向けたもの・・・。
「そうですか、教諭はあの事件から少し話しやすくなりましたよね」
「そ、そうだろうか?私は変わったつもりは・・・ないがな。んっ、そう言えばヴァン。その教諭という仰々しい言い方は最後まで貫くんだな」
「―――・・・私が先生と呼ぶ人はこの世界でただ一人ですから」
そうか、余程素晴らしい人物なのだな。羨ましいものだ、とロハルド教諭の呟きに微笑みを返した。
――――卒業式は滞りなく進行し、特に問題もなく無事終わりを迎えた・・・。
アカデミーの卒業式は長々したものではないので、午前中から挙行していたがまだお昼には少し遠い時間帯だった。
というよりも長々したものではない理由はきっと学園長の性格の問題もあると私は思っている。
卒業の証の証書を手に、私はのんびりと散歩でもするように歩いていた。
その足はいつしか魔術図書館へと向いていた・・・。
魔術図書館の扉の前に立ち、溜息を吐く。
もうここには先生はいないのに、なんで私はここへ来てしまったのだろう。
――先生とのお別れは一週間ほど前に済んでしまった・・・。
私は泣いて喚いてずっと一緒にいて欲しいと、そう言いたい気持ちを必死で抑えて最後まで先生への感謝を伝えた。
貴方のことを探したいと、貴方のことを知りたいと―――。
そう言えるなら、どれほど楽になれただろう?
言えるはずもない、私にはそんな資格があるはずもない。
先生に貰った返しきれないほどのもの。
私を救ってくれた大恩。
何一つ返せないまま、別れを迎えて私は一週間ずっと泣き続けた・・・。
この時ほど昔のような長い前髪が欲しいと思ったことはなかった。
帰ろう、そう決めて踵を返した瞬間、図書館の扉が内から開いた。
「あら?あらあら、リリーちゃん!最後まで来てくれるなんてっ!さぁ入って入って!」
「あ、その、ティミーさん!?」
図書館から丁度出てきたティミー司書が、入り口の扉を開け放ったまま私を中に招き入れた。
図書館の中は幾つもの窓が開け放たれて心地の良い風が吹いていた。
「入り口も開けておくんですか?」
「ん?そうよ~というよりこの時間はこうやって空気の入れ替えをやってたのよ」
「あぁ・・・朝の部の授業中だから今まで知らなかっただけですね」
「そうそう、空気が篭ってると余計に人が来なくなるんじゃないかと思って、いつもやってたんだけどねぇ・・・結局あんまり人は来なかったのよねぇ・・・はぁ」
カウンターまで二人で歩いて、卒業式はどうだったかとか今後はどうするのかとかを少し話し込む。
そうした話の合間にティミー司書がそっと本を差し出してくる。
「この本、私の私物だからもしよかったらリリーちゃんにあげるわよ」
「これって・・・禁書じゃ・・・?」
「禁書というよりその手前程度の魔術書ね。ビャロニティアっていう魔術構築理論とかの原本なのよ?リリーちゃんへの選別として私からのプレゼントっ!ずっと通ってくれてたものねぇ・・・私すっごい嬉しかったなぁ・・・」
「あ・・・あはは、ありがとうございます」
「直ぐ読みたいでしょ!?ね!?いつもの席へどうぞ~今日は最後だからねぇ・・・」
「・・・そう、ですね。じゃあせっかくだから席お借りしますね」
ごゆっくりー、と小さく手を振るティミー司書に会釈して先生との思い出が詰まったいつもの席へと足を向かわせる。
――――――息が止まるかと思った。
あの席には、陽の光に照らされて風に揺れる花束があった。
机を迂回するのさえもどかしくあの場所へと足を急がせる。
花束の中には真っ白なカードが入っていた。
それは、何かの魔術が込められている。私がそこに魔力を流し込むとカードの中央に文字が浮かび上がった。
―――貴方の名前は?
「り、リリー。リリー・ヴァン」
私の声に反応し、中央に問いかけられた文字は消え、カードの端からゆっくりと文字が浮かび上がってゆく。
――リリー。卒業おめでとう。
僕にたくさんのものを与えてくれて本当にありがとう。
君の活躍を祈っているよ。そして、いつか会えたなら・・・。
その時はたくさん話をしよう―――イツキ・神代。
「せ、んせいの・・・いじ、わる・・・せ、かっく、涙・・・とまっ、たのに―――」
私の頬を伝う雫は幾筋も流れ落ち、花弁に弾けて色とりどりの花に水滴を与えていく。
「せん、せいは・・・ずるい・・・―――最後に、こん、な・・・堪え、られるわけ
・・・ないよ」
貴 方 に 会 え て と て も と て も 嬉 し い の に・・・
そ れ が 今 と て も と て も 悲 し い の で す。
姿 も 本 当 の 声 も 貴 方 を 象 る 何 も 知 ら な い の に
心 だ け は 近 く て お か し な 関 係。
で も き っ と 貴 方 に は 私 の 想 い は
全 部 は 伝 わ っ て い な い の で し ょ う ね。
こ ん な に も 大 き な 感 謝 を・・・
こ ん な に も 大 き な 恋 心 も・・・
貴 方 に は 秘 密 が あ っ て、
き っ と そ れ は 私 に は 言 え な い も の で・・・
な ん で
ど う し て と
そ う や っ て 私 の 我 儘 で
暴 い て 良 い も の で は な く て・・・
そ れ で も 信 じ て い て い い で す か?
い つ か 貴 方 に 出 会 え る と―――
―――そ し て い つ か
あ な た の な ま え を よ ん で も い い で す か?
―――――Another View End・・・
リリーの物語はこれで終わりです。
後々出てくると思います・・・。
長々としましたが、読んでくれた方々には感謝を。
これからも宜しくお願い致します。
にゃー1。