せかんどらいふ   作:にゃー1

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22 騎士の役目と家族の定義②

ホウタル山道は薬草類を採取に来る人達のために数年に一度整備される。

そのため、子供の足であっても比較的楽に登頂することが出来るようだ。

 

葉広の木々が鬱蒼と茂る山道は日差しを遮り少し薄暗いが、山を吹き下ろす風が火照った身体に心地よい。この山は丁度直角三角形のような形をしており、山の裏側は切り立った崖となっているため山を越えるという人はいないだろう。

 

「皆ー?平気かなー?疲れたらちゃんと言うのよ、逸れないように気をつけてね!」

 

ゾイの声に皆一斉に返事を返す。疲れを見せている子はいるものの、付いてこれないほどの遅れを見せている子はいないようだった。

 

「ファナちゃん、平気?疲れたらちゃんと言ってね」

「うん、えへへ。大丈夫だよ!まだまだ元気!」

「そっか、良かった」

 

中腹辺りまでは到達しただろうか、僕はファナに軽く声を掛けながら先導している二人を見遣る。

おかしいのだ、あまりにこの状況は―――。その証拠にニックとゾイの表情は少し警戒色が強い。

 

今までに一匹たりともモンスターが出現していない。整備された街道でも小さなモンスターが出現したりもする。ましてや人里離れた山道で全く出会わない確率など推して知るべしだろう。

何かが起こっている、または何かが起こっていたのか。どちらにせよ、雲行きは怪しい。

 

「イリス、ファナちゃんをちゃんと見ててね。僕はニックさんと少し話すことあるから」

「はい♪天使様♪お任せください♪」

 

二人から少し急ぎ足で離れ、先頭のニックとゾイの元へ向かう。

他の子供達に不安を与えることが無いように、僕は体調不良を訴える。

 

「ニックさん、すみません。僕ちょっと気分が悪くなったので休憩を挟んでもらっていいですか?」

「おぉ!?少年、大丈夫か!?どんな感じだ、吐きそうか?」

「分かったわ。皆ー!少し休憩しようねー!」

 

直ぐ様二人が対応するのを子供達は特に気にする様子はないことに少し安堵し、ニックに木陰の方へ向かうのに手を貸して欲しいと頼んだ。

 

「しかし少年が一番に体調を崩すとは思わなかっ――――」

「ニックさん。今異常なことが起こってますね?」

「しょ、少年・・・?」

「僕はまだ子供ですが、少々魔術を習っています。冒険者の父もいるので、今の状況も理解しました」

「なっ、そ・・・そうなのか、だったら頼みたいこともある・・・説明しよう少年」

 

そうニックが言った瞬間、僕を心配してか、ファナとイリスがこちらにやって来るのが見える。

 

「て、天使様ー!体調が悪かったのですか!?私としたことが・・・何たる失態!!申し訳ありません!!」

「い、イツキ君・・・大丈夫?もしかして、私が無理させちゃった?ご、ごめんね・・・」

「いや、少し気分が悪くなっただけだよ。今ニックさんに見てもらってるから向こうで少し待っててくれる?―――二人共そんな心配しないで、大丈夫だからね?」

 

僕の言葉に渋々といった表情で二人が踵を返した―――――その時だった。

 

突然の暴風に木が軋み、生い茂る葉を舞い散らし、轟音と共に4人の子供が集まっていた場所にそれが現れた。ツルリとした龍皮に覆われた緑色の蜥蜴のような姿に大きな翼を生やし、鳥のような鉤爪を持つそれの大きさは尻尾まで入れるならば7m近い。それを空へ運ぶ翼も大きく片翼は3mは優に超える。

 

飛竜、ワイバーン。中級とは言え、その中でもトップクラスの危険度を持つモンスター。

 

あまりに突然の出来事で誰もが呆然とする中、ワイバーンは悠々と子供達をその鉤爪で掴み取る。

 

――――まずいっ、何をボーっとしてた!?構築するは保護の結界!素早く!だが精緻に綻びを一つも作るな!!

 

ワイバーンが鉤爪で子供達を押さえ付ける前に結界が完成し、ギリギリで爪に押し潰されることは無くなった。だが、ワイバーンは大きく翼を広げ、羽ばたき始める。結界ごと持ち帰るつもりだろう。

 

「くそっ!!ゾイ狙え、俺じゃ間に合わん!!!!」

「んなこと分かりきってるってのーっ!!その目貰ったっ!!」

 

ゾイは素早く弓を構え腰の矢筒から流れるような動作で矢を番え、―――放つ。

吸い込まれるようにその矢はワイバーンの左目へと突き刺さった。だが、浅い――――。

多少なりとも怯むならばまだチャンスはあった、しかしワイバーンは鳴き声一つ上げること無く思い切り翼を羽ばたかせ、空へと舞い上がる。

 

「ちくしょうっ!!ってあれは!!結界!?少年がやったのか!!」

「え!?って皆生きてるよねあれ!!!でも、どうやって追いかければっ」

「走って追いかけます!!ゾイさんイリスこっちへ!!」

 

構築する魔術は肉体強化、限定解除、体力増強―――。

自分に掛けている余裕はない。ただでさえ持続魔術を3つも3人に掛けるのだから呪詛の侵食も考えて先を見据えなければならない。

解除する割合は限界の10割、悪いとは思うが非常事態、肉体強化も掛けてあることも考慮すれば身体を壊すことにはならないはずだ。

 

「こ、これって強化魔術!?な、何で使えるの!?じゅ、呪詛は大丈夫なの!?」

「平気です!いいですか!詳しい説明は省きます!!今二人とイリスに魔術による強化を掛けました。思った以上に力が出ます、無茶を言いますが、動きながら慣れてください!!イリスもいいね!!」

「勿論です!天使様!!」

「ニックさんは僕を、イリスはファナちゃんを抱いて走って!イリスくれぐれも力を入れすぎないで、簡単に人の骨くらい折れる力が出てるんだ!」

 

僕は集まった皆に早口で指示を与えていく、全員が今の状況をちゃんと理解しているからこそ、誰一人横槍を入れることはしない。

 

「ニックさん!!」

「おう!!」

 

ニックは僕を腕に抱えるように抱くと、それに倣いイリスもファナを同じように抱えた。

 

「走って!!!」

「行くぞォォ!!!!」

 

ニックの一歩目が力強く地を蹴ると、何かが衝突したかのような爆音の後、急速に木々が近づいてくる―――。

 

「ぬあ!?畜生!!やべぇ、速すぎるっ――――っとぉぉぉい!!」

「ちょおおおおお!?何この速さ!?っちぃぃ!?こなくそお!!!」

「ふあああああああああああっ!?ててて天使様ーーー!?これは、な、慣れるまで危ないんですがーーーー!?」

 

三人共、一歩目の出だしでその加速の凄まじさに声を上げる。だが、今は走りながら慣れてもらうしかない。

 

何とかニックは目の前に迫っていた木に両足でドロップキックするように着地し、その木をへし折りながら山道へと方向転換を行う。

地を蹴る力を少しづつ調整している様子だったが、それでも速度はまさに高速道路を行き交う自動車レベルだろう。

 

「前に!魔術師と組んだ時!!強化掛けてもらったけど!!骨が折れて大変だったんだけど!?」

「肉体強化も掛けてあります!!今なら鉄を殴っても折れたりしません!!」

「そいつは至れり尽くせりね!!最高にイカしてるわよ少年!!」

「山頂まではどれくらいですか!?」

「この速度で上手く進めれば10分も掛かんないわよ!!とんでもないわこの魔術!!」

 

三人は必死に自分の身体の出力に慣れようとしている、だが、敵影を見つけられない焦りはジリジリと心を蝕んでくる―――。

 

「少年!!!もちっと無茶するがいいかい!?」

「はい!僕のことは気にしないでいいから!!今やるべきことは見えてるはずです!!」

「ははっ!勿論だ!!!行くぞーー!!ゾイーーー!!」

「分かってるわよっ!!っし!!騎士ちゃん!!付いてきてるわよね!?」

「ええ!!私は!!!天使様の騎士!!みっともない姿を見せられません!!」

 

 

そして山道を疾走すること数分、僕らはワイバーンの姿をその目に捉えた――――。

 

「見えたわ!!!この距離っ!ギリギリ届く!!どうする!?」

「駄目です!地面が遠すぎる!!保護の結界が保つか分からない!!」

「っちぃ!!」

「ゾイさんこっちに近づいて!!!」

「了解ボス!!」

 

接触しないよう気をつけながらもニックに並走するようにゾイが近づく。僕はゾイの矢筒に向けて手を翳す。構築する魔術は武器強化――――。

この魔術は武器の切れ味や強度を大幅に上昇させる。だが、魔術媒体にならないものに魔力を込めるという行為はその寿命を縮めることにもなる。限界以上の性能を出す代わりに使用後には使い物にならなくなることも大いにあるが、最初から使い捨てレベルの矢の鏃に使うならいいだろう。

 

「ゾイさんの矢を強化しました!!回収は出来なくなると思いますが!!勘弁してください!!」

「何言ってるのさ!!本当にサイッコーだよ!ボス!!それで!?」

「ワイバーンが地面に近づいたら翼の付け根を狙い撃てますか!?」

「出来るも出来ないもないわよ!!やるわ!!」

「任せました!!ニックさんヤツが体勢を崩したら僕を放り投げて斬り込んでください!!イリス―!!イリスはちゃんとファナちゃんを降ろしてからニックさんの援護に行って!!」

「おう!!!」

「お任せを!!!」

 

そしてとうとう山頂の開けた花畑の広がる平地が目前に迫る。

最大で最後のチャンス、絶対に失敗は―――――考えていない!!

 

ワイバーンの飛行高度が徐々に下がって、それの目指す先が崖下だと容易に推測できた。

この距離ならワイバーンに力を入れられている結界とはいえ保ってくれるだろう。

僕はゾイに目を遣り、自分も放り投げられる覚悟を決める。

 

「ゾイさん!射って!!!」

「絶対にっ!!外すもんかぁぁぁぁ!!!」

 

ワイバーンの翼の付け根辺りにゾイの放った強化矢が、1本、2本と連続で突き刺さる。

ぐらりとその体勢を崩す好機を見て、ニックは僕を真上に放り投げ、アックスホルダーからバトルアックスを取り出し、雄叫びを上げながら突進して行く。

 

強化され、最大の力を引き出せた今のニックに竜皮など何の問題もなく斬り伏せられる。

ニックの振りかぶったバトルアックスは片翼の付け根を引き千切るように斬り伏せた。

上空に投げ出された僕は自分に風の繭を発動させ、地面に難なく着地する。

地面を滑りながら倒れ伏すワイバーンから結界に包まれた子供達が解放された―――。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!せええええええええい!!」

 

裂帛の気合を込め、イリスがワイバーンの首を跳ね飛ばし、何度か痙攣をしながらもワイバーンは息絶えた。

 

僕らは安堵から、膝を突き、荒い息を吐きながらもお互いを見渡し、笑顔を浮かべた。

 

―――だが、大きな羽ばたきの音が幾つも幾つも響き渡る・・・。

それは、正面の崖から先程のものと変わらない大きさのワイバーンが6匹・・・いや、9匹・・・その姿を現す――――。

 

僕はファナを呼び、子供達の元へ走りながら、ニック、ゾイ、イリスに向けて声を上げる。

 

「3匹は仕留めます!!後は任せました!!!」

「なっ!?」

「天使様!?」

「ボス!?」

 

手を翳し、構築する高位魔術――――。

連続して行使するのは今の状況ではこれが限界、だがもうやるしかない――――。

 

粉砕する神の鉄槌(ミョルニル)!」

 

轟音と共に、一匹のワイバーンが黒焦げになり、崖へと落ちていく―――。

 

―――まだだ、まだ、集中を途切らせるな!!身体のダルさを感じるが、気にしていられる状況ではない!!

 

僕は再び手を翳し、何重もの魔術円が出現する。

 

粉砕する神の鉄槌(ミョルニル)!」

 

二匹目のワイバーンが同じく崖に落ちる。強烈な吐き気が体を襲う―――。

呪詛が身体を侵食してきた証拠だった。流石に無理を通しすぎているのは分かっている、だが、ここで引くわけには行かないのだ。

 

「もう、一匹は・・・はぁはぁ・・・仕留めるっ!!」

 

走り寄ってきたファナの手を掴み取り、子供達の元へ辿り着き、こちらに向かって来ていたワイバーンに向けて手を翳し魔術を行使する。

 

粉砕する神の鉄槌(ミョルニル)!!!」

 

三匹目のそれも轟音と共に黒焦げになり、地面へと叩きつけられ、息絶えた。

目の前がぐらぐらと揺れる感覚を感じながら、歯を食いしばる。

手を掴んでいたファナのもう片方の手が優しく僕の手を包むように添えられ、泣きそうなくらいに気遣わしげな表情で僕を見つめる彼女を目に留めるともう、笑うしかない。

そうだ、僕はこんなところで終われない――――。

 

四匹目と五匹目を相手にしながら苦戦を強いられるニックとゾイ。6匹目の首を刈り取り、こちらを驚愕の表情で見遣り、大きく叫ぶイリス―――。

 

「天使様ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

目の前に迫るワイバーンのファイアブレス――――――。

僕は手を翳し子供達と自分を包む保護の結界を発動させる。僕に気を取られたイリスが急速に接近したワイバーンの突進をまともに喰らい、崖へと身体を吹き飛ばされ、ギリギリで崖端を掴み取る。

 

今にも崖に落ちそうなイリスを目の当たりにし、身体がガクガクと震え出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             考えろ!!      思考を止めるな!!

   どうする!?                         結界は解除できない!

 

          どうすればいいイリスを救うには何を選択すればいい!?

 

  ダメだ考え続けろ!!            諦めることはあり得ない!!!

 

        失いたくない!   大切な家族を!!

                             止めろ!!

  今まで何のために培った魔術だ!?        

                   何でこうなる!?         嫌だ!!!

   頼む誰か!!   ゾイ!!!          ニック!!!

 

         畜生!!    誰か!!            何で!?  イリス!!

 

  どうする!?   僕はどうすればイリスを救える!!!

                                  思考しろ!!!!!

         もっとだ!!   イリスを失うなんて―――!!!!

 

   あり得ない!           無理だ!!        それは―――!!

 

           僕の心が壊れてしまう――――――・・・。

 

 

 

 

 

ーAnother Viewー

 

私は何とか崖縁に手を掛ける事が出来た・・・。

だが、力の加減が上手くいかず、ミシリと音を立てる岩を見て悟る。

このままではどれ程も時間を置かず私は崖へと落ちていくと――――。

 

私は仕える主の姿を目に留め、悔しさに臍を噛む―――。

大切な私の主の迷い子のような表情を、悲しげで恐怖を内に秘めた瞳を―――。

 

何をやっているのだ私は!?

 

天使様はやはり、素晴らしい御方だった。

今回の不測の事態にもまるで運命を操る神のような手腕で私達を導いてくれた―――。

 

そんな御方の騎士になれたことは誇らしい。だが、その御方の足枷になってどうする!?

 

命を捧げるなら、天使様に他ならない。

ならば、この状況、私は天使様の足枷であっていいはずがない――――。

 

貴方様を最後まで守れぬ未熟な騎士をどうか・・・お許し下さい・・・。

ですが、私は貴方様をいつまでも想っております・・・。

 

 

「天使様・・・どうか・・・ご無事で・・・」

 

 

ーAnother View Endー

 

 

 

イリスの手が掴んでいた岩をゆっくりと離していく―――。

重力に導かれるようにイリスの身体は宙空へと投げ出されていく――――。

 

 

「天使様・・・どうか・・・ご無事で・・・」

 

 

何を、全部諦めたようなことを!!

 

 

イリス―――!!お前は僕の騎士なんだろうが―――主を前に消えるなんてあり得ないだろ!!!

 

 

やめっ―――止めてくれ・・・。

 

 

スローモーションのようにイリスの姿がゆっくりと崖へと消えていく様を見開いた瞳が焼き付ける。

 

 

なんだこれ・・・。

 

 

嘘だ・・・。

 

 

助けて、ニック、ゾイ。イリスを・・・僕の家族を・・・。

 

 

失いたくない、ダメだ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!!!

 

 

誰か――――!!神様―――!!!!誰でもいい何でもいい!!!

 

 

 

助けろ!!僕の大事な大切な――――――家族(イリス)を・・・っ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シルフーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!イリスを救えーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 

『ごっしゅじーーーーん!!!初めての召喚が他の女のためなんずなあああああんて罪なお人なんしょーーーー!!でんもー!!わたすを頼ったんじゃけん今回だけは許しちゃりまっしょー!!』

 

急速に風を纏い実体化したシルフは崖下へと高速で飛び去っていく。

その姿を捉え、胸の永従の印が強烈な熱を持つのを感じ、僕は呆けたように口を開いたまま、膝を突いた――――。

 

 

 

ーAnother Viewー

 

我は主の悲痛な叫びと共にこの身を実体化させた。

主は我を呼ぶことも永従の契りを使うこともなく過ごしていた。

 

その主がそれを使うということはどれ程のことか、精霊の身である我にも手に取るように分かってしまう。どれ程その者が大事か、大切か、痛いほどに分かってしまった。

 

ただ、我を最後に頼ってくれたことは心が浮き立つ程に嬉しかった。

主はどうしようもない最後の最後に我を頼ったのだから――――――――。

 

 

落下していく人の子を視界に収め、我はその者を風で包み込む。

急速にその落ち行く身体は速度を緩め、我はその者に即座に追いついた。

 

「―――っせ、精霊・・・さん・・・?な、どうして・・・?」

『愚かな人の子、貴様が我が主の騎士を名乗るなぞ、何と烏滸がましい事か知れ。主の心も慮ることも出来ぬ者なぞ本来は生かす価値すら見い出せぬ』

「な、何を言っているのか分からないですが!助けてくれてありがとうございます!!」

『ふん、主の心を知り、貴様が先程の行為を悔いないのならば、我は貴様を心底軽蔑しよう』

「あ、あの!!私はどうすればいいのですか!?精霊さん!?」

 

我は人の子の言葉を気にすることもなく、詠唱を始める。

 

『世の(さかい)漂い揺らぐ―――あぁ、愛しき子らよ、我の声が聞こえるか、届いているか、―――ただ自由を愛し、何者にも縛られず通り過ぎる我が子らよ。母の声が聞こえるか、届いているか。ならば答えよならば応えよ。我は望むぞ、我は願うぞ、理すらも超えし力を顕現することを――――さぁ叶えておくれ、我が子らよ。我が唄に応えておくれ、我が子らよ――――――翼を授けよ』

 

我の精霊力により、具現化した翼は人の子の背に大きくその力を誇示するごとく広がった。

その力を我が操り、上空へと運ぶこととする、主から聞いた通り、人には我らの精霊力を操ることは出来ぬようだからだ。

 

「ふああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

『阿呆のような声を上げるな人の子。どうせ我の声は貴様には理解出来ぬのだろうが、いいか、この先は我が主の声に従え。そして二度と我が主を――――裏切ることは許さぬ』

 

 

ーAnother View Endー

 

 

まるでジェット機のように崖から上昇してきたイリスを捉え、目を見開き、安堵する。

滲む視界を乱暴に袖で拭い去り、声を上げる。

 

「ゾイさん!!こっちのワイバーンの口を縫い付けてやって!!!」

「了解ボース!!!いつまでうちらのボスに喧嘩売ってんだこの蜥蜴野郎がっ!!!」

 

ゾイの放った矢が3本ブレスを吐き続けていたワイバーンの口を縫い付け、炎を吐き続けていた口を閉ざし、膨張したように首から爆砕する。

 

『やっほーうい!ご主人~!!例のあれやっとーとよー!!わたすに任しとき~!!』

「シルフ!回避は任せる!!イリスーーー――!!お前は剣のセンスは誰にも引けを取らない!いいか!!回避は気にするな!!チャンスが来たら剣を振れ!!!それだけでいい!!」

 

イリスに少し遅れて崖から飛び出したシルフに応えながら、イリスに指示を飛ばす。

イリスは何の疑いも持つこと無く、ただ一言、はい!と応えた。

 

ニックがワイバーンが首をもたげた瞬間にそれを両断し、こちらへと急ぎ足で駆け寄る。

 

「少年!呪詛は!?大丈夫なのか!?」

「ニックさ、ん・・・はぁはぁ、ギリギリってとこですよ・・・っ」

「くっ!!すまん!!俺達の強化を解けとは言えねぇ・・・っ!!!!畜生!!!」

「だったら!ボスの負担を少しでも抑えるためにさっさと倒せばいいのよ!!左からくるヤツの両目をぶち抜く!!止めくらいは出来るわよね!?」

「当たり前だバカにするな!!!―――少年もう少しだけ耐えてくれっ!!」

 

ニックの言葉に頷き、不安そうな子供達に笑顔を浮かべ、口を開く。

 

「僕は君達を必ず守る。だからさ、そんな不安そうな顔をしないで応援してくれないか?」

 

子供達は目を見開き、互いに頷くと、大きく声を張り上げる。

――――頑張れ!!!天使様!!!!頑張れ!!!天使様!!!!と。

 

「全く・・・イリスの口癖のせいだなこれは―――――」

 

襲い来るファイアブレスを再び保護の結界を発動させ、回避する。

そこへ急接近するイリスの剣戟が炸裂し、首を跳ね飛ばす。

 

 

 

そうして、最後のワイバーンを仕留めた三人は荒い息を吐きながら周りを見渡していた。

 

『ご主人~!わたすは役に立ったっしょ~?』

「・・・ありがとうシルフ。本当に助かった―――。何て礼を言えばいいのか分からない程に」

『あはは~いいんすよ~。わたすはご主人が大好きにゃんでな。じゃけん、まぁたわたすを構ってくれなんし?そいでええんよ』

 

そう言いながらシルフは実体化を解き、景色に溶けるように風となって消えていった。

 

シルフの精霊力の具現化を消失させられたイリスが盛大に尻餅をつき、地面に叩きつけられたのを見遣り、僕は彼女の元へと足を向けた――――。

 

 

 

ーAnother Viewー

 

 

「―――僕は、君が勝手に押し掛けてきたことを許した。・・・でも勝手にいなくなることは絶対に許したりしないっ」

 

 

天使様はそう言って、私の傍へとゆっくり歩いてきた。

私は力及ばず、申し訳無さで口を開くことも出来なかった。どんな叱責を受けようとそれを受け入れるつもりだった。

 

 

 

 

 

 

「―――――二度、と・・・僕の前から・・・いなくなるんじゃない・・・っ」

 

 

 

 

 

私を痛いくらいに強く抱きしめ、小さく囁くような声は震えていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              馬鹿か私は!!!!!!

 

 

 

 

 

―――――何よりも大切な御方の心も守れず何が、何が――――騎士だっ!!!

 

 

馬鹿だ大馬鹿者だっ!!!こんなにも・・・こんなにもこの御方は私のことを想ってくれていたというのにっ!!!

 

 

何て無様!!何て浅慮!!こんな私がこの御方の騎士を名乗るなんて笑い種だ!!!

 

 

 

 

 

――――――ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・。

 

 

私は・・・もう、二度と・・・貴方を泣かせるような真似は致しません―――――。

 

 

 

――――だから・・・今一度・・・誓わせてください。

 

 

騎士としてではなく――――ただのイリスとして・・・。

 

 

 

 

「貴方様のイリスは・・・、二度と、っ、お傍を離れること、は、ありません・・・っ」

 

 

どうか、零れ落ちる雫が貴方様を濡らす事を今だけはお許し下さい――――。

 

 

 

ーAnother View Endー

 

 

 

驚天動地の事件を経て、僕らは街へと無事に帰還することが出来た。

子供達はお礼を言いながら、僕を天使様というのを止めること無く家路につく。

ファナも何か切なそうな表情を浮かべながらも、別れの挨拶を交わすと家路についた。

 

「少年、今回は君のお陰で大事に至らず済んだ。この件はギルドに報告しておくよ」

「ニックさん。この件は僕と貴方達だけの秘密にしてもらえませんか?」

「ちょ、ボス?何言ってるのよ!?君の活躍が無かったらどうなってたか分からないのよ!?」

「というか、ゾイさんボスはいい加減止めて?僕は何か報奨や名誉が欲しいわけじゃないんです。だから、僕に少しでも感謝して貰えるなら僕のことを秘密にしてくれませんか?」

「―――――・・・分かったよ少年」

「・・・了解よボス」

 

未だにボスと言うのを止めないゾイと苦々しい顔をしているニックが僕の願いに応える。

ゾイもニックもきっと、この件を自分の手柄のように振る舞うのがどうしても嫌なのだろう。

ニックは息を強く吹き、僕を見遣り、笑顔で問いかける。

 

「少年、名を聞くのはいいだろう?俺に恩人の名を聞かせてくれよ」

「そうね、アタシも最高のボスの名前、聞いておきたいわ」

「・・・、イツキ。イツキ・神代と言います。こちらこそニックさんとゾイさんのこと忘れないから―――。どうか、お元気で・・・」

 

二人は、微笑みを浮かべ、僕の名を心に染み込ませるように呟き、別れの挨拶を交わした―――。

 

 

 

 

 

 

 

ホウタル山の事件を経たその晩のことだった・・・。

 

ベッドに横になった僕の身体に纏わり付くように女の子の香りを漂わせながら抱きつくイリスを蹴り飛ばした。

 

「ひゃん!?ててて天使様!?わ、私達はそのっ!?ふ、夫婦では!?」

「何でそうなった!!」

「え!?あのような熱烈なプロポーズを受けたので!!こ、今晩はしょ、初夜かと!!!!」

 

部屋で大声を上げたことにより、母が扉を開けてイリスの頭を強かに叩きつけた。

 

「あ、あだーーーーー!?おおおお義母様!?こ、今回はその合法というか!?合意でして!!」

「イーリースーちゃーん?私言ったわよね?イツキには夜這いも朝這いも禁止!!だってね?」

「違うんですぅ!?わ、私はちゃんとプロポーズをぉぉぉ!!!」

「イリスちゃんの妄想は聞いてませーん!説教ですよ~」

「いだいだだだだだだ!?お義母様!?み耳を耳は引っ張らないでぇぇぇぇぇーーー!!」

 

母に連行されていくイリスを見遣り、小さく息を吐き捨てる。

 

「全く・・・イリスは仕方ないな・・・」

 

そう呟いた自分の表情はとても楽しそうに笑っていたことを僕が気が付くことは無かった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、私の物語は楽しんで頂けていますでしょうか。

ご意見ご感想、宜しければくださいませ。


では、今回は次回予告しておきますね。

23 魔女の瞳からは逃げられない

にゃー1。
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