ラブライブ!~10年後の奇跡~   作:シャニ

10 / 26
10.無理難題

聖堂大学医学部附属病院の当直室はビジネスホテルのシングルルームほどの広さである。シングルベッドにデスク、テレビが置いてあり、ユニットバスもついている。定期的に業者が掃除しており、清潔な部屋なのだが、それでも数週間を過ごすとなると、裕福な家庭で育った真姫としては、想像しただけで気が滅入る。

 

そんな当直室で、真姫はベッド、太田はデスク備え付けの椅子に腰かけ、向かい合って座っている。どうすればマリアが手術に前向きになれるのか。そのカギが真姫にあると太田は言った。それについて話し合うために、真姫は太田が数週間占拠することになったこの部屋に来ている。医局ではなく、太田の部屋で話すことにしたのは、真姫のスクールアイドルとしての過去を、ほかの医局員たちに興味本位で聞かれたくないための太田の配慮であった。

 

「先ほど仰っていた、カギって、どういうことなんですか?」

「北方マリアさんには、もう一度輝きたい、と思ってもらうことが必要だと思うんだ」

 

太田は深刻な顔で言う。「輝きたい」という、かつて高坂穂乃果が言っていたセリフを、太田は照れもせずに口にする。この人は本当にアイドルが大好きなのだと真姫は思った。

 

「そのカギがどうして私なんですか・・・仰ることがよく飲み込めないんですけど」

「・・・ライブ、やってくれないか?μ‘sのメンバーで」

「えっ!?」

 

あまりに突拍子もない太田の発言に、真姫は一瞬、この人は何を言っているのだろうと思ったが、太田の目が本気であることを悟り、猛然と否定する。

 

「無理です!もう解散して10年も経っているんですよ!歌も踊りも忘れています!それに、そもそもメンバーが集まりません!」

 

そう言う真姫の顔は真っ赤である。真姫にとっては歌も踊りも、1週間程度の練習で勘を取り戻し、人に見せられる形にすることは容易だという自負はある。しかし、26歳の自分が、スクールアイドルに一日でも戻ることが恥ずかしい。他のメンバーと一緒であれば恥ずかしさも緩和されるかもしれないが、メンバーは散り散りになってしまい、集めることは無理に思える。

 

「もう、3人集まっているじゃないか。君と、星空凛さん、矢澤にこさん。あと6人集めればいい」

 

太田から、彼がまだ会ったことがないはずの矢澤にこの名前が出てきたことが、真姫には意外だった。

 

「太田先生、ひょっとして、にこちゃんがいま何をやっているか、ご存じなんですか?」

「もちろん。俺、彼女の店からよく通販でグッズ買ってるよ。アメリカまで届けてもらってる」

 

太田がガチヲタであることを真姫は再認識したが、そんなことよりも、今の真姫にとっての問題は残りの6人を集めることの困難さである。連絡は長いこと途絶えてしまっているのだ。

 

「あと6人、集めよう。伝説のスクールアイドルであるμ‘sのライブを北方さんに生で見てもらって、自分も再び輝きたい、そのために手術を受けたいと思ってもらおう。それができるのは、西木野真姫さん、君しかいない」

 

太田は、真姫にとっては難易度が高すぎる無茶振りを口にした。真姫はそれから逃げるべく、言い訳を必死に口にする。しかし太田はことごとくそれを潰していく。

 

「でも、私には他の受け持ち患者さんもいて・・・」

「大丈夫。君の患者さんはすべて俺が担当する」

「他のメンバーと連絡を取ることは難しくて・・・」

「大丈夫。にこにー経由で何人かは捕まる。彼女、人脈豊富だろ?俺たちアイドルオタクの間でも有名な話だよ」

「む、無理です、今さらアイドルなんて・・・」

「患者のためなら、医者はできる限りのことをやる。それが医療行為でなくてもだ。君は病気しか診ないのか?」

「・・・」

 

最後の一言で真姫は折れた。

 

「わかりました・・・できる限りのことはしてみます」

「よし、じゃあ、それで進めていこう。国東先生と曽根先生には俺から話をしておくので、しばらくの間、病院では研修医として必要な仕事だけこなして、それ以外はメンバー集めに専念してくれていい。頼んだよ、西木野先生」

「はい・・・」

「じゃあ、早速だけど、君の受け持ち患者さん、今から引き継いでくれるかな?データも見たいので、医局で話をしよう」

 

そう言うと、太田は立ち上がって当直室を出た。真姫もそれに続くが、これからの労苦を想像して、足取りは力ない。医局に戻ると、曽根がすぐに声をかけてきた。

 

「あら、お二人さん、お話は済んだかしら?病院食の新メニュー試食にこれから行くのだけど、貴方たちもどう?夕飯にはちょうどいい時間よ」

 

そう言われて、真姫は腕時計を見た。時間は夜の7時になろうとしていた。そういえば、今日は朝食以降、何も食べていない。それに気づくと、何だか急に空腹に思えてきた。

 

「そうですね。せっかくですから、ご一緒させてください。西木野先生も行きましょう」

 

太田にも促され、特に断る理由のない真姫は同席することにした。三人で職員専用の食堂に向かう。

 

「病院食って美味しくないというのが世間の評判じゃない?なので、うちの病院ではプロジェクトチームを組んで、患者さんへの栄養を保ちつつ、それでいて味も良い病院食を作ろうとしているのよ」

「ほう、それは楽しみですね。たしかに日本では病院食は美味しくないですから。あれでは患者さんの入院生活の質は上がらない」

 

道すがら、曽根が言い、太田がそれに応える。真姫は二人のやり取りを黙って聞いている。

 

優に100人程度の職員を収容できる食堂に入り、三人は席に着く。勤務を終えた看護師に、手が空いた医師と医療技術者たちで食堂はほぼ満員である。食堂の壁面には資料を映写するためのスクリーンが展開されている。これで本日のメニューについて説明を行うのだろう。

 

「では、時間になりましたので、試食会を始めたいと思います。まず、この取り組みのリーダーである、新潟農業大学の武村先生からご挨拶を頂きます」

 

病院の給食管理を行う栄養部の部長から開始の挨拶があり、続いて武村という大学教員が挨拶をする。型通りの挨拶をした後、彼は助手を呼んだ。

 

「では、献立の目的や詳細は、助手の小泉からご説明させます・・・あれ?小泉くん?」

 

小泉という助手がおらず、武村は困惑している。すると厨房のほうから、黒いスーツの一人の女性が資料で顔を隠しながら、学生らしき女性に手を引かれてやってきた。緊張しているのか、足取りは非常におぼつかない。二人が真姫たちの席の横を通ったとき、真姫は、聞き覚えのある声を聴く。

 

「誰か助けて・・・誰か助けて・・・」

「えっ・・・花陽?」

 

真姫は思わず口を開いた。すると、女性はびくっとして立ち止まり、ゆっくりと資料から顔を離して真姫のほうを向いた。

真姫は驚いた。顔は若干大人びておりメイクもしているが、女性は紛れもなく小泉花陽である。彼女も真姫に気づき、思わず声を上げる。

 

「えっ・・・真姫・・・ちゃん?あーーーっ!真姫ちゃん!どうしてここに!?」

「あなたこそ、なんでここにいるのよ!」

「真姫ちゃんだ・・・懐かしい・・・うう・・・懐かしいよう・・・」

 

花陽の目は涙目になっており、いまにも真姫に抱き着かんとする勢いである。

 

「ちょっと・・・懐かしいのは私も一緒だけど・・・こんなところでやめなさいよ・・・って、こんなところ?」

 

真姫は思わず周りを見回す。太田は笑いを押し殺しており、曽根は驚いた表情で真姫と花陽を見ている。いや、曽根だけでなく、食堂にいる全員が、真姫と花陽に注目している。

 

真姫の顔面は、真っ赤に紅潮した。




ご都合主義的に、かよちんの登場です。これからどんどん、メンバーを出していきます。
ご意見ご感想、宜しくお願いします。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。