ラブライブ!~10年後の奇跡~   作:シャニ

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14.園田海未

研修医の日常業務を今までにない早さで完璧に片づけた真姫は、定時で病院を退勤し、母校である音ノ木坂学院への道を早足で歩いている。午後5時を過ぎた二月の空はすでに暗く、寒さが肌に突き刺さるような感覚があるが、今の真姫にはそれは気にならなかった。

 

(私には太田先生みたいな技術はない・・・でも、自分にやれることをやる。それが患者さんのためなら)

 

大学に入学してから今日まで、真姫は母校を訪れたことはなかった。訪れる用事が特になかったということもあるが、母校に足を踏み入れれば、自分がこれまでの人生で一番輝いていたと思える頃、すなわち「μ'sの西木野真姫」であった頃の自分と、いまの自分とを比べて、落ち込んでしまうのが分かっていたからだ。

 

しかし、いまの真姫はそんな劣等感と対峙し、乗り越えてやろうという気概に満ちていた。母校への道のりを真姫は少しだけ懐かしみながら学校へと近づく。校門前の階段を力強く登り、学校の敷地に入る。実に8年ぶりの母校である。校門から校舎までの広場の両脇には夜間照明が設けられており、レッスン着の生徒たちが白い息を吐きながらダンスの練習をしている。夜間照明も広場でのダンス練習も真姫の在学時にはなかったものだが、用件しか頭にない真姫はそれに気づかず、早足で広場を通り抜ける。来客用玄関に入ると、真姫の尋ね人はすでに彼女の来訪を待っていた。昼間の時点で真姫は母校に連絡して、会う約束を取り付けていたのだ。

 

「お久しぶりですね、真姫・・・」

「海未・・・」

 

尋ね人は園田海未である。彼女が高校を卒業してから、真姫と彼女は会う機会がなかったため、実に9年ぶりの再会となる。高校の頃から落ち着いた雰囲気を携えた女性であり、それは今も変わっていない。長く美しい黒髪に、意志の強さと凛々しさを兼ね備えた表情。大和撫子を体現しているかのような美しさは、高校時代に比して、より成熟している。青色のロング丈のカーディガンを白いブラウスの上に羽織り、丈の長いグレーのスカートに黒いストッキングを合わせている。女性教師にふさわしい格好だが、おそらくは派手なことを好まない彼女の意向でもあるのだろう。

 

久々の再会であるが、真姫も海未も感情を素直に表現するのが苦手なため、お互い嬉しさを感じていても、はしゃぎ合う雰囲気にはならない。

 

「海未、ぜんぜん変わってないわね。相変わらずきれい」

「真姫はすっかり大人っぽくなりましたね・・・お医者様という感じがします。それより、いきなりどうしたのですか?突然連絡をもらって、びっくりしました」

「海未に相談があって来たの。これはまず、海未にするべき相談だと思ったから」

「私にすべき相談・・・よく分かりませんが、ここは寒いですから、場所を変えましょう」

 

暖房が効いた応接室のソファに、真姫と海未は向かい合って座った。真姫がこれから海未に話すことは、海未の性格を考えると明らかに難題である。9年ぶりの再会で、話したいことはたくさんあるのだが、真姫はあえてそれを後回しにして、説得に時間がかかるであろう難題を切り出すことに決めていた。まずは軽く様子を探る。

 

「お互い、すっかり大人になったわね」

「私が高校を卒業して以来ですね・・・真姫は立派なお医者様になったようで、安心しました」

「立派じゃないわ、まだまだ未熟だし、怒られてばかりよ・・・むしろ、海未のほうが教師っていう感じで、すごいと思うわ」

「そんなことはありません・・・教師になって5年経ちますが、思春期の女の子は扱いが難しくて・・・私たちが高校生だった頃も、きっと先生方は扱いにくいと感じていたのでしょうね」

 

早くもチャンスが来たと思った真姫は、現役の高校生である北方マリアのことを切り出す。

 

「実は、私もいま、16歳の患者さんを担当しているの。女の子なんだけど、ちょっと扱いにくい患者さんなのよね。今日は、その子のことを相談したいと思ったの」

「16歳の患者さん・・・私でお役にたてるかは分かりませんが、まずはお話を聞かせてください」

 

病を患った高校生に関する相談。この用件は海未の教師としての使命感を刺激した。海未の反応に心の中で喜びつつ、真姫はマリアの背景や病状について話した。

 

「なるほど・・・お話は分かりました。北方さんが手術を受けたいと思うにはどうすればよいか、それを考えなければなりませんね」

 

両手を両ひざの上に置き、背筋を伸ばした姿勢で真姫の話を聞いていた海未は、真っ直ぐな視線を真姫に向けて言った。真姫にとってはここからが正念場であるため、より深刻な表情を作って話す。

 

「そうなのよ・・・私も他のスタッフも、それについて考えたわ。そしたら、結論は一つしか出なかったの」

「おや・・・結論は出ているのですか?では、どうして私に相談を?」

「海未が・・・いいえ、海未だけじゃないんだけど・・・海未の協力が必要なの」

 

真姫がそう言った途端に海未の表情が変わった。落ち着きから嫌な予感へ。海未が全てを察したと真姫は思った。

 

「協力・・・私だけじゃない・・・まさか・・・真姫・・・」

「そのまさかよ。μ’sを一度だけ再結成して、ライブを開くことに協力してほしい。私たちが輝いてみせることで、あの子にはもう一度輝きたい、そのために手術を受けたい、そう思ってもらいたいの」

 

海未の表情がまた変わった。動揺という言葉を顔で表現している。海未の中で、教師としての使命感と、大人になった自分がμ’sに戻るということの気恥かしさとがせめぎ合う。

 

「真姫、いや、でも、それは・・・それは・・・」

 

真姫はまじまじと海未を見つめ、自分が本気であることを表情で語る。10秒程度の沈黙が二人の間を流れる。沈黙を破ったのは海未である。膝を抱え込み、ソファの上に体育座りのような姿勢になり、顔を膝につけた。そして、声を絞り出した。

 

「無理です・・・」

 

説得に最も時間がかかるであろう海未を最初に訪ねたことは、大正解であると真姫は実感した。




あけましておめでとうございます(土下座しながら)。
本年もよろしくお願い致します。

更新するする詐欺でホントすいません。お待たせ致しました。

物書きというのは、初めて挑戦しているのですが本当に難しいです。
アタマを使います。エネルギーが必要です。それを思うと、クリエーターってすごいですね。

それはさておき、今回は海未ちゃんに登場して頂きました。やはり彼女はμ's再結成に後ろ向きでしたね。彼女をどうやって説得するのか?次回以降は「策士・真姫ちゃん」の登場です。今後ともよろしくお願い致します。

追記:ご意見ご感想、ございましたら是非お願い致します。

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