ラブライブ!~10年後の奇跡~   作:シャニ

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17.正体

店に入ってきた絢瀬絵里は、コートとバッグを預けるために、店のバックヤードの入口に作られたクロークに向かって店内を歩く。すると、真姫、海未、花陽を除いた店内の男女が少なからずどよめいた。絢瀬絵里の美貌は、普段から美しい女性を見慣れている芸能関係者やファッション業界の人間であっても驚嘆するほどのものであるらしい。

 

真姫も、会場にいる美しい女性たちの中で、絢瀬絵里の美貌が際立っていると思った。高校の頃からほとんど変わらない容貌に女性としての成熟さを加え、オーラを放っているかのようである。

 

「真姫ちゃん・・・あれ、絵里ちゃんだよね」

 

花陽の口調はたどたどしい。絵里が自分の近くにいるわけではないにもかかわらず、存在感に気圧されているように真姫には見える。

 

「なんだか・・・話しかけにくいですね」

 

同じく、海未も近寄りがたいものを絵里に感じているようである。絵里の圧倒的な存在感によるものなのか、別の世界に行ってしまったという寂しさから出ている言葉なのか、真姫には分からない。

 

三人が絵里に近寄れず、遠巻きに見ていると、南ことりがクロークの奥のバックヤードから出てきた。絵里の到着を店員から告げられたようだ。ことりの表情は絵里を見た瞬間にぱっと明るくなり、大きな声を上げる。

 

「絵里ちゃん!久しぶり!来てくれてありがとう!」

「ことり、お招きありがとう。そして、開店おめでとう」

 

絵里の口調は落ち着いているが、ことりの声が大きいために周りが静かになってしまい、二人のやり取りは真姫たちにも聞こえている。

 

「わざわざロシアから来てくれるなんて・・・本当にうれしい」

「私もパリでいろいろお世話になったから、これくらい当然よ。日本公演の打合せもあるから、ちょうどよかったわ」

「実はね、今日は懐かしい人たちに来てもらってるの!きっと喜んでもらえるはず!」

 

そう言って、ことりは店内を見渡し、すぐに三人を見つけた。

 

「あ、いた!海未ちゃ~ん!真姫ちゃ~ん!花陽ちゃ~ん!こっち!」

 

ことりが右手を大きく上げて三人を呼んだため、会場にいる人々の視線が三人に集中する。真姫は赤面し、両隣にいる海未と花陽が固まったのも分かったが、気力を振り絞って無言のまま二人の手を掴み、引っ張るようにしてことりと絵里のもとに向かう。すると、三人に気づいた絵里の表情は、懐かしさと嬉しさが混ざったものに変わった。

 

「海未、真姫、花陽・・・まさかここで会えるなんて。とても嬉しいわ」

「久しぶりね、絵里。日本に来るっていうのは、テレビを見て知っていたわ」

 

絵里の存在感に気圧されないように、真姫は精一杯の平静を装って応えた。

 

「お久しぶりです、絵里。それにしても、ことり、どうして絵里が来ると教えてくれなかったのですか?」

 

真姫が先陣を切ったことで我を取り戻したのか、海未も会話に加わる。

 

「みんなを驚かせようと思って、黙っていたの。絵里ちゃん、パリで公演があったときにお店に来てくれて、それ以来連絡を取ってて・・・たまたま日本に来るタイミングが合ったから、今日も来てもらったの」

 

ことりはいたずらっ子のような表情で応えた。

 

「ことりちゃんはパリ、絵里ちゃんはロシア・・・二人ともすごい・・・なんだか別の世界の人みたい」

 

驚嘆を込めた口調で花陽が言う。会話が進むにつれ、彼女も緊張が解けたようだ。

 

「そんなことないわよ。私もことりも、普段は海外で仕事をしているだけ。別の世界の人みたいだなんて、そんなこと言わないで」

「そう。やりたいことが海外にあったから、海外にいるだけ。あと、私たちは大人になったっていうだけで、それ以外はなにも変わらないと思う」

 

穏やかな表情で言う絵里に、ことりが応じた。すると、店員の一人がやってきて、ことりに耳打ちした。彼女は他の来賓にも挨拶をしなければならないのである。

 

「ごめん、ちょっと外すね。セレモニー、楽しんでいって」

 

申し訳なさそうな表情で言うと、ことりは他の招待客のところへ向かった。残された四人は店内の一角に場所を移し、今の仕事や昔話に花を咲かせた。真姫が矢澤にこと星空凛の近況を伝え、四人は昔の仲間たちが元気に、着実に自身の道を歩んでいることを喜んだ。

 

四人がそんな会話をしている間にセレモニーは進んでいき、今回の出店を全面的に支援したという総合商社の事業部長、ことりのブランドを誌面に何度も取り上げているというファッション誌の編集長の挨拶があり、セレモニーの締めとして、デザイナーであることりの挨拶となった。マイクを渡されたことりは、穏やかな笑顔を浮かべながら、一つ一つ言葉を紡ぎだすように語り始めた。真姫たち四人が目を見張ったのは、ことりが型通りの挨拶を述べてからである。

 

「私がデザイナーとして心がけているのは、私のお洋服を着て頂いた皆さんが、より輝けるようにお手伝いするお洋服を作ることです。人が輝くことは、私がお洋服を作る上で最も大切なテーマで、そう考えるようになったきっかけは、私が高校生だった頃の貴重な一年です。本日お越し下さった皆様と、その一年をくれた八人の女の子たちに心から感謝を延べさせて頂きたいと思います」

 

ことりがそう述べたとき、花陽と海未の頬を涙が伝い、絵里も目が潤んだ。しかし、真姫には感動ではなく、頭をガツンと殴られたような衝撃が走った。ことりはμ’sでの経験を人生の貴重な財産として自分の道を歩んでいる。それに比べ、真姫はいつの間にかそれを忘れ、医師としての多忙さに流されて生きている。自堕落な人生ではないにせよ、輝きを大切にして自身も輝いていることりと、いまの自分との違いに真姫は愕然とした。同時に、凛や花陽に対して感じた劣等感の正体を悟った。

 

(輝けてないのは、輝きを大切にしていないから・・・私自身が、大切にしてこなかったから・・・)

 

そう思った瞬間、真姫の目を大粒の涙が伝った。周囲の人々には、それは感動の涙に見えた。




読んで頂きまして、ありがとうございます。

こんなラノベビギナーの作品を待っていてくださった方々には、またしてもお待たせしてしまい申し訳ありません。

明日から、私は夏休みに入ります。どうせコミケに行く以外に予定はないので(笑)、
話を進めたいと思います。皆様は暑さにお気をつけてお過ごしください。

今回は話を長く書きたかったのですが、書いているうちに、ここで話を閉じるのがいいかと考えました。結果、話が短くなってしまいましたが、ここから話を続けるのも無粋と考えました。ご容赦ください。

凹んだり回復したりの真姫ちゃんですが、まだ穂乃果と希を探し出すという任務が待っています。次回もぜひ、目を通して頂けますと幸いです。

ご意見ご感想、よろしくお願い致します。

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