ラブライブ!~10年後の奇跡~   作:シャニ

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18.絢瀬絵里

セレモニーが終わり、真姫は絢瀬絵里と二人で南青山から六本木に場所を変えた。南ことりはセレモニーの跡片付けがあり、園田海未は翌日の仕事に備えて帰宅し、小泉花陽は着慣れない服を長時間着たことや華やかな場所に出たことによる気疲れで帰宅した。真姫も帰宅するつもりだったが、絵里に声をかけられたのだ。

 

そして、二人は絵里が宿泊している外資系高級ホテルのバーに来ている。室内の照明をあえて薄暗くして、高層階からの夜景を楽しめるようにしている店だが、二人は窓には背を向け、店の中央にあるカウンターに並んで座っている。テーブルに等間隔で置かれたキャンドルの灯りが、二人の表情とオーダーしたカクテルを照らしている。

 

「こうして二人きりで話すことって、実は初めてよね?」

「初めてね。ほとんど、九人で過ごしていたから」

「でも、希はよく真姫を構っていたわよね?私、知っていたわ」

「そんな昔話をするために、私を連れてきたの?」

 

絵里は微笑みながら話していたが、μ’sに馴染めずにいた頃の秘密を覗かれたような気恥ずかしさから、真姫の口調がわずかに荒くなった。

 

「違うわ。真姫がさっき泣いていたの、ことりの話に感動したからではないと思ったから」

「えっ・・・」

 

図星をつかれて、真姫は面食らった。絵里はどうやって自分の心を見抜いたのか、真姫には見当もつかない。そんな真姫の表情を見て、絵里は種明かしをする。

 

「私、これでもバレリーナよ?バレエも演技で、全身でいろんな感情を表現するの。真姫の表情は、感動して泣いた人の表情ではなかったわ」

「そうなの・・・さすが、プリマは違うわね」

「ことりは、確かにすごい人になった。でも、真姫はそれを妬むような子ではないから、涙の理由が何か、それが気になったのよ」

 

そこまで見透かされてしまうと、真姫には誤魔化す気も起きない。自分の感じたことを、そのまま絵里に伝えることにした。穏やかな心で言葉を選ぶ。

 

「ことりの挨拶でね、気づいたのよ。ことりはμ’sとして過ごした1年間を大切にして、原動力にして生きてて、いますごく輝いてるけど、私はそれをすっかり忘れてたって」

 

絵里は黙って聞いている。真姫は続ける。

 

「たしかに私は医者になったけど、医者を目指すうちに、μ’sで得たものを忘れて、医者になってからも忘れて、流されて生きてるんだなって。そう思ったら、泣けたのよ」

 

そこまで話すと、真姫はマティーニを口に運んだ。辛口の液体がいまの真姫にはむしろ心地よい。

 

「そう・・・でも、そんなに卑下するようなことでもないかもしれないわよ」

 

右手に持ったカクテルを眺めながら絵里が言った。ろうそくの灯りに照らされた横顔からはすでに微笑みが消えている。

 

「ううん・・・ことりだけじゃなく、凜も花陽も海未も、にこちゃんも、きっとμ’sで過ごした時間は忘れていないと思うの。私だけ忘れてたのよ」

 

真姫の口調は穏やかだが、表情には自嘲が浮かぶ。

 

「違うわ・・・真姫、あなただけじゃない。私もあなたと同じような経験をしているの」

 

絵里のその言葉を聞いた瞬間、真姫は驚きの表情を浮かべた。絵里は続ける。

 

「忘れていたの。私も。μ’sを」

 

高校卒業後、絢瀬絵里はロシアのバレエ学校に進んだ。しかし、彼女にはおよそ三年のブランクがあり、それだけでも十分なハンデであるばかりか、ロシアで名門と称されるバレエ学校に入学できるのは、10代前半にして才能を認められた少女たちがほとんどであり、それ以外は留学生として編入することでチャンスを掴む以外にない。

 

まず、絵里はロシアに渡って祖母の家に住み、しばらく使うことがなかったロシア語を祖母との暮らしで取り戻すと同時に、地元のバレエ学校に通って基礎からバレリーナとしての自分を鍛え上げ直しつつ、編入学に向けたオーディションのチャンスを待った。自立心の強い絵里は生活を完全に祖母や両親に依存するわけにはいかないと考えていたので、オーディションまでの生活費はアルバイトで賄った。

 

そうした苦労の甲斐もあり、オーディションは1度で合格した。絵里は学校のあるサンクトペテルブルクに居を移し、寄宿舎で暮らしながらバレエ漬けの生活を送った。「卒業できるのは全入学者の3分の1程度」という学校であるだけに日々のレッスンは厳しく、さらに厳しい進級試験の度に多くの学生が脱落していき、絵里と同学年の編入生で卒業できた生徒は絵里以外には一人もいなかった。また、ロシア人の血を引いたクォーターとはいえ、絵里は黄色人種であり、そして編入学生であることに起因した嫌がらせや差別も受けた。

 

そういった状況に歯を食いしばって立ち向かったことと天性の才能とが相乗効果を生み、卒業する頃には絵里はバレリーナとして大きく成長し、首席で学校を卒業するとともに、同じくサンクトペテルブルクにある世界屈指のバレエ団に入団することができた。そこから更に苦労に苦労を重ねて、東洋人にしてプリマバレリーナという地位を掴んだ。

 

「輝きとは正反対の、どろどろした闘いの毎日だった。今の私も、他人からは輝いて見えるかもしれない・・・でも、湖に浮かぶ白鳥と同じよ。優雅に見えても、水面下では足をばたつかせて、プリマの地位を奪われないようにもがいている。そういうことなのよ」

「絵里・・・」

 

少し疲れたような絵里の表情は、真姫がテレビで見た世界的なプリマバレリーナのそれではなく、真姫にはそれ以上の言葉を出すことができなかった。

 

「闘っているうちに、勝ち残ることだけ考えていて、勝ち残りはしたけど、忘れてしまっていたわ。μ’sで過ごした時間や、輝き。だから、貴方だけじゃないのよ」

 

そう言うと、絵里は手にしているバラライカを口にした。彼女も強めのカクテルが欲しい気分であったのだ。

 

初めて会った時から、絢瀬絵里は真姫にとって憧れの対象であり、ライバルでもあった。テレビで見た彼女は真姫にとって誇らしくも眩しく、自分ではもう敵わないところに行ってしまったと思えた。だが、いま横に座っている女性は、自分と同じように年を重ね、人生に思い悩む一人の大人なのだ。

 

真姫は疲労と憂いを帯びた絵里の横顔を少しだけ見て、意を決して口を開く。

 

「ねえ・・・エリー」

「なに?」

 

真姫の口調に意がこもっていることを感じたのか、絵里の顔が真姫のほうを向く。真姫は体ごと横向きになった。

 

「貴方も私も・・・あの頃の輝きを・・・μ’sを忘れてるかもしれない。でも、それが取り戻せないって、まだ決まったわけじゃないと思うの」

「どういうこと?」

 

絵里は不思議そうな表情を浮かべる。

 

「話したいことがあるの」

 

そう言って、真姫は先日来からの出来事と、これから彼女がやろうとしていることを全て話すことにした。時計の針は0時を回ろうとしていた。




すいません。また更新するする詐欺でした(土下座)。
盆休みはコミケには行きましたが、それ以外は疲れて家でぼんやりしていました・・・。
いまは仕事で長期出張していまして、ホテルでこれを書いています。

我が「最大にして至高の推し」である絢瀬絵里さんの高校卒業後を私なりに描いてみました。推しであることから、他の子に比べてかなり描写が細かくなってしまいました(笑)。ご容赦ください。

さて、えりちの高校卒業後は空想でいくらでも書けるので、筆を進めるに困ることはありませんでした。今回、一番困ったのは、「真姫ちゃんにとっての絵里ちゃん」です。この辺、アニメにも描写がほとんどないので(私が忘れてるだけかもですが)、いろんな解釈があると思うんです。百人いれば百通りくらいでしょうか。結局は、絵里ちゃんも真姫ちゃんもちょっと系統が似ていると思ったので、「憧れで、ライバル」にしてみました。皆さんはどのような解釈をされているでしょうか。

スクフェスも今日でイベントが終わったので、更新の時間があるかもしれません。皆様にはよい週末をお過ごしください。ご意見ご感想、頂けますと幸いです。
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