西木野真姫は、絢瀬絵里に全てを話した。北方マリアという少女が病に苦しんでいること、彼女がμ’sに関心を持っていること、彼女にμ’sのライブを見せて勇気づけるため、真姫がメンバー集めに奔走していること。さらに、それを知っているのは真姫を含めて園田海未と矢澤にこの三人だけで、にこは乗り気だが、海未には参加を拒否されていること。さらに、星空凛が日本に来ていることも話した。
μ’s再結成という真姫の思いを聞いたときは驚きの表情を見せた絵里だったが、話を聞き終えたいまは穏やかな表情に戻っている。真姫はその表情から、期待を込めて問いかける。
「ほとんど一方的に話してしまったけど、力を貸してもらえないかしら?エリー」
「分かったわ。じゃあ、私も協力させてもらうわ」
期待通りではあったものの、あっさりと承諾を取り付けたことで真姫は拍子抜けし、思わず問いかける。
「えっ…本当!?頼んでおいて言うのも変だけど…お仕事は大丈夫なの?」
「それは大丈夫。日本公演の打合せで来ていると言っても、半分は里帰りも兼ねているし、夜なら大抵は時間を取れるわ。それに、演出を考えるお手伝いもできると思うの」
絵里によると、最近の彼女はバレリーナとして活動するだけではなく、演出の勉強もしており、日本公演は彼女が初めて演出を手掛け、かつ、プリマバレリーナを務めるとのことであった。
「エリー、どんどんすごい人になっていくわね…本当に誇らしいわ」
「ううん…他のみんなと同じように、私も私の道でベストを尽くしているだけ。それは真姫も同じだと思うわ」
「え?」
「患者さんのために、いま、ベストを尽くしているじゃない。こうして熱く他人に頼み込むなんて、昔の真姫にはなかったと思うわ」
「あっ…」
真姫は自分に驚いた。たしかに、こうして熱意を込めて人に頼みごとをするというのは、これまでの真姫の人生の中でおよそ経験のないことだった。真姫の表情を見て、絵里は続ける。
「九人で進んだ道は違うけど、私たちは精一杯生きてきた。だから、ダンスや歌のレベルに関係なく、今の私たちなら、あの頃よりもっと輝けると思うの。それをマリアさんに見せてあげましょう」
「エリー…ありがとう」
真姫は絵里の言葉に勇気づけられた。同時に、十年ぶりの再会であるにもかかわらず、真姫の感情を察し、気遣ってくれる友人の存在に有難さを感じた。時計はすでに午前一時を回っており、二人は近日中の再会を約束し、共に店を後にした。
真姫はホテルでタクシーを捕まえ、家路へ向かっている。絵里がμ’sの再結成に賛成し、積極的に準備に参加すると言ってくれたことと、彼女の言葉に勇気づけられたことの二つが真姫の気持ちを高揚させた。その勢いで、真姫は再結成について改めて考えた。
(やっぱり、みんなに集まってもらって、きちんと話すべきよね)
花陽、凜、ことりに再結成の意思を打ち明け、一度は参加を拒否した海未を説得する。凜は賛同してくれそうだが、ことりは仕事の都合が見えない。花陽は海未と同じく嫌がるはずで、この二人の説得には、賛同してくれている絵里、にこの協力が必須と真姫は思った。
(花陽はしばらく冬休みで、にこちゃんは夜なら大抵は空いてる。エリーも夜なら時間があるって言ってたからいいとして、凜と海未、あと、ことりの時間を押さえる必要があるわね。そういえば、凛の公演っていつからだったかしら…)
そう思った真姫は、パーティー用の小さなバッグの中から長財布を取り出し、そこから凜が出演するミュージカルのチケットを取り出した。凜が勧めてくれたように太田を誘おうと思っているが、最適なタイミングがいつ訪れるか分からないため、普段使いのバッグではなく常に携帯する財布の中にチケットをしまっているのだ。
(えっと、公演の日付は…)
真姫はチケットの日付を見た。そこに記されている日付は明日、土曜日だった。凜からチケットをもらった時に日付をよく確認しなかったことを真姫は後悔した。
(太田先生を誘えないじゃない…明日も手術でスケジュールが埋まってるわよね…)
そう思いながら、真姫は日付の隣に目をやった。そこには「会場:大阪ベイシアター」との記載があった。
「これ、大阪じゃない!凜、ちゃんと見てなかったわね!」
「お、お客さん、どうしました?」
思わず真姫は声を出してしまい、驚いた初老の男性運転手が声をかけた。真姫は赤面した。
お久しぶりです(土下座しながら)。
仕事に余裕ができ、実に数か月ぶりに更新させて頂いております。
文章が短いですが、話の流れを考えてここで切りました。ご容赦ください。
凜ちゃんが「おっちょこちょい」なおかげで、思いっきり次回のフラグが立ちました(笑)。
明日も更新できればと思いますので、今後ともよろしくお願い致します。