ラブライブ!~10年後の奇跡~   作:シャニ

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20.まきりんぱな

西木野真姫と小泉花陽が新大阪駅に着いたのは、夕方の六時だった。

星空凛が出演するミュージカルが始まる1時間ほど前である。すでに空は暗いが、ビルの灯りやネオンサインが街を照らしている。

 

大阪も東京と同じように寒く、真姫は白いロングコートに赤いストールを合わせ、足元は黒のロングブーツ。花陽は白いニット帽を被り、ベージュのフード付きダッフルコートからは白いタートルネックのニットを覗かせている。青いジーンズにローテクスニーカーを合わせるあたりが、まだ学生である彼女らしい。二人とも大きめのトートバッグを持ち、一泊分の荷物を詰めている。

 

東京から新大阪に向かう新幹線の車内で、花陽は爆睡していたが、真姫は研修医の課題であるレポートを作成していたため、休息は取れなかった。駅を出てタクシー乗り場に向かう二人の足取りはやや重いが、花陽は寝起きの低血圧のため、真姫は疲れのためであるのが対照的である。

 

タクシー乗り場に行列はできておらず、二人はすぐにタクシーに乗り込み、真姫が行き先を告げる。宿泊先のホテルにチェックインする時間はなく、ミュージカルの会場に直接向かう。

 

「真姫ちゃん・・・疲れてるみたいだけど、大丈夫?」

 

花陽が労いの声をかける。真姫は今日も仕事があったが、凛の公演を観るために病院には朝の六時に出勤し、予約した新幹線に間に合うギリギリの時間まで仕事をしていた。病院を出ることには躊躇いが大きかったが、真姫のサポート役を買って出ている太田黒雄が仕事を負担してくれることになったため、何とか大阪に向かうことができた。

 

「ええ・・・大丈夫よ。それより、突然のお願いを聞いてくれてありがとう、花陽」

「私は時間がたっぷりあるから・・・それに、凜ちゃんが出るミュージカルだし、お礼を言うのは私のほう」

 

昨晩、凛がくれたチケットが大阪公演のものであることを確認してから、真姫が真っ先に連絡したのは花陽だった。彼女が冬休み期間で時間があることと、μ’sの一年生組で再会するのが良いと思ったのがその理由だった。あわよくば、二人にμ’s再結成を打診したいということもある。

 

「昨日のことりちゃんや絵里ちゃんもそうだけど、凜ちゃんも海外に出て活躍して・・・すごいよね」

「前も言ってたわね、そんなこと」

 

穏やかな表情で真姫が応じる。

 

「μ’sが解散して十年が経って、みんな自分が選んだ道に進んだけど・・・遠い人になっちゃったみたい」

 

そう語る花陽の表情は、嬉しさに少しばかりの寂しさを交えている。その表情を見た真姫は、真剣な顔で花陽を見る。

 

「花陽」

「え?」

「九人で進んだ道は違うけど、私たちは精一杯生きてきた。あなたもそうでしょ?誰も遠いところには行ってないわ。だから、そんなこと言わないで」

「真姫ちゃん・・・」

 

真姫は、昨日の夜に自分が絢瀬絵里に言われたことを花陽に伝えると同時に、自分にもう一度言い聞かせた。花陽が納得したかどうかは分からなかったが、彼女が東京にいるうちに分かってくれたらいいと真姫は思った。タクシーは開演に間に合うように大阪市内を走り続けた。

 

 

 

「はあ・・・すごかった。凜ちゃん、本当にすごかったよう・・・」

 

ミュージカルが終演し、真姫と花陽は来賓向けの部屋に通されている。花陽はまだ感動が収まらないらしく、目は泣き腫らして真っ赤で、左手にはハンカチが強く握られている。真姫は苦笑交じりに応じる。

 

「花陽、あんた泣きすぎよ。たしかに、凜もミュージカルも素晴らしかったけど」

「だって、あんなに踊れて、歌も上手くなって、何よりも凜ちゃん、すごく楽しそうだった」

 

その感想には真姫も大いに同意した。ミュージカルは一昨年にアメリカで初演を迎え、大ヒットしたものである。凜は主役ではないが、主役を幾度も勇気づける妖精の役で、彼女は可愛らしさとコミカルさを出しながら、元気いっぱいに歌い踊った。花陽は懐かしさと凜の輝きに感極まったのか、凜が登場してから五分と経たないうちに涙を流し、真姫も涙こそ流さなかったものの、μ’sで活動していた頃から飛躍的に成長した凜の演者としての実力に感動した。

 

二人はいま、部屋に凜が来るのを待っている。観に行くことを凜に知らせていたため、終演後にスタッフが二人に声をかけ、この部屋に通してくれたのだった。

 

部屋に通されて二十分は経った頃、部屋のドアが開き、凜を含めた主だった出演者たちが衣装のまま入ってきた。真姫と花陽以外の来賓のほとんどは、公演に協賛している企業の関係者であるらしく、出演者全員が通訳を交えて彼らに挨拶している。ただ、凜だけは日本語が母国語であるため通訳を介する必要がなく、他の出演者よりもウケがいいようである。

 

真姫と花陽は、出演者全員が企業関係者への挨拶を終えた後であれば、凜との面会が可能になることをスタッフから予め説明されていたため、凜が彼らと会話している様子を眺めている。凜は語尾に「にゃ」をつけず、丁寧に言葉を交わしている。

 

「凜ちゃん、大人になったねえ・・・」

 

花陽がそう漏らした。彼女にとって、語尾に「にゃ」をつけて話さない凜を見るのは二度目である。一度目はμ’sが活動していた頃で、凜がウェディングドレスを着てセンターポジションでステージに立った時だ。

 

「花陽、私から見たら、貴方も大人になってるわよ。この前のプレゼンだけど、高校の頃の花陽なら、あんなに大勢の前で一人で話すなんて、できなかったんじゃない?」

「あ、あれは・・・発表自体は全部終わったけど、すごく恥ずかしかった。ああいうのは初めてじゃないけど、ぜんぜん慣れなくて・・・」

「まあ、私も他人のこと言えないわね。カンファレンスで教授の前に出ると、今も少し緊張するから」

「へえ、真姫ちゃんも緊張することってあるんだね。μ’sの頃はいつも堂々としてたのに」

 

花陽がそう言い終えたとき、企業関係者への挨拶が終わったのか、凜を除く出演者たちは楽屋へ引き上げた。一人残った凜は、とびっきりの笑顔で二人のところへ駆け寄る。

 

「真姫ちゃーーん!かよちーーん!来てくれてうれしいにゃーー!」

 

そう言うと、凜は二人に抱きついた。

 

「凜ちゃん!久しぶり!」

「凱旋おめでとう、凜。素晴らしい舞台だったわ」

 

二人は、抱きついてきた凜の身体を支えながら言った。花陽はとびっきりの笑顔を浮かべており、真姫にも微笑みが浮かんでいる。

 

「舞台、どうだった?楽しんでくれたかにゃ?」

 

凜は身体を二人から離しながら尋ねた。

 

「楽しかったし、それに凜ちゃんがすごかった!歌もダンスも感動した!」

「花陽ったら、凜が出てきてから、感動してずっと泣いてたのよ。まあ、私も凜は本当にすごいなって思ったけど」

 

二人が偽らざる本心を述べると、凜の笑顔は一層明るくなった。

 

「本当?二人にそう言ってもらえると、頑張った甲斐があったにゃーー!ねえ、今晩、二人とも時間あるかにゃ?話したいことがたくさんあるにゃ!」

「私も花陽も時間はあるけど・・・凜のほうこそ、大丈夫なの?」

「今日で大阪公演は終わりだから、しばらくは自由だにゃーー!」

「私も、凜ちゃんと話したいことがたくさんあるから・・・どうかな?真姫ちゃん」

「じゃあ、この後、合流しましょう。私たちは難波のホテルに泊まっているから、そこでどうかしら」

 

真姫の提案に凜は大きく頷いた。二人はひとまず凜と別れ、ホテルに向かうことにした。

 

 

 

真姫と花陽が宿泊しているシティホテルの客室に、凜は時間通りにやって来た。時計は夜の10時を回っている。凜はアメリカに生活の拠点があるせいか、恰好はアメカジそのもので、黄色のダウンジャケットに黒のニット帽を被り、黒のスウェットパンツとスニーカーを合わせている。マスクはしているが、それは変装ではなく喉を守るためである。

 

真姫は自分たちの客室ではなく、ホテルのバーラウンジに集まることを考えていたが、凜のテンションの高さを考えると、そういう静かな場所は向かないと花陽に止められたため、二人で菓子や飲み物を買い揃え、客室に凜を招き入れたのだった。

 

「うわーー!日本のお菓子がいっぱいあるにゃーー!やっと食べられるにゃーー・・・」

 

テーブルに並んだ菓子を見るなり、凜は嬉しそうな表情で言った。不思議そうな顔で花陽が問う。

 

「凜ちゃん、日本に来てから何日か経ってるよね?お菓子、食べてないの?」

「お菓子は太りやすいから、公演前は控えるにゃ・・・ダンスのキレとか、体の動きが重くなる感じがするにゃ」

「摂生してるんだ・・・凜ちゃん、すごいなあ」

 

花陽が感嘆の声を上げ、真姫も凜のプロ意識の高さに感心した。そんな凜の念願である日本の菓子や飲み物を手に、三人はそれぞれの十年間について話した。花陽も凜も、それぞれの道で困難にぶつかりながらも、それを乗り越えて今までやってきたことが真姫には窺えた。

 

「μ’sにいた頃はいろんな経験をたくさんさせてもらったけど、μ’sが終わってからも、二人ともいろんな経験をしてきたのね。高校三年生のときに凜がアメリカに行くって言い出した時は、本当にびっくりしたわ」

「んー、やっぱり、ニューヨークにみんなで行ったときのことが大きいにゃ。あのとき、凜はニューヨークにすごく魅力を感じたにゃ」

「凜ちゃんのその感覚、私も分かるなあ。ニューヨークって、東京とは違った魅力があるよね」

 

花陽がそう言ったとき、つけっ放しにしていたテレビの音声から、三人にとって耳慣れた言葉が聞こえてきた。番組は深夜のバラエティもののようである。

 

「それでは明日のお天気ですが、いま関西で人気沸騰中の占い師である、この方にやって頂きます。名付けてスピリチュアル天気予報です」

「スピリチュアル!?」

 

女性アナウンサーがきれいな声で言った途端、三人は声を揃えてテレビの方を見た。

 

「はーい、それでは、スピリチュアル天気予報、始めまーす」

 

そう言いながら画面に出てきたのは、東條希である。

 

「希!?」

 

三人はまたも声を揃えた。




【著者あとがき】

長らくお待たせしました。やっと希ちゃんまでたどりつくことができました。
高校卒業後に関西の大学に進学した希ちゃんですが(注:本作品での設定です)、卒業後の十年間、何をしていたのでしょうか。真姫ちゃんは彼女に会えるのでしょうか。続きはまたの更新をお待ちください。

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