ラブライブ!~10年後の奇跡~   作:シャニ

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23.必然の復活

タロット占いを通して希が言い当てた真姫の心中。そして、それを否定しない真姫。

 

「μ'sを復活させたい」という真姫の思いを知った凛と花陽は驚愕したが、その後の反応は真逆である。

 

「μ'sをもう一回やるって、それ面白いにゃ!今の凛はあの頃の凛よりパワーアップしているし、もっといいライブをお客さんに観てもらえると思うにゃ!」

 

何のための復活なのかも聞かず、凛は満面の笑顔である。アメリカでミュージカル女優として活躍している彼女にしてみれば、μ'sの歌とダンスを再び行うことは造作がない上に、アーティストとしてよりレベルアップしているという自負もある。

 

「えっ、凛ちゃん、何言ってるの?むむむ無理無理無理無理、そんなの無理だよう。私、もう踊れないし歌えないよう」

 

動揺しながら花陽が言う。農学の大学院生である彼女は、歌とダンスのみならず人前に出ることから随分と遠ざかっている。これに引っ込み思案という性格が拍車をかけ、花陽の反応は他の三人にとっては驚くものではなかった。

しかし、そんな花陽の反応を凛は意に介さない。

 

「かよちん、大丈夫大丈夫!ちょっと練習すればすぐできるようになるにゃ!で、いつ復活させるにゃ?凛は来週の日曜日以降ならしばらくは日本にいるにゃ!」

「りりり、凛ちゃん、あのね、凛ちゃんはミュージカル女優さんだからいいかもしれないけど、わ、私はもう歌からもダンスからもずっと離れてるんだよ?練習しても、絶対に追いつけないよ…」

 

そう言いつつ、花陽は段々と涙目になっていく。それを見て、希が口を開く。

 

「真姫ちゃん」

「え?」

「何のためにμ'sを復活させたいのか、話してもらえるんよね」

 

希の表情と口調は全てを悟ったかのようであり、花陽の背中を押せという意図を真姫は汲み取った。そこで、一昨日の夜に絢瀬絵里に話した内容を、そのまま三人に話した。

 

「そうなの…マリアさん、かわいそう…」

 

話を聞き終えた花陽が神妙な面持ちで言った。μ'sの中でも一、二を争うスクールアイドル好きだった彼女にとって、溢れんばかりの才能がありながらも、スクールアイドルとして活躍する未来を病魔によって奪われる子がいるというのは、十分同情に値する。

 

「真姫ちゃん、そういうことなら、もっと早く言ってくれたらよかったにゃ…」

 

凛も同じように神妙な面持ちである。ただ、彼女の場合は、北方マリアに対する同情だけではなく、もっと早く自分を頼ってほしかったという思いもある。

 

「いずれ、二人にはお願いするつもりだったのよ。でも、凛はリハーサルで忙しいだろうし、花陽はさっきみたいな感じになるだろうって思ってたから、中々言い出せなかったの。二人とも、ごめんなさい」

 

そう言うと、真姫は頭を下げた。二人に対する反省と、躊躇があった自分に対する反省の念からである。

 

「ううん、でも、こうして話してくれたから嬉しいにゃ。そうと決まれば、東京に戻ったら特訓するにゃ!ね、かよちん!」

「ちゃんとついていけるか不安だけど…そういうことなら、私も協力する。ちょうど冬休みだから、練習する時間はたくさんあるし」

 

凛は自信満々、花陽は心細げではあるが、それぞれ笑顔である。

 

「じゃあ、これで決まりやね。真姫ちゃん、凛ちゃん、花陽ちゃん。それに、にこっち、絵里ち、あと、ウチ。二年生以外、全員揃ったやん」

 

二人の様子を見て、希は穏やかに言った。しかし、希以外の三人は「ウチ」という言葉に反応した。

 

「ウチ?」

「希ちゃん、お店、大丈夫なの?」

「そうよ、そういえば、希のこと聞いてなかったわ。協力してくれるのはありがたいけど…いまは大阪に住んでるんでしょう?」

 

それぞれ、心配そうな表情で希を見る。すると希はスマホを取り出し、自分の店のTwitterの公式アカウントを見せた。そこには、修行のため店を数週間休業するという旨のお知らせが書かれていた。

 

「希ちゃん、これ…昨日の夜に投稿してる」

「こうなるって、予想してたにゃ?」

 

花陽と凛が驚きの表情を浮かべて言い、希は相変わらず穏やかな表情で応える。

 

「予想したっていうより、必然だって思ってたよ。ウチらが何かの困難にぶつかったとき、そこから逃げたことなんか一度もなかったやん。全部みんなで乗り越えてきた。だから、こうなるのは必然」

「希…」

 

真姫は、希の中の変わらないものに感謝した。メンバーを常に見守り、絶妙なタイミングで助けの手を差し伸べる。それは10年の時を経て、メンバーが離れ離れになっていても全く変わることはない。

 

「さあ、そうと決まったら、ウチらはさっそく東京に行こか。凛ちゃんはともかく、真姫ちゃんも花陽ちゃんもウチもかなりブランクがあるから、一生懸命練習しよ」

 

そう言うと、希はソファから立ち上がって近くに転がっているビニール袋を手にすると、テーブルの上の紙コップや紙皿、スナック菓子の袋など、昨晩の真姫たちが広げたものの後片付けを始めた。宿泊先が別の凛がそれを手伝い、真姫と花陽はチェックアウトのための身支度を整え始める。

 

真姫がふと窓の外を見ると、真っ青で空気の澄み渡った、午前の冬の晴れ空が広がっている。それは、希のおかげでまた一つハードルを越えた真姫の気持ちを現したかのようであった。




【作者よりご挨拶とお詫び】

実に1年近く放置状態になってしまい、読んで下さっている皆様には、本当に申し訳ありません。個人的な事情(スクフェスやスクスタではありません)により、なかなか筆を取れないでおりました。
今の私は、来年1月の「ラブライブ!フェス」へのモチベだけで生きています。それを勝手に一つの区切りとすべく、この作品をそれまでには何とか完成させたいと思っています。
近日中には次話を投稿したいと思っていますので、引き続きお付き合い下さる皆様には、今後ともよろしくお願い致します。

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