ラブライブ!~10年後の奇跡~   作:シャニ

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24.パーティールームの戦い

日曜深夜の秋葉原は平日以上に閑散としている。商店が20時から22時の間に軒並み閉まるということもあるが、漫画、アニメ、ゲーム、模型、アイドル、コンセプトカフェといった、秋葉原に偏在気味のコンテンツを楽しむ人々には、そもそも夜遊びという概念が希薄なこともある。

 

そんな街で、店を辛うじて開けているのはファミレスやカラオケ店の類であり、そのうちのカラオケ店の一室に、かつてはμ'sのメンバーであった7人が集まっている。時刻はすでに夜の22時を過ぎようとしている。

 

真姫は大阪から東京に戻る新幹線の中で、南ことり、矢澤にこ、絢瀬絵里、そして園田海未に連絡を取った。時間はバラバラだったが、

海未以外の3人とは20時までに合流できたため、真姫、花陽、凛、絵里、希、にこ、ことりの7人はそれぞれが旧交を温め合った。

 

この7人の中で、μ's復活の計画を真姫が打ち明けていなかったのは南ことりだけであったが、彼女は園田海未から既に話を聞いていた。真姫が参加の可否を伺うと、もともとクリエイションの世界に身を置いている彼女には表現に抵抗がないらしく、満面の笑みを浮かべて二つ返事で引き受けた。

 

いま、16人収容のパーティールームに、にこ、希、絵里の三年生組と、花陽、真姫、ことりの三人がテーブルを挟んで向かい合う形で座っている。三年生組は穏やかな表情、花陽は決心がついたとはいえ不安げな表情を浮かべている。凛は部屋に入った時から好き放題に曲を入れては歌い踊り、気が向いたときに他のメンバーを巻き込んでいる。曲と曲の合間に響くのは南ことりの楽しそうな鼻歌で、彼女は常に持ち歩いているスケッチブックに、メンバーに着せる衣装のアイデアを書いている。

 

そんな中、真姫だけが真剣な表情を浮かべている。この7人が揃うのは10年ぶりであるから、彼女も再会を心から楽しみたいのだが、これから合流する園田海未のことを思うと、つい表情が硬くなる。

 

「本当に来てくれるかしら」

 

真姫が心配そうに呟いた。22時にここに来ることは承諾を得ているのだが、テーブルに置いたスマホの時計は22時5分を示している。

 

「何か事情があるんやない?あの子が遅れるには、それなりの理由があるんよ」

「心配しすぎよ、真姫。みんなで集まるから、来てくれるように誘っただけでしょう」

 

希と絵里が応じた。とはいえ、海未は聡明であり、こちらが呼び出した意図を察して来ない可能性がある。真姫にはそれが拭い切れない。

 

「真姫ちゃん、絵里ちゃんの言うとおりだよ~。行くって返事したなら、絶対に来てくれるよ」

 

スケッチブックにペンを走らせながら、ことりが言う。幼馴染であるせいか、彼女は何も心配していないのだ。

 

「そうにゃー!真姫ちゃん、心配しすぎにゃー!それより、一曲歌ってほしいにゃー!」

 

満面の笑顔でマイクを向けながら凛が言う。

 

「凛、あんたって相変わらず…」

 

能天気ね、と真姫が続けようとした時、ドアをノックする音がした。ことりがいそいそとスケッチブックを置いてドアを開け、海未を迎え入れる。グレーのチェスターコートに水色のマフラーを巻いた、長い黒髪の女性が入ってきた。園田海未である。

 

「遅れてすみません。明日からの授業の準備で、つい遅くなりました」

「わーーー!海未ちゃーーーん!」

 

凛はそう叫ぶとマイクを持ったままステージから海未に駆け寄り、抱き着いた。マイクが凛の歓声と抱き着いた時の音を拾う。ごつい音に、にこと花陽が思わず顔をしかめる。

 

「凛…お久しぶりです。それに…希も」

「久しぶりやね、海未ちゃん。元気そうで何より」

「とりあえず、座って頂戴。あと、飲み物も注文しましょう。温かいものがいいわよね」

「では…緑茶をお願いします」

 

海未は絵里の勧めに応じると、コートをハンガーにかけ、絵里の隣に座った。それからしばらくの間、海未を加えた8人は、海未以外には二度目となる近況報告や思い出話に花を咲かせた。そのうちに、海未のために温かい緑茶が運ばれてきて、それを区切りに海未が口を開いた。

 

「ところで…今日の場ですが、単に旧交を温め合うことだけが目的ではないでしょう」

 

場の空気が固まった。固い意志を感じさせる口調に、海未の説得に不安がないメンバーでも内心はたじろぐ。

 

「海未ちゃん…気づいてたの?」

「気づくも何も…皆さんの私への接し方、なんだかぎこちないではありませんか。旧交を温めるだけなら、こうはならないはずです」

 

ことりの問いかけに、海未は冷静な口調で応じた。その口調から、真姫は説得がかなり難しいと感じたが、最大限の勇気を振り絞り、テーブルに両手を置き、身を乗り出して声を出す。

 

「そうよ、海未。この前の話の続き。μ'sの復活に、北方マリアを救うのに力を貸してほしい。プロの凛と絵里が力を貸してくれれば、パフォーマンスだって昔以上に良いものができるはずだわ」

「真姫・・・気持ちは分かりますが、私たちはパフォーマンスの世界から随分と離れているのですよ?すぐに昔のように、いえ、昔以上に踊れると思いますか?」

「いまはやってみせるとしか言えない。でも、何もしないではいられない。だから、力を貸してほしいの」

 

真姫の口調は熱を帯びている。受け持ちの患者とはいえ、ここまで他人のことに必死になれている自分を不思議に感じながら、真姫は食い下がった。

 

「海未…協力してもらえないかしら?ダンスや演出なら、私や凛でサポートできるわ」

「そうにゃー!いまの凛なら、みんなを支えてあげられるにゃー!」

「海未ちゃん…衣装なら私に任せてもらえれば大丈夫だから…お願い」

 

絵里、凛、ことりが真姫を援護する。すると海未は、緑茶を一口啜ると、湯呑みを置いて目を閉じた。数秒の空白が流れる。

 

「わかりました」

「協力して…くれるの?」

「皆さんがそこまで言うなら、協力を考えたいと思います。ただし、やるからには最高のμ'sでなければなりません。真姫、いまのあなたはどれだけ歌えますか?踊れますか?いえ、真姫だけではありません。まずはここにいる全員が、いまの自分を知ることが必要です」

 

心を決めたせいか、海未の口調はどんどん熱を帯びていく。その様子を見ながら、にこが問いかける。

 

「で、どうやって知るのよ、それ」

「皆さんが1人ずつ、同じ曲を…」

「同じ曲を?」

「あそこで、振りつきで歌ってもらいます。それが協力の条件です」

 

そう言うと、海未はステージを指差した。たしかに、この部屋には2人程度が歌って踊れるステージがある。

 

「そんなの、余裕だにゃー!凛の今を海未ちゃんに見てもらうにゃー!」

「それくらいなら、私は大丈夫よ」

 

凛と絵里はパフォーマンスの世界に身を置いているので、昔以上にやれるという自負がある。

 

「なるほど…そういうことね。いいわ、この宇宙No.1アイドル、にこにー様の実力を見せてあげるわよ」

「にこちゃん、もうアイドルじゃないにゃ」

「うるさいわね!今日からしばらくはアイドルなのよっ!」

 

にこの自信の根拠は、にこ以外の7人には不明である。

 

「むむむ無理無理無理無理、無理だよう」

「花陽ちゃん、私だってブランクあるから…一緒にがんばろ」

「実際にやってみんと、これからどんな特訓が必要か分からないやん。やってみよか」

 

花陽をことりが励ます。希は性格のせいか、それとも別に理由があるのか余裕たっぷりである。彼女らの反応を見て、海未は改めて真姫に向き直り、問いかける。

 

「真姫…あなたはどうします?」

「いいわ…やってやろうじゃない。そんなの余裕よ!」

 

真姫には数日の練習で勘を取り戻す自信はあるが、今すぐに昔のように歌い踊る自信はない。しかし、ここは応じるしかなかった。

 

「ところで…海未、もちろんあなたもやるのよね?」

「えっ?私?私は…」

「やるのよね?」

「も、もちろん…やりますとも」

 

にこのツッコミに、海末は顔を赤くしながら応えた。10年を経ても、彼女が恥ずかしがり屋なのは相変わらずだと他のメンバーは思った。

 

「じゃあ、決まりにゃー!曲はどうするにゃ?」

「うーん…あれがいいんやない?『僕らは今のなかで』なら、一番歌い込んできたやん」

 

希の意見に全員が同意した。たしかに、初期の曲なら身体が覚えている可能性が高い。はやる気持ちを抑えられない凛が自分からトップバッターをやると言い出し、これも全員、異論はなかった。凛はいそいそと端末を操作して曲を入力すると、ステージに向かった。

 

「いっくにゃーー!」

 

凛のパフォーマンスは素晴らしかった。ミュージカル女優として鍛えられたことで歌声もより伸びやかになり、ダンスも躍動感が溢れていた。

 

次に絵里。絵里はプリマ・バレリーナを務めている実力を存分に発揮し、ダンスの優美さに磨きがかかっていた。他のメンバーが不思議に思ったのは歌声が昔と変わらないことである。なぜなら、バレエは声を使う機会がほぼないのだ。

 

「絵里ちゃん…練習してたにゃ?」

「実は…真姫に頼まれてから、発声練習してたのよ」

 

凛の不思議そうな問いかけに、絵里は照れ臭そうに応えた。

 

続いて、にこがステージに上がった。彼女は歌もダンスも、客に対する煽りすらも昔のとおりに完璧にこなし、彼女以外の全員が驚いた。

歌い終わって、真姫が不満げに言う。

 

「にこちゃん…かなり練習してたわね?」

「な、何を言ってるのよ、私くらいの才能ならこれくらい余裕よ」

 

にこは目を泳がせながら分かりやすく焦って応え、全員の疑問が解消した。

 

次は希が上がった。彼女も練習していたらしく、歌もダンスも昔と遜色がなかった。

 

「希も…練習していたの?」

「ウチはたぶん、絵里ちよりも前から練習してたんよ。まあ、タロットのお告げやね」

 

そう言って希は微笑んだが、彼女のスピリチュアル・パワーはもはや常人が理解できる範疇にないところまで達しているようであり、他のメンバーはそれ以上の追求を諦めた。

 

次に海未がステージに立った。これは彼女以外のメンバーには意外なことだったが、彼女が歌い始めると、すぐに全員が納得した。彼女は十分な練習を積んでおり、自信があったのだ。歌もダンスも昔のままどころか、スキルが全体的に上がっている。これに不満げな反応を示したのは真姫である。

 

「海末…あなた、自分には無理だって言ってたわよね?昔より上手くなってるじゃない」.

「生徒たちを見ていて、なんだか悔しくなったんです。なので、実は2年くらい前から一人で練習していました…」

 

顔を真っ赤にしながら海末が応えたため、真姫は毒気を抜かれ、それ以上の追求を諦めた。

 

続いて、ことりである。職業柄、歌にも踊りにも関わりがないはずの彼女であるが、歌も踊りも昔のままである。これには花陽が反応した。

 

「ことりちゃん、ブランクあるっていうのは…」

「実は、たまにパリのアニソンクラブに行って、歌ったり踊ったりしてストレス解消してて…ごめんなさい」

 

花陽だけでなく、真姫もこれには出し抜かれ感を覚えた。そして、惨事はここからである。

 

ことりの次にステージに上がった花陽は、明らかにブランクがあり、動けず歌えず。何よりも本人が怯えて縮こまっており、まともなパフォーマンスを発揮するどころではなく、意気消沈してステージを降りた。

 

最後に真姫である。彼女には、練習を数日やればブランクを取り戻す自信はある。今日はウォーミングアップのようなもので、格好はつくはず。そう思い、彼女はステージに上がった。

 

しかし、結果は惨憺たるものだった。

 

歌いながら、昔のように声が出ないことを痛感した。踊りはもっと酷く、頭が振り付けを覚えていても、身体がついていかない。加えて、フルコーラスを歌って踊りきるだけの持久力がない。

 

(私…こんなに出来なくなっているなんて…)

 

曲が終わり、疲れ果てた真姫はそのままステージにへたり込んだ。そんな真姫を見て、海末がステージにやってきた。

 

「真姫…どうしますか?これでもμ'sをやりますか?あなたはお医者様で、忙しいはずです。練習時間の確保は難しいかもしれません。私たちには追いつけないかもしれません。それでも、やりますか?」

 

真姫は荒い息を吐きながら無言であり、海末の問いに応えられない。息苦しくて返事ができない間、真姫は自分の思いを巡らせる。プライドが高い真姫にとって、自分の醜態は実に情けなく、心が折れそうである。しかし、それ以上にいまの自分が悔しい。また、マリアを救うためにはμ'sを諦められない。加えて、穂乃果以外の仲間を全員集めて助力を仰いでおきながら、ここで諦めるという選択肢はない。

 

海末の問いかけから数分が経ち、メンバーが心配そうに見つめる中、真姫はゆっくりと立ち上がった。カラオケの画面はすでに切り替わり、洋楽のPVを流している。

 

「やるわ…やるわよ。こんなことで諦めるわけないじゃない」

 

真姫の目は炎を宿しているかのようであり、闘争心がみなぎっている。真姫はその闘争心を声に出した。海末は真姫の目をまっすぐ見つめる。

 

「わかりました。そこまでの決意なら、私も協力します」

「海末…」

「明日から特訓しましょう。メニューは私が考えますね」

「ありが…とう」

 

真姫は照れながら礼を言った。いまの思いを吐き出したこともあるが、高校を卒業してから今まで、素直さをほとんど出せなかった自分が、少しだけ素直になれたような気がした。そんな真姫を見て、メンバーが次々に声をかける。

 

「特訓なら、にこにーに任せて頂戴。スタジオはずっと押さえてあるから」

「ふふ…ウチ、こんな真姫ちゃん見たの初めてかもしれん」

「真姫…前にも言ったけど、演出から振り付けまで、任せて頂戴」

「真姫ちゃん…衣装ならうちのお針子さんたちにも協力してもらうから、心配しないで」

「私も頑張って練習する!一緒に取り戻そう、真姫ちゃん!」

「そういえば、穂乃果ちゃんはどうするにゃ?」

 

凛が空気を読まない言葉を言った瞬間、カラオケの画面が別のPVに切り替わり、メンバーに聞き覚えのある、能天気な声が流れ出る。

 

「高坂穂乃果、いよいよデビューします!よろしくお願いします!」

 

ベージュのトーンを中心とした柔らかめの衣装に身を包み、ギターを持った女性が画面に現れた。

 

それは高坂穂乃果である。




【作者より】
有言実行ということで、更新しました。
ようやく穂乃果ちゃんを登場させることができました。真姫ちゃんと花陽ちゃんの特訓、穂乃果は何をしていて、どうやってメンバーに合流するのかなど、まだまだ書いていきます。来週にはその辺を書きたいと思っています。
皆様には、忌憚ないご意見ご批判、よろしくお願いします。
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