カラオケルームの画面にいきなり現れた高坂穂乃果。彼女以外のメンバー8人は画面に一斉に視線を移し、驚愕し、意図せずに声を揃えて叫ぶ。
「穂乃果ーーーーーー!!」
画面に映る穂乃果に、他のメンバーの驚きの声など届くはずもなく、彼女は朗らかにインタビューに答えている。
「ど、どうして穂乃果ちゃんが出てきたにゃ?」
「凛、とりあえず、話を聞いてみましょう」
驚きと動揺を隠せない凛を海未が制し、8人は穂乃果へのインタビューに耳を傾けた。すると、彼女が高校を卒業後、どのような生活をしていたのかが大まかに理解できた。
穂乃果は高校を卒業後、家業である和菓子屋を継ぐことを決めていた。父親について修行の道に入る前に菓子作りの見聞を広めようと思い立った彼女は海外へ発ち、滞在した国の菓子を食べ歩いていた。しかし、彼女は高校生のときと変わらず金銭の使い方が無計画であり、旅費が途中で底をついたため、旅先でアルバイトをしながらストリートシンガーとして歌うことで旅費を稼ぎ、気の向くままに様々な国を転々とする生活を半年前まで続けていた。そして、滞在先のロンドンでパブの飲食代として歌った際に、偶然その場に居合わせた著名な音楽プロデューサーの目に留まり、すぐにシンガーソングライターとしてデビューが決まった。いまは日本とヨーロッパ、そしてアメリカで同時にリリースされるデビュー曲のプロモーション期間で、近く来日することが決まっている。
「穂乃果…」
「穂乃果ちゃん…」
「ぜんぜん変わってないにゃー…」
海未、ことり、凛が呆れたように声を出した。穂乃果のあまりに破天荒な生活に、残るメンバーも開いた口が塞がらない顔をしている。
「なんていうか…これ…」
「穂乃果ちゃんらしいお話やね」
希と絵里がそう言うのと同時に、画面は穂乃果のインタビューから曲のPVに切り替わった。8人は食い入るように再び画面を見始めた。
PVでの穂乃果は、ウェールズあたりの古城をバックにした英国風の広大な庭園で、しっとりとした曲調のポップスを歌う。彼女の声量は豊かであり、それでいて優しく、透きとおるように聴き手に響く。曲調ゆえにダンスはないものの、表情や仕草といった表現力は曲をそのまま模写したかのようであり、8人は穂乃果の歌唱力と表現力の高さに驚愕した。μ'sでの穂乃果はリーダーとして全員を引っ張るカリスマであり、歌唱力や表現力が秀でているわけではなかったが、10年を経た穂乃果はエンターテイナーとしての底力が飛躍的に増している。
「穂乃果ちゃん、すごい…」
「ふん、私だってブランクを取り戻せばこれくらいには…なれるわよ」
花陽が感嘆し、にこは10年前と変わらない反応を見せるが、内心では今の穂乃果には叶わないと実感している。真姫はあまりの凄さに言葉が出ない。
PVが終わり、真姫と海未が席に戻った。8人は穂乃果が見せたパフォーマンスに大きな衝撃を受け、興奮気味に会話を始めた。
「ふー…すごいものを観たにゃ。穂乃果ちゃん、すごい人になってるにゃ」
凛は同じエンターテイナーとして、やや後塵を拝した感があり、歓喜よりも畏敬に近い念が言葉に混じる。
「プロデューサーの人、アンドリュー・シーマンって…私でも知ってるくらい有名な人だわ」
「そうなの?」
「うん…ヨーロッパとアメリカで、音楽やファッションの業界にいる人なら、大抵は知ってる…かな」
真姫は絵里に問いかけ、ことりがそれに反応した。ことりはパリに居住し、絵里もヨーロッパで公演を行うことが多いため、こうした情報に触れやすい。
「それはさておき、問題はμ'sやね。穂乃果ちゃん、日本に来るって言ってたやん。会えるかな」
「こんなすごい人になっちゃうと、会ってくれるか、心配だよう」
「本人が会うって言っても、プロモーション期間でしょ?プライベートの時間は、ほとんどないかもしれないわね」
希がμ'sに話を戻すが、花陽とにこが後ろ向きな反応を示した。彼女の反応は今の真姫の気持ちを完全に代弁している。
「いえ、大丈夫だと思います。穂乃果ですから」
「うん…私も大丈夫だと思う。穂乃果ちゃんだから」
世界的な歌手への道を歩もうとしている穂乃果が自分たちに会おうとするか、また、会う時間を作れるか。真姫だけでなく、凛と花陽、三年生組も不安に思ったが、それは二年生組の二人がきっぱりと否定した。特に海未は確信的な表情をしている。こういったことの根拠を問うこと自体がナンセンスと思ったが、真姫は不安げな口調で問いかける。
「大丈夫って…どうしてそう思うの?」
「漠然としか説明できませんが…私とことりが、穂乃果のことを一番わかっています。ですから、会えると思います」
「たぶん、変わってないと思う。幼稚園の頃から今まで、穂乃果ちゃんは変わらないままだと思う」
他の6人より、海未とことりのほうが穂乃果との付き合いはずっと長い。幼少の頃から高校まで穂乃果と接してきた二人には、それから10年を経ても、穂乃果は誰よりも友達思いであり、仲間思いであるという、少しだけ願望を交えた確信がある。
「うーん…話すだけ、話してみたらいいんやないかな。ダメで元々ってこともあるわけやし」
「私もそれがいいと思うわ。まずはコンタクトを取ってみましょう、真姫」
「そこまで言うなら…わかったわ」
希の提案を絵里が後押しする。穂乃果を最も理解している二年生組と、μ'sで最も頼れるこの二人に言われては、真姫も提案を飲まざるを得ない。
「決まりね。まずは穂乃果に連絡が取れる伝手を探しましょう。私は日本の音楽会社を当たってみるわ」
「じゃあ、私はイギリスのレーベルに伝手があるか探すね」
にこ、ことりの二人が伝手探しを買って出た。たしかに、この二人であれば日本とヨーロッパの音楽業界に近い位置にいる。
「私は穂乃果の実家に寄ってみます。穂乃果から連絡が来ているかもしれませんから」
そう言ったのは海未だ。彼女はずっと実家住みであり、穂乃果の実家とは交流が途絶えていない。
「9人…揃うかな、真姫ちゃん」
「分からない…でも、ここまできたら揃えたい」
花陽が期待感をうっすらとたたえた表情で問いかけ、真姫は不安感を拭い去るように少しだけ勝気な表情を見せて応えた。
【近況ご挨拶】
まず初めに、更新がしばらく途絶えましたこと、お詫び申し上げます。仕事や私生活等々、いろいろ理由はあるんですが、やっぱり怠惰なだけですね。深く反省しています。
そんな怠惰な私ですが、重い重い腰が上がったのは、新型コロナウイルスに係る自粛生活が大きいです。私は在宅勤務でほとんど外出しなくなりました。娯楽も少なく、おそらく皆さんも同じような思いをされているのかと思いました。それなら、たとえ駄作であっても、皆様に暇をつぶせるコンテンツをご提供できればと思った次第です。
せっかく穂乃果ちゃんを登場させていますし、次はなるべく早めに更新したいと思います。自粛期間はおそらく、不幸にして、まだまだありそうですしね。
皆様のご健康を切に祈り、ご挨拶と替えさせて頂きます。