ラブライブ!~10年後の奇跡~   作:シャニ

26 / 26
26.藁にも縋る思い

μ'sのメンバー9人から、高坂穂乃果を除く8人がそろってから四日が経とうとしている。

 

西木野真姫は、ここ三日間を自宅と病院とダンススタジオの三か所以外では過ごしておらず、いまは自宅でバスタブに浸かり、病院での勤務とダンス練習とで疲労した体を癒している。

 

しかし、肩まで湯につかっている彼女の表情は暗い。そんな表情のまま彼女は膝を水中から出し、体育座りの姿勢を取る。そして、今日の練習の際にメンバーと交わした会話を思い出した。話題は高坂穂乃果への連絡である。彼女の表情が示すとおり、結果は芳しいものではなかった。

 

園田海未によると、高坂穂乃果は実家に連絡を全くしておらず、高坂雪穂をはじめとする彼女の家族は、長女の歌手デビューを海未によって知ることとなった。

矢澤にこは、日本における穂乃果のプロモーションを取り仕切る音楽会社に接触したが、高坂穂乃果のデビューは会社の最重要案件であり、大手広告代理店と合同で立ち上げたプロジェクトチームが専任で進めているため、にこの幅広い人脈をもってしても、穂乃果はおろかプロジェクトチームにすら近づけなかった。

南ことりは彼女の欧州の人脈をたどり、穂乃果のプロデューサーであるアンドリュー・シーマンの秘書までは接触できたが、シーマンは穂乃果のデビューにかなり力を入れており、彼女のプライベートまで厳重に管理しているため、穂乃果への接触は叶わなかった。

 

(こうなると…いよいよ詰んでるのかしら)

 

肩をさらに沈め、真姫は思案した。彼女の形のよい顎が、湯に浸かろうとしている。

 

(でも、μ'sは8人じゃない。9人。9人だからこそ、観てくれる人に最高のパフォーマンスを届けられる)

 

8人でもライブは開催できる。しかも、絢瀬絵里や星空凛といった、エンターテイメントの世界で活躍しているメンバーもおり、高校生の頃よりも質の高いライブができるかもしれない。だが、真姫は理解していた。

 

(μ'sは質だけじゃなく、輝き。これは9人が揃って初めて光り輝いて、観てくれる人に届く)

 

「よし!」

 

そう言って自分を奮い立たせると、真姫はバスタブで勢いよく立ち上がり、近くに置いてあったバスタオルを手にして体と頭を拭くと、そのままバスローブを羽織り、広い浴室を出た。すぐに髪を乾かすべきだが、それすらも彼女にはもどかしい。

 

自室に戻ると、彼女は机の上にあるスマートフォンをさっと手に取り、椅子に腰掛けてSNSのアプリを立ち上げる。世界でもっとも利用者数が多いこのSNSには高坂穂乃果の公式アカウントがあり、真姫が検索欄に"honoka"と入力するだけで、サジェスト機能がそれを示した。アカウントを開くと、先週アカウントが開設されたばかりにもかかわらず、穂乃果のフォロワーはすでに100万人を超えていた。

 

「今の私は…すがれる藁があるなら、すがるしかないじゃない」

 

絞り出すように真姫は言った。穂乃果の最新の投稿を開くと、コメント欄に一文を記す。最初は日本語で入力したが、細かいことを気にしない穂乃果の性分を考えると、スマートフォンが日本語に対応していない可能性があり、英語で入力し直した。

 

"I need your help, Honoka."

 

続けて、スマホに残してある動画を貼り付けた。それは今晩の練習で撮った、8人全員が振り合わせの練習をしている30秒程度の動画だ。絵里が取るリズムに合わせて、残る7人が踊っている。真姫には自分だけタイミングが遅れる場面があり、家で確認しながら練習するために動画に残していたのだ。

 

「届いて…お願い」

 

誰に願うわけでもないが、祈るような気持ちで送信ボタンを押すと、そのまま背もたれにゆっくりと身を委ねる。これだけのことであるのに、真姫は軽い疲労感を覚えた。いま投稿したばかりの自分たちの動画は、世界中にいる穂乃果のフォロワーも見る可能性がある。その気恥ずかしさと、大それたことをしてしまったような感覚があるためだ。

 

(これでダメなら…そのときはロンドンに行ってでも、穂乃果を捕まえるわ)

 

そう覚悟すると、真姫は髪を乾かすために化粧台に向かった。時間は午前0時を過ぎていた。

 

 

真姫が穂乃果にメッセージを送り、2日が過ぎた。真姫を含む穂乃果以外のメンバーは、それぞれの仕事や用事を終えてスタジオに集い、5日目の練習を始めようとしている。いまは金曜の夜で明日は休日のため、8人は全員が納得行くまで練習を行うつもりで、絵里と希、海未とことり、凛と花陽、そして真姫とにこがペアになり、黙々とストレッチをこなす。黙々とこなしているのは、やはりここにいる全員が、穂乃果に対する未練があるからだ。9人でステージに立ちたいという思いを、ここにいる全員が共有していた。

 

その時である。スタジオのドアが勢いよく開き、けたたましくも懐かしい声が部屋に飛び込んでくる。

 

「うわーー、みんな本当に練習してるーー!すごく懐かしい!この感じ、本当に最高!」

 

声の主以外の全員がドアの方を一斉に見る。

声の主は、高坂穂乃果である。




【近況ご挨拶】
お久しぶりです。相変わらずの怠惰ゆえ、半年も間が空きました。お待たせしてしまい、本当に申し訳ありません。今回は話が短いですが、切りのいいところで終わらせて頂きました。続きはすでに頭の中にありますので、なるべく早く書きたいと思います。相変わらず自宅勤務が続いていまして、仕事の合間が結構あるんですよね。それにもかかわらず更新しないとか、本当に怠惰の魔女にでも喰われるんじゃないかと。
お話はついに穂乃果ちゃんを日本に連れてきました。ロンドンにいたはずの彼女、はたして何を語るのでしょう。次回をお待ち頂けますと幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。