病院を出た真姫は、そのまま家路には着かず、秋葉原に寄ることにした。病院から秋葉原まで徒歩で10分程度の道のりを歩く。モンクレールのダウンコートにマフラー、ロングブーツという格好でも、やはり二月の寒さは彼女にはこたえる。
真姫は、昼にテレビで絢瀬絵里の近況を知ったこともあり、他の仲間たちのことを思い浮かべながら、ゆっくりと歩いている。
絢瀬絵里だけでなく、他のμ’sのメンバーとも、高校卒業後はすっかり疎遠になってしまっていた。浪人生のときは受験勉強、医学部生のときは医者になるための学業、研修医になってからは激務が続き、いつの間にかメンバーとの交流が一人を除いて途絶えてしまった。真姫は、彼女が知る限りのメンバーの最新情報を思い出してみる。
リーダーの高坂穂乃果は、実家の和菓子屋を継ぐために修行しているが、長く家を空けているらしい。
園田海未は、メンバー全員の母校である音ノ木坂学院に国語教員として勤務している。
南ことりは、高校卒業後、服飾の勉強のためにイギリスに渡った。いまはフランスで働いているらしい。
星空凛は、高校卒業後、ダンスの勉強をするためにアメリカに渡ったが、その後は分からない。
小泉花陽は、地方の大学に進学し、今はその大学の大学院で稲作の研究をしている。
東條希は、両親が住む関西の大学に進学し、その後は分からない。
絢瀬絵里は、今日分かったとおり、ロシアの名門バレエ団のプリマドンナ。
海外や地方に行ったメンバーはともかく、海未とは連絡を取りつづけることは可能だったはずだが、真姫の学業が多忙であることと、生真面目な海未であれば、彼女もきっと学業に専念しているはずだという真姫の思い込みがあり、連絡を取りにくかったのだ。
(私って、本当に、変わってない・・・)
μ'sでの活動を通して、真姫は自分の性格についてかなり正確に把握できているほうだと思っている。人付き合いが苦手で、負けず嫌いで、そのくせ寂しがりやの甘えん坊。μ’sで熱い1年を一緒に過ごしたはずなのに、人付き合いが苦手という側面が、海未との関係を疎遠なものにしてしまった。
そんなことを考えているうちに、秋葉原の大通りに出た。秋葉原の街はいつも変わらない。常に変わり続けているということが、変わらない。そんな秋葉原に、いつしか真姫も安らぎを抱くようになっていた。
夜になっても未だ人は多く、それを避けるように歩きながら、真姫は大通りに面した小さなビルに入り、エレベーターに乗り込んだ。目的地はビルの最上階、5階にある。エレベーターが開くと、すぐに店の入口がある。いつもどおり、入口のドアは開けっ放しだ。
「いらっしゃいませー」
ぶりっこ気味な声色ではあるが、ずっと聞きなれた、やや甲高い声が聞こえてきた。真姫はエレベーターを降りる。
「あら、あんただったの。医者もたまにはヒマになるのね」
真姫を見て、声の主は急に声色を変えた。やや鋭く刺さるような声色。
声の主は、矢澤にこである。
今回も、ご高覧下さってありがとうございます。
10年後のメンバーについて、あれこれ想像をめぐらせて書いてみました。そして、にこちゃんの登場です。
メンバーにはそれぞれ推しの方がたくさんいらっしゃるわけで、皆さん、それぞれ思うところがおありかと思いますが、あくまで二次創作ということで、ご勘弁ください。
忌憚なきご意見ご感想、よろしくお願いします。