柔和な雰囲気を醸し出す長身の男、太田黒雄。顔はハンサムとはいえない。背の高さは優に180センチはあるだろうか。やや小太りである。
この風体の男が、世界的に天才と評価されている脳外科医であることが、真姫には意外だった。顔は以前から画像で見ていたが、切れ者というか、鋭利な雰囲気の男性像を想像していたからだ。
そして、何よりも真姫の目を引いたのが、太田が着ている「μ’s」と書かれたTシャツである。これはμ’sが最後のライブを行った際に物販として販売されていたもので、真姫には覚えがあった。発売からすでに10年が経過している。
(これを着ているなんて、というか、まだ持っているなんて、この人、絶対にアイドルオタクよね・・・)
太田と握手した右手を離しながら、真姫はそう思ったが、あえて口に出さないことにした。
「西木野さん」
「はいっ」
太田がアイドルオタクなのであろうと想像を巡らせていたところにいきなり名前を呼ばれ、真姫は驚きつつ返事をした。
「このTシャツでお分かりの通り、僕はμ’sのファンでした。いや、今もファンです。あなたが誰かも分かっています」
「はい・・・」
「でも、今日から、私とあなたは、しばらくの間ですが医師として先輩と後輩になります。その領分を超えないように貴方に接していきたいと思いますので、よろしくお願いします」
「そう言っていただけると、とてもありがたいです。しばらくの間、ご指導よろしくお願いします。太田先生」
真姫は笑顔で応えながら頭を下げた。太田の仕事に対する真摯さを垣間見た気がした。
「ところで太田先生、お荷物はどちらですか?車を用意してきていますので、ホテルまでお運びします」
これから数週間は日本に滞在する割に、太田は大きなボストンバッグを一つしか持っていない。ほかの荷物はどこかに置いてきたのだろうと思い、真姫は太田に訊ねた。
「いや、これが僕の荷物です。これ以外は持ってきていませんし、必要なものはこちらで買います。それと、可能であれば病院で寝泊まりしたいと考えていますので、ホテルではなく、このまま病院まで向かって頂いて結構です。早く患者さんにお会いしたいというのもありますので」
真姫は面食らった。変わり者だということは国東から聞いていたが、この男には私生活という概念が凡そないのだろうか。真姫は、表面上は平静さを装いながらも、内心では恐る恐る念を押すことにした。
「でも、せっかく久しぶりに日本にいらしたのに・・・よろしいのですか?」
「いいですよ。もともと日本に来ることが目的ではなく、患者さんの手術を成功させることが目的です。それに聖堂の病院なら、周りに息抜きがたくさんありますから。さ、行きましょう」
そう言うと、太田はボストンバッグを引っ提げて、駐車場の方向に歩きだした。真姫もその後を追おうとした。すると、突然誰かに後ろから勢いよく抱きしめられた。
「にゃーーーー!!真姫ちゃんだにゃーーーー!!久しぶりだにゃーーーー!!」
聞き覚えのある元気な声。首を後ろに回すと、高校のころから全く変わっていない、星空凜の顔があった。
お久しぶりの更新です。
ここ数ヶ月、仕事だけの生活が続いておりまして、ようやく暇ができました。
今回は、凜ちゃんを登場させました。他のμ'sメンバーの登場のさせ方は、構想としてはまだ固まっていませんが、自然な形で出していければと思っています。
ラブライブ!シリーズでは、男性が一切出てきませんが(穂乃果のお父さんは出ていないに等しいと個人的には思っています)、私はあえて太田黒雄という男性を登場させました。彼はアイドルヲタクですので、氏名には「おたく」に近い語感を持たせたく、苗字を太田とし、名前を黒雄にしました。名前は手塚治虫先生の名作「ブラック・ジャック」の登場人物である、間黒男から一文字変えて拝借しています。
男性で、かつアイドルヲタクである太田を登場させた理由は、アイドルヲタクの理想形をこの作品で表現したいということがあります。作品の主軸はあくまでμ'sなのですが、太田はアイドルヲタクでありながらも社会において大活躍しているという点で、アイドルヲタクに対する世間のステレオタイプをひっくり返す存在にしたいと考えています。
今後も、作品に対するご意見、ご批判、よろしくお願いします。