Metal Gear Fate/ Grand Order 作:daaaper
先週に続いて戦闘シーンとなります。
デオンとの戦闘から数分後、オルレアンから南西2km ロワール川にて
カルデア一行は敵本拠地であるオルレアンまで文字通りあと一歩までのところまで来ている。一行から見える川はロワール川であり、その川の向かい側には敵の城までも見えていた。だがその手前にある一行が渡らなければいけない橋の上には敵サーヴァントが2体の反応があり事前に離れた場所で車を降り橋へと向かった。
《やっぱりサーヴァント、しかも前に戦った相手だ!》
「……なるほど、あの騎士は先に逝ったか」
「まあそうでしょうね……それで残っているサーヴァントがこれだけいるなんて、彼……いや彼女ではどうしようもなかったのでしょうね……まぁ彼女が死なず、敵なのには驚きなのだけれど」
そうため息を吐きながら視線を飛ばすカーミラの先には、死んだと思っていた水辺の聖女が立っていた。
対して視線を受け取った聖女はお返しと言わんばかりにメンチを切る……ことなく、ただ静かに2体のサーヴァントを見つめるだけだった。そんな聖女の視線が気に食わなかったのか、不機嫌そうに顔を背けたが、ヴラド3世がただ言葉を出す。
「そう言うな、所詮我らは化け物であり悪役、相対するのが敵であれば殺すのみ」
それだけ行って2人……2体の吸血鬼は、片方は血濡れた貴婦人として、片方は黒き王から鬼となった串刺し公としてそれぞれの獲物を持ち構えた。先ほどまでの戦闘と違い、一切会話の余地は無かった。
「……やっぱり倒すしか無いんだね」
「さっさと下がってろ坊主、さっきとは違って向こうはなりふり構わずくるぞ」
「マスターは私の後ろに、必ず守り切ります」
「ええ、私も護衛に回りましょう」
そう言いながらマシュとゲオルギウスの二人は藤丸を連れ後方に下がる。
先ほどまで戦ったデオンとは違い、殺気はそれほど濃く無い、だがデオンの殺気は己の中にある迷いを断つ意味もあったかもしれない。だがこちらは作業するかのように一切の躊躇なく戦うことを選んだ。向こうが圧倒的な数的不利であることもそうだろうが、逆に言えば向こうはとにかく暴れるだけで良いのだ。
気負う責任も、命も、目の前に立つ2体の化け物には無い。
「っじゃあ私は私を相手させてもらうわよ子イヌ!!」
「えっ一人で相手するつもり!?」
「そりゃそうよ!色々言いたいことあるけど、とにかくムカつくんだもの!!」
そして、昨日仲間になったばかりのエリザベートは敵アサシンであるカーミラを相手取る、というかそれ以外のことを視界に入れておらず、藤丸の質問にも答えていなかった。そんなアイドルはその勢いのまま、まだ分断もしていない化け物2体相手に突っ込んでいった。
「ッあのうるさいトカゲ女、いきなり突っ込んでいったぞ!?」
それに驚いたのは後方支援に回ろうとしていたアマデウス。
音楽家が前線に出張るわけにもなれず、そも前線を張れるサーヴァントがいるこの状況でわざわざ前に出る理由もないことから自然と後方に回ろうとしていただけだが、それでも彼なりに後方支援要員として、何故かキャスターとして現界したなりに魔術による支援をしようとした矢先の出来事。
当然ながら突っ込んでいった
「っ清姫!」
「はぁ……いくらあの駄竜とはいえそのまま死なれても寝覚めが悪いですし。それにますたぁのお願いですから…………すこし頭を冷やしなさい!」
「あっ前衛陣は一時退避!」
突っ込んで行ったエリザベートをとりあえず援護するため、藤丸は(何故か)近くにいた清姫に攻撃指示を出す……と同時に、シャアッ!と舌を出した彼女を見て、彼女自身の宝具を思い出し、自分たちの一番前で立っていたスネークとアルトリアの2人に向けて退避命令を出す。
直後、横にいた清姫は扇子を取り出したかと思うと蒼き竜となり、橋の上に立つ者たちに襲いかかった
「転身火生三昧!」
本人の思い込みという力だけで竜に転身する、という人類史における伝承を見返しても中々出来る者が少ない芸当をやってのける彼女の宝具はその伝承上にある竜になるという物で、その体で締め付け、広範囲にいる敵を焼き尽くす……まぁ逆に言ってしまえば、効果範囲内にいるものであれば味方であろうがなりふり構わず攻撃するという意味で。
「キャアアァァァ!?熱いわよ!!?味方の見分けもつかないのアンタ!!?」
「……そういえば清姫さんはバーサーカーでしたね」
「そういうことだ」
そんな訳で、突っ込んで行ったアイドルは突っ込んで来た竜に燃やされるという、少し事故な気がする場面を見て清姫のクラスを思い出すマシュと、その飛び散る火の粉で葉巻に火をつけようとするスネーク。そんなことをするスネークを見て、アルトリアは呆れ、ジークフリートは変わらず険しそうな顔をしていたが、敵もろとも焼蛇になりそうなアイドルはそれどころじゃなかった。
「ああ私がバカだったわよ!っていうか向こうは無傷だけどぉ!?」
「・・・えっ!?」
アイドルとしてはそれどころじゃ無かったが、サーヴァントとしての仕事は果たすらしい。
そんなエリザベートの言葉を聞いて驚くマスター。一方で葉巻を諦めた傭兵と黒き騎士王は自然と反応する。
「……行くぞ、私に合わせるだけでいい」
「そうしてくれ、俺はお前に合わせるだけだ」
「同じセイバーだが俺はドラゴンスレイヤーだからな、任せる」
「ふん、良くほざく」
直後、清姫の吐いた炎が作った煙が晴れ、代わりに骨肉、砂などありとあらゆる物質で出来た杭が強固な防壁のように橋の上に展開され、炎はその杭を燻らせるだけで橋の向こう側へ届いておらず、その杭から新たな杭がいくつも飛び出す。
「フンッ」
だがそれらの杭は全て黒い極光の剣が振り落とす
それでも防壁そのものに変化は無く、吸血鬼に被害は無い
「
その杭の壁に向けて巨大な質量を持つ竜種が高速回転しながらアルトリアの頭上を飛んで行き、そのまま壁の中央部を削り喰い破りそのままマルタも突入した。
全員が大きく空いた壁から橋の向こう側が見えるようになる
・・・がそこに敵は見えない
「ズルイと思わないことね、こっちに余裕は無いのよ」
「アラ?」
吸血の貴婦人は一行の一番後ろに現れた。
最後尾には援護、もとい前線で戦えないサーヴァントが集まっている。カーミラもその経歴とクラスがアサシンであることから殴り合うタイプのサーヴァントでは無いが、奇襲であれば一番後ろにたむろっているサーヴァントを相手にする程度なら問題ない。突っ立っていたマリーに向かい異様に伸びた爪で切りつける。
「ッ!」
何拍か遅れてアマデウスが反応するもとっくに遅く、格好良く割り込むことも出来ず、彼女が割かれる瞬間を見ることくらいしか出来なかった。
ガキンッ、という音が響く
「そう簡単に……やらせはしません!!」
「ジャンヌ……!」
「ッチ」
護国の旗はフランスの王妃を吸血鬼から守り、鋭い爪を弾いた。
流れるはずだった鮮血の代わりにマリーの目に映ったのは、きらびやかに風になびく金髪だった。
そんな金髪の主であるジャンヌは競り合っている穂先から旗の柄でカーミラの顔面を突き狙う。
だが、元から数的不利を承知で突っ込んだカーミラは奇襲が失敗し、しかも自分で相手しなければならない相手が増えたことも相まって、ジャンヌが旗を回転させた時点で大きく後ろに跳躍し、回避する。
「マリー大丈夫ですか、ケガは」
「ふふ、まさか私を守ってくれる騎士様がジャンヌなんて」
「っエェ?」
「ふふふ」
マリー・アントワネットがサーヴァントとして召喚されると、彼女のスキルとして自分を守る騎士たる人物を引き寄せる。……そのスキルのお陰で音楽家である彼も召喚されたのかは不明だが、少なくとも今の場面で引き寄せた騎士はジャンヌだったようだ。それが王妃様本人にはおかしかったらしく、自分で笑っているらしい。
「ぁあ、彼女はいつも通りだから問題ないと思うよ……まぁマリアが言う通り守るために駆けつけたのは君だけどね」
「そ、そうですか……」
「全く、これだから人数が多いのは嫌なのよ……」
その一方で、失敗するかもしれない、程度に考えていた奇襲が敵を増やす形で失敗したことにため息を吐くカーミラ。今の彼女の奇襲によって10人近くものサーヴァントが敵である自分のことを見ている、しかも見ている全員を相手にする必要があるというのだからため息も出る。
「……こんな役目、狂っているとか以前の問題よね」
「ですが、それでも貴女は降参することは無いのでしょう」
「……ふ、そうね。あなたの言う通りよ、そう考えればどうせ私は狂っているのでしょうけど……降参しないわ、私たちはね」
「・・・・・・」
ため息を吐きながらも言葉を紡ぐ吸血鬼に対し、まっすぐな視線をぶつけるジャンヌの言葉に、何かを思い出したのかフッと微笑み言葉を返すカーミラ。その顔に引っかかりを覚えたジャンヌ。
「マシュ!マスターを守れ!!」
「ハイッ、何がなんでも——」
「違う!!」
「……えっ?」
「ッ!失礼!!」
直後、後ろから先ほどまで最前線だった一行の最後方からスネークが叫ぶ
続く言葉にフリーズしたマシュ
防御に関して直感が働くゲオルギウスはすぐにその場から藤丸とマシュの2人をそれぞれを片手で掴み、スネークやアルトリアがいる方へ無理やり引き摺り走った。
直後、藤丸が立っていた足元が裂けて橋に穴が空き、先ほどタラスクによって破壊されたものよりも太く丈夫な木材や金属でできた杭が再び壁のように橋の下から突き出る。そしてさらに壁から1本の杭が2人引きずるゲオルギウスを狙い飛び出す。
「っマスターッ!」
だがマシュが復帰するには十分な時間が稼がれた。
あのまま立っていたなら時間以前にそこで終わっていただけだが、その未熟な部分は実際にスネークとゲオルギウスによってフォローされた。そして未熟ならば、彼女は、彼女がすべきことをするだけである。
ゲオルギウスはマシュを掴んでいた手を離し、そのマシュは手に持つ盾を自分たちの後方から迫る杭に向け、真っ向から抑えつける。
「クッァアアァァ!!」
ぶつかっても勢いが収まらない杭だったが、マシュの気合いによって杭の進行方向は右直角に曲げられ橋の縁を破壊して止まった。だがそれでも警戒を怠らず、追撃が無いか確認しながらマシュは盾を構えながら後ろに下がり、ゲオルギウスと藤丸に合流する。
すでにゲオルギウスは藤丸を連れスネーク達と合流しており、遅れて最初に壊された杭から(どうにか)戻ってきたエリザベートや清姫・マルタも合流していた。……が状況は芳しくなかった。
「分断、されましたね」
「向こうは何人だ?」
「マリーさんとアマデウスさん、あとジャンヌさんの3人かな……」
「それだけか」
「すぐに向こうに合流したいですが……」
ゲオルギウスが淡々と事実を確認する。強固な杭によって橋は半分ほどに分断され、藤丸はじめ多くのサーヴァントがいるこちら側に対し、向こう側には三体のサーヴァントしかおらず、それもほとんど碌に戦えない2人と弱体化されているルーラーであるジャンヌだけである。故にすぐにこの杭を破壊して向こう側に合流するべきだ……が。
「しかもよりによって私が向こうにいるんでしょ!?だったらさっきみたいに壊しちゃえば——」
「はぁ・・・あなたはそこまでアホなんですかぁ?」
「はああァ !?さっさと壊すに越したことないでしょ!壊さない方がバカよ!!」
「アホは貴様だトカゲ娘」
「と、トカッ——!?」
「悪いがお前が一方的に悪いな、そのままあの壁を貫通させる攻撃をして、向こうにいる連中が無傷か?」
「・・・あ」
「そういうことですよ。それにアレ、宝具レベルで生成されてますよね?それなら宝具を使わないとまず壊せないでしょうから」
「それに相手もこっちの自由にはさせてくれる気はさらさら無い、という話だ」
エリザベートがサッサと杭をぶっ壊そうと提案するが、それを全員が否定する。
さらにスネークが橋を分断した杭に視線を向けると、そこには黒い貴族服を着た王が槍を携え待っていた。
「言ったはずだ、余は化物であり敵であれば殺すのみである。それが例え気に食わぬ傀儡の身であろうとな」
そう言って現れたヴラド3世はゆっくりと一行の方へと歩み始めた。
《ッ!?急激な魔力上昇!なりふり構わず襲ってくるぞ!!》
「だろうな、立ち止まればあの杭で串刺しだ」
「
「ッ動いてとにかく回避!!」
言われるまでもなく、と言った風ながらも藤丸やサーヴァント達はその場から跳びのき、走る。
直後、それぞれが居た橋下から杭が穿たれる。もちろんそれら全ては回避されるが、それぞれの回避先にさらに杭が飛び出てくる。サーヴァント達はとりあえず回避できてるが、
「ちょっ、これ際限無いわけ!?」
「だろうな、そういう伝承があるサーヴァントだしな、それに向こうからすればジャンヌらがやられるまでの時間稼ぎも兼ねてるだろう」
「なんか考えは!?」
そう藤丸が叫ぶ最中も敵の宝具である杭は彼らを襲い続ける。
このままではジリ貧、になる立場は向こうだがあまりにも時間がかかりすぎる。それに加え時間がかかればこちらにも被害が出かねない、隔たれた向こう側へと行く必要もある。
「……黒き騎士王よ頼みがある」
「ほう、どうした竜殺し」
「すまないが俺を、その剣であの杭を超える程度に打ち上げてくれ」
「……正気か?」
「ああ」
「確実にアレの餌食になるぞ」
「俺もサーヴァントだ、策はある」
「・・・マスター、私がジークフリートを向こうに飛ばすが構わないな?よし飛ばす」
「はぇ!?チョッ——」
この状況を打開するにはこちら側の敵であるヴラド3世を速攻で倒すか、強固な杭“だけ”を破壊して無理やり合流するか、の2択。だが、反対側に取り残されているサーヴァントの援護に即行くことができれば一応の問題はないとも言える。
「誇りに思え、この剣に乗り、ましてや斬り上げられ無傷の人間は貴様が初めてだ」
「……すまない、だが……そうだな、真後ろから斬りつけないでくれ」
「ッ行け」
腹を地面に向け、空にも腹を見せている聖剣に片足を引っ掛ける足場として乗せたジークフリートは、持ち主の言葉にいつも通り一言詫びながらも自身の弱点に関する注文をした。その言葉に対しアルトリアは自身の筋力とさらに魔力放出で高速で剣を振り上げることでしっかりと応え、ジークフリートのオーダー通り、背中を斬りつけることなく彼を強固な杭の高さまで打ち上げた。
「それを余が許すとでも思ったか」
そして、予想された通りヴラドが飛び越えようとするジークフリートの軌道上に杭を打ち込む。
「それを私たちが邪魔しないとでもお思いですか?」
だがジークフリートを狙った杭を清姫が扇子からの炎で薙ぎ払う
「っ悪く思わないでよねっ!!」
その炎に紛れてエリザベートが突入し懐に潜り込み、マイクを兼ねた竜骨槍をヴラド3世の顔に打ち込む。
それに対し彼は至って冷静に、自身の持つ槍で彼女の槍を側面から弾き、自身に向けられた穂先を脇にすり抜けさせ、その勢いのまま自分の槍を振り下ろす。
しかし、元から筋力がCしかないエリザベートは槍が敵の脇へと外れた時点で背中を向け、自分の尻尾で頭をかち割ろうと振り下ろされた槍を弾いた。
「……っ」
だがジークフリートの体はちょうど壁の真上へと到達していた。
それを確認したヴラド三世は直後、彼の体を貫かんと杭でできた壁が急速に進展させ、ジークフリートに直撃する。
「ジークフリートさん!?」
「心配するな、よく見ろ坊主、あいつは無事だ」
「えっ?……えっ!?」
「心配させてすまない、だがこれが一番早い、こちらは俺に任せてくれ」
そう言うと猛スピードで杭で突かれ先ほどの壁の高さよりはるか高くに打ち上げられたジークフリートは無傷でさらに高くなった壁の向こう側へと消えていった。
その間にエリザベートはさっさと懐から離脱し一行が集まる橋のたもとへと避難する、だってマジ怖いんだもん(本人談)
《ど、どうやら伝承通り彼の体は攻撃を受け付けないみたいだよ、多分体がそういう宝具——》
「解説は後!こっちの被害は!?」
「今のところゼロだな」
「けどキリがないです、一気に攻めるか意表でも突かないと……」
「奇襲か、だが見通しが良過ぎる、それに裏にも回れん」
どうにか速攻で倒す必要性が無くなったものの、ヴラド3世をこちら側にいるメンツで倒すことに変わりはない。ただ敵は橋の上におり、その後ろには壁があるために後ろに回り込むことが物理的に難しい。さらに正面から攻め込もうにも波状的に杭が橋から飛び出してくる為にまず接近できない。
いまはジークフリートが向こう側へと飛んで行った為に、様子見なのか敵は杭は飛び出して来ず、壁の前に槍を構えて立っているが、橋の向こう側にいる味方が倒されればすぐに後ろから攻められることになる。
「……強硬手段だが考えがある、結構無茶だが」
「なに、タラスクで問答無用に押し通るの」
『姐さん、それはダメって言ってたっス』
「まぁ……似たようなもんだ」
『!?』
タラスクはおどろいた、けど誰もツッコマない、だって姐さん以外には聞こえてないんのだから。
「……一体何をする気?」
「実は仕込みはできている、やるならこのタイミングなんだが」
「仕込みって、スネークさん本当に何するの?」
「……確実な隙を作る、そこを一気に攻めてくれ」
「短期決戦?」
「ああ、とにかくあいつを仕留められる奴が一気に攻めてくれ、そうでなきゃ向こうが有利だ。なにせオスマン帝国の進行を数的不利で退けた英雄だ、この状況は向こうからすれば好条件になるだろうしな」
「なら・・・アルトリアさんとマルタさんかな?」
そう藤丸が確認し2人を見ると、その2人は頷いて答えた。
「なら決まりだな、それと派手に合図するまで橋に近寄るな、特にマスターはな」
「……なんとな〜く今までので予想できたけど、うん、任せるよスネークさん」
そのやり取りをし、スネークだけが橋のたもとからヴラド3世がいる橋の中央へと近付く。
1人だけ近づいてくることを奇妙に感じながらも、何か考えているのはわかりきった事だったために気にすることはなかった。そも、ヴラド3世やカーミラからすれば自分たちが圧倒的不利な状況下で無理やり戦っていることが前提である。
聖杯からの魔力供給によってどれほど宝具を使っても自然消滅することは無いが、それでも言ってしまえば制限がないだけである。特にヴラド3世はその伝承上……本人はその一部を忌み嫌っているが……少数で大多数を相手することで真価を発揮するのに対し、カーミラはまず武勇や殲滅するといった話は無く、血の貴婦人という伝承から生まれた吸血鬼という無辜の怪物というだけである。単なる人なら人数が多くとも有利が取れるがサーヴァント相手ではただただ不利なだけである。一応、後方で控えるであろう女サーヴァントを狙ったが、先にジークフリートが加わったために、そう長くは続かないだろう。
だが、それが自分たちに投げつけられた役であるゆえに、化け物として振る舞う。
「ほう、あの中で一番人に近いサーヴァントであるお前が余の前に一人で立つか」
「おかしいか?」
「否、貴様だけで今さら余を相手にするとは思わぬ。あの中で一番奥に立っている者に近い時代で生きていたであろう人間と相対すると思わなかっただけである」
「ああ……そう言われれば確かに俺とマスターはあまり変わらんからな、それにお前を倒しきる術を俺自身は持ってない」
そう言ってスネークは手に持つM16を一瞬見なおす。
セイバーやランサー・バーサーカーのように、武器は自分も持っているが自分の武器は自分の筋力に依存していない。全く自分の力を使わない訳ではないが、それでも他のサーヴァントと比べれば特殊ではある。それに武器を使わず自分自身でいま目の前に立つ敵を倒せても、倒しきることはスネークにはできない。
「……だがまぁ……なんだ、この場に立つサーヴァントは俺だけだ、サーヴァントはな」
「・・・なに」
単純に、スネークはほかのサーヴァントと比べて決定打に欠ける。
実際、これまでのフランスや冬木での戦いも敵を倒したのではなく倒すためにアシストをした、と言った方が正しい。橋の上でも何かをした訳ではない、ただ素晴らしい相方が働いただけである。
「この橋はお前の宝具のおかげで穴だらけになった。向こう側も巻き込むかもしれなかったがその心配も無くなったからな、遠慮なくやらせてもらう」
そういうとスネークはポケットから機械を取り出した。
それは真ん中が赤いボタンだった
「ッ!」
物を取り出すという動作にとっさに反応した敵に流石と思うスネークだったが、ことブツを取り出しボタンを押す・引き金を引くといった動作を確実に素早く行うことに関して自信がある。
実際、ヴラド3世はスネークに対して何かをしようとした直後、体制を崩された
それは一瞬で目の間にスネークが接近した、訳ではなくボタンを押したことにより正常に橋裏に設置されたC4爆弾が起動した結果である。
「爆発、か」
「ただの爆発じゃない、足元を見ろワラキアの君主」
「ッ!」
彼らが立つ足元は橋である、
それも石でできた橋であり、
ヴラド3世の伝承によって宝具となった杭によって穿たれている、
当然ボロボロであり……建築工学に基づき炸薬量を調節し設置された爆薬を用いれば
「スイミングの時間だ、少し季節外れだがな」
「ニャニャァ!」
橋の真ん中だけを落とす程度造作もない。
加えて強固に作られさらに高くなった壁も問題ない、橋のたもとやスネークらが立つ方向へも倒れることなく、全ては瓦礫として川上側へと倒壊・落下し、石材とともに灰色の爆煙と大きな水しぶきを作りあげた。
そして当然、スネークやヴラド3世も川へと落下する。
その間に数発スネークは発砲するも、英霊の名は伊達ではなく頭部へと迫る弾丸を槍で弾き飛ばし1発だけ腹部へと命中する。もっとも、吸血鬼と言う名の化け物となっているヴラド3世に弾丸を1発だけ打ち込んだところで大したダメージにはならない。
やがて川へと落下し、わずかに沈むもスネークは瓦礫をかき分け、水面に顔だけを出し敵がいるであろう方向を見ながら後ろ向きで岸辺へと泳ぐ。その速度は遅かったが、対して敵の対応はさらに遅く、水中に沈んでいた。
(ッ流水!)
ここで召喚されているヴラド三世は自身がドラキュラであることを認めている状態である。当然ドラキュラの伝承上の特徴である頑丈さや怪力・吸血といったものを併せ持つが、同様に伝承上の弱点も一部、今回の召喚では引き継ぎ、というのは彼からすれば正しくないが持っている。一部、というのは日光下では弱い・燃えるということは無いし炎に弱いということも無い(実際に活動できており、召喚者が炎を扱うもデメリットを受けていない)だがサーヴァントとして召喚された英霊は知名度や伝承に能力を引きづられる存在である。
化け物であることを自覚しているカーミラやヴラド3世は日中で活動できることから吸血鬼としての弱点を、本人らはもちろん召喚者であるジャンヌもあまり気にしていなかったが、吸血鬼としての弱点を一切持っていないわけではない。
スネークはとある理由から吸血鬼について研究した。それこそ『吸血鬼はただのよくできた作り話だ』と結論づけるために23枚程度のレポートを自力で書き上げ、反論に対しては、相手がただ聞いた話を口にしているならその相手を(口で)丸め込み、相応の知識と文献を読み込んだ上で信じている相手には(口で)完膚なきまで叩きのめす程には研究した。
故に、吸血鬼は禊と関連する流水に弱いこともスネークは知っており、それが現実となった。
もっとも、宗教や土着信仰により魔物によっては水面を歩くものもあり、吸血鬼もそんな魔物の一種だが、そも人の形をしているものが水面に浮かべるとは考えにくく、少なくとも吸血鬼となったヴラド3世は水面を歩けないらしく、自分の装備や服によって沈んでおり、さらに若干ながら敏捷と筋力のパラメータが若干落ちていた。
だが窒息死することはない、なぜなら沈み切ったために水中を歩けるからだ。
別に泳げないというわけではない、それにオルレアンの南を流れるロワール川の水深は3mもない、水面にもすぐに顔を出すことは可能でしばらく水中にいても酸素はもつ。
「
そこに、聖女の宝具が繰り出される
突如水中を泡立てながら高速で接近する物体はただでさえ動きにくい流れのある水中にいるヴラドに直撃する。だが、例え弱点とされる流水に浸かったところで耐久力にたいしてデメリットが発生していたわけではない。吸血鬼と呼ばれる所以である不死性にも似た耐久力の高さを発揮し、無理やり体を削られながらその回転を使い水面へと一気に浮き上がりそのまま体を打ち上げてもらう形で水中から脱し空中に上がった。
身体中に肉と骨がむき出しとなっている箇所があるが回復すればまだ十分に戦えた。そう、戦えた。
「落ちて沈み打ち上げられて空を飛ぶか、吸血鬼も大変なようだな」
「ッ!」
だがその水面には一人の剣士が聖剣を構え待っていた。
別に化け物でなくとも、例えば湖の精霊の加護を受けたものであれば水面を歩くことが出来る。それが海だろうが川だろうが関係ない、それが別の側面として現界した場合でも。
「蹴散らす」
手に持つ黒い聖剣を下段に構え、水面を蹴り空中にいる敵を空中でぶつかるように切り上げカーミラやジャンヌらがいる反対側の橋のたもとへと吹き飛ばす。
先ほど爆破された橋が作った瓦礫による水しぶきほどでは無いが、土煙を上げ地面を転がっていく。
「な、なんか飛んできた!?」
「っ気をつけて下さい、まだ倒しきっていません」
「下がっていろ」
魔力放出によって叩きつけられた聖剣は吸血鬼の胸を下から切り上げ、その肉と骨を絶った。
切りつけられた肉体は骨も絶たれたことによってさらに臓物もむき出しになろうとしているが、それでもまだ死なない。戦闘続行のスキルが効いているのだ。
「…………」
それだけの傷を負ってもなお、地面を転がったままであってもヴラドの目が虚ろになることは無く生気を宿していた。ただ、その目でカーミラを探そうとするもその姿を見つけることはできなかった。
「……すでに彼女は倒れた、残るのはお前だけだ」
「……だからどうした、余は悪魔であり貴様らの敵である、敵である余にあやつが倒れたことを教えて降伏するとでも思ったか」
「いいや、お前は王で仲間を大切にする奴だと思った、だから教えただけだ」
「…………」
転がっている敵に対してジークフリートは見下ろしながらもそう伝える。
その言葉を聞き、ただ空を見上げたあと、そっとヴラドは腰を上げ武器を構えた。その起き上がる動作は、立ち上がる姿は、とても王としての気品や、化け物としての畏怖も霧散していた……が、騎士としての誇りはいまだ纏っている。
「余を倒すか、竜殺し」
「……ああ」
「ならばこれ以上の言葉は不要、ただ剣と槍を交えるのみ」
「そうだな」
両者ともに思う
勝負は一瞬で終わる、終わらせる
奇遇にもそれは、さきに決着がついた騎士同士の戦いと同じだった
竜殺しは黄昏の剣を構え、王である吸血鬼は護国を担う槍を構え
そして互いに仕留めにかかる
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「……どうにか倒せたな」
《さあいよいよ最期の相手だ、君たちがいるところからもう見えてるだろうけど、オルレアン城、そこに彼女と元帥はいるよ。カルデアからも確認できる》
「なら……仕留めよう、ここからは作戦通りに、だよね?」
「指示するのは貴様だ、まあその通りだが」
「そ、そっか……」
同日 現地時刻 11:13
2体の吸血鬼であるサーヴァントをオルレアンの手前で倒しきったカルデア一行は人である藤丸のために一息ついていた。なにせヴラド三世の宝具である杭をひたすら回避していたのだ、途中マシュやゲオルギウスに担がれてはいたものの、ただ担がれているだけでも即死級の攻撃を回避するための動きのため、心身ともに疲れる。
「フム、結局私は何もしませんでしたな」
「そんな事はない、おたくのフォローがなければマシュもマスターも最初ので串刺しだった。守護騎士の名は伊達じゃないのを見させられた」
「そういえばそうでしたな、ですがこのような騎士でも役立てて何よりです」
「ジークフリート、そっちはどうだった、最後お前さんが仕留めたのはわかったが」
「ああ、こちらはそちらほど手こずることは無かった……もっとも、もう少し遅ければ誰か1人は確実に宝具でやられているところではあったが」
「宝具……鉄の処女か」
「残念ながら……と言うのは間違いだな。幸いにも宝具が発動する前に俺が介入出来た、おかげで宝具の名前までは分からなかったがその逸話からして女性に対して強力な攻撃なのだろう」
「正直、彼が飛び込んで来なかったらマリアかジャンヌのどちらかは倒されてたと思うよホント」
「分断されるとは思っても見なかった、すまない」
その間に女性陣は女性陣で集まり先程までの戦闘を振り返り、情報共有をしていた(マスターもそっち側)。そうなると偵察で2人ほどいなくなっているお陰で3人しかいない男衆も自然と集まり、先の戦いについて労う。そんな場でも謝罪するジークフリートにアマデウスが突っ込んだ。
「イヤイヤ、あれは予想とか事前の予防とかっていう話じゃないでしょ、ていうか君が謝ることでも無いし」
「強いて言うなら油断だな、今度から後衛の守りも考えた方が良いがそれは全体の問題だ。反省しだしたらキリがない、それにまだ相手は残ってるしな」
実際のところ、スネーク自身も反省点を見つけている。具体的には最初の杭での攻撃を避けるようマシュに対して声を発した時。あの時はとっさに『マスターを守れ』と言い、それに対して律儀にマシュが返答したことに『違う』と怒鳴ってしまいマシュは固まり動けなくなった。
結果としてはゲオルギウスによって助けられたものの、最適解ではなかった。もっとも戦術や戦略において最悪の事態だけは避けるため、保険や安全装置は何重にも用意しておくものであり、今回のゲオルギウスの存在はそういったある種の安全装置が働いたとも言えるが、『運が良かった』と言ってしまう方が今回は正しいのかもしれない。
いずれにしても反省会を開くのはこの場ではないと考えを断ち切り、スネークは離れた場所に置いてある車を呼び出すと女性陣に囲まれている藤丸へと声をかける。
「そろそろ休憩も十分だろう、さっさと乗れ坊主」
「あっうん、行こうマシュ!」
「はいセンパイ!」
「他も休めるだけ休んでおけ、10分もかからず着く」
スネークは藤丸、マシュ、ジャンヌの霊体化することの出来ない者……とちゃっかり藤丸の隣に座ろうとする清姫が乗車したのをため息をしながらも確認し、ステアリングを握りアクセルペダルを踏む。
《スネーク、聞こえるか》
「エミヤか、聞こえるぞ、こっちは敵を突破したこれからオルレアンに乗り込む、そっちはどうした」
《ああ、宝具を連発していたサーヴァントは倒した……随分と離れてしまったが》
「すぐに合流できるか」
《問題ない、もっとも私たちが合流する意味があるか微妙だが。それでもあの槍兵はバッ……随分と急いでそっちに向かっているさ》
「そう言うな……まぁ獲物を残す理由もないが」
《だろうな、とにかく私たちを待つ理由は無いさ、そちらで終わらせておいてくれ》
「だと良いがな、了解した」
一行は最終決戦となるオルレアンへと向かう。
何かご意見・ご感想があれば作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら感想欄にてお知らせ下さいm(_ _)m。
また、来週は大学の関係で忙しいため投稿をおやすみさせて頂きます。