本編始まります!
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霊夢と萃香に見送られながら福太郎と慧音は博麗神社を後にした。
長い石段を下り、ふと振り返ると二人はまだ手を振り見送っていた。それを見て福太郎は笑いながら手を振り返し、また歩き出した。
「珍しいな」
「?何が珍しいんですか慧音さん。」
「霊夢たちが随分名残惜しく見送っていたからな。何かあったのか?昨日であったばかりなのに熱心に手を振って見送っていたぞ。あのような霊夢たちは初めて見る。」
博麗霊夢は博麗大結界の管理と共に幻想郷のバランスを保つ存在である。それ故に常に中立であり、他者に対して執着、関心を示すという事がほとんどない。それが昨日突然現れた得体の知れない男に向かって手を振り見送っていた。そのことが慧音にとっては実に新鮮であり、不思議であった。
「特にありませんでしたけど・・・・精々、朝飯作ったり、掃除したりしたくらいです。あ、あと絵を描きました。」
「絵か、そういえば絵描きだと言っていたな。」
「ええ、萃香ちゃんにホントに絵描きか怪しい言われて、オレが一応絵描きやゆうことを証明するために、二人の絵を描いたんです。いや~随分気に入ってくれたみたいで良かったです。」
「ほう、一宿一飯の礼といったところか。いずれ福太郎が描いた絵を見てみたいな。」
「まあ、大したもんじゃありませんけど・・・いずれお目に掛けますよって。」
絵を描いた。福太郎はただそう言う。鬼と巫女が気に入る絵とはどんなものか。慧音は福太郎の描く絵に興味がわいたが、今は福太郎を人里まで送り届けねばならない。いずれ見せてくれると福太郎は言ったから、その日を楽しみにしながら歩みを進める。今は周囲を警戒しながら。
夕暮れ前には人里に着きたい。少し早足になりながらも二人は歩いていく。福太郎は三十路手前らしいが、息切れ一つせずについてくる。意外と体力があるようだ。
しかし、慧音は少々違和感があった。あまりに静かすぎる。普段なら妖精なり妖怪が出てきてちょっかいを掛けてきてもおかしくないのだが、それが無い。
あまりに静かだったため福太郎は暇を持て余して、慧音に話しかけた。
「いやぁ~慧音さん、何事もなく人里に着けそうですね。いつもこんなもんなんですか?」
「・・・・・いいや。普段なら妖怪なり妖精なりに出くわすのだが・・・静かだな。嵐の前の静けさでなければ良いのだが。」
「そうなんですか~。案外、霊夢ちゃんの御蔭かもしれませんよ。」
「霊夢が何か術を掛けたのか?そんな風には感じないが。」
福太郎は何か心当たりがあるようだが、福太郎に何か術が掛けてあるようにも、護符の類を持っているようには見えない。
福太郎は、何時ものように笑いながら慧音に説明をした。
「ほら、さっきまで霊夢ちゃんたち熱心に手を振っていたじゃないですか。あのおかげですよ。」
「なんのことだか分からないのだが・・・・」
「別れ際に手を振るのは、魂振りいう大昔の呪いの名残なんですよ。霊夢ちゃんが持ってる御幣やなんかを振って旅の無事を祈るもんやったんですけど、それを普通の人たちが代わりに袖を振って、大気を揺るがして無事でいてくれって、元気でやれよとかまた会おうって思いを相手に送ったり、場を清めて悪いもんが寄り付かないようにしたんだそうです。霊夢ちゃんほどの巫女さんがあんな熱心に手を振ってくれたんで、下手な妖怪やなんかが近づけなくなったのかもしれませんよ。」
霊夢ちゃんの袖、めっちゃ大きいですし。福太郎は冗談交じりに笑いながら言うが、慧音は案外間違いでもないと思っていた。そうでなければ今の状況が説明がつかない。そうだとしたら、霊夢は心から福太郎の無事を祈り、再会を望んだという事に他ならないが、正直そのことに少し驚いているが、それ以上に福太郎の知識にも驚かされた。
慧音は曲りなりにも寺子屋で教鞭を執る身だし、呪いや術に関してもそれなりに造詣が深いと自負しているが、魂振りのことは知らなかった。福太郎が幻想郷以上に混沌とした異世界から来たという事、また教師であったということに何一つ嘘が無いということが改めて感じられた瞬間だった。
「流石だな福太郎。教師であったのは本当だったのだな。しかし、本当にその美術教師とやらだったのか?絵の描き方を教える教師のようには思えないぞ?」
「それ、萃香ちゃんにも言われましたよ。結構大変やったんですよ、あいつら相手に授業すんの。」
「話ながら聞こうじゃないか。なに、私も福太郎の同業者のようなものだ、暇つぶしに愚痴ぐらい聞こうじゃないか。」
慧音がそういうと、福太郎は勤めていた万魔学園の事を話した。学園の事、生徒の事、教師たちの事。福太郎の語るそれは慧音にとって新鮮なものばかりだった。ありとあらゆる種族が通い、あらゆる種族が教鞭を執り、授業を行う。
慧音にとって、それは夢のような話だった。慧音の寺子屋は人里の人間の子供限定だ。中には妖怪もいるようだが、それでも人間として授業を受けている。
いつの日か、人間であろうと無かろうと、自由に授業を受けられるようになれば、どんなにいいか。福太郎の話を聞きながら、慧音はそんなことを思っていた。
話ながら歩いていると、あっという間に人里に着いた。二人は門をくぐり人里へ入っていく。そこは人間の街。街とは言っても、現代のそれではない。丁度明治初期、西洋文化と日本文化が混ざり始めたばかりの街並みで、その多くが木造建築であり、レンガ造りの建物はほとんどなく、コンクリート造りのものなど一切存在しない。
「どうした福太郎。やはりこうした街並みは珍しいか?」
「そうですね。こんなに整った街並みは中々お目にかかれませんよ。オレのトコだと大体変なパビリオンみたいなのが建ってたり、無茶苦茶な建物だったり、怪異やなんかでめちゃくちゃになったりでコンナ整って小奇麗な街並みはあんまりないもんなんで、新鮮というか、懐かしい感じがします。」
「そ、そうか・・・・」
整った街並み、懐かしい感じ。福太郎の言葉に慧音は少し気圧された。聞くところによれば、外の世界の街は天を突くような巨大な建物や石造りのものが多いらしい。まれに現れる外来人は、人里を見て古臭い、物語の中のようなどという反応がほとんどだが、福太郎の反応は全くもって違う。
福太郎は、幻想郷以上に危険が溢れ混沌とした世界から来たのだという事を改めて思い知らされていた。
昨夜の光景を目にしていなければ、この男は、見る限りはいつもニコニコとしていてどこか飄々としたつかみどころのないように見える普通の人間だ。決して普通の人生を歩んでいないのだと改めて思うと同時に、意外と早く幻想郷に馴染むだろうという安心も感じられた。
「ともかく!お前の滞在先へ向かうぞ。家主も待っている。しばらくはそこで下宿というか、居候してもらうことになる。」
「いや、ホント助かります。いつまで居ることになるかも分からん上に、手持ちも心持たないもんでして・・・・・」
「大丈夫だ。家主も快く了承しているから安心しろ。滞在費も心配しなくても良いと言ってくれている。」
ホントご迷惑おかけしてます。そう気まずそうに福太郎は笑いながら歩みを進めていった。しばらくして、福太郎はある事に気が付いた。どうも道筋に見覚えがある。すると福太郎が幻想郷で見知っている数少ない建物にたどり着いた。
「あの、ここって稗田亭ですよね?」
「そうだ、ここの主であり、お前の第一発見者でもある阿求が是非にというのでな。私としても良い提案だと思うぞ。まあ、詳しくは中で話そう。」
慧音はそう言うと門を敲き、出てきた使用人に二三こと告げると門が開かれた。
「どうぞ、慧音様、福太郎様、お入りください。阿求様はじめ皆お待ちしておりました。」
初老の使用人に促され、二人は門をくぐり、中へ入った。広い屋敷の中を案内され、二人は客間に通された。幻想郷では珍しい和洋折衷の部屋であり、中央には宮大工が拵えたのか、細かい和風の彫刻が施された黒壇の長方形のテーブルが置かれ、向かい合うようにして緑の生地に金糸で唐草文様が刺繍されたソファーが置かれている。洋風の置時計や蓄音機、蒔絵や螺鈿細工が施された家具など幻想郷では非常に珍しい物ばかりが置かれており、稗田家のその財力のほどが知れる。
慧音と福太郎はソファーに座るように促され、紅茶でもてなされていた。二人の飲み方は実に対照的だ。
慧音はティーカップの中に二匙ほど砂糖を入れ、ティースプーンでグルグルと混ぜ、湯飲みでも持つように両手でもって飲んでいた。
対して福太郎は、ソーサごと持ち上げて一口飲み、それから一度置いて取っ手を左に回してから静かに砂糖を入れ、音を立てずにティースプーンで混ぜ、静かに雫を落としてティースプーンを置き、取っ手を右に回し、ソーサごと持ち上げて改めて飲んでいた。
この様子を見ていたのは給仕をしている女中ともう一人注視している人物がいた。家主である稗田阿求である。紅茶の飲み方でその文化的素養や性格を図ろうと思ったのだ。その為あえて緑茶ではなく貴重な紅茶を出したのだ。
結果から言えば、福太郎は合格だ。この稗田家の食客とするのに充分に足る人物だ。福太郎の紅茶の飲み方を見れば分かる。紅茶を楽しむ際のマナーを知っている上にそれを億劫がる事もない。文化的素養は高く、落ち着いた性格であり、几帳面である事が伺える。
「・・・フフフ。これなら問題なさそうね。」
阿求は微笑みながら客間に入ってきた。その姿を見て福太郎は紅茶をおいて、立ち上がったが、阿求は座るように促した。
「ようこそ、御出でくださりありがとうございます。詳しいことは慧音さんからお聞きしています。福太郎さんさえよければ、お帰りになことが決まるか正式に滞在先が正式に決まるまで、どうぞ当家でお過ごし下さい。」
「ありがとうございます阿求さん。慧音さんからお聞きしましたが、ホントにお金は良いんですか?それはそれで助かりますが、正直心苦しいと申しますか何というか・・・・」
阿求の申し出に対して福太郎は正直に疑問点を述べた。確かに得体の知れない男を無期限で泊めるメリットがあまり感じられない。しかし、阿求は笑って答える。
「それはご心配要りません。当家はささやかながらも蓄えがございます。福太郎さん一人が滞在する程度なんの問題もございません。ですから、お代も結構です。まあ、お代の代わりと言っては何ですが、福太郎さんが暮らしていらした秀真国のお話などお聞かせいただければ充分です。それに鶏鳴狗盗の故事もございます。思わぬことでお助け頂くこともあるでしょうから、どうぞご自分の家だと思ってお過ごしください。」
「なるほど・・・食客として過ごせば良いということですか・・・・・正直そんな大した人間じゃないんですが、他の使用人の方なんかは納得なさってるんでしょうか?」
阿求の説明に対して福太郎はまだ疑念を抱いていた。家長である阿求が許可しているとはいえ、得体の知れない男を滞在させるわけであるからして、納得している者ばかりではないだろうというのが福太郎の考えである。
実際、稗田家は人里の中でも裕福な家であるからして、盗賊などの心配もある。盗賊の手口として、ケガ人や病人を装って侵入し家の間取りを把握し後日侵入する。あるいは盗賊の侵入を手助けする引き込みを行うなどがある。
「そのことはご心配ありません。当主である私が許可していることもそうですが、福太郎さんの様子を見れば、稗田家の食客として相応しい方であると分かりますから。そうね、秋葉?」
「はい。阿求様のおっしゃる通りでした。」
「ああ、そう言うことですか・・・・・」
「はい、そう言うことです。」
「なあ、どう云うことなんだ福太郎?」
秋葉という使用人の言葉で福太郎は、ここで待っている間に紅茶を飲んでいる様子から稗田家に滞在するに相応しい人間かどうかをテストされていたということだったのだ。
「多分、紅茶の飲み方を見て、オレがこの稗田亭においてもいいかどうか確かめてたんですよ。」
福太郎はそう言うと使用人の秋葉をちらりと見た。その様子を見て秋葉は
「ええ、福太郎様はマナー通りに紅茶を飲んでいらしました。まるで、阿求様のようでございました。」
「実は私も見ていたのだけれど、落ち着いていましたし、先日お話した時にも分かりましたし、充分教養もあるようでした。鶏鳴狗盗の故事の由来も理解していたようですし。稗田家の食客として申し分ないかと。」
「なるほど、福太郎は色々とためされていたわけだな。」
それから、福太郎の居住環境について説明があった。具体的には福太郎が寝起きするのは、何代か前の稗田乙女が道楽で造らせた数寄屋造りの離れを使用することとなった。その他の衣食については随時支給し、時折力仕事などの簡単な雑務(これは福太郎が申し出た)をする他は自由に行動してよい事となった。
「いや~ホンマ助かりますわ。ここまでしてもうろうて、かえって悪い気がしますわ。」
「よかったな福太郎。始めは私の家に泊めようかと思っていたが、何せ私は独り身だからな、男を挙げるのは何分外聞が悪いのでな・・・・」
「でしょうね。しかし、とりあえず住む場所は決まりましたけど、絵を描く以外、日がな一日暇を持てあますのもどうかと思いますし・・・・絵具やなんかも手に入れたいし・・・」
衣食住は何とかなったが、次なる問題はなにをして過ごすかであった。絵を描くのは良いが手持ちの画材は限りがある。『万年筆』は自在に線を出せるが、色が付かない。衣食住を世話になっている上に、画材代まで要求するのは流石に避けたい。油絵や鉛筆画を描くのが好きな福太郎としては、暇つぶし兼画材代を捻出したいところであった。
「それなら、絵を売れば良いだろう。萃香や霊夢が随分喜んでいたようだし、充分商売になるんじゃないか?」
「それは興味深いですね、是非そうしたらどうでしょうか。今の幻想郷には絵を生業にしている方は居りませんし。」
「いや、そんなお金を貰えるほどのもんじゃ・・・・」
「やってみろよ。なに、それがだめなら私の寺子屋で働いてもらってもいい。教師だったのだろう?手伝ってもらえれば助かる。」
「そっちも、ホント大したもんじゃないですけど・・・」
「そうだとしてもやるだけやってみたらどうですか福太郎さん。とりあえず、今後の行動方針も決まりましたし、今日のところはこの辺にしておきましょう。」
そういうことになった。
慧音は阿求と福太郎に別れを告げて、今日のところは帰ることになった。だが、明日また訪ねてくることになった。なんでも画材を手に入れることができる当てがあるらしい。仕事として絵を描くにしても、趣味で絵を描くにしても今後は間違いなく必要になる。
慧音を見送った後、使用人たちに稗田亭での生活に関して説明を受けた後、阿求たちと共に夕食を食べ、入浴を済ませて床に就いた。
突然幻想郷に迷い込むことになったが、なんとかなりそうだ。福太郎は安心して床に就くことができた。
兎にも角にも、幻想郷における生活の拠点を得た。明日は慧音がある場所へ案内してくれるという。楽しみでしかない。どんな出会いが、どんな場所を目にできるのか・・・。
此度はここに栞を挟み、噺の続きはまたいつか・・・・・
いかがでしょうか。幻想郷における福太郎の活動拠点が定まりました。ある意味まだまだ序章です。紅魔館、守矢神社、地霊殿、命蓮寺じっくりやっていきたいところにはまだまだ至りそうにはありません。
次なる福太郎の行き先は・・・・察してください。