人間の絵描きの幻想郷見聞録    作:信州のイワ

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 始めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶり。
 この度は、投稿が遅れまして申し訳ありません。本来なら2019年内に登校するつもりでしたが、中々進まなかったのと、私自身来年度就職であるため、諸々の手続きに追われていたためであります。その為、今後さらに投降頻度が遅れるかとは思いますが、失踪は下しませんので気長にお待ちいただけると幸いです。

 また、前作で皆様にお見せした福太郎の絵は妹の作品になりますので無断の使用はご遠慮ください。妹のTwitterはこちら自身の作品を投稿しておりますので見てやってください。
私が紹介したことは、ご内密にお願いします。@Rudy_Warframe

 皆様のご意見ご感想、お気に入り登録、評価などお待ちしております。


絵描き記者と物見遊山する事~序

 射命丸文と名乗る新聞記者は福太郎に胡散臭い笑みを浮かべながら、握手を交わし余人を交えず、色々話をしたいのでどこか腰を下ろして話そうと切り出した。

 福太郎自身それは一向にかまわないので、寺子屋で話そうかという事になったが、慧音がそれを断った。

 

 「え~ぇ。何でですか?慧音先生。私たち知らない仲じゃないんですから。そう堅いこと言わずに。」

 「断る。何が、私たちの仲だ。以前、私が休日に霖之助と仁左衛門殿を交えて、食事に行った時に『女教師の恋~白昼の逢瀬』なんて銘打って見合いだなんだと騒ぎだてた新聞をばらまいたろう。忘れたとは言わさん。里中からからかわれて大恥をかいた。人の噂は七十五日というにも関わらず半年もいじられたんだ。正直二度とごめんだ。いくら福太郎が関係しているとはいえお前に関わるのはごめん被る。というわけでお引き取り願おう。取材なりなんなり他所でやってくれ。」

 「そんな~」

 「慧音先生が言うんじゃ仕方ないですし。それじゃ、オレが阿求さんたちに話を通しておきますんで、下宿先の稗田亭でお話しましょ。」

 「じゃそれで、行きましょうか。」

 「それで行きましょう。」

 

 そうゆうことになった。

 

 所変って、稗田亭。客間では、福太郎と射命丸が左右対面で座り、部屋の奥の上座に稗田阿求が座っている。阿求はニコニコと笑ってはいるが、目は決して笑っていない。というか若干眉間に皺が寄って睨んでいるようにも威嚇しているようにも見える。

 明らかに警戒し、歓迎していない。

 

 「さて、福太郎さんお帰りなさい。珍しいこともあるものですね。メスガラスを連れてくるとは・・・もしかして飼うつもりなんですか?それでしたらエサは残飯か何かで良いですよね?」

 「あやややや、明らかに歓迎されてませんねぇ・・・・」

 「阿求さんもそないなこと言わんで、こんなオレの話聞きたい有てるだけなんで勘弁してやってください。それにそんなお顔で睨んではると、眉間に皺で出来てしまいますよ?」

 

 福太郎に言われて阿求は、眉間に手をやって少し撫でて咳払いをして誤魔化していた。

 客間には阿求と福太郎は上座に(福太郎は嫌がったが阿求に押し込まれた)射命丸が下座に座り二体一で向かい合う形になっていた。

 阿求は使用人を呼び出すと何事が指示した。わずかに気まずい雰囲気が流れたが、射命丸が今回の取材の趣旨を述べた。

 

 「本日はお忙しい中、私の為にお時間を賜りましてありがとうございます。改めまして自己紹介をば。既に私のことはご存知のこととは思いますが、私は『文々。新聞』を刊行しております射命丸文と・・・・」

 「それは分かってますので、さっさと本題に入ってください。ですが始めに申し渡しておきますが、こちらの田村福太郎さんは、我が家の食客であります。一時の事ではありますが我が稗田家の一員であると言って過言はありません。もし仮に此の方の名誉を害することあれば、私共は二度とあなたとはいかなる関りも持ちません。また、幻想郷の名家稗田家として、この人里の町衆の重役の一人として持てる限りの権限とコネを用いてそれ相応の対応をさせていただく所存でございますので、そのおつもりで。」

 「・・・・肝に銘じておきます。」

 

 阿求の宣言によってその場の空気が冷え込んだが、使用人の声でその空気は崩れ去った。

 

 「阿求様、福太郎様、お茶をお持ちしました。」

 「では、お出ししてくださいな。」

 

 阿求の声に使用人が応じると、二人の使用人が盆に茶と茶請けをのせて入って来たが、上里下座で対応が違いすぎた。上座を担当する者が盆を高く持ち、息が掛からぬようにしていたのに対して下座側は胸の高さに持って入って来た。明らかに下座側に対して礼を欠いている。阿求だけでなく、稗田亭の人間たちすべてが明らかに射命丸に対して歓迎の意が無いことが明らかなのは運ばれてきた茶と茶請けの内容からも明らかであった。

 

 「・・・ここまでくると、流石の私もなんだか悲しくなってくるのですが。」

 「突然押しかけてきたカラスにはこれでも十分すぎます。」

 

 上座の阿求と福太郎には、天目台に青磁の蓋つきの茶碗で茶を出されたのに対して、下座の射命丸は湯飲みに番茶が注がれていたものがそのまま出されていた。茶請けはというと、上座は赤かぶの浅漬けであるのに対して下座はイナゴの佃煮である。

 明らかな対応の差に見え隠れする阿求の敵意に福太郎は苦笑いすると、今迄の自分の所業を恨んでいるのか反省しているのか、神妙にイナゴを突いている射命丸を一瞥し話を切り出した。

 

 「あ~その、取材という話でしたけど、オレの何を聞きたいんでしょうか?僕は特に変哲の無い人間なんですが。これまでも天狗にも新聞やなんかのメディアにも馴染みがないもんで、ボクのところに取材というのは実に不思議なことに感じるんですが。」

 

 福太郎の言葉を聞いて、口に含んでいたイナゴを番茶で流し込むと、待ってましたとばかりに話し始めた。

 

 「ご心配なく!福太郎さんは外来人。しかも、幻想郷に見事に馴染んでおられる。このようなことは普通は中々無いことなのです。加えて、幻想郷では私の知る限りでは他にない絵描きを生業としてらっしゃる。十分に話題性がありますのでご心配なく。それに私の新聞は、特に載せなければならない記事もありませんので広告の類以外は自由に組めますので。今回は福太郎さんの特集を組もうかと思っております。」

 

 福太郎の特集を組むと意気込む射命丸の言葉に、福太郎と阿求はそれぞれに異なる不安を抱いた。福太郎はいくら個人が刊行する新聞を自分の特集などで埋めて大丈夫なのかと思っていたし、阿求は新聞がきっかけとなって幻想郷中の人妖が福太郎の元に殺到しないかと懸念を抱いていた。

 二人の反応が芳しくないのを見て、射命丸はすがるように言葉を続けた。

 

 「その、福太郎さん。どうかご協力いただけないでしょうか?このままでは私の文々。新聞は飯縄様の広告を載せるだけの広告塔になってしまうのです。どうか私を助けると思って、取材を受けていただけませんでしょうか?ちゃんとお礼もさせて頂きますので何卒よろしくお願い申し上げます。」

 

 平身低頭して頼み込む女天狗の姿を福太郎は哀れと思ったが、純粋に自分を注目した理由も気になった。もう少し話を聞いてもいいかと思い問いかける。

 

 「せやけども、何で僕なんです?この幻想郷は様々な妖怪やら神様やらおいでになる。面白いことは山ほどあると思うんですが。」

 

 福太郎の問いに射命丸は、僅かに考えて湯飲みの番茶を飲み干して答えた。

 

 「おっしゃる通り、この幻想郷には様々な種族が存在し、その力もあり方も様々です。当然それらが近くに存在すれば様々なトラブルや刺激が発生して、事件や異変となります。

 しかし、それは共すれは自分自身の事であり、隣近所の噂話程度の話題に往々にしてなりえてしまうのです。しかも、内々の複雑な事情なども噂と化します。結果として誰もが知っている話になってしまう。

 それらが新聞にあったとして、時々ならありかもしれませんが、いつもそのような内容を掲載していては回覧板程度のものです。

 そのような新聞に存在価値はあるのでしょうか?私は無いと思います。これは上役の飯綱様の受け売りですが、誰も知りえなかったこと事象を、誰も知りえなかった真実を広く伝えるのが新聞であると思っています。

 その信念に基づくならば、既存の人妖について記事にするより、福太郎さんの事を記事にする事の方が理にかなっていると思うのです。

 それに、我ら天狗の新聞の読者は妖怪の山の妖怪がほとんどです。私の場合は例外ではありますが、それでも山の妖怪の読者が多いのが現状です。ですので、できるだけ山の外のことを伝えたいのです。 

 あなたは、外来人私共の幻想郷の外から来た稀人。あなたの事を聞いた時、あなたの眼から見る幻想郷というものも伝えるのは、甲とはいえずとも乙なものであると思ったのです。ですので、今回このようにあなたに取材を申し込んでいる次第なのです。」

 

 その目には確かに信念が宿っていた。少なくとも新聞を書くことに明確な誇りと意志を持っている。これなら応じても良いと思った。しかし、タダで引き受けてはネタ切れの度に取材と称して付きまとわれる可能性があるため条件を付けることにした。

 

 「わかった。引き受けてもええよ。」

 「!そうですか、それでは・・・・」

 「ただし、タダで引き受けることはできん。これだけはしっかりやっとかんと、後々のトラブルになりえる。せやから、いくつか条件は付けさせてもらうし、相応の報酬は要求させてもらうつもりやけどええかな?」

 

 福太郎の報酬の請求に、一寸ばかり悩む。正直懐ぐあいはさほど良い方ではないし、代わりに提供できる宝物、名物名品の類の持ち合わせはない。若い?男の要求となればおのずと狭まってくる。

 

 「・・・報酬ですか。その、私一人で何とかなる物でしょうか?」

 「もちろん何とかなる物や。」

 「ま、まさか私の体!?」

 「なんでやねん!」

 

 福太郎の要求は以下の通りである。

 

 一、自分はともかくとして取材、新聞において関係者の名誉を傷つけないこと

 二、取材は必ず、福太郎本人に加えて第三者を交えて証人とする事。

 三、福太郎の仕事(教師、絵描き両方)の邪魔や迷惑をかけないこと。

 四、福太郎が答えたくないことについては深く追求しないこと

 

 この4点が条件となった。二つ目の条件は阿求が口を出した点である。というのも、万一新聞がトラブルを招いた場合、福太郎が不利となって不利益を被らないようにという配慮であるが、射命丸は自身に対する信用の無さに少々へこんだ。

 

 次に福太郎は見返りとして次のモノを要求した。

 

 一、カメラを使わせてほしい。またその写真の提供

 二、幻想郷各所を案内して欲しい

 三、人里の外へ出るときの護衛

 

 一つ目は別として二つ目と三つ目が問題となった。二番目は絵描きを生業とする福太郎が画題を求めて各地を見聞したいというのはわかる。自分とて記者の端くれ、一種のクリエイターであるという自負がある。実際に新聞の取材の為とならば天界だろうが地底だろうが飛んでいく。その情熱は良く分かる。また、射命丸にとっては一つ目の要求は摩訶不思議なものであった。

 それはともかく、福太郎の外出に関しては稗田阿求の猛反対にあってしまったのである。福太郎としても幻想郷見聞に関しては、退く気はなくかといって阿求も頑固である。

 

 「福太郎さん!正気ですか!!もう、ご存知かと思いますが、幻想郷は危険なんですよ。人里の中は安全が保障されていますが、妖が人を襲うことで成り立っている幻想郷では、福太郎さんとて例外では無いのです。」

 「だから、護衛をお願いしとるんよ。文さんもめっぽう強そうやし、大丈夫ですって。」

 「その、烏天狗がいつも護衛についてくれるとも限らないでしょうが!ね1そうでしょう。あなただって山の公務などもあるでしょうが!」

 

 そういって、ジロリと射命丸を睨む。齢二十歳に満たぬ少女とは思えぬ気迫である。流石は、名家稗田家当主と言ったところである。

 それに、阿求の言葉には一理ある。山の天狗の組織は、例えるならその昔の武家の組織のそれに近い。頂点である天魔を将軍、大名とするなら、それを支え組織を運営するのが家老や老中に匹敵するのが大天狗であり、先の話に上がった飯綱様はこれにあたる。一部の大天狗や鼻高天狗が様々な職務や物品などさまざまなものを管理差配する奉行という具合である。 

 その中で射命丸は与力(下士官)にあたる。良くつるんでいる犬走椛などは同心(足軽)にあたると言えよう。

 当然上役から仕事が割り振られてくるわけであるから、いくら音に聞こえた新聞記者である射命丸と言えども、ある程度は公務を行わなければならないため、流石に四六時中出かけるわけには行けない。 

 新聞とて執筆、編集しなければならないため、存外やる事は多い。そのため、阿求の指摘はもっともであるのだ。

 阿求の無言の圧が凄まじい。お前からも何か言ってやれと言わんばかりの圧である。

 

 「・・・確かに、阿求さんの言う通りですし、私も新聞の執筆や編集もあるのも事実ですので・・・・」

 「そうでしょう、そうでしょう。それに射命丸殿の敵う相手ばかりとは限りませんよ。紅魔の吸血鬼や地底の鬼、他にも天狗どの程度では話にならない者たちがいたるところに居ます。そんな相手とトラブルになったらどうします。・・・私は嫌ですよ。福太郎さんの御弔いなんて・・・貴方とてここで死んでは元も子もないでしょうに。」

 

 よよよよよ、とまるで涙を隠すように目元を袖で覆う阿求。芝居がかっているが一理ある。大抵の場合は自分一人ならばなんとかなる。例え鬼であっても、自慢の速さで何とかなるが。福太郎がいては話が違ってくる。流石に約束を反故にする事は天狗として、一妖怪として出来ぬことである。いっそ回数制限や地域制限など付けて、妥協してもらおうと思ったところで、福太郎が話始めた。

 

 「・・・阿求さん。流石にオレを嘗めすぎですよって。確かに、オレは力ない一般人やけども。外の世界の一般常識の中の人間とちゃいます。それに、この人里みたく安全の保障されたとこなどない、イカレ、狂って、不条理が支配する世界にもう、20年以上生きた人間です。どこで、どう死んでも、その時はもう、それはそれ仕方ない事です。そも、人間なぞ階段から落ちて死ぬこともあれば、屋根から瓦やなんか落ちてきてぽっくりなんてこともざらです。かと思えば毒を盛られようが、鉄砲で撃たれて、刀で斬られても生きとる事もあるしぶといもんです。あと、オレには切り札が幾つかありますよってからに、そう簡単にはヤられませんよ・・・。」

 

 少しばかり声が低くなり、目を細めて、阿求を見据えて諭すように語る。さも自信ありげである。射命丸は少々この田村福太郎という男を見くびっていたかもしれない。こう、なんというか凛として、幾分よい男ぶりであるように見える。少なくとも、何のすべも持たぬ里の人間とは違うように感じられる。それに、異世界からの稀人である福太郎ならばあり得る話ではある。が、はったりである可能性とてある。

 さぁ、ここまでいう福太郎に阿求はどう返すか、これは面白い。阿求は福太郎の身を案じて一歩も退かぬという様だし、福太郎は福太郎で絵描きとしての性分として諦めぬ。さながら夫婦喧嘩か痴話げんか。夫婦喧嘩は犬も食わぬが、烏天狗には一層美味に映っていた。

 

 「そうおっしゃるなら、具体的にはどのような切り札があるのでしょうかね?福太郎さん・・・」

 

 目を細めた阿求が問う。何か手立てがあるなら言ってみろと言わんばかりである。

 

 「まずはこれ。」

 

 首に下げたペンを指す福太郎。射命丸の記憶が正しければ、絵を描くのに便利なマジックアイテムでしかないが他にも何かギミックがあるのだろうか。

 

 「これは、描いたものを具現化できる。一種の式神をその場で出せる神仏、神霊、妖精、妖怪まで何でもありや。幾度かコイツで危機を脱しとる。それだけでなく、簡単な結界だって作れる。まあ作るまでの隙ができるかもだけども、その時間さえ稼げれば何とかなるで。それに・・・あと、あれもあったな。」

 

 福太郎の言う通りならば、大抵の危険は何とかなりそうである。というか普通の絵描きが持っていていいものではないのではないかと思う。新聞のネタになりそうだからと射命丸は流したが、その能力に舌を巻くのは後日の事である。

 不機嫌そうな阿求と面白そうな射命丸を尻目にニコニコしながら福太郎は自室に一度戻っていった。

 

 「ご苦労なさってるんですねぇ。」

 「・・・ええ、福太郎さんは暇を持て余すと、里の外へ出たいとばかりで。いくら危険だといっても中々諦めてくれません。」

 「まあ、ネタを追ってどこへでも行くのが記者の性ならば、まだ見ぬ光景を探し求めるのが絵描きの性なのかもしれません。」

 「・・・・・(あの人はどこか、自分の生を達観している。死んだらそこまでだというような潔さが。それ故に気軽に出かけるようにして、死んでしまうのではないか。そんな不安が拭えない。なぜ私は彼の事をこんな風にも気に掛けているのか。私にも分からない。ままならないものねまったく。)」

 

 そうこうしていると福太郎が何か革に包まれた何かを持って戻って来た。

 二人は、初めて見るそれをのぞき込んだ。

 

 「こいつは、ちょっと前に知り合った鎮伏屋の人に貰ったもんやけど、多分役に立つ。こいつで万全やで!」

 

 阿求はそう述べる福太郎にことわって、包みからそのモノを取り出す。小さな握りに、用心鉄、引き金と思しきものがあり、全体に宝船を思わせる意匠が凝らされ、七福神があしらわれている。以前、鈴奈庵で観た外の世界の武器が紹介されていた本にあったそれとどこか似ている。形こそ奇妙だがこれは察するに外の世界の短筒に類するものだと、阿求が断じた。

 

 「これは、・・・短筒ですか?」

 「せやで、オレの世界で怪物退治する人たちが使うのと同じ武器や。まあ、大したもんやない護身用の鉄砲やな。武器やけどお守りみたいなもんやね。正直あんま使いたくないけど。」

 

 銃の銘はその名も『七福神』。以前福太郎が旅をしていた時に道連れになった女性から護身用として贈られた銃で、その女性曰く

 

 『これといったギミックはないんですけど護身用のお守りとして人気があります!それにこれ持ってると七つの福+兄さんの福で八福ですよ!末広がりのメチャ福ですよ!』

 

 とのことで、半ば強引に押し付けられる形で贈られたのである。以来実戦で使ったことなど一度としてなかったが、まさか人里の外への外出許可を得るために役立つとは、誰も思ってもみなかっただろう。まさしく運がよかったとしか言えない。

 

 「あややや、中々立派な鉄砲ですね。見せてもらっても?」

 「ああ、別にかまへんよ。引き金には触らんといてな、危ないから。」

 「承知してますよ。福太郎さん。」

 

 心底不機嫌そうな、顔をしている阿求を横目に、見たこともない武器に興味を示した射命丸は嬉々として福太郎にことわって手を伸ばした。

 

  『バン!!』

 

 「「「!!!」」」

 

 まるで暴発したかのような音がしたが、違った。射命丸の手が結界かなにかのようなものによってはじかれたのである。この『七福神』は、確かにこれといったギミックは存在しないが、「お守り」「護符」としての側面が強い。元来、七福神の中には軍神として名高い毘沙門天、芸事を司る弁財天、そのルーツは戦神でもあるサラスヴァティ。大黒天は大国主命とインドのマハーカーラ(シヴァの分身の一つ)の集合したものであり、七福神は割と戦闘力の高い神々によって構成されている。

 加えてこの『七福神』を贈った女性の一言『七つの福+兄さんの福で八福ですよ!』が言祝ぎとして大きな力を発揮している。『八福』となると『八福神』に繋がってくるが、この場合になると中国で広く知られる八人の仙人たち、漢鐘離(カンショウリ)張果老(チョウカロウ)呂洞賓(リョウドウヒン)李鉄拐(リテッカイ)韓湘子(カンショウシ)藍采和(ランサイワ)曹国舅(ソウコクキュウ)何仙姑(カセンコ)の事を指す。中国の仙人は『封神演義』など見ても分かるように割と戦に関わる話もあり、八仙にも竜王の息子の一人と戦になるエピソードがあるため割と好戦的な性格である。その昔、玄宗皇帝の夢に現れ病魔を払った逸話を持つが故に破邪の呪いとされる鍾馗の絵のように、『七福神』が護身用のお守りとしてとして破邪の護符として強い力をもっても不思議ではない。

 このようなことが起きたのはただ単に、『七福神』を贈り、言祝いだのが木花咲耶姫とのダブルマンである吾田鹿葦津(あたかしつ)だったため異様なほど大きな効果を発揮しているだけのことである。

 

 さて、そんな事情などつゆと知らない三人は、妖怪である射命丸の手を拒んだ銃の護符としての力に目を丸くするばかりだった。

 

 「これは・・・確かに護身用としては充分なものですね。」

 「まあ、怪物退治専門の武器扱ってるとこが造ったもんなんで、効果は折り紙付きですね。ここまで強力とは思いませんでしたけど。」

 「・・・・」

 

 そんなこんなで、いくつかの条件付きで外出が許可されることとなったのである。

 

 一、外出の際は必ず阿求に申し出た上で、行き先を告げること。

 二、人里の外へ行く場合必ず護衛を付けること。

 三、人里の外への外出のみならず、外出時は『萬念筆』『七福神』を所持し、自身の身を最低限守れるようにすること。

 四、不測の事態及び即日帰れぬ場合は、必ず稗田亭にその旨を伝えること。

 五、必ず、無事に生きて帰る事

 

 以上の事が今後の福太郎の外出時における約束事として定められたのである。以後この五か条は、稗田亭の人々に『田村福太郎外出時五箇条』として情報共有されることとなるのであった。

 

 「それでは、明日お迎えに上がりますので、お支度を整えた上でお待ちくださいね。そうですね朝五つ頃半以降(午前8時から9時)にはお迎えに上がりますので。」

 「分かりました、準備して待っとります。」

 「・・・くれぐれもよろしくお願いしますね。」

 「では、また明日お会いしましょう。」

 

 そうして、射命丸は稗田亭を辞した。後に残された阿求と福太郎の間には、少々気まずい空気が流れている。明らかに阿求が不機嫌である。

 

 「・・・・」

 「・・・あの、阿求さん?」

 「・・・・・」

 「・・・機嫌直してもらえません?」

 「・・・・・・・」

 「・・・もしかしなくても怒ってます?」

 「・・・・・・・・・」

 

 福太郎の質問に、沈黙と睨みつけるような視線で答えていたが、静かに口を開いた。

 

 「・・・・・・絵を描きに行くだけでが目的では無いのでしょう?」

 「・・・・バレました?」

 「あくまで私の勘ばたらきですが。」

 「・・・黙っててもしょうがないですかね。」

 「観念して泥を吐いてください。」

 

 福太郎は少し目を伏せつつ、若干微笑んで答えた。どこか、後ろめたさか、ためらいがあるように。

 

 「正直に、言います。今後、オレが腰を落ち着ける場所を探す気でいます。」

 「・・・何か不満でもあるのですか。」

 「不満が無いことが、不満です。」

 

 不満が無いことが不満。矛盾するが、福太郎にとっては大切な事であった。

 稗田亭は、大きな屋敷で食客として暮らす分には何不自由ないものである。安全であり何にも脅かされることは無い。大召喚が起きなければ享受できたかもしれない生活が、ここにはある。いつか望んでいた世界。いつか望んでいた日常がそこにはある。

 

 「いつか、帰る事を拒絶してしまいそうになる自分がいやなんです。いつか、生きていくと決めた世界に背を向けようとする自分がいやなんです。」

 「・・・その選択を咎める人はどこにもいないと思いますよ。」

 「・・・・だからこそ。です。」

 「・・・・だからこそ。ですか。」

 

 出会いと別れ、記憶、決断、意志、これまで秀真国で積み重ねてきたものを否定したくない。そんな思いが福太郎の胸中にある。その想いの丈が

 「不満が無いことが、不満です。」

 この一言に込められていたことが阿求には伝わった。もし、自分が外の世界に往くことができて、妖怪に脅かされることもなく暮らすことができたのなら、自分は己の使命を忘れて暮らす道を選ぶこともできるだろう。いざその時になって自分は福太郎と同じ選択はできるだろうか。その選択を否定することはしたくはなかった。

 

 「・・・分かりました。」

 「分かってくれましたか。」

 「はい。ですので、どうか無事に。」

 「はい。約束します。」

 

 福太郎の本心を聞いて、納得はしたが、阿求はやはり無事でいて欲しいと思う。何時か幻想郷を去るその日まで。

 

 「いや、それにしても妖怪の山はどんなとこなんでしょうね。楽しみですけど、山の怪異には良い思いでないんですけど、初めて行くとこはやっぱわくわくしますね!!」

 

 阿求の胸中とは別に無邪気に明日を楽しみにしている福太郎を見ながら、少し寂し気に阿求は笑う。

 

 

 

 今宵は此処に栞を挟み、噺の続きはまたいつか。

 




 この度は、ここまでとなります。
 正直な話、いい加減、出掛けんかこやつらと作者も思っています。私の中の阿求さんを説得するのが思いのほか手間取りました。

 本編中で福太郎が写真が欲しいといったのはちゃんと意味があります。これはのちの話でだすつもりです。ここではあくまで、絵描きとして必要だからと述べておきます。
 今回は、福太郎の持ち物其の2の紹介も兼ねた話にもなっています。『サクラコード』本編ではついぞ使われることは無かったのですが、その為適当に話を盛る事が出来ました。
 八福神については七福神か仙人の関係の記述を読んでいる時に見つけました。この八仙の活躍は『東遊記』にまとめられています。『西遊記』などを含めて『四遊記』と呼ばれる冒険譚の一つとして数えられている作品です。また、八仙は船で移動する絵がある事などから七福神のモチーフの一つではないかと言われています。

 射命丸の上役の飯綱様は察しの良い方ならすぐわかるかと思います。いつか、本で文々。新聞の広告に「天狗の麦飯」があったことから、実はそんなに売れてない文々。新聞にわざわざ広告を出してくれるあたり、それなりの親交か関係があるのではと思いこのようにしました。
 天狗の組織構造についても、私の印象から武家形式のモノにしました。前近代的かつ封建的な感じがしましたのでこんな感じとしました。時代劇が好きな私的には、射命丸が与力、椛が同心、にとりが岡っ引というくらいがしっくりくるのです。
 ちなみに、与力は騎乗が許される武士であり旗本で、同心を指揮する下士官になります。対して同心は足軽であり歩兵の身分なので御家人、所謂三十俵二人扶持で武士の最低ラインなのです。時代劇で八丁堀の旦那と威張っている彼らも戦になれば、ただの足軽だと思うとなかなか面白くなります。
 因みに江戸町奉行所の与力同心は江戸の町を守る鉄砲隊にあたります。対して火付け盗賊改めは本来は先手組という組織であり、鑓隊と鉄砲隊にあたる実戦部隊で、戦になると真っ先に最前線行きとなります。
 このようなこともあり何かと本編、いうなれば最前線に登場する俗に言う東方三天狗が与力同心にあたるというのが私の独自解釈です。

 福太郎の目的として、稗田亭に代わる住処を求めるというのは、ここまで執筆してきた上で、様々な事情や福太郎の事を考えるとこれが自然なのではないかと考えたのです。異論のある方は勿論いるとは思います。
 その上で、述べると安全が保障されている幻想郷の人里や稗田亭は安住の地であり、福太郎があくまで帰還を望むのならば大きな障害であると思ったのです。なので、あまりにも居心地が良すぎる地を離れ、新たな居場所を探す旅に出てもらおうというわけです。それが、あの世界で生きるという選択をした福太郎らしい行動ではないかと思った次第であります。
 
 また、あとで見直して冒頭近くで少し文脈がおかしかったので修正しました。

 一応、今後の展開も考えてありますので、気長にお待ちください。

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