田村福太郎出立当日、時の頃は初夏。木々は青々しく茂り、幻想郷中に生命力にあふれていた。
天候は見事な晴天、風弱く、過ごしやすい気候である。まさに飛行日和である。
「ほな、皆さん行ってきます。」
危険な旅に出るというのに買い物に行くかのような気軽さで稗田亭を後にする。
稗田阿求他使用人たちはそれぞれに福太郎に心配の声を掛けつつ見送った。
阿求は心底心配だったが、今更止められない。きっと福太郎に「行かないで」と飛びついたとしても、きっと行ってしまうのだろう。
あれはそういう人だ、きっと肉欲や食欲や睡眠よりも好奇心を優先するそんな人だ。だから気に入ったし、好きになったのだ。好奇心が無くなったら、福太郎は福太郎でなくなると分かっているから、見送るしかない。準備はしたのだ後は運命に任せるしかない。
人里の出入り口で待ち合わせしていた射命丸と合流すると、門番や人里の住人達に逢引きかと冷やかされたが「外へ絵を描きに行く」というと打って変わって心配された。
やはり妖怪の恐怖、脅威は共通認識のようだった。
射命丸は福太郎に
「妖怪は怖くないのか」
と聞いた。疑問だったのだ、妖怪をあまり恐れていないような人間であった福太郎にとって恐怖はどこにあるのかと思ったのだ。
「話ができない相手が怖いです。」
福太郎とて怖いものがある。なにより意思の疎通が図れないことが理不尽に翻弄されるのが怖いのだ。話せる相手ならば何物も恐れないが、噺の通じない野良犬の方が福太郎は怖いのだ、
しかし、そんな考えは中々理解されずにいるが
「私は分かる気がしますね。」
射命丸は人里を出て目的地までの道中そんなことを福太郎の言葉を聞いていった。
「私は昔から、山の組織の中で生きてきました。昔は鬼が頂点に立つ組織でその中で頭の固い人たちに翻弄され、傍若無人を絵にかいたような鬼たちに翻弄されました。いいこともありましたが、悪いことも嫌なことも山ほど・・・飯綱様が頑張ってくださって今では随分よくなりましたよ。おかげで、私は今の御山が好きです。」
そう言って微笑む射命丸をみて共感を得られたことに、自分と射命丸は存外似たところがあると微笑んだ。
歩きながら射命丸は伝えなければならないことを伝えるべく口を開いた。
「なので、福太郎さんお願いがあります。」
「なんでしょうか?」
「こちらの手形が、御山への入る許可と滞在の許可を兼ねております。こちらの手形を発行するにあたり一つ御山から条件が提示されました。」
「手形とは古風やな。で条件とはなんです?」
「御山では我々の指示に従ってください。私の他にも案内役を付けるのでそのモノたちから離れないように。もしも、単独で怪しい事をなさっていたら・・・御山の防諜と防衛の為に貴方を殺します。」
「!!なるほど・・・道理ですね。」
「私はあなたを殺したくない・・・」
福太郎は少しばかり動揺しながらも承諾し手形を受け取った。
何よりつらそうな射命丸の顔を見て、仕方のないことなのだと感じたし、他にも人員を用意までしてくれたのであるからその好意を無下にできなかった。
二人はしばし無言になったが、また雑談しながら目的地へ歩いてい行った。
「さてこちらが目的地です。」
射命丸はそういうが、周囲には何もない。人里から離れ、見えなくなった程度である。
「目的地と言いますけど、何もありませんよね。山らしきものもないですし。もしかしてテレポートとか?」
「いえ、そんなものはありませんそうしたことはどうぞ、隙間妖怪にお願い下さい。あ、お荷物お預かりいたしますね。」
「あ、すいませんね。でも、どうやって・・・」
「飛んでいきます。」
「飛ぶ。」
「飛びます。」
バサリと翼を出して福太郎の荷物を持つ、射命丸を不思議そうな気持で見つめた。飛ぶというが飛べない人間たる自分をどうするつもりなのか?もしかして運んでくれるのだろうか?
「自分飛べませんが。」
「承知してます。」
「運んで頂けるんです?」
「荷物はお運びしますが、ご自身で飛んで行っていただきます。」
ますますわけが分からないという顔をする福太郎に、悪い笑顔で射命丸が告げる。
「私の能力で空を飛んでいただきます。」
「能力?」
「私の能力は『風を操る程度の能力』福太郎さんを風で御山で飛ばします。」
射命丸の説明に、福太郎は顔を青くする。
「それは飛ぶというのではなく吹き飛んでるのでは?」
「それでも目的地には着きます。」
「ジブン、急に具合悪なって・・・」
「さあ、つべこべ言わず飛びますよ~!」
さあ、さあ、と笑顔の射命丸に対して真っ青な福太郎。慌てる様子を尻目に射命丸は葉団扇を取り出し風を起こし始める。
「さあ、名付けて飛行の術!行きますよ!!」
「まって!やったことあるんかいなこれ!!」
「・・・・行きますよそ~れ!!」
「あああああああああ!!!!!」
風は舞い上がり、福太郎の体を持ちあげる。そして射命丸が大きく一振りすると風によって舞い上がり、速度を上げて飛んでいった。
無事、飛んで行ったのを見て射命丸は福太郎の後を追って飛び立った。
「ひやぁぁあぁあああ!!スゴイ勢いでとんどるのに空気抵抗が無いぃぃいいぃぃ!」
「そりゃ、そうです。音より速いので其のままだったらひどいことなりますから、能力を応用して空気抵抗なくしてます。正確に言うと相殺してます。」
「な、なら安心やな。で着地は!でもなんか空気抵抗ないのがなんか気持ち悪いいいいい!」
「・・・着地は現地に私の仲間が受け止める手はずになってるので安心してください」
「なんの沈黙!ほんま大丈夫なん!?」
「大丈夫ですよ。あ、そろそろ着くので先行ってますね。」
「死ぬううううう!!」
福太郎が大絶叫しながら空の旅を楽しんでいる頃、犬走椛自宅付近にて。
福太郎着地に備える犬走椛と姫街道はたて、は空を眺めながらこの無能ともいえる飛行作戦について話していた。
「はたてさんはこの作戦どう思います?」
「田村氏が気の毒」
「でしょうね。空を飛べない人間を飛ばすとか無茶苦茶もほどがありますよ。」
至極まっとうな意見が交わされていたが、話題は件の人物についてシフトしていた。
「そういえば椛は田村福太郎という人は知っているんだよね。」
「一方的に顔を知っている程度です。千里眼で人里の人たちに絵を描いているのを目にしただけです。」
「ねぇ、どんな絵を描くの?風景が人物画?」
「風景が多いようです。記憶を頼りに不思議な絵も描いていましたが、人物画は余り好まないようです。」
「へぇ~でも人物画はお金になるでしょ?何でなのかな?」
「ご本人に聞いてみたらよろしいでしょう。もうじきいらっしゃることですし。」
「でも、初対面の人間は苦手かも。外来人はうるさいし、人里の人間は恐れおののくし。」
「・・・・確かにそうですね。」
迷い込む外来人の傾向として不可解な事象に泣きわめき罵倒するというのはよくある事であった、また、妖怪を恐れる人里の人間は必死に命乞いする。畏れられるのは構わないが、一方的に化け物呼ばわりは不本意というのが理性ある妖怪たちの共通認識である。
「田村氏はそのようなことは無いかと。あの隙間妖怪にも怯まず気に入られているのですから胆力はあるでしょうし。」
「椛結構詳しいのね?なに監視してたの?それとも気があるの?結構顔がいいとか。」
「いえ・・・気になるのは否定しません。それに顔についていては中の上くらいですが、でも絵を描くときは・・・」
「ふぅ~んwww」
「冷やかさないでください!!」
女子トークに花を咲かせていると射命丸が福太郎の荷物を持って舞い降りた。
「なんですかぁ?私を抜きにして楽しそうですね。混ぜて欲しいところですがもうすぐ到着なので準備を。」
「はいはい。」
「了解です。」
しばらくすると人影が見えてきた。問題はあまり減速してないことだった。
「ちょっと文!原則できて無いようだけど!!」
「おかしいですね?減速する予定だったのですが?」
「文さん。ホントに大丈夫なんだろうな?」
「勿論、その為の2段構えなのですから!!」
「・・・その二段構えに文さんが入ってないのが不満なのですが。」
「私は福太郎さんを飛ばして荷物を運ぶという重要な役目を果たしましたので。」
そう言って、得意げな顔をする射命丸だったが、運んできた荷物は既に地面に置かれている。
つまり、射命丸の仕事は既に済んでいるのである。それを見て二人は怪訝そうに射命丸を見て、指摘する。
「じゃあ、今は暇だよね?」
二人の不満げな視線と文句などどこ吹く風というようで、二人に指図する。
「さあ、来ましたよ着地は二人にかかってますよ!」
田村福太郎移動作戦の全容は以下である。
1、射命丸が福太郎を吹き飛ばし荷物を運ぶ。
2、目的地で姫街道はたてが空中で受け止める。
3、もし、はたてが失敗した場合犬走椛が受け止める。
失敗すると犬走椛宅近くにクレータが出来て田村福太郎は死神の世話になるのだ。問題ははたから見れば問題だらけの無茶な作戦なのだが、当人たちに自信があるのでそんなに問題にしなかったのだ。とはいうものの射命丸が福太郎を気合を入れて吹き飛ばしたため減速に失敗したので作戦失敗の確率が跳ね上がったのである。
失敗すれば、博麗を始めとする福太郎と親しい者たちの報復を受けることに成るので三人ともことここに至って必死になった。
時は来た、福太郎を受け止めるべく姫街道はたてが飛び出す。
しかし、スピードを殺しきれず、姫街道はたての薄めの胸部に激突、姫街道はたて墜落。
落下する福太郎を犬走椛が駆けだして何とか受け止めた。命に別状はなかったが、福太郎は椛に覆いかぶさる形で目を回していた。
「なんとかなった~」
意図せずとも椛が福太郎を抱きしめて仰向けに倒れる形になったが、福太郎の無事を確認し椛はほっとした。
「ひどい目に遭った。人間に激突して墜落とか末代までの恥だわ~」
空中で激突し、墜落する形にはなったが、おかげで減速はできたので役目は果たした。
「いや~一時はどうなるかと思いましたが。無事到着しましたね。ご気分はどうですか福太郎さん?」
形はともあれ、五体満足で山で到着することができる事が出来てケラケラ笑っている。
きわどい作戦の成功に三者三様に肩を撫でおろす。椛が福太郎に肩を貸す形で何とか立ち上がる。椛はとても心配そうだったし、はたては痛む胸を撫でながらよろよろと三人の元に歩いて来たが、射命丸だけが上機嫌である。
そんな中で何とか福太郎は文に向かって心底気分が悪そうに射命丸と椛をみながらなんとか喋った。
「ありがとなおねぇさん。それはそれで、ええ。わけないやろが文。うぷ・・・ゲロゲロゲロゲ!」
「わー!吐いた!!かかった!!倒れた!!どうするんだ文!!福太郎さんに何かあったらどうする気だ貴様!!」
「あややや。まずは着替えと風呂ですね・・・」
人間の絵描きは空を飛び、天狗とぶつかり倒れた。妖怪の山での日々は此処から始まる。
今宵は此処に栞を挟み、噺の続きはまたいつか。
福太郎が妖怪の山に行くにあたりどんな感じに使用かと頭を悩ませました。
射命丸が抱きかかえてラッキースケベを堪能するのも悪くないかと思いましたが、よく考えたら、福太郎は自重で地獄の苦しみをするのではないかと思い断念。
そこで、FGOのアーラシュフライトに着想を得て飛んでもらいました。
二人の天狗の体に接触したからには福太郎も幸せでしょう。脳震盪で嘔吐したとしても。
2023・02/23誤字脱字と一部加筆修正。