人間の絵描きの幻想郷見聞録    作:信州のイワ

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 最近は直接、ハーメルンのサイトから投稿していますが、機能になれておらず、先日のようなことがまた、起きるかもしれません。

 あと私、転職し鑑定士になりました(骨董専門)
 
 よろしくお願いします。


人間の絵描き、河童と出会う事。

 

 衝撃的な来訪より一夜明け、福太郎が目覚めると、くつくつと何か煮える音が聞こえ、味噌汁の良い匂いが伝わって来た。

 

 どうやら、椛が朝餉の準備をしているようだった。

 

 椛は福太郎が訪れてから、快くもてなしていた。

 

 昨晩の麦茶の用意などからもよく分かる。

 

 これまでここまで良くしてもらえたことなど、足洗邸でこまがかいがいしく世話を焼いてくれたが、食事に風呂、寝床の準備まで何から何まで世話になっていた。ここまで面倒を見てもらったことなど、ほとんど経験が無かった。子供時代を除いて・・・

 

 さながら、高級旅館にでも来たようだった。立派な建物に、立派な風呂、うまい食事に、すがすがしい空気。その空気は夜には素晴らしく美しい夜空を見せてくれる。人里からみる夜空も素晴らしかったが、椛の家から見る夜空は特別美しく感じた。

 福太郎の中の創作意欲がふつふつと湧き上がってくる。

 

 そんなことを想いながら、福太郎は来ていた浴衣を脱ぎ、持ってきた普段着にぞ出を通して、浴衣などを手に椛の居る台所まで移動した。

 

 

 台所は昔ながら民家に見られるように土間になっていて、椛が付け合わせの漬物を切っていた。

 普段の仕事着である装束とは違い、淡い青色の小袖を着ている姿が実に可愛らしい。襷をかけて家事をしているさまは、まるで旅館の中居さんの様だった。

 

 その様子に見とれているばかりではいけないと思い、福太郎は声を掛けた。

 

 「おはようございます。椛さん。洗濯物はどうしましょうか?」

 

 椛は、声を掛けられて、小皿に漬物を盛り付ける手を止めて、振り返る。

 

 「あら、おはようございます。福太郎さん。洗濯物でしたら、脱衣所の駕籠に入れてください。後ほどまとめて洗いますので。洗い物を置かれましたら居間で待っていてください。もうすぐ朝餉が用意できますので。」

 

 分かりました。と答えて脱衣所の駕籠に浴衣などを入れて、言われるがままに居間へ移動した。

 

 (何から何でもしてもらうのも悪いし、後で洗濯か薪割りでも手伝おう)

 

 などと思っていた。なんせ福太郎も一応は昭和生まれであるからして、薪割も手洗いの洗濯も一応経験はあるので問題ない。そんなことを考えていると、椛が朝餉を持ってやってきた。

 

 「お待たせしました、福太郎さん。さっそく朝ごはんに致しましょう。」

 

 そう言って、朝餉を机に並べていく。

 

 白米に、大根と戻した干しシイタケの味噌汁で、大根の葉が彩として散らされている。加えて、卵焼きに沢庵が添えられたものであった。簡素ながらも心尽くしの料理である事が見て取れる。

 

 「「いただきます。」」

 

 二人は、手を合わせて、食べ始める。

 

 福太郎は炊き立ての白米の盛られた茶碗に手を伸ばし、静かに食べ始める。白米をかみしめるとほのかな甘みが口の中に広がる。実にうまい。このような朝食などいつ振りだろうか。足洗邸で生活していた頃、以来であるような気がしていた。

 

 次に、みそ汁に口を付ける。そこし、濃いめの味噌汁は白米が進む。厚めに切られた大根はほくほくとして旨いし。椎茸も厚く、噛み応えがあってうまい。出汁は昆布だろうか?椎茸を戻した時の汁も混ざっていると見えて実いい風味だ。

 

 卵焼きに手を伸ばせば、出来立てで実にうまい。口にすると少ししょっぱく、出汁が効いている。懐かしい関西風の卵焼きだ。もはやおぼろげな幼いころの思い出がよみがえるようだった。

 

 内心感動に打ち震えながら、椛に目をやると。黙々と食べていた。

 

 手にした茶碗は福太郎の物より大きく、そこには山もりの白米が盛られていた。それが見る間に減っていく。パクパクと飯を食べているかと思えば、沢庵や卵焼きなどに手を伸ばしてあっという間に食べていく。その表情は実に幸せそうだった。

 

 福太郎の視線に気づいて、チョット顔を赤くして、口の中の物を呑みこんで恥ずかしそうに笑った。

 

 「すみません。私ちょっと人よりも多く食べるものでして・・・特に朝食を。」

 

 そんな彼女の言葉に笑って福太郎は答えた。

 

 「ええんよ。気にせんで。朝飯は大事やし、一杯食べるのはええことやで。」

 

 そうですね。と答えて椛は食べ続ける。おいしそうに食べる椛を見て福太郎の箸も進んだ。福太郎は残らず朝餉を平らげると、おもむろに椛の隣に移動して、御櫃を開け、しゃもじを手にして笑いかける。

 

 椛がきょとんとしていると、福太郎は笑って、手を差し出す。

 

 「おかわり、どうです?」

 

 「そ、そんな悪いですよ福太郎さん。」

 

 「ええから、ええから。それにたくさん食べるの見てるの楽しいし。」

 

 「それでは・・・お願いします。」

 

 椛は福太郎に茶碗を渡し、椛から茶碗を受け取った福太郎は白米を茶碗に山盛りいっぱい、よそう。

 

 茶碗を受け取った椛は、山盛りの白米を恥ずかしそうに、パクリパクリと食べていく。

 

 無くなると、福太郎は茶碗を椛から受け取り、また白米をよそって、渡す。

 

 そんなことを二度三度と繰り返すと御櫃の中身はたちまち空になった。

 

 (「お父さん、おかわりどうぞ!!」「ありがとな、福太郎。って盛りスギやがな!!」)

 

 (昔は、こんな風に家族で食べてったっけな、懐かしいわ・・・)

 

 

 

 朝餉が済むと、二人は食器を台所まで持っていき、椛が食器を洗い、福太郎が、水を噴くといった具合で分担して食後の後かたずけをした。

 

 食器を洗っている時に、この後の予定として洗濯をした後薪割をし、椛が所蔵する武器武具の類を見せてもらうことに成った。

 

 初めのうちは「客人に家事を手伝わせるわけにはいかない」と椛は断っていたが、「待っているのも暇だし、早く武器や武具を見せてもらいたいから、一緒にやって方がいくらか早いから」と福太郎がごり押して、手伝うことに成った。

 

 

 二人は、互いの洗濯物を持ち、井戸端へ移動する。大きな桶に、水をためて、洗濯物を浸し、石鹸で汚れを落としていく。

 

 「てっきり、米のとぎ汁かなんかで洗うと思ってました。」

 

 「何十年か前まではそうでしたが、最近は石鹸が売られるようになりましてね、こっちの方が効率が良くて。それにしても福太郎さん、お上手ですね。外の世界の人間は機会を使うと聞いてましたから。」

 

 二人で、水につけた衣服に、石鹸を付けて、生地を傷めないように洗濯板に擦り付けて、じゃぶじゃぶと洗いながら会話をする、何とものどかな光景である。

 

 「ゆうて、なんでもできるわけじゃないからねぇ~。今でこそ、割と何とかなるけども。昔は手洗いすることも珍しくなかったから。・・・お母さんに仕込まれて手伝っとたな。」

 

 「そうでしたか、でしたらご家族も心配なさっておいででしょう?早く帰れると良いですね、福太郎さん。」

 

 「・・・せやね。」

 

 「?」

 

 椛は、何気なく話したつもりだったが、福太郎は家族の話をするときはどこか、歯切れが悪いようだった。いままで恥ずかしく話していたのに違和感を覚えた。

 

 洗濯を終えると、二人で物干し台に、紐を張り、洗濯ばさみで止めていく。お互いに下着の類を干すときは恥ずかしそうにしながらもしていく。最後に手ぬぐいや、晒の類は板に張り付けるようにして、日当たりの良い所に置き干した。

 

 外は良く晴れていて、気持ちの良い風が吹いている。空には太陽が輝き、白い雲が風に流されて行っていた。

 

 洗濯ものを干し終わると、椛は蔵へ、福太郎は居間へ行き、椛を待った。

 

 福太郎はワクワクしながら待っていると、椛は重そうな長持ちと、鎧櫃を軽々抱えて運んできた。

 

 「ほ~ん。力持ちさんやね。椛さん。」

 

 「えへへへ。流石に鬼の方々程ではありませんが、天狗は皆、力持ちですよ。それに、鍛えてますので!!」

 

 古来より天狗が山で起こすとされる怪奇はさまざまある。「天狗の礫」(突然空から木の枝や、石が降ってくるもの)、「天狗の囃子」(突然山の中で聞こえてくる祭囃子)などだ。その中の一つとして、「天狗倒し」というものがある。山で起きる不思議な現象を天狗の仕業とするもので、突然の倒木、とりわけ大木が倒れて来ることをこう呼ぶ。この現象で生じる、副産物として大きな穴ができるが、これは「天狗の風呂」とよばれることがある。

 山で起きる怪奇現象全般は、山、あるいはそこに住む化生ものによるテリトリーの主張。あるいは、一種の禁足地や異界、聖地の結界であるとされている。

 当然のことであるが、山を守る天狗である椛もこれらの芸当ができるのである。天狗の礫などは神通力と言ったテレパシー系の能力によるものもあるが、天狗の強靭な四肢から繰り出される現象でもある。

 

 

 椛は自慢げに笑いながら、長持ちと鎧櫃を置いた。長持ちは、6尺ほどの長さがあり、幅も3尺ほどもある大きなもので、頑丈そうな使い古された唐櫃だった。唐櫃には家紋の様に赤いカエデの葉が描かれており、鎧櫃にも同じものが描かれていた。

 

 初めに、長持ちの蓋が開けられ、中から武器武具が椛の手に取って取り出されて行き、畳の上に並べられていった。

 

 三八歩兵銃が1丁、銃剣のような短刀が一振りと弾薬箱がひとそろえ。

 

 二十六年式拳銃が1丁

 

 籐重の半弓が一張と三十六筋の矢が入った箙が一つ。

 

 棒手裏剣が入った革袋が一つ。

 

 身幅の広い鉈なような刀が一振り。

 

 紅い柄巻きの日本刀一振り。

 

 赤い房が付いた二尺ほどの大ぶりな十手が1丁。

 

 紫の房の付いた三尺二、三寸ほどの十手が1丁。

 

 紺染めの捕縄が一束。

 

 白地に赤いカエデの葉が描かれた丸い楯が一つ。

 

 

 

 以上の武器武具が取り出された。

 

 「それと、後はあれですね。」

 

 そう言って、奥の部屋から、七尺ほどの鑓と鉄の輪と筋金が両端の端から三尺ほどのところまではめ込まれた六尺棒を持ってきた。

 

 「これで、私の武器武具は全部ですね。どうです?ご感想は?」

 

 ニコニコと笑いながら、福太郎を見ると、目をキラキラとさせながらわずかに震えている。

 

 「カッコええわ~!鑓や刀は想像しとったけど、結構近代的な武器もつこうてはるんですねぇ~。あと捕物道具もあるんですね。」

 

 「ふふふ、福太郎さんも男の子ですねぇ♪」

 

 「男の子はいくつになっても武器もって走り回るんが好きなもんですよ。オレはからっきしやけど。」

 

 

 キャキャッと二人で、笑いあっていると玄関の方から声がする。

 

 

 ???「お~い!椛いる~?開いてるから入るよ~」

 

 

 門の方から声がする。

 

 

「にとり~!ちょっと待ってて、今行くから~!!」

 

 大きな声で返事をすると福太郎に向き直って、声を掛けた。

 

 「丁度、友人が来たようです。出してあるものはどうぞ、お手に取ってご覧ください。ですが、充分ご注意くださいね。」

 

 そう言って、椛は中座した。福太郎は、興味深そうに並べられた武器武具を見つめ、先日、椛が身に着けていた幅の広い刀に手を伸ばす。持ち上げようとすると、その重さに驚いた。

 

 (こんなん使こうてるんか~すごいわ、ホント。)

 

 抜いてみようと思ったが、落として畳に穴を空けるのもはばかられたため、紅い柄巻きの日本刀を手に取りさやを払った。流石に先程のよりかは軽いが、重く感じる。見れば、普通の日本刀よりかは身幅は広く、重ねも厚い。拵えもがっしりとしていて、実に頑丈そうなものだった。刃文は直刃がまっすぐ伸びていて美しく、良く研ぎあげられており、よく切れそうだった。所謂「薩摩拵え」と称される質実剛健な一振りである。

 鞘に納めて、元の場所に置くと、十手に手を伸ばす。正直、他のモノには怖くて手を伸ばしずらかったからである。

 

 二尺の十手は、八角の棒身(十手の刀身にあたる部分)に大ぶりの鉤がカシメ付けられていた。柄は数珠玉のようになっていた。十手は錆一つなく磨き上げられ、よく手入れされているのが分かった。見るとところどころに刀傷があった。研がれて直されているが、はっきりとその痕跡が見て取れる。

 椛がこの十手を手に、火花を散らしながら凶刃を防いでいる姿が目に浮かんだ。

 

 もう一つの十手を手に取ってみれば、見たところ傷などは見て取れず。全体が美しく磨けあげられており、柄に等間隔に三つの真鍮の輪がはめられており、柄尻の環(かん)は十字のような形になっており、どこか五鈷杵を思わせる美しい逸品で武具というよりも、芸術品のようであったが実用の武具らしい威厳のあるものだった。

 

 

 

 

 

  武器武具を眺めているころ、椛は来客の対応をしていた。

 

 

 

 

 「いらっしゃい。にとり。よく来てくれました。何か御用ですか?」

 

 ニコニコと笑い、元気そうな様子ににとりは少々面食らった。ついこの前会った時は、どこか注意散漫で、こちらの言う事など上の空、数少ない趣味の将棋にすら興味を示さない物だから、一体どうしたのかと気になっていた。録に休暇を取らないことで知られている椛が珍しく休みを取ったらしいとの事でなおの事、心配になった。

 

 そこで、今日、九天の滝まで貧乏徳利片手に足を延ばしたのだ。にとりは椛の様子を見に来たのだ。酒でも飲めば悩みの一つや二つなど聞き出せるのではと思ったのだ。しかし、そこに椛は居なかった。代わりに居るのは椛の五人いる部下の一人で、生駒桜という若手の白狼天狗だ。

 椛はどうしたと聞けば、椛は暫く休みで、部下の白狼天狗たちが交代で椛の代わりに哨戒をしているとのことだった。

 

 しかし、その心配は杞憂になりそうだった。目の前にいる椛は、こぎれいな小袖を着て、うきうきとしている。元気そうどころか、この上なく幸せそうに見える。むしろ、何があったのかと気になった。普段の様子とはあからさまに異なる。普段の椛の休暇の姿と言えば日がな一日にとりたちと将棋に興じるか、川辺で釣りか山で鹿や猪を狩っているかで、心底退屈そうに過ごしているのだから。今の椛の様子を見るに、ただ、休暇を満喫しているようには思えなかった。

 

 「前、会った時はさ、なんか元気なさそうだったし、上の空だったからなんかあったのかと思って。おまけに急に休みに入ったとかいうから、余計に心配になったんだけど。」

 

 「それはすみませんでした。実は今、お客様が泊っておりまして、聞いてませんかね?田村福太郎さんという方なのですけど。」

 

 

 ニコニコとしている椛の言葉に、ああ、そういえば大天狗の飯綱の名前で連絡が来てたななどと思い出していた。人間が山に招かれるというのは珍しいことなので記憶の隅に引っかかっていた。

 

 「そういえば、そんな話だったね。椛のとこに泊まってるとは思わなかったけど。はい、これ土産。ホントはコイツで一杯やりながら愚痴でも聞こうかと思ってたけど元気そうならいいや。やるよ。」

 

 そう言って、椛に酒を渡した。椛は喜んで受け取り、まだ、日も高いから夜にいただきますと笑って答えた。

 

 にとりは、御山の客人が来てるなら、自分も挨拶すると言ったので、快く招き入れた。

 

 椛に促されて、家に上がるとふとある事に気付いた。

 

 「・・・うん?てことは椛がお世話係?それじゃ、休暇じゃないじゃん。仕事じゃん。接待じゃん。大丈夫?変なことされてない?やっぱ話聞く?・・・嫌な事ならさ、ちゃんと断った方がいいよ椛。」

 

 にとりの言葉に一瞬何のことやらと思っていたが、言葉の意味が分かるとたちまち顔を赤くした。

 

 「そ、そんな事はありませんよ!!何言ってるんですか、まだ明るいうちから。そうではなく・・・確かに休暇ではないかもしれませんが・・・・喜んで引き受けたの!それに福太郎さんはそんな方ではありません!!怒りますよ!」

 

 にとりに言われて確かに、体よく面倒ごとを押し付けられた形なので、後で仕事として手当を請求しようと思いつつ、にとりに折角来たのだからといってを居間に招き、この河童の客人の為にお茶の用意をしに台所に向かった。

 

 

 勝手知ったる人の家、にとりは迷うことなく居間に向かうと、そこには十手を物珍し気に眺める福太郎がいた。

 

 

 福太郎は十手をしげしげ観察していると、不意に聞きなれぬ声が聞こえた。それまで、その存在に気付かなかった。

 

 

 「あんたが、客人の盟友かい?」

 

 

 その言葉にようやく、来訪者に気付いて目を向けた。そこには緑の帽子をかぶった青い髪の少女が怪訝そうな顔をしてこちらを見ていた。

 

 (・・・こいつが田村福太郎。)

 

 これが二人の出会いだった。

 

 

 「これはどうも、自分は田村福太郎いいます。盟友かどうかは分からんけども・・・」

 

 手に持った十手を元の場所に置くと、にとりに福太郎は朗らかに挨拶した。

 

 (へらへらした盟友・・・コイツのどこがいいのかね?)

 

 二ヘラと笑う福太郎に純粋に疑問を抱いた。椛が入れ込み、大天狗たる飯綱が特別に入山と自由行動を認可した人間。見たところ外来人で、そんなに特別には見えない。強そうにも見えないし、見た目がそれほどいいようにも見えない。

 

 「盟友というのは私ら河童の人間に対する呼び方さ。昔から助け合う事もあるし、遊ぶこともある。だから盟友さ。」

 

 「へぇー!お嬢さん河童だったんかいな。逢ったことある河童の人とは全然違うからビックリやわ!」

 

 (河童に逢ったことがある?こいつ外の世界の退治屋か何か?)

 

 河童に逢ったことがある。本来ならありえない発言から思わず警戒するが、とても祓い屋や退治屋には見えないためますます疑問は募るばかりだった。

 

 にとりの怪訝そうな表情に福太郎は自分の正体に対して疑問を抱いてるのだろうと察した。この幻想郷の外にはほとんど妖怪が居ないのだから自分の何気ない発言に疑問を持っているのだろうと察することができたので、自身の正体を明かした。

 

 「あ~自分、他所の世界から来ましたしがない絵描きでして。普段は人里で依頼貰って絵を描いていますけど、最近は寺子屋で臨時教師なんかもしとります。」

 

 「他所の世界の絵描き?」

 

 また、気になる言葉が出てきたが、その疑問はすぐに解消した。

 

 「福太郎さんは、外の世界から来た外来人ではなく、異世界から迷い込まれた方なんですよ。」

 

 声のする方には盆に湯呑と急須、茶請けの浅漬けのキュウリを載せた椛が居た。

 茶と茶請けを出しながら福太郎の現在の状況を説明してくれた。人間と人外が混在する世界から迷い込んだ事。元の世界に帰る算段が付いていないこと。生活の為人里で働いていること、射命丸に気に入られて山に招かれたこと、滞在先として椛の家が選ばれたことなどを簡潔に、手際よく茶を注ぎ、茶請けを配膳しながら話してくれた。

 

 「・・・大変だね。あんたも。あんまり堪えてなさそうだけど。」

 

 ズズズ

 

 「・・・そうでもないですよ。やっぱ少なからず動揺はありました。でもね、霊夢ちゃんや紫さん、慧音さんや霧雨の旦那さん、阿求さん。それに射命丸さんに椛さん・・・他にもたくさんの人や妖怪が良くしてくれる。だから、時々元の世界を思い出しても寂しくなる事もあっても、辛くはない。」

 

 「・・・」

 「・・・福太郎さん」

 

 少し寂しそうな、心細うそうな福太郎の言葉に少し悲しさを感じながらも、理不尽な世界の中で生きていく強さを福太郎ににとりたちは感じた。

 いうなれば、福太郎の健気さが幻想郷に生きる人妖が「放っておけない」と思わせるものなのかもしれない。

 

 暗い雰囲気を払拭するように、福太郎は椛所有の武器武具について質問し、楽し気に話をしていった。

 カッコイイ玩具にはしゃぐ子供の様に楽し気に過ごす福太郎は微笑ましくも、その背景を知ると少し悲し気ににとりには見えていた。

 

 「しかし、こんな鉄砲もあるなんてな。ビックリやわ。実際に使う事もあるんです?」

 「滅多にないですね。外の世界から吸血鬼が来た際に戦いがありまして、以来軍備の増強が図られまして、外の世界から細々と仕入れていたのですが、70~80年前から大量に無縁塚に流れ着くようになりまして、以来全員にこうした銃器が支給されるようになったんですよ。」

 

 70~80年前。つまりは終戦後という事である。これには事情がある。日本が敗戦を迎えたおり、GTPにより武装解除が行われた。警察を除きすべての武器の廃棄が行われた。今日の日本の銃刀法はこの影響がある。椛によるとこの時に大量の武器が地中や海中に廃棄されたがそうしたものが忘れ去られ、幻想郷にたどり着いたとのことであった。

 

 「なるほどな、そりゃあり得る話やね。」

 「こうしたものは時折手入れをしなければならないので、そうした時にはここにいるにとりたち河童のメカニックたちにお世話になります。」

 

 武器武具を囲んで三人は先程の暗い雰囲気を払拭するかのように談笑した。

 他にも、将棋や普段の生活の話など様々な話をした。

 そうしている時に、福太郎の絵の話になった。

 福太郎はどんな絵を描いているのか。そのにとりの質問に、椛は白熱して語った。福太郎さんの絵は素晴らしいと。そうなるとどんな絵なのか心底気になった。

 

 「そう褒められるとむず痒いわ~」

 

 そういって福太郎は少し悩んで、あてがわれた部屋に戻っていった。

 その間ににとりは椛を少し冷やかすことにした。

 

 「あんたがこんなに入れ込むなんて珍しいじゃないか。もしかして一目ぼれ?」

 「い、いえ!違う!一目じゃなくて!ずっと何度も見てて・・・じゃなくて!」

 「はいはい。ご馳走様。」

 

 少しはばかり冷やかした後福太郎は、イーゼルと長方形の紙と画材を持ち戻って来た。

 

 「せっかくやし、一つ絵を描いてみようか?そやな、折角立派な家に泊めてもらってるんやから、この家を描こうか。縁側で座ってるもいいし、描いてるところ見ててもらっても構わんよ。」

 

 そう言って、福太郎は縁側から庭に居りてイーゼルを置き画板に紙を止めてスラスラと描いていく。

 いつものヘラヘラとしてどこかどんくさそうな雰囲気とは打って変わって、流れるように手際よく準備し、絵を描いていく姿は一種の職人の仕事を見るような感じがある。

 その姿に若干驚きつつにとりが隣に目をやれば、うっとりしたようにその姿を見る椛が居た。

 

 (こりゃ、首ったけどころか尻尾の先から耳のてっぺんまでどっぷりだねぇ)

 

 話しかけてもちっとも椛が反応しなくなったので、にとりは縁側に降り福太郎の作業を見に行った。

 わずかな時間にも拘らず、下絵が出来上がっていた。

 まだ下絵の段階にも拘らず、茅葺屋根の立派な屋敷の絵が描かれていた。その福太郎の顔を見れば普段の様子とは打って変わって、真剣で、楽し気で、無邪気な子供のような純粋な目に、精悍な若者のような凛々しさがどこかに感じられた。

 

 (ああ、椛はこの目にやられたんだねぇ。・・・ちょっと分かるな。いい顔をしている。)

 

 一切の狂いなく、迷いのない筆さばき、真剣に被写体に、絵に注がれる視線は一流の職人のそれであった。 

 にとりは職人ゆえにその手先に目が行くが、椛は持ち前の千里眼でその眼が行ったであろうことは想像に難くなかった。

 

 下絵が終わると、線が描き込まれ、色がのせられていった。その一連の流れは一瞬の様でいて、長い時間が流れていった。

 にとりが見ていることなどまるで気付かないように福太郎は絵を仕上げていった。そして最後にちらとにとりと椛を見て最後の仕上げをしていった。

 

 福太郎は仕上がった絵を持って屋敷に戻ると椛とにとりにその絵を広げて見せた。

 

 そこには太陽に照らされる茅葺の屋敷に、一人の河童と一人の白狼天狗が盤面に向かい将棋を指している姿が描かれていた。

 一度として将棋を指している姿を見せたことなどないのに、まるでその場にいたかのように、在りし日休暇の日の二人が描かれていた。まるで絵からパチリ、パチリという将棋を指す音が聞こえるような絵であった。

 

 「・・・流石だね。やっぱ本職はすごいわ。」

 「・・・」

 

 にとりは完成するまでの過程を見ていたが、それでも完成されてた絵を見て感嘆していた。椛に至っては言葉もなかった。

 

 「そう褒められると、偉い恥ずかしいわ。オレはあくまで油絵なんかの西洋絵画が専門だから。日本画系はこっち着て本格的にやってる。ゆうても、水彩画のなんちゃって日本画やけどね?」

 

 そう言ってウインクする福太郎ににとりは言葉を失った。つい本格的に始めたにもかかわらず、この仕上がりならば、専門とする西洋画ならどれほどのものとなるのだろうか?そう思うと見てみたい気がする。田村福太郎という絵描きの力量を。

 

 「あぁ、あの福太郎さん!」

 「な、なんです急に大声出して。」

 「こちらの絵、いただけませんでしょうか!!」

 

 そう言う気持ちはよく分かる。そう思いながらにとりは椛を見ていたが、肝心の福太郎は少し悩むようにして答えた。

 

 「ダメやね。」

 「お金でもなんでもご用意します!」

 「そういう事じゃなくてね。」

 

 福太郎は絵を指を指しながら言った。

 

 「だって、これ飾れんやん。折角やから軸装してからな?」

 

 福太郎の言葉ににとりも椛も笑い出し、福太郎も笑った。

 まったくもって気が早いと。

 

 福太郎は霖之助に用意してもらった軸装の素材を用意し、三人で仕上げることにした。にとりが絵の寸法に合うように素材を切り揃え、椛が小麦粉でのりを造り、福太郎は椛が造ったノリで裏地を張り、にとりが調整した素材を張り合わせ、略装ではあったが一本の掛軸に仕上げていった。

 

 完成した掛軸を床の間に飾ると何ともよい、穏やかな雰囲気になった。

 

 「でけた、でけた。」

 「初めてですが結構よい出来になりましたね。」

 「霖之助が造る本格的な掛軸もいいけど、こういうのも乙やね。」

 

 三人は一緒に造った掛軸を満足げに眺めていた。

 福太郎はともに作った二人に掛軸を贈るといったが、にとりは辞退しようとしたものの、手伝ってもらったことに加えて、にとりが来なければ描かなかったと言って二人の物とした。

 

 「じゃ、私はこの辺で帰るよ。また掛軸見に来るよ。」

 「それじゃまた。」

 「ほな、また会う時はそん時はよろしゅうに。」

 

 河童は白狼の友に気にかけて、人間の絵描きと出会い、一幅の掛軸を仕上げた。

 白狼は人間の絵描きの眼差しとその絵に惚れ直し、人間の絵描きは二人の妖怪と楽しいひと時を過ごした。

 

 今宵は此処に栞を挟み、噺の続きはまたいつか。

 

 

 

 





 どうも、信州のイワです。

 ちょっとした日常会と河城にとり、椛の部下の登場(名前のみ)でした。

 食事会というのはあんまり出てくる印象が無いのでやってみた次第です。

 池波正太郎作品の食事描写というのが昔から小説でも時代劇でも好きで挑戦してみましたがなかなかカッコよくできないので勉強が必要です。

 また、椛たち哨戒を行っている天狗たちの装備だとか、仕事だとかをやってみたくて表現してみたくて部下を達を登場させました。
 
 組織形態や武装などは、火付盗賊改方や江戸町奉行所の与力同心をモデルとしています。『江戸町奉行所事蹟問答』という本に詳しく記されています。これは維新後に町奉行所の与力が当時の事を詳しく記していて、その本によると、基本的に6人あるいは5人の同心に隊長として与力が一人つきます。
 江戸町奉行所のことは詳しく遺されているのですが、現在でも火付盗賊改に関しては不明な点が多いため、組織形態は町奉行のそれをモデルとしています。
 
 昔『八丁堀の七人』という時代劇がありましたが、あれは何故7人かというと、定廻り同心6人に与力1人で七人という形になっています。
 
 同心とは本来合戦では足軽の役割で、騎馬武者である与力がその指揮を執ります。この形式は一応、行政を運営する文官気質の江戸町奉行所にも適応されています。実はあまり知られていませんが、江戸町奉行所には戦時に鉄砲隊として江戸を守るという役割があるのです。
 
 また、火付け盗賊改方は、弓隊と鉄砲隊からなる先手組という徳川家の足軽部隊が兼任という形で治安維持の役割を担っていましたので、椛たちは銃器や弓矢を支給されているということにしました。
 皆、硝煙の匂いがあまり好きではありませんが、戦時には銃器の使用もためらいません。弓矢は主に夜襲や奇襲用です。
 
 ちなみに、幕末には江戸町奉行所の武装は近代化され、ゲーベル銃やリボルバー拳銃に武装が換装されていますので、近代的な銃器が配備されていることにしました。

 椛の所属する白狼天狗を中心とした紹介部隊の基本的な設定のほとんどは江戸町奉行ではありますが、その実態としては、火付盗賊改方と同様の軍人組織です。

 作中に登場した椛の部下、生駒桜の他のメンバーは、鹿野紅葉(しかの くれは、モミジではない)、井之頭牡丹、鳥居柏、卯之原月夜(げつよ)です。・・・名前の由来は鍋に入れられるお肉の名前です。
 因みに生駒桜のモデルは私の同級生です。

 椛たちの部隊の正式な隊長は射命丸なのですが、新聞刊行に没頭しているため、副官である椛に部隊運営を丸投げしています。また、部隊の拠点が椛の自宅なのでどっちが隊長か分かりませんね。

 にとりと福太郎の出会いに関してはどうするか正直悩みました。どうかかわらせるかも。
 そこで、3人で掛軸を作るという事にしてみました。描写としてはやり方を懇切丁寧にやる事も考えましたが、実際にやったことのない人が読んでみても分かりにくいと思い、簡単な表現にしました。
 
 椛に関しては福太郎のに対する好感度がさらにアップ。初めての共同作業にウッキウキです。

 連載は不定期連載ではありますが、生きている限りは続けますので、気長にお待ちください。
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