フォール・アナザーワールド ↓
そこには、何事もなかったかのように風が吹いていた。
「・・・・やるなあ」
「イヤイヤ」
先ほどまでの様子がウソのようだった。
ついさっきまで、得体のしれない怪異が複数暴れていた。
それらは
それらは長く、彼女を苦しめていた。
彼女が死を望むほどまでに。
それらを人間の絵描きである田村福太郎はいともたやすく消した。
光前寺保由はかつての明るさを、実体化する恐怖や記憶に悩まされる前の彼女に戻ることができた。
田村福太郎はそんな彼女の手を取って、軽く笑って謙遜した。
以前二人は、この寺で出会っていた。
その時は福太郎が首を吊り、その縄を保由が小石を投げて切り、自殺を止めた。
今度は、自殺を止めたはずの保由が自分を殺してくれと福太郎に懇願し、福太郎がそれを断り、思いとどまらせるという、真逆の状況になっていた。
どちらにせよ福太郎は保由を救ったのだ。
「アンタもう死ぬ気ないだろ。」
「イヤイヤ、せやからさっきゆーたろ、呪いで死ぬのを待っているって。」
「『
保由の問いに、福太郎は苦笑しながら答え、保由は笑いながら手の甲で福太郎を軽くたたきながら返した。
二人が死を願っていたとは思えないような、明るく軽い会話だった。
「それはそうと、アンタ時間あるか?」
「まあ、暇やけど、なんかようかいな?」
「いやな何、助けてもらったんだからな、茶の一杯でも出そうと思ってな。」
「それじゃ、ごちそうになろうかな。」
二人は寺の本堂に向かい、福太郎は寺の縁側に座り、保由は寺の方に行った。
しばらく待っていると、保由がお盆に急須と茶碗を二つ乗せて戻って来た。
「しかし、アンタ何もんだ?私はアンタを普通の人間だと思っていたが。」
「いや、自分、普通の人間なんやけどな。」
「普通の人間があんな事を簡単にできるとは思えんのだが・・・」
保由は先ほどの事を思い出しながら福太郎に疑問を投げかけた。
「普通じゃないのはこのペンであって、オレやないで。」
「だが、道具を使うのはその持ち主である人間だ、その普通じゃないペンを使うのはアンタだろ?充分普通じゃない。」
「そうゆー考えもできるけど、オレは至って普通の人間やよ、このペンが使えるだけのな。」
「なるほど、そうゆー考えもできるか。」
福太郎は<夢想現実之事>と記されたプレートの施されたペンを示し、保由はそれを見ながら話し込んでいた。
保由は茶を飲むと、話を続けた。
「そう言えばまだ、アンタの名前を聞いてなかったな、私は光前寺保由、化け狗だよ、アンタの名は?」
「わかっとらんの~自分。そこはオレの名前だけ質問して、オレが名前を聞くときは自分から名乗れって言う所やんけww」
「あいにく私は関西人張りの日常漫才はできないのでね。」
「あははは、そう来たか、じゃ自己紹介しようか、オレは田村福太郎、普通の人間や。」
「その普通の人間のアンタは普段何をしてるんだ?見たところ絵描きのようだから、文系ギルドから金を貰ってるだけの無職か?」
「いや、一応、万魔学園で働いとるんやけど。」
「用務員か清掃員か?」
「いや、美術教師やっとるんやけど・・・」
「教師?よく、教師になれたな。それに以前通っていた私が言うのもなんだが、あの学園で?たいがいの人間種の教師はすぐ辞めると聞いてるぞ?」
「まあ、その辺はメフィストさんの紹介で学園長に直接雇われたんよ。それに、あの学園で色んな種族の子に教えるのはなかなか楽しいもんやで。」
「ああ、あのやたら英語の発音が悪い悪魔教師の紹介か、しかし私は未だに学園長が誰か知らなんだが。というかほとんどの生徒が学園長の顔を知らないんじゃないかな?」
「メフィスト先生にそれゆうたら泣くであの人。それはそうと、学園長の事はみんな知っとるもんやと思ってたんやけどな・・・。」
「そのあたりも含めて、色々聞かせてくれ、コレのせいで私はしばらく寺の外へ出ていないのでな。」
保由は左目の目元を差しながら言った。
福太郎と保由は以前この寺で出会い、別れてからの事を互いに話した。
二人の会話は弾んだ。
まさに光陰矢の如しと言うように、あっという間に時間が過ぎていった。
気が付けば周りは暗くなり始めていた。
「もうこんな時間になってもうたな。そろそろ、お暇しようか。」
「そうか?もしなんだったら泊まっていけよ。家は寺だから一応、来客用の布団やなんかももあるぞ。ちなみに今日、親父殿は出掛けてて留守だから、私一人だぞ♡」
「せやったら、なおの事お暇するわ。それにな、一応オレも男やねんぞ、何かの間違いが有ったらあかんやろがww」
あたりが薄暗くなり、泊って行けと色んな意味で誘っていそうな事をいう保由の言葉も、やんわりと福太郎はやんわりと受け流した。
「アンタやっぱし、面白いな。まあ、安心しろ冗談だ。其れに、アンタには助けてもらった恩もあるし、別にそういうことになっても私としては構わないがな♡」
「そないなこと言ってからに、男をからかうもんやないで。それに、別に恩を売ったつもりもないしな。何より、あのおっかなそうな親父さんに現場押さえられたら、オレが噛み殺されてまうわwww」
狗にせよなんにせよ、獣の化生というのは恩を受ければ返すものである。
しかし、福太郎はそんなことは気にも留めないし、そもそも恩も売ったつもりもないと返す。
それよりも、福太郎の頭には隻眼で疵の目立つ犬の顔をした、亜人種の住職にかみ殺される自分の姿が浮かんでいるようである。
「ぷ、ふはははは。確かにな!確かにそうだな!でも、案外、恩返しだとか言って、娘をもらってくれと言いそうだがな。それとも、こんな病み上がりの小娘は願い下げかな?」
「別にそんなんやないわ!こんな、年下の子に手を出すような趣味は無いってだけや。」
「なんだ、ロリコンだと思ったら違ったか?」
「なんで、そう思うねん!まったく、万魔の生徒は人をロリコンにせなならん伝統でもあるんかいな。」
「なんだ、そんなことが以前にもあったのか?」
「まあ、な。色々とあったんよ。」
保由にしれっと、ロリコン疑惑をかけれられ、福太郎はそれを否定した。
実の所、福太郎自身は年端の行かぬ女の子に抱き着かれるよりも、ボンッキュボンの女性に抱き着かれる方がどぎまぎする方である。
余談ではあるが、足洗邸の家神である笠森仙(巨乳でスタイル抜群な上に腹筋が割れている)が福太郎の布団に潜り込んだ際にかなり興奮しながらパニクッていた。
「まあ、それは置いておいて、今はもう夕暮れ時。まさに、逢魔が時だ。こういう時の独り歩きは怪異に出会ったり、神隠しに遭うことが多いものだ。・・・アンタなら問題ないかも知れないが、用心に越したことはない。無理強いはしないが、今日の所は泊まっていけ。恩のあるアンタにもしもの事が有ったら、私の脳にも悪い。」
「心配ご無用、そんな時でも案外何とかなるもんやったし、死ぬときは死ぬんや別に怖ないわwww」
「だいぶ変わったと思ったら、今でも命は要らんのか。・・・まあ、無理にとは言わないがな・・・とにかく、気負付けろよ。」
「ああ、気ぃ付けるわ。気遣いありがとうな。」
保由は縁側から外を見つつ福太郎を気遣った。
その福太郎は、荷物をまとめるとそれを背負い、保由の気遣いに感謝しながら、犬啼寺を辞そうとしていた。
「うん?あの絵は持って行かないのか?」
「ああ、それは保由ちゃんに挙げるわ。再会のしるしにな。」
「そうか、ありがたく貰って置くとするか。なんだか悪いな、助けてもらった上に、絵までもらって。」
「だから、気にせんでええって言ってるやん。それに、絵を持って帰っても邪魔なだけやし、端から上げるつもりで描いたんやから。」
「そうか・・・部屋にでも飾らせてもらうとしよう。だが、アンタこれからどうするんだ?」
「どうって、何が。」
「その荷物さ、見たところ旅支度のようだが、どこかに行くのか?」
「ああ、これか。特に決めとらんけど、適当に旅でもしようかと思うとる。」
「決めてないのか?私にはそんな旅はできんな。予定を決めとかないと気が済まん。」
「あての無い旅っていうのも案外悪くないもんや。ふらっと、見知らぬところに行って、その土地を見て、そこの人が、何を食って、何を飲んで、何を思って、何を考えているのか、そういうのをふらっと見て、感じて、分かればいいんや。そんでもって、友達の一人もできたならなおええな。」
保由は福太郎の荷物を見て、どこぞに行くのかと問うたが、福太郎は特に決めてないという。
だが、福太郎はどこか幼い子供の用に、遊園地に行くのを心待ちにする子供の用にあてのない旅にでると楽しそうに言った。
保由はそんな三十路手前の男をどこか、好ましく思えていた。
「そういう旅の仕方もありか。私は本を読んで、地図やネットを見て、それで済ませてしまうことが多いからな。そういうのは思いつかなかった。」
「そういうのもありや。そういう驚きと発見は、予定の組まれた旅行じゃ味わえん。それに、本当の世界は本や地図、ネットには無いんや。あの外にあるやよ。そういうのが人生の糧になるんやよ。・・・オレの経験則やけどな。」
「まあ、なんにせよ気を付けろよ。旅が終わったらまた来い。またアンタに会いたいしな。それにまだ教師を辞めてないんだろ。アンタの授業を受けてみたいし。」
「せやな、また寄らしてもらうわ。それじゃあ、またな保由ちゃん。」
「またな、福太郎。」
二人は別れの挨拶を交わし、福太郎は犬啼寺を後にした。
「さて、親父殿が戻ったら、復学の手続きを頼まなくてはな・・・。しかし、こうしてみるとアイツの描いた絵、案外悪くないな。寺から見える風景を心を込めて、精一杯描きだしたのを感じる。」
保由は貰った絵を運びながら、どこか楽しそうに、父親の帰りを待っていた。
貰った絵を見ながら、いずれ、あの絵描きと再会できることを、あの絵描きの授業を受ける日を思い浮かべ、期待で胸を膨らませた。
この時はまでは・・・・・。
福太郎は犬啼寺を後にした。
少しの着替えと日用品、絵描きの道具を持って、適当に歩いて行った。
「色々あったケド、元気ななってよかったわ。」
先ほど別れた化け狗の少女が以前のように、明るくふるまえるようになったことを嬉しく思いながら歩いて行った。
あたりはだいぶ暗くなったが、街はずれまである言っていった。
そこに、寂れた小さな神社が、丘の上に立っているのが見えた。
「だいぶ暗くなってきたし、あそこで庇を借りて今日は泊まろうかな。」
誰が聞いているわけでもなく、福太郎は独り言をこぼしていた。
少し長い石段を上がると、少し傾いた無人の神社があった。
鳥居に掲げられた名前は暗くて良く見えなかったが、その鳥居の朱は剥げ、狛犬には苔が生し、手水には長い間水が無いようである。
幸いにも浮浪者の類もいないようである。
神社の様子からして、無人になってからだいぶ経つようである。
「誰もおらんみたいやけど、泊らせてもらうんやし、お賽銭の一つもあげて、お参りしとこうか。」
そう言って、福太郎が賽銭をあげようと賽銭箱に手を伸ばしたその時であった。
福太郎は気付かなかったが、そこには歪が、裂けめのような歪があった。
ブォン!!
福太郎は何かに引き寄せられた。
「うわ!!なんや!!」
ニュン
・・・・福太郎の姿が消えた。
起きてしまったことはもはや変えられない。
歴史にIFは無いという言葉が示すように。
だが、もしも、もしもだ。
もう少し、明るければ、社の前に歪のような、裂けめのようなものがある事が視認できただろう。
もう少し、明るければ、そのような得体のしれないものに福太郎は警戒心を抱いただろう。
もう少し、明るければ、うっかり触れてしまうことはなかっただろう。
もう少し、明るければ、神社の名前がわかっただろう。
鳥居には神社の名前が記されていた。
『博麗神社』と。
田村福太郎は得体のしれない力に引き寄せられ、裂けめに引き込まれ、上とも下ともつかない空間を、右も左も分からない空間に落ちていった。
「うわああああああ!!!」
この時、福太郎は別れ際に光前寺保由が掛けた言葉を思い出していた。
『今はもう夕暮れ時。まさに、逢魔が時だ。こういう時の独り歩きは怪異に出会ったり、神隠しに遭うことが多いものだ。・・・アンタなら問題ないかも知れないが、用心に越したことはない。無理強いはしないが、今日の所は泊まっていけ。』
(素直に、保由ちゃんの好意に素直に甘えとくんやった・・・)
そんなことを思いつつ福太郎は落ちていった。
しばらくして、あたりが光に包まれたと思うと、福太郎は地面にぶつかった。
ドサッ!!
「ぐげッ!!」
福太郎は落ちた衝撃で気を失った。
これは、異世界へと落ちていった、人間の絵描きの物語である。
「庭の方からだけど、何の音かしら?」
お付き合いいただきありがとうございます。
ようやく、田村福太郎が幻想入りです。
時系列としては、『足洗邸の住人たち。』の最終話である「デス・エスケープ←」の直後です。
原作とは異なるIFの世界、アナザーワールドの話と思ってください。
タイトルはこの最終話のタイトルをまねました。
この「デス・エスケープ←」は単行本の初回限定版の特典でしたが、完全版で再収録されています。
田村福太郎は幻想郷でどんな冒険をしていくのか、楽しみにしててください。
まあ、私の文才で良ければですけど。
ちなみに、今回はある映画とある漫画のセリフのオマージュがあります。
分かった方は感想の方に。
まあ、次回作のあとがきに答えは書きますけど。
皆さんのご感想、ご意見、お気に入り登録、評価お待ちしております。
それらがあれば頑張れます。
あと、ニコニコ漫画に原作、『足洗邸の住人たち。』が公開中ですよ、皆さん、原作知らない方は見てみてください。
東方キャラ出てないな。
・・・・まあ、気にするな!