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幻想郷の住人たち。 ファーストコンタクト
人里、稗田邸。
五月晴れの青く澄んだ空が広がり、心地の良い風の吹くある日の午後。
書斎にはこの屋敷の主、稗田阿求が筆を走らせていた。過去の異変や、異変解決に関わった人妖に就いてまとめているのである。
これは幻想郷縁起、幻想郷にいる外来人を含む人間に向けた書物である。幻想郷で生きていくために必要不可欠知識が盛り込まれている。危険な妖怪や危険地帯は勿論だが、もしもの時に頼るべき人物なども記している。その作業も今大詰めを迎えている。
そんな時だった。彼が幻想郷に迷い込んだのは。
・・・ぅぅうあああああ!!!!
ドサ!バタ!ドサ!
「何の音かしら?誰かいない。」
阿求は使用人に声をかけた
「はい、何でしょうか阿求様」
近くにいた御付きの女中が現れた。
「何か庭の方が騒がしいけど、何があったか見てきてくれない。」
「はい、かしこまりました。」
女中はそう言うと書斎から出ていく。
「・・・・ああ言ったけれど気になるわね・・・私も様子を見に行きましょうか」
誰が聞いているわけでもないが、そういうと阿求も書斎を後にし、庭の方へ向かった。
すると
ドン!!
「きゃあああ!!!」
何か大きなものが落ちたような音と先ほどの女中の絹を裂くような悲鳴が聞こえた。
阿求は何事かと足早に庭へ向かった。女中の悲鳴を聞いて男の使用人たちも何事かと庭へ向かっていった。
庭に付くと、そこには口に手を当てて動揺している女中のそばに見慣れない男が倒れており、近くにその男のものと思われる荷物が三つばかり落ちていた。
「どうしたの!ケガはないの!」
「は、はい。申し訳ありません。阿求様。この荷物が落ちていると思って近づいて行ったら、急にこの方が落ちてきたもので。」
「なるほどね。それなら驚いても仕方ないわ。あなたにケガがなくてよかったわ。でも、こちらの方はどうかしら」
阿求は落ちて来たという男を見ると近づいていく。服装は、まずこの人里では見ない丈の長い淡い緑色をした上着と、黒い洋服、緑の迷彩柄のズボン、首には不思議な形をしたペンを下げていた。
「服装からして、外来人のようね。落ちて来た衝撃で気を失っているみたいね。幸いケガはないみたいだし・・・誰か!この方を客間へ、布団を敷いて、万一ケガをしているようなら手当もお願い。」
「かしこまりました。ほれ、若いの、頭と足を持って落とさないように運ぶんじゃ。お前さんは念のために薬を頼む。」
「「はい!」」
「分かりました」
阿求の指示を受けた初老の使用人が若い使用人の男二人と、件の女中に指示を与えた。
「ひとまずは安心ね。後は彼が目を覚ますのを待つだけね。」
そう言うと阿求は室内へ戻っていった。
これが、人間の絵描き、田村福太郎と稗田の阿求の出会いであった。
しばらくして、阿求は落ちて来た外来人の男の様子を見に来た。外来人はたいてい礼儀を欠いた者が多いが、それでも阿求は興味があった。過去、この稗田邸でこのようなことが起きたことは一度もない。そのことを含めて、この外来人の男は何者なのか興味があり、様子を見に来たのだ。
「様子はどうかしら?」
「阿求様、こちらの外来人の方にお怪我はありませんでしたが、気を失ったまままだ目を覚ましません。」
「そう、まあ、見つけてからまだ四半時も経ってないしね。」
そう言って外来人の顔を覗き込むと
「う、ううん・・・」
どうやら外来人は気が付いたようである。
「あれ?でら、ベッピンさんなお嬢さんの顔が見える。天国にこれたんかいな?」
「お目覚めのようですね。ちなみにここは天国ではありませんし、そもそもあの世でもありませんよ。」
「ああぁ、そうですか。」
「ええ、そうです。」
阿求は微笑みかけながら答えるが、外来人は不思議そうに阿求の顔を見ながら体を起こした。
「ええと、初めまして。自分、田村福太郎いいます。よろしゅうお願いします。」
「私は、この稗田邸の当主、稗田阿求と言います。どうぞよろしく。」
二人は簡単に挨拶を交わした。すると田村福太郎と名乗った外来人が質問を始めた。
「あの、自分妙な空間に引き込まれたと思ったらここに居たんですが、ここがどこなのか教えてもろうてもいいですか?稗田さん。」
「阿求で構いませんよ。そうですね、まずここは人里です。」
「人里?えらくざっくりしとりますね。」
「ええ、ここは幻想郷という、外の世界から隔離された世界で、主に妖怪と人間が住んでいる世界です。」
「?隔離されている以外は、至って普通だと思うですけど?」
「?」
「それはそうと、隔離された世界ですか・・・」
「ええ、約100数十年前に博麗大結界という特殊な結界で隔離されたんですよ。」
「ああ、なるほど、そうですか。」
阿求は福太郎の反応にどこか違和感を覚えていた。実際、まだ外の世界には妖怪がいると聞くし、そのことに気付いている人間がいてもおかしくない。そう阿求は勘違いをしていた。福太郎は阿求の言葉にどこか納得したようである。それもそうである。あの大厄災が起きたのは二十数年前、博麗大結界が出来たのは約100数十年前の事だ、あの大厄災の難を逃れた場所があってもおかしくはないだろうと、勘違いしていた。
二人の会話は互いの勘違いに気付くことなく進んでいく。
「そうですか。じゃあ、外に出る手段はあるんですか?」
「ええ、無いことはないですよ。」
「そうなんですか。」
「ええ」
福太郎は帰る手段があると聞き少し安堵したようである。
「その手段って何ですか?」
「博麗大結界を管理している博麗神社という神社があるんですが、そこで結界の管理や妖怪退治を生業としている巫女がいます。彼女に頼めば外の世界に戻れますよ。」
「そうなんですか。それじゃあ、案内してもらってもいいですか、一応旅の途中なんですが念のために帰る手段は確認しておきたいんです。構いませんか?阿求さん」
「そうですか、旅の途中でしたか。分かりました。ですが、人里の外では昼間でも妖怪に襲われる危険があるので、道中の護衛を頼める方にそれはお願いしますね。」
「すみません。お願いします。それはそうと、オレの荷物知りませんか、いくつか持ってたんですけど。」
「それでしたら、こちらにありますよ。」
阿求と福太郎の会話はスムーズに進み、福太郎は取敢えず外の世界に帰る事となった。
福太郎は無くなっている荷物が無い事を確認し、阿求は出掛ける準備を済ませると二人は早速博麗神社に向かうことにした。
はじめ、護衛の依頼と福太郎の案内を使用人がすることになっていたが、阿求自身がその役を買って出たのである。福太郎は始め恐縮して断ろうとしたが、助けた例の代わりに外の世界の事を道中で聞きたいと言ったため断るに断れなくなったのである。
「それじゃあ、皆さんホントに短い間でしたけど、お世話になりました。」
「田村様こそ、道中お気を付けてください。一同旅の無事をお祈り申し上げています。」
「じゃあ、行ってくるわね。」
「行ってらっしゃいませ、阿求様」
「お世話になりました~~!」
使用人を代表して女中が挨拶と見送りをし、福太郎は感謝を述べ稗田邸を後にした。
「福太郎さんは絵描きなんですか?」
「ええ、最近は万魔学園というこ所で美術教師をしたりもしてます。」
「教師、ですか。寺子屋の先生みたいなものですか?」
「はい、そんな感じです。」
「なら、これから向かう方は福太郎さんのご同業の方なんですよ。」
「ということは、寺子屋の先生なんですか?」
「はい、他にもこの人里の守護もなさっているんですよ。」
「へ~え、そうなんですかそりゃすごいですな」
二人はたわいのない会話をしながら歩いて行った。阿求は福太郎の話を聞き、福太郎の話から感じる違和感からある可能性を導き出していた。二人は話しながら歩みを進める。寺子屋の教師にして、人里の守護者、上白沢慧音の元へ。
そうこうしている内に上白沢慧音が経営する寺子屋に就いた。ちょうど授業が終わったようで、子供たちが寺子屋から駆け出してくる。
「「「先生さようなら~!」」」
「うむ、気を付けて帰るんだぞ!」
ワアー、ワアー
挨拶を交わす声、子供たちの笑い声が聞こえてくる。子供たちが駆け出し、遊びながら帰っていくなんとも微笑ましい光景である。
子供たちが帰ったのを確認すると、阿求と福太郎は慧音もとへ向かう。
「慧音さん」
「うん?阿求か。それとそちらの方は?」
「こちらは外来人の田村福太郎さんです。先ほど幻想郷に迷い込まれましてね、邸の庭に落ちて来たと所を保護したんです。」
「田村福太郎です。よろしくお願いします。」
「ああよろしく、立ち話もなんだし中へどうぞ。」
三人は寺子屋にある慧音の私室へ入っていった。慧音の部屋はこざっぱりしていて、多くの書籍や巻物、筆記用具などが置かれており、いかにも仕事部屋という感じだが、来客用の机と座布団が置かれていた。
慧音は阿求と福太郎を座らせると急須と湯呑、茶請けに煎餅を運んできた。
「大したものじゃあないが、どうぞ。」
「いただきます。」
「どうもすみません。ごちそうになります。」
二人は礼を言うと茶と煎餅を口に運ぶ。大したものではないと言っていたが、茶は玉露でほのかな甘みを感じる独特のうまみがあったし、煎餅かと思ったものは濡れ煎餅で、濃口醤油の良い味がする。
「それで、私に何か用があるのだろう?まあ、大体見当は付くが。」
「はい。こちらの田村さんを博麗神社まで案内して欲しいんです。」
「上白沢さん。」
阿求が要件を切り出すと、福太郎はしっかりと、はっきりとしつつも決して起こったようでもなく慧音に話しかけた。
「今、オレは旅の途中ですが、いずれ必ず帰らなきゃならないんです。オレなんかの帰りを待ってくれてる奴らがいるんです。例え今すぐ帰れなくても、帰る手段は確保しとかないとならないんです。・・・どうか、どうか、オレを博麗神社まで連れて行ってください!!」
突然どこか飄々とした男が突然かしこまって、頼み込んだ。土下座までして。帰りたい。いつか必ず帰りたい。そんな切実な思いが、二人にはひしひしと感じられた。
「・・・分かった、責任もって送り届けよう。安心してくれ。すぐに支度する。待っていてくれ。」
「よかったですね。田村さん」
「ええ、ホンマに。」
慧音は本当なら日を改めて博麗神社へ連れていくつもりだったが、福太郎の希薄に負けた。何としても彼を送り届けなければならない。そんな気がしたのだ。別室で支度を初めていると、阿求が部屋にやって来た。
「どうしたんだ阿求?」
「田村さんの事でちょっと。」
「何か問題でもあるのか?」
慧音は支度をする手をいったん止め、一体何のことなのかと小首をかしげながら阿求を見た。
「もしもです。もしも、万が一福太郎さんが外の世界に帰ることが出来なかったら。私の邸に連れてきてください。その時は、私の邸で彼をしばらく面倒を見ようと思っていますので、そのことを伝えに。」
慧音はますます疑問に思った。阿求は福太郎が外の世界へ帰れないかもしれないと言っているのだ。慧音にはそのようなことはあり得ないと思えて仕方がなかった。だが、他にも疑問があった。福太郎は帰りたいと願う以外には冷静なのだ。普通の外来人なら取り乱し、憤り、礼儀を欠いた反応をするものがほとんどなのにだ。しかし、あの博麗霊夢が外来人返還に失敗するとは思えなかったからだ。普段はグータラして、やる気はないし、現金な性格をしているが、博麗の巫女としての才能はピカイチだからだ。
「しかし、あの霊夢がしくじるとは思えないのだが・・・」
「ですから、もしもの場合ですよ。」
「ああ分かった。その時はそうするよ。」
「ありがとうございます」
阿求の言葉に違和感を覚えながら慧音は支度を整えた。部屋に戻ると阿求と福太郎は談笑していた。
「支度が出来た。では行こうか。」
「よろしくお願いします。」
三人は寺子屋を後にし、人里の入り口まで歩いていった。門に就くと阿求は福太郎に別れを告げた。
「では、私はここまでです。田村さんと話すのは本当に楽しかったです。」
「オレの方こそ、楽しかったです。助けて下さって本当にありがとうございました。」
「じゃあ、そろそろ行くか。」
「よろしくお願いします。上白沢さん。」
「慧音でいい。みなそう呼ぶからな。私も福太郎と呼ばせてもらう。」
「慧音さん、田村さんをよろしくお願いします。」
「任せておけ、では行くぞ、福太郎」
「よろしゅう頼んます、慧音さん。阿求さん!ホントお世話になりました!」
「田村さんも道中お気をつけて!」
阿求に別れを告げると、福太郎と慧音の二人は人里を後にした。阿求は二人を見送りながら一人ポツリと独り言をこぼしていた。
「たぶん、またすぐにお会いできると思いますが・・・」
ようやく、本編が始まりました。最近は大学院で発表だったり、書類提出だったり、事典の項目の執筆だったりと忙しく投稿ペースが開いてしまいました。今後は投稿ペースはもう少しましになると思われます。
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