後悔はしていない。そう思っていたし、感じていた。
辺りはまるで宇宙空間のようだった。今まで辺りをしっかり見るなんて時間がなかった。
だが、一つ一つ見るとよく作られた特異点だったようだ。
ーちぇっ。あと少し、だったんだけれどな・・・
俺はあの時、伸ばされた腕をつかむことが出来なかった。今頃、カルデアでは喜びあって泣きあっていることかと思える。世界は空白の1年を取り戻すために必死になっているだろう。きっとダヴィンチちゃんも職員のみんなも今頃きっと、オルガマリー所長も笑ってくれてるに違いないやっぱり、彼も・・・
いや、そんな姿は俺がそうであって欲しいと望んだ理想だ。おこがましいが、みんなは悲しんでくれているに違いない。この1年半みんなと命を共にしてきた。俺とマシュは前線で、他のみんなはバックアップをしてくれた。長いようで短かったこの1年半はそう忘れられるものはない。だから、人理修復に動いた思い出は今でも鮮明だ。
あの時は自分を殺した国を、もう一人の彼女を救うために。
あの時は暴君と呼ばれ、独りぼっちになった彼女を救うために。
あの時は世界一周を成し遂げた彼女の生き様を知った。
あの時は霧に包まれた都市を救うために動いた。
あの時は誰かを治療する為に生きている彼女と病を患った国を治療した。
あの時はその行いは認められたものではないが、王としての在り方を示す彼女を、彼女を救えなかったことを悔んでいる彼と共に救った。
あの時は魔獣巣食う都市で最大の悪から民を思う王と共に救った。
そして、今日、人理修復は完遂した。
瞳を閉じれば、今でも昨日のように蘇ってくる。全ての始まりはあの日だった。灰色の雲に覆われ、青空を見たことのないという少女と出会った。
様々な困難があった。困難だけではなかった、楽しくもあった。
だけど、それは今すべてが終わった。
誰かが見てくれるような目立つものではないけど、褒めてくれるものでもないけど、彼女のためだった。
彼女と約束をした。
青空を見ようと、日本に行こうと、家族を紹介しようと、学校に行こうと。
何もかもが初めてだった彼女とはたくさん約束をした。
しかし、その約束も叶わない。藤丸立香はもう死ぬのだから。
崩壊していく神殿と共に自らも落ちていく。掌の中には先ほど見つけたソロモンの9の指輪。
ーDr.ロマン。君は一人にしないよ。
あの時、魔術王ソロモンは死んだ。いや、死んだというには生温い。ロマニ・アーキマンは、ソロモンは英霊の座から姿を消した。自らの宝具によって、存在を消したのだ。今後、人々の頭の中からはソロモンの名は出てこなくなってしまう。だから、せめて自分だけでも彼を知ってなければいけない。しかし、後悔と言うよりは、残念だ。一緒に戻りたかった、カルデアに。
ーまあ、俺も人のことを言えないか・・・
自分はもう死ぬ、人理修復を経て。後悔はしていない。それはこのミッションに臨む際にそう言い聞かせた。そう感じさせた。そう思わざる得なかった。
彼女の存在が心をぐらつかせた。最初に感じたのは年下の可愛い後輩。だが、一緒に旅をするたび、過ごすたび、彼女への思いはより強固なものへと変わっていった。だからなのかもしれない。
死にたくない、彼女と一緒にもっと話したい、食事したい、レイシフトしたい、もっといろいろしたかった。離れたくなかった、あの手を掴みたかった。いつの間にか、涙がこぼれているのに、気が付いた。
ー死にたくない、死にたくない死にたくない!もっとやりたいことがある。どうして俺だけ、俺だけがこんなところで死ななければいけないんだ!
本音だった。マシュのことを考えるだけで、マシュと会えないと考えるだけで、涙があふれ出てきた。だが、この
ーみんなの為に頑張っていたのに、どうして俺だけが報われない!
暫く啼いていた。ソロモン王が消滅した今、ここはただの墓場に等しい。誰も助けは来ることはない。その心はもう諦めかけていた。その時だった、彼方の向こうに光るものが見えた。俺は必死でその光に迫った。もしかしたら出口かもしれない。
ーあ、あと少し・・・
光はまやかしだった。その正体は、ソロモン王の10個目の指輪だった。ということは、これはロマンが最後までつけていた指輪、考えると、無我夢中に握りし忌めていた。光は絶望も与えたが、同時に喜びも与えてくれた。しかし、結局は元通り。
しばらくして、藤丸立香は死んだ。人理を修復したものの人生は悲惨に終わったものだった。
・・・い、・・・んぱい、せんぱい、せんぱい!!
今となってはあの夢は毒だ。会えないのに、会いたいと思う。でも所詮は夢が俺を惑わす。ドラッグのように、こざかしい。
ーなんだ、夢か・・・
「よお、マスター」
ーアンリ!?
目の前にいたのは
「いや、正確には違うな。アンタはオレのマスターじゃないし、オレはアンタのサ-ヴァントじゃねえ」
ーどういうこと?
「アンタのいた世界のオレじゃねんだ。正しくは並行世界のオレってことだ」
ーなんで並行世界のアンリがここに?
「なんでってか、そうきたか。アンタに呼ばれてきたって言うのによ」
ー俺に呼ばれて、それは一体・・・?
「まあ、詳しいことは時間がないから言えねーんだわ」
ー時間がないってどういう
「まあ、兎に角アンタにもう一回人理を治してもらうってだけよ」
ーそれって
「ほら、マスター。そこのサークルに入りな。アンタの望んだものが待ってるぜ。おっと、くれぐれも挨拶を忘れずにな」
アンリ!と声をかける前に彼の姿は見えなくなった。色々聞きたいことがたくさんあったのに・・・ 俺の望んだものって、それに挨拶って。
俺の欲しい答えが何も返ってきてないまま、サークルに体を入れる。っすると、足元のサークルが輝き、回りだす。俺はこの光景に見覚えがある。次の瞬間、一面が光に飲み込まれる。
辺りにはあの地獄を彷彿とさせる絵が広がっていた。脳内には、次々とセリフらしき言葉が浮かんでくる、操られるように喋りだす。
「サーヴァント・ルーラー。召喚に応じ、参上した。お世辞にも強いなんて言えないけど、これからよろしく頼むよ」
何故、自分がサーヴァントになっている。世界は自分が英霊になれる器だと判断したのか。数々の英霊とあってきたが、自分がその役目を負うなんて、ずうずうしい。まさか、人理修復をしたことによって、俺自身に英霊としての適性が出来たのか。
「私の名前は藤丸立香。よろしくね、ルーラー」
目の前にいた少女は、藤丸立香だった。いや、そんなはずはない。自分は藤丸立香だ。それ以上でもそれ以外でもない、ましてや女でもなかった。そういえば、アンリマユは並行世界と先程言っていた。ということはだ、こちらの世界では藤丸立香は女である可能性があった、と言うことだ。並行世界だ、ありえなくはない。
「所長、サーヴァントが来てくれましたよー」
「分かってるわよ、藤丸。私の名前はオルガマリー・アニムスフィア。人理継続保障機関フィニス・カルデアの所長を務めているわ。それで、教えてほしいのだけれど、貴方の真名は?」
「真名は、藤」
俺は咄嗟に口を閉じた。もし、この空間が俺が最初に言った特異点、日本の冬木とするならば、俺と言う本来正史にあるはずのなかった
「何よ」
「悪い、真名は言えない。いつか必ず言う、言うことになる。だけど、今は言えない。そうだな、呼び方はルーラーとでも呼んでくれ、そのままになるけどそれで頼む」
こんなことを言ったら、所長に暫くどやされた。この会話が懐かしい。ほんの短い間であったけど、彼女との会話は印象的だったから。だから、もうあの悲劇は生まない。所長も職員のみんなも、二度と失ったりはしない。・・・彼もね。
「所長、先輩。ルーラーさんが困ってますよ」
俺は肝心なことを忘れていた。先程『もし』と言ったが、恐らくここは特異点F 日本の冬木だ。あの時は、俺と所長と、あと一人。三人で行動していた。ここには俺(私)、所長がいる。なら、彼女がいてもおかしいことではない。しかし、俺はこの状況に追われ、彼女のことを忘れていた・・・
「自己紹介がまだでしたね。私はマシュ・キリエライトと言います。よろしくお願いします、ルーラーさん」
俺の最愛の彼女はやっぱりあの重たい盾を持って、そこにいた。
こんにちは、都 京です。
誤字脱字あったら感想にお願いします。作品自体の感想・こんな風にしたら面白いんじゃない?とかでも結構ですので、どんどんお待ちしております。
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あの時~から始まる特異点ごとの所、オケアノスとロンドンは出てこなかったんです。すいません・・・
ステは次の回に載せようと思います。
あと、沖田さん当たりませんでした・・・