オラリオの黒騎士   作:コズミック変質者

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オラリオの黒騎士

オラリオの中心にあるダンジョン50階層。

冒険者ファミリアの大手である、【ロキ・ファミリア】は『本来』ならばモンスターが現れず、安全なこの階層で、至る所にモンスターが湧いていた。

 

本来なら【ロキ・ファミリア】第一級冒険者は【ディヒケント・ファミリア】からの冒険者依頼を受けているカドモスの泉にある水を取ってくる予定だった。

だがその第一級冒険者達は皆がキャンプへと集まっている。

 

全員が全員、至る所から現れる芋虫型のモンスターを相手にしている。だが彼等は苦戦一方。モンスターの体から出てくる溶解液は『不壊属性』が付いていない武器を溶かし、冒険者達の攻撃手段を奪っていく。

魔法使い達も絶えず魔法を放っているが、いずれは魔力が尽きる。

その中でも、団員に希望を与えている者もいる。

 

長い金色の髪を振り乱し、『不壊属性』はついていないが、風を付与された剣でモンスターを切り裂いていく。一匹倒したら、直ぐにまた狙いを決め、新たなモンスターへ。

アイズ・ヴァレンシュタイン。二つ名を【剣姫】。

アイズはその二つ名に相応しい働きをしている。

 

団長であるフィン・ディムナも『小人族』の体では大きすぎる槍を振り回し、アイズ程ではないが着々と数を減らす。

 

他にもガレス、べート、ティオネ、ティオナ等の前線への参戦のお陰で、モンスターの数は著しく減っていく。瞬く間に同族が殺されていき、統制が失われていくモンスター達。そこに更なる追撃が加えられる。

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を巻け】」

 

アイズ達の戦闘を目下に、いくつもの詠唱が紡がれる。動ける魔法使い達が戦場を一望できる場所に集まり、魔法による一斉砲撃を準備する。

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬————我が名はアールヴ】」

 

先頭に立つ第一級冒険者【九魔姫】リヴェリアを中心に、次々と魔法使い達の詠唱が出来上がっていく。次々と現れる魔法陣を見てアイズ達は、巻き込まれぬうちにその場から撤退する。

 

「【ウィン・フィンブルヴェルド】!!」

 

幾多もの魔法が雨のように降り注いだ。溶解液である体液を撒き散らしながら、モンスターは粉々に砕けていく。爆発に巻き込まれ散るモンスターもいる。

 

その光景を見て団員達は勝利を確信した。魔法が止まり、煙が晴れるとそこにはモンスターがいなくなり、魔法によって作られたクレーターだけが出来ていた。

 

殆どの団員は疲れを顔に浮かべている。そんな中でも第一級冒険者は流石と言うべきか、少しは疲れているだろうが、いつものようにはしゃいでいる。

 

べートとティオナの言い争う。フィンにくっついて離れないティオネ。へたり込むラウルに背中を叩くガレス。そしていつも通り無表情なアイズ。

 

ここにあと一人、【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者がいれば、いつもの光景だろうと、アイズは周りを見渡す。そこにアイズの尊敬する人物の姿はなく、アイズは困っているフィンに訪ねようとする。

 

————その直後。

 

音が聞こえた。周りにある木をいっぺんにへし折り、彼等に近づいてくる音が。

団員たちはその方向を振り向いた。全員が各々の武器を持ち、今までの雰囲気を引き締め、警戒態勢に入る。

 

そして現れた。

およそ6Mほどの大きさ。先程まで戦っていたモンスターよりも明らかに巨体。そして芋虫型のモンスターを引き継いだような体はその作りを変えていた。

 

「人型・・・?」

 

顔らしき部分はあるが、目、鼻、口などはない盛り上がった腹部には何が入っているか、容易に想像できる。

 

「あんなデカイの倒したら・・・」

 

第二級冒険者の声が鮮明に響く。その声には恐怖が含まれており、今にも逃げ出したくなる気分に晒される。

階層主にも匹敵する巨体と、体に溜め込まれている『液体』。もしアレが芋虫型と同じ特性を持っていたのなら、倒した瞬間に爆発し、溶解液を撒き散らす。

腹部にある莫大な量の溶解液が撒き散らされたら、間違いなく【ロキ・ファミリア】は全滅する。

 

モンスターが動いた。四枚の扁平状の腕を広げ、辺りに光が舞う。7色の微細な粒子がアイズ達の元へと辿り着く。

その瞬間、第一級冒険者達は己の直感に従い全力で後退。直後、粒子が爆発を始めた。

 

「きゃああああああああああ!!」「うわああああああああああああ!!」

 

地面諸共、粒子は容赦なく爆散していく。逃げ遅れた者達の悲鳴が上がり、莫大な熱気が彼らを襲う。

 

「総員、撤退だ」

 

団長であるフィンが告げる。

 

「速やかにキャンプを放棄、最小限の物資を持ってこの場から離脱する。リヴェリア達にも伝えろ」

 

「おい、フィン!逃げんのかよ!」

 

「あのモンスターを放っておくの!?」

 

案の定、べートとティオナがフィンに噛み付く。それは第一級冒険者としての矜持であり、『迷宮都市最大派閥』としての誇りと責任故の行動だろう。

だがフィンとてその事を理解している。

 

「僕も大いに不本意だ。でもあのモンスターを始末して、かつ被害を最小限に抑えるにはこれしかない」

 

団長であるフィンに、団員達を死に晒す様な命令はできない。確かにべートとティオナが言いたいことはフィンも理解している。

あの人型が、【ロキ・ファミリア】が去ったあと、さらに上の階層まで行くかもしれない。そうなれば他のファミリアの冒険者達にも犠牲が出る。

だが道具も武器も不完全な今の状態で彼等が戦い続ければ、【ロキ・ファミリア】に計り知れない犠牲が出る。幾らオラリオ最大派閥でも、人員には限りがある。更に人員の中でも、人型モンスターの相手になり得る第一級冒険者には限りがある。

 

「クソが!あの野郎は何してやがるんだ!?」

 

べートが言う『あの野郎』。【ロキ・ファミリア】最大の戦力は別の冒険者依頼で更に下の階層に一人で向かっている。それを指示したフィンは今更ながら自分の判断に後悔する。

 

「アイズ、あのモンスターを討て」

 

フィンがアイズに告げる。最早勝つにはこれしかない。アイズの魔法である『風』は、あのモンスターの溶解液を防げる唯一の手段だ。それに【剣姫】と称されるアイズの剣の腕は、オラリオの中でも上に位置する。

 

「待ってください、団長!」

 

フィンの決断に、アイズの事を敬愛しているレフィーヤが反論の声を上げる。だがその直後、更なる爆撃が開始される。辺り一帯に撒き散らされる粉塵は、残り少ない彼らの体力を確実に奪っていく。

 

「時間がない。ラウル、リヴェリア達に撤退の合図を出せ」

 

「フィン、待って」

 

ラウルに指示したフィンに、アイズが待ったをかける。刻一刻を争う今の状況、だがフィンはアイズの言葉を無視出来ない。

 

「大丈夫みたい」

 

「アイズ、それはどういう———ッ!?」

 

フィンがアイズに真意を問おうとするが、すぐに言葉を打ち切る。撤退の準備を始めていた団員達も。

彼等の耳に聞こえたのだ。【ロキ・ファミリア】、そしてオラリオ最強の『生きる英雄』とも呼べる、最強の冒険者の詠唱が。

 

————死よ 死の幕引きこそ唯一の救いTod! Sterden Einz' ge Gnade!

 

聞こえたのは死を願う聖句。どこまでも純粋でありながら、どこまでも邪悪を秘めている歌。

 

————この 毒に穢れ 蝕まれた心臓が動きを止め 忌まわしき 毒も 傷も 跡形もなく消え去るように

Die schreckliche Wunde, das Gift, ersterde, das es zernagt,erstarredas Herz!

 

自らが最高の死を願い、その為に全力で疾走し続ける、輝かしくも悲愴さを思わせる。

 

————この開いた傷口 癒えぬ病巣を見るがいい

Hier bin ich, die off'ne Wunde hier!

 

————滴り落ちる血の雫を 全身に巡る呪詛の毒を 武器を執れ 剣を突き刺せ 深く 深く 柄まで通れと

Das mich vergiftet, hier fliesst mein Blut: Heraus die Waffe! Taucht eure Schwerte. tief,tief bis ans Heft!

 

この声が【ロキ・ファミリア】の行動を奪っていく。この歌に魅了され、彼等の動きを止めていく。

 

————さあ 騎士達よ

Auf! lhr Helden:

 

作り上げられた静寂の中、やはり声だけが響く。人型のモンスターは声の主を認識する。

 

————罪人に その苦悩もろとも止めを刺せば 至高の光はおのずから その上に照り輝いて降りるだろう

Totet den Sunder mit seiner Qual, von selbst dann leuchtet euch wohl der Gral!

 

声の主は偉丈夫とまではいかなくとも、十分に鍛え上げられた体を持つ、黒い服の青年。彼を前に、人型モンスターが躊躇うような動作を見せる。

 

————創造

Briah

 

彼が願ったのは唯一無二の至高の終焉。それを止められる者はなく、彼の願いは万物に突き刺さる。

 

 

 

 

————人世界・終焉変生

Midgardr Volsunga Saga

 

 

青年の姿が消える。モンスターは咄嗟に感じた気配の方に振り向くが、時すでに遅し。両腕が黒く、赤い線が入った腕に変化した時の、青年の拳を受け止めた者は存在しない。

 

青年の拳が、全てに幕を引く『幕引き』の一撃が、人型モンスターに突き刺さる。この瞬間、【ロキ・ファミリア】の団員達は溶解液に警戒し、全力で後退した。だが溶解液は撒き散らされずに、モンスターの方を見るとその体を光の粒子へと変え、魔石だけを残して消失する。

 

「アレが・・・【鋼の英雄】・・・」

 

誰かの声が響く。恐らくは青年の戦っているところを初めて見た団員だろう。

 

この青年こそが、【ロキ・ファミリア】最大の戦力にして【オラリオ】最強のレベル7。成し遂げてきた偉業は計り知れず、数多の二つ名を背負う男。

 

ミハエル・ヴィットマン。二つ名は【鋼の英雄】【戦車】

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

————【黒騎士】

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