オラリオの黒騎士   作:コズミック変質者

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絶対なる白

ミハエルはギルドから出ると、人気のない場所まで行った。辺りの住民は既にどこかへ避難し、今回の騒動が終わるのを待っている。

 

「ここなら、問題はない」

 

ミハエルがそう言うと、ミハエルの後ろの物陰から少年が出てくる。その少年はベルの様な白い髪を持ち、綺麗な碧眼をしている。右眼は黒い眼帯で覆われているが、残った左眼からは年不相応な殺気が発せられている。

 

「へぇー、やっぱり気付いてたんだ。流石だよ【黒騎士】」

 

少年はそう言うと腰から二つの何かを取り出す。少年は獰猛な笑みを浮かべながら、更に殺気を強める。

 

「とりあえず名乗っておこうか。僕はウォルフガング・シュライバー。君を殺す者さッ!!!」

 

突如、シュライバーが両手に持っていた二丁の何かをミハエルに向けて『撃つ』。ミハエルは最低限の動きで回避。この程度のものはミハエルの目には止まって見える。

 

「流石だね。だけど、まだまだだよッ!!!」

 

シュライバーが更に撃つ。ミハエルはまたも最低限の動きで回避する。だが今回はミハエルの移動先が分かっているかのように飛来する。

ミハエルは避けづに右腕で弾く。ミハエルに付与されている霊的装甲は、この程度の威力の物はダメージにならない。

 

「やっぱりこれじゃ無理があったか〜。さて、そろそろ僕も真面目にやろうかな」

 

シュライバーが持っていた何かをしまう。だが殺気は収まっているどころか増幅しており、ミハエルは拳を構え続ける。

 

「形成《暴風纏う破壊獣》」

 

シュライバーがそう言うと、シュライバーの隣に銀色の鉄馬のようなものが現れる。シュライバーは鉄馬に跨り、目の色を変える。

 

「これはバイクって言うらしいよ。僕も詳しいことは知らないんだけどね。さてと・・・」

 

シュライバーはバイクのエンジンを蒸す。バイクから鳴り響く轟音はミハエルの聴覚を集中させる。

シュライバーは口を三日月に歪め、ミハエルに言い放つ。

 

「泣き叫べ劣等————今夜ここに神はいない」

 

「《自由を》!!」

 

言葉が終わるとシュライバーとバイクが走り出す。瞬間、音が置き去りにされる。バイクは地面を大きく抉りながら、恐ろしい速度で進んでいく。ミハエルは両腕にを黒く変化させ、真っ向から迎え撃つ。

 

「———ッ!」

 

「はは!その程度かい!?」

 

ミハエルは両腕でバイクの進行を阻害しようとするが、逆に押される。ミハエルの今の状態での全力は、シュライバーの乗るバイクの勢いを止められないでいる。

 

押され続けるミハエルは後ろに壁があったので、バイクから手を離し横に転がる。シュライバーは壁を突き破るが、全くの無傷でいる。

 

「この程度?期待はずれだなぁ」

 

シュライバーはバイクを急転換させる。ミハエルは息付く間もなく、地面を殴り岩を隆起させて進行を妨害しようとする。だがシュライバーは何もなかったように突っ込んできた。

 

「ほらほら行くよ!」

 

「グゥッ・・・!」

 

突っ込んできたバイクを右に避けることで回避。だが逃げ遅れた左腕はバイクの前輪にかすり、裂傷のような傷を作る。

これはミハエルも予想外だ。目の前の凶獣は、霊的装甲を纏った左腕をいとも容易く破ったのだ。これでは防御に関しては無防備同然だ。

 

「ならば・・・

 

 

———死よ 死の幕引きこそ唯一の救い

Tod! Sterden Einz' ge Gnade!

 

———この 毒に穢れ 蝕まれた心臓が動きを止め 忌まわしき 毒も 傷も 跡形もなく消え去るように

Die schreckliche Wunde, das Gift, ersterde, das es zernagt,erstarredas Herz!

 

———この開いた傷口 癒えぬ病巣を見るがいい

Hier bin ich, die off'ne Wunde hier!

 

———滴り落ちる血の雫を 全身に巡る呪詛の毒を 武器を執れ 剣を突き刺せ 深く 深く 柄まで通れと

Das mich vergiftet, hier fliesst mein Blut: Heraus die Waffe! Taucht eure Schwerte. tief,tief bis ans Heft!

 

———さあ 騎士達よ

Auf! lhr Helden:

 

———罪人に その苦悩もろとも止めを刺せば 至高の光はおのずから その上に照り輝いて降りるだろう

Totet den Sunder mit seiner Qual, von selbst dann leuchtet euch wohl der Gral!

 

———創造

Briah――

 

———人世界・終焉変生

Midgardr Volsunga Saga 」

 

ミハエルの中から余裕が消え、高速で詠唱を開始する。一撃必殺の詠唱を唱え終わり、ミハエルの体から黒いオーラのようなものが立ち込めると、シュライバーに変化があった。

 

「ははははははははは!!それが君の『創造』なんだね!だったら僕も見せてあげないと。僕の『創造』をさあ!」

 

シュライバーが身を低くし、高らかに叫ぶ。死神の歌を。渇望が込められた聖句を。

 

「———さらばヴァルハラ 光輝に満ちた世界

Fahr' hin,Waihalls lenchtende Welt

 

———聳え立つその城も 微塵となって砕けるがいい

Zarfall' in Staub deine stolze Burg

 

———さらば 栄華を誇る神々の栄光

Leb' wohl, prangende Gotterpracht

 

———神々の一族も 歓びのうちに滅ぶがいい

End' in Wonne, du ewig Geschlecht

 

———創造

Briah――

 

———死世界・凶獣変生

Niflheimr Fenriswolf 」

 

直後、ミハエルに狂気が襲いかかった。先程よりも明らかにスピードが増しているシュライバーが突っ込んできた。ミハエルはその拳で、バイクを殴ろうとする。

 

一撃必殺の拳が、シュライバー目掛けて振るわれる。その拳は死神の鎌よりも正確に、迅速にシュライバーの命を刈り取るだろう。

だが・・・・・

 

 

「はははは!!!全然遅いよぉ!」

 

 

ミハエルの拳は何もない空を切った。シュライバーはバイクで有り得ない機動をして、ミハエルの背後に回り込んだ。

 

「———ッ!!」

 

ミハエルが全力で振り向き拳を放つ。シュライバーは体を横に傾けることで回避。すれ違いざまにミハエルの脚部に銃弾を撃ち込んだ。

 

「ははは、驚いてるでしょ?この銃は『創造』を使うと何故か弾の威力と貫通力が上がるんだよ。こんな風にねッ!!」

 

シュライバーがまたも動く。今度はミハエルを中心に円形に回っていく。シュライバーは少しづつミハエルに近づいてなぶり殺そうとする。

 

だがミハエルもその程度で殺られるはずがなく、レベル7の脚力を使い跳躍、シュライバーを飛び越えようとするが、

 

「———ッ!?」

 

「そんな分かりきった反応しないでよ!!」

 

まるでミハエルの着地場所が分かっていたかのようにシュライバーが一瞬で先回りしていた。シュライバーはミハエルに銃を乱射する。

ミハエルは無防備な空中で銃弾を受け続ける。だがミハエルとて防御はする。両腕で重要箇所を覆い、シュライバーの凶弾から最低限のダメージで逃れようとする。

防御箇所から外れた弾丸は、肉を抉り、貫き、着々とミハエルに痛みを与えている。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

ミハエルの咆哮。地面に落下すると同時に右腕で地面を殴りつける。殴った箇所から強力な衝撃波が発され、ミハエルの周囲にいるものを吹き飛ばす。

暴風が吹き荒れ、石畳が捲り上がり、瓦礫は空へ舞い上がる。ミハエルがいる中心には大規模なクレーターが出来ており、その拳の恐ろしさを知らしめている。

 

同じレベル7であるオッタルでも、こんな芸当は出来ない。せいぜい石畳を巻き起こすくらいだろう。

 

シュライバーを自分から引き離す為に放った拳を引き抜き、シュライバーの攻撃に備えようとする。ミハエルとシュライバーでは速度があまりにも違いすぎる。それこそ二つほどレベルに差がついているほどに。

 

感覚を研ぎ澄まし、シュライバーの位置を図ろうとする。下層に一人で潜るミハエルは、敵の察知能力が優れている。しかもシュライバーは常時殺気を垂れ流しにしているので、察知は容易にできる。

 

瓦礫を踏み砕く音がミハエルの死角から聞こえる。ミハエルは即座に体を捻り、シュライバーのバイク、

もしくはシュライバー本人に『人世界・終焉変生』を叩き込もうとする。

 

瞬間、ミハエルに襲いかかる激痛。霊的装甲の上から削られ、常に隣にいる死の恐怖がミハエルの足首を掴んだ。

原因は言わずもがな、シュライバーのバイクによる体当たり。

バイクの体当たりを受けたミハエルは勢いを止めずに、住宅を破壊しながら通りへと突き進んでいく。

 

(何故・・・?)

 

確かにミハエルの拳はシュライバーよりも遅いとはいえ、シュライバーが近づいてきた時には既に当たっていてもおかしくはない距離だった。

だがシュライバーはまるで『瞬間移動』のようにミハエルの側面に回り込み、体当たりを仕掛けた。

 

そして、その時ミハエルはシュライバーを『見失っていた』。

 

ミハエルの体が吹き飛ばされる。何m進んでも止まることは無い。

何軒もの住宅を突き破り、漸く勢いが止まる。だが止まった頃にはミハエルの意識が消えかかっていた。

理由はシュライバーの体当たりだけではなく、シュライバーは更に銃弾を撃ち、ミハエルに追い討ちをかけていた。

 

霊的装甲が破壊されたミハエルは、正面の弾丸と、背後の壁のダメージを一身に喰らい、既に死んでもおかしくないくらい傷ができていた。

 

「マキ・・・ナ?」

 

どうやらミハエルが突き破った先にあったのはアイズ達が戦闘していた場所らしい。アイズ、レフィーヤ、ティオナ、ティオネは一様に驚いている。

理由は簡単だ。自分たちのファミリアの最強戦力が、ボロボロの状態で飛んできたのだから。

 

「えー、もうおしまい?もうちょっと楽しませてよ」

 

「子供?」

 

屋根の上から聞こえる幼い声に、彼女達はミハエルを庇うように立ち構える。屋根の上に立っていたのはシュライバー。シュライバーはバイクには乗っておらず、銃も構えていない。

 

「あの子が・・・マキナをやったの?」

 

有り得ない。アイズはそう信じ込みたかった。ミハエルはオラリオ一の冒険者だ。攻撃力は言わずもがな、その防御力もレベル5であるアイズを遥かに凌ぐ。

 

「マキナ!止まって、マキナ!」

 

アイズが後ろを向くと、ミハエルが片膝をつきながらも、シュライバーの元へと向かおうとしている。ミハエルの傷は酷く、服の上から赤い染みが出来ており、地面にもミハエルの体から流れ出た血液が急速に広がっていく。

 

「頑丈だねぇ。君のその諦めの悪さに敬意を評して、僕の能力を教えてあげるよ」

 

シュライバーがニヤニヤと笑う。その笑みはアイズの背中に冷たい何かを感じさせた。

 

「僕の能力は『絶対回避』。相手よりも早く動ける能力だ。この能力は君の『一撃必殺』と相性が良くってねぇ。そういうことだから、君は僕には勝てない」

 

「ほざけ・・・!!」

 

相手よりも早く動ける能力。強すぎる、とアイズは思う。攻撃力の上昇はないだろうが、相手の攻撃は当たらず、自分はどんなに疲れようが動き続けられる。

戦闘において速度というのは重要過ぎるものだ。ミハエルの『人世界・終焉変生』も、当たらなければただの拳と変わらない。

シュライバーは攻撃力は低いが、攻撃を当て続けられる。

 

「さて、今日は様子見だけだから、そろそろ引かせてもらおうか。またね、【黒騎士】」

 

シュライバーが姿を消す。そのスピードはミハエルと同等か、それ以上。シュライバーがいなくなると、この場の全員が座り込む。シュライバーの殺気に、立てなくなったのだ。

 

 

この日、オラリオにて怪物祭でモンスターが解放されたという話は、一瞬の内に『黒騎士の敗北』という話へと切り替わった。

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