「では皆、今週も集会を始める!」
飯綱様の切り出しを皆が応じる。
しかしこれはくっちゃべリの時間。まだ始まっていないのだ。
「晄!最近はどう?」
我が親友、文が話しかけてきた。その顔には不思議とワクワクしている様に見えた。
「どうって…いつも通りね~」
これ位しか思う事が無いのであった。
「そのいつもどおりを聞いているじゃないの」
「んえ~?」
何やら文が興味深々である。とても珍しい。
『いつもどおり』を文が聞いてくるとは。
「珍しいわね。文がいつもどおりを聞くだなんて」
「もうあなたは雑用していないから何してるのかなと思ってね」
…ん?そういえば雑用的な仕事はふと気付くと無くなっていた。
勉学に修行、これは誰の為でも無い。
そう、私の為だ。
…飯綱様。私は少し悲しくなった。
私はこれから旅に出ようと思う。でもそれは
自分の欲望でしか無いのだ。
「で?なんで寂しそうな顔しているのよ?」
「え?あ、あぁ…ごめんなさい」
少し私は不安になった。それは寂しさなのか裏切りの苦しさなのか。
私は本格的に旅に出た事が無い。その不安なのかも知れない。
「晄、本当にどうしたの?らしく(・・・)無いわよ?」
「やれ、まったくね」
「軽く聞くつもりだったけど…こうなったらちゃんと聞くまで意地でも動かないわよ」
文が真剣な眼で私を見る。その深さに少し感動しそうになってしまった。
「はいはいっと聞いて驚かないでよね」
「ええ聞いてやるわ。この肝をしっかり腹に据えてね」
「私ね、旅に出るわ」
「へぇ。それで?」
次の言葉を待っている文。いや、これが一番重要な言葉なんだけど…。
次の言葉を待たれても困る。
「…まさかそれだけ?」
「ん?そうだけど」
「…はぁ。訳わかんないわね…」
「え?」
「自分の好きな事に憂う晄なんて本当にらしく(・・・)ないわ」
…なんと。
「自分の好きな事を続けるのが晄でしょ!遠慮なんかするのはあなたじゃないわ!」
…おお。
「く…ごめん文!自分を一瞬見失っていたわ」
「やれやれ…」
「ならば今!この場で飯綱様に旅に出ると言ってくるわ!」
「え?今?」
「うふふふ…。夢の冒険生活はすぐそこに…」
「え?晄まさか今すぐ… … …
□□□
それからいよいよ集会の時は来た。今こそここで言う時…。
「何か他に用のあるものはおるか?」
「飯綱様!」
「ん、なんだ晄。…えらく顔がしまっておるな」
やはりわかるみたい。顔に出てるのかしら?
さて、深呼吸して…。
「私…旅に出たいんです」
「ほう?それで?」
飯綱様が無表情な顔で次の言葉を待つ。
こ…ここで一気にたたみかけるわよ!負けたら…駄目!
「わ…私は前からずっと旅に出たかったんです!だから私は旅に出るわ!
愚かなのは百も承知!好きな事をしたい…ただそれだけなんです!お願いします!」
思いのたけをありったけ話す。そりゃあもう話す。
「…ふ。なるほどな」
「ど…どうですか?」
すると周りの天狗がいきなり真面目な顔になった。
そして一斉に武器を地面に突きたて、敬礼する。なんか圧倒される…。
「いよいよこの時が来てしまったか…」
「……」
くつくつと笑う飯綱様。その周りは文を除き全員真面目な面持ちであり、
私はずうっと圧倒されている訳だが…。
「しかし、ワシは言ったぞ。未熟な自分を知れ、と」
「…はい」
説教の様な口調だが、顔が笑っている…気がする。
どう考えてもそんな場面じゃないがそんな気だけする。
「しかし…!私は旅がしたいの…ですっ!」
顔に汗が垂れる。体に重圧が掛かる…。動きが制限される…。
「これは一つの独立だ、これをはいそうですかと受けるわけは無い」
飯綱様の言葉を聞きハッとする。そうか…これもう独立なんだ!?
しかし状況が状況故頭が整理できない。不安とその先の希望に思いを馳せる。
「晄よ…このワシを倒してからゆけい!」
飯綱様の叫び声と共に私は刀を抜く。
どうやら戦闘開始…!?
「ファハハッ!晄よかかって来い!」
飯綱様が刀を構える。
多分今斬りこんで言ったらこっちが斬られる。だったら…。いや、どうもならない気がする。
やりたくは無いけど…前のめりに斬りかかるとしますか。
私は思い切り走り出し、飯綱様の視線を逸らす。相手を見るとやはり不動だ。動く気配は無い。
「晄よ、何をしておる?」
これ以上は私が危険な気がする。ならもう斬りかかる!
キィッ…ン!!
刀と刀がぶつかり青い火花が飛ぶ。斬りかかったのは私なのに普通に押されてしまう。
やはり…私はまだまだ未熟…でもっ!
負ける訳には…いかないっ!
「テヤァッ!」
何とか刀を払う。私は汗をかいているが、流石と言うべきか飯綱様は一汗とて見えない。
しかしこれでは確実に埒が開かない。長引けばこっちも…
まぁでも殺したりは…。
「晄よ」
「へい」
「死んでも恨むでないぞ」
「ちょ!?」
その瞬間飯綱様が消えてしまった。そして周りには恐ろしい位に風が吹き荒れた。
と言うかこれじゃ、このままじゃ…私殺される!?
しかし不意に頭に電撃にも近しい記憶が顔を出す。
『冷静さを欠いては死あるのみだぞ晄』
その言葉を思い出し頭が冷えた。…そうか、自分を失ったら死ぬのよね。
つまり、何もしなくても焦っても死ぬのよ。分かりやすいじゃない?
なんて思ってみる。
そして周りに目を配る。何か…ある…!?
不意に風が止む。これは…飯綱様の必殺技…!?
しかしその時私に、どこにいるか掴めた気がした。
…でも気がしただけ。こんなことで本当に良いのかしら…?
しかしそれに賭けないと今度こそ死にそう。賭けても死にそうだけども。
恐怖を払い、私は刀に賭けた。
「……そこっ!」
「ほう?」
刀の先には確かに飯綱様が居た。賭けはとりあえずうまくいったらしい。
「だが…まだまだ甘いぞ!」
刀を払われる。もう…次くらいでなんとかしないと…さすがにもう持ちそうにない…!
私は刀に力を込め、心を落ち着かせる。
「な!?その構えは…!」
「… … …」
「…ほう。ならばワシも必殺を放つとするか」
お互いに刀を腰に深く据える。
ただ落ち着いて…何も…考えない!
風が止む。
ただただ私は刀に意識を集める。
「風断ちの一閃!」
「そこよっ!」
私は力の有る限り動いた。
□□□
ふと目を開けると刀は飯綱様を抑えていた。
「ほう!やりおるわ!わははは!」
飯綱様の笑い声が山にこだました事だけが今わかる事だった。